§E7.22冪零群

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冪零群は、中心を繰り返し取り出すことで有限段で全群に達する群である。同じ条件は、反対方向から交換子を繰り返し取る下中心列が有限段で自明になることによっても表すことができる。本稿では二つの条件を同じ添字で比較し、有限pp群が冪零であることと、有限冪零群が Sylow 部分群の直積へ分解することを証明する。

1 上中心列と下中心列

定義 1.1. 群GGの部分群A,B≤GA,B\leq Gに対し、

[A,B]=⟨[a,b]∣a∈A, b∈B⟩,[a,b]=aba−1b−1[A,B]=\langle[a,b]\mid a\in A,\ b\in B\rangle, \qquad [a,b]=aba^{-1}b^{-1}

と書く。[a,b][a,b]をa,ba,bの交換子 (commutator)、[A,B][A,B]をA,BA,Bの交換子部分群 (commutator subgroup of two subgroups) と呼ぶ。

定義 1.2. 群GGの上中心列 (upper central series) を

Z0(G)={eG},Zn+1(G)/Zn(G)=Z(G/Zn(G))Z_0(G)=\{e_G\}, \qquad Z_{n+1}(G)/Z_n(G)=Z\bigl(G/Z_n(G)\bigr)

によって定める。

補題 1.3. 任意の整数n≥0n\geq0に対して

Zn+1(G)={x∈G∣[x,g]∈Zn(G) for all g∈G}(1)Z_{n+1}(G) =\{x\in G\mid[x,g]\in Z_n(G)\text{ for all }g\in G\} \tag{1}

である。

証明. 商写像を

qn ⁣:G⟶G/Zn(G)q_n\colon G\longrightarrow G/Z_n(G)

とする。x∈Gx\in Gに対し、上中心列の定義から

x∈Zn+1(G)⟺qn(x)∈Z(G/Zn(G))⟺[qn(x),qn(g)]=eG/Zn(G)がすべての g∈G について成り立つ⟺qn([x,g])=eG/Zn(G)がすべての g∈G について成り立つ⟺[x,g]∈Zn(G)がすべての g∈G について成り立つ.\begin{aligned} x\in Z_{n+1}(G) &\Longleftrightarrow q_n(x)\in Z\bigl(G/Z_n(G)\bigr)\\ &\Longleftrightarrow [q_n(x),q_n(g)]=e_{G/Z_n(G)} \quad\text{がすべての }g\in G\text{ について成り立つ}\\ &\Longleftrightarrow q_n([x,g])=e_{G/Z_n(G)} \quad\text{がすべての }g\in G\text{ について成り立つ}\\ &\Longleftrightarrow [x,g]\in Z_n(G) \quad\text{がすべての }g\in G\text{ について成り立つ}. \end{aligned}

したがって、上中心列の商による定義と式 (1) は同値である。

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各Zn(G)Z_n(G)はGGの特性部分群であり、

{eG}=Z0(G)≤Z1(G)≤Z2(G)≤⋯\{e_G\}=Z_0(G)\leq Z_1(G)\leq Z_2(G)\leq\cdots

となる。実際、中心は特性部分群であり、商群の中心の逆像を取る操作も自己同型で保たれる。

定義 1.4. 群GGの下中心列 (lower central series) を

γ1(G)=G,γn+1(G)=[G,γn(G)]\gamma_1(G)=G, \qquad \gamma_{n+1}(G)=[G,\gamma_n(G)]

によって定める。

各γn(G)\gamma_n(G)はGGの特性部分群である。また、

G=γ1(G)≥γ2(G)≥γ3(G)≥⋯G=\gamma_1(G)\geq\gamma_2(G)\geq\gamma_3(G)\geq\cdots

となる。実際、γn(G)⊴G\gamma_n(G)\trianglelefteq Gならば、g∈Gg\in G、x∈γn(G)x\in\gamma_n(G)に対して

[g,x]=(gxg−1)x−1∈γn(G)[g,x]=(gxg^{-1})x^{-1}\in\gamma_n(G)

