1 内部積
定義 1.1.X∈X(M)とする。k≥1とω∈Ωk(M)に対し、(k−1)次形式ιXωを
(ιXω)p(v1,…,vk−1)=ωp(Xp,v1,…,vk−1)(p∈M, v1,…,vk−1∈TpM)で定める。k=0、すなわちf∈Ω0(M)=C∞(M)に対しては
ιXf=0と定める。ιXωをXによるωの内部積 (interior product) という。
k=0の規約を落としてはならない。以下の定理 3.1のk=0の場合と、定理 4.4のk=0の場合は、いずれもこの規約のもとで成り立つ。
命題 1.2.X∈X(M)とする。
- k≥1とω∈Ωk(M)に対しιXω∈Ωk−1(M)である。ιX:Ωk(M)→Ωk−1(M)はC∞(M)線形である。
- ιX∘ιX=0である。
- α∈Ωk(M)、β∈Ωl(M)に対して次数付き Leibniz 則
ιX(α∧β)=(ιXα)∧β+(−1)kα∧(ιXβ)
が成り立つ。
証明.(1)を示す。k=1のときιXω=ω(X)はC∞関数である。k≥2のとき、B(Y1,…,Yk−1)=ω(X,Y1,…,Yk−1)はC∞(M)多重線形であり(ωが各点で定まる形式であることによる)、交代的である(ωの交代性による)。よって§E17.11 補題 4.1 (2)によりιXω∈Ωk−1(M)である。C∞(M)線形性は定義式から従う。
(2)を示す。k≥2のとき(ιXιXω)p(v1,…,vk−2)=ωp(Xp,Xp,v1,…)=0である(ωの交代性)。k=1のときιXωは関数であり、ιXを施すと定義により0である。k=0のときはιXω=0である。
(3)を示す。k=0のときはα=fが関数であり、ιX(fβ)=fιXβである。右辺は(ιXf)∧β+fιXβ=0+fιXβであるから一致する。l=0のときも同様に、ιX(gα)=gιXαと(ιXα)g+(−1)kα∧ιXg=(ιXα)gが一致する。以下k,l≥1とする。
まずk=1の場合を示す。α∈Ω1(M)、β∈Ωl(M)とする。§E17.10 命題 3.3を(1,l)シャッフルに適用する。σ∈Sh(1,l)はσ(1)=mの値だけで定まり、列σ(1),…,σ(l+1)はm,1,2,…,m,…,l+1であるから、転倒の個数はm−1でありsgn(σ)=(−1)m−1である。よってw1,…,wl+1∈TpMに対し
(α∧β)(w1,…,wl+1)=m=1∑l+1(−1)m−1α(wm)β(w1,…,wm,…,wl+1)である。w1=Xp、wr+1=vr(r=1,…,l)と置くと、左辺は(ιX(α∧β))p(v1,…,vl)である。右辺のm=1の項はα(Xp)β(v1,…,vl)である。m≥2の項は、r=m−1と置くと
(−1)rα(vr)β(Xp,v1,…,vr,…,vl)=(−1)rα(vr)(ιXβ)(v1,…,vr,…,vl)である。一方、ふたたび(1,l−1)シャッフルによる表示から
(α∧ιXβ)(v1,…,vl)=r=1∑l(−1)r−1α(vr)(ιXβ)(v1,…,vr,…,vl)であるから、m≥2の項の総和は−(α∧ιXβ)(v1,…,vl)に等しい。したがって
ιX(α∧β)=α(X)β−α∧ιXβ=(ιXα)∧β+(−1)1α∧(ιXβ)である。
一般のkについて帰納する。主張は各点で決まる等式であり、αについてC∞(M)線形である。チャート(U,φ=(x1,…,xn))を取るとα∣U=∑IαIdxI(§E17.10 命題 4.1)であるから、α=dxi1∧⋯∧dxikの場合を示せば足りる。α=α1∧α′(α1=dxi1∈Ω1、α′∈Ωk−1)と書き、k−1について主張が成り立つと仮定する。結合性(§E17.10 定理 3.5)とk=1の場合により
ιX(α∧β)=ιX(α1∧(α′∧β))=α1(X)(α′∧β)−α1∧ιX(α′∧β)である。帰納法の仮定からιX(α′∧β)=(ιXα′)∧β+(−1)k−1α′∧ιXβであるから
