§E7.30Hall 部分群と有限可解群

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Sylow の定理は、一つの素数に関する最大の素数冪位数を群の位数から取り出す。有限可解群では、一つの素数を任意の素数集合へ置き換えても、存在、共役、包含に関する三つの結論が成り立つ。本記事は、この三つの結論を Hall の定理として証明する。

証明の本質は、可解群の最小正規部分群が初等アーベル群になることと、位数が互いに素である商をもつ初等アーベル正規部分群に補部分群が存在することである。後者は Schur–Zassenhaus の定理の特殊な場合であるが、本記事では Schur–Zassenhaus の定理を用いない。集合論的切断から得られる factor set を有限和によって消去し、補部分群の存在と共役を直接に証明する。

1 Hall 部分群

最初に、素数集合に関する位数の条件を定義する。

定義 1.1.π\piを素数の集合とする。正の整数aaのすべての素因数がπ\piに属するとき、aaを π\pi数 (pi-number) という。11はπ\pi数とする。π\piに属さない素数全体の集合をπ′\pi'と書く。

有限群GGの部分群HHについて、∣H∣|H|がπ\pi数であり、指数[G:H][G:H]がπ′\pi'数であるとき、HHを Hallπ\pi部分群 (Hall pi-subgroup) という。位数がπ\pi数である有限群とその部分群を、それぞれ π\pi群 (pi-group)、π\pi部分群 (pi-subgroup) という。

補部分群は、後の帰納法で正規部分群を除いた部分を実現する。

定義 1.2.VVを有限群MMの正規部分群とする。部分群H≤MH\le Mが

M=VH,V∩H={eM}M=VH,\qquad V\cap H=\{e_M\}

を満たすとき、HHをMMにおけるVVの補部分群 (complement) という。

Hall の三定理の証明と、記事末の例で用いる先行結果を区別して記録する。

注意 1.3 (用いる先行結果). Hall の三定理と、その準備となる補題の証明では、次の三系統の結果を用いる。

  1. 有限群KKの位数を∣K∣=pnm|K|=p^n m、p∤mp\nmid mと書くと、位数pnp^nの Sylowpp部分群が存在する(§E7.17 定理 1.2)。任意のpp部分群はいずれかの Sylowpp部分群に含まれ、任意の二つの Sylowpp部分群は共役である(§E7.17 定理 2.1)。
  2. 有限群KKと正規部分群N⊴KN\trianglelefteq Kに対し、商写像の各ファイバーはNNの剰余類であるから、∣K∣=∣N∣∣K/N∣|K|=|N||K/N|が成り立つ。とくにN≠{eK}N\ne\{e_K\}ならば∣K/N∣=∣K∣/∣N∣<∣K∣|K/N|=|K|/|N|<|K|である。
  3. 可解群の部分群と商群は可解であり、正規部分群と対応する商群がともに可解ならば元の群も可解である(§E7.21 定理 3.2)。

記事末の例では、A5A_5が可解でないこと(§E7.21 定理 6.1)と、相異なる素数p<qp<qに対する位数pqpqの群の分類(§E7.17 定理 4.2)も用いる。

2 最小正規部分群

有限可解群の最小正規部分群は、有限体上のベクトル空間として扱うことができる。

補題 2.1.GGを非自明な有限可解群とし、VVをGGの非自明な正規部分群のうち包含関係に関して極小なものとする。このとき、ある素数rrが存在して、VVは有限初等アーベルrr群である。すなわち、VVはアーベル群であり、任意のv∈Vv\in Vがvr=eGv^r=e_Gを満たす。

証明.§E7.21 定理 3.2により、VVは可解である。VVの導来列の最後の非自明な項をAAとする。AAはVVの特性部分群であり、アーベル群である。V⊴GV\trianglelefteq GなのでA⊴GA\trianglelefteq Gである。A≠{eG}A\ne\{e_G\}とVVの極小性からA=VA=Vを得る。したがってVVはアーベル群である。

∣V∣|V|を割る素数rrを一つ取る。§E7.17 定理 1.2により、VVは Sylowrr部分群RRをもつ。VVはアーベル群なので、RRの任意の共役部分群はRR自身である。§E7.17 定理 2.1により Sylowrr部分群は一つだけである。したがってRRはVVの特性部分群であり、R⊴GR\trianglelefteq Gである。R≠{eG}R\ne\{e_G\}とVVの極小性からR=VR=Vを得る。ゆえにVVはrr群である。

