§E17.8可積分分布と Frobenius の定理

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多様体の各点で接空間のkk次元部分空間を指定したとき、その部分空間をちょうど接空間に持つkk次元の部分多様体が各点を通って存在するかどうかを問う。k=1k=1の場合、答えはつねに肯定的である。消えないベクトル場の積分曲線が求める部分多様体を与えるからである。k≥2k\ge2では、常微分方程式の解を並べるだけでは足りず、追加の条件が要る。その条件が対合性、すなわち分布に属する二つのベクトル場の括弧積がふたたび分布に属することであり、これが可積分性と同値であるというのが Frobenius の定理である。

本記事は、まず分布を定義する。定義には、各点で部分空間を指定することに加えて、局所的にC∞C^\inftyベクトル場の枠が存在することを含める。この追加を外すと、分布に属するC∞C^\inftyベクトル場が一つも存在しない場合が生じ、対合性という条件を書き下すことすらできない。次に積分多様体と可積分性を定義し、可積分性と対合性が同値であることを証明する。証明の要は、対合的な分布に対して括弧積の消える局所枠を取り、その流れの可換性を用いて平坦チャートを構成する点にある。この構成は流れを合成するので、流れが初期点についてC∞C^\inftyであること(§E17.6 定理 7.1)を実際に使う。

本記事ではMMを境界を持たないnn次元C∞C^\infty多様体とし、1≤k≤n1\le k\le nとする。

1 分布

定義 1.1.MM上の階数kkのC∞C^\infty分布 (smooth distribution of rankkk) とは、各点p∈Mp\in Mに対してTpMT_pMのkk次元部分空間DpD_pを対応させる族D={Dp}p∈MD=\{D_p\}_{p\in M}であって、次の条件を満たすものをいう。各点p∈Mp\in Mに対して、ppの開近傍UUとUU上のC∞C^\inftyベクトル場X1,…,XkX_1,\dots,X_kが存在して、すべてのq∈Uq\in Uに対して

Dq=span⁡{X1∣q,…,Xk∣q}D_q=\operatorname{span}\{X_1|_q,\dots,X_k|_q\}

が成り立つ。この(X1,…,Xk)(X_1,\dots,X_k)をUU上のDDの局所枠 (local frame) という。

開集合V⊆MV\subseteq M上のC∞C^\inftyベクトル場Z∈X(V)Z\in\mathfrak{X}(V)が DDに属する (tangent toDD) とは、すべてのq∈Vq\in Vに対してZq∈DqZ_q\in D_qが成り立つことをいう。

注意 1.2 (各点で部分空間を与えるだけでは足りない). 局所枠の存在を定義から外すと、対合性という条件を書くことができない。次の族がその例である。

M=R2M=\mathbb{R}^2とし、g(x)=∣x∣g(x)=|x|と置いて

E(x,y)=span⁡{∂∂x∣(x,y)+g(x)∂∂y∣(x,y)}E_{(x,y)}=\operatorname{span}\left\{\frac{\partial}{\partial x}\Big|_{(x,y)}+g(x)\frac{\partial}{\partial y}\Big|_{(x,y)}\right\}

と定める。各点でE(x,y)E_{(x,y)}はT(x,y)R2T_{(x,y)}\mathbb{R}^2の11次元部分空間であり、点への対応は連続である(ggが連続であるため)。しかし、原点を含む任意の開集合UUの上には、すべての点で消えずEEに属するC1C^1級ベクトル場が存在しない。実際、Z=a∂∂x+b∂∂yZ=a\dfrac{\partial}{\partial x}+b\dfrac{\partial}{\partial y}をそのようなベクトル場とすると、各点でZ∈EZ\in EかつZ≠0Z\ne0であるからa(x,y)≠0a(x,y)\ne0であり、b(x,y)=a(x,y)g(x)b(x,y)=a(x,y)g(x)である。よってUU上で

g(x)=b(x,y)a(x,y)g(x)=\frac{b(x,y)}{a(x,y)}

であり、右辺はC1C^1級であるからggはx=0x=0で微分可能でなければならない。これはg(x)=∣x∣g(x)=|x|がx=0x=0で微分可能でないことに反する。

したがって、原点を含むどの開集合の上にもEEの局所枠は存在しない。EEに属するC∞C^\inftyベクトル場は原点の近くで必ず零点を持つので、EEを「各点の近傍で枠が張る族」として扱うことができず、命題 1.5のような局所枠による判定も立てることができない。定義 1.1が局所枠の存在を要求するのは、この事態を避けるためである。

補題 1.3.V⊆MV\subseteq Mを開集合、X,Y∈X(V)X,Y\in\mathfrak{X}(V)、f,g∈C∞(V)f,g\in C^\infty(V)とすると

[fX,gY]=fg [X,Y]+f (Xg) Y−g (Yf) X[fX,gY]=fg\,[X,Y]+f\,(Xg)\,Y-g\,(Yf)\,X

が成り立つ。

証明.h∈C∞(V)h\in C^\infty(V)とすると

(fX)((gY)h)=fX(g (Yh))=f (Xg) (Yh)+fg X(Yh),(gY)((fX)h)=g (Yf) (Xh)+gf Y(Xh)\begin{aligned} (fX)\bigl((gY)h\bigr)&=fX\bigl(g\,(Yh)\bigr)=f\,(Xg)\,(Yh)+fg\,X(Yh),\\ (gY)\bigl((fX)h\bigr)&=g\,(Yf)\,(Xh)+gf\,Y(Xh) \end{aligned}