なのでγn+1(G)≤γn(G)\gamma_{n+1}(G)\leq\gamma_n(G)である。特性部分群性も交換子を取る操作が自己同型で保たれることから帰納的に従う。

定義 1.5. ある整数c≥0c\geq0に対して

Zc(G)=GZ_c(G)=G

となるとき、GGを冪零群 (nilpotent group) という。そのような最小のccをGGの冪零度 (nilpotency class) という。自明群の冪零度は00である。

2 中心列による二つの定義の比較

定義 2.1. 群GGの部分群の列

{eG}=C0≤C1≤⋯≤Cc=G\{e_G\}=C_0\leq C_1\leq\cdots\leq C_c=G

で、各Ci⊴GC_i\trianglelefteq Gかつ

[G,Ci]≤Ci−1(1≤i≤c)[G,C_i]\leq C_{i-1} \qquad(1\leq i\leq c)

を満たすものを、長さccの中心列 (central series) という。隣り合う項が等しいことを許す。

補題 2.2. 長さccの中心列(Ci)0≤i≤c(C_i)_{0\leq i\leq c}に対して

Ci≤Zi(G)(0≤i≤c)C_i\leq Z_i(G) \qquad(0\leq i\leq c)

が成り立つ。

証明.iiに関する帰納法を用いる。C0=Z0(G)={eG}C_0=Z_0(G)=\{e_G\}である。Ci≤Zi(G)C_i\leq Z_i(G)と仮定する。中心列の条件から

[G,Ci+1]≤Ci≤Zi(G)[G,C_{i+1}]\leq C_i\leq Z_i(G)

である。交換子の逆元を取れば[Ci+1,G]≤Zi(G)[C_{i+1},G]\leq Z_i(G)でもある。(1) により

Ci+1≤Zi+1(G)C_{i+1}\leq Z_{i+1}(G)

となる。

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最初に、Zc(G)=GZ_c(G)=Gを仮定して上中心列そのものを長さccの中心列として構成する。次に、任意の中心列(Ci)(C_i)に対して包含γj(G)≤Cc−j+1\gamma_j(G)\leq C_{c-j+1}を帰納的に示し、γc+1(G)={eG}\gamma_{c+1}(G)=\{e_G\}を得る。逆向きには、下中心列を逆順に並べたCi=γc−i+1(G)C_i=\gamma_{c-i+1}(G)を構成し、交換子条件を確認して中心列とする。最後に上中心列の最大性を適用してG=Cc≤Zc(G)G=C_c\leq Z_c(G)へ帰着する。

定理 2.3. 群GGと整数c≥0c\geq0について、次の三条件は同値である。

  1. Zc(G)=GZ_c(G)=Gである。
  2. GGは長さccの中心列をもつ。
  3. γc+1(G)={eG}\gamma_{c+1}(G)=\{e_G\}である。

したがって、GGが冪零群であることと、下中心列が有限段で自明部分群に達することは同値である。さらに、非自明な冪零群では、冪零度はγc+1(G)={eG}\gamma_{c+1}(G)=\{e_G\}を満たす最小のccに等しい。

証明.(1)⇒\Rightarrow(2)を示す。(1)を仮定する。上中心列は定義によって

[G,Zi(G)]≤Zi−1(G)[G,Z_i(G)]\leq Z_{i-1}(G)

を満たす。したがって

{eG}=Z0(G)≤⋯≤Zc(G)=G\{e_G\}=Z_0(G)\leq\cdots\leq Z_c(G)=G

は長さccの中心列であり、(2)を得る。

(2)⇒\Rightarrow(3)を示す。(2)を仮定し、中心列を(Ci)(C_i)とする。γj(G)≤Cc−j+1\gamma_j(G)\leq C_{c-j+1}をjjに関して示す。j=1j=1ではγ1(G)=G=Cc\gamma_1(G)=G=C_cである。包含がjjで成り立つならば

γj+1(G)=[G,γj(G)]≤[G,Cc−j+1]≤Cc−j\gamma_{j+1}(G) =[G,\gamma_j(G)] \leq[G,C_{c-j+1}] \leq C_{c-j}

