1 有限集合上の置換
定義 1.1.Xを有限集合とする。XからXへの全単射をXの置換 (permutation) という。置換全体の集合をSym(X)と書き、写像の合成を積とする。
X={1,…,n}のとき、Sym(X)をSnと書き、n次対称群 (symmetric group of degree n) という。
命題 1.2. 有限集合Xに対して、Sym(X)は写像の合成に関して群である。さらに、∣X∣=nならば
∣Sym(X)∣=n!である。
証明. 二つの全単射の合成は全単射であるため、積はSym(X)上で閉じている。写像の合成は結合的であり、恒等写像idXは単位元である。全単射σの逆写像σ−1も全単射であり、
σσ−1=σ−1σ=idXを満たす。したがってSym(X)は群である。
n=0のとき、空集合から空集合への写像は一つだけであり、0!=1と一致する。n≥1のとき、Xの元を一つの順序で並べる。第1の元の像にはn通り、第2の元の像には残るn−1通りがある。同じ選択を続けると、全単射の個数はn(n−1)⋯1=n!である。▨
対称群の積は一般に可換ではない。
例 1.3 (S3の非可換性).α=(12)、β=(23)とする。積を右側から作用させると
(αβ)(1)=2,(βα)(1)=3である。したがってαβ=βαであり、S3は非可換群である。
2 巡回置換と台
定義 2.1.Xの相異なる元a1,…,arに対して、r≥2とする。
a1↦a2↦⋯↦ar↦a1と移し、a1,…,ar以外の元を固定する置換を
(a1a2⋯ar)と書き、長さrの巡回置換 (cycle) という。
置換σ∈Sym(X)の台 (support of a permutation) を
supp(σ)={x∈X∣σ(x)=x}によって定める。二つの置換の台が交わらないとき、その二つの置換は互いに素 (disjoint permutations) であるという。
巡回表示の開始点は置換を変えない。例えば
(a1a2⋯ar)=(a2⋯ara1)
である。一方、巡回する向きを逆にすれば逆置換になる。
命題 2.2. 有限集合X上の互いに素な置換α,βに対して
αβ=βαが成り立つ。
証明.x∈Xを任意に取る。x∈/supp(α)∪supp(β)ならば、二つの積はいずれもxを固定する。
x∈supp(α)とする。台が交わらないためβ(x)=xである。また、αは自身の台を自身へ移すのでα(x)∈supp(α)であり、β(α(x))=α(x)である。したがって
(αβ)(x)=α(x)=(βα)(x)となる。x∈supp(β)の場合もαとβを交換した同じ計算で等式を得る。すべてのx∈Xで値が一致するため、αβ=βαである。▨
3 互いに素な巡回置換への分解
3.1 証明方針
置換σの反復によって有限集合Xを軌道へ分ける。各非自明な軌道ではσ自身が一つの巡回置換として作用するため、存在が得られる。一意性については、互いに素な巡回因子のうち、動かされる元xを含む因子の台がxの軌道に一致することを示す。
定理 3.1 (互いに素な巡回置換への分解). 有限集合Xの任意の置換σは、互いに素な長さ2以上の巡回置換の積として表される。恒等置換は空積によって表す。
この分解は、巡回因子を並べる順序と、各巡回表示における開始点の巡回移動を除いて一意である。
証明.x,y∈Xに対して、ある整数kが存在してy=σk(x)となるときx∼yと定める。x=σ0(x)であるから反射律が成り立つ。y=σk(x)ならばx=σ−k(y)であるから対称律が成り立つ。y=σk(x)かつz=σℓ(y)ならばz=σk+ℓ(x)であるから推移律が成り立つ。したがって∼は同値関係であり、Xをσの軌道へ分割する。
軌道Oを一つ取り、a∈Oとする。Xは有限であるから、a,σ(a),σ2(a),…の中には同じ元が二度現れる。全単射σの逆写像を用いると、ある正の整数rが存在してσr(a)=aとなる。そのようなrの最小値を取れば
a,σ(a),…,σr−1(a)は相異なり、軌道Oのすべての元を尽くす。r≥2の軌道に対して
cO=(aσ(a)…σr−1(a))と定める。この巡回表示はaの選び方を変えても開始点が巡回移動するだけである。
相異なる軌道から得られる巡回置換の台は交わらない。非自明な軌道に対応するcOをすべて掛けると、各非自明な軌道上ではσと同じ値を取り、一元だけの軌道上ではσと積の双方がその元を固定する。したがって、その積はσに等しい。互いに素な置換は命題 2.2によって可換であるため、因子の順序は積を変えない。
一意性を示す。σ=c1⋯ctが互いに素な長さ2以上の巡回置換の積であるとする。x∈supp(σ)を取ると、xはただ一つの因子ciの台に属する。他の因子はciの台を各点ごとに固定するため、任意の整数kに対して
σk(x)=cik(x)が成り立つ。したがってciの台はxのσ軌道に一致し、その軌道上でciはσと同じ作用をする。よってciは
(xσ(x)…σr−1(x))に限られる。各因子は非自明な軌道と一対一に対応するため、別の分解との違いは因子の順序と各巡回表示の開始点だけである。▨
例 3.2 (巡回分解の計算).σ∈S7が
1↦3↦2↦1,4↦7↦4と作用し、5,6を固定するとする。このとき
σ=(132)(47)である。二つの因子は互いに素であるため、順序を交換しても同じ置換を表す。固定点5,6は分解に書かない。
4 互換分解
定義 4.1. 長さ2の巡回置換(ab)を互換 (transposition) という。
定理 4.2. 有限集合上の任意の置換は、有限個の互換の積として表すことができる。
証明. 長さr≥2の巡回置換について
(a1a2⋯ar)=(a1ar)(a1ar−1)⋯(a1a2)(1)が成り立つ。実際、右辺はa1をa2へ移し、2≤j<rに対してajをaj+1へ移し、arをa1へ移す。a1,…,ar以外の元はすべての因子によって固定されるため、右辺は左辺と一致する。
定理 3.1によって任意の置換は有限個の巡回置換の積であり、各巡回因子へ (1) を適用すれば互換の積を得る。恒等置換は互換を一つも含まない空積で表される。▨
互いに素でない巡回置換については、因子の順序を自由に交換することはできない。
例 4.3 (台が交わる互換の非可換性).S3の互換(12)と(23)の台は元2を共有する。
((12)(23))(1)=2,((23)(12))(1)=3であるから、二つの互換は可換ではない。互いに素であるという仮定を命題 2.2から除くことはできない。
5 演習
問題 5.1.
- (1432)−1を一つの巡回置換として表せ。
- σ=(135)(24)とτ=(12)に対して、στとτσの巡回分解を求めよ。
- 互いに素な巡回分解で固定点を長さ1の巡回置換として自由に挿入すると、一意性の声明をどのように変更する必要があるか説明せよ。
解答 (演習の要点).
第1問は(1234)である。第2問は右側から作用させて各元の軌道を追跡する。第3問では、長さ1の因子の挿入と削除も一意性から除外する必要がある。本記事では固定点を分解に書かないことによって、その曖昧さを除いた。▨