§E17.17de Rham 複体とホモトピー不変性

最終更新

外微分はd∘d=0d\circ d=0を満たす(§E17.11 命題 2.5)。したがって完全形式は閉形式であり(§E17.11 命題 5.2)、閉形式の全体を完全形式の全体で割った商を取ることができる。この商を de Rham コホモロジーという。

逆、すなわち閉形式が完全形式であるかどうかは、多様体の形に依存する。星型開集合の上ではk≥1k\ge 1の閉形式がすべて完全である(§E17.12 定理 5.1)一方、R2\mathbb{R}^2から原点を除くと閉であって完全でない11形式が現れる(§E17.11 例 5.3)。商はこの差を測る量であり、微分と積分という解析の道具だけで定義されているにもかかわらず、多様体の位相に関する不変量になる。

本記事はこの商を定義し、次の三つを証明する。第一に、C∞C^\infty写像が引き戻しによってコホモロジーの間の線形写像を誘導し、合成が合成に対応すること。第二に、滑らかにホモトピックな二つの写像が同じ線形写像を誘導すること。第三に、その帰結として可縮な多様体のコホモロジーが決まること。第二の証明は「内部積・Cartan の公式・Poincaré の補題」で構成した鎖ホモトピー作用素をそのまま用いる。

以下、MM、NNは境界を持たない有限次元のC∞C^\infty多様体とする。Ωk(M)\Omega^k(M)はkk次微分形式の全体を表し、k<0k<0に対してはΩk(M)={0}\Omega^k(M)=\{0\}と約束する。

1 de Rham 複体とコホモロジー

定義 1.1.MMをnn次元C∞C^\infty多様体とする。外微分を写像とする列

0⟶Ω0(M)→ d Ω1(M)→ d ⋯→ d Ωn(M)⟶00\longrightarrow\Omega^0(M)\xrightarrow{\ d\ }\Omega^1(M)\xrightarrow{\ d\ }\cdots \xrightarrow{\ d\ }\Omega^{n}(M)\longrightarrow 0

をMMの de Rham 複体 (de Rham complex) という。各Ωk(M)\Omega^k(M)はR\mathbb{R}線形空間であり、ddはR\mathbb{R}線形写像であり(§E17.11 定義 2.1 条件 (a))、隣り合う二つの合成は00である(§E17.11 命題 2.5)。k>nk>nに対してはΩk(M)={0}\Omega^k(M)=\{0\}である(dim⁡Alt⁡k(TpM)=(nk)=0\dim\operatorname{Alt}^k(T_pM)=\binom{n}{k}=0による。§E17.10 定理 1.4と§E3.14 定理 2.1)。

定義 1.2.MMをC∞C^\infty多様体、kkを整数とする。

Zk(M)=ker⁡(d ⁣:Ωk(M)→Ωk+1(M)),Bk(M)=im⁡(d ⁣:Ωk−1(M)→Ωk(M))Z^k(M)=\ker\bigl(d\colon\Omega^k(M)\to\Omega^{k+1}(M)\bigr), \qquad B^k(M)=\operatorname{im}\bigl(d\colon\Omega^{k-1}(M)\to\Omega^{k}(M)\bigr)

と置く。Zk(M)Z^k(M)は閉kk形式の全体、Bk(M)B^k(M)は完全kk形式の全体である(§E17.11 定義 5.1)。§E17.11 命題 5.2によりBk(M)⊆Zk(M)B^k(M)\subseteq Z^k(M)であるから商線形空間

HdRk(M)=Zk(M)/Bk(M)H^k_{\mathrm{dR}}(M)=Z^k(M)/B^k(M)

が定まる。これをMMの第kkde Rham コホモロジー (de Rham cohomology) という。ω∈Zk(M)\omega\in Z^k(M)の属する類を[ω][\omega]と書く。

命題 1.3.MMをnn次元C∞C^\infty多様体とする。k<0k<0またはk>nk>nに対してHdRk(M)=0H^k_{\mathrm{dR}}(M)=0である。またB0(M)={0}B^0(M)=\{0\}であるからHdR0(M)=Z0(M)H^0_{\mathrm{dR}}(M)=Z^0(M)である。

証明.k<0k<0またはk>nk>nではΩk(M)={0}\Omega^k(M)=\{0\}であるからZk(M)={0}Z^k(M)=\{0\}である。k=0k=0ではΩ−1(M)={0}\Omega^{-1}(M)=\{0\}であるからB0(M)={0}B^0(M)=\{0\}である。▨

