§E7.32Schur–Zassenhaus の定理

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有限群の正規部分群と商群の位数が互いに素であるとき、その短完全列は分裂する。すなわち、商群と同型な部分群を全体の群の内部に取ることができる。存在証明では正規部分群にも商群にも可解性を仮定しない。

補群の共役には、正規部分群または商群の一方が可解であるという仮定を置く。本記事は、この二つの場合をそれぞれ帰納法で証明する。Feit–Thompson の定理によって可解性の仮定を取り除く議論は扱わない。

1 正規 Hall 部分群と先行結果

補群は§E7.16 定義 3.1で定義されている。正規部分群が Hall 部分群であるという条件を、位数によって記述する。

定義 1.1.GGを有限群、N⊴GN\trianglelefteq Gとする。

gcd⁡(∣N∣,[G:N])=1\gcd(|N|,[G:N])=1

が成り立つとき、NNをGGの正規 Hall 部分群 (normal Hall subgroup) という。

本記事が用いる先行結果を記録する。

注意 1.2 (用いる先行結果). 本記事は、次の結果を用いる。

  1. 有限群の Sylow 部分群は存在し、任意のpp部分群は Sylowpp部分群に含まれ、任意の二つの Sylowpp部分群は共役である(§E7.17 定理 1.2、§E7.17 定理 2.1)。

  2. 非自明な有限pp群の中心は非自明である(§E7.12 定理 5.2)。

  3. 第二同型定理と部分群の対応定理を用いる。とくにA≤GA\le G、N⊴GN\trianglelefteq GならばAN/N≅A/(A∩N)AN/N\cong A/(A\cap N)であり、G/NG/Nの部分群はNNを含むGGの部分群の逆像として一意に得られる(§E7.8 定理 2.1、§E7.8 定理 3.1)。

  4. 可解群の部分群と商群は可解であり、可解な正規部分群の可解な拡大も可解である(§E7.21 定理 3.2)。

  5. 有限可解群に対する Hall の三定理が成り立つ(§E7.30 定理 4.2)。一つの素数からなる集合に対する Hall 部分群は Sylow 部分群である(§E7.30 系 5.1)。

  6. 有限初等アーベルpp群VVを核とし、p∤∣Q∣p\nmid|Q|を満たす有限拡大

    1⟶V⟶E⟶Q⟶11\longrightarrow V\longrightarrow E\longrightarrow Q\longrightarrow1

    では、VVの補群が存在し、任意の二つの補群はVVの元によって共役である(§E7.30 補題 3.1)。

  7. 短完全列の切断が存在することを分裂と呼ぶ(§E7.15 定義 1.4)。分裂することと、短完全列が適切な作用による標準半直積拡大と拡大として同型であることは同値である(§E7.16 定理 4.1)。

(6)は、集合論的切断の factor set と有限和によって Hall 部分群の記事で完全に証明された特殊補題である。本記事はこの補題を引用し、一般の Schur–Zassenhaus の定理を証明する。

2 帰納法の準備

characteristically simple な有限群の構造には、有限単純群の分類を必要としない。

補題 2.1.XXを非自明な有限群とし、XXが非自明な真の特性部分群をもたないと仮定する。このとき、ある有限単純群SSと正整数ttが存在して

X≅StX\cong S^t

となる。したがってXXは、ある素数ppに対する初等アーベルpp群であるか、互いに同型な非アーベル単純群の直積である。

証明.XXの非自明な正規部分群のうち、包含関係に関して極小なものS1S_1を取る。Aut⁡(X)\operatorname{Aut}(X)によるS1S_1の像は、いずれもXXの極小な非自明正規部分群であり、S1S_1と同型である。これらの像からS1,…,StS_1,\ldots,S_tを、積

D=S1⋯StD=S_1\cdots S_t

が内部直積となり、因子をこれ以上追加することができないように選ぶ。この選択は有限性により可能である。実際、すでに選んだ因子の積をDiD_iとし、別の像TTがT∩Di={eX}T\cap D_i=\{e_X\}を満たせば、T,Di⊴XT,D_i\trianglelefteq Xから[T,Di]≤T∩Di={eX}[T,D_i]\le T\cap D_i=\{e_X\}である。したがってTDiTD_iは内部直積となり、TTを因子として追加することができる。