である。差を取ると[fX,gY]h=fg(X(Yh)−Y(Xh))+f(Xg)(Yh)−g(Yf)(Xh)[fX,gY]h=fg\bigl(X(Yh)-Y(Xh)\bigr)+f(Xg)(Yh)-g(Yf)(Xh)であり、これが主張の式である。▨

定義 1.4. 階数kkのC∞C^\infty分布DDが対合的 (involutive distribution) であるとは、任意の開集合V⊆MV\subseteq Mと、DDに属する任意のZ,W∈X(V)Z,W\in\mathfrak{X}(V)に対して[Z,W][Z,W]もDDに属することをいう。

命題 1.5. 階数kkのC∞C^\infty分布DDについて、次は同値である。

  1. DDは対合的である。
  2. 各点p∈Mp\in Mに対して、ppのある開近傍UU上のDDの局所枠(X1,…,Xk)(X_1,\dots,X_k)が存在して、すべてのi,ji,jについて[Xi,Xj][X_i,X_j]がDDに属する。

証明.条件 (a)⇒\Rightarrow(b)は、局所枠がDDに属することから直ちに従う。

条件 (b)⇒\Rightarrow(a)を示す。VVを開集合、Z,W∈X(V)Z,W\in\mathfrak{X}(V)をDDに属するものとし、p∈Vp\in Vを取る。条件 (b)の局所枠(X1,…,Xk)(X_1,\dots,X_k)をU∋pU\ni p上で取り、UUをVVに含まれるように縮める。

はじめに、ZZを局所枠で展開する係数がC∞C^\inftyであることを確かめる。ppの周りのチャート(U′,φ)(U',\varphi)を取り、Xi∣U′=∑j=1nXij ∂/∂xjX_i|_{U'}=\sum_{j=1}^{n}X_i^j\,\partial/\partial x^jと書く。k×nk\times n行列(Xij)(X_i^j)の階数は各点でkkであるから、ppにおいてkk個の列が一次独立である。座標の番号を付け替えて、k×kk\times k小行列B=(Xij)1≤i,j≤kB=(X_i^j)_{1\le i,j\le k}がppで正則であるとしてよい。det⁡B\det Bは連続であるから、ppの近傍でBBは正則である。Z∣U′=∑j=1nZj∂/∂xjZ|_{U'}=\sum_{j=1}^{n}Z^j\partial/\partial x^jと書き、Z=∑i=1kfiXiZ=\sum_{i=1}^{k}f^iX_iと展開すると、最初のkk個の成分についてZj=∑i=1kfiXijZ^j=\sum_{i=1}^{k}f^iX_i^j(1≤j≤k1\le j\le k)であり、これはf=(f1,…,fk)f=(f^1,\dots,f^k)についての線形方程式fB=(Z1,…,Zk)fB=(Z^1,\dots,Z^k)である。Cramer の公式によりB−1B^{-1}の成分はC∞C^\infty関数であるから、fif^iはC∞C^\inftyである。W=∑j=1kgjXjW=\sum_{j=1}^{k}g^jX_jについても同様である。

補題 1.3と括弧積の双線形性(§E17.7 命題 1.4)により

[Z,W]=∑i=1k∑j=1k(figj [Xi,Xj]+fi (Xigj) Xj−gj (Xjfi) Xi)[Z,W]=\sum_{i=1}^{k}\sum_{j=1}^{k}\Bigl(f^ig^j\,[X_i,X_j]+f^i\,(X_ig^j)\,X_j-g^j\,(X_jf^i)\,X_i\Bigr)

である。右辺の各項はDDに属する。第一の項は条件 (b)により、残りの二つはXiX_iとXjX_jがDDに属することによる。したがって[Z,W]p∈Dp[Z,W]_p\in D_pである。p∈Vp\in Vは任意であったから[Z,W][Z,W]はDDに属する。▨

2 積分多様体と可積分性

定義 2.1.MMを境界を持たないnn次元C∞C^\infty多様体、DDをMM上の階数kkのC∞C^\infty分布とする。DDの積分多様体 (integral manifold) とは、境界を持たないkk次元C∞C^\infty多様体NNと単射なはめ込みι:N→M\iota:N\to Mの組であって、すべてのq∈Nq\in Nに対して

dιq(TqN)=Dι(q)d\iota_q(T_qN)=D_{\iota(q)}

を満たすもののことをいう。MMの各点を通るDDの積分多様体が存在するとき、DDは可積分 (integrable distribution) であるという。

§E17.5 定義 4.4は、単射なはめ込みι:N→M\iota:N\to Mに対して、その像ι(N)⊆M\iota(N)\subseteq Mへι\iotaが微分同相になるようにNNの位相とC∞C^\infty構造を移した対象をMMのはめ込み部分多様体と呼んでいる。組(N,ι)(N,\iota)と、像に構造を移した対象とは互いに定め合うので、本記事と「葉層と葉」では、はめ込み部分多様体を表すのに写像ι:N→M\iota:N\to Mの形を用い、必要に応じて像ι(N)\iota(N)と同一視する。