となる。j=c+1j=c+1では

γc+1(G)≤C0={eG}\gamma_{c+1}(G)\leq C_0=\{e_G\}

を得る。したがって(3)が成り立つ。

(3)⇒\Rightarrow(1)を示す。(3)を仮定する。0≤i≤c0\leq i\leq cに対して

Ci=γc−i+1(G)C_i=\gamma_{c-i+1}(G)

とおく。下中心列は降下列なので

{eG}=C0≤C1≤⋯≤Cc=G\{e_G\}=C_0\leq C_1\leq\cdots\leq C_c=G

となる。また、

[G,Ci]=[G,γc−i+1(G)]=γc−i+2(G)=Ci−1.[G,C_i] =[G,\gamma_{c-i+1}(G)] =\gamma_{c-i+2}(G) =C_{i-1}.

各γj(G)\gamma_j(G)はGGの正規部分群なので、(Ci)(C_i)は長さccの中心列である。補題 2.2によりG=Cc≤Zc(G)G=C_c\leq Z_c(G)であり、(1)を得る。

三条件が同じ整数ccについて同値なので、最小のccも一致する。

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命題 2.4. 冪零群の任意の部分群と任意の商群は冪零群である。

証明.GGの中心列を

{eG}=C0≤⋯≤Cc=G\{e_G\}=C_0\leq\cdots\leq C_c=G

とする。H≤GH\leq Gに対して

{eG}=H∩C0≤⋯≤H∩Cc=H\{e_G\}=H\cap C_0\leq\cdots\leq H\cap C_c=H

とおく。各H∩CiH\cap C_iはHHで正規であり、

[H,H∩Ci]≤H∩[G,Ci]≤H∩Ci−1[H,H\cap C_i] \leq H\cap[G,C_i] \leq H\cap C_{i-1}

なので、以上の列はHHの中心列である。

N⊴GN\trianglelefteq Gに対して、商写像による像を取ると

{N}=C0N/N≤⋯≤CcN/N=G/N\{N\}=C_0N/N\leq\cdots\leq C_cN/N=G/N

となる。また、

[G/N,CiN/N]≤Ci−1N/N[G/N,C_iN/N] \leq C_{i-1}N/N

なので、以上の商群の列はG/NG/Nの中心列である。

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3 有限 p 群

定理 3.1. 素数ppに対して、任意の有限pp群は冪零群である。

証明.∣G∣|G|に関する帰納法を用いる。G={eG}G=\{e_G\}ならばZ0(G)=GZ_0(G)=Gなので、GGは冪零群である。G≠{eG}G\neq\{e_G\}とする。§E7.12 定理 5.2により

Z=Z(G)≠{eG}Z=Z(G)\neq\{e_G\}

である。Z=GZ=GならばGGはアーベル群なのでZ1(G)=GZ_1(G)=Gであり、冪零群である。

Z≠GZ\neq Gとする。商群G/ZG/ZはGGより位数の小さい有限pp群なので、帰納法によって中心列

{Z}=C‾0≤C‾1≤⋯≤C‾c=G/Z\{Z\}=\overline C_0\leq\overline C_1\leq\cdots\leq\overline C_c=G/Z

をもつ。商写像π ⁣:G→G/Z\pi\colon G\to G/Zに対し、

D0={eG},D1=Z,Di+1=π−1(C‾i)(1≤i≤c)D_0=\{e_G\}, \qquad D_1=Z, \qquad D_{i+1}=\pi^{-1}(\overline C_i)\quad(1\leq i\leq c)

とおく。このとき

{eG}=D0≤D1≤⋯≤Dc+1=G.\{e_G\}=D_0\leq D_1\leq\cdots\leq D_{c+1}=G.

