§E7.9自由群・自由積と群の表示

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自由群は、指定した生成元の間に群公理から強制される関係以外を課さない群である。自由積は、二つの群の内部の関係だけを保ち、二群の間には新しい関係を課さない。群の表示は、自由群に明示した関係式を加えることによって群を構成する。本記事では、いずれの構成についても語の正規形から群構造を作り、普遍的性質によって構成を特徴づける。

1 簡約語と自由群

定義 1.1. 集合XXに対して、各x∈Xx\in Xの形式的な逆元 (formal inverse) をx−1x^{-1}と書き、

X±1={x,x−1∣x∈X}X^{\pm1}=\{x,x^{-1}\mid x\in X\}

とおく。文字の逆 (inverse of a letter) を(x−1)−1=x(x^{-1})^{-1}=xと定める。X±1X^{\pm1}の有限列を 語 (word) といい、長さ00の語を空語 (empty word) と呼ぶ。

定義 1.2. 語の中で隣り合うyy−1yy^{-1}を削除する操作を一段階の自由簡約 (free reduction) と呼ぶ。ここでyyはX±1X^{\pm1}の任意の文字である。隣り合う逆文字の組を含まない語を 簡約語 (reduced word) という。

一つの語に複数の削除箇所がある場合、削除の順序が異なっても最後に得られる簡約語は同じである。

証明では、一段階簡約が語の長さを減らすことから停止性を得る。次に、異なる二箇所を簡約した結果が再び共通の語へ簡約されることを、箇所が交わる場合と交わらない場合に分けて確認する。語の長さに関する帰納法によって、停止後の簡約語が一意であることを示す。最後に、挿入と削除による同値性を簡約形の一致へ帰着させる。

補題 1.3. 任意の語wwから自由簡約を有限回行うと簡約語が得られる。その簡約語は削除の順序に依存せず、一意である。この一意な簡約語をred⁡(w)\operatorname{red}(w)と書く。

さらに、隣り合うyy−1yy^{-1}の挿入と削除によって二つの語を移り合わせることができるための必要十分条件は、両者の簡約形が一致することである。

証明. 一段階の自由簡約は語の長さを22減らす。したがって無限に簡約を続けることはできず、有限回の簡約によって簡約語へ到達する。

二つの異なる箇所を一段階で削除する場合を調べる。二つの箇所が交わらなければ、一方を削除した後に他方を削除することができ、どちらの順序でも同じ語を得る。二つの箇所が一文字を共有するならば、該当部分は

yy−1yまたはy−1yy−1yy^{-1}y\qquad\text{または}\qquad y^{-1}yy^{-1}

である。いずれの組を削除しても同じ一文字が残る。したがって、一つの語から異なる一段階簡約で得た二語は、さらに高々一段階ずつ簡約することによって共通の語へ到達する。

簡約形の一意性を語の長さに関する帰納法で証明する。長さ00と11の語には削除することができる隣接対がないため、その語自身が唯一の簡約形である。語wwが二つの簡約語u,vu,vへ簡約されるとする。wwが既に簡約語ならばu=v=wu=v=wである。そうでなければ、それぞれの簡約列の最初の一段階をw→w1w\to w_1、w→w2w\to w_2とする。w1=w2w_1=w_2ならば、長さの短いw1w_1に帰納法を適用してu=vu=vを得る。w1≠w2w_1\neq w_2ならば、前段落からw1w_1とw2w_2は共通の語zzへ簡約される。zzを最後まで簡約して簡約語ttを取る。uuとttはともにw1w_1の簡約形であり、w1w_1の長さはwwより短いため、帰納法からu=tu=tである。同様にv=tv=tである。したがってu=vu=vとなる。

一段階の挿入または削除では簡約形が変わらないため、挿入と削除で移り合う二語の簡約形は一致する。逆に、二語w,w′w,w'が同じ簡約形をもつならば、wwとw′w'はいずれもその簡約形へ削除だけで移ることができる。一方の簡約列を逆向きにたどると挿入列になるため、wwからw′w'へ挿入と削除で移ることができる。▨

定義 1.4. 集合XX上の 自由群 (free group)F(X)F(X)を、X±1X^{\pm1}の簡約語全体の集合として定める。簡約語u,vu,vの積、単位元、および逆元を

u⋅v=red⁡(uv),e=∅,(y1y2⋯ym)−1=ym−1⋯y2−1y1−1(1)u\cdot v=\operatorname{red}(uv),\qquad e=\varnothing,\qquad (y_1y_2\cdots y_m)^{-1}=y_m^{-1}\cdots y_2^{-1}y_1^{-1} \tag{1}

によって定める。ここでuvuvは二語の連結であり、∅\varnothingは空語である。

証明では、挿入と削除による語の同値関係から、連結の途中で簡約しても最終簡約形が変わらないことを示す。この性質を二度用いて、三語の積の両括弧が同じ簡約形へ帰着することを確認する。空語と逆順の逆文字列によって単位元と逆元を構成する。最後に、一文字の正規形と任意の簡約語の形から、標準写像の単射性と生成性を得る。

定理 1.5. 式 (1) によりF(X)F(X)は群になる。写像

ιX ⁣:X⟶F(X),x⟼x\iota_X\colon X\longrightarrow F(X),\qquad x\longmapsto x

は単射であり、その像はF(X)F(X)を生成する。

証明. 語の挿入と削除による同値関係を∼\simと書く。挿入または削除を語の前後に同じ語を付けた状態でも行うことができるため、

w∼w′⟹awb∼aw′b(2)w\sim w'\quad\Longrightarrow\quad awb\sim aw'b \tag{2}

が成り立つ。式 (2) と補題 1.3により、

red⁡(ared⁡(w)b)=red⁡(awb)(3)\operatorname{red}\bigl(a\operatorname{red}(w)b\bigr) =\operatorname{red}(awb) \tag{3}