TTをS1S_1の任意の自己同型像とする。T∩DT\cap DはXXの正規部分群であり、TTの極小性から、自明であるかTT自身である。前者ならばTTをDDの因子へ追加することができ、最大性に反する。したがってT≤DT\le Dである。

α∈Aut⁡(X)\alpha\in\operatorname{Aut}(X)とする。各α(Si)\alpha(S_i)はS1S_1の自己同型像なのでDDに含まれ、

α(D)=α(S1)⋯α(St)≤D\alpha(D)=\alpha(S_1)\cdots\alpha(S_t)\le D

となる。α−1\alpha^{-1}にも同じ包含を適用するとα(D)=D\alpha(D)=Dを得る。ゆえにDDはXXの非自明な特性部分群であり、仮定からD=XD=Xである。したがってXXはS1,…,StS_1,\ldots,S_tの内部直積である。

L⊴SiL\trianglelefteq S_iとする。SiS_iはLLを正規化し、j≠ij\ne iに対してSjS_jはSiS_iを元ごとに中心化するためLLも正規化する。X=S1⋯StX=S_1\cdots S_tなのでL⊴XL\trianglelefteq Xである。SiS_iの極小性からL={eX}L=\{e_X\}またはL=SiL=S_iとなる。ゆえに各SiS_iは単純群である。

S1S_1がアーベル群ならば、単純性によりS1S_1は素数位数の巡回群である。この場合XXは初等アーベルpp群になる。S1S_1が非アーベル群ならば、すべてのSiS_iは互いに同型な非アーベル単純群である。▨

正規部分群の Sylow 部分群の正規化群は、全体の群を分解する。

補題 2.2.GGを有限群、N⊴GN\trianglelefteq Gとし、PPをNNの Sylowpp部分群とする。このとき

G=N NG(P)G=N\,N_G(P)

である。

証明.g∈Gg\in Gとする。N⊴GN\trianglelefteq GなのでgPg−1gPg^{-1}はNNの Sylowpp部分群である。§E7.17 定理 2.1により、あるn∈Nn\in Nが存在して

n(gPg−1)n−1=Pn(gPg^{-1})n^{-1}=P

となる。したがってng∈NG(P)ng\in N_G(P)であり、

g=n−1(ng)∈N NG(P)g=n^{-1}(ng)\in N\,N_G(P)

である。一方、N≤GN\le GかつNG(P)≤GN_G(P)\le GなのでN NG(P)⊆GN\,N_G(P)\subseteq Gである。したがって等式を得る。▨

共役証明では、全体の群が可解でなくても、可解な極小正規部分群の形を決定する必要がある。

補題 2.3.GGを有限群とし、MMをGGの極小な非自明正規部分群とする。MMが可解ならば、ある素数ppに対してMMは初等アーベルpp群である。

証明.MMの導来列の最後の非自明な項をAAとする。AAはMMの特性部分群であり、アーベル群である。M⊴GM\trianglelefteq GなのでA⊴GA\trianglelefteq Gである。A≠{eG}A\ne\{e_G\}とMMの極小性からA=MA=Mを得る。したがってMMはアーベル群である。

∣M∣|M|を割る素数ppを取る。MMの Sylowpp部分群RRは、MMがアーベル群なので一意であり、MMの特性部分群である。ゆえにR⊴GR\trianglelefteq Gであり、極小性からR=MR=Mとなる。したがってMMはpp群である。

Ω1(M)={x∈M∣xp=eG}\Omega_1(M)=\{x\in M\mid x^p=e_G\}

と置く。MMはアーベル群なのでΩ1(M)\Omega_1(M)は部分群であり、自己同型はpp乗を保つのでMMの特性部分群である。MMの非単位元xxの位数をpap^aと書くと、xpa−1x^{p^{a-1}}は位数ppなのでΩ1(M)\Omega_1(M)は非自明である。したがってΩ1(M)⊴G\Omega_1(M)\trianglelefteq Gと極小性からΩ1(M)=M\Omega_1(M)=Mとなる。ゆえにMMは初等アーベルpp群である。▨

