1 Vandermonde 型の積
定義 1.1.σ∈Snに対して、σの符号 (sign of a permutation) を
sgn(σ)=1≤i<j≤n∏j−iσ(j)−σ(i)によって定める。
分母は0ではないため、この式は実数として定まる。この段階では、値が必ず1または−1になることも、積を保つことも仮定しない。
補題 1.2. 相異なる実数x1,…,xnに対して
Δ(x1,…,xn)=1≤i<j≤n∏(xj−xi)と置く。任意のσ∈Snに対して
Δ(xσ(1),…,xσ(n))=sgn(σ)Δ(x1,…,xn)(1)が成り立つ。とくにsgn(σ)∈{1,−1}である。
証明. 左辺の積では、各相異なる添字の組{p,q}に対する二つの変数xp,xqがちょうど一つの因子に現れる。p<qとすると、その因子はxq−xpまたはxp−xq=−(xq−xp)のいずれかである。したがって左辺はΔ(x1,…,xn)の1倍または−1倍であり、その符号はx1,…,xnの値によらず、σだけから決まる。
この比を(x1,…,xn)=(1,…,n)で計算すると
Δ(1,…,n)Δ(σ(1),…,σ(n))=1≤i<j≤n∏j−iσ(j)−σ(i)=sgn(σ)である。よって (1) が成り立ち、この比は1または−1である。▨
2 準同型性と互換の符号
証明では、相異なる実数列に Vandermonde 積の置換則を二度適用することから始める。得られた式を合成置換へ直接適用した式と比較し、符号の乗法性へ帰着させる。次に、二成分の交換によって変化する因子を調べ、互換の符号を求める。この順序により、互換表示の偶奇を前提とせずに準同型性を導く。
定理 2.1. 写像
sgn:Sn⟶{1,−1}は乗法群への群準同型である。すなわち、任意のσ,τ∈Snに対して
sgn(στ)=sgn(σ)sgn(τ)が成り立つ。さらに、任意の互換υに対して
sgn(υ)=−1である。
証明. 相異なる実数x1,…,xnを取る。補題 1.2を、まずyi=xσ(i)という数列と置換τに適用し、次に数列x1,…,xnと置換σに適用すると
Δ(xσ(τ(1)),…,xσ(τ(n)))=sgn(τ)Δ(xσ(1),…,xσ(n))=sgn(τ)sgn(σ)Δ(x1,…,xn)を得る。積の規約からστ=σ∘τであり、{1,−1}の積は可換である。同じ左辺へ補題 1.2を直接適用した式と比較すると
sgn(στ)=sgn(σ)sgn(τ)が従う。したがってsgnは群準同型である。
互換υ=(ab)はΔ(1,…,n)の第a成分と第b成分を交換する。Vandermonde 積でこの二成分を結ぶ因子は符号を変え、他の添字kと二成分を結ぶ二因子の積は変わらない。したがって
Δ(υ(1),…,υ(n))=−Δ(1,…,n)であり、符号の定義からsgn(υ)=−1となる。▨
符号の準同型性は、互換表示の偶奇を使わずに証明された。ここで初めて§E7.4 定理 4.2を用いる。
系 2.2. 置換σ∈Snが互換υ1,…,υkによって
σ=υ1⋯υkと表されるならば
sgn(σ)=(−1)kである。したがって、互換表示に現れる互換の個数の偶奇は、表示の選び方によらない。
証明.定理 2.1と各互換の符号が−1であることから
sgn(σ)=i=1∏ksgn(υi)=(−1)kを得る。左辺はσだけから定義されているため、二つの互換表示の長さは同じ偶奇をもつ。▨
命題 2.3. 長さrの巡回置換cに対して
sgn(c)=(−1)r−1が成り立つ。また、σ∈Snの反転数を
inv(σ)=∣{(i,j)∣1≤i<j≤n, σ(i)>σ(j)}∣とすると
sgn(σ)=(−1)inv(σ)である。
証明.§E7.4 定理 4.2の証明にある
(a1…ar)=(a1ar)⋯(a1a2)はr−1個の互換からなるため、最初の等式が従う。
符号の定義式の分母はすべて正である。分子の因子σ(j)−σ(i)は、(i,j)が反転であるとき、またそのときに限って負である。したがって分子の符号は(−1)inv(σ)である。▨
3 置換行列と符号
§E7.3 命題 3.3で定めた置換行列によって、対称群を直交群の部分群として実現することができる。この実現では、置換の符号が行列式と一致する。
命題 3.1.σ∈Snとする。このとき
Pσ∈O(n),det(Pσ)=sgn(σ)が成り立つ。忠実な置換行列表示によってSnをその像と同一視すると、
Sn≤O(n),An=Sn∩SO(n)である。
証明.Pσの第j列はeσ(j)である。したがってPσの列は標準正規直交基底の並べ替えであり、§D3.15 命題 1.2によってPσ∈O(n)である。また、Pσ=(pij)と書くと
pij={1,0,i=σ(j),i=σ(j)である。§E3.15 定理 3.1の和では∏j=1npτ(j),jが非零となる置換τはτ=σだけである。したがって
det(Pσ)=sgn(σ)j=1∏npσ(j),j=sgn(σ)を得る。
§E7.3 命題 3.3と§E7.3 命題 2.2によりSnの像はO(n)の部分群である。また、σ∈Anであることはsgn(σ)=1と同値であり、示した等式によってdet(Pσ)=1と同値である。ゆえに、この同一視の下でAn=Sn∩SO(n)である。▨