が成り立つ。

簡約語u,v,wu,v,wに対して (3) を二度用いると

(u⋅v)⋅w=red⁡(red⁡(uv)w)=red⁡(uvw),u⋅(v⋅w)=red⁡(ured⁡(vw))=red⁡(uvw)\begin{aligned} (u\cdot v)\cdot w &=\operatorname{red}\bigl(\operatorname{red}(uv)w\bigr) =\operatorname{red}(uvw),\\ u\cdot(v\cdot w) &=\operatorname{red}\bigl(u\operatorname{red}(vw)\bigr) =\operatorname{red}(uvw) \end{aligned}

となる。したがって結合律が成り立つ。空語との連結は語を変えないため、空語は単位元である。u=y1⋯ymu=y_1\cdots y_mとすると、連結語

uu−1=y1⋯ymym−1⋯y1−1uu^{-1}=y_1\cdots y_my_m^{-1}\cdots y_1^{-1}

は中央から順に削除して空語へ簡約される。同様にu−1uu^{-1}uも空語へ簡約される。したがって式 (1) のu−1u^{-1}は群の逆元である。

異なるx,x′∈Xx,x'\in Xは異なる一文字の簡約語であるから、ιX\iota_Xは単射である。任意の簡約語はιX(x)\iota_X(x)とその逆元の有限積であるため、ιX(X)\iota_X(X)はF(X)F(X)を生成する。▨

証明では、各語を写像ffの値とその逆元の積として評価することから始める。自由簡約で削除される隣接対の評価が単位元であることを用いて、評価が簡約語上で定まることを示す。連結語とその簡約形の評価を比較して準同型性を得る。最後に、標準生成元上の値が指定されると全簡約語上の値も決まることから一意性へ帰着させる。

定理 1.6. 任意の群GGと写像f ⁣:X→Gf\colon X\to Gに対して、

f^∘ιX=f\widehat f\circ\iota_X=f

を満たす群準同型f^ ⁣:F(X)→G\widehat f\colon F(X)\to Gがただ一つ存在する。具体的には、εi∈{1,−1}\varepsilon_i\in\{1,-1\}に対して

f^(x1ε1⋯xmεm)=f(x1)ε1⋯f(xm)εm(4)\widehat f(x_1^{\varepsilon_1}\cdots x_m^{\varepsilon_m}) =f(x_1)^{\varepsilon_1}\cdots f(x_m)^{\varepsilon_m} \tag{4}

である。

証明. 語に式 (4) の右辺を対応させる。隣り合うyy−1yy^{-1}の評価はeGe_Gであるため、一段階の挿入または削除は評価を変えない。したがって評価は簡約形だけで決まり、F(X)F(X)上の写像f^\widehat fを定める。

簡約語u,vu,vに対して、uvuvとred⁡(uv)\operatorname{red}(uv)の評価は等しいため

f^(u⋅v)=f^(red⁡(uv))=f^(u)f^(v)\widehat f(u\cdot v) =\widehat f(\operatorname{red}(uv)) =\widehat f(u)\widehat f(v)

である。ゆえにf^\widehat fは群準同型であり、一文字の語ではf^(x)=f(x)\widehat f(x)=f(x)となる。

別の群準同型Φ ⁣:F(X)→G\Phi\colon F(X)\to GがΦ∘ιX=f\Phi\circ\iota_X=fを満たすとする。任意の簡約語x1ε1⋯xmεmx_1^{\varepsilon_1}\cdots x_m^{\varepsilon_m}に対して

Φ(x1ε1⋯xmεm)=f(x1)ε1⋯f(xm)εm\Phi(x_1^{\varepsilon_1}\cdots x_m^{\varepsilon_m}) =f(x_1)^{\varepsilon_1}\cdots f(x_m)^{\varepsilon_m}

であるから、Φ=f^\Phi=\widehat fである。▨

例 1.7 (一元集合上の自由群).X={x}X=\{x\}とする。簡約語はxmx^m(m∈Zm\in\mathbb Z)の形に一意に表され、xmxk=xm+kx^m x^k=x^{m+k}である。したがってF({x})≅ZF(\{x\})\cong\mathbb Zである。

2 自由積

群A,BA,Bの単位元以外の元を、所属する群を区別して

A×=A∖{eA},B×=B∖{eB}A^\times=A\setminus\{e_A\},\qquad B^\times=B\setminus\{e_B\}

と書く。直和集合A×⊔B×A^\times\sqcup B^\timesの有限語を考える。

定義 2.1. 語g1⋯gmg_1\cdots g_mの各文字がA×⊔B×A^\times\sqcup B^\timesに属し、隣り合う二文字が異なる群に属するとき、この語を 交互簡約語 (alternating reduced word) という。空語も交互簡約語とする。

同じ群に属する隣接文字gi,gi+1g_i,g_{i+1}を、その群における積gigi+1g_ig_{i+1}へ置き換え、積が単位元ならば二文字を削除する操作を自由積の一段階簡約 (one-step reduction in a free product) と呼ぶ。

証明では、一段階簡約が語の長さを減らすことから停止性を得る。次に、異なる二箇所の簡約結果が共通の語へ進むことを、二つの因子群の結合律を用いて示す。この局所的な合流性と停止性を語の長さに関する帰納法へ組み込み、交互簡約形の一意性を得る。最後に、簡約とその逆操作による同値性を交互簡約形の一致へ帰着させる。

補題 2.2. 任意の語は自由積の簡約によって一意な交互簡約語へ移る。この正規形をalt⁡(w)\operatorname{alt}(w)と書く。

同じ因子に属する隣接文字をその積へ置き換える操作と、その逆操作によって二つの語を移り合わせることができるための必要十分条件は、両者の交互簡約形が一致することである。