商が可解な場合には、素数位数の商を一段取り出す。

補題 2.4.QQを非自明な有限可解群とする。このとき、ある素数ppと真の正規部分群B⊴QB\trianglelefteq Qが存在して

Q/B≅CpQ/B\cong C_p

となる。

証明.QQが可解かつ非自明なので、[Q,Q]≠Q[Q,Q]\ne Qである。実際、両者が等しければ導来列のすべての項がQQとなり、自明部分群へ達しない。したがってアーベル化

Qab=Q/[Q,Q]Q^{\mathrm{ab}}=Q/[Q,Q]

は非自明な有限アーベル群である。QabQ^{\mathrm{ab}}の極大な真の部分群UUを取る。アーベル群の部分群は正規なのでQab/UQ^{\mathrm{ab}}/Uは単純アーベル群である。非自明な有限単純アーベル群では、非単位元が生成する巡回部分群が非自明な正規部分群なので、群全体が一つの元で生成される。その位数が合成数ならば巡回群は非自明な真の部分群をもつため、位数は素数である。したがって、ある素数ppに対してQab/U≅CpQ^{\mathrm{ab}}/U\cong C_pとなる。BBを合成準同型

Q⟶Qab⟶Qab/UQ\longrightarrow Q^{\mathrm{ab}}\longrightarrow Q^{\mathrm{ab}}/U

の核とすれば、B⊴QB\trianglelefteq QかつQ/B≅CpQ/B\cong C_pである。▨

3 補群の存在

証明方針は次のとおりである。∣G∣|G|に関して帰納する。NNが非自明な真の特性部分群CCをもつ場合、最初にG/CG/CでN/CN/Cの補群を取り、その逆像KKの内部でCCの補群を取る。NNが characteristically simple な場合は補題 2.1を用いる。初等アーベルの場合は Hall 部分群の記事の特殊補題を適用し、非アーベル単純因子の直積の場合は Sylow 部分群の正規化群へ帰納法を適用する。

定理 3.1 (Schur–Zassenhaus の存在定理).GGを有限群、N⊴GN\trianglelefteq Gを正規 Hall 部分群とする。このとき、NNはGGに補群をもつ。すなわち、ある部分群H≤GH\le Gが存在して

G=NH,N∩H={eG}G=NH,\qquad N\cap H=\{e_G\}

となる。

証明.∣G∣|G|に関する強い帰納法を用いる。N={eG}N=\{e_G\}ならばH=GH=Gが補群である。以下ではN≠{eG}N\ne\{e_G\}とし、位数が∣G∣|G|より小さい有限群の正規 Hall 部分群には補群が存在すると仮定する。

最初に、NNが非自明な真の特性部分群CCをもつと仮定する。CCはNNの特性部分群であり、N⊴GN\trianglelefteq GなのでC⊴GC\trianglelefteq Gである。G/CG/CにおいてN/CN/Cは正規部分群であり、

[G/C:N/C]=[G:N],∣N/C∣∣∣N∣[G/C:N/C]=[G:N],\qquad |N/C|\mid |N|

なのでN/CN/CはG/CG/Cの正規 Hall 部分群である。C≠{eG}C\ne\{e_G\}から∣G/C∣<∣G∣|G/C|<|G|であり、帰納法の仮定によってN/CN/CはG/CG/Cに補群をもつ。§E7.8 定理 3.1により、その補群をK/CK/Cと書くことができる。補群の積と交わりの条件から

G=NK,N∩K=C(1)G=NK,\qquad N\cap K=C \tag{1}

を得る。

C⊴KC\trianglelefteq Kであり、

[K:C]=∣K/C∣=[G:N][K:C]=|K/C|=[G:N]

である。∣C∣∣∣N∣|C|\mid|N|なのでCCはKKの正規 Hall 部分群である。また (1) とC≠NC\ne Nから

[G:K]=[N:C]>1[G:K]=[N:C]>1

であり、∣K∣<∣G∣|K|<|G|となる。帰納法の仮定をKKとCCに適用し、CCの補群H≤KH\le Kを取る。すなわち

K=CH,C∩H={eG}.K=CH,\qquad C\cap H=\{e_G\}.

