§E17.14境界を持つ多様体と境界の向き

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これまで扱ってきた多様体は、各点がRn\mathbb{R}^nの開集合と同相な近傍を持つものであった。閉区間、閉球体、円環面から一部を切り取った領域のように、縁を持つ対象はこの定義に当てはまらない。積分の定理を「内部での積分」と「縁での積分」の等式として述べるためには、縁を持つ対象を多様体として扱う言葉が要る。

本記事は、Rn\mathbb{R}^nの開集合の代わりに半空間

Hn={x=(x1,…,xn)∈Rn∣xn≥0}\mathbb{H}^n=\{x=(x^1,\dots,x^n)\in\mathbb{R}^n\mid x^n\ge 0\}

の相対開集合へのチャートを許して境界を持つ多様体を定義し、境界点であることがチャートのとり方に依らないこと、境界がふたたび多様体になること、境界点においても接空間の次元がnnであることを証明する。続いて向きを最高次外冪の消えない切断として定義し、座標変換の Jacobi 行列式がすべて正であるアトラスの存在と同値であることを示す。最後に、外向きのベクトルを先に置く規約によって境界に向きを誘導する。この規約が「Stokes の定理」における符号を決める。

本記事は多様体の上に Riemann 計量を導入しない。したがって、境界に直交するベクトルを可微分構造だけから定めることはできない。直交性は接空間に内積を選んで初めて定まる。外向きという条件は、内積を用いずにチャートの第nn成分の符号によって述べることができる。この点が本記事の技術的な核である。

位相に関する語(Hausdorff 性、第二可算性、コンパクト性、連結性、局所コンパクト性)は「位相空間論 I」の意味で用いる。逆関数定理は「実解析 II」から引く。

以下、nnは正の整数とする。Hn\mathbb{H}^nにはRn\mathbb{R}^nからの相対位相を与え、∂Hn={x∈Rn∣xn=0}\partial\mathbb{H}^n=\{x\in\mathbb{R}^n\mid x^n=0\}、Int⁡Hn={x∈Rn∣xn>0}\operatorname{Int}\mathbb{H}^n=\{x\in\mathbb{R}^n\mid x^n>0\}と書く。Int⁡Hn\operatorname{Int}\mathbb{H}^nはRn\mathbb{R}^nの開集合である。反対側の半空間を

H−n={x∈Rn∣xn≤0}\mathbb{H}^n_{-}=\{x\in\mathbb{R}^n\mid x^n\le 0\}

と書く。二つの半空間は共通の境界∂Hn\partial\mathbb{H}^nを持つ。n=1n=1で境界を持つ場合に向きを保つチャートを両端で構成するために、局所モデルとして両方を許す(注意 6.5)。

1 半空間の上の微分

半空間の相対開集合はRn\mathbb{R}^nの開集合とは限らないので、その上の写像の滑らかさをまず定義する。

定義 1.1.D⊆HnD\subseteq\mathbb{H}^nをHn\mathbb{H}^nの相対開集合とする。写像f ⁣:D→Rmf\colon D\to\mathbb{R}^mが C∞C^\infty級 (smooth on a half-space) であるとは、各x∈Dx\in Dに対して、Rn\mathbb{R}^nにおけるxxの開近傍WWとC∞C^\infty写像f~ ⁣:W→Rm\tilde f\colon W\to\mathbb{R}^mであってW∩DW\cap Dの上でf~=f\tilde f=fを満たすものが存在することをいう。このf~\tilde fをxxの近くにおけるffの拡張 (smooth extension) という。

DDがRn\mathbb{R}^nの開集合である場合には、f~=f\tilde f=fと取ることができるので、この定義は通常のC∞C^\infty級の定義と一致する。

補題 1.2.D⊆HnD\subseteq\mathbb{H}^nを相対開集合、f ⁣:D→Rmf\colon D\to\mathbb{R}^mをC∞C^\infty級とする。x∈Dx\in Dとxxの近くにおけるffの二つの拡張f~\tilde f、f^\hat fに対してDf~(x)=Df^(x)D\tilde f(x)=D\hat f(x)が成り立つ。この共通の値をDf(x)Df(x)と書く。写像Df ⁣:D→Mm,n(R)Df\colon D\to M_{m,n}(\mathbb{R})はC∞C^\infty級である。さらに、二つのC∞C^\infty写像がDDの上で一致するならば、DDの各点における微分も一致する。

証明.xn>0x^n>0の場合は、DDがxxのRn\mathbb{R}^nにおける開近傍を含むので、その近傍の上でf~=f^=f\tilde f=\hat f=fであり、微分も一致する。

xn=0x^n=0の場合を考える。1≤j≤n−11\le j\le n-1とすると、実数hhに対してx+hejx+he_jの第nn成分は00であるからx+hej∈Hnx+he_j\in\mathbb{H}^nである(eje_jは第jj標準基底ベクトル)。DDはHn\mathbb{H}^nの相対開集合であるから、∣h∣|h|が十分小さければx+hej∈Dx+he_j\in Dである。したがって

∂f~∂xj(x)=lim⁡h→0f~(x+hej)−f~(x)h=lim⁡h→0f(x+hej)−f(x)h\frac{\partial\tilde f}{\partial x^j}(x)=\lim_{h\to 0}\frac{\tilde f(x+he_j)-\tilde f(x)}{h} =\lim_{h\to 0}\frac{f(x+he_j)-f(x)}{h}

であり、右辺はffだけで決まる。j=nj=nの場合、f~\tilde fはxxのRn\mathbb{R}^nにおける近傍で微分可能であるから極限lim⁡h→0(f~(x+hen)−f~(x))/h\lim_{h\to 0}\bigl(\tilde f(x+he_n)-\tilde f(x)\bigr)/hが存在する。極限が存在するならば片側極限もそれに等しいので

∂f~∂xn(x)=lim⁡h→0+f(x+hen)−f(x)h\frac{\partial\tilde f}{\partial x^n}(x)=\lim_{h\to 0^{+}}\frac{f(x+he_n)-f(x)}{h}

であり、h>0h>0が小さければx+hen∈Dx+he_n\in Dであるから、右辺もffだけで決まる。よってDf~(x)=Df^(x)D\tilde f(x)=D\hat f(x)である。

DfDfの各成分は∂f~ i/∂xj\partial\tilde f^{\,i}/\partial x^jのDDへの制限であり、∂f~ i/∂xj\partial\tilde f^{\,i}/\partial x^jはC∞C^\inftyであるから、DfDfは定義 1.1の意味でC∞C^\infty級である。最後の主張は、二つの写像がDDの上で一致するならば一方の拡張が他方の拡張でもあることによる。▨

補題 1.3.D,D′⊆HnD,D'\subseteq\mathbb{H}^nを相対開集合、τ ⁣:D→D′\tau\colon D\to D'を全単射とし、τ\tauとτ−1\tau^{-1}がともにC∞C^\infty級であるとする。このとき次が成り立つ。

  1. すべてのx∈Dx\in Dに対してDτ(x)D\tau(x)は可逆であり、D(τ−1)(τ(x))=Dτ(x)−1D(\tau^{-1})(\tau(x))=D\tau(x)^{-1}である。
  2. τ(D∩Int⁡Hn)=D′∩Int⁡Hn\tau\bigl(D\cap\operatorname{Int}\mathbb{H}^n\bigr)=D'\cap\operatorname{Int}\mathbb{H}^nかつτ(D∩∂Hn)=D′∩∂Hn\tau\bigl(D\cap\partial\mathbb{H}^n\bigr)=D'\cap\partial\mathbb{H}^nである。
  3. x∈D∩∂Hnx\in D\cap\partial\mathbb{H}^nに対して、1≤j≤n−11\le j\le n-1のとき∂τn∂xj(x)=0\dfrac{\partial\tau^n}{\partial x^j}(x)=0であり、∂τn∂xn(x)>0\dfrac{\partial\tau^n}{\partial x^n}(x)>0である。

証明.(1)を示す。σ=τ−1\sigma=\tau^{-1}と置く。x∈Dx\in Dを取り、xxの近くにおけるτ\tauの拡張τ~\tilde\tau(開近傍WWの上)と、τ(x)\tau(x)の近くにおけるσ\sigmaの拡張σ~\tilde\sigma(開近傍W′W'の上)を取る。τ~\tilde\tauは連続であるから、WWを小さく取り直してτ~(W)⊆W′\tilde\tau(W)\subseteq W'としてよい。y∈W∩Dy\in W\cap Dに対してσ~(τ~(y))=σ(τ(y))=y\tilde\sigma(\tilde\tau(y))=\sigma(\tau(y))=yであるから、C∞C^\infty写像σ~∘τ~\tilde\sigma\circ\tilde\tauと恒等写像はW∩DW\cap Dの上で一致する。W∩DW\cap DはW∩HnW\cap\mathbb{H}^nの相対開集合でありxxを含むので、補題 1.2の最後の主張により両者のxxにおける微分は一致する。連鎖律(§E4.3 定理 1.1)から

Dσ~(τ(x)) Dτ~(x)=ID\tilde\sigma\bigl(\tau(x)\bigr)\,D\tilde\tau(x)=I

である。τ\tauとσ\sigmaの役割を入れ替えてDτ~(x) Dσ~(τ(x))=ID\tilde\tau(x)\,D\tilde\sigma(\tau(x))=Iも得る。よってDτ(x)D\tau(x)は可逆であり、逆行列はDσ(τ(x))D\sigma(\tau(x))である。

(2)を示す。x∈D∩Int⁡Hnx\in D\cap\operatorname{Int}\mathbb{H}^nとし、τ(x)∈∂Hn\tau(x)\in\partial\mathbb{H}^nと仮定して矛盾を導く。D∩Int⁡HnD\cap\operatorname{Int}\mathbb{H}^nはRn\mathbb{R}^nの開集合であり、その上でτ\tauは通常の意味でC∞C^\infty級である。(1)によりDτ(x)D\tau(x)は可逆であるから、§E4.7 定理 2.1によりxxの開近傍O0⊆D∩Int⁡HnO_0\subseteq D\cap\operatorname{Int}\mathbb{H}^nとτ(x)\tau(x)の開近傍V0⊆RnV_0\subseteq\mathbb{R}^nが存在してτ ⁣:O0→V0\tau\colon O_0\to V_0は全単射になる。とくにV0⊆τ(D)=D′⊆HnV_0\subseteq\tau(D)=D'\subseteq\mathbb{H}^nである。ところがV0V_0はRn\mathbb{R}^nの開集合でありτ(x)\tau(x)の第nn成分は00であるから、V0V_0は第nn成分が負である点を含む。これはV0⊆HnV_0\subseteq\mathbb{H}^nに反する。よってτ(D∩Int⁡Hn)⊆D′∩Int⁡Hn\tau\bigl(D\cap\operatorname{Int}\mathbb{H}^n\bigr)\subseteq D'\cap\operatorname{Int}\mathbb{H}^nである。同じ議論をσ\sigmaに適用すると逆の包含を得るので、二つは等しい。τ\tauは全単射であるから、残りの部分どうしも対応し、τ(D∩∂Hn)=D′∩∂Hn\tau\bigl(D\cap\partial\mathbb{H}^n\bigr)=D'\cap\partial\mathbb{H}^nである。

(3)を示す。(2)により、(x′,0)∈D(x',0)\in Dを満たすすべてのx′x'に対してτn(x′,0)=0\tau^n(x',0)=0である。1≤j≤n−11\le j\le n-1とするとx+hejx+he_jの第nn成分は00であるから、補題 1.2の証明で見たとおり

∂τn∂xj(x)=lim⁡h→0τn(x+hej)−τn(x)h=0\frac{\partial\tau^n}{\partial x^j}(x)=\lim_{h\to 0}\frac{\tau^n(x+he_j)-\tau^n(x)}{h}=0

である。また

∂τn∂xn(x)=lim⁡h→0+τn(x+hen)−0h\frac{\partial\tau^n}{\partial x^n}(x)=\lim_{h\to 0^{+}}\frac{\tau^n(x+he_n)-0}{h}

であり、τn≥0\tau^n\ge 0かつh>0h>0であるから右辺は00以上である。もし00ならば、Dτ(x)D\tau(x)の第nn行がすべて00になり 1 の可逆性に反する。よって正である。▨