証明. 一段階簡約は語の長さを少なくとも11減らすため、簡約は有限回で停止する。二つの一段階簡約が交わらない位置にあれば、二つの操作を逆の順序で行って共通の語へ到達することができる。二つの操作が一文字を共有するならば、該当する三文字x,y,zx,y,zはすべてAAに属するか、すべてBBに属する。このとき二通りの簡約は(xy)z(xy)zとx(yz)x(yz)に対応する。各群の結合律から(xy)z=x(yz)(xy)z=x(yz)であり、中間の積が単位元になる場合も、単位元を除けば同じ一文字または空語へ到達する。したがって異なる一段階簡約の結果は共通の語へさらに簡約される。

以上の局所的な性質と停止性から、一意性を語の長さに関する帰納法で示す。二つの簡約列の最初の一段階が同じならば、その短い語に帰納法を適用する。異なるならば、前段落の共通の語を最後まで簡約し、両方の一段階簡約後の語に帰納法を適用する。両簡約列の終点は、その共通の簡約形に一致する。したがって交互簡約語は一意である。

一段階の簡約またはその逆操作では最終的な交互簡約形が変わらないため、これらの操作で移り合う二語の交互簡約形は一致する。逆に二語の交互簡約形が一致するならば、両者から共通の交互簡約形への簡約列の一方を逆向きにたどることにより、一方の語から他方の語へ移ることができる。▨

定義 2.3. 群A,BA,Bの 自由積 (free product)A∗BA*Bを交互簡約語全体の集合とする。積は

u⋅v=alt⁡(uv)(5)u\cdot v=\operatorname{alt}(uv) \tag{5}

によって定め、単位元は空語とする。

証明では、因子内の積の形成と分解による同値関係から、途中の簡約が最終正規形を変えないことを示す。この性質によって積の結合律を連結語の交互簡約形へ帰着させる。文字を逆順にして各文字の逆元を取る操作から、両側逆元を構成する。最後に、一文字の正規形と核による単射判定を用いて二つの標準埋め込みを確認する。

定理 2.4. 式 (5) によってA∗BA*Bは群になる。また

jA ⁣:A⟶A∗B,jB ⁣:B⟶A∗Bj_A\colon A\longrightarrow A*B,\qquad j_B\colon B\longrightarrow A*B

を、単位元は空語へ、単位元以外の元は対応する一文字の語へ移す写像として定めると、jA,jBj_A,j_Bは単射群準同型である。

証明. 自由積の簡約と、その逆である同じ因子内の積の分解によって生成される同値関係を≈\approxと書く。一段階の操作は任意の前後の文脈内でも行えるため

w≈w′⟹alt⁡(aalt⁡(w)b)=alt⁡(awb)(6)w\approx w' \quad\Longrightarrow\quad \operatorname{alt}\bigl(a\operatorname{alt}(w)b\bigr) =\operatorname{alt}(awb) \tag{6}

が成り立つ。したがって交互簡約語u,v,wu,v,wに対して

(u⋅v)⋅w=alt⁡(uvw)=u⋅(v⋅w)(u\cdot v)\cdot w =\operatorname{alt}(uvw) =u\cdot(v\cdot w)

となり、結合律が成り立つ。空語は単位元である。

交互簡約語u=g1⋯gmu=g_1\cdots g_mに対して

u−1=gm−1⋯g1−1u^{-1}=g_m^{-1}\cdots g_1^{-1}

と定める。この語も交互簡約語であり、uu−1uu^{-1}とu−1uu^{-1}uは中央から順に各因子内の逆元を掛けることで空語へ簡約される。したがってA∗BA*Bは群である。

a,a′∈Aa,a'\in Aに対して、jA(a)jA(a′)j_A(a)j_A(a')の連結語は、同じ因子に属する二文字をaa′aa'へ簡約した語である。積が単位元の場合も空語になるため

jA(a)jA(a′)=jA(aa′)j_A(a)j_A(a')=j_A(aa')

が成り立つ。よってjAj_Aは群準同型である。a≠eAa\neq e_Aの像は空語でない一文字の正規形であるから、核は{eA}\{e_A\}である。§E7.3 命題 2.2によりjAj_Aは単射である。jBj_Bについても同じ証明が成り立つ。▨

証明では、交互簡約語の各文字を、その所属する因子に応じてffまたはggで評価する。因子内の簡約が評価を変えないことを準同型性から示し、正規形上の写像を定める。連結語と交互簡約形の評価を比較して、この写像が積を保つことを確認する。最後に、二つの標準埋め込みの像が自由積を生成することから一意性へ帰着させる。

定理 2.5. 群準同型f ⁣:A→Gf\colon A\to Gとg ⁣:B→Gg\colon B\to Gに対して、

Φ∘jA=f,Φ∘jB=g\Phi\circ j_A=f,\qquad \Phi\circ j_B=g

を満たす群準同型Φ ⁣:A∗B→G\Phi\colon A*B\to Gがただ一つ存在する。

証明. 交互簡約語u=x1⋯xmu=x_1\cdots x_mに対して、xi∈A×x_i\in A^\timesならばhi=f(xi)h_i=f(x_i)、xi∈B×x_i\in B^\timesならばhi=g(xi)h_i=g(x_i)とおき、

Φ(u)=h1⋯hm(7)\Phi(u)=h_1\cdots h_m \tag{7}

と定める。空語の像はeGe_Gとする。同じ因子に属する二文字を掛ける簡約では、ffまたはggの準同型性により式 (7) の値が変わらない。したがって式 (7) は語の正規形に適合する。

u,v∈A∗Bu,v\in A*Bに対して、連結語uvuvの評価とalt⁡(uv)\operatorname{alt}(uv)の評価は等しいため

Φ(u⋅v)=Φ(u)Φ(v)\Phi(u\cdot v)=\Phi(u)\Phi(v)