命題 1.4.MMを連結なC∞C^\infty多様体とするとHdR0(M)≅RH^0_{\mathrm{dR}}(M)\cong\mathbb{R}である。同型は、実数ccに定数関数ccの類を対応させる写像で与えられる。

証明.命題 1.3によりHdR0(M)=Z0(M)={f∈C∞(M)∣df=0}H^0_{\mathrm{dR}}(M)=Z^0(M)=\{f\in C^\infty(M)\mid df=0\}である。

f∈C∞(M)f\in C^\infty(M)について、df=0df=0であることとffが局所定数であることは同値である。実際、チャート(U,φ=(x1,…,xn))(U,\varphi=(x^1,\dots,x^n))の上でdf=∑i=1n(∂f/∂xi) dxidf=\sum_{i=1}^{n}(\partial f/\partial x^i)\,dx^iであるから(§E17.11 命題 1.1)、df=0df=0はすべての偏導関数が消えることと同値であり、φ(U)\varphi(U)の連結な開部分集合の上でそれはf∘φ−1f\circ\varphi^{-1}が定数であることと同値である。各点は連結な座標近傍(座標球)を持つので、df=0df=0ならばffは局所定数である。逆も明らかである。

MMを連結とし、df=0df=0とする。p0∈Mp_0\in Mを固定しS={p∈M∣f(p)=f(p0)}S=\{p\in M\mid f(p)=f(p_0)\}と置く。ffは局所定数であるからSSは開集合であり、またffは連続であるからSSは閉集合である。p0∈Sp_0\in SであるからS≠∅S\ne\varnothingであり、§E2.43 命題 1.3によりS=MS=Mである。よってffは定数である。逆に定数関数はdf=0df=0を満たす。したがってZ0(M)Z^0(M)は定数関数の全体であり、c↦(定数関数 c)c\mapsto(\text{定数関数 }c)はR\mathbb{R}からの線形同型である。▨

系 1.5.MMが相異なる連結成分M1,…,MmM_1,\dots,M_mを持つC∞C^\infty多様体であるときHdR0(M)≅RmH^0_{\mathrm{dR}}(M)\cong\mathbb{R}^mである。

証明. 多様体の各点は連結な座標近傍を持つので、連結成分は開集合であり、したがって閉集合でもある。Z0(M)Z^0(M)の元は上の証明により局所定数であるから、各MjM_jの上で定数である。逆に各成分の上で定数である関数はC∞C^\inftyでありdf=0df=0を満たす。よってf↦(f∣M1,…,f∣Mm)f\mapsto\bigl(f|_{M_1},\dots,f|_{M_m}\bigr)はZ0(M)Z^0(M)からRm\mathbb{R}^mへの線形同型である。▨

2 関手性

定理 2.1.F ⁣:M→NF\colon M\to NをC∞C^\infty写像とする。

  1. F∗(Zk(N))⊆Zk(M)F^*\bigl(Z^k(N)\bigr)\subseteq Z^k(M)かつF∗(Bk(N))⊆Bk(M)F^*\bigl(B^k(N)\bigr)\subseteq B^k(M)である。したがって F∗ ⁣:HdRk(N)⟶HdRk(M),F∗[ω]=[F∗ω]F^*\colon H^k_{\mathrm{dR}}(N)\longrightarrow H^k_{\mathrm{dR}}(M), \qquad F^*[\omega]=[F^*\omega] が well-defined なR\mathbb{R}線形写像として定まる。
  2. C∞C^\infty写像G ⁣:N→PG\colon N\to Pに対して(G∘F)∗=F∗∘G∗(G\circ F)^*=F^*\circ G^*がHdRkH^k_{\mathrm{dR}}の上で成り立つ。
  3. (id⁡M)∗=id⁡(\operatorname{id}_M)^*=\operatorname{id}である。
  4. FFが微分同相ならばF∗ ⁣:HdRk(N)→HdRk(M)F^*\colon H^k_{\mathrm{dR}}(N)\to H^k_{\mathrm{dR}}(M)は線形同型である。