定義 2.2.MMを境界を持たないnn次元C∞C^\infty多様体、DDをMM上の階数kkのC∞C^\infty分布とする。MMのチャート(U,χ)(U,\chi)、χ=(t1,…,tk,uk+1,…,un)\chi=(t^1,\dots,t^k,u^{k+1},\dots,u^n)がDDに対する平坦チャート (flat chart) であるとは、χ(U)\chi(U)がRn\mathbb{R}^nの開直方体であり、すべてのq∈Uq\in Uに対して

Dq=span⁡{∂∂t1∣q,…,∂∂tk∣q}D_q=\operatorname{span}\left\{\frac{\partial}{\partial t^1}\Big|_q,\dots,\frac{\partial}{\partial t^k}\Big|_q\right\}

が成り立つことをいう。定数c=(ck+1,…,cn)c=(c^{k+1},\dots,c^n)に対して

Pc={q∈U: uk+1(q)=ck+1,…,un(q)=cn}P_c=\{q\in U:\ u^{k+1}(q)=c^{k+1},\dots,u^n(q)=c^n\}

を平坦チャートの板 (plaque) という。

命題 2.3.MMを境界を持たないnn次元C∞C^\infty多様体、DDをMM上の階数kkのC∞C^\infty分布とする。(U,χ)(U,\chi)をDDに対する平坦チャートとすると、各板PcP_c(空でないもの)はMMのkk次元埋め込み部分多様体であり、DDの積分多様体である。とくに、DDに対する平坦チャートが各点の周りに存在すればDDは可積分である。

証明.χ(U)\chi(U)は開直方体I1×⋯×InI_1\times\cdots\times I_nであるから、χ(Pc)=I1×⋯×Ik×{c}\chi(P_c)=I_1\times\cdots\times I_k\times\{c\}である。χ\chiをPcP_cへ制限し最初のkk座標を取る写像は、PcP_c(MMからの相対位相)からI1×⋯×IkI_1\times\cdots\times I_kへの同相写像であり、これを唯一のチャートとしてPcP_cにkk次元C∞C^\infty多様体の構造を与えると、包含写像Pc→MP_c\to Mは座標表示が(t1,…,tk)↦(t1,…,tk,c)(t^1,\dots,t^k)\mapsto(t^1,\dots,t^k,c)であるからC∞C^\inftyな埋め込みである。その微分は∂/∂ti\partial/\partial t^i(1≤i≤k1\le i\le k)を張るkk次元部分空間へ写すので、TqPc=span⁡{∂/∂ti∣q}=DqT_qP_c=\operatorname{span}\{\partial/\partial t^i|_q\}=D_qである。▨

3 可積分ならば対合的である

補題 3.1.MMを境界を持たないC∞C^\infty多様体、NNを境界を持たないkk次元C∞C^\infty多様体、ι:N→M\iota:N\to Mを単射なはめ込み、V⊆MV\subseteq Mを開集合、Z∈X(V)Z\in\mathfrak{X}(V)とする。すべてのq∈ι−1(V)q\in\iota^{-1}(V)に対してZι(q)∈dιq(TqN)Z_{\iota(q)}\in d\iota_q(T_qN)が成り立つならば、Z~∈X(ι−1(V))\widetilde Z\in\mathfrak{X}(\iota^{-1}(V))であってdιq(Z~q)=Zι(q)d\iota_q(\widetilde Z_q)=Z_{\iota(q)}を満たすものがただ一つ存在する。とくにZ~\widetilde ZとZZはι\iotaに関して関連する。

証明. 各qqにおいてdιqd\iota_qは単射であるから、Z~q\widetilde Z_qは存在すれば一意であり、仮定により存在する。Z~\widetilde ZがC∞C^\infty切断であることを示せばよい。

q∈ι−1(V)q\in\iota^{-1}(V)を取る。ι\iotaははめ込みであるからrank⁡dι\operatorname{rank}d\iotaは至るところkkである。§E17.5 定理 3.1により、qqの周りのチャート(W,α)(W,\alpha)とι(q)\iota(q)の周りのチャート(U,β)(U,\beta)であってι(W)⊆U⊆V\iota(W)\subseteq U\subseteq Vかつ

β∘ι∘α−1(v1,…,vk)=(v1,…,vk,0,…,0)\beta\circ\iota\circ\alpha^{-1}(v^1,\dots,v^k)=(v^1,\dots,v^k,0,\dots,0)

となるものが存在する。α\alphaの座標を(v1,…,vk)(v^1,\dots,v^k)、β\betaの座標を(x1,…,xn)(x^1,\dots,x^n)と書くと、この表示から

dιr(∂∂va∣r)=∂∂xa∣ι(r)(1≤a≤k, r∈W)d\iota_r\left(\frac{\partial}{\partial v^a}\Big|_r\right)=\frac{\partial}{\partial x^a}\Big|_{\iota(r)} \qquad(1\le a\le k,\ r\in W)

である。Z∣U=∑j=1nZj ∂/∂xjZ|_U=\sum_{j=1}^{n}Z^j\,\partial/\partial x^jと書く。仮定Zι(r)∈dιr(TrN)=span⁡{∂/∂xa∣ι(r):1≤a≤k}Z_{\iota(r)}\in d\iota_r(T_rN)=\operatorname{span}\{\partial/\partial x^a|_{\iota(r)}:1\le a\le k\}によりZj(ι(r))=0Z^j(\iota(r))=0(j>kj>k)であり、