である。よってΦ\Phiは群準同型であり、定義からΦ∘jA=f\Phi\circ j_A=fおよびΦ∘jB=g\Phi\circ j_B=gを満たす。

A∗BA*Bの任意の元はjA(A)j_A(A)とjB(B)j_B(B)の元の積である。したがって二つの標準埋め込み上で値が指定された群準同型は、すべての交互簡約語上で式 (7) の値を取らなければならない。ゆえにΦ\Phiは一意である。▨

3 生成元と関係式

集合SS上の自由群をF(S)F(S)とする。関係式u=vu=vはuv−1∈F(S)uv^{-1}\in F(S)を単位元とする条件として表すことができるため、関係式の集合をF(S)F(S)の部分集合RRとして扱う。

定義 3.1.R⊆F(S)R\subseteq F(S)の 正規閉包 (normal closure) を

⟨ ⁣⟨R⟩ ⁣⟩=⋂N⊴F(S)R⊆NN(8)\langle\!\langle R\rangle\!\rangle =\bigcap_{\substack{N\trianglelefteq F(S)\\R\subseteq N}}N \tag{8}

と定める。生成元SSと関係式RRによる群の表示 (group presentation) を

⟨S∣R⟩=F(S)/⟨ ⁣⟨R⟩ ⁣⟩(9)\langle S\mid R\rangle =F(S)/\langle\!\langle R\rangle\!\rangle \tag{9}

と定める。

式 (8) の交わりを取る正規部分群の族はF(S)F(S)自身を含むため空でない。正規部分群の交わりは正規部分群であるから、⟨ ⁣⟨R⟩ ⁣⟩⊴F(S)\langle\!\langle R\rangle\!\rangle\trianglelefteq F(S)である。また、この部分群はRRを含み、RRを含む任意の正規部分群に含まれる。したがって正規閉包はRRを含む最小の正規部分群である。

証明では、生成集合上の写像を自由群からの準同型へ延長することから始める。関係語がすべて単位元へ移るとき、その核が正規閉包を含むことを最小性から示す。商群の普遍性を用いて、準同型を表示された群からの写像へ誘導する。逆向きの含意と一意性は、標準射影との合成およびその全射性へ帰着させる。

定理 3.2. 群GGと写像f ⁣:S→Gf\colon S\to Gを取り、定理 1.6による一意な延長をf^ ⁣:F(S)→G\widehat f\colon F(S)\to Gとする。次の二条件は同値である。

  1. 任意のr∈Rr\in Rに対してf^(r)=eG\widehat f(r)=e_Gである。
  2. 表示 (9) の標準生成元をf(s)f(s)へ移す群準同型 f‾ ⁣:⟨S∣R⟩⟶G\overline f\colon\langle S\mid R\rangle\longrightarrow G が存在する。

この準同型が存在するとき、f‾\overline fは一意である。

証明.(1)⇒\Rightarrow(2)を示す。(1)を仮定する。R⊆ker⁡f^R\subseteq\ker\widehat fである。§E7.7 定理 1.3によりker⁡f^⊴F(S)\ker\widehat f\trianglelefteq F(S)であるから、正規閉包の最小性から

⟨ ⁣⟨R⟩ ⁣⟩⊆ker⁡f^\langle\!\langle R\rangle\!\rangle\subseteq\ker\widehat f

となる。§E7.7 定理 2.3を適用すると、f^\widehat fは一意な準同型

f‾ ⁣:F(S)/⟨ ⁣⟨R⟩ ⁣⟩⟶G\overline f\colon F(S)/\langle\!\langle R\rangle\!\rangle\longrightarrow G

を経由する。この準同型は各標準生成元をf(s)f(s)へ移す。

(2)⇒\Rightarrow(1)を示す。逆に(2)を仮定する。標準射影をqqとするとf^=f‾∘q\widehat f=\overline f\circ qである。任意のr∈R⊆⟨ ⁣⟨R⟩ ⁣⟩=ker⁡qr\in R\subseteq\langle\!\langle R\rangle\!\rangle=\ker qに対してq(r)=eq(r)=eであるから、f^(r)=eG\widehat f(r)=e_Gとなる。

一意性は、標準射影qqが全射であること、または商群の普遍性の一意性から従う。▨

注意 3.3 (正規閉包が必要であること). 関係式の集合RRが生成する部分群⟨R⟩\langle R\rangleは、一般にはF(S)F(S)の正規部分群ではない。この場合、剰余類集合F(S)/⟨R⟩F(S)/\langle R\rangleに商群の積を入れることはできない。関係式は任意の語で共役しても成立しなければならないため、表示では部分群⟨R⟩\langle R\rangleではなく正規閉包⟨ ⁣⟨R⟩ ⁣⟩\langle\!\langle R\rangle\!\rangleで割る。

以下の具体的な表示では、関係式に現れる単位元を11と書く。

4 巡回群の表示

証明では、表示された群PPの任意の元を一生成元の冪として表すことから始める。関係式an=1a^n=1を用いて指数を0,…,n−10,\ldots,n-1へ戻し、∣P∣≤n|P|\leq nを得る。次に、CnC_nへの生成写像を表示の普遍性によって誘導し、全射性と位数比較から同型を得る。最後に、誘導同型の単射性を用いて生成写像の核を正規閉包と同定する。

定理 4.1. 整数n≥1n\geq 1に対して

Cn≅⟨a∣an=1⟩(10)C_n\cong\langle a\mid a^n=1\rangle \tag{10}

である。ここでCn=Z/nZC_n=\mathbb Z/n\mathbb Zは位数nnの巡回群である。生成写像F({a})→CnF(\{a\})\to C_nの核はana^nの正規閉包に等しい。