証明.(1)を示す。ω∈Zk(N)\omega\in Z^k(N)とすると§E17.11 命題 3.1によりd(F∗ω)=F∗(dω)=0d(F^*\omega)=F^*(d\omega)=0であるからF∗ω∈Zk(M)F^*\omega\in Z^k(M)である。ω=dη\omega=d\etaとするとF∗ω=F∗(dη)=d(F∗η)F^*\omega=F^*(d\eta)=d(F^*\eta)であるからF∗ω∈Bk(M)F^*\omega\in B^k(M)である。よってF∗F^*は商の間の写像を誘導する。線形性はF∗F^*の線形性(§E17.10 命題 5.2)による。

2、(3)を示す。§E17.10 命題 5.2の(G∘F)∗=F∗∘G∗(G\circ F)^*=F^*\circ G^*と(id⁡M)∗=id⁡(\operatorname{id}_M)^*=\operatorname{id}を、閉形式の代表元へ適用すればよい。

(4)を示す。F−1F^{-1}もC∞C^\infty写像であるから、(2)と(3)によりF∗∘(F−1)∗=(F−1∘F)∗=id⁡F^*\circ(F^{-1})^*=(F^{-1}\circ F)^*=\operatorname{id}および(F−1)∗∘F∗=id⁡(F^{-1})^*\circ F^*=\operatorname{id}である。▨

3 滑らかなホモトピー

定義 3.1.F,G ⁣:M→NF,G\colon M\to NをC∞C^\infty写像とする。FFとGGが滑らかにホモトピック (smoothly homotopic maps) であるとは、C∞C^\infty写像H ⁣:M×R→NH\colon M\times\mathbb{R}\to Nであって

H(p,0)=F(p),H(p,1)=G(p)(p∈M)H(p,0)=F(p),\qquad H(p,1)=G(p)\qquad(p\in M)

を満たすものが存在することをいい、F≃GF\simeq Gと書く。HHを滑らかなホモトピー (smooth homotopy) という。

区間ではなく直線を用いる。M×[0,1]M\times[0,1]を取ると角を持つ多様体が現れ、本単元の枠組みの外へ出る。M×RM\times\mathbb{R}を用いても、以下の議論はt∈[0,1]t\in[0,1]の情報しか使わないので、内容は変わらない。

命題 3.2.MMからNNへのC∞C^\infty写像の全体において、≃\simeqは同値関係である。

証明. 反射律。H(p,t)=F(p)H(p,t)=F(p)と置けばよい。

対称律。HHがFFからGGへの滑らかなホモトピーならばH~(p,t)=H(p,1−t)\widetilde H(p,t)=H(p,1-t)はGGからFFへのものである。

推移律。§E17.2 補題 1.2の関数をρ\rhoと書き、ρ0(t)=ρ(3t−1)\rho_0(t)=\rho(3t-1)と置く。ρ0\rho_0はC∞C^\inftyであり、t≤1/3t\le 1/3で00、t≥2/3t\ge 2/3で11、値域は[0,1][0,1]である。F≃GF\simeq Gを与えるH1H_1とG≃KG\simeq Kを与えるH2H_2に対し

H1′(p,t)=H1(p,ρ0(t)),H2′(p,t)=H2(p,ρ0(t))H_1'(p,t)=H_1\bigl(p,\rho_0(t)\bigr), \qquad H_2'(p,t)=H_2\bigl(p,\rho_0(t)\bigr)

と置く。H1′H_1'はt≤1/3t\le1/3でFF、t≥2/3t\ge2/3でGGに等しく、H2′H_2'はt≤1/3t\le1/3でGG、t≥2/3t\ge2/3でKKに等しい。

H(p,t)={H1′(p,2t)(t<2/3),H2′(p,2t−1)(t>1/3)H(p,t)= \begin{cases} H_1'(p,2t)&(t<2/3),\\ H_2'(p,2t-1)&(t>1/3) \end{cases}

と定める。二つの開集合M×(−∞,2/3)M\times(-\infty,2/3)とM×(1/3,∞)M\times(1/3,\infty)はM×RM\times\mathbb{R}を覆い、共通部分1/3<t<2/31/3<t<2/3では2t>2/32t>2/3かつ2t−1<1/32t-1<1/3であるから、どちらの式もG(p)G(p)を与える。よってHHは well-defined なC∞C^\infty写像であり、H(p,0)=H1′(p,0)=F(p)H(p,0)=H_1'(p,0)=F(p)、H(p,1)=H2′(p,1)=K(p)H(p,1)=H_2'(p,1)=K(p)である。▨