Z~r=∑a=1kZa(ι(r)) ∂∂va∣r\widetilde Z_r=\sum_{a=1}^{k}Z^a(\iota(r))\,\frac{\partial}{\partial v^a}\Big|_r

である。Za∘ιZ^a\circ\iotaはWW上のC∞C^\infty関数であるから、Z~\widetilde ZはWW上でC∞C^\inftyである。qqは任意であった。▨

定理 3.2.MM上の階数kkのC∞C^\infty分布DDが可積分ならば、DDは対合的である。

証明.V⊆MV\subseteq Mを開集合、Z,W∈X(V)Z,W\in\mathfrak{X}(V)をDDに属するものとし、p∈Vp\in Vを取る。仮定によりppを通るDDの積分多様体ι:N→M\iota:N\to Mが存在する。q∈Nq\in Nをι(q)=p\iota(q)=pとなる点とする。

すべてのr∈ι−1(V)r\in\iota^{-1}(V)に対してZι(r)∈Dι(r)=dιr(TrN)Z_{\iota(r)}\in D_{\iota(r)}=d\iota_r(T_rN)であるから、補題 3.1によりZ~∈X(ι−1(V))\widetilde Z\in\mathfrak{X}(\iota^{-1}(V))が存在してZ~\widetilde ZとZ∣VZ|_Vはι\iotaに関して関連する。WWについても同様にW~\widetilde Wを取る。§E17.7 定理 2.6により[Z~,W~][\widetilde Z,\widetilde W]と[Z,W][Z,W]はι\iotaに関して関連する。したがって

[Z,W]p=dιq([Z~,W~]q)∈dιq(TqN)=Dp[Z,W]_p=d\iota_q\bigl([\widetilde Z,\widetilde W]_q\bigr)\in d\iota_q(T_qN)=D_p

である。p∈Vp\in Vは任意であったから[Z,W][Z,W]はDDに属する。▨

4 括弧積の消える局所枠

逆向きの含意の証明は、対合的な分布に対して特別な形の局所枠を作ることから始まる。

補題 4.1.DDをMM上の階数kkの対合的なC∞C^\infty分布とし、p∈Mp\in Mとする。このときppの周りのチャート(U,φ)(U,\varphi)、φ=(x1,…,xn)\varphi=(x^1,\dots,x^n)と、UU上のDDの局所枠(Y1,…,Yk)(Y_1,\dots,Y_k)であって

Yi=∂∂xi+∑a=k+1nYia ∂∂xa(1≤i≤k),Y_i=\frac{\partial}{\partial x^i}+\sum_{a=k+1}^{n}Y_i^a\,\frac{\partial}{\partial x^a} \qquad(1\le i\le k),[Yi,Yj]=0(1≤i,j≤k)[Y_i,Y_j]=0\qquad(1\le i,j\le k)

を満たすものが存在する。

証明.ppの周りのチャート(U0,φ)(U_0,\varphi)と、U0U_0上のDDの局所枠(X1,…,Xk)(X_1,\dots,X_k)を取る(必要ならばU0U_0を縮めて両方が同じ定義域を持つようにする)。Xi=∑j=1nXij ∂/∂xjX_i=\sum_{j=1}^{n}X_i^j\,\partial/\partial x^jと書くと、k×nk\times n行列(Xij)(X_i^j)の階数は各点でkkである。ppにおいて一次独立なkk個の列を選び、座標の番号を付け替えて、B=(Xij)1≤i,j≤kB=(X_i^j)_{1\le i,j\le k}がppで正則であるとしてよい。det⁡B\det Bは連続であるから、ppの開近傍U⊆U0U\subseteq U_0の上でBBは正則である。C=B−1C=B^{-1}と置くと、Cramer の公式によりCCの成分はUU上のC∞C^\infty関数である。

Yi=∑l=1kCi l Xl(1≤i≤k)Y_i=\sum_{l=1}^{k}C_i^{\ l}\,X_l\qquad(1\le i\le k)

と定めると、CCは各点で正則であるから(Y1,…,Yk)(Y_1,\dots,Y_k)はUU上のDDの局所枠である。最初のkk個の座標成分は

Yij=∑l=1kCi lXlj=(CB)i j=δi j(1≤i,j≤k)Y_i^j=\sum_{l=1}^{k}C_i^{\ l}X_l^j=(CB)_i^{\ j}=\delta_i^{\ j}\qquad(1\le i,j\le k)

であり、主張の形が得られる。

[Yi,Yj]=0[Y_i,Y_j]=0を示す。YiY_iとYjY_jはDDに属するので、対合性により[Yi,Yj][Y_i,Y_j]もDDに属する。(Y1,…,Yk)(Y_1,\dots,Y_k)は各点でDDの基底であるから、各点で

[Yi,Yj]=∑l=1kcl Yl[Y_i,Y_j]=\sum_{l=1}^{k}c^l\,Y_l

と一意に書くことができる。両辺の第mm座標成分(1≤m≤k1\le m\le k)を比べる。右辺の第mm成分は∑l=1kclδl m=cm\sum_{l=1}^{k}c^l\delta_l^{\ m}=c^mである。左辺は§E17.7 命題 1.3により