証明.N=⟨ ⁣⟨an⟩ ⁣⟩⊴F({a})N=\langle\!\langle a^n\rangle\!\rangle\trianglelefteq F(\{a\})、P=F({a})/NP=F(\{a\})/Nとおく。一元集合上の自由群の各元はama^m(m∈Zm\in\mathbb Z)と一意に表される。PPではan=1a^n=1である。m=qn+im=qn+i、0≤i<n0\leq i<nと書けば

am=(an)qai=aia^m=(a^n)^q a^i=a^i

となる。したがってPPの各元はe,a,…,an−1e,a,\ldots,a^{n-1}のいずれかであり、∣P∣≤n|P|\leq nである。

aaを1‾∈Cn\overline1\in C_nへ移す写像は、自由群の普遍的性質によって全射準同型π ⁣:F({a})→Cn\pi\colon F(\{a\})\to C_nへ延長される。n1‾=0‾n\overline1=\overline0であるからπ(an)=e\pi(a^n)=eであり、表示の普遍的性質により全射準同型

π‾ ⁣:P⟶Cn\overline\pi\colon P\longrightarrow C_n

を得る。終域はnn個の元をもつ一方で∣P∣≤n|P|\leq nであるため、π‾\overline\piは全単射である。よって (10) の同型が得られる。

標準射影をq ⁣:F({a})→Pq\colon F(\{a\})\to Pとするとπ=π‾∘q\pi=\overline\pi\circ qである。π‾\overline\piは単射であるから

ker⁡π=ker⁡q=N=⟨ ⁣⟨an⟩ ⁣⟩\ker\pi=\ker q=N=\langle\!\langle a^n\rangle\!\rangle

である。▨

5 二面体群の表示

整数n≥3n\geq 3とし、Z/nZ\mathbb Z/n\mathbb Z上の置換

r(i)=i+1,s(i)=−i(11)r(i)=i+1,\qquad s(i)=-i \tag{11}

を考える。合成は右から左へ行う。このとき

rn=e,s2=e,srs=r−1(12)r^n=e,\qquad s^2=e,\qquad srs=r^{-1} \tag{12}

である。

証明では、関係式からssとrrの冪を交換する等式を得ることから始める。この等式によって、生成される置換をrir^iまたはrisr^isの形へ帰着させる。次に、Z/nZ\mathbb Z/n\mathbb Zの二点における作用を比較し、候補同士が異なることを示す。最後に、候補の包含と相異性を合わせて群の位数を2n2nと決定する。

補題 5.1.r,sr,sが生成する置換群をD2nD_{2n}とする。この群の元は

ri,ris(0≤i<n)(13)r^i,\qquad r^i s\qquad (0\leq i<n) \tag{13}

の2n2n個である。

証明. 式 (12) からsrj=r−jssr^j=r^{-j}sが任意のj∈Zj\in\mathbb Zに対して成り立つ。したがって (13) の形の置換の積は

rirj=ri+j,ri(rjs)=ri+js,(ris)rj=ri−js,(ris)(rjs)=ri−j\begin{aligned} r^ir^j&=r^{i+j},& r^i(r^js)&=r^{i+j}s,\\ (r^is)r^j&=r^{i-j}s,& (r^is)(r^js)&=r^{i-j} \end{aligned}

のいずれかであり、指数はnnを法として取ることができる。よってr,sr,sが生成する群のすべての元は (13) に含まれる。

ri=rjr^i=r^jならば、0‾\overline0における値を比較してi=ji=jを得る。ris=rjsr^is=r^jsについても右からssを合成してi=ji=jを得る。ri=rjsr^i=r^jsと仮定すると、0‾\overline0における値からi=ji=jである。しかし1‾\overline1における値を比較するとi+1=i−1i+1=i-1、すなわち2=02=0がZ/nZ\mathbb Z/n\mathbb Zで成り立つことになる。n≥3n\geq 3では不可能である。したがって (13) の置換はすべて異なり、∣D2n∣=2n|D_{2n}|=2nである。▨

証明では、抽象的な表示群PPの関係式からsrk=r−kssr^k=r^{-k}sを導く。任意の語でssを右へ移し、s2=1s^2=1とrn=1r^n=1を用いて候補を2n2n個に制限する。具体的な置換群D2nD_{2n}への全射を構成し、位数比較によって同型を得る。最後に、その同型の単射性を用いて自由群からの生成写像の核を正規閉包へ帰着させる。

定理 5.2. 整数n≥3n\geq 3に対して

D2n≅⟨r,s∣rn=s2=1, srs=r−1⟩(14)D_{2n} \cong \langle r,s\mid r^n=s^2=1,\ srs=r^{-1}\rangle \tag{14}

である。生成写像F({r,s})→D2nF(\{r,s\})\to D_{2n}の核は、三つの関係式に対応する語の正規閉包

⟨ ⁣⟨rn, s2, srsr⟩ ⁣⟩\langle\!\langle r^n,\ s^2,\ srsr\rangle\!\rangle

に等しい。

証明. 式 (14) の右辺の群をPPとする。PPではs−1=ss^{-1}=sであり、srs=r−1srs=r^{-1}の右辺にssを掛けると

sr=r−1ssr=r^{-1}s

を得る。帰納法と逆元を取ることにより

srk=r−ks(k∈Z)(15)sr^k=r^{-k}s\qquad(k\in\mathbb Z) \tag{15}

が成り立つ。任意の語でs−1s^{-1}をssに置き換え、式 (15) を用いてssを右へ移し、s2=1s^2=1を用いて対を消去する。最後にrn=1r^n=1によってrrの指数を0,…,n−10,\ldots,n-1に取ると、すべての元は

risε(0≤i<n, ε∈{0,1})(16)r^i s^\varepsilon \qquad (0\leq i<n,\ \varepsilon\in\{0,1\}) \tag{16}