定理 3.3.MM、NNを境界を持たないC∞C^\infty多様体、F,G ⁣:M→NF,G\colon M\to Nを滑らかにホモトピックなC∞C^\infty写像とする。このとき、すべての整数kkについて

F∗=G∗ ⁣:HdRk(N)⟶HdRk(M)F^*=G^*\colon H^k_{\mathrm{dR}}(N)\longrightarrow H^k_{\mathrm{dR}}(M)

が成り立つ。

証明.H ⁣:M×R→NH\colon M\times\mathbb{R}\to Nを滑らかなホモトピーとし、is ⁣:M→M×Ri_s\colon M\to M\times\mathbb{R}、is(p)=(p,s)i_s(p)=(p,s)と置く。H∘i0=FH\circ i_0=F、H∘i1=GH\circ i_1=Gである。

ω∈Zk(N)\omega\in Z^k(N)を取る。H∗ω∈Ωk(M×R)H^*\omega\in\Omega^k(M\times\mathbb{R})であり、MMは境界を持たないので§E17.12 定理 4.4を適用することができる。KKをその鎖ホモトピー作用素とすると

i1∗(H∗ω)−i0∗(H∗ω)=K(d(H∗ω))+d(K(H∗ω))i_1^*\bigl(H^*\omega\bigr)-i_0^*\bigl(H^*\omega\bigr)=K\bigl(d(H^*\omega)\bigr)+d\bigl(K(H^*\omega)\bigr)

である。§E17.10 命題 5.2によりi1∗(H∗ω)=(H∘i1)∗ω=G∗ωi_1^*(H^*\omega)=(H\circ i_1)^*\omega=G^*\omega、i0∗(H∗ω)=F∗ωi_0^*(H^*\omega)=F^*\omegaである。また§E17.11 命題 3.1によりd(H∗ω)=H∗(dω)=0d(H^*\omega)=H^*(d\omega)=0であるからK(d(H∗ω))=0K(d(H^*\omega))=0である。したがって

G∗ω−F∗ω=d(K(H∗ω))∈Bk(M)G^*\omega-F^*\omega=d\bigl(K(H^*\omega)\bigr)\in B^k(M)

である。よって[G∗ω]=[F∗ω][G^*\omega]=[F^*\omega]、すなわちG∗[ω]=F∗[ω]G^*[\omega]=F^*[\omega]である。ω\omegaは任意であったからF∗=G∗F^*=G^*である。▨

定義 3.4.C∞C^\infty写像F ⁣:M→NF\colon M\to Nが滑らかなホモトピー同値 (smooth homotopy equivalence) であるとは、C∞C^\infty写像G ⁣:N→MG\colon N\to MであってG∘F≃id⁡MG\circ F\simeq\operatorname{id}_MかつF∘G≃id⁡NF\circ G\simeq\operatorname{id}_Nを満たすものが存在することをいう。このようなFFが存在するとき、MMとNNは滑らかにホモトピー同値 (smoothly homotopy equivalent) であるという。

系 3.5.F ⁣:M→NF\colon M\to Nが滑らかなホモトピー同値ならば、F∗ ⁣:HdRk(N)→HdRk(M)F^*\colon H^k_{\mathrm{dR}}(N)\to H^k_{\mathrm{dR}}(M)はすべてのkkについて線形同型である。

証明.GGを定義 3.4の写像とする。定理 2.1と定理 3.3により

F∗∘G∗=(G∘F)∗=(id⁡M)∗=id⁡,G∗∘F∗=(F∘G)∗=(id⁡N)∗=id⁡F^*\circ G^*=(G\circ F)^*=(\operatorname{id}_M)^*=\operatorname{id}, \qquad G^*\circ F^*=(F\circ G)^*=(\operatorname{id}_N)^*=\operatorname{id}

である。▨

4 可縮な多様体と星型開集合

定義 4.1.C∞C^\infty多様体MMが滑らかに可縮 (smoothly contractible) であるとは、id⁡M\operatorname{id}_Mが定数写像と滑らかにホモトピックであることをいう。

定理 4.2.MMを滑らかに可縮なC∞C^\infty多様体とする。このときMMは連結であり、

HdR0(M)≅R,HdRk(M)=0(k≥1)H^0_{\mathrm{dR}}(M)\cong\mathbb{R}, \qquad H^k_{\mathrm{dR}}(M)=0\quad(k\ge 1)