ιX(α∧β)=(α1(X)α′−α1∧ιXα′)∧β+(−1)kα1∧α′∧ιXβである。括弧の中はk=1の場合によりιX(α1∧α′)=ιXαに等しい。よって主張を得る。▨
例 1.3 (座標での内部積).R3の標準座標を(x,y,z)とし、X=∂/∂xとする。命題 1.2 (3)とιX(dx)=1、ιX(dy)=ιX(dz)=0から
ιX(dx∧dy)=dy,ιX(dy∧dz)=0,ιX(dx∧dy∧dz)=dy∧dzである。一般にX=a∂/∂x+b∂/∂y+c∂/∂zに対しては
ιX(dx∧dy∧dz)=ady∧dz+bdz∧dx+cdx∧dyである。実際、命題 1.2 (3)を二度用いると
ιX(dx∧dy∧dz)=ady∧dz−bdx∧dz+cdx∧dyとなり、−dx∧dz=dz∧dxから上の式になる。
2 微分形式とテンソル場の Lie 微分
X∈X(M)の局所流をφとする(§E17.6 定理 7.1)。各p∈Mに対し、ε>0とpの開近傍Wであって(−ε,ε)×Wが局所流の定義域に含まれるものを取ることができる。φt(q)=φ(t,q)と書くと、Φ:W×(−ε,ε)→M、Φ(q,t)=φt(q)はC∞写像である。
証明.U×(−ε,ε)は積多様体(§E17.1 命題 7.3)の開集合であり、(x1,…,xn,t)はそのチャートである。{dx1,…,dxn,dt}は各点の余接空間の基底であるから、§E17.10 命題 4.1によりΦ∗ωは表示した形に一意に表される(増加するk個の添字を、dtを含むものと含まないものに分けた)。
it:U→U×(−ε,ε)、it(q)=(q,t)と置くとΦ∘it=φtであるから、§E17.10 命題 5.2により(φt)∗ω=it∗(Φ∗ω)である。xj∘it=xjからit∗(dxj)=dxjであり、t∘itは定数関数であるから§E17.11 命題 3.1によりit∗(dt)=d(t∘it)=0である。したがってit∗(Φ∗ω)=∑IfI(⋅,t)dxIである。
fIはC∞であるから、tについて微分することができ、t=0における微分は∂fI/∂t(⋅,0)である。これはU上のC∞関数であるから、§E17.10 命題 2.2によりLXωはC∞切断である。定義がWとεのとり方に依らないことは、局所流の一意性(§E17.6 定理 7.1)により、二つのとり方に対するφtが共通の定義域で一致することから従う。▨
証明.(1)を示す。(φt)∗f=f∘φtであるから、dtdt=0f(φt(p))を求めればよい。t↦φt(p)はXのpを通る積分曲線であり、そのt=0における速度ベクトルはXpであるから(§E17.6 定理 7.1)、§E17.3 定理 5.3により値はXpfである。
(2)を示す。R線形性は(φt)∗が線形であることと微分の線形性による。外積については、§E17.10 定理 5.3により(φt)∗(α∧β)=(φt)∗α∧(φt)∗βである。各点pで、右辺は二つの有限次元線形空間の元の双線形な積であり、t=0では(φ0)∗=idからαpとβpを与える。双線形写像の積の微分の規則から、t=0における微分は(LXα)p∧βp+αp∧(LXβ)pである。
(3)を示す。命題 2.2の記号で、(φt)∗ω=∑IfI(⋅,t)dxIである。§E17.11 命題 3.1により(φt)∗(dω)=d((φt)∗ω)であり、右辺は§E17.11 定理 2.4の表示から
I∑i=1∑n∂xi∂fI(⋅,t)dxi∧dxIである。t=0でtについて微分すると、左辺はLX(dω)を与え、右辺は
I∑i=1∑n∂t∂xi∂2fI(⋅,0)dxi∧dxI=I∑i=1∑n∂xi∂(∂t∂fI(⋅,0))dxi∧dxI=d(LXω)を与える。二階混合偏導関数の対称性(§E4.4 定理 2.1)を用いた。
(4)を示す。ωとω′がVの上で一致するとする。p∈Vを取り、Φの連続性からΦ(W′×(−ε′,ε′))⊆Vとなるpの近傍W′とε′>0を取る。∣t∣<ε′に対し(φt)∗ωと(φt)∗ω′はW′の上で一致するので、t=0における微分も一致する。開集合への制限についても、X∣Vの局所流がXの局所流の制限であること(§E17.6 定理 7.1の一意性)から従う。▨