と表される。したがって∣P∣≤2n|P|\leq 2nである。

補題 5.1の置換r,sr,sはすべての関係式 (12) を満たす。表示の普遍的性質により、標準生成元をこれらの置換へ移す全射準同型

π‾ ⁣:P⟶D2n\overline\pi\colon P\longrightarrow D_{2n}

が存在する。∣D2n∣=2n|D_{2n}|=2nかつ∣P∣≤2n|P|\leq2nであるため、π‾\overline\piは全単射であり、式 (14) の同型を得る。

N=⟨ ⁣⟨rn,s2,srsr⟩ ⁣⟩N=\langle\!\langle r^n,s^2,srsr\rangle\!\rangleとおき、q ⁣:F({r,s})→Pq\colon F(\{r,s\})\to Pを標準射影、π ⁣:F({r,s})→D2n\pi\colon F(\{r,s\})\to D_{2n}を生成写像とする。π=π‾∘q\pi=\overline\pi\circ qでありπ‾\overline\piは単射であるから

ker⁡π=ker⁡q=N\ker\pi=\ker q=N

である。▨

6 対称群の表示

n≥2n\geq2とし、SnS_nの隣接互換を

τi=(i i+1)(1≤i≤n−1)\tau_i=(i\ i+1)\qquad(1\leq i\leq n-1)

とする。これらは

τi2=e,τiτj=τjτi(∣i−j∣≥2),τiτi+1τi=τi+1τiτi+1(17)\tau_i^2=e,\qquad \tau_i\tau_j=\tau_j\tau_i\quad(|i-j|\geq2), \qquad \tau_i\tau_{i+1}\tau_i =\tau_{i+1}\tau_i\tau_{i+1} \tag{17}

を満たす。

証明では、任意の互換(a b)(a\ b)を隣接互換の積として具体的に構成する。構成した積の作用を区間内と区間外で調べ、実際にaaとbbだけを交換することを確認する。次に、任意の置換が互換の積であるという既知の分解を用いる。各互換を先の積へ置き換え、SnS_n全体の生成へ帰着させる。

補題 6.1. 隣接互換τ1,…,τn−1\tau_1,\ldots,\tau_{n-1}はSnS_nを生成する。

証明.1≤a<b≤n1\leq a<b\leq nに対して、互換(a b)(a\ b)は

(a b)=τaτa+1⋯τb−2τb−1τb−2⋯τa+1τa(18)(a\ b) =\tau_a\tau_{a+1}\cdots\tau_{b-2}\tau_{b-1} \tau_{b-2}\cdots\tau_{a+1}\tau_a \tag{18}

と表される。実際、右辺はaaとbbを交換し、その間の各元を元の位置へ戻し、区間外の元を固定する。§E7.4 定理 4.2によりSnS_nの任意の元は互換の積であるから、式 (18) によって隣接互換の積として表される。▨

抽象的な生成元s1,…,sn−1s_1,\ldots,s_{n-1}に関係式 (17) と同じ関係を課す。関係語の集合を

Rn={si2∣1≤i≤n−1}∪{sisjsi−1sj−1∣1≤i,j≤n−1, ∣i−j∣≥2}∪{sisi+1si(si+1sisi+1)−1∣1≤i≤n−2}\begin{aligned} R_n={}&\{s_i^2\mid 1\leq i\leq n-1\}\\ &{}\cup \{s_is_js_i^{-1}s_j^{-1}\mid 1\leq i,j\leq n-1,\ |i-j|\geq2\}\\ &{}\cup \{s_is_{i+1}s_i(s_{i+1}s_is_{i+1})^{-1} \mid1\leq i\leq n-2\} \end{aligned}

とし、この表示が定める群を

Pn=⟨s1,…,sn−1 | si2=1(1≤i≤n−1),sisj=sjsi(1≤i,j≤n−1, ∣i−j∣≥2),sisi+1si=si+1sisi+1(1≤i≤n−2)⟩(19)P_n= \left\langle s_1,\ldots,s_{n-1} \ \middle|\ \begin{array}{l} s_i^2=1\quad(1\leq i\leq n-1),\\ s_is_j=s_js_i\quad(1\leq i,j\leq n-1,\ |i-j|\geq2),\\ s_is_{i+1}s_i=s_{i+1}s_is_{i+1}\quad(1\leq i\leq n-2) \end{array} \right\rangle \tag{19}

とする。

証明では、nnに関する帰納法を用い、前段階の生成元が作る部分群をQn−1Q_{n-1}とする。末尾の因子の候補集合TnT_nを定め、各t∈Tnt\in T_nの右に生成元を掛けた積をQn−1TnQ_{n-1}T_nの形へ戻す関係式を証明する。この閉性からPn=Qn−1TnP_n=Q_{n-1}T_nを得て、帰納法によるQn−1Q_{n-1}の正規形と結合する。最後に候補数を数えて∣Pn∣≤n!|P_n|\leq n!へ帰着させる。

補題 6.2.PnP_nの任意の元は

w1w2⋯wn−1(20)w_1w_2\cdots w_{n-1} \tag{20}

の形に表される。ここで

wk∈{e, sk, sksk−1,…, sksk−1⋯s1}.(21)w_k\in \{e,\ s_k,\ s_ks_{k-1},\ldots,\ s_ks_{k-1}\cdots s_1\}. \tag{21}

したがって∣Pn∣≤2⋅3⋯n=n!|P_n|\leq2\cdot3\cdots n=n!である。

証明. 補助的にP1={e}P_1=\{e\}とおく。nnに関する帰納法を用いる。PnP_nの中でs1,…,sn−2s_1,\ldots,s_{n-2}が生成する部分群をQn−1Q_{n-1}と書く。Qn−1Q_{n-1}の生成元はPn−1P_{n-1}の関係式を満たすため、表示の普遍的性質からPn−1P_{n-1}からQn−1Q_{n-1}への全射準同型が存在する。したがって帰納法の仮定により、Qn−1Q_{n-1}の任意の元はw1⋯wn−2w_1\cdots w_{n-2}の形に表される。