が成り立つ。

証明.id⁡M\operatorname{id}_Mと滑らかにホモトピックな定数写像をκ\kappaと書き、その値をq0∈Mq_0\in Mと置く。H ⁣:M×R→MH\colon M\times\mathbb{R}\to Mをid⁡M≃κ\operatorname{id}_M\simeq\kappaを与える滑らかなホモトピーとする。

連結性。p∈Mp\in Mに対してt↦H(p,t)t\mapsto H(p,t)はR\mathbb{R}からMMへの連続写像であり、t=0t=0でpp、t=1t=1でq0q_0である。したがってMMの任意の点はq0q_0と道で結ばれるのでMMは弧状連結であり、§E2.43 命題 4.2により連結である。

k≥1k\ge 1の場合。k≥1k\ge 1とω∈Ωk(M)\omega\in\Omega^k(M)に対してκ∗ω=0\kappa^*\omega=0である。実際、κ\kappaは定数写像であるからdκp=0d\kappa_p=0であり、§E17.10 定義 5.1の定義式の引数がすべて00になる。したがってκ∗=0\kappa^*=0がHdRk(M)→HdRk(M)H^k_{\mathrm{dR}}(M)\to H^k_{\mathrm{dR}}(M)の上で成り立つ。一方定理 3.3によりκ∗=(id⁡M)∗=id⁡\kappa^*=(\operatorname{id}_M)^*=\operatorname{id}である。よってHdRk(M)H^k_{\mathrm{dR}}(M)の恒等写像は零写像であり、HdRk(M)=0H^k_{\mathrm{dR}}(M)=0である。

k=0k=0の場合。MMは連結であるから命題 1.4による。▨

定理 4.3.U⊆RnU\subseteq\mathbb{R}^nを点c∈Uc\in Uに関して星型な開集合とすると

HdR0(U)≅R,HdRk(U)=0(k≥1)H^0_{\mathrm{dR}}(U)\cong\mathbb{R}, \qquad H^k_{\mathrm{dR}}(U)=0\quad(k\ge 1)

が成り立つ。とくにHdRk(Rn)H^k_{\mathrm{dR}}(\mathbb{R}^n)はk=0k=0でR\mathbb{R}、k≥1k\ge1で00である。

証明.UUはRn\mathbb{R}^nの開集合であるから境界を持たないC∞C^\infty多様体である(§E17.1 命題 7.1)。

k≥1k\ge 1とする。§E17.12 定理 5.1によりUUの上の閉kk形式は完全形式であるからZk(U)=Bk(U)Z^k(U)=B^k(U)であり、HdRk(U)=0H^k_{\mathrm{dR}}(U)=0である。

k=0k=0とする。UUは星型であるから、任意のx∈Ux\in Uに対して線分t↦c+t(x−c)t\mapsto c+t(x-c)(t∈[0,1]t\in[0,1])がUUに含まれ、xxとccを結ぶ道を与える。よってUUは弧状連結であり、§E2.43 命題 4.2により連結であるから命題 1.4を適用することができる。

Rn\mathbb{R}^nはどの点に関しても星型である。▨

同じ結論は定理 4.2からも得られる。実際、§E17.12 定理 5.1の証明で用いたH(x,t)=c+ρ(t)(x−c)H(x,t)=c+\rho(t)(x-c)はid⁡U\operatorname{id}_Uと定数写像κc\kappa_cの間の滑らかなホモトピーであるから、UUは滑らかに可縮である。二つの導き方のうち、上の証明は§E17.12 定理 5.1を商の言葉へ翻訳しただけであり、原始形式の明示公式(§E17.12 命題 5.2)をそのまま使うことができる点で具体的である。

5 二つのホモトピー同値

次の二つは、球面と円環面のコホモロジーを Mayer–Vietoris 完全列で計算するときに用いる。

注意 5.1 (ユークリッド空間の標準内積の扱い). 以下で∥x∥=(∑i=1n(xi)2)1/2\lVert x\rVert=\bigl(\sum_{i=1}^{n}(x^i)^2\bigr)^{1/2}を用いる。これはRn\mathbb{R}^nという一つの線形空間の上に固定した双線形形式から定まる量であり、多様体の各点の接空間へ点について滑らかに変化する内積を与えたもの、すなわち Riemann 計量ではない。∥⋅∥\lVert\cdot\rVertはRn∖{0}\mathbb{R}^n\setminus\{0\}の上でC∞C^\inftyである(根号の中が正であることによる)。多様体の上に計量を導入する扱いは「Riemann 幾何 I」が扱う。