3 Cartan の公式
証明.DX=ιX∘d+d∘ιXと置く。DX:Ωk(M)→Ωk(M)はR線形である。
DXは外積について導分である。α∈Ωk(M)、β∈Ωl(M)とする。§E17.11 定義 2.1 条件 (c)と命題 1.2 (3)から
ιX(d(α∧β))=ιX(dα∧β)+(−1)kιX(α∧dβ)=(ιXdα)∧β+(−1)k+1dα∧(ιXβ)+(−1)k(ιXα)∧dβ+(−1)k(−1)kα∧(ιXdβ)である。同様に
d(ιX(α∧β))=d((ιXα)∧β)+(−1)kd(α∧(ιXβ))=(dιXα)∧β+(−1)k−1(ιXα)∧dβ+(−1)kdα∧(ιXβ)+(−1)k(−1)kα∧(dιXβ)である。二つを加えると、dα∧(ιXβ)の係数は(−1)k+1+(−1)k=0、(ιXα)∧dβの係数は(−1)k+(−1)k−1=0である。残るのは
DX(α∧β)=(DXα)∧β+α∧(DXβ)である。
DXはdと可換である。d∘d=0(§E17.11 命題 2.5)から
DX∘d=ιXdd+dιXd=dιXd,d∘DX=dιXd+ddιX=dιXdである。
0次形式では一致する。f∈C∞(M)に対し、ιXf=0であるから
DXf=ιX(df)+d(0)=df(X)=Xf=LXfである(最後の等号は命題 2.4 (1))。ここでιXf=0という規約を用いた。
DXは局所的である。ιXは各点で定まり、dは局所的である(§E17.11 補題 2.2)から、DXωの点pにおける値はωのpの近傍における値だけで決まる。開集合への制限も同様に定まる。
比較。p∈Mを取り、チャート(U,φ=(x1,…,xn))を取る。ω∣U=∑IωIdxi1∧⋯∧dxikと表す(§E17.10 命題 4.1)。LXとDXはともに局所的でありUの上の作用素を誘導するので、Uの上で両者が一致することを示せばよい。両者はR線形であるから、ω=gdxi1∧⋯∧dxik(g∈C∞(U))の場合を示せば足りる。
dxi=d(xi)である(§E17.11 命題 1.1)。LXとDXはともに外積について導分であり、dと可換であり、0次形式の上で一致する。したがって
LX(gdxi1∧⋯∧dxik)=(LXg)dxi1∧⋯∧dxik+r=1∑kgdxi1∧⋯∧d(LXxir)∧⋯∧dxikであり、DXについても同じ式が成り立つ。LXg=Xg=DXg、LXxir=Xxir=DXxirであるから、右辺は両者で一致する。よってLXω=DXωである。▨
4 鎖ホモトピー作用素
作用素を構成する前に、パラメータについての積分が滑らかさを保つことを確かめる。
補題 4.1.V⊆Rnを開集合、h:V×R→RをC∞関数とする。
H(x)=∫01h(x,t)dtと定めるとHはVの上でC∞であり、各iについて
∂xi∂H(x)=∫01∂xi∂h(x,t)dtが成り立つ。
証明.x0∈Vを取り、B(x0,r)⊆Vとなるr>0を取る。B(x0,r)×[0,1]はRn+1の有界閉集合であるからコンパクトであり(§E2.9 定理 4.3)、∂h/∂xiはその上で一様連続である(§E2.9 定理 5.1)。
∣x−x0∣<r/2、0<∣s∣<r/2とし、eiを第i標準基底ベクトルとする。微積分学の基本定理と§E4.3 定理 1.1により
h(x+sei,t)−h(x,t)=s∫01∂xi∂h(x+λsei,t)dλである。したがって
sH(x+sei)−H(x)−∫01∂xi∂h(x,t)dt≤λ∈[0,1], t∈[0,1]sup∂xi∂h(x+λsei,t)−∂xi∂h(x,t)である。一様連続性から、右辺はs→0のとき0へ収束する。よって∂H/∂xi(x)が存在し、表示した式に等しい。
同じ一様連続性から