さらに

tk=sn−1sn−2⋯sk(1≤k≤n−1),tn=et_k=s_{n-1}s_{n-2}\cdots s_k\quad(1\leq k\leq n-1), \qquad t_n=e

とおく。Tn={t1,…,tn}T_n=\{t_1,\ldots,t_n\}は (21) におけるwn−1w_{n-1}の候補全体である。

1≤i≤n−11\leq i\leq n-1に対して、関係式 (19) から次の等式を得る。

tnsi=sitn(i≤n−2),tnsn−1=tn−1,tksi=sitk(i≤k−2),tksk−1=tk−1(2≤k≤n−1),tksk=tk+1(1≤k≤n−1),tksi=si−1tk(k+1≤i≤n−1).(22)\begin{array}{ll} t_ns_i=s_it_n &(i\leq n-2),\\ t_ns_{n-1}=t_{n-1},&\\ t_ks_i=s_it_k &(i\leq k-2),\\ t_ks_{k-1}=t_{k-1} &(2\leq k\leq n-1),\\ t_ks_k=t_{k+1} &(1\leq k\leq n-1),\\ t_ks_i=s_{i-1}t_k &(k+1\leq i\leq n-1). \end{array} \tag{22}

最初の可換式と第三の可換式は∣i−j∣≥2|i-j|\geq2の関係から従い、第四式と第五式はそれぞれ語の末尾への追加とsk2=1s_k^2=1から従う。最後の式では、tkt_kの右にあるsis_iをsi−2,…,sks_{i-2},\ldots,s_kと交換し、

sisi−1si=si−1sisi−1s_is_{i-1}s_i=s_{i-1}s_is_{i-1}

を適用した後、左端のsi−1s_{i-1}をsn−1,…,si+1s_{n-1},\ldots,s_{i+1}と交換する。以上の交換操作によりtksi=si−1tkt_ks_i=s_{i-1}t_kを得る。

式 (22) は、任意のt∈Tnt\in T_nと任意の生成元sis_iに対して

tsi=ut′(u∈Qn−1, t′∈Tn)(23)ts_i=ut' \qquad (u\in Q_{n-1},\ t'\in T_n) \tag{23}

と表されることを示している。si2=1s_i^2=1からsi−1=sis_i^{-1}=s_iであるため、PnP_nの任意の元は生成元の正の語で表される。空語はQn−1TnQ_{n-1}T_nに属し、Qn−1TnQ_{n-1}T_nの元の右に生成元を掛けても式 (23) により再びQn−1TnQ_{n-1}T_nに属する。したがって

Pn=Qn−1Tn(24)P_n=Q_{n-1}T_n \tag{24}

である。

前段落のQn−1Q_{n-1}の正規形と式 (24) によって、PnP_nの元は式 (20) の形に表される。wkw_kの候補はk+1k+1個であるから、候補となる語の総数は

∏k=1n−1(k+1)=n!\prod_{k=1}^{n-1}(k+1)=n!

である。ゆえに∣Pn∣≤n!|P_n|\leq n!となる。▨

証明では、隣接互換が Coxeter 関係を満たすことを置換の作用から確認する。表示の普遍性によってPnP_nからSnS_nへの準同型を構成し、隣接互換による生成から全射性を得る。正規形による上界と∣Sn∣=n!|S_n|=n!を比較して同型を示す。最後に、同型の単射性から生成写像の核を同定し、候補数と位数の一致から正規形の一意性へ帰着させる。

定理 6.3. 整数n≥2n\geq2に対して

Sn≅⟨s1,…,sn−1 | si2=1(1≤i≤n−1),sisj=sjsi(1≤i,j≤n−1, ∣i−j∣≥2),sisi+1si=si+1sisi+1(1≤i≤n−2)⟩.(25)S_n\cong \left\langle s_1,\ldots,s_{n-1} \ \middle|\ \begin{array}{l} s_i^2=1\quad(1\leq i\leq n-1),\\ s_is_j=s_js_i\quad(1\leq i,j\leq n-1,\ |i-j|\geq2),\\ s_is_{i+1}s_i=s_{i+1}s_is_{i+1}\quad(1\leq i\leq n-2) \end{array} \right\rangle. \tag{25}

同型はsi↦(i i+1)s_i\mapsto(i\ i+1)によって与えられる。生成写像F({s1,…,sn−1})→SnF(\{s_1,\ldots,s_{n-1}\})\to S_nの核は⟨ ⁣⟨Rn⟩ ⁣⟩\langle\!\langle R_n\rangle\!\rangleに等しい。また、補題 6.2の式 (20) は各元に対して一意である。

証明. 隣接互換τi=(i i+1)\tau_i=(i\ i+1)は式 (17) を満たす。第一の関係は互換の平方が恒等置換であること、第二の関係は台が交わらない置換の可換性から従う。第三の関係については、両辺がiiとi+2i+2を交換し、他の元を固定するため等しい。

表示の普遍的性質により、sis_iをτi\tau_iへ移す準同型

π‾ ⁣:Pn⟶Sn\overline\pi\colon P_n\longrightarrow S_n

が存在する。補題 6.1によりπ‾\overline\piは全射である。§E7.4 命題 1.2から∣Sn∣=n!|S_n|=n!である一方、補題 6.2から∣Pn∣≤n!|P_n|\leq n!である。したがってπ‾\overline\piは全単射であり、式 (25) の同型を得る。