このときC≤NC\le Nと (1) から

G=NK=NCH=NHG=NK=NCH=NH

である。またH≤KH\le Kなので

N∩H≤N∩K=CN\cap H\le N\cap K=C

であり、C∩H={eG}C\cap H=\{e_G\}からN∩H={eG}N\cap H=\{e_G\}を得る。したがってHHはGGにおけるNNの補群である。

残る場合として、NNが非自明な真の特性部分群をもたないと仮定する。補題 2.1により、NNは初等アーベル群であるか、互いに同型な非アーベル単純群の直積である。

NNが初等アーベルpp群である場合を考える。正規 Hall 条件からp∤[G:N]=∣G/N∣p\nmid[G:N]=|G/N|である。短完全列

1⟶N⟶G⟶G/N⟶11\longrightarrow N\longrightarrow G\longrightarrow G/N\longrightarrow1

へ§E7.30 補題 3.1を適用すると、NNの補群が存在する。

NNが互いに同型な非アーベル単純群の直積である場合を考える。∣N∣|N|を割る素数ppを取り、NNの Sylowpp部分群PPを取る。非アーベル単純群はpp群ではない。実際、非自明な有限pp群は§E7.12 定理 5.2により非自明な中心をもち、単純ならば中心が群全体になってアーベル群となる。したがってP≠NP\ne Nである。

K=NG(P)K=N_G(P)と置く。補題 2.2により

G=NK(2)G=NK \tag{2}

である。もしK=GK=GならばP⊴GP\trianglelefteq Gである。このときPPはNNの唯一の Sylowpp部分群なのでNNの特性部分群となる。P≠{eG}P\ne\{e_G\}と characteristically simple であることからP=NP=Nとなり、P≠NP\ne Nに反する。したがってK<GK<Gである。

D=N∩K=NN(P)D=N\cap K=N_N(P)と置く。N⊴GN\trianglelefteq GなのでD⊴KD\trianglelefteq Kである。 (2) と第二同型定理から

[K:D]=[G:N][K:D]=[G:N]

であり、∣D∣∣∣N∣|D|\mid|N|なのでDDはKKの正規 Hall 部分群である。∣K∣<∣G∣|K|<|G|であるから、帰納法の仮定によりDDはKKに補群HHをもつ。すなわち

K=DH,D∩H={eG}.K=DH,\qquad D\cap H=\{e_G\}.

したがって

G=NK=NDH=NHG=NK=NDH=NH

である。またH≤KH\le Kなので

N∩H=H∩(N∩K)=H∩D={eG}.N\cap H=H\cap(N\cap K)=H\cap D=\{e_G\}.

ゆえにHHはGGにおけるNNの補群である。すべての場合で補群が得られた。▨

4 補群の共役

証明方針は次のとおりである。二つの補群をHHとKKとし、NNに含まれるGGの極小な非自明正規部分群MMを取って、G/MG/MでHM=KMHM=KMとなるまで共役する。M<NM<Nならば真部分群HMHMの内部へ帰納する。M=NM=NでNNが可解ならば、初等アーベル核の特殊補題を用いる。G/NG/Nが可解でNNが可解でない場合は、素数位数商の逆像で補群の交わりを一致させ、最後にその交わりを正規化する Sylow 部分群の共役へ帰着する。

定理 4.1 (Schur–Zassenhaus の共役定理).GGを有限群、N⊴GN\trianglelefteq Gを正規 Hall 部分群とする。NNまたはG/NG/Nの少なくとも一方が可解であると仮定する。このとき、GGにおけるNNの任意の二つの補群はGGの元によって共役である。

証明.∣G∣|G|に関する強い帰納法を用いる。N={eG}N=\{e_G\}ならば補群はGG自身だけである。以下ではN≠{eG}N\ne\{e_G\}とし、位数が∣G∣|G|より小さい有限群について定理が成り立つと仮定する。HHとKKをNNの二つの補群とする。商写像のHHとKKへの制限は、核がそれぞれH∩NH\cap NとK∩NK\cap Nであり、G=NH=NKG=NH=NKから全射なので、