∂xi∂H(x)−∂xi∂H(y)≤t∈[0,1]sup∂xi∂h(x,t)−∂xi∂h(y,t)であるから∂H/∂xiは連続である。∂h/∂xiもまたC∞であるから、同じ議論を繰り返して、任意の階数の偏導関数が存在し連続であることが従う。よってHはC∞である。▨
以下、M×Rを積多様体とする(§E17.1 命題 7.3)。Rの標準座標をtと書き、Mのチャート(U,φ=(x1,…,xn))に対して(U×R,(x1,…,xn,t))をM×Rのチャートとする。Sで、これらのチャートの上で∂/∂tに等しいベクトル場を表す。この定め方はチャートに依らない。実際、M×Rの二つの積チャートの座標変換はM側の座標変換とtの恒等写像の積であるから、∂/∂tは同じ接ベクトルを与える。
s∈Rに対しis:M→M×Rをis(p)=(p,s)で定める。isはC∞写像である。
命題 4.2.Sは完備であり、その大域流はθs(p,t)=(p,t+s)である。すなわちθ:R×(M×R)→M×RはC∞であり、θ0=id、θs∘θs′=θs+s′を満たし、各点におけるsについての速度ベクトルはSである。またθs∘i0=isである。
証明.θがC∞であることと群法則は、積多様体のチャートで書くと明らかである。s↦θs(p,t)=(p,t+s)の速度ベクトルは、チャート(x,t)で(0,…,0,1)すなわち∂/∂tである。よってθはSの大域流であり、§E17.6 定理 7.1の一意性からSの流れはこれに限る。θs(i0(p))=θs(p,0)=(p,s)=is(p)である。▨
命題 4.3.YをC∞多様体N上の完備なC∞ベクトル場、θをその大域流とする。ω∈Ωk(N)とs0∈Rに対して
dsds=s0(θs)∗ω=(θs0)∗(LYω)が成り立つ。ここで微分は各点pにおいて⋀k(Tp∗N)の中で取る。
証明. 群法則θs0+u=θu∘θs0と§E17.10 命題 5.2により(θs0+u)∗=(θs0)∗∘(θu)∗である。p∈Nを固定すると、(θs0)∗は固定した線形写像⋀k(Tθs0(p)∗N)→⋀k(Tp∗N)を与えるので、uについての微分と交換する。したがって
dsds=s0((θs)∗ω)p=dudu=0((θs0)∗((θu)∗ω))p=(θs0)p∗(dudu=0((θu)∗ω)θs0(p))であり、括弧の中は(LYω)θs0(p)である。▨
定理 4.4.Mを境界を持たないC∞多様体とする。k≥1とω∈Ωk(M×R)に対し、M上の(k−1)次形式Kωを
(Kω)p(v1,…,vk−1)=∫01(it∗(ιSω))p(v1,…,vk−1)dtで定め、k=0に対してはK=0と定める。このときKω∈Ωk−1(M)であり、線形作用素K:Ωk(M×R)→Ωk−1(M)が定まる。さらに、すべての非負整数kとω∈Ωk(M×R)に対して
i1∗ω−i0∗ω=K(dω)+d(Kω)が成り立つ。
証明. KωがC∞形式であること。Mのチャート(U,φ=(x1,…,xn))を取る。U×Rの上で§E17.10 命題 4.1により
ω=I∑fI(x,t)dxI+J∑gJ(x,t)dt∧dxJと一意に表される(Iは増加するk個の添字、Jは増加するk−1個の添字。fIとgJはC∞)。
ιS(dxi)=dxi(S)=0とιS(dt)=dt(S)=1、および命題 1.2 (3)からιS(dxI)=0であり、
ιS(dt∧dxJ)=(ιSdt)dxJ−dt∧ιS(dxJ)=dxJである。したがってιSω=∑JgJ(x,t)dxJである。命題 2.2の証明と同じくit∗(dxj)=dxjであるから
it∗(ιSω)=J∑gJ(⋅,t)dxJであり、
(Kω)∣U=J∑(∫01gJ(x,t)dt)dxJである。補題 4.1により係数はC∞であり、§E17.10 命題 2.2によりKω∈Ωk−1(M)である。線形性は定義式から従う。
恒等式。命題 4.2によりSは完備で大域流θを持ち、θt∘i0=itである。§E17.10 命題 5.2によりit∗=i0∗∘(θt)∗である。p∈Mを固定するとi0∗は固定した線形写像であるからtについての微分と交換し、命題 4.3により