[Yi,Yj]m=∑r=1n(Yir∂Yjm∂xr−Yjr∂Yim∂xr)[Y_i,Y_j]^m=\sum_{r=1}^{n}\left(Y_i^r\frac{\partial Y_j^m}{\partial x^r}-Y_j^r\frac{\partial Y_i^m}{\partial x^r}\right)

である。1≤m≤k1\le m\le kのときYjm=δj mY_j^m=\delta_j^{\ m}とYim=δi mY_i^m=\delta_i^{\ m}はいずれも定数であるから、すべての偏導関数は00であり、[Yi,Yj]m=0[Y_i,Y_j]^m=0である。したがってcm=0c^m=0(1≤m≤k1\le m\le k)であり、[Yi,Yj]=0[Y_i,Y_j]=0である。▨

5 Frobenius の定理

証明の方針を先に述べる。対合的な分布に対して補題 4.1の枠(Y1,…,Yk)(Y_1,\dots,Y_k)を取る。各YiY_iの流れをθi\theta^iとし、分布の方向に横断的な(n−k)(n-k)次元の小片σ\sigmaを一つ選んで、

Φ(t1,…,tk,u)=θt11∘⋯∘θtkk(σ(u))\Phi(t^1,\dots,t^k,u)=\theta^1_{t^1}\circ\cdots\circ\theta^k_{t^k}\bigl(\sigma(u)\bigr)

と定める。Φ\PhiがC∞C^\infty写像であることは、流れが時刻と初期点の両方についてC∞C^\inftyであること(§E17.6 定理 7.1)から従う。ここで初期点についての滑らかさが本質的である。Φ\Phiは流れを合成して作るので、内側の流れの出力が外側の流れの初期点になるからである。

次にdΦ0d\Phi_0が同型であることを確かめて逆関数定理を適用し、Φ\Phiが微分同相であることを得る。最後に、括弧積が消えることから流れが可換であること(§E17.7 定理 4.1)を用いて

∂Φ∂ti=Yi∘Φ\frac{\partial\Phi}{\partial t^i}=Y_i\circ\Phi

を示す。これはΦ−1\Phi^{-1}をチャートとして取ると座標ベクトル場∂/∂ti\partial/\partial t^iがYiY_iに一致することを意味し、平坦チャートが得られる。可換性を使うのはこの最後の段である。可換性がなければ、tit^iについて微分するときにθtii\theta^i_{t^i}を先頭へ移すことができない。

定理 5.1 (Frobenius の定理(対合性版)).DDをMM上の階数kkのC∞C^\infty分布とする。次は同値である。

  1. DDは可積分である。
  2. DDは対合的である。

さらにこのとき、MMの各点ppに対してppを含むDDの平坦チャート(U,χ)(U,\chi)、χ=(t1,…,tk,uk+1,…,un)\chi=(t^1,\dots,t^k,u^{k+1},\dots,u^n)が存在する。すなわちUU上でDDは∂/∂t1,…,∂/∂tk\partial/\partial t^1,\dots,\partial/\partial t^kが張る。

証明.条件 (a)⇒\Rightarrow(b)は定理 3.2である。条件 (b)を仮定して平坦チャートを構成すれば、命題 2.3により条件 (a)が従う。以下、平坦チャートを構成する。

p∈Mp\in Mを取る。補題 4.1のチャート(U,φ)(U,\varphi)、φ=(x1,…,xn)\varphi=(x^1,\dots,x^n)と局所枠(Y1,…,Yk)(Y_1,\dots,Y_k)を取る。φ(p)=0\varphi(p)=0かつφ(U)\varphi(U)が原点を含む開直方体であるとしてよい。UUはMMの開部分多様体であり(§E17.1 命題 7.1)、各YiY_iはUU上のC∞C^\inftyベクトル場であるから、§E17.6 定理 7.1によりUU上の流れθi\theta^iを持つ。

横断的な小片を取る。δ>0\delta>0を十分小さく取り、

σ(uk+1,…,un)=φ−1(0,…,0,uk+1,…,un)\sigma(u^{k+1},\dots,u^n)=\varphi^{-1}(0,\dots,0,u^{k+1},\dots,u^n)

が∣ua∣<δ|u^a|<\delta(k+1≤a≤nk+1\le a\le n)で定義されるようにする。σ\sigmaはC∞C^\infty写像である。

Φ\Phiを定める。§E17.6 定理 7.1により各θi\theta^iの定義域は開集合であり、θi(0,q)=q\theta^i(0,q)=qである。σ(0)=p\sigma(0)=pであるから、ε>0\varepsilon>0とδ\deltaを十分小さく取り直すと、∣ti∣<ε|t^i|<\varepsilon(1≤i≤k1\le i\le k)と∣ua∣<δ|u^a|<\deltaに対して

Φ(t1,…,tk,u)=θt11∘θt22∘⋯∘θtkk(σ(u))\Phi(t^1,\dots,t^k,u)=\theta^1_{t^1}\circ\theta^2_{t^2}\circ\cdots\circ\theta^k_{t^k}\bigl(\sigma(u)\bigr)