2 境界を持つ多様体

補題 2.1.Rn ⁣:Rn→RnR_n\colon\mathbb{R}^n\to\mathbb{R}^n、Rn(x1,…,xn−1,xn)=(x1,…,xn−1,−xn)R_n(x^1,\dots,x^{n-1},x^n)=(x^1,\dots,x^{n-1},-x^n)と置く。RnR_nはdet⁡Rn=−1\det R_n=-1を満たす線形同型であり、Rn∘Rn=id⁡R_n\circ R_n=\operatorname{id}、Rn(H−n)=HnR_n(\mathbb{H}^n_{-})=\mathbb{H}^n、Rn(∂Hn)=∂HnR_n(\partial\mathbb{H}^n)=\partial\mathbb{H}^nである。したがってD⊆H−nD\subseteq\mathbb{H}^n_{-}がH−n\mathbb{H}^n_{-}の相対開集合であることと、Rn(D)R_n(D)がHn\mathbb{H}^nの相対開集合であることは同値であり、f ⁣:D→Rmf\colon D\to\mathbb{R}^mについて、ffが定義 1.1と同じ意味でC∞C^\infty級であることとf∘Rnf\circ R_nがRn(D)R_n(D)の上でC∞C^\infty級であることは同値である。Df(x)=D(f∘Rn)(Rnx) RnDf(x)=D(f\circ R_n)(R_n x)\,R_nである。

証明.RnR_nは成分の符号を一つ変える線形写像であるから、主張した代数的な性質は直ちに従う。RnR_nはRn\mathbb{R}^nの同相写像であるから相対開集合を相対開集合へ写す。f~\tilde fがxxの近くにおけるffの拡張であることと、f~∘Rn\tilde f\circ R_nがRnxR_nxの近くにおけるf∘Rnf\circ R_nの拡張であることは同値であり、最後の等式は連鎖律(§E4.3 定理 1.1)による。▨

以上により、H−n\mathbb{H}^n_{-}の相対開集合に関する主張は、RnR_nを合成することですべてHn\mathbb{H}^nの相対開集合に関する主張へ帰着する。以下では定義 1.1、補題 1.2、補題 1.3を、H−n\mathbb{H}^n_{-}の相対開集合に対してもこの帰着によって用いる。

Rn\mathbb{R}^nの開集合、Hn\mathbb{H}^nの相対開集合、およびH−n\mathbb{H}^n_{-}の相対開集合をまとめて許容領域と呼ぶ。Rn\mathbb{R}^nの開集合であってHn\mathbb{H}^nに含まれるものはInt⁡Hn\operatorname{Int}\mathbb{H}^nに含まれる。定義 1.1は許容領域の上の写像に対してそのまま意味を持ち、Rn\mathbb{R}^nの開集合の場合には通常のC∞C^\infty級と一致する。

定義 2.2.MMを Hausdorff かつ第二可算な位相空間とする。MMの境界付きチャート (chart with boundary) とは、MMの開集合UUと、UUから許容領域φ(U)⊆Rn\varphi(U)\subseteq\mathbb{R}^nへの同相写像φ\varphiの組(U,φ)(U,\varphi)をいう。二つの境界付きチャート(U,φ)(U,\varphi)、(V,ψ)(V,\psi)が両立する (compatible charts with boundary) とは、U∩V=∅U\cap V=\varnothingであるか、または座標変換

ψ∘φ−1 ⁣:φ(U∩V)⟶ψ(U∩V)\psi\circ\varphi^{-1}\colon\varphi(U\cap V)\longrightarrow\psi(U\cap V)

とその逆写像がともに定義 1.1の意味でC∞C^\infty級であることをいう。互いに両立する境界付きチャートの族であって定義域がMMを覆うものをnn次元C∞C^\infty境界付きアトラスといい、極大な境界付きアトラスを一つ与えたMMを nn次元C∞C^\infty境界付き多様体 (nn-dimensional smooth manifold with boundary) という。極大アトラスの存在と一意性は§E17.1 命題 2.3と同じ議論による。

境界付きチャート(U,φ)(U,\varphi)が正の型の境界チャート (positive-type boundary chart) であるとは、φ(U)\varphi(U)がHn\mathbb{H}^nの相対開集合であり、かつφ(U)∩∂Hn≠∅\varphi(U)\cap\partial\mathbb{H}^n\ne\varnothingであることをいう。Hn\mathbb{H}^nをH−n\mathbb{H}^n_{-}へ取り替えたものを負の型の境界チャート (negative-type boundary chart) という。両者をあわせて境界チャート (boundary chart) といい、境界チャートでないチャートを内部チャート (interior chart) という。p∈Mp\in Mが MMの境界点 (boundary point ofMM) であるとは、ppを含む境界チャート(U,φ)(U,\varphi)であってφ(p)∈∂Hn\varphi(p)\in\partial\mathbb{H}^nを満たすものが存在することをいう。境界点の全体を∂M\partial M、M∖∂MM\setminus\partial MをInt⁡M\operatorname{Int}Mと書き、後者の元を内点 (interior point) という。

一つの境界チャートが正の型と負の型を兼ねることはない。実際、∂Hn\partial\mathbb{H}^nと交わるHn\mathbb{H}^nの空でない相対開集合は第nn成分が正である点を含むので、H−n\mathbb{H}^n_{-}に含まれない。像がRn\mathbb{R}^nの開集合であるチャートについては、その像が∂Hn\partial\mathbb{H}^nと交わることがあるが、上の定義はそのようなチャートを用いない。次の命題が示すとおり、境界点は境界チャートの選び方に依らず定まる。

命題 2.3.MMをnn次元C∞C^\infty境界付き多様体、p∈Mp\in Mとする。ppを含むある境界チャート(U,φ)(U,\varphi)でφ(p)∈∂Hn\varphi(p)\in\partial\mathbb{H}^nが成り立つとする。このとき次の二つが成り立つ。

  1. ppを含むすべての境界チャート(V,ψ)(V,\psi)でψ(p)∈∂Hn\psi(p)\in\partial\mathbb{H}^nである。
  2. ppを含む境界付きチャートで像がRn\mathbb{R}^nの開集合であるものは存在しない。

証明.条件 (a)を示す。負の型の境界チャートについては補題 2.1のRnR_nを合成して正の型へ移し、Rn(∂Hn)=∂HnR_n(\partial\mathbb{H}^n)=\partial\mathbb{H}^nであることを用いれば、主張は正の型の場合に帰着する。よって(U,φ)(U,\varphi)と(V,ψ)(V,\psi)をともに正の型としてよい。τ=ψ∘φ−1\tau=\psi\circ\varphi^{-1}はφ(U∩V)\varphi(U\cap V)からψ(U∩V)\psi(U\cap V)への全単射であり、τ\tauとτ−1\tau^{-1}はともにC∞C^\infty級である。両者はHn\mathbb{H}^nの相対開集合であるから補題 1.3 (2)を適用することができ、ψ(p)=τ(φ(p))∈∂Hn\psi(p)=\tau(\varphi(p))\in\partial\mathbb{H}^nである。

条件 (b)を示す。(V,ψ)(V,\psi)の像がRn\mathbb{R}^nの開集合であるとする。注意 2.4の微分同相Θ\Thetaを用いると(V,Θ∘ψ)(V,\Theta\circ\psi)は像がInt⁡Hn\operatorname{Int}\mathbb{H}^nに含まれる境界付きチャートであり、φ(U)\varphi(U)との座標変換は補題 1.3の対象になる。同補題の補題 1.3 (2)によりΘ(ψ(p))∈∂Hn\Theta(\psi(p))\in\partial\mathbb{H}^nとなるが、Θ\Thetaの像はInt⁡Hn\operatorname{Int}\mathbb{H}^nであるから矛盾する。▨

対偶として、ppを含む境界付きチャートで像がRn\mathbb{R}^nの開集合であるものが一つでもあればppは内点である。

注意 2.4 (境界を持たない多様体は特別な場合である). 写像

Θ ⁣:Rn→Rn−1×(0,∞),Θ(x1,…,xn)=(x1,…,xn−1,exn)\Theta\colon\mathbb{R}^n\to\mathbb{R}^{n-1}\times(0,\infty), \qquad \Theta(x^1,\dots,x^n)=(x^1,\dots,x^{n-1},e^{x^n})

はC∞C^\infty微分同相であり、像はInt⁡Hn\operatorname{Int}\mathbb{H}^nである。したがって、像がRn\mathbb{R}^nの開集合であるチャートにはΘ\Thetaを、負の型の境界チャートには補題 2.1のRnR_nを合成することで、境界付きチャートの像をすべてHn\mathbb{H}^nの相対開集合に取り直すことができる。この取り直しは可微分構造を変えない。

「可微分多様体の定義」の意味のnn次元C∞C^\infty多様体MMは、そのチャートがすべて定義 2.2の境界付きチャートであるからnn次元C∞C^\infty境界付き多様体であり、∂M=∅\partial M=\varnothingである。逆に∂M=∅\partial M=\varnothingを満たす境界付き多様体は、Θ−1\Theta^{-1}を合成することで像がRn\mathbb{R}^nの開集合であるチャートだけからなるアトラスを持つので、境界を持たない多様体である。以下では両者を区別せず、「境界を持つ多様体」といえば∂M=∅\partial M=\varnothingの場合を含めることにする。断りなく「多様体」と書いたときは境界を持たないものを指す。

命題 2.5.Int⁡M\operatorname{Int}MはMMの開集合であり、境界付きチャートの制限によって、境界を持たないnn次元C∞C^\infty多様体になる。

証明.p∈Int⁡Mp\in\operatorname{Int}Mとし、ppを含む境界付きチャート(U,φ)(U,\varphi)を取る。注意 2.4により、φ(U)\varphi(U)はHn\mathbb{H}^nの相対開集合であるとしてよい。φ(p)∈∂Hn\varphi(p)\in\partial\mathbb{H}^nならば(U,φ)(U,\varphi)は境界チャートでありppは境界点になるので、φ(p)∈Int⁡Hn\varphi(p)\in\operatorname{Int}\mathbb{H}^nである。U0=φ−1(φ(U)∩Int⁡Hn)U_0=\varphi^{-1}\bigl(\varphi(U)\cap\operatorname{Int}\mathbb{H}^n\bigr)と置くとU0U_0はMMの開集合でありp∈U0p\in U_0である。U0U_0の各点はチャート(U0,φ∣U0)(U_0,\varphi|_{U_0})の像がInt⁡Hn\operatorname{Int}\mathbb{H}^nに含まれるので、命題 2.3により内点である。よってInt⁡M\operatorname{Int}Mは開集合である。(U0,φ∣U0)(U_0,\varphi|_{U_0})は像がRn\mathbb{R}^nの開集合であるチャートであり、座標変換は通常の意味でC∞C^\infty級であるから、これらの全体はInt⁡M\operatorname{Int}MのC∞C^\inftyアトラスである。▨

定理 2.6.MMをnn次元C∞C^\infty境界付き多様体とし、∂M≠∅\partial M\ne\varnothingとする。∂M\partial MにMMからの部分空間位相を与える。境界チャート(U,φ=(x1,…,xn))(U,\varphi=(x^1,\dots,x^n))に対して

U∂=U∩∂M,φ∂=(x1,…,xn−1)∣U∂U^\partial=U\cap\partial M, \qquad \varphi^\partial=(x^1,\dots,x^{n-1})\big|_{U^\partial}

と定めると、これらの全体は∂M\partial Mの(n−1)(n-1)次元C∞C^\inftyアトラスであり、∂M\partial Mは境界を持たない(n−1)(n-1)次元C∞C^\infty多様体になる。包含写像ι ⁣:∂M→M\iota\colon\partial M\to MはC∞C^\infty埋め込みであり、∂M\partial MはMMの余次元11の埋め込み部分多様体である。さらに、各境界チャートは

φ(U∩∂M)=φ(U)∩(Rn−1×{0})\varphi(U\cap\partial M)=\varphi(U)\cap\bigl(\mathbb{R}^{n-1}\times\{0\}\bigr)

を満たす。

証明.∂M\partial Mは Hausdorff かつ第二可算な空間の部分空間であるから、ふたたび Hausdorff かつ第二可算である。

(U,φ)(U,\varphi)を境界チャートとする。命題 2.3により、q∈Uq\in Uが∂M\partial Mに属することとφ(q)∈∂Hn\varphi(q)\in\partial\mathbb{H}^nであることは同値である。したがってφ(U∩∂M)=φ(U)∩∂Hn\varphi(U\cap\partial M)=\varphi(U)\cap\partial\mathbb{H}^nであり、∂Hn\partial\mathbb{H}^nをRn−1×{0}\mathbb{R}^{n-1}\times\{0\}と同一視すると表示した等式になる。φ(U)\varphi(U)はHn\mathbb{H}^nまたはH−n\mathbb{H}^n_{-}の相対開集合であるから、いずれの場合もφ(U)∩∂Hn\varphi(U)\cap\partial\mathbb{H}^nは∂Hn\partial\mathbb{H}^nの相対開集合であり、第nn成分を落とすとRn−1\mathbb{R}^{n-1}の開集合になる。φ∂\varphi^\partialはこの開集合への同相写像である(φ\varphiが同相写像であり、第nn成分を落とす操作が∂Hn\partial\mathbb{H}^nからRn−1\mathbb{R}^{n-1}への同相写像であることによる)。定義域は∂M\partial Mを覆う。