dtd(it∗ω)=i0∗(dtd(θt)∗ω)=i0∗((θt)∗(LSω))=it∗(LSω)である。左辺は各点pで⋀k(Tp∗M)の中の曲線の微分であり、その成分はチャートで書くとtについてC∞である。よって成分ごとに微積分学の基本定理を適用して
i1∗ω−i0∗ω=∫01it∗(LSω)dtを得る。
定理 3.1によりLSω=ιS(dω)+d(ιSω)であるから
i1∗ω−i0∗ω=∫01it∗(ιS(dω))dt+∫01it∗(d(ιSω))dtである。第一項はK(dω)の定義そのものである。第二項では、§E17.11 命題 3.1によりit∗∘d=d∘it∗であるから、被積分項はd(it∗(ιSω))である。チャートの上でit∗(ιSω)=∑JgJ(⋅,t)dxJであるから
d(it∗(ιSω))=J∑i=1∑n∂xi∂gJ(x,t)dxi∧dxJであり、補題 4.1により
∫01J∑i=1∑n∂xi∂gJ(x,t)dtdxi∧dxJ=J∑i=1∑n∂xi∂(∫01gJ(x,t)dt)dxi∧dxJ=d(Kω)である。よって恒等式を得る。
k=0の場合。ω=f∈C∞(M×R)とするとKf=0であり、ιSf=0であるからLSf=ιS(df)である。上の計算はそのまま成り立ち、i1∗f−i0∗f=K(df)+0となる。ここでιSf=0という規約(定義 1.1)を用いている。▨
5 Poincaré の補題
星型開集合を一点へ縮める写像をM×Rの上で扱うために、§E17.2 補題 1.2の滑らかな切断関数を用いる。
定理 5.1 (Poincaré の補題).U⊆Rnを、点c∈Uに関して星型な開集合とする。すなわち、すべてのx∈Uとs∈[0,1]に対してc+s(x−c)∈Uが成り立つとする。このときk≥1に対し、U上の閉k形式は完全形式である。すなわちω∈Ωk(U)がdω=0を満たすならば、η∈Ωk−1(U)であってω=dηを満たすものが存在する。
証明.UはRnの開集合であるから境界を持たないC∞多様体である(§E17.1 命題 7.1)。§E17.2 補題 1.2の関数をρと書き、
H:U×R→U,H(x,t)=c+ρ(t)(x−c)と定める。ρ(t)∈[0,1]とUの星型性からH(x,t)∈Uであり、HはC∞写像である。
ρ(1)=1からH∘i1=idUであり、ρ(0)=0からH∘i0は値がcの定数写像である。この定数写像をκと書く。
定理 4.4をH∗ω∈Ωk(U×R)へ適用すると
i1∗(H∗ω)−i0∗(H∗ω)=K(d(H∗ω))+d(K(H∗ω))である。§E17.10 命題 5.2によりi1∗(H∗ω)=(H∘i1)∗ω=ω、i0∗(H∗ω)=κ∗ωである。κは定数写像であるからdκx=0であり、k≥1に対してκ∗ω=0である(§E17.10 定義 5.1の定義式の引数がすべて0になる)。
また§E17.11 命題 3.1によりd(H∗ω)=H∗(dω)=0である。したがって
ω=d(K(H∗ω))であり、η=K(H∗ω)∈Ωk−1(U)が求めるものである。▨
命題 5.2.定理 5.1の設定で、ω=∑IωIdxI(I=(i1<⋯<ik)は増加添字)と表すと、その証明が与えるη=K(H∗ω)は
η=∫01sk−1I∑ωI(c+s(x−c))r=1∑k(−1)r−1(xir−cir)dxi1∧⋯dxir⋯∧dxik dsで与えられる。ここでdxirはその因子を省くことを表す。
証明.Hj(x,t)=cj+ρ(t)(xj−cj)と置くと、§E17.10 命題 5.4により
H∗(dxj)=dHj=ρ(t)dxj+ρ′(t)(xj−cj)dtであり、
H∗ω=I∑(ωI∘H)dHi1∧⋯∧dHikである。ιS(dxj)=0、ιS(dt)=1からιS(dHj)=ρ′(t)(xj−cj)であり、命題 1.2 (3)を繰り返し用いると
ιS(dHi1∧⋯∧dHik)=r=1∑k(−1)r−1ρ′(t)(xir−cir)dHi1∧⋯dHir⋯∧dHikである。it∗(dt)=0であるからit∗(dHj)=ρ(t)dxjであり、残ったk−1個の因子からρ(t)k−1が出る。したがって