H≅G/N≅K,∣H∣=∣K∣=[G:N]H\cong G/N\cong K,\qquad |H|=|K|=[G:N]

である。

NNに含まれるGGの非自明な正規部分群のうち、包含関係に関して極小なものをMMとする。MMに含まれるGGの非自明な正規部分群もNNに含まれるため、MMはGGの極小な非自明正規部分群である。

G/MG/MにおいてHM/MHM/MとKM/MKM/MはN/MN/Mの補群である。実際、

[G/M:N/M]=[G:N],∣N/M∣∣∣N∣[G/M:N/M]=[G:N],\qquad |N/M|\mid|N|

なのでN/MN/MはG/MG/Mの正規 Hall 部分群であり、

(HM/M)(N/M)=G/M(HM/M)(N/M)=G/M

である。またHM∩N=MHM\cap N=Mである。なぜなら、hm∈Nhm\in N(h∈H, m∈Mh\in H,\ m\in M)ならばh∈H∩N={eG}h\in H\cap N=\{e_G\}だからである。したがって

(HM/M)∩(N/M)=M/M(HM/M)\cap(N/M)=M/M

であり、KM/MKM/Mについても同じ計算が成り立つ。

NNが可解ならばN/MN/Mは可解であり、G/NG/Nが可解ならば

(G/M)/(N/M)≅G/N(G/M)/(N/M)\cong G/N

が可解である。∣G/M∣<∣G∣|G/M|<|G|なので帰納法の仮定をG/MG/Mに適用することができる。したがって、あるg∈Gg\in GでKKをgKg−1gKg^{-1}に置き換えることにより

HM=KM(3)HM=KM \tag{3}

とすることができる。この共通の部分群をXXと書く。

M<NM<Nと仮定する。補群の条件から

∣X∣=∣M∣∣H∣,∣G∣=∣N∣∣H∣|X|=|M||H|,\qquad |G|=|N||H|

であり、∣X∣<∣G∣|X|<|G|である。HHとKKはXXにおけるMMの補群であり、

[X:M]=∣H∣=[G:N][X:M]=|H|=[G:N]

なのでMMはXXの正規 Hall 部分群である。NNが可解ならばその部分群MMは可解である。G/NG/Nが可解ならば

X/M≅H≅G/NX/M\cong H\cong G/N

が可解である。したがって帰納法の仮定をXXとMMに適用すると、HHとKKはXXの元によって共役である。商群で行った共役と合わせると、元のHHとKKはGGの元によって共役である。

残る場合はM=NM=Nであり、NNはGGの極小な非自明正規部分群である。

最初にNNが可解である場合を考える。補題 2.3により、ある素数ppに対してNNは初等アーベルpp群である。正規 Hall 条件からp∤∣G/N∣p\nmid|G/N|なので、§E7.30 補題 3.1の共役結論を

1⟶N⟶G⟶G/N⟶11\longrightarrow N\longrightarrow G\longrightarrow G/N\longrightarrow1

へ適用することができる。したがってHHとKKはNNの元によって共役である。

次にG/NG/Nが可解であり、NNが可解でない場合を考える。G/NG/Nが自明ならばH=K={eG}H=K=\{e_G\}なので、G/NG/Nは非自明であると仮定してよい。Q=G/NQ=G/Nと置く。補題 2.4により、ある素数ppとB⊴QB\trianglelefteq Qが存在してQ/B≅CpQ/B\cong C_pとなる。商写像ρ ⁣:G→Q\rho\colon G\to Qに対して

A=ρ−1(B)A=\rho^{-1}(B)

と置く。このとき

N≤A⊴G,G/A≅Cp(4)N\le A\trianglelefteq G,\qquad G/A\cong C_p \tag{4}

であり、A<GA<Gである。

DH=H∩AD_H=H\cap Aと置く。A=NDHA=ND_Hであることを示す。a∈Aa\in Aを取り、G=NHG=NHを用いてa=nha=nh(n∈N, h∈Hn\in N,\ h\in H)と書く。N≤AN\le Aなのでh=n−1a∈H∩A=DHh=n^{-1}a\in H\cap A=D_Hである。ゆえにA=NDHA=ND_Hであり、N∩DH={eG}N\cap D_H=\{e_G\}である。したがってDHD_HはAAにおけるNNの補群である。a∈Aa\in Aをa=nka=nk(n∈N, k∈Kn\in N,\ k\in K)と書けば、k=n−1a∈K∩A=DKk=n^{-1}a\in K\cap A=D_Kである。したがってA=NDKA=ND_Kであり、N∩DK={eG}N\cap D_K=\{e_G\}でもあるから、DKD_KもAAにおけるNNの補群である。