4 交代群
定義 4.1. 交代群 (alternating group)Anを符号準同型の核
An=ker(sgn)={σ∈Sn∣sgn(σ)=1}によって定める。Anの元を偶置換 (even permutation) といい、Sn∖Anの元を奇置換 (odd permutation) という。
定義 4.2. 任意のτ∈Snに対して
τAn={τσ∣σ∈An}をAnの左剰余類 (left coset) と呼ぶ。異なる左剰余類の個数を指数 (index of a subgroup) といい、[Sn:An]と書く。また、任意のτ∈Snに対して
τAnτ−1=Anが成り立つとき、AnはSnの正規部分群 (normal subgroup) であるという。左剰余類、指数、および正規部分群の一般的な定義は、後続の記事で扱う。
命題 4.3.AnはSnの部分群であり、任意のτ∈Snに対して
τAnτ−1=Anが成り立つ。したがってAnはSnの正規部分群である。
n≥2ならば、Anの左剰余類は二つであり、
[Sn:An]=2,∣An∣=2n!が成り立つ。
証明.§E7.3 命題 2.2により、準同型の核AnはSnの部分群である。符号の準同型性から
sgn(τστ−1)=sgn(τ)sgn(σ)sgn(τ)−1=1であるため、τστ−1∈Anである。したがってτAnτ−1⊆Anである。τ−1に対する同じ包含関係
τ−1Anτ⊆Anの両辺をτとτ−1で共役するとAn⊆τAnτ−1を得る。よってτAnτ−1=Anであり、AnはSnの正規部分群である。
n≥2とし、互換υ=(12)を固定する。任意のπ∈Snについて、sgn(π)=1ならばπ∈Anである。sgn(π)=−1ならばsgn(υ−1π)=1であるため、π∈υAnである。二つの集合AnとυAnは交わらない。実際、υa∈Anを満たすa∈Anが存在すればυ=(υa)a−1∈Anとなり、互換の符号が−1であることに反する。さらに、π∈AnならばπAn=Anである。π∈υAnならば、あるa∈Anによってπ=υaと表されるため、πAn=υaAn=υAnである。したがって左剰余類はAnとυAnの二つである。
左乗法a↦υaはAnからυAnへの全単射である。§E7.4 命題 1.2から∣Sn∣=n!であるため、∣An∣=n!/2を得る。▨
n=1ではS1=A1であり、指数は1である。したがって指数2の主張からn=1を除く必要がある。
例 4.4 (S4の巡回型と符号).S4では、3-cycle と二つの互いに素な互換の積は偶置換であり、互換と
4-cycle は奇置換である。例えば
sgn((123))=1,sgn((12)(34))=1,sgn((1234))=−1である。
反転数そのものは、整数への加法的な準同型ではない。
例 4.5 (反転数が整数値準同型にならない例).υ=(12)∈S2とすると
inv(υ)=1,inv(υ2)=inv(e)=0である。反転数が積を整数の加法へ移すならば右辺は2inv(υ)=2になるはずである。準同型になるのは反転数ではなく、その偶奇を記録するsgnである。
5 15パズル
例 5.1 (15パズルと符号).4×4の盤面に15枚の番号付きの駒と一つの空白を置く。完成形から出発し、空白と辺を共有する駒を空白へ移す操作だけを許す。完成形から駒14と駒15だけを交換し、空白を完成形と同じ位置に置いた配置へ到達することはできない。
証明. 15枚の駒と空白を16個の対象とみなし、完成形から現在の配置への置換をπとする。一回の操作は空白と一枚の駒を交換する互換であるため、一回の操作ごとにsgn(π)は符号を変える。
盤面のますを市松模様に二色で塗る。現在の空白が完成形の空白と同じ色のますにあるときc=1、異なる色のますにあるときc=−1とする。一回の操作では空白が隣のますへ移るため、cも符号を変える。したがって
I=sgn(π)cは一回の操作で二度符号を変え、すべての合法手順に対して不変である。完成形ではsgn(π)=c=1であるからI=1である。
駒14と駒15だけを交換し、空白を完成形と同じ位置に置いた配置では、πは一つの互換であるためsgn(π)=−1であり、c=1である。よってI=−1となり、完成形から到達する配置がもつ値と一致しない。▨
この証明は、置換の符号と空白のますの二部彩色を組み合わせる。符号だけを用いると、一回の合法操作も奇置換であるため、到達不能性を判定することはできない。
6 演習
問題 6.1.
- sgn(σ−1)=sgn(σ)を証明せよ。
- A3の元をすべて列挙し、∣A3∣=3を直接確認せよ。
- 15パズルで空白が完成形と異なる色のますにある到達可能な配置について、
16対象の置換の符号を決定せよ。
解答 (演習の要点).
第1問では1=sgn(σσ−1)を用いる。符号の値は1または−1であるため、その逆数は自身に等しい。第2問はA3={e,(123),(132)}である。第3問ではc=−1かつsgn(π)c=1であるため、sgn(π)=−1となる。▨