it∗(ιS(H∗ω))=ρ(t)k−1ρ′(t)F(ρ(t))である。ここでs∈[0,1]に対して
F(s)=I∑ωI(c+s(x−c))r=1∑k(−1)r−1(xir−cir)dxi1∧⋯dxir⋯∧dxikと置いた(xを固定するとF(s)は(k−1)次形式に値を持つsのC∞関数である)。
成分ごとに、Ψ(s)=∫0suk−1F(u)duと置く。微積分学の基本定理と§E4.3 定理 1.1によりdtdΨ(ρ(t))=ρ(t)k−1F(ρ(t))ρ′(t)であるから
η=∫01ρ(t)k−1ρ′(t)F(ρ(t))dt=Ψ(ρ(1))−Ψ(ρ(0))=Ψ(1)−Ψ(0)=∫01sk−1F(s)dsである。これが表示した式である。▨
証明.dω=∑1≤i<j≤n(∂fj/∂xi−∂fi/∂xj)dxi∧dxjであるから(§E17.11 定理 2.4)、閉であることと偏導関数の対称性は同値である。命題 5.2をk=1に適用すると、sk−1=1であり、r=1の項だけが残って表示した式になる。定理 5.1によりdg=ωである。▨
6 演習
問題 6.1.
- 命題 1.2 (3)の証明で、k=1の場合を§E17.10 命題 3.3から導いた。(1,l)シャッフルの符号が(−1)m−1であることを、l=2の場合に三つのシャッフルを書き下して確かめる。
- 定理 3.1の証明で、DXが外積について導分であることを示す計算では、四つの交差項のうち二つが相殺した。相殺する二組の係数を書き出し、ιXとdの Leibniz 則の符号がどちらも(−1)kであることがこの相殺を生む理由を述べる。
- 定理 3.1をιXf=0という規約なしに述べようとすると、k=0の場合が成り立たなくなる。DXfの計算のどこが変わるのかを述べる。
- 定理 4.4の証明で、it∗=i0∗∘(θt)∗を用いてtについての微分を計算した。i0∗がtに依らない線形写像であることが必要になる箇所を特定する。
- 定理 4.4の証明の第二項では、dと∫01(⋅)dtの順序を入れ替えた。この入れ替えを支えているのが補題 4.1であることを確かめ、積分区間が有界閉区間であることをどこで用いたのかを述べる。
- 定理 5.1の証明で、M×[0,1]ではなくM×Rを用い、tの代わりにρ(t)を入れた。ρを恒等写像に取り替えるとHの値がUに入らなくなる例を、Uを有界な星型開集合として作る。
- 命題 5.2をk=1とk=nの場合に書き下し、k=nのときに右辺の(k−1)次形式がどのような形になるかを述べる。
- 例 5.5のηに、任意の閉1形式を加えてもdη=ωは保たれる。R3の上で閉1形式がすべて完全であることを定理 5.1から導き、原始形式の不定性がdgの分だけであることを述べる。
7 境界と次
定理 5.1は「星型開集合の上でk≥1の閉形式は完全である」までを述べている。k=0の場合、すなわち閉0形式(局所定数関数)については、完全な0形式は0だけであるから、Uが連結ならば定数関数の全体だけが閉形式として残る。この差を統一的に扱う言葉は、閉形式の全体を完全形式の全体で割った商であり、その定義と、星型開集合に対する値の決定は「de Rham 複体とホモトピー不変性」が扱う。本記事はその商を扱わない。
定理 4.4はMが境界を持たないことを仮定している。M×[0,1]を取ると角を持つ多様体が現れるので、本単元はこれを扱わない。[0,1]の外で定数になる§E17.2 補題 1.2の関数を挟むことで、計算はそのままM×Rの上で行うことができる。同じ作用素は、滑らかにホモトピックな二つの写像が同じ準同型を誘導することの証明にも用いる。その議論は「de Rham 複体とホモトピー不変性」が扱う。
Cartan の公式は、体積形式の Lie 微分と発散を結ぶ形でも用いられる。本単元は多様体に体積形式を固定しないので、その形は扱わない。