[G,D1]=[G,Z]={eG}[G,D_1]=[G,Z]=\{e_G\}であり、1≤i≤c1\leq i\leq cについて

π([G,Di+1])≤[G/Z,C‾i]≤C‾i−1\pi([G,D_{i+1}]) \leq[G/Z,\overline C_i] \leq\overline C_{i-1}

なので[G,Di+1]≤Di[G,D_{i+1}]\leq D_iである。したがって(Di)(D_i)はGGの中心列であり、GGは冪零群である。

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4 有限冪零群の Sylow 分解

定理 4.1. 有限群GGの位数を

∣G∣=∏i=1rpiai|G|=\prod_{i=1}^r p_i^{a_i}

と素因数分解し、各iiについて Sylowpip_i部分群PiP_iを取る。次の三条件は同値である。

  1. GGは冪零群である。

  2. すべての Sylow 部分群がGGの正規部分群である。

  3. 各PiP_iはGGの正規部分群であり、積写像

    P1×⋯×Pr⟶G,(x1,…,xr)⟼x1⋯xrP_1\times\cdots\times P_r\longrightarrow G, \qquad (x_1,\ldots,x_r)\longmapsto x_1\cdots x_r

    は同型である。

特に、有限群が冪零であることと、その Sylow 部分群すべての内部直積であることは同値である。

証明.(1)⇒\Rightarrow(2)を導く。∣G∣|G|に関する帰納法を用いる。G={eG}G=\{e_G\}は Sylow 部分群として自明部分群だけをもち、その部分群は正規である。非自明な冪零群ではZ(G)≠{eG}Z(G)\neq\{e_G\}である。実際、Z1(G)=Z(G)Z_1(G)=Z(G)が自明ならば上中心列の定義によってすべてのZi(G)Z_i(G)が自明となり、有限段でGGに達することができない。

Z=Z(G)Z=Z(G)とおく。Z=GZ=GならばGGはアーベル群なので、すべての部分群が正規である。Z≠GZ\neq Gとする。命題 2.4によりG/ZG/Zは冪零群であり、∣G/Z∣<∣G∣|G/Z|<|G|である。

PPをGGの Sylowpp部分群とする。RRをZZの Sylowpp部分群とする。ZZはアーベル群なので、§E7.17 定理 2.1と共役作用の自明性からRRはZZの唯一の Sylowpp部分群である。また、ZZは中心に含まれるのでPRPRはpp部分群である。PPの極大性からR≤PR\leq Pである。一方、P∩ZP\cap ZはZZのpp部分群なのでP∩Z≤RP\cap Z\leq Rである。ゆえに

P∩Z=R.P\cap Z=R.

したがって

∣PZ/Z∣=∣P∣/∣R∣|PZ/Z|=|P|/|R|

は∣G/Z∣|G/Z|を割るppの最大冪であり、PZ/ZPZ/ZはG/ZG/Zの Sylowpp部分群である。帰納法によってPZ/Z⊴G/ZPZ/Z\trianglelefteq G/Zなので、その逆像PZPZはGGの正規部分群である。

ZZは中心に含まれるため、P⊴PZP\trianglelefteq PZである。§E7.17 注意 2.3によりPPはPZPZの唯一の Sylowpp部分群である。任意のg∈Gg\in Gに対して、PZ⊴GPZ\trianglelefteq GからgPg−1gPg^{-1}はPZPZの Sylowpp部分群である。唯一性によりgPg−1=PgPg^{-1}=Pとなる。ゆえにP⊴GP\trianglelefteq Gであり、(2)を得る。

(2)⇒\Rightarrow(3)を導く。i≠ji\neq jとし、x∈Pix\in P_i、y∈Pjy\in P_jとする。PiP_iとPjP_jはともに正規なので

[x,y]∈Pi∩Pj.[x,y]\in P_i\cap P_j.

交わりの位数はpip_iの冪とpjp_jの冪の両方を割るため、Pi∩Pj={eG}P_i\cap P_j=\{e_G\}である。したがって[x,y]=eG[x,y]=e_Gであり、異なる Sylow 部分群の元は互いに可換する。