Ω1(V)={v∈V∣vr=eG}\Omega_1(V)=\{v\in V\mid v^r=e_G\}

と置く。VVはアーベル群なのでΩ1(V)\Omega_1(V)は部分群であり、その定義からVVの特性部分群である。eGe_Gでない元v∈Vv\in Vを取る。VVは有限rr群なので、vvの位数はrkr^k(k≥1k\ge1)と書くことができる。このときvrk−1v^{r^{k-1}}は位数rrであるから、Ω1(V)≠{eG}\Omega_1(V)\ne\{e_G\}である。したがってΩ1(V)⊴G\Omega_1(V)\trianglelefteq GとVVの極小性からΩ1(V)=V\Omega_1(V)=Vを得る。

VVの演算を加法で書き、Fr\mathbb F_rの元による整数倍をスカラー倍とすると、VVは有限次元Fr\mathbb F_rベクトル空間になる。したがってVVは初等アーベルrr群である。▨

3 初等アーベル核の補部分群

次の補題は、Hall の三定理の帰納法で必要となる補部分群だけを構成する。群コホモロジーの一般理論は用いず、すべての恒等式を有限和によって直接計算する。

補題 3.1.rrを素数、VVを有限初等アーベルrr群とし、有限群の短完全列

1⟶V⟶M→ρQ⟶11\longrightarrow V\longrightarrow M\xrightarrow{\rho}Q\longrightarrow1

を考える。r∤∣Q∣r\nmid |Q|と仮定する。このとき、MMにおけるVVの補部分群が存在する。さらに、任意の二つの補部分群はVVの元によって共役である。

証明方針は次のとおりである。最初に、QQのVVへの作用を持上げの選択によらず定める。次に、集合論的切断の積に関する誤差を factor setffとして記録する。結合律からffの恒等式を導き、∣Q∣|Q|がFr\mathbb F_r上で可逆であることを用いてffを有限和で消去する。得られた準同型切断の像が補部分群である。最後に、二つの準同型切断の差を同じ有限和によって消去し、二つの補部分群がVVの元によって共役であることを示す。

証明.VVをMMの正規部分群と同一視し、VVの演算を加法で書く。q∈Qq\in Qに対し、ρ(q~)=q\rho(\widetilde q)=qを満たすq~∈M\widetilde q\in Mを取り、

q⋅v=q~ v q~−1(v∈V)q\cdot v=\widetilde q\,v\,\widetilde q^{-1}\qquad(v\in V)

と定める。別の持上げはaq~a\widetilde q(a∈Va\in V)の形で表される。VVはアーベル群なので、aaによるVV上の共役は恒等写像である。したがってq⋅vq\cdot vは持上げの選び方によらない。また、積の持上げを用いると

(qt)⋅v=q⋅(t⋅v)(qt)\cdot v=q\cdot(t\cdot v)

が成り立つため、QQはVVに左から作用する。

σ(eQ)=eM\sigma(e_Q)=e_Mを満たす集合論的切断σ ⁣:Q→M\sigma\colon Q\to Mを選ぶ。各q,t∈Qq,t\in Qについて一意なf(q,t)∈Vf(q,t)\in Vが存在して

σ(q)σ(t)=f(q,t)σ(qt)(1)\sigma(q)\sigma(t)=f(q,t)\sigma(qt) \tag{1}

となる。ffを、この切断の factor set と呼ぶ。三つの元の積へ結合律を二通りに適用し、 (1) を用いると

f(q,t)+f(qt,u)=q⋅f(t,u)+f(q,tu)(2)f(q,t)+f(qt,u)=q\cdot f(t,u)+f(q,tu) \tag{2}

を得る。ここでは、σ(q)f(t,u)σ(q)−1=q⋅f(t,u)\sigma(q)f(t,u)\sigma(q)^{-1}=q\cdot f(t,u)を用いた。

m=∣Q∣m=|Q|と置く。r∤mr\nmid mなので、cm≡1(modr)cm\equiv1\pmod rを満たす整数ccが存在する。VVの各元の位数はrrを割るため、VV上の整数倍cmcmは恒等写像である。各q∈Qq\in Qに対して