座標変換を確かめる。(U,φ)(U,\varphi)、(V,ψ)(V,\psi)を境界チャート、τ=ψ∘φ−1\tau=\psi\circ\varphi^{-1}とする。補題 1.3 (2)によりτ\tauは∂Hn\partial\mathbb{H}^nの点を∂Hn\partial\mathbb{H}^nの点へ写す。x′∈Rn−1x'\in\mathbb{R}^{n-1}に対して

ψ∂∘(φ∂)−1(x′)=(τ1(x′,0),…,τn−1(x′,0))\psi^\partial\circ(\varphi^\partial)^{-1}(x')=\bigl(\tau^1(x',0),\dots,\tau^{n-1}(x',0)\bigr)

である。τ\tauはC∞C^\infty級であるから局所的にC∞C^\infty拡張τ~\tilde\tauを持ち、右辺はx′↦τ~i(x′,0)x'\mapsto\tilde\tau^{i}(x',0)(i≤n−1i\le n-1)というC∞C^\infty写像の制限である。よって座標変換はC∞C^\infty級であり、逆も同様である。以上で{(U∂,φ∂)}\{(U^\partial,\varphi^\partial)\}は(n−1)(n-1)次元C∞C^\inftyアトラスである。像はすべてRn−1\mathbb{R}^{n-1}の開集合であるから、∂M\partial Mは境界を持たない。

包含写像の座標表示は

φ∘ι∘(φ∂)−1(x′)=(x′,0)\varphi\circ\iota\circ(\varphi^\partial)^{-1}(x')=(x',0)

であるから、ι\iotaはC∞C^\infty写像であり、その微分は単射a′↦(a′,0)a'\mapsto(a',0)である。ι\iotaは集合の包含であるから単射であり、∂M\partial MにはMMからの部分空間位相を与えたので、ι\iotaは像への同相写像である。したがってι\iotaは埋め込みである。また、表示した座標式は、各境界チャートにおいて∂M\partial Mがxn=0x^n=0というスライスであることを示す。よって∂M\partial MはMMの余次元11の埋め込み部分多様体である。▨

3 境界を持つ多様体の接空間と微分形式

境界点においても接空間はnn次元である。接ベクトルを導分として定義すると、境界点ではC∞(M)C^\infty(M)の局所構造を別に調べる必要が生じる。ここでは座標成分の変換則による記述(§E17.4 定義 1.1)をそのまま用いる。この記述はHn\mathbb{H}^nの相対開集合の上でも意味を持つ。

定義 3.1.MMをnn次元C∞C^\infty境界付き多様体、p∈Mp\in Mとする。ppを含む境界付きチャート(Uα,φα)(U_\alpha,\varphi_\alpha)とa∈Rna\in\mathbb{R}^nの組(α,a)(\alpha,a)の全体に、

(α,a)∼(β,b)  ⟺  b=D(φβ∘φα−1)(φα(p)) a(\alpha,a)\sim(\beta,b) \iff b=D\bigl(\varphi_\beta\circ\varphi_\alpha^{-1}\bigr)\bigl(\varphi_\alpha(p)\bigr)\,a

で同値関係を定める(右辺の Jacobi 行列は補題 1.2により境界点でも定まる)。同値類の全体をTpMT_pMと書き、MMのppにおける接空間 (tangent space of a manifold with boundary) という。チャート(Uα,φα)(U_\alpha,\varphi_\alpha)を固定すると、a↦[(α,a)]a\mapsto[(\alpha,a)]は全単射であり、これによってTpMT_pMに線形空間の構造を与える。φα\varphi_\alphaの成分をx1,…,xnx^1,\dots,x^nと書き、[(α,ei)][(\alpha,e_i)]を∂/∂xi∣p\partial/\partial x^i|_pと書く。同型

d(φα)p ⁣:TpM→Rn,[(α,a)]↦ad(\varphi_\alpha)_p\colon T_pM\to\mathbb{R}^n,\qquad [(\alpha,a)]\mapsto a

を、チャートによる座標表示 (coordinate representation) という。

推移律と、線形空間の構造がチャートのとり方に依らないことは、補題 1.3 (1)と連鎖律から従う。実際、三つのチャートに対する Jacobi 行列は合成の関係を満たし、各 Jacobi 行列は可逆である。

命題 3.2.MMをnn次元C∞C^\infty境界付き多様体とする。

  1. すべてのp∈Mp\in Mに対してdim⁡TpM=n\dim T_pM=nである。境界点においてもnnであり、n−1n-1ではない。
  2. p∈∂Mp\in\partial Mとし、包含写像をι ⁣:∂M→M\iota\colon\partial M\to Mと書く。境界チャート(U,φ)(U,\varphi)に対して dιp(Tp(∂M))={v∈TpM ∣ dφp(v) の第 n 成分が 0}d\iota_p\bigl(T_p(\partial M)\bigr)=\Bigl\{v\in T_pM\ \Bigm|\ d\varphi_p(v)\text{ の第 }n\text{ 成分が }0\Bigr\} であり、これはTpMT_pMの(n−1)(n-1)次元部分空間である。とくに右辺は境界チャートのとり方に依らない。ここでdιpd\iota_pは、φ∂\varphi^\partialの定める座標表示とφ\varphiの定める座標表示のもとでa′↦(a′,0)a'\mapsto(a',0)で定まる単射線形写像である。
  3. MMが境界を持たないときは、TpMT_pMは「接空間と微分写像」の意味の接空間と自然に同型である。

証明.(1)を示す。チャートを一つ固定するとTpMT_pMはRn\mathbb{R}^nと線形同型である。境界点でもチャートの像はHn\mathbb{H}^nの相対開集合であり、aaの動く範囲はRn\mathbb{R}^n全体であるから、次元はnnである。接ベクトルは「MMの内部へ向かう方向」に限られてはいない。

(2)を示す。(U,φ)(U,\varphi)と(V,ψ)(V,\psi)をppを含む二つの境界チャートとし、τ=ψ∘φ−1\tau=\psi\circ\varphi^{-1}、a=dφp(v)a=d\varphi_p(v)、b=dψp(v)=Dτ(φ(p))ab=d\psi_p(v)=D\tau(\varphi(p))aと置く。補題 1.3 (3)により

bn=∑j=1n∂τn∂xj(φ(p))aj=∂τn∂xn(φ(p)) anb^n=\sum_{j=1}^{n}\frac{\partial\tau^n}{\partial x^j}\bigl(\varphi(p)\bigr)a^j =\frac{\partial\tau^n}{\partial x^n}\bigl(\varphi(p)\bigr)\,a^n

であり、係数は正である。よってan=0a^n=0とbn=0b^n=0は同値であり、条件はチャートのとり方に依らない。

ι\iotaの座標表示はψ∂∘ι∘(φ∂)−1\psi^\partial\circ\iota\circ(\varphi^\partial)^{-1}ではなく、φ∘ι∘(φ∂)−1(x′)=(x′,0)\varphi\circ\iota\circ(\varphi^\partial)^{-1}(x')=(x',0)である。その Jacobi 行列はa′↦(a′,0)a'\mapsto(a',0)であり単射であるから、dιpd\iota_pは単射であり、像はan=0a^n=0を満たすベクトルの全体である。この集合は(n−1)(n-1)次元である。

(3)を示す。§E17.4 命題 1.3による。▨

以後、p∈∂Mp\in\partial Mに対してTp(∂M)T_p(\partial M)をdιpd\iota_pによってTpMT_pMの部分空間と同一視する。

境界を持つ多様体の上の微分形式も、成分による判定(§E17.10 命題 2.2)をそのまま定義に採る。

定義 3.3.MMをnn次元C∞C^\infty境界付き多様体、kkを非負整数とする。MM上の kk次微分形式 (kk-form on a manifold with boundary) とは、各p∈Mp\in Mに対して交代kk重線形形式ωp∈Alt⁡k(TpM)\omega_p\in\operatorname{Alt}^k(T_pM)を与える対応ω\omegaであって、すべての境界付きチャート(U,φ=(x1,…,xn))(U,\varphi=(x^1,\dots,x^n))について、増加添字IIに対する成分

ωI=ω(∂∂xi1,…,∂∂xik)\omega_I=\omega\Bigl(\frac{\partial}{\partial x^{i_1}},\dots,\frac{\partial}{\partial x^{i_k}}\Bigr)

がφ\varphiを通してφ(U)\varphi(U)の上のC∞C^\infty関数を与えるものをいう(k=0k=0のときはC∞C^\infty関数そのものである)。全体をΩk(M)\Omega^k(M)と書く。

命題 3.4. 境界を持つ多様体の上の微分形式に対しても、外積・C∞C^\infty写像による引き戻し・外微分が、境界付きチャートの上の同じ座標表示によって定まる。これらは§E17.10 定理 3.5、§E17.10 定理 5.3、§E17.11 定義 2.1の四条件、§E17.11 命題 2.5、§E17.11 命題 3.1、および§E17.10 系 4.3を満たす。∂M=∅\partial M=\varnothingのときは、§E17.10 命題 2.2により§E17.10 定義 2.1の微分形式と一致する。

証明. 挙げた主張はいずれも、各点で成り立つ等式か、または各境界付きチャートの上で成分について成り立つ等式である。したがって一つの境界付きチャート(U,φ)(U,\varphi)の上で確かめれば足りる。

D=φ(U)D=\varphi(U)とし、x0∈Dx_0\in Dを取る。ω\omegaの成分ωI∘φ−1\omega_I\circ\varphi^{-1}はDDの上のC∞C^\infty関数であるから、定義 1.1によりx0x_0のRn\mathbb{R}^nにおける開近傍WWとC∞C^\infty拡張が存在する。有限個の成分に共通のWWを取ることができる。拡張した成分を係数とする微分形式ω~\tilde\omegaは、Rn\mathbb{R}^nの開集合WW(境界を持たない多様体である。§E17.1 命題 7.1)の上の微分形式であり、W∩DW\cap Dの上でω\omegaの座標表示に一致する。

外積と引き戻しは成分の和と積だけで書かれ、外微分は成分の偏導関数を係数とする(§E17.11 定理 2.4)。補題 1.2により、DDの上のC∞C^\infty関数の偏導関数は拡張のとり方に依らず、拡張の偏導関数の制限である。したがって、WWの上で成り立つ挙げた等式をW∩DW\cap Dへ制限すると、DDの上の等式になる。x0x_0は任意であったから、DDの全体で成り立つ。引き戻しについては、C∞C^\infty写像FFの座標表示も同じく局所的にC∞C^\infty拡張を持つので、同じ議論が通用する。▨

4 正則な劣位集合

境界を持つ多様体の具体例は、関数の劣位集合として得られる。

命題 4.1.NNを境界を持たないnn次元C∞C^\infty多様体、f∈C∞(N)f\in C^\infty(N)、c∈Rc\in\mathbb{R}とし、f−1(c)f^{-1}(c)のすべての点ppでdfp≠0df_p\ne 0であるとする。M={p∈N∣f(p)≤c}M=\{p\in N\mid f(p)\le c\}が空でなければ、MMは部分空間位相のもとでnn次元C∞C^\infty境界付き多様体であり、∂M=f−1(c)\partial M=f^{-1}(c)である。さらに、f−1(c)f^{-1}(c)の点ppの周りにNNのチャート(U,φ=(x1,…,xn))(U,\varphi=(x^1,\dots,x^n))であってxn=c−fx^n=c-fを満たすものが存在し、(U∩M,φ∣U∩M)(U\cap M,\varphi|_{U\cap M})がMMの境界チャートを与える。

証明.MMは Hausdorff かつ第二可算な空間の部分空間であるから、同じ二つの性質を持つ。

f(p)<cf(p)<cの場合。{f<c}\{f<c\}はNNの開集合であるから、NNのチャートをそこへ制限したものは像がRn\mathbb{R}^nの開集合であり、定義 2.2の意味の境界付きチャートである。

f(p)=cf(p)=cの場合。ppを含むNNのチャート(V,ψ=(y1,…,yn))(V,\psi=(y^1,\dots,y^n))を取る。f^=f∘ψ−1\hat f=f\circ\psi^{-1}と置くとdfp≠0df_p\ne 0から、あるkkについて∂f^/∂yk(ψ(p))≠0\partial\hat f/\partial y^k(\psi(p))\ne 0である。G ⁣:ψ(V)→RnG\colon\psi(V)\to\mathbb{R}^nを