A/N≅BA/N\cong Bは可解である。また[A:N]=∣B∣[A:N]=|B|は[G:N][G:N]を割るため、NNはAAの正規 Hall 部分群である。∣A∣<∣G∣|A|<|G|なので帰納法の仮定をAAとNNに適用すると、DHD_HとDKD_KはAAの元によって共役である。KKをその元による共役部分群に置き換えることにより、

DH=DK=D(5)D_H=D_K=D \tag{5}

と仮定することができる。

A⊴GA\trianglelefteq Gなので、D=H∩AD=H\cap AはHHの正規部分群であり、D=K∩AD=K\cap AはKKの正規部分群である。(4) と補群の条件から

H/D≅G/A≅Cp,K/D≅G/A≅Cp.(6)H/D\cong G/A\cong C_p,\qquad K/D\cong G/A\cong C_p. \tag{6}

H≅G/NH\cong G/NとK≅G/NK\cong G/Nは可解群である。ここで、先に証明した§E7.30 定理 4.2をHHとKK、素数集合{p}\{p\}へ適用し、Hall{p}\{p\}部分群P≤HP\le HとP1≤KP_1\le Kを取る。§E7.30 系 5.1により、PPとP1P_1はそれぞれHHとKKの Sylowpp部分群である。

正整数aaを割る最大のppの冪をapa_pと書く。(6) から∣H∣p=p∣D∣p|H|_p=p|D|_pである。したがってPPはDDに含まれず、PD/DPD/DはH/DH/Dの非自明な部分群である。∣H/D∣=p|H/D|=pなのでPD/D=H/DPD/D=H/D、すなわち

H=DP(7)H=DP \tag{7}

である。(6) から∣K∣p=p∣D∣p|K|_p=p|D|_pでもある。したがってP1P_1はDDに含まれず、P1D/DP_1D/Dは位数ppの群K/DK/Dの非自明な部分群である。ゆえにP1D/D=K/DP_1D/D=K/D、すなわち

K=DP1(8)K=DP_1 \tag{8}

となる。

D⊴HD\trianglelefteq HとD⊴KD\trianglelefteq Kから

P,P1≤NG(D)P,P_1\le N_G(D)

である。ppは∣G/N∣|G/N|を割り、gcd⁡(∣N∣,[G:N])=1\gcd(|N|,[G:N])=1なのでp∤∣N∣p\nmid|N|である。∣G∣=∣N∣∣H∣=∣N∣∣K∣|G|=|N||H|=|N||K|から

∣G∣p=∣H∣p=∣P∣=∣K∣p=∣P1∣|G|_p=|H|_p=|P|=|K|_p=|P_1|

を得る。したがってPPとP1P_1はGGの Sylowpp部分群であり、NG(D)N_G(D)の Sylowpp部分群でもある。§E7.17 定理 2.1により、あるx∈NG(D)x\in N_G(D)が存在して

xP1x−1=PxP_1x^{-1}=P

となる。(5)、(7)、(8) とx∈NG(D)x\in N_G(D)から

xKx−1=x(DP1)x−1=DP=HxKx^{-1}=x(DP_1)x^{-1}=DP=H

を得る。したがって商が可解な場合にも、二つの補群はGGの元によって共役である。すべての場合を証明した。▨

存在定理と共役定理を一つにまとめる。

証明方針は次のとおりである。補群の存在には、直前に証明した存在定理を適用する。正規 Hall 部分群または商群が可解である場合には、共役定理を適用する。最後に、この二つの結論を一つの主張としてまとめる。