A(q)=∑u∈Qf(q,u),B(q)=cA(q)A(q)=\sum_{u\in Q}f(q,u),\qquad B(q)=cA(q)

と置く。(2) をu∈Qu\in Qについて加えると

mf(q,t)+A(qt)=q⋅A(t)+A(q)mf(q,t)+A(qt)=q\cdot A(t)+A(q)

となる。右辺の最後の和では、u↦tuu\mapsto tuがQQの全単射であることを用いた。両辺をcc倍すると

f(q,t)=B(q)+q⋅B(t)−B(qt)(3)f(q,t)=B(q)+q\cdot B(t)-B(qt) \tag{3}

を得る。

s(q)=(−B(q))σ(q)s(q)=(-B(q))\sigma(q)

と定める。σ(eQ)=eM\sigma(e_Q)=e_Mを (1) に代入するとf(eQ,u)=0f(e_Q,u)=0であるから、B(eQ)=0B(e_Q)=0である。(1) と (3) から

s(q)s(t)=(−B(q))σ(q)(−B(t))σ(t)=(−B(q)−q⋅B(t)+f(q,t))σ(qt)=(−B(qt))σ(qt)=s(qt)\begin{aligned} s(q)s(t) &=(-B(q))\sigma(q)(-B(t))\sigma(t)\\ &=\bigl(-B(q)-q\cdot B(t)+f(q,t)\bigr)\sigma(qt)\\ &=(-B(qt))\sigma(qt)=s(qt) \end{aligned}

が成り立つ。またs(eQ)=eMs(e_Q)=e_Mである。したがってssは群準同型であり、ρ∘s=id⁡Q\rho\circ s=\operatorname{id}_Qを満たす。

H=s(Q)H=s(Q)と置く。ρ∣H\rho|_HはQQへの同型であるからH∩V={eM}H\cap V=\{e_M\}である。任意のx∈Mx\in Mに対しq=ρ(x)q=\rho(x)と置けばxs(q)−1∈Vxs(q)^{-1}\in VなのでM=VHM=VHである。したがってHHはVVの補部分群である。

次に、二つの補部分群を取る。各補部分群へのρ\rhoの制限はQQへの同型なので、二つの準同型切断s,t ⁣:Q→Ms,t\colon Q\to Mが得られる。一意なz(q)∈Vz(q)\in Vによって

t(q)=z(q)s(q)t(q)=z(q)s(q)

と書くことができる。ssとttが準同型であることから

z(qt)=z(q)+q⋅z(t)(4)z(qt)=z(q)+q\cdot z(t) \tag{4}

を得る。S=∑u∈Qz(u)S=\sum_{u\in Q}z(u)と置く。固定したq∈Qq\in Qに対して (4) をt=ut=uとして加えると、u↦quu\mapsto quがQQの全単射なので

S=mz(q)+q⋅SS=mz(q)+q\cdot S

となる。w=cSw=cSと置けば

z(q)=w−q⋅w(5)z(q)=w-q\cdot w \tag{5}

である。(5) から

ws(q)w−1=(w−q⋅w)s(q)=z(q)s(q)=t(q)ws(q)w^{-1}=(w-q\cdot w)s(q)=z(q)s(q)=t(q)

を得る。したがってt(Q)=ws(Q)w−1t(Q)=ws(Q)w^{-1}であり、任意の二つの補部分群はVVの元によって共役である。▨

4 Hall の三定理

帰納法の途中で、正規なπ\pi部分群が Hallπ\pi部分群へ自動的に含まれることを用いる。

補題 4.1.GGを有限群、N⊴GN\trianglelefteq Gをπ\pi部分群、H≤GH\le Gを Hallπ\pi部分群とする。このときN≤HN\le Hである。

証明.N⊴GN\trianglelefteq GなのでNHNHは部分群である。指数

[NH:H]=[N:N∩H][NH:H]=[N:N\cap H]

は∣N∣|N|を割るのでπ\pi数である。一方、H≤NH≤GH\le NH\le Gなので[NH:H][NH:H]は[G:H][G:H]を割り、π′\pi'数でもある。π\pi数かつπ′\pi'数である正の整数は11だけなので、[NH:H]=1[NH:H]=1である。したがってNH=HNH=Hであり、N≤HN\le Hとなる。▨