G(y)=(y1,…,yk^,…,yn, c−f^(y))G(y)=\bigl(y^1,\dots,\widehat{y^k},\dots,y^n,\ c-\hat f(y)\bigr)

で定める(yk^\widehat{y^k}はその成分を省くことを表す)。GGの Jacobi 行列は、最初のn−1n-1行がyky^k以外の座標への射影であり、最後の行が−∇f^-\nabla\hat fであるから、行列式を第kk列について展開すると±∂f^/∂yk\pm\partial\hat f/\partial y^kになり、ψ(p)\psi(p)で00でない。§E4.7 定理 2.1と§E17.5 補題 1.1により、ψ(p)\psi(p)の開近傍OOが存在してG∣OG|_Oは像へのC∞C^\infty微分同相である。

U=ψ−1(O)U=\psi^{-1}(O)、φ=G∘ψ∣U\varphi=G\circ\psi|_Uと置くと(U,φ)(U,\varphi)はNNのチャートであり、その第nn成分はc−fc-fである。よって

U∩M={q∈U∣φn(q)≥0},φ(U∩M)=φ(U)∩HnU\cap M=\{q\in U\mid \varphi^n(q)\ge 0\}, \qquad \varphi(U\cap M)=\varphi(U)\cap\mathbb{H}^n

であり、右辺はHn\mathbb{H}^nの相対開集合である。φ∣U∩M\varphi|_{U\cap M}は同相写像である。

以上で得た境界付きチャートどうしの座標変換は、NNのチャートの座標変換の制限であるからC∞C^\infty級であり、逆も同様である。したがってMMはnn次元C∞C^\infty境界付き多様体である。上の記述から、q∈U∩Mq\in U\cap Mが境界点であることとf(q)=cf(q)=cであることは同値であり、内部チャートの点はすべてf<cf<cを満たすので∂M=f−1(c)\partial M=f^{-1}(c)である。▨

例 4.2 (閉球体と球面).N=RnN=\mathbb{R}^n、f(x)=∑i=1n(xi)2f(x)=\sum_{i=1}^{n}(x^i)^2、c=1c=1とする。f−1(1)=Sn−1f^{-1}(1)=S^{n-1}の点でdfx=2∑i=1nxi dxi≠0df_x=2\sum_{i=1}^{n}x^i\,dx^i\ne 0である(x≠0x\ne 0による)。したがって命題 4.1により閉球体

B‾n={x∈Rn∣∥x∥≤1}\overline{B}^n=\{x\in\mathbb{R}^n\mid \lVert x\rVert\le 1\}

はnn次元C∞C^\infty境界付き多様体であり、∂B‾n=Sn−1\partial\overline{B}^n=S^{n-1}である。

この境界に定理 2.6が与える可微分構造は、§E17.1 命題 5.1の立体射影のアトラスが定めるものと一致する。実際、p∈Sn−1p\in S^{n-1}でpk≠0p^k\ne 0とすると、命題 4.1の構成が与える境界チャートの座標は(x1,…,xk^,…,xn)(x^1,\dots,\widehat{x^k},\dots,x^n)である。その定義域ではxkx^kの符号が一定であり、

xk=±1−∑1≤i≤ni≠k(xi)2x^k=\pm\sqrt{1-\sum_{\substack{1\le i\le n\\ i\ne k}}(x^i)^2}

は根号の中が正である範囲でC∞C^\infty関数である。立体射影φN(x)=(x1,…,xn−1)/(1−xn)\varphi_N(x)=(x^1,\dots,x^{n-1})/(1-x^n)をこの座標で書くと、成分はx1,…,xk^,…,xnx^1,\dots,\widehat{x^k},\dots,x^nのC∞C^\infty関数になる。逆向きも、φN−1\varphi_N^{-1}の成分がuuの有理式であることからC∞C^\inftyである。したがって二つのアトラスは両立し、同じ極大アトラスを定める。

5 境界を持つ多様体の上の1の分割

向きの二つの定義を結ぶために、1の分割を境界を持つ場合へ広げておく。

補題 5.1.MMをnn次元C∞C^\infty境界付き多様体とする。

  1. MMは局所コンパクトである。すなわち各点はコンパクトな近傍を持つ。
  2. p∈Mp\in Mとppを含む開集合VVに対して、C∞C^\infty関数χ ⁣:M→[0,1]\chi\colon M\to[0,1]であって、ppを含むある開集合の上でχ≡1\chi\equiv 1であり、supp⁡χ\operatorname{supp}\chiがコンパクトかつsupp⁡χ⊆V\operatorname{supp}\chi\subseteq Vを満たすものが存在する。
  3. MMの任意の開被覆{Uα}α∈A\{U_\alpha\}_{\alpha\in A}に対して、§E17.2 定義 4.1の三条件を満たす族{ψα}α∈A\{\psi_\alpha\}_{\alpha\in A}が存在する。

証明.(1)を示す。ppを含む境界付きチャート(U,φ)(U,\varphi)を取る。注意 2.4によりφ(U)\varphi(U)はHn\mathbb{H}^nの相対開集合であるとしてよい。このときRn\mathbb{R}^nの開集合W^\hat Wでφ(U)=W^∩Hn\varphi(U)=\hat W\cap\mathbb{H}^nを満たすものが存在する。Br(φ(p))‾⊆W^\overline{B_r(\varphi(p))}\subseteq\hat Wとなるr>0r>0を取ると、C=Br(φ(p))‾∩HnC=\overline{B_r(\varphi(p))}\cap\mathbb{H}^nはRn\mathbb{R}^nの有界閉集合であるからコンパクトであり、C⊆φ(U)C\subseteq\varphi(U)である。φ−1(C)\varphi^{-1}(C)はφ−1(Br(φ(p))∩Hn)\varphi^{-1}\bigl(B_r(\varphi(p))\cap\mathbb{H}^n\bigr)を含むのでコンパクトな近傍である。

(2)を示す。最初にチャートの定義域をU∩VU\cap Vへ制限する。そのうえでrrを小さく取り、1 で用いたCCがφ−1(C)⊆V\varphi^{-1}(C)\subseteq Vを満たすようにする。§E17.2 補題 1.3によりC∞C^\infty関数χ0 ⁣:Rn→[0,1]\chi_0\colon\mathbb{R}^n\to[0,1]でBr/2(φ(p))B_{r/2}(\varphi(p))の上で11、Br(φ(p))B_r(\varphi(p))の外で00であるものを取る。

χ(q)={χ0(φ(q))(q∈U),0(q∈M∖φ−1(C))\chi(q)= \begin{cases} \chi_0(\varphi(q))&(q\in U),\\ 0&(q\in M\setminus\varphi^{-1}(C)) \end{cases}

と定める。二つの開集合UUとM∖φ−1(C)M\setminus\varphi^{-1}(C)はMMを覆い(φ−1(C)\varphi^{-1}(C)はコンパクトでありMMは Hausdorff であるから閉集合である)、共通部分の上でφ(q)∉C\varphi(q)\notin Cすなわち∥φ(q)−φ(p)∥>r\lVert\varphi(q)-\varphi(p)\rVert>rであるから両方の式が00を与える。よってχ\chiは well-defined なC∞C^\infty関数である。{χ≠0}⊆φ−1(C)\{\chi\ne0\}\subseteq\varphi^{-1}(C)であり右辺は閉集合であるからsupp⁡χ⊆φ−1(C)⊆V\operatorname{supp}\chi\subseteq\varphi^{-1}(C)\subseteq Vであり、閉部分集合としてコンパクトである。φ−1(Br/2(φ(p))∩Hn)\varphi^{-1}\bigl(B_{r/2}(\varphi(p))\cap\mathbb{H}^n\bigr)の上でχ≡1\chi\equiv 1である。

(3)を示す。§E17.2 定理 4.2の証明がMMについて用いているのは、次の五つだけである。第一に、MMが第二可算・局所コンパクト・Hausdorff であることと、そこから§E17.2 命題 2.4のコンパクト集合の増大列が得られること(同命題は第二可算・局所コンパクト Hausdorff 空間についての主張であり、多様体であることを用いない)。第二に、山型関数(§E17.2 命題 1.5)。第三に、§E2.19 定義 2.1の有限部分被覆。第四に、局所有限な閉集合族の閉包についての§E17.2 補題 3.2(純粋に位相的である)。第五に、局所有限な族の和の滑らかさ(§E17.2 補題 3.3。その証明は、関数がC∞C^\inftyであることが局所的な条件であることだけを用いる。この性質は定義 1.1による定義からも成り立つ)。

境界を持つ多様体は、定義により Hausdorff かつ第二可算であり、(1)により局所コンパクトであり、(2)により山型関数を持つ。よって同じ証明がそのまま通用する。▨

以後、境界を持つ多様体に対しても§E17.2 定理 4.2を引用する。

6 向き

向きは、最高次外冪の消えない切断によって定める。この定め方は内積を用いない。

定義 6.1.MMをnn次元C∞C^\infty境界付き多様体とする。μ∈Ωn(M)\mu\in\Omega^n(M)が向き形式 (orientation form) であるとは、すべてのp∈Mp\in Mでμp≠0\mu_p\ne 0が成り立つことをいう。二つの向き形式μ\mu、μ′\mu'が同値 (equivalent orientation forms) であるとは、至るところ正の値を取るC∞C^\infty関数h ⁣:M→Rh\colon M\to\mathbb{R}であってμ′=hμ\mu'=h\muを満たすものが存在することをいう。

MMが向きづけ可能 (orientable) であるとは、向き形式が存在することをいう。向き形式の同値類をMMの向き (orientation) といい、向きを一つ指定した多様体を向きづけられた多様体 (oriented manifold) という。

dim⁡Alt⁡n(TpM)=1\dim\operatorname{Alt}^n(T_pM)=1であるから(§E17.10 定理 1.4と§E3.15 定理 1.2)、二つの向き形式μ,μ′\mu,\mu'に対して各点でμp′=h(p)μp\mu'_p=h(p)\mu_pを満たす実数h(p)≠0h(p)\ne 0がただ一つ定まる。チャートの上でh=μ1⋯n′/μ1⋯nh=\mu'_{1\cdots n}/\mu_{1\cdots n}と書くことができるのでhhはC∞C^\inftyである。よって上の関係は同値関係である。

定義 6.2.MMを向き[μ][\mu]を持つnn次元C∞C^\infty境界付き多様体とする。境界付きチャート(U,φ=(x1,…,xn))(U,\varphi=(x^1,\dots,x^n))が向きを保つ (positively oriented chart) とは、UUの上で

μ∣U=h dx1∧⋯∧dxn,h>0\mu|_U=h\,dx^1\wedge\cdots\wedge dx^n,\qquad h>0

と表されることをいう。hhの符号は同値な向き形式に取り替えても変わらないので、この条件は向きだけで決まる。

命題 6.3.MMを連結かつ向きづけ可能なnn次元C∞C^\infty境界付き多様体とする。MMの向きはちょうど二つであり、一方の向き形式をμ\muとすると、他方は−μ-\muの同値類である。

証明.μ\muを向き形式とする。任意の向き形式μ′\mu'に対して、上で述べたとおりμ′=hμ\mu'=h\muとなるC∞C^\infty関数hhが定まり、hhは至るところ00でない。h−1((0,∞))h^{-1}\bigl((0,\infty)\bigr)とh−1((−∞,0))h^{-1}\bigl((-\infty,0)\bigr)はMMの開集合であり、交わらず、和がMMである。MMは連結であるから一方が空である(§E2.43 定義 1.1)。h>0h>0ならばμ′\mu'はμ\muと同値であり、h<0h<0ならばμ′=(−h)(−μ)\mu'=(-h)(-\mu)であるから−μ-\muと同値である。μ\muと−μ-\muが同値でないことは、h≡−1h\equiv-1が正でないことによる。▨

定理 6.4.MMをnn次元C∞C^\infty境界付き多様体とする。次の二つは同値である。

  1. MMは定義 6.1の意味で向きづけ可能である。
  2. MMの境界付きアトラス{(Uα,φα)}\{(U_\alpha,\varphi_\alpha)\}であって、すべてのα,β\alpha,\betaについて座標変換φβ∘φα−1\varphi_\beta\circ\varphi_\alpha^{-1}の Jacobi 行列式がφα(Uα∩Uβ)\varphi_\alpha(U_\alpha\cap U_\beta)の全体で正であるものが存在する。

条件 (b)を満たすアトラスを向きづけアトラスという。さらに、向き[μ][\mu]が与えられているとき、向きを保つチャートの定義域はMMを覆い、向きを保つチャートの全体は向きづけアトラスである。逆に、向きづけアトラスから下の証明が作る向き形式に関して、そのアトラスのチャートはすべて向きを保つ。