が定義される。実際、内側から順に、各段の写像が定義される開集合へ前の段の値が入るようにε\varepsilonとδ\deltaを縮めればよい。有限回の操作である。§E17.6 定理 7.1により各θi\theta^iは(t,q)(t,q)についてC∞C^\inftyであるから、Φ\PhiはC∞C^\infty写像である。W={(t,u):∣ti∣<ε, ∣ua∣<δ}W=\{(t,u):|t^i|<\varepsilon,\ |u^a|<\delta\}と置く。

dΦ0d\Phi_0を計算する。t=0t=0、u=0u=0において、tit^i以外の変数を00に固定するとΦ(0,…,ti,…,0,0)=θtii(p)\Phi(0,\dots,t^i,\dots,0,0)=\theta^i_{t^i}(p)であるから

∂Φ∂ti(0,0)=Yi∣p(1≤i≤k)\frac{\partial\Phi}{\partial t^i}(0,0)=Y_i|_p\qquad(1\le i\le k)

である。またΦ(0,u)=σ(u)\Phi(0,u)=\sigma(u)であるから

∂Φ∂ua(0,0)=∂∂xa∣p(k+1≤a≤n)\frac{\partial\Phi}{\partial u^a}(0,0)=\frac{\partial}{\partial x^a}\Big|_p\qquad(k+1\le a\le n)

である。補題 4.1によりYi∣p=∂/∂xi∣p+∑a=k+1nYia(p) ∂/∂xa∣pY_i|_p=\partial/\partial x^i|_p+\sum_{a=k+1}^{n}Y_i^a(p)\,\partial/\partial x^a|_pであるから、基底{∂/∂xj∣p}\{\partial/\partial x^j|_p\}に関するdΦ0d\Phi_0の行列は

(Ik0∗In−k)\begin{pmatrix}I_k&0\\ \ast&I_{n-k}\end{pmatrix}

の形であり、行列式は11である。よってdΦ0d\Phi_0は同型である。

逆関数定理を適用する。Φ^=φ∘Φ:W→φ(U)⊆Rn\widehat\Phi=\varphi\circ\Phi:W\to\varphi(U)\subseteq\mathbb{R}^nはC∞C^\infty写像であり、DΦ^(0)D\widehat\Phi(0)は正則である。§E4.7 定理 2.1によりΦ^\widehat\Phiは00の近傍からΦ^(0)=0\widehat\Phi(0)=0の近傍への全単射であって局所逆写像ggはC1C^1級であり、§E17.5 補題 1.1によりggはC∞C^\infty級である。したがって00を含む開直方体W′⊆WW'\subseteq Wを十分小さく取ると、Φ∣W′:W′→Φ(W′)\Phi|_{W'}:W'\to\Phi(W')は微分同相でありΦ(W′)\Phi(W')はMMの開集合である。以下、WWをこのW′W'に取り替える。WWは00を含む開直方体であるとしてよい。

座標ベクトル場を同定する。χ=Φ−1:Φ(W)→W\chi=\Phi^{-1}:\Phi(W)\to Wをチャートとし、その座標成分を(t1,…,tk,uk+1,…,un)(t^1,\dots,t^k,u^{k+1},\dots,u^n)と書く。1≤i≤k1\le i\le kを固定する。補題 4.1により[Ym,Yi]=0[Y_m,Y_i]=0であるから、§E17.7 定理 4.1 条件 (b)をX=YmX=Y_m、Y=YiY=Y_iに適用して

d(θsm)q(Yi∣q)=Yi∣θsm(q)(1)d(\theta^m_{s})_q\bigl(Y_i|_q\bigr)=Y_i|_{\theta^m_s(q)} \tag{1}

が、定義される範囲のすべてのssとqqで成り立つ。

(t,u)∈W(t,u)\in Wを取り、

qi=θtii∘⋯∘θtkk(σ(u))q_i=\theta^i_{t^i}\circ\cdots\circ\theta^k_{t^k}(\sigma(u))

と置く。Φ(t,u)=θt11∘⋯∘θti−1i−1(qi)\Phi(t,u)=\theta^1_{t^1}\circ\cdots\circ\theta^{i-1}_{t^{i-1}}(q_i)である。tit^iについて微分すると、tit^iに依存するのはθtii\theta^i_{t^i}だけであり、∂∂tiθtii(z)=Yi∣θtii(z)\frac{\partial}{\partial t^i}\theta^i_{t^i}(z)=Y_i|_{\theta^i_{t^i}(z)}であるから、連鎖律(§E17.3 定理 5.3)により

∂Φ∂ti(t,u)=d(θt11∘⋯∘θti−1i−1)(Yi∣qi)\frac{\partial\Phi}{\partial t^i}(t,u) =d\bigl(\theta^1_{t^1}\circ\cdots\circ\theta^{i-1}_{t^{i-1}}\bigr)\bigl(Y_i|_{q_i}\bigr)

である。ここで (1) をm=i−1,i−2,…,1m=i-1,i-2,\dots,1の順にi−1i-1回適用すると、右辺はYiY_iのθt11∘⋯∘θti−1i−1(qi)=Φ(t,u)\theta^1_{t^1}\circ\cdots\circ\theta^{i-1}_{t^{i-1}}(q_i)=\Phi(t,u)における値に等しい。すなわち