N=⟨ ⁣⟨Rn⟩ ⁣⟩N=\langle\!\langle R_n\rangle\!\rangleとおき、q ⁣:F({s1,…,sn−1})→Pnq\colon F(\{s_1,\ldots,s_{n-1}\})\to P_nを標準射影、π ⁣:F({s1,…,sn−1})→Sn\pi\colon F(\{s_1,\ldots,s_{n-1}\})\to S_nを生成写像とする。π=π‾∘q\pi=\overline\pi\circ qでありπ‾\overline\piは単射であるから

ker⁡π=ker⁡q=N\ker\pi=\ker q=N

である。

正規形 (20) の候補はちょうどn!n!個であり、すべての元を表す。∣Pn∣=n!|P_n|=n!が判明したため、異なる候補が同じ元を表すことはない。したがって正規形は一意である。▨

7 周辺例

注意 7.1 (モジュラー群の自由積表示). 以下の同型は本論に用いない外部結果である。上半平面を

H={z∈C∣Im⁡z>0} \mathbb H=\{z\in\mathbb C\mid\operatorname{Im}z>0\}

とする。行列

(abcd)∈SL⁡2(Z) \begin{pmatrix}a&b\\c&d\end{pmatrix} \in\operatorname{SL}_2(\mathbb Z)

は

z⟼az+bcz+d z\longmapsto\frac{az+b}{cz+d}

によってH\mathbb Hに作用する。実際、ad−bc=1ad-bc=1から

Im⁡az+bcz+d=Im⁡z∣cz+d∣2>0 \operatorname{Im}\frac{az+b}{cz+d} =\frac{\operatorname{Im}z}{|cz+d|^2}>0

である。二つの行列AAと−A-Aは同じ変換を与えるため、この作用は

PSL⁡2(Z)=SL⁡2(Z)/{±I} \operatorname{PSL}_2(\mathbb Z) =\operatorname{SL}_2(\mathbb Z)/\{\pm I\}

の作用を定める。

行列

S=(0−110),T=(1101) S=\begin{pmatrix}0&-1\\1&0\end{pmatrix}, \qquad T=\begin{pmatrix}1&1\\0&1\end{pmatrix}

の像をそれぞれs,ts,tとし、r=str=stと置く。PSL⁡2(Z)\operatorname{PSL}_2(\mathbb Z)では

s2=e,r3=e s^2=e,\qquad r^3=e

が成り立つ。上半平面に対する標準基本領域の定理は、s,rs,rが群全体を生成し、s2=es^2=eとr3=er^3=e以外の関係を持たないことを与える。標準基本領域の定理は本稿では証明せず、 Serre, A Course in Arithmetic のモジュラー群の基本領域の扱いへ委ねる。この定理を外部結果として用いると、

PSL⁡2(Z)≅⟨s,r∣s2=e, r3=e⟩≅C2∗C3 \operatorname{PSL}_2(\mathbb Z) \cong\langle s,r\mid s^2=e,\ r^3=e\rangle \cong C_2*C_3

を得る。この例は、自由積が上半平面の幾何学的な対称性として現れることを示すが、前後の定理または演習の根拠には用いない。

8 演習

問題 8.1.

  1. 集合X=∅X=\varnothingに対してF(X)F(X)が自明群であることを、簡約語の構成と普遍的性質の両方から説明せよ。
  2. 自由積C2∗C2C_2*C_2の標準生成元をa,ba,bとする。交互簡約語の一意性を用いて、ababが無限位数をもつことを証明せよ。
  3. 表示⟨a∣a6=e, a4=e⟩\langle a\mid a^6=e,\ a^4=e\rangleがC2C_2を与えることを証明せよ。
  4. 対称群の正規形 (20) について、n=3n=3の六つの候補を列挙し、隣接互換へ移した像がすべて異なることを確認せよ。
解答 (演習の解答).
  1. X±1X^{\pm1}に文字が存在しないため、唯一の語は空語であり、F(X)F(X)は自明群である。また、空集合から任意の群への写像は一意であり、自明群から任意の群への準同型も一意であるから、普遍的性質も満たす。
  2. (ab)m(ab)^mはm≥1m\geq1に対して長さ2m2mの交互簡約語であり、空語ではない。したがって(ab)m≠e(ab)^m\neq eであり、ababは無限位数をもつ。
  3. この群ではa6=ea^6=eとa4=ea^4=eからa2=a6(a4)−1=ea^2=a^6(a^4)^{-1}=eを得る。したがって元はe,ae,aの高々二つである。一方、aaをC2C_2の生成元へ移す写像は両関係式を満たし、C2C_2への全射を誘導する。よって表示された群はC2C_2と同型である。
  4. 候補はe,s1,s2,s1s2,s2s1,s1s2s1e,s_1,s_2,s_1s_2,s_2s_1,s_1s_2s_1である。これらの像はそれぞれe,(1 2),(2 3),(1 2)(2 3),(2 3)(1 2),(1 3)e,(1\,2),(2\,3),(1\,2)(2\,3),(2\,3)(1\,2),(1\,3)であり、S3S_3の六つの異なる元を与える。

▨

参考文献

  1. Jean-Pierre Serre, Trees, translated by John Stillwell, Springer Monographs in Mathematics, Springer, 2003.自由群と自由積の正規形を参考にした。
  2. David S. Dummit and Richard M. Foote, Abstract Algebra, 3rd ed., Wiley, 2004.自由群、生成元と関係式、および群の標準的な表示を参考にした。
  3. Joseph J. Rotman, An Introduction to the Theory of Groups, 4th ed., Graduate Texts in Mathematics 148, Springer, 1995.自由群と群の表示を参考にした。
  4. Jean-Pierre Serre, A Course in Arithmetic, Graduate Texts in Mathematics, Springer, New York, 1973.モジュラー群の上半平面への作用と基本領域を参考にした。

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