よって積写像は準同型である。異なる Sylow 部分群が可換し、位数が互いに素であることから、部分積に一因子ずつ加えて

∣HK∣=∣H∣∣K∣∣H∩K∣|HK|=\frac{|H||K|}{|H\cap K|}

を適用する帰納法により、任意の固定したiiに対して、部分群

Ri=∏j≠iPjR_i=\prod_{j\neq i}P_j

の位数は∏j≠i∣Pj∣\prod_{j\neq i}|P_j|である。特に∣Ri∣|R_i|はpip_iと互いに素であり、Pi∩Ri={eG}P_i\cap R_i=\{e_G\}である。x1⋯xr=eGx_1\cdots x_r=e_Gならば、各iiについて

xi=(x1⋯xi−1xi+1⋯xr)−1x_i=(x_1\cdots x_{i-1}x_{i+1}\cdots x_r)^{-1}

はPi∩RiP_i\cap R_iに属する。したがってすべてのxix_iが単位元であり、積写像は単射である。定義域の位数は

∏i=1r∣Pi∣=∏i=1rpiai=∣G∣\prod_{i=1}^r|P_i| =\prod_{i=1}^r p_i^{a_i} =|G|

なので、積写像は全射でもある。

(3)⇒\Rightarrow(1)を導く。GGが自明群ならばZ0(G)=GZ_0(G)=Gなので冪零群である。GGが非自明ならばr≥1r\geq1である。定理 3.1により、各PiP_iは冪零群である。PiP_iの冪零度をcic_iとし、c=max⁡icic=\max_i c_iとおく。k≥cik\geq c_iではZk(Pi)=PiZ_k(P_i)=P_iと約束し、外部直積上で

Dk=∏i=1rZk(Pi)(0≤k≤c)D_k=\prod_{i=1}^r Z_k(P_i) \qquad(0\leq k\leq c)

とおく。交換子は各座標で計算されるので

[∏iPi,Dk]≤∏iZk−1(Pi)=Dk−1.\left[\prod_iP_i,D_k\right] \leq\prod_i Z_{k-1}(P_i) =D_{k-1}.

したがって(Dk)(D_k)はP1×⋯×PrP_1\times\cdots\times P_rの中心列であり、この直積は冪零群である。(3)の同型によってGGも冪零群である。

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5 冪零群の例と非例

例 5.1 (整数 Heisenberg 群). 整数 Heisenberg 群を

H(Z)={u(a,b,c)=(1ac01b001)|a,b,c∈Z}≤GL⁡3(Z) H(\mathbb Z) = \left\{ u(a,b,c)= \begin{pmatrix} 1&a&c\\ 0&1&b\\ 0&0&1 \end{pmatrix} \mathrel{}\middle|\mathrel{} a,b,c\in\mathbb Z \right\} \leq\operatorname{GL}_3(\mathbb Z)

とする。行列積から

u(a,b,c)u(a′,b′,c′)=u(a+a′,b+b′,c+c′+ab′)(2) u(a,b,c)u(a',b',c') =u(a+a',b+b',c+c'+ab') \tag{2}

であり、

u(a,b,c)−1=u(−a,−b,−c+ab) u(a,b,c)^{-1}=u(-a,-b,-c+ab)

となる。したがってH(Z)H(\mathbb Z)は上三角ユニポテント整数行列からなる無限群である。

式 (2) を用いて交換子を計算すると、

[u(a,b,c),u(a′,b′,c′)]=u(0,0,ab′−a′b)(3) [u(a,b,c),u(a',b',c')] =u(0,0,ab'-a'b) \tag{3}

を得る。u(a,b,c)u(a,b,c)がu(1,0,0)u(1,0,0)と可換するならば、式 (3) からb=0b=0である。さらにu(0,1,0)u(0,1,0)と可換するならばa=0a=0である。逆にu(0,0,c)u(0,0,c)は式 (2) からすべての元と可換する。よって

Z(H(Z))={u(0,0,c)∣c∈Z}.(4) Z\bigl(H(\mathbb Z)\bigr) =\{u(0,0,c)\mid c\in\mathbb Z\}. \tag{4}

式 (3) にa=ta=t、b=0b=0、a′=0a'=0、b′=1b'=1を代入すると

[u(t,0,0),u(0,1,0)]=u(0,0,t) [u(t,0,0),u(0,1,0)]=u(0,0,t)

である。したがって

[H(Z),H(Z)]=Z(H(Z)). [H(\mathbb Z),H(\mathbb Z)] =Z\bigl(H(\mathbb Z)\bigr).