定理 4.2 (Schur–Zassenhaus の定理).GGを有限群、N⊴GN\trianglelefteq Gを正規 Hall 部分群とする。このとき、NNはGGに補群をもつ。さらに、NNまたはG/NG/Nの少なくとも一方が可解ならば、任意の二つの補群はGGの元によって共役である。

証明. 補群の存在は定理 3.1で証明した。可解性の仮定のもとでの共役は定理 4.1で証明した。▨

5 分裂拡大と半直積

系 5.1. 有限群の短完全列

1⟶N→ιE→πQ⟶11\longrightarrow N\xrightarrow{\iota}E\xrightarrow{\pi}Q\longrightarrow1

を考え、ι\iotaによってNNとι(N)\iota(N)を同一視する。gcd⁡(∣N∣,∣Q∣)=1\gcd(|N|,|Q|)=1ならば、この拡大は分裂する。したがって、ある作用

α ⁣:Q⟶Aut⁡(N)\alpha\colon Q\longrightarrow\operatorname{Aut}(N)

について、この短完全列は標準半直積拡大

1⟶N⟶N⋊αQ⟶Q⟶11\longrightarrow N\longrightarrow N\rtimes_\alpha Q\longrightarrow Q\longrightarrow1

と拡大として同型である。

証明. 短完全列からE/N≅QE/N\cong Qなので、[E:N]=∣Q∣[E:N]=|Q|である。定理 3.1により、NNはEEに補群HHをもつ。π∣H ⁣:H→Q\pi|_H\colon H\to Qは単射である。実際、その核はH∩N={eE}H\cap N=\{e_E\}である。またE=NHE=NHとπ(N)={eQ}\pi(N)=\{e_Q\}からπ(H)=Q\pi(H)=Qであり、π∣H\pi|_Hは全射でもある。したがって

s=(π∣H)−1 ⁣:Q⟶Es=(\pi|_H)^{-1}\colon Q\longrightarrow E

は群準同型であり、π∘s=id⁡Q\pi\circ s=\operatorname{id}_Qを満たす。ゆえに拡大は§E7.15 定義 1.4の意味で分裂する。

§E7.16 定理 4.1により、切断ssが定める共役作用

αq(n)=s(q)ns(q)−1\alpha_q(n)=s(q)ns(q)^{-1}

について、写像

Φ ⁣:N⋊αQ⟶E,Φ(n,q)=ns(q)\Phi\colon N\rtimes_\alpha Q\longrightarrow E,\qquad \Phi(n,q)=ns(q)

は、核NNと商QQ上の恒等写像と可換する拡大の同型である。▨

注意 5.2 (切断、補群、半直積の対応). 一般の短完全列

1⟶N⟶E→πQ⟶11\longrightarrow N\longrightarrow E\xrightarrow{\pi}Q\longrightarrow1

でNNをEEの部分群と同一視する。切断s ⁣:Q→Es\colon Q\to Eが存在すれば、H=s(Q)H=s(Q)と置くことにより補群が得られる。実際、π∘s=id⁡Q\pi\circ s=\operatorname{id}_Qからssは単射であり、H∩N={eE}H\cap N=\{e_E\}である。任意のe∈Ee\in Eに対して

es(π(e))−1∈Nes(\pi(e))^{-1}\in N

なのでE=NHE=NHとなる。逆に、補群HHが存在すれば、上の証明のとおりs=(π∣H)−1s=(\pi|_H)^{-1}が切断になる。したがって、切断の存在と補群の存在は同値である。

さらに§E7.16 定理 4.1により、切断または補群の存在は、短完全列がある作用α ⁣:Q→Aut⁡(N)\alpha\colon Q\to\operatorname{Aut}(N)による標準半直積拡大と拡大として同型であることとも同値である。

6 例と仮定の境界

例 6.1 (S3S_3の正規 Hall 部分群).N=A3⊴S3N=A_3\trianglelefteq S_3とする。∣N∣=3|N|=3、[S3:N]=2[S_3:N]=2は互いに素なので、NNは正規 Hall 部分群である。各互換が生成する位数22の部分群はNNの補群であり、三つの補群はS3S_3で互いに共役である。