証明方針は次のとおりである。存在、共役、包含の三つの主張を群の位数について同時に帰納する。非自明な有限可解群GGの最小正規部分群VVは、補題 2.1により、ある素数rrに対する初等アーベルrr群である。V≠{eG}V\ne\{e_G\}から∣G/V∣<∣G∣|G/V|<|G|となるため、商群G/VG/Vに帰納法を適用する。r∈πr\in\piの場合はVVを Hall 部分群の中へ含め、r∉πr\notin\piの場合は補題 3.1によってVVの補部分群を取る。最後に、商群で得た存在、共役、包含を、それぞれこの二つの場合に分けてGGの主張へ引き上げる。

定理 4.2 (Hall の三定理).GGを有限可解群、π\piを素数の集合とする。このとき、次が成り立つ。

  1. GGは Hallπ\pi部分群をもつ。
  2. 任意の二つの Hallπ\pi部分群は、GGの元によって共役である。
  3. 任意のπ\pi部分群P≤GP\le Gは、ある Hallπ\pi部分群に含まれる。

証明. 群の位数∣G∣|G|に関する強い帰納法によって、三つの主張を同時に証明する。∣G∣=1|G|=1ならばG={eG}G=\{e_G\}であり、{eG}\{e_G\}が唯一の Hallπ\pi部分群である。三つの主張はすべて成り立つ。

∣G∣>1|G|>1とし、位数が∣G∣|G|より小さい有限可解群について三つの主張が成り立つと仮定する。有限性によって、GGは非自明な正規部分群のうち包含関係に関して極小なものVVをもつ。補題 2.1により、ある素数rrが存在して、VVは初等アーベルrr群である。§E7.21 定理 3.2によりG/VG/Vは可解である。さらに、V≠{eG}V\ne\{e_G\}なので

∣G/V∣=∣G∣∣V∣<∣G∣|G/V|=\frac{|G|}{|V|}<|G|

である。したがってG/VG/Vに帰納法の仮定を適用し、存在、共役、包含の三つの主張をすべて用いることができる。

最初に存在を証明する。G/VG/Vの Hallπ\pi部分群H‾\overline Hを取り、そのGGへの逆像をMMとする。

r∈πr\in\piと仮定する。∣M∣=∣V∣∣H‾∣|M|=|V||\overline H|はπ\pi数であり、

[G:M]=[G/V:H‾][G:M]=[G/V:\overline H]

はπ′\pi'数である。したがってMMはGGの Hallπ\pi部分群である。

r∉πr\notin\piと仮定する。このときr∤∣H‾∣r\nmid|\overline H|である。短完全列

1⟶V⟶M⟶H‾⟶11\longrightarrow V\longrightarrow M\longrightarrow\overline H\longrightarrow1

へ補題 3.1を適用し、VVの補部分群H≤MH\le Mを取る。∣H∣=∣H‾∣|H|=|\overline H|はπ\pi数であり、

[G:H]=[G:M][M:H]=[G/V:H‾]∣V∣[G:H]=[G:M][M:H]=[G/V:\overline H]|V|

はπ′\pi'数である。したがってHHはGGの Hallπ\pi部分群であり、(1)が成り立つ。

次に共役を証明する。HHとKKをGGの Hallπ\pi部分群とする。HV/VHV/VとKV/VKV/Vの位数はπ\pi数である。また

[G/V:HV/V]=[G:HV][G/V:HV/V]=[G:HV]

は[G:H][G:H]を割るのでπ′\pi'数である。したがってHV/VHV/VとKV/VKV/VはG/VG/Vの Hallπ\pi部分群である。商群における帰納法の仮定により、あるg∈Gg\in GでKKをgKg−1gKg^{-1}に置き換えれば

HV/V=KV/VHV/V=KV/V

とすることができる。この共通の部分群のGGへの逆像をMMと書く。このときM=VH=VKM=VH=VKである。

r∈πr\in\piならば、補題 4.1によってV≤HV\le HかつV≤KV\le Kである。したがってH=VH=M=VK=KH=VH=M=VK=Kとなる。

r∉πr\notin\piならば、∣H∣|H|と∣K∣|K|はπ\pi数であり、∣V∣|V|はrrの冪なのでH∩V=K∩V={eG}H\cap V=K\cap V=\{e_G\}である。したがってHHとKKは、MMにおけるVVの補部分群である。また、M/V=HV/VM/V=HV/Vはπ\pi群なのでr∤∣M/V∣r\nmid|M/V|である。したがって補題 3.1の仮定が成り立ち、HHとKKはVVの元で共役である。商群で行った最初の共役と合わせると、元のHHとKKはGGの元で共役である。したがって(2)が成り立つ。