この部分群は非自明であり、中心に含まれるため、

γ2(H(Z))=Z(H(Z)),γ3(H(Z))={I3}. \gamma_2\bigl(H(\mathbb Z)\bigr)=Z\bigl(H(\mathbb Z)\bigr), \qquad \gamma_3\bigl(H(\mathbb Z)\bigr)=\{I_3\}.

よってH(Z)H(\mathbb Z)の冪零度は正確に22である。

例 5.2 (四元数群). 四元数群

Q8={±1,±i,±j,±k}Q_8=\{\pm1,\pm i,\pm j,\pm k\}

は位数232^3の群なので、定理 3.1によって冪零群である。さらに

Z(Q8)={±1},Q8/Z(Q8)≅C2×C2Z(Q_8)=\{\pm1\}, \qquad Q_8/Z(Q_8)\cong C_2\times C_2

である。したがって

{1}<Z(Q8)<Q8\{1\}<Z(Q_8)<Q_8

は長さ22の中心列である。Q8Q_8は非アーベル群なので冪零度は11ではなく、正確に22である。

§E7.15 注意 5.1で外部結果として掲げた単位四元数の表示ではQ8≤SU⁡(2)Q_8\leq\operatorname{SU}(2)である。二重被覆ρ ⁣:SU⁡(2)→SO⁡(3)\rho\colon\operatorname{SU}(2)\to\operatorname{SO}(3)をQ8Q_8に制限すると、その核は{±1}\{\pm1\}である。したがって

ρ(Q8)≅Q8/{±1}≅V4,V4≤SO⁡(3). \rho(Q_8)\cong Q_8/\{\pm1\}\cong V_4, \qquad V_4\leq\operatorname{SO}(3).

三つの非自明な像は、それぞれ座標軸の周りの角π\piの回転である。この段落は外部結果に依存する周辺例であり、以下の例または演習の根拠には用いない。

例 5.3 (可解だが冪零でない群).S3▹A3▹{e}S_3\triangleright A_3\triangleright\{e\}はアーベル因子をもつ正規列なので、§E7.21 定理 2.2によりS3S_3は可解である。しかしS3S_3には位数22の Sylow 部分群が三つあり、いずれも正規ではない。定理 4.1によりS3S_3は冪零群ではない。

6 演習

問題 6.1.

  1. 非自明なアーベル群の冪零度が11であることを示せ。
  2. 冪零度がそれぞれccとddである二群G,HG,Hについて、G×HG\times Hの冪零度がmax⁡{c,d}\max\{c,d\}であることを示せ。
  3. p<qp<qを素数とする。位数pqpqの群が冪零であることと、その群が巡回群CpqC_{pq}に同型であることが同値であることを示せ。
解答.
  1. アーベル群ではZ(G)=GZ(G)=GなのでZ1(G)=GZ_1(G)=Gである。非自明性からZ0(G)≠GZ_0(G)\neq Gであり、冪零度は11である。

  2. 上中心列について

    Zk(G×H)=Zk(G)×Zk(H)Z_k(G\times H)=Z_k(G)\times Z_k(H)

    がkkに関する帰納法で成り立つ。したがって全群へ達する最小の段数はmax⁡{c,d}\max\{c,d\}である。

  3. 冪零ならば二つの Sylow 部分群がともに正規であり、定理 4.1によって

    G≅Cp×Cq≅Cpq.G\cong C_p\times C_q\cong C_{pq}.

    逆にCpqC_{pq}はアーベル群なので冪零群である。

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参考文献

  1. David S. Dummit and Richard M. Foote, Abstract Algebra, 3rd ed., Wiley, 2004.上中心列、下中心列、有限 p 群、および有限冪零群の Sylow 分解を参考にした。
  2. Joseph J. Rotman, An Introduction to the Theory of Groups, 4th ed., Graduate Texts in Mathematics 148, Springer, 1995.中心列による冪零性の特徴づけと有限冪零群の標準的な証明を参考にした。

前提記事