∂Φ∂ti(t,u)=Yi∣Φ(t,u)\frac{\partial\Phi}{\partial t^i}(t,u)=Y_i|_{\Phi(t,u)}

である。左辺はdΦ(t,u)(∂/∂ti∣(t,u))d\Phi_{(t,u)}\bigl(\partial/\partial t^i|_{(t,u)}\bigr)であるから、チャートχ\chiの座標ベクトル場について∂/∂ti=Yi\partial/\partial t^i=Y_iがΦ(W)\Phi(W)上で成り立つ。

(Y1,…,Yk)(Y_1,\dots,Y_k)はDDの局所枠であったから、Φ(W)\Phi(W)の各点でD=span⁡{∂/∂t1,…,∂/∂tk}D=\operatorname{span}\{\partial/\partial t^1,\dots,\partial/\partial t^k\}である。WWは開直方体であるから(Φ(W),χ)(\Phi(W),\chi)は定義 2.2の意味の平坦チャートである。▨

6 例

例 6.1 (階数11の分布はつねに可積分である).DDを階数11のC∞C^\infty分布とし、ZZを局所枠とする。DDに属する二つのC∞C^\inftyベクトル場は局所的にfZfZ、gZgZ(f,gf,gはC∞C^\infty関数)と書くことができ、補題 1.3により

[fZ,gZ]=fg [Z,Z]+f (Zg) Z−g (Zf) Z=(f (Zg)−g (Zf))Z[fZ,gZ]=fg\,[Z,Z]+f\,(Zg)\,Z-g\,(Zf)\,Z=\bigl(f\,(Zg)-g\,(Zf)\bigr)Z

である([Z,Z]=0[Z,Z]=0は交代性による)。右辺はZZの関数倍であるからDDに属する。よって命題 1.5によりDDは対合的であり、定理 5.1により可積分である。積分多様体はZZの積分曲線の像である。

例 6.2 (対合的でない分布).M=R3M=\mathbb{R}^3、座標を(x,y,z)(x,y,z)とし、

X=∂∂x+y∂∂z,Y=∂∂yX=\frac{\partial}{\partial x}+y\frac{\partial}{\partial z},\qquad Y=\frac{\partial}{\partial y}

と置く。XXとYYは各点で一次独立であるから、D(x,y,z)=span⁡{X(x,y,z),Y(x,y,z)}D_{(x,y,z)}=\operatorname{span}\{X_{(x,y,z)},Y_{(x,y,z)}\}は階数22のC∞C^\infty分布である。成分で書くと

D(x,y,z)={(a,b,c)∈R3: c=ya}D_{(x,y,z)}=\left\{(a,b,c)\in\mathbb{R}^3:\ c=ya\right\}

である。実際、aX+bYaX+bYの成分は(a,b,ya)(a,b,ya)である。

§E17.7 例 1.5で計算したとおり[X,Y]=−∂∂z[X,Y]=-\dfrac{\partial}{\partial z}である。∂/∂z\partial/\partial zの成分は(0,0,1)(0,0,1)であり、c=yac=yaに代入すると1=y⋅0=01=y\cdot0=0となって成り立たない。したがって[X,Y](x,y,z)∉D(x,y,z)[X,Y]_{(x,y,z)}\notin D_{(x,y,z)}であり、DDは対合的でない。定理 5.1によりDDは可積分でない。すなわち、DDを接空間に持つ22次元の積分多様体は、R3\mathbb{R}^3のどの点を通っても存在しない。

この分布は各点で22次元の平面を与えるが、それらの平面はyyの変化に伴ってxx軸の周りにねじれていく。yyを止めるごとに平面z=yx+定数z=yx+\text{定数}が積分曲面の候補になるが、yyを動かすと候補どうしが整合しない。対合性が破れているとは、この不整合を括弧積で測ったものである。

例 6.3 (可積分な分布と平坦チャート).M=R3M=\mathbb{R}^3、X=∂∂xX=\dfrac{\partial}{\partial x}、Y=∂∂yY=\dfrac{\partial}{\partial y}とすると[X,Y]=0[X,Y]=0であるから、D=span⁡{X,Y}D=\operatorname{span}\{X,Y\}は対合的である。標準座標(x,y,z)(x,y,z)自身が定義 2.2の意味の平坦チャートであり、板は平面z=cz=cである。

もう一つの例として、M=R3M=\mathbb{R}^3、

X=∂∂x+z∂∂z,Y=∂∂yX=\frac{\partial}{\partial x}+z\frac{\partial}{\partial z},\qquad Y=\frac{\partial}{\partial y}

とする。§E17.7 命題 1.3により、XXの成分は(1,0,z)(1,0,z)、YYの成分は(0,1,0)(0,1,0)であるから

[X,Y]j=∑i=1n(Xi∂iYj−Yi∂iXj)[X,Y]^j=\sum_{i=1}^{n}\left(X^i\partial_iY^j-Y^i\partial_iX^j\right)