証明.条件 (a)⇒\Rightarrow(b)を示す。μ\muを向き形式とする。p∈Mp\in Mを取り、ppを含む境界付きチャート(U,φ)(U,\varphi)でUUが連結であるものを取る(チャートの像をφ(p)\varphi(p)の連結な相対開近傍へ制限すればよい。Hn\mathbb{H}^nの相対開球は凸集合であるから連結である)。UUの上でμ=h dx1∧⋯∧dxn\mu=h\,dx^1\wedge\cdots\wedge dx^nと書くと、hhは至るところ00でない連続関数でありUUは連結であるから符号が一定である。

h<0h<0の場合にチャートを取り替える。R(x1,x2,…,xn)=(−x1,x2,…,xn)R(x^1,x^2,\dots,x^n)=(-x^1,x^2,\dots,x^n)と置き、φˉ=R∘φ\bar\varphi=R\circ\varphiとする。RRはdet⁡R=−1\det R=-1を満たす線形同型であるから、§E17.10 系 4.3によりφˉ\bar\varphiに関するμ\muの成分は−h>0-h>0である。

φˉ\bar\varphiが境界付きチャートであることを確かめる。n≥2n\ge 2のときRRは第nn成分を変えないので、φ(U)\varphi(U)がRn\mathbb{R}^nの開集合ならばφˉ(U)\bar\varphi(U)も開集合であり、Hn\mathbb{H}^n(あるいはH−n\mathbb{H}^n_{-})の相対開集合ならばφˉ(U)\bar\varphi(U)も同じ半空間の相対開集合である。n=1n=1のときR(x)=−xR(x)=-xであり、φ(U)\varphi(U)がR\mathbb{R}の開集合ならばφˉ(U)\bar\varphi(U)も開集合、H1\mathbb{H}^1の相対開集合ならばφˉ(U)\bar\varphi(U)はH−1\mathbb{H}^1_{-}の相対開集合、H−1\mathbb{H}^1_{-}の相対開集合ならばφˉ(U)\bar\varphi(U)はH1\mathbb{H}^1の相対開集合である。いずれの場合も許容領域であり、φˉ\bar\varphiはMMの極大アトラスに属する境界付きチャートである。

局所モデルとして二つの半空間を許したことにより、n=1n=1でも成分の符号を変えることができる。H1\mathbb{H}^1の相対開集合の間の微分同相は境界点で導関数が正であり(補題 1.3 (3))、n=1n=1では反転すべき他の座標が無いので、H1\mathbb{H}^1のチャートだけでは成分の符号を変えることができない。注意 6.5を見よ。

以上により、向きを保つ境界付きチャートの定義域はMMを覆う。

向きを保つ二つのチャート(U,φ=(xi))(U,\varphi=(x^i))、(V,ψ=(ya))(V,\psi=(y^a))を取る。U∩VU\cap Vの上でμ\muの二通りの座標表示の成分をhφh_\varphi、hψh_\psiと書くと、§E17.10 系 4.3により

hφ=hψ⋅det⁡(∂ya∂xi)h_\varphi=h_\psi\cdot\det\Bigl(\frac{\partial y^a}{\partial x^i}\Bigr)

である。hφ>0h_\varphi>0かつhψ>0h_\psi>0であるから Jacobi 行列式は正である。よって向きを保つチャートの全体は向きづけアトラスである。

条件 (b)⇒\Rightarrow(a)を示す。{(Uα,φα)}α∈A\{(U_\alpha,\varphi_\alpha)\}_{\alpha\in A}を向きづけアトラスとし、これに従属する滑らかな1の分割{ψα}α∈A\{\psi_\alpha\}_{\alpha\in A}を取る(補題 5.1 (3))。φα\varphi_\alphaの成分をxα1,…,xαnx_\alpha^1,\dots,x_\alpha^nと書き、UαU_\alphaの上のnn次形式ψα dxα1∧⋯∧dxαn\psi_\alpha\,dx_\alpha^1\wedge\cdots\wedge dx_\alpha^nをM∖supp⁡ψαM\setminus\operatorname{supp}\psi_\alphaの上で00としてMM全体へ延長する。二つの開集合UαU_\alphaとM∖supp⁡ψαM\setminus\operatorname{supp}\psi_\alphaはMMを覆い、共通部分の上でどちらの表示もψα\psi_\alphaの値が00であるから一致するので、延長はMM上のC∞C^\inftyなnn次形式である。これをηα\eta_\alphaと書き、

μ=∑α∈Aηα\mu=\sum_{\alpha\in A}\eta_\alpha

と置く。{supp⁡ψα}\{\operatorname{supp}\psi_\alpha\}は局所有限であるから、右辺は各点の近傍で有限和であり、§E17.2 補題 3.3と同じ議論によりμ∈Ωn(M)\mu\in\Omega^n(M)である。

p∈Mp\in Mを取り、p∈Uβp\in U_\betaとなるβ\betaを一つ固定する。UβU_\betaの上でμ\muのφβ\varphi_\betaに関する成分を計算する。ηα\eta_\alphaのφβ\varphi_\betaに関する成分は、p∈Uαp\in U_\alphaならば§E17.10 系 4.3により

ψα(p) det⁡(∂xαa∂xβi)(p)\psi_\alpha(p)\,\det\Bigl(\frac{\partial x_\alpha^a}{\partial x_\beta^i}\Bigr)(p)

であり、p∉supp⁡ψαp\notin\operatorname{supp}\psi_\alphaならば00である。前者の Jacobi 行列式は仮定により正であり、ψα(p)≥0\psi_\alpha(p)\ge 0である。∑αψα(p)=1\sum_\alpha\psi_\alpha(p)=1であるからψα(p)>0\psi_\alpha(p)>0となるα\alphaが少なくとも一つある。したがって成分の総和は正であり、とくにμp≠0\mu_p\ne 0である。よってμ\muは向き形式である。このμ\muに関して各φβ\varphi_\betaの成分は正であるから、アトラスのチャートはすべて向きを保つ。▨

注意 6.5 (局所モデルに二つの半空間を許す理由).定義 2.2が局所モデルとしてHn\mathbb{H}^nとH−n\mathbb{H}^n_{-}の両方を許すのは、n=1n=1で境界を持つ場合に定理 6.4が成り立つためである。H1\mathbb{H}^1の相対開集合だけを局所モデルに採ると、向きづけ可能であるのに向きづけアトラスを持たない多様体が現れる。

M=[0,1]M=[0,1]を例に取る。MMは命題 4.1と同じ議論により11次元C∞C^\infty境界付き多様体であり、μ=dx\mu=dxは向き形式であるから向きづけ可能である。x=1x=1を含む境界チャートφ\varphiの像がH1\mathbb{H}^1の相対開集合であるとすると、φ(1)=0\varphi(1)=0かつx<1x<1でφ>0\varphi>0であるからφ\varphiは狭義単調減少であり、dx=(1/φ′) dφdx=(1/\varphi')\,d\varphiの成分1/φ′1/\varphi'は負である。同様にx=0x=0を含む像がH1\mathbb{H}^1の相対開集合である境界チャートは狭義単調増加であり、dxdxの成分は正である。したがって、dxdxに対しても−dx-dxに対しても、二つの境界点の一方では向きを保つチャートが存在しない。

H−1\mathbb{H}^1_{-}を許すとこの障害は消える。x=1x=1の近くでφ(x)=x−1\varphi(x)=x-1と取ると、像は(−ε,0](-\varepsilon,0]すなわちH−1\mathbb{H}^1_{-}の相対開集合であり、φ′=1>0\varphi'=1>0であるからdxdxの成分は1>01>0である。x=0x=0の近くではφ(x)=x\varphi(x)=x(像はH1\mathbb{H}^1の相対開集合)を取ればよい。この二つと内部の恒等チャートは向きづけアトラスをなす。

n≥2n\ge 2ではこの手当ては要らない。第11成分を反転しても半空間の型が変わらないので、Hn\mathbb{H}^nのチャートだけで成分の符号を調整することができる。現象の原因は、H1\mathbb{H}^1の相対開集合の間の微分同相が境界点で正の導関数を持つこと(補題 1.3 (3))と、n=1n=1には反転すべき他の座標が無いことである。

注意 6.6 (零次元の多様体の向き). 零次元の多様体、すなわち離散空間PPについては、各点でTpP={0}T_pP=\{0\}でありAlt⁡0(TpP)=R\operatorname{Alt}^0(T_pP)=\mathbb{R}であるから、向き形式とは至るところ00でない関数であり、向きとは各点へ符号εp∈{+1,−1}\varepsilon_p\in\{+1,-1\}を与えることにほかならない。11次元の境界付き多様体の境界はこの意味で向きづけられる。

命題 6.7.MM、NNを境界を持たない向きづけ可能な多様体とすると、積多様体M×NM\times Nは向きづけ可能である。

証明.定理 6.4によりMMの向きづけアトラス{(Uα,φα)}\{(U_\alpha,\varphi_\alpha)\}とNNの向きづけアトラス{(Vλ,ψλ)}\{(V_\lambda,\psi_\lambda)\}を取る。§E17.1 命題 7.3により{(Uα×Vλ,φα×ψλ)}\{(U_\alpha\times V_\lambda,\varphi_\alpha\times\psi_\lambda)\}はM×NM\times Nのアトラスである。座標変換は

(φβ×ψν)∘(φα×ψλ)−1=(φβ∘φα−1)×(ψν∘ψλ−1)(\varphi_\beta\times\psi_\nu)\circ(\varphi_\alpha\times\psi_\lambda)^{-1} =(\varphi_\beta\circ\varphi_\alpha^{-1})\times(\psi_\nu\circ\psi_\lambda^{-1})

であり、その Jacobi 行列は二つの Jacobi 行列を対角に並べた区分行列である。行列式は二つの行列式の積であるから正である。ふたたび定理 6.4によりM×NM\times Nは向きづけ可能である。▨

例 6.8 (球面の向きと立体射影のアトラス).ι ⁣:Sn−1→Rn\iota\colon S^{n-1}\to\mathbb{R}^nを包含写像、Ω=dx1∧⋯∧dxn\Omega=dx^1\wedge\cdots\wedge dx^n、P=∑i=1nxi ∂/∂xiP=\sum_{i=1}^{n}x^i\,\partial/\partial x^iとし、

μ=ι∗(ιPΩ)∈Ωn−1(Sn−1)\mu=\iota^*\bigl(\iota_P\Omega\bigr)\in\Omega^{n-1}(S^{n-1})

と置く。ここでιP\iota_Pは内部積(§E17.12 定義 1.1)である。この構成はRn\mathbb{R}^nの標準的な体積形式Ω\Omegaとベクトル場PPだけを用いており、Sn−1S^{n-1}の上に計量を入れていない。

μ\muは向き形式である。f(x)=∑i=1n(xi)2f(x)=\sum_{i=1}^{n}(x^i)^2と置くとSn−1=f−1(1)S^{n-1}=f^{-1}(1)であり、p∈Sn−1p\in S^{n-1}においてdfp(Pp)=∑i=1nxi⋅2xi=2≠0df_p(P_p)=\sum_{i=1}^{n}x^i\cdot 2x^i=2\ne 0であるからPp∉ker⁡dfp=TpSn−1P_p\notin\ker df_p=T_pS^{n-1}である(§E17.5 定理 4.3)。dim⁡TpRn=n\dim T_p\mathbb{R}^n=nかつdim⁡TpSn−1=n−1\dim T_pS^{n-1}=n-1であるから

TpRn=RPp⊕TpSn−1T_p\mathbb{R}^n=\mathbb{R}P_p\oplus T_pS^{n-1}

である。(v1,…,vn−1)(v_1,\dots,v_{n-1})をTpSn−1T_pS^{n-1}の基底とすると(Pp,v1,…,vn−1)(P_p,v_1,\dots,v_{n-1})はTpRnT_p\mathbb{R}^nの基底であり、Ωp\Omega_pは00でない最高次交代形式であるから

μp(v1,…,vn−1)=Ωp(Pp,v1,…,vn−1)≠0\mu_p(v_1,\dots,v_{n-1})=\Omega_p(P_p,v_1,\dots,v_{n-1})\ne 0

である。よってSn−1S^{n-1}は向きづけ可能である。

一方、§E17.1 命題 5.1の二枚の立体射影を並べたアトラスは向きづけアトラスではない。座標変換はφS∘φN−1(u)=u/∥u∥2\varphi_S\circ\varphi_N^{-1}(u)=u/\lVert u\rVert^2であり、その Jacobi 行列は

D(u∥u∥2)=1∥u∥2(I−2 u uT∥u∥2)D\Bigl(\frac{u}{\lVert u\rVert^2}\Bigr) =\frac{1}{\lVert u\rVert^{2}}\Bigl(I-2\,\frac{u\,u^{\mathsf T}}{\lVert u\rVert^{2}}\Bigr)