最後に包含を証明する。P≤GP\le Gを任意のπ\pi部分群とする。PV/VPV/VはG/VG/Vのπ\pi部分群である。商群における帰納法の仮定により、PV/VPV/Vを含むG/VG/Vの Hallπ\pi部分群L‾\overline Lが存在する。そのGGへの逆像をMMとする。

r∈πr\in\piならば、存在証明と同じ位数の計算によってMMはGGの Hallπ\pi部分群であり、P≤PV≤MP\le PV\le Mである。

r∉πr\notin\piならば、M/V=L‾M/V=\overline Lはπ\pi群なのでr∤∣M/V∣r\nmid|M/V|である。補題 3.1により、MMにおけるVVの補部分群HHが存在する。存在証明と同じ計算によってHHはGGの Hallπ\pi部分群である。P∩V={eG}P\cap V=\{e_G\}かつPV=VPPV=VPなので、PPはPVPVにおけるVVの補部分群である。

H∩PVH\cap PVもPVPVにおけるVVの補部分群である。実際、ρ∣H ⁣:H→M/V\rho|_H\colon H\to M/Vは同型であり、PV/V≤M/VPV/V\le M/Vである。x∈PVx\in PVに対し、ρ(h)=ρ(x)\rho(h)=\rho(x)を満たすh∈Hh\in Hを取ると、h−1x∈V≤PVh^{-1}x\in V\le PVなのでh∈H∩PVh\in H\cap PVである。したがってPV=V(H∩PV)PV=V(H\cap PV)であり、V∩(H∩PV)={eG}V\cap(H\cap PV)=\{e_G\}である。また、PV/VPV/Vはπ\pi群なのでr∤∣PV/V∣r\nmid|PV/V|である。

補題 3.1を群PVPVへ適用すると、あるv∈Vv\in Vが存在して

P=v(H∩PV)v−1P=v(H\cap PV)v^{-1}

となる。ゆえにP≤vHv−1P\le vHv^{-1}であり、vHv−1vHv^{-1}はGGの Hallπ\pi部分群である。したがって(3)が成り立つ。▨

5 Sylow の定理との対応

一つの素数だけを選ぶと、Hall 部分群は Sylow 部分群になる。

系 5.1.GGを有限可解群、ppを素数とし、π={p}\pi=\{p\}とする。このとき Hallπ\pi部分群は Sylowpp部分群である。したがって定理 4.2の存在、共役、包含の三つの主張は、 Sylow の定理における対応する三つの主張に一致する。

証明.∣G∣=pnm|G|=p^n m、p∤mp\nmid mと書く。HHが Hall{p}\{p\}部分群ならば、∣H∣|H|はppの冪であり、[G:H][G:H]はppで割り切れない。∣G∣=∣H∣[G:H]|G|=|H|[G:H]なので∣H∣=pn|H|=p^nであり、HHは Sylowpp部分群である。逆に、Sylowpp部分群の位数はpnp^n、指数はmmなので、 Hall{p}\{p\}部分群である。

Hall の三定理は、Sylow 部分群の存在、共役、および任意のpp部分群の包含を再現する。 Sylow 部分群の個数に関する合同条件と整除条件は、§E7.17 定理 2.1が共役作用からさらに与える結論である。▨

6 例と仮定の境界

S3S_3では、Hall 部分群を直接に列挙することができる。

例 6.1 (S3S_3の Hall 部分群). 正規列

{e}⊴A3⊴S3\{e\}\trianglelefteq A_3\trianglelefteq S_3

の因子はC3C_3とC2C_2に同型なので、S3S_3は可解である。

π={3}\pi=\{3\}のとき、A3A_3は位数33、指数22の Hallπ\pi部分群であり、唯一である。π={2}\pi=\{2\}のとき、三つの互換がそれぞれ位数22の Hallπ\pi部分群を生成し、三つの部分群はS3S_3で互いに共役である。任意の{2}\{2\}部分群は、自明部分群またはこの三つのいずれかであるため、Hall{2}\{2\}部分群に含まれる。