の第三成分は1⋅∂x(0)+0+z⋅∂z(0)−(0⋅∂x(z)+1⋅∂y(z)+0)=01\cdot\partial_x(0)+0+z\cdot\partial_z(0)-\bigl(0\cdot\partial_x(z)+1\cdot\partial_y(z)+0\bigr)=0であり、他の成分も00である。よって[X,Y]=0[X,Y]=0でありDDは対合的である。補題 4.1の枠はこの(X,Y)(X,Y)自身である。XXの流れはθt1(x,y,z)=(x+t,y,etz)\theta^1_t(x,y,z)=(x+t,y,e^tz)、YYの流れはθs2(x,y,z)=(x,y+s,z)\theta^2_s(x,y,z)=(x,y+s,z)である(ddt(x+t,y,etz)=(1,0,etz)\frac{d}{dt}(x+t,y,e^tz)=(1,0,e^tz)であり、これはXXの第三成分が第三座標に等しいことと整合する)。横断的な小片をσ(u)=(0,0,u)\sigma(u)=(0,0,u)と取ると

Φ(t,s,u)=θt1(θs2(0,0,u))=(t, s, etu)\Phi(t,s,u)=\theta^1_t\bigl(\theta^2_s(0,0,u)\bigr)=(t,\ s,\ e^tu)

である。Φ\PhiはR3\mathbb{R}^3全体で定義された微分同相であり、逆写像はΦ−1(x,y,z)=(x,y,e−xz)\Phi^{-1}(x,y,z)=(x,y,e^{-x}z)である。この逆写像が定める座標(t,s,u)=(x,y,e−xz)(t,s,u)=(x,y,e^{-x}z)においてDDは∂/∂t\partial/\partial tと∂/∂s\partial/\partial sが張り、板はe−xz=e^{-x}z=定数、すなわち曲面z=cexz=ce^{x}である。この曲面の接空間がDDに一致することは、∂∂x(cex)=cex=z\frac{\partial}{\partial x}(ce^x)=ce^x=zから確かめることができる。

7 演習

問題 7.1.

  1. 注意 1.2の議論では、g(x)=∣x∣g(x)=|x|がx=0x=0で微分可能でないことを用いた。ggをx=0x=0で微分可能だがC1C^1級でない関数(たとえばg(x)=x2sin⁡(1/x)g(x)=x^2\sin(1/x)、g(0)=0g(0)=0)に取り替えると、同じ結論を得ることができるかどうかを判定し、理由を述べよ。
  2. 命題 1.5の証明では、ZZを局所枠で展開する係数がC∞C^\inftyであることを Cramer の公式から示した。この段を省略すると、補題 1.3を適用することができない理由を述べよ。
  3. 補題 4.1の証明で、[Yi,Yj][Y_i,Y_j]の第mm成分(m≤km\le k)が00になったのはYimY_i^mとYjmY_j^mが定数であったからである。B=(Xij)1≤i,j≤kB=(X_i^j)_{1\le i,j\le k}を正則にする座標の付け替えを行わずに元の枠(X1,…,Xk)(X_1,\dots,X_k)でこの議論を試みると、どこで止まるかを説明せよ。
  4. 定理 5.1の証明の最後の段で、条件 (1) をi−1i-1回適用した。i=1i=1の場合に適用回数が00であることを確かめ、i=3i=3の場合に三つの等式を順に書き下せ。
  5. 定理 5.1の証明において、流れが初期点についてC∞C^\inftyであることを使った箇所を特定せよ。時刻についてだけC∞C^\inftyであると仮定した場合に、Φ\Phiについて何を主張することができなくなるかを述べよ。
  6. 例 6.2のDDについて、原点を通る22次元の積分多様体が存在すると仮定して矛盾を導く議論を、定理 3.2の証明の道筋に沿って書き下せ。

8 境界と次

局所性。定理 5.1が与えるのは各点の近傍における平坦チャートであり、大域的な積分多様体ではない。平坦チャートを貼り合わせて多様体全体を分割する葉を作ること、および葉に入る位相と可微分構造が一意に定まることは「葉層と葉」が扱う。

階数の一定性。本記事は階数が一定な分布だけを扱う。階数が点によって変わる族に対する Frobenius 型の定理は本単元の範囲外である。

微分形式による定式化。分布を、一次独立な11形式の共通の零点集合として与える定式化と、可積分性を外積イデアルが外微分で閉じることとして書き換える形は「Frobenius の定理の微分形式による定式化」が扱う。両者を結ぶのは外微分の不変表示dω(X,Y)=X(ω(Y))−Y(ω(X))−ω([X,Y])d\omega(X,Y)=X(\omega(Y))-Y(\omega(X))-\omega([X,Y])であり、この表示は「外微分と不変表示」が証明する。

扱わない事項。葉層の分類、Reeb の安定性定理および葉層のホロノミーは「微分位相幾何」が扱う。本単元は、葉層と葉を定義し、線形葉層と充実トーラス上の Reeb 成分を例として構成するところまでを扱う。解析的な範疇における Frobenius 型の定理、無限次元の場合、および階数が変わる場合の Sussmann の定理も扱わない。

参考文献

  1. John M. Lee, Introduction to Smooth Manifolds, 2nd ed., Graduate Texts in Mathematics 218, Springer, New York, 2013.分布、対合性、Frobenius の定理および平坦チャートの構成を参考にした。
  2. Frank W. Warner, Foundations of Differentiable Manifolds and Lie Groups, Graduate Texts in Mathematics 94, Springer, 1983, originally published 1971.Frobenius の定理の証明と可換な枠の構成を参考にした。

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