である(成分ごとに∂j(ui∥u∥−2)=δji∥u∥−2−2uiuj∥u∥−4\partial_j(u^i\lVert u\rVert^{-2})=\delta^i_j\lVert u\rVert^{-2}-2u^iu^j\lVert u\rVert^{-4}を計算した)。括弧の中はuu方向の固有値が−1-1、直交するn−2n-2方向の固有値が11であるから行列式は−1-1であり、

det⁡D(φS∘φN−1)(u)=−1∥u∥2(n−1)<0\det D\bigl(\varphi_S\circ\varphi_N^{-1}\bigr)(u)=-\frac{1}{\lVert u\rVert^{2(n-1)}}<0

である。n−1=2n-1=2の場合を成分で書くとφS∘φN−1(u,v)=(u/(u2+v2), v/(u2+v2))\varphi_S\circ\varphi_N^{-1}(u,v)=\bigl(u/(u^2+v^2),\,v/(u^2+v^2)\bigr)であり、Jacobi 行列式は−1/(u2+v2)2-1/(u^2+v^2)^2になる。

これはSn−1S^{n-1}が向きづけ可能でないことを意味しない。φS\varphi_Sの第一成分の符号を反転した

φ~S=r∘φS,r(u1,u2,…,un−1)=(−u1,u2,…,un−1)\widetilde\varphi_S=r\circ\varphi_S,\qquad r(u^1,u^2,\dots,u^{n-1})=(-u^1,u^2,\dots,u^{n-1})

を用いると、φ~S∘φN−1=r∘(φS∘φN−1)\widetilde\varphi_S\circ\varphi_N^{-1}=r\circ(\varphi_S\circ\varphi_N^{-1})の Jacobi 行列式は(−1)⋅(−∥u∥−2(n−1))>0(-1)\cdot(-\lVert u\rVert^{-2(n-1)})>0になり、{(UN,φN),(US,φ~S)}\{(U_N,\varphi_N),(U_S,\widetilde\varphi_S)\}は向きづけアトラスである。向きづけ可能性は多様体の性質であるが、与えられたアトラスが向きづけアトラスであるかどうかはチャートの選び方に依存する。

例 6.9 (円環面は向きづけ可能である).S1S^1は例 6.8により向きづけ可能である。命題 6.7を繰り返し用いると、円環面Tn=(S1)nT^n=(S^1)^n(§E17.1 例 7.4)は向きづけ可能である。とくにT2T^2は向きづけ可能である。

7 向きづけ可能でない例

命題 7.1.MMをnn次元C∞C^\infty境界付き多様体とする。MMの二つの境界付きチャート(U1,φ1)(U_1,\varphi_1)、(U2,φ2)(U_2,\varphi_2)であって、U1U_1とU2U_2がともに連結であり、U1∩U2≠∅U_1\cap U_2\ne\varnothingであり、

J=det⁡D(φ2∘φ1−1)J=\det D\bigl(\varphi_2\circ\varphi_1^{-1}\bigr)

がφ1(U1∩U2)\varphi_1(U_1\cap U_2)の上で正の値と負の値をともに取るものが存在するならば、MMは向きづけ可能でない。

証明.MMが向きづけ可能であると仮定し、向き形式μ\muを取る。UiU_iの上でμ\muのφi\varphi_iに関する成分をhih_iと書く。hih_iはUiU_iの上で至るところ00でない連続関数であり、UiU_iは連結であるから符号が一定である。その符号をεi∈{+1,−1}\varepsilon_i\in\{+1,-1\}と書く。

§E17.10 系 4.3をx=φ1x=\varphi_1の座標、y=φ2y=\varphi_2の座標として適用すると、U1∩U2U_1\cap U_2の上で

h1=h2⋅(J∘φ1)h_1=h_2\cdot\bigl(J\circ\varphi_1\bigr)

が成り立つ。両辺の符号を比べると、U1∩U2U_1\cap U_2の各点でε1=ε2⋅sign⁡(J∘φ1)\varepsilon_1=\varepsilon_2\cdot\operatorname{sign}\bigl(J\circ\varphi_1\bigr)である。左辺は定数でありε2\varepsilon_2も定数であるから、JJはφ1(U1∩U2)\varphi_1(U_1\cap U_2)の上で一定の符号を持つ。これは仮定に反する。▨

Möbius の帯を、チャートの族から直接構成する。

例 7.2 (Möbius の帯の構成).M~=R×(−1,1)\widetilde M=\mathbb{R}\times(-1,1)の上に

(s,t)∼(s+m,(−1)mt)(m∈Z)(s,t)\sim(s+m,(-1)^{m}t)\qquad(m\in\mathbb{Z})

で同値関係を定め、商集合をMM、(s,t)(s,t)の類を[s,t][s,t]と書く。この集合MMを Möbius の帯という。

各有理数ccに対してRc=(c,c+1)×(−1,1)R_c=(c,c+1)\times(-1,1)、Vc={[s,t]∣(s,t)∈Rc}V_c=\{[s,t]\mid (s,t)\in R_c\}と置き、ηc ⁣:Vc→Rc\eta_c\colon V_c\to R_cを[s,t]↦(s,t)[s,t]\mapsto(s,t)((s,t)∈Rc(s,t)\in R_cを代表として取る)で定める。ηc\eta_cは well-defined な単射である。実際、(s,t),(s′,t′)∈Rc(s,t),(s',t')\in R_cが同値ならばs′=s+ms'=s+mかつ∣s′−s∣<1|s'-s|<1からm=0m=0であり、(s,t)=(s′,t′)(s,t)=(s',t')である。

§E17.4 補題 2.1の五条件を確かめる。添字集合Q\mathbb{Q}は可算である。条件1はηc(Vc)=Rc\eta_c(V_c)=R_cが開集合であることによる。条件4は、任意の[s,t][s,t]に対してssを含む区間(c,c+1)(c,c+1)を持つ有理数ccが存在することによる。条件2と条件3を確かめる。ηc(Vc∩Vc′)\eta_c(V_c\cap V_{c'})は

⋃m∈Z(Rc∩((c′−m,c′+1−m)×(−1,1)))\bigcup_{m\in\mathbb{Z}}\bigl(R_c\cap\bigl((c'-m,c'+1-m)\times(-1,1)\bigr)\bigr)

であり、開集合の合併であるから開集合である。座標変換は、この合併の各成分の上で(s,t)↦(s+m,(−1)mt)(s,t)\mapsto(s+m,(-1)^mt)という一次写像でありC∞C^\infty級である。条件5については、相異なる二点[s0,t0][s_0,t_0]、[s1,t1][s_1,t_1]に対して、代表をs0,s1∈[0,1)s_0,s_1\in[0,1)となるように取り、有理数ccをmax⁡(s0,s1)−1<c<min⁡(s0,s1)\max(s_0,s_1)-1<c<\min(s_0,s_1)となるように取ると(区間は空でない)、二点はともにVcV_cに属する。よって§E17.4 補題 2.1によりMMは22次元C∞C^\infty多様体である。各VcV_cはRcR_cと同相であるから連結である。

命題 7.3.例 7.2の Möbius の帯MMは向きづけ可能でない。実射影平面RP2\mathbb{RP}^2も向きづけ可能でない。一方、円環面T2T^2は向きづけ可能である。

証明. Möbius の帯。c=0c=0とc=1/2c=1/2に対応するチャート(V0,η0)(V_0,\eta_0)、(V1/2,η1/2)(V_{1/2},\eta_{1/2})を取る。どちらの定義域も連結である。η0(V0∩V1/2)\eta_0(V_0\cap V_{1/2})を求める。(s,t)∈R0=(0,1)×(−1,1)(s,t)\in R_0=(0,1)\times(-1,1)の類がV1/2V_{1/2}に属するのは、s+m∈(1/2,3/2)s+m\in(1/2,3/2)となる整数mmが存在するときである。m=0m=0ならばs∈(1/2,1)s\in(1/2,1)、m=1m=1ならばs∈(0,1/2)s\in(0,1/2)であり、他のmmでは条件を満たさない。よって

η0(V0∩V1/2)=((0,12)∪(12,1))×(−1,1)\eta_0(V_0\cap V_{1/2})=\Bigl(\bigl(0,\tfrac12\bigr)\cup\bigl(\tfrac12,1\bigr)\Bigr)\times(-1,1)

である。座標変換η1/2∘η0−1\eta_{1/2}\circ\eta_0^{-1}は、s∈(1/2,1)s\in(1/2,1)の成分では(s,t)↦(s,t)(s,t)\mapsto(s,t)であり Jacobi 行列式は11、s∈(0,1/2)s\in(0,1/2)の成分では(s,t)↦(s+1,−t)(s,t)\mapsto(s+1,-t)であり Jacobi 行列は(100−1)\begin{pmatrix}1&0\\0&-1\end{pmatrix}、その行列式は−1-1である。二つの符号が現れるので命題 7.1によりMMは向きづけ可能でない。

実射影平面。§E17.1 命題 6.1のチャート(U1,φ1)(U_1,\varphi_1)、(U2,φ2)(U_2,\varphi_2)を取る。どちらの像もR2\mathbb{R}^2であるから定義域は連結である。φ1−1(u,v)=[1:u:v]\varphi_1^{-1}(u,v)=[1:u:v]であり、φ2([1:u:v])=(1/u, v/u)\varphi_2([1:u:v])=(1/u,\ v/u)であるから、φ1(U1∩U2)={(u,v)∣u≠0}\varphi_1(U_1\cap U_2)=\{(u,v)\mid u\ne 0\}の上で

D(φ2∘φ1−1)(u,v)=(−u−20−vu−2u−1),det⁡=−1u3D\bigl(\varphi_2\circ\varphi_1^{-1}\bigr)(u,v) =\begin{pmatrix}-u^{-2}&0\\ -vu^{-2}&u^{-1}\end{pmatrix}, \qquad \det=-\frac{1}{u^{3}}

である。u>0u>0では負、u<0u<0では正であるから、命題 7.1によりRP2\mathbb{RP}^2は向きづけ可能でない。

円環面。例 6.9による。▨

命題 7.4.nnを正の整数とし、RPn\mathbb{RP}^nに§E17.1 命題 6.1のアトラス{(Ui,φi)}i=1n+1\{(U_i,\varphi_i)\}_{i=1}^{n+1}を与える。i≠ji\ne jに対して、φi(Ui∩Uj)\varphi_i(U_i\cap U_j)の上で

det⁡D(φj∘φi−1)(u)=(−1)j−i(tij(u)) n+1\det D\bigl(\varphi_j\circ\varphi_i^{-1}\bigr)(u)=\frac{(-1)^{j-i}}{\bigl(t_{ij}(u)\bigr)^{\,n+1}}

が成り立つ。ここでtij(u)t_{ij}(u)は、φi−1(u)\varphi_i^{-1}(u)の第jj斉次座標を与えるuuの成分、すなわちj>ij>iのときuj−1u^{j-1}、j<ij<iのときuju^{j}である。したがって次が成り立つ。

  1. nnが偶数ならばRPn\mathbb{RP}^nは向きづけ可能でない。
  2. nnが奇数ならばRPn\mathbb{RP}^nは向きづけ可能である。

証明. 行列式の計算。φi−1(u)=[u1:⋯:ui−1:1:ui:⋯:un]\varphi_i^{-1}(u)=[u^1:\cdots:u^{i-1}:1:u^{i}:\cdots:u^{n}]である(第ii斉次座標に11を挿入する)。この点の第kk斉次座標をxkx^kと書き、t=xj=tij(u)t=x^j=t_{ij}(u)と置く。φj\varphi_jはすべての斉次座標をxjx^jで割り、第jj成分を落とすので、φj∘φi−1(u)\varphi_j\circ\varphi_i^{-1}(u)の成分は1/t1/tが一つと、um/tu^m/t(m≠sm\ne s、ssはt=ust=u^sを満たす添字)がn−1n-1個である。

補助写像Ψ(u)\Psi(u)を、第ss成分が1/us1/u^s、第mm成分(m≠sm\ne s)がum/usu^m/u^sであるものと定める。Ψ\Psiの Jacobi 行列は、第ss列を除くと対角成分1/us1/u^sの対角行列であり、第ss行は(0,…,−1/(us)2,…,0)(0,\dots,-1/(u^s)^2,\dots,0)である。行と列を並べ替えると三角形になり

det⁡DΨ(u)=(−1(us)2)(1us)n−1=−1(us)n+1\det D\Psi(u)=\Bigl(-\frac{1}{(u^s)^2}\Bigr)\Bigl(\frac{1}{u^s}\Bigr)^{n-1}=-\frac{1}{(u^s)^{n+1}}