可解性を外すと、Hall 部分群が存在しない場合がある。

例 6.2 (可解性を外した場合).A5A_5は可解でない(§E7.21 定理 6.1)。π={3,5}\pi=\{3,5\}とする。A5A_5が Hallπ\pi部分群HHをもつならば、∣H∣=15|H|=15でなければならない。

§E7.17 定理 4.2をp=3p=3、q=5q=5に適用する。3∤43\nmid4なので、位数1515の群は巡回群である。したがってHHは位数1515の元をもつ。しかし、S5S_5の置換が位数1515をもつには、互いに素な巡回置換への分解に長さ33の巡回因子と長さ55の巡回因子が必要であり、少なくとも88個の文字が必要となる。ゆえにS5S_5とその部分群A5A_5は位数1515の元をもたない。位数1515の元が存在するという結論は矛盾である。したがってA5A_5は Hall{3,5}\{3,5\}部分群をもたない。

7 演習

問題 7.1.

  1. 補題 3.1の証明で、(2) をu∈Qu\in Qについて加えた式を再構成せよ。変数変換u↦tuu\mapsto tuを用いる箇所と、cm≡1(modr)cm\equiv1\pmod rを用いる箇所を区別して示せ。
  2. 定理 4.2の存在証明について、r∈πr\in\piの場合とr∉πr\notin\piの場合の位数と指数をそれぞれ計算し、得られた部分群が Hallπ\pi部分群であることを示せ。
  3. 同定理の包含証明で、H∩PVH\cap PVがPVPVにおけるVVの補部分群であることを証明せよ。その後、補部分群の共役からP≤vHv−1P\le vHv^{-1}が従うまでの論証を再構成せよ。
  4. A5A_5に Hall{2,5}\{2,5\}部分群が存在しないことを示せ。部分群が存在すると仮定した場合の位数を求め、Sylow 部分群の個数条件を用いて矛盾を導け。
解答 (演習の要点).

第1問では、(2) の左辺がmf(q,t)+A(qt)mf(q,t)+A(qt)となり、右辺がq⋅A(t)+A(q)q\cdot A(t)+A(q)となる。cc倍した後にcmcmがVV上の恒等写像になることを用いる。第2問では、r∈πr\in\piの場合は逆像MMを取り、r∉πr\notin\piの場合は[G:H]=[G:M]∣V∣[G:H]=[G:M]|V|を用いる。第3問では、ρ∣H\rho|_Hが同型であることからPV=V(H∩PV)PV=V(H\cap PV)を示し、PPとH∩PVH\cap PVに補部分群共役を適用する。

第4問で Hall{2,5}\{2,5\}部分群が存在するならば、その位数は2020である。位数2020の群HHでは Sylow55部分群の個数が11なので、その部分群PPはHHに正規である。したがってH≤NA5(P)H\le N_{A_5}(P)である。PPを一つの55-cycle が生成する部分群として、NA5(P)N_{A_5}(P)からAut⁡(P)≅C4\operatorname{Aut}(P)\cong C_4への共役準同型を考える。核はCA5(P)=PC_{A_5}(P)=Pである。実際、55-cycle のS5S_5における中心化群がPPである。PPの逆元写像は二つの互換の積によって実現される。一方、位数44の自己同型を実現する置換は、一つの文字を固定して残りの4文字を巡回するため奇置換である。同じ自己同型を実現する二つの置換の商はPPに属し、PPの元はすべて偶置換なので、位数44の自己同型を偶置換で実現することはできない。したがって像の位数は22であり、∣NA5(P)∣=10|N_{A_5}(P)|=10となる。∣H∣=20|H|=20と矛盾するため、該当する Hall 部分群は存在しない。▨

参考文献

  1. Derek J. S. Robinson, A Course in the Theory of Groups, 2nd ed., Graduate Texts in Mathematics, Springer, 1996.有限可解群の Hall 部分群の扱いを参考にした。
  2. I. Martin Isaacs, Finite Group Theory, American Mathematical Society, Providence, Rhode Island, 2008.有限可解群に対する Hall の定理と、その帰納的な証明を参考にした。

前提記事