共役による作用C2→Aut⁡(C3)C_2\to\operatorname{Aut}(C_3)は非自明であり、

S3≅C3⋊C2S_3\cong C_3\rtimes C_2

となる。この同型は、正規部分群A3A_3と商群S3/A3S_3/A_3を保つ拡大の同型として得られる。

位数の互いに素という仮定を外すと、補群が存在しない場合がある。

例 6.2 (互いに素でない場合).G=C4=⟨x⟩G=C_4=\langle x\rangleとし、N=⟨x2⟩N=\langle x^2\rangleと置く。このときN⊴GN\trianglelefteq G、∣N∣=[G:N]=2|N|=[G:N]=2であり、二つの数は互いに素でない。

NNの補群が存在するならば、その位数は22でなければならない。しかし、C4C_4の位数22の部分群はNNだけであり、N∩N=N≠{eG}N\cap N=N\ne\{e_G\}である。したがってNNはGGに補群をもたない。

7 演習

問題 7.1.

  1. 定理 3.1の特性部分群分岐で、K/CK/Cの逆像KKがG=NKG=NK、N∩K=CN\cap K=Cを満たすことを示せ。その後、CCのKKにおける補群がNNのGGにおける補群になることを証明せよ。
  2. characteristically simple な非アーベル核の場合にNG(P)<GN_G(P)<Gとなる理由を説明し、D=N∩NG(P)D=N\cap N_G(P)がNG(P)N_G(P)の正規 Hall 部分群であることを指数まで計算せよ。
  3. 定理 4.1の共通帰納で、HM/MHM/MとKM/MKM/MがN/MN/Mの補群であることを証明せよ。また、M<NM<Nの場合に帰納法を適用する群と、二つの可解性仮定がどの部分群または商群へ引き継がれるかを明示せよ。
  4. G/NG/Nが可解でNNが可解でない分岐について、D=H∩A=K∩AD=H\cap A=K\cap Aを得た後、H=DPH=DP、K=DP1K=DP_1と書くことができる理由を示せ。さらにP,P1P,P_1がNG(D)N_G(D)の Sylowpp部分群になることから補群の共役を導け。
解答 (演習の要点).

第1問では、商での積と交わりを逆像へ戻すとG=NKG=NKと(N∩K)/C=C/C(N\cap K)/C=C/Cを得る。K=CHK=CHとC≤NC\le NからG=NHG=NHであり、H≤KH\le KからN∩H≤N∩K=CN\cap H\le N\cap K=Cとなる。

第2問では、NG(P)=GN_G(P)=GならばPPはNNの唯一の Sylowpp部分群となって特性的である。 characteristically simple 性からP=NP=Nとなるが、非アーベル単純因子の直積はpp群でない。G=N NG(P)G=N\,N_G(P)と第二同型定理から

[NG(P):N∩NG(P)]=[G:N][N_G(P):N\cap N_G(P)]=[G:N]

を得る。

第3問ではHM∩N=MHM\cap N=Mを要素表示から示す。M<NM<NならばX=HM=KMX=HM=KMはGGの真部分群であり、H,KH,KはXXにおけるMMの補群である。NNが可解ならばMMが可解であり、G/NG/Nが可解ならばX/M≅H≅G/NX/M\cong H\cong G/Nが可解である。

第4問ではH/D≅K/D≅CpH/D\cong K/D\cong C_pと Sylow 部分群の位数からH=DPH=DP、K=DP1K=DP_1を得る。p∤∣N∣p\nmid|N|なのでP,P1P,P_1はGGの Sylowpp部分群でもあり、DDを正規化する。NG(D)N_G(D)内で両者を共役する元xxを取ればxKx−1=x(DP1)x−1=DP=HxKx^{-1}=x(DP_1)x^{-1}=DP=Hとなる。▨

参考文献

  1. Hans Kurzweil and Bernd Stellmacher, The Theory of Finite Groups, Springer, New York, 2004.正規 Hall 部分群の補群の存在と条件付き共役に関する帰納的証明を参考にした。
  2. Derek J. S. Robinson, A Course in the Theory of Groups, 2nd ed., Graduate Texts in Mathematics, Springer, 1996.Schur–Zassenhaus の定理と分裂拡大への適用を参考にした。

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