である。φj∘φi−1\varphi_j\circ\varphi_i^{-1}はΨ\Psiの成分を並べ替えたものである。φj\varphi_jの出力の第rr成分は第kk斉次座標(k≠jk\ne j)であり、r=kr=k(k<jk<j)、r=k−1r=k-1(k>jk>j)である。1/us1/u^sは第ii斉次座標に由来するので、Ψ\Psiにおける第ss成分から、i<ji<jのときは第ii成分へ、i>ji>jのときは第i−1i-1成分へ移る。ssと移り先の間にある成分は一つずつずれる。すなわち並べ替えは長さ∣j−i∣|j-i|の巡回置換であり、符号は(−1)∣j−i∣−1(-1)^{|j-i|-1}である。よって

det⁡D(φj∘φi−1)=(−1)∣j−i∣−1⋅(−1tn+1)=(−1)j−itn+1\det D\bigl(\varphi_j\circ\varphi_i^{-1}\bigr)=(-1)^{|j-i|-1}\cdot\Bigl(-\frac{1}{t^{n+1}}\Bigr)=\frac{(-1)^{j-i}}{t^{n+1}}

である((−1)∣j−i∣=(−1)j−i(-1)^{|j-i|}=(-1)^{j-i})。

(1)を示す。nnが偶数のときn+1n+1は奇数であるから、tn+1t^{n+1}の符号はttの符号に一致する。i=1i=1、j=2j=2を取るとt=u1t=u^1であり、φ1(U1∩U2)={u∣u1≠0}\varphi_1(U_1\cap U_2)=\{u\mid u^1\ne 0\}の上でdet⁡\detはu1>0u^1>0で負、u1<0u^1<0で正である。U1U_1とU2U_2はどちらもRn\mathbb{R}^nと同相であるから連結であり、命題 7.1によりRPn\mathbb{RP}^nは向きづけ可能でない。

(2)を示す。nnが奇数のときn+1n+1は偶数であるからtn+1>0t^{n+1}>0であり、det⁡D(φj∘φi−1)\det D(\varphi_j\circ\varphi_i^{-1})の符号は(−1)j−i=(−1)i+j(-1)^{j-i}=(-1)^{i+j}で一定である。ρi\rho_iを、iiが偶数のとき恒等写像、iiが奇数のとき(u1,u2,…,un)↦(−u1,u2,…,un)(u^1,u^2,\dots,u^n)\mapsto(-u^1,u^2,\dots,u^n)と定めるとdet⁡ρi=(−1)i\det\rho_i=(-1)^iである。φ~i=ρi∘φi\widetilde\varphi_i=\rho_i\circ\varphi_iと置くと

det⁡D(φ~j∘φ~i−1)=det⁡ρj⋅det⁡D(φj∘φi−1)⋅det⁡ρi−1=(−1)j(−1)i+j(−1)i=(−1)2i+2j=1>0\det D\bigl(\widetilde\varphi_j\circ\widetilde\varphi_i^{-1}\bigr) =\det\rho_j\cdot\det D\bigl(\varphi_j\circ\varphi_i^{-1}\bigr)\cdot\det\rho_i^{-1} =(-1)^{j}(-1)^{i+j}(-1)^{i}=(-1)^{2i+2j}=1>0

である。よって{(Ui,φ~i)}\{(U_i,\widetilde\varphi_i)\}は向きづけアトラスであり、定理 6.4によりRPn\mathbb{RP}^nは向きづけ可能である。▨

注意 7.5 (実射影空間の偶数次元と奇数次元).命題 7.4は、向きづけ可能性が次元の偶奇で切り替わることを、斉次座標のアトラスの中だけで示している。n=2n=2の場合が命題 7.3の実射影平面である。

奇数次元の場合に必要であったのは、n+1n+1個のチャートに符号(−1)i(-1)^iを割り当てるという一手だけである。同じ結論は、対蹠写像による球面の商としてRPn\mathbb{RP}^nを見る立場からも得られる。対蹠写像はSnS^nの向き形式を(−1)n+1(-1)^{n+1}倍するので、nnが奇数のときに限って向きを保ち、向き形式が商へ降りる。その構成は本単元の後段「離散群の固有不連続な作用と商多様体」が扱う対象であり、本記事はそれを用いずに済ませている。

8 外向きのベクトルと境界の誘導向き

定義 8.1.MMをnn次元C∞C^\infty境界付き多様体、p∈∂Mp\in\partial M、ν∈TpM\nu\in T_pMとする。ppを含む境界チャート(U,φ)(U,\varphi)に対して、その型の符号 (sign of boundary-chart type)ϵφ\epsilon_\varphiを、(U,φ)(U,\varphi)が正の型のとき+1+1、負の型のとき−1-1と定める。ν\nuが ppにおいて外向きである (outward-pointing atpp) とは、ppを含むある境界チャート(U,φ)(U,\varphi)について、座標表示dφp(ν)∈Rnd\varphi_p(\nu)\in\mathbb{R}^nの第nn成分ana^nが

ϵφ an<0\epsilon_\varphi\,a^n<0

を満たすことをいう。正の型のチャートではan<0a^n<0、負の型のチャートではan>0a^n>0である。いずれの場合も、dφp(ν)d\varphi_p(\nu)がφ(U)\varphi(U)を含む半空間の外側を向いていることを述べている。

命題 8.2.定義 8.1の条件は、ppを含む境界チャートのとり方に依らない。さらに、ppにおける外向きベクトルの全体はTpMT_pMの開凸錐であり、TpMT_pMはTp(∂M)T_p(\partial M)と、外向きベクトルν\nuが張る直線との直和である。

証明.(U,φ)(U,\varphi)、(V,ψ)(V,\psi)をppを含む二つの境界チャート、a=dφp(ν)a=d\varphi_p(\nu)、b=dψp(ν)b=d\psi_p(\nu)とする。

まず両方が正の型である場合を考える。τ=ψ∘φ−1\tau=\psi\circ\varphi^{-1}と置くと、命題 3.2 (2)の証明で計算したとおり

bn=∂τn∂xn(φ(p)) anb^n=\frac{\partial\tau^n}{\partial x^n}\bigl(\varphi(p)\bigr)\,a^n

であり、係数は補題 1.3 (3)により正である。よってan<0a^n<0とbn<0b^n<0は同値である。

一般の場合は補題 2.1のRnR_nを用いる。(V,ψ)(V,\psi)が負の型ならば(V,Rn∘ψ)(V,R_n\circ\psi)は正の型であり、d(Rn∘ψ)p(ν)d(R_n\circ\psi)_p(\nu)の第nn成分は−bn-b^nである。ϵRn∘ψ=+1\epsilon_{R_n\circ\psi}=+1かつϵψ=−1\epsilon_\psi=-1であるから、条件ϵψbn<0\epsilon_\psi b^n<0は正の型へ移した後の条件(−bn)<0(-b^n)<0と同じである。(U,φ)(U,\varphi)についても同様であるから、前段によりすべての境界チャートで条件は一致する。

一つの境界チャートを固定すると、外向きベクトルの全体は{v∣ϵφ dφp(v)n<0}\{v\mid \epsilon_\varphi\,d\varphi_p(v)^n<0\}であり、線形形式v↦ϵφ dφp(v)nv\mapsto\epsilon_\varphi\,d\varphi_p(v)^nの負の部分であるから開凸錐である。Tp(∂M)T_p(\partial M)はこの線形形式の核であり(命題 3.2 (2))、ν\nuは核に属さないので、TpM=Tp(∂M)⊕RνT_pM=T_p(\partial M)\oplus\mathbb{R}\nuである。▨

境界に直交するという条件を定義に採らない。直交性は接空間に内積を選んで初めて定まるので、計量を導入しない本単元では用いることができない。上の定義はチャートの第nn成分の符号だけを用いており、計量に依存しない。計量を選んだうえで境界に直交するベクトルを取る扱いは「Riemann 幾何 I」が扱う。

補題 8.3.MMをnn次元C∞C^\infty境界付き多様体とする。MM上のC∞C^\inftyベクトル場ν\nuであって、すべてのp∈∂Mp\in\partial Mでνp\nu_pが外向きであるものが存在する。

証明.∂M\partial Mの各点ppに対してppを含む境界チャート(Up,φp)(U_p,\varphi_p)を取り、U0=Int⁡MU_0=\operatorname{Int}Mと置く。族{U0}∪{Up}p∈∂M\{U_0\}\cup\{U_p\}_{p\in\partial M}はMMの開被覆である。これに従属する滑らかな1の分割{ψ0}∪{ψp}\{\psi_0\}\cup\{\psi_p\}を取る(§E17.2 定理 4.2)。ϵp=ϵφp\epsilon_p=\epsilon_{\varphi_p}と書く。UpU_pの上のベクトル場−ϵp ∂/∂xpn-\epsilon_p\,\partial/\partial x_p^nにψp\psi_pを掛けたものをM∖supp⁡ψpM\setminus\operatorname{supp}\psi_pの上で00として延長し、

ν=∑p∈∂Mψp⋅(−ϵp∂∂xpn)\nu=\sum_{p\in\partial M}\psi_p\cdot\Bigl(-\epsilon_p\frac{\partial}{\partial x_p^n}\Bigr)

と置く。局所有限性から右辺は各点の近傍で有限和であり、ν\nuはMM上のC∞C^\inftyベクトル場である。

q∈∂Mq\in\partial Mを取る。supp⁡ψ0⊆U0=Int⁡M\operatorname{supp}\psi_0\subseteq U_0=\operatorname{Int}Mであるからψ0(q)=0\psi_0(q)=0であり、したがって∑pψp(q)=1\sum_p\psi_p(q)=1である。ψp(q)>0\psi_p(q)>0を満たすppは有限個であり、そのそれぞれについて−ϵp ∂/∂xpn∣q-\epsilon_p\,\partial/\partial x_p^n|_qは外向きである(座標表示の第nn成分は−ϵp-\epsilon_pであり、ϵp⋅(−ϵp)=−1<0\epsilon_p\cdot(-\epsilon_p)=-1<0である)。命題 8.2により外向きベクトルの全体は凸錐であるから、正の係数による有限個の外向きベクトルの和であるνq\nu_qも外向きである。▨

定義 8.4.MMを向き[μ][\mu]を持つnn次元C∞C^\infty境界付き多様体とし、∂M≠∅\partial M\ne\varnothing、n≥2n\ge 2とする。補題 8.3の外向きベクトル場ν\nuを取り、∂M\partial Mの上の(n−1)(n-1)次形式μ∂\mu_\partialを

(μ∂)p(v1,…,vn−1)=μp(νp,v1,…,vn−1)(p∈∂M, v1,…,vn−1∈Tp(∂M))(\mu_\partial)_p(v_1,\dots,v_{n-1})=\mu_p\bigl(\nu_p,v_1,\dots,v_{n-1}\bigr) \qquad(p\in\partial M,\ v_1,\dots,v_{n-1}\in T_p(\partial M))

で定める。[μ∂][\mu_\partial]を∂M\partial Mの誘導向き (induced boundary orientation) という。同じことを言い換えると、(v1,…,vn−1)(v_1,\dots,v_{n-1})がTp(∂M)T_p(\partial M)の向きに整合する基底であるとは、外向きベクトルν\nuを先に置いた(ν,v1,…,vn−1)(\nu,v_1,\dots,v_{n-1})がTpMT_pMの向きに整合する基底であることをいう。

n=1n=1のときは、注意 6.6の約束のもとで、p∈∂Mp\in\partial Mに符号

εp={+1(μp(νp)>0),−1(μp(νp)<0)\varepsilon_p= \begin{cases} +1&(\mu_p(\nu_p)>0),\\ -1&(\mu_p(\nu_p)<0) \end{cases}

を与えることを誘導向きという。これは上の言い換えで(v1,…,vn−1)(v_1,\dots,v_{n-1})を空の組と読んだものである。

境界の誘導向きは、外向きのベクトルを先に置く規約によって定める(定義 8.4)。

命題 8.5.定義 8.4のμ∂\mu_\partialは∂M\partial Mの向き形式であり、その同値類は外向きベクトル場ν\nuのとり方と、MMの向きを代表する向き形式μ\muのとり方に依らない。

証明. 向き形式であること。p∈∂Mp\in\partial Mとし、(v1,…,vn−1)(v_1,\dots,v_{n-1})をTp(∂M)T_p(\partial M)の基底とする。命題 8.2により(νp,v1,…,vn−1)(\nu_p,v_1,\dots,v_{n-1})はTpMT_pMの基底である。μp\mu_pは00でない最高次交代形式であるから、基底における値は00でない。よって(μ∂)p≠0(\mu_\partial)_p\ne 0である。

滑らかさ。ppを含む境界チャート(U,φ=(x1,…,xn))(U,\varphi=(x^1,\dots,x^n))を取り、UUの上でμ=h dx1∧⋯∧dxn\mu=h\,dx^1\wedge\cdots\wedge dx^n、ν=∑i=1nai ∂/∂xi\nu=\sum_{i=1}^{n}a^i\,\partial/\partial x^iと書く。Tp(∂M)T_p(\partial M)は∂/∂x1,…,∂/∂xn−1\partial/\partial x^1,\dots,\partial/\partial x^{n-1}が張るから

(μ∂)(∂∂x1,…,∂∂xn−1)=∑i=1nai μ(∂∂xi,∂∂x1,…,∂∂xn−1)(\mu_\partial)\Bigl(\frac{\partial}{\partial x^1},\dots,\frac{\partial}{\partial x^{n-1}}\Bigr) =\sum_{i=1}^{n}a^i\,\mu\Bigl(\frac{\partial}{\partial x^i},\frac{\partial}{\partial x^1},\dots,\frac{\partial}{\partial x^{n-1}}\Bigr)

であり、i≤n−1i\le n-1の項は二つの引数が等しいので00である。i=ni=nの項は、∂/∂xn\partial/\partial x^nを先頭から第nnの位置へ移すn−1n-1回の入れ替えにより

an (−1)n−1 μ(∂∂x1,…,∂∂xn)=(−1)n−1anha^n\,(-1)^{n-1}\,\mu\Bigl(\frac{\partial}{\partial x^1},\dots,\frac{\partial}{\partial x^n}\Bigr)=(-1)^{n-1}a^nh

である。よってU∩∂MU\cap\partial Mの上で

μ∂=(−1)n−1 an h dx1∧⋯∧dxn−1\mu_\partial=(-1)^{n-1}\,a^n\,h\ dx^1\wedge\cdots\wedge dx^{n-1}

であり、成分はC∞C^\infty関数である。外向きの条件はϵφan<0\epsilon_\varphi a^n<0であるから、h>0h>0のとき成分(−1)n−1anh(-1)^{n-1}a^nhの符号は

(−1)n−1⋅sign⁡(an)=(−1)n−1⋅(−ϵφ)=(−1)nϵφ(-1)^{n-1}\cdot\operatorname{sign}(a^n)=(-1)^{n-1}\cdot(-\epsilon_\varphi)=(-1)^{n}\epsilon_\varphi

である。すなわち、正の型の境界チャートでは(−1)n(-1)^n、負の型では(−1)n−1(-1)^{n-1}である。この符号が「Stokes の定理」の両辺に現れて相殺する。

ν\nuのとり方に依らないこと。ν′\nu'を別の外向きベクトル場とする。p∈∂Mp\in\partial MでTpM=Tp(∂M)⊕RνpT_pM=T_p(\partial M)\oplus\mathbb{R}\nu_pであるからνp′=c(p)νp+wp\nu'_p=c(p)\nu_p+w_p(wp∈Tp(∂M)w_p\in T_p(\partial M))と一意に書くことができ、上の座標表示で比べるとc=(a′)n/an>0c=(a')^n/a^n>0である。ccは二つのC∞C^\infty関数の商であるからC∞C^\inftyである。v1,…,vn−1v_1,\dots,v_{n-1}がTp(∂M)T_p(\partial M)を張るときwpw_pはその一次結合であるから、交代性によりμp(wp,v1,…,vn−1)=0\mu_p(w_p,v_1,\dots,v_{n-1})=0である。よってμ∂′=c μ∂\mu'_\partial=c\,\mu_\partialであり、c>0c>0であるから同値である。

μ\muのとり方に依らないこと。μ′=h0μ\mu'=h_0\mu(h0>0h_0>0)とすると、定義式からμ∂′=(h0∣∂M) μ∂\mu'_\partial=(h_0|_{\partial M})\,\mu_\partialであり、h0∣∂M>0h_0|_{\partial M}>0である。▨

例 8.6 (半空間と閉球体の誘導向き).Hn\mathbb{H}^nにΩ=dx1∧⋯∧dxn\Omega=dx^1\wedge\cdots\wedge dx^nが定める向きを与える。∂Hn\partial\mathbb{H}^nの点でν=−∂/∂xn\nu=-\partial/\partial x^nは外向きである。命題 8.5の計算でan=−1a^n=-1、h=1h=1と置くと

Ω∂=(−1)n−1⋅(−1)⋅1⋅dx1∧⋯∧dxn−1=(−1)n dx1∧⋯∧dxn−1\Omega_\partial=(-1)^{n-1}\cdot(-1)\cdot 1\cdot dx^1\wedge\cdots\wedge dx^{n-1} =(-1)^{n}\,dx^1\wedge\cdots\wedge dx^{n-1}

である。すなわち、∂Hn\partial\mathbb{H}^nの座標(x1,…,xn−1)(x^1,\dots,x^{n-1})が誘導向きを保つのはnnが偶数のときに限る。この符号(−1)n(-1)^nが「Stokes の定理」の証明に現れる符号である。

H−n\mathbb{H}^n_{-}にΩ\Omegaが定める向きを与えると、ν=+∂/∂xn\nu=+\partial/\partial x^nが外向きであり、an=+1a^n=+1、h=1h=1からΩ∂=(−1)n−1dx1∧⋯∧dxn−1\Omega_\partial=(-1)^{n-1}dx^1\wedge\cdots\wedge dx^{n-1}である。符号は正の型の場合と逆になる。

n=1n=1、M=[0,1]M=[0,1]の場合(注意 6.5の局所モデルを用いる)。μ=dt\mu=dtが定める向きを与える。t=0t=0では、正の型の境界チャートφ(t)=t\varphi(t)=tについてν=−∂/∂t\nu=-\partial/\partial tが外向きであり、μ(ν)=−1<0\mu(\nu)=-1<0であるからε0=−1\varepsilon_0=-1である。t=1t=1では、負の型の境界チャートφ(t)=t−1\varphi(t)=t-1についてν=+∂/∂t\nu=+\partial/\partial tが外向きであり、μ(ν)=+1>0\mu(\nu)=+1>0であるからε1=+1\varepsilon_1=+1である。したがって∂M={0,1}\partial M=\{0,1\}の誘導向きはε0=−1\varepsilon_0=-1、ε1=+1\varepsilon_1=+1であり、00次形式ffの境界での積分はε1f(1)+ε0f(0)=f(1)−f(0)\varepsilon_1f(1)+\varepsilon_0f(0)=f(1)-f(0)になる。これが微積分学の基本定理の右辺である。

B‾n\overline{B}^n(例 4.2)にΩ\Omegaが定める向きを与える。p∈Sn−1p\in S^{n-1}において、位置ベクトル場P=∑i=1nxi ∂/∂xiP=\sum_{i=1}^{n}x^i\,\partial/\partial x^iは外向きである。実際、命題 4.1が与える境界チャートの第nn成分はc−f=1−∑i=1n(xi)2c-f=1-\sum_{i=1}^{n}(x^i)^2であり、P(1−∑i=1n(xi)2)=−2∑i=1n(xi)2=−2<0P\bigl(1-\sum_{i=1}^{n}(x^i)^2\bigr)=-2\sum_{i=1}^{n}(x^i)^2=-2<0である。したがって、(v1,…,vn−1)(v_1,\dots,v_{n-1})がSn−1S^{n-1}の誘導向きに整合することとΩp(Pp,v1,…,vn−1)>0\Omega_p(P_p,v_1,\dots,v_{n-1})>0であることは同値であり、これは例 6.8のμ=ι∗(ιPΩ)\mu=\iota^*(\iota_P\Omega)が定める向きにほかならない。すなわち∂B‾n=Sn−1\partial\overline{B}^n=S^{n-1}の誘導向きは[μ][\mu]である。

9 演習

問題 9.1.

  1. 補題 1.2の証明では、j<nj<nとj=nj=nで異なる議論を用いた。j=nj=nの場合に両側極限を使うことができない理由を述べ、片側極限だけで値が定まる根拠を書き下す。
  2. 補題 1.3 (2)の証明で、§E4.7 定理 2.1が与える像の開集合性を用いた。τ\tauの微分の可逆性(同補題の 1)を落とすと、どの段階で議論が止まるのかを特定する。
  3. 命題 3.2 (1)は、境界点でも接空間がnn次元であることを述べている。TpMT_pMを「MMの内部へ向かう方向の全体」と定義しようとすると線形空間にならない理由を、n=1n=1の場合に書き下す。
  4. 定理 6.4 条件 (b)⇔\Leftrightarrow(a)の段では、1の分割を用いて向き形式を作った。ψα(p)≥0\psi_\alpha(p)\ge 0という符号条件と、Jacobi 行列式が正であるという仮定の両方が、μp≠0\mu_p\ne 0を示すどの箇所で必要になるのかを特定する。
  5. 定理 6.4 条件 (a)⇔\Leftrightarrow(b)の段では、チャートの定義域が連結であることを使った。連結でないチャートを許すと、成分の符号をそろえる操作がどのように破れるのかを、二つの成分を持つ開集合の例で述べる。
  6. 命題 7.1の証明を、U1U_1が連結でない場合に適用しようとすると成立しない。命題 7.3の Möbius の帯において、V0∩V1/2V_0\cap V_{1/2}を一つのチャートの定義域と見たとき、この判定条件が使えない理由を述べる。
  7. 例 6.8でSn−1S^{n-1}の向き形式をι∗(ιPΩ)\iota^*(\iota_P\Omega)として構成した。この構成のどこにも内積が現れないことを確かめ、標準内積によって境界に直交する単位ベクトルを選ぶ説明と比べて何を仮定していないかを述べる。
  8. 定義 8.4の規約を「外向きのベクトルを最後に置く」に変えると、例 8.6の符号がどう変わるかを計算する。
  9. 補題 8.3の証明で、U0=Int⁡MU_0=\operatorname{Int}Mを被覆に加えた理由を述べる。加えないと§E17.2 定理 4.2を適用することができない箇所を特定する。
  10. 注意 6.5のM=[0,1]M=[0,1]について、H1\mathbb{H}^1の相対開集合だけを局所モデルに採ると向きづけアトラスが取れないことを、二つの境界点それぞれで導関数の符号を書き下して確かめる。n=2n=2では同じ障害が起こらない理由を述べる。
  11. 命題 7.4 (2)で符号をϵi=(−1)i\epsilon_i=(-1)^iと選んだ。nnが偶数のときに同じ選び方を試みると何が起こるかを、i=1i=1、j=2j=2の場合に書き下す。

10 境界と次

本記事は角を持つ多様体を扱わない。閉立方体[0,1]n[0,1]^n(n≥2n\ge 2)や、閉球体と半空間の交わりは、稜と頂点の近傍が半空間の相対開集合と微分同相にならないので、定義 2.2の意味の境界付き多様体ではない。角を持つ対象の上で積分定理を述べるには、角の近傍での局所モデルを別に用意する必要がある。本単元はこれを扱わず、境界が滑らかな場合に限る。

向きの二つの定義が同値であること(定理 6.4)は、以後の記事で使い分けるために必要である。積分の定義では向きを保つチャートによる被覆を用い、向き形式そのものは境界の誘導向きを定めるときに用いる。

RPn\mathbb{RP}^nの向きづけ可能性は命題 7.4で次元の偶奇によって決定した。向きづけ可能でない多様体の向きづけ二重被覆は、対蹠写像による球面の商と同じ形の構成を要するので、本記事では扱わない。

外向きのベクトルをチャートの符号で定めたのは、計量を導入しないという単元全体の設計による。三次元空間の曲面について、標準内積から定まる外向きの単位ベクトルとdAdAを用いた古典的な記述との対応は、「Stokes の定理」でR3\mathbb{R}^3の標準内積を明示的に選んだうえで一度だけ述べる。一般の多様体でこの対応を書くには計量を選ぶ必要があり、その理論は「Riemann 幾何 I」が扱う。

参考文献

  1. John M. Lee, Introduction to Smooth Manifolds, 2nd ed., Graduate Texts in Mathematics 218, Springer, New York, 2013.半空間チャートによる境界を持つ多様体の定義、境界点の不変性、および最高次形式による向きの定義を参考にした。
  2. Victor Guillemin and Alan Pollack, Differential Topology, AMS Chelsea Publishing 370, American Mathematical Society, Providence, Rhode Island, 2010, originally published 1974.境界に誘導される向きを外向きベクトルを先に置く規約で定める扱いを参考にした。
  3. Frank W. Warner, Foundations of Differentiable Manifolds and Lie Groups, Graduate Texts in Mathematics 94, Springer, 1983, originally published 1971.向きづけ可能性と、座標変換の Jacobi 行列式が正であるアトラスとの同値を参考にした。

前提記事

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