命題 5.2.n≥1n\ge 1とする。包含写像ι ⁣:Sn−1→Rn∖{0}\iota\colon S^{n-1}\to\mathbb{R}^n\setminus\{0\}は滑らかなホモトピー同値である。したがって、すべてのkkについてHdRk(Rn∖{0})≅HdRk(Sn−1)H^k_{\mathrm{dR}}\bigl(\mathbb{R}^n\setminus\{0\}\bigr)\cong H^k_{\mathrm{dR}}\bigl(S^{n-1}\bigr)である。

証明.r ⁣:Rn∖{0}→Sn−1r\colon\mathbb{R}^n\setminus\{0\}\to S^{n-1}、r(x)=x/∥x∥r(x)=x/\lVert x\rVertと置く。∥x∥\lVert x\rVertはRn∖{0}\mathbb{R}^n\setminus\{0\}の上でC∞C^\inftyかつ正であるからrrはC∞C^\infty写像であり、値はSn−1S^{n-1}に属する。ι\iotaはC∞C^\infty写像である。

r∘ι=id⁡Sn−1r\circ\iota=\operatorname{id}_{S^{n-1}}である(x∈Sn−1x\in S^{n-1}では∥x∥=1\lVert x\rVert=1)。

ι∘r≃id⁡\iota\circ r\simeq\operatorname{id}を示す。§E17.2 補題 1.2の関数をρ\rhoと書き、

H ⁣:(Rn∖{0})×R→Rn∖{0},H(x,t)=x(1−ρ(t))+ρ(t)∥x∥H\colon\bigl(\mathbb{R}^n\setminus\{0\}\bigr)\times\mathbb{R}\to\mathbb{R}^n\setminus\{0\}, \qquad H(x,t)=\frac{x}{\bigl(1-\rho(t)\bigr)+\rho(t)\lVert x\rVert}

と定める。分母は1−ρ(t)1-\rho(t)とρ(t)∥x∥\rho(t)\lVert x\rVertの和であり、ρ(t)∈[0,1]\rho(t)\in[0,1]かつ∥x∥>0\lVert x\rVert>0であるから正である(ρ(t)=0\rho(t)=0ならば分母は11、ρ(t)>0\rho(t)>0ならばρ(t)∥x∥>0\rho(t)\lVert x\rVert>0)。したがってHHはC∞C^\infty写像であり、値は00でない。ρ(0)=0\rho(0)=0からH(x,0)=xH(x,0)=x、ρ(1)=1\rho(1)=1からH(x,1)=x/∥x∥=ι(r(x))H(x,1)=x/\lVert x\rVert=\iota(r(x))である。

よってι\iotaは滑らかなホモトピー同値であり、系 3.5によりι∗\iota^*は同型である。▨

命題 5.3.MMを境界を持たないC∞C^\infty多様体、J⊆RJ\subseteq\mathbb{R}を空でない開区間とする。射影π ⁣:M×J→M\pi\colon M\times J\to Mは滑らかなホモトピー同値である。したがってHdRk(M×J)≅HdRk(M)H^k_{\mathrm{dR}}(M\times J)\cong H^k_{\mathrm{dR}}(M)である。

証明. まずJ=RJ=\mathbb{R}の場合を示す。s0=0s_0=0としi0 ⁣:M→M×Ri_0\colon M\to M\times\mathbb{R}、i0(p)=(p,0)i_0(p)=(p,0)と置く。π∘i0=id⁡M\pi\circ i_0=\operatorname{id}_Mである。i0∘π≃id⁡M×Ri_0\circ\pi\simeq\operatorname{id}_{M\times\mathbb{R}}を示す。

H((p,s),t)=(p, (1−ρ(t)) s)H\bigl((p,s),t\bigr)=\bigl(p,\ (1-\rho(t))\,s\bigr)

と定めると、HHはC∞C^\infty写像であり、t=0t=0では(p,s)(p,s)、t=1t=1では(p,0)=i0(π(p,s))(p,0)=i_0(\pi(p,s))である。よってπ\piは滑らかなホモトピー同値である。

一般の開区間J=(a,b)J=(a,b)(−∞≤a<b≤∞-\infty\le a<b\le\infty)については、JJからR\mathbb{R}へのC∞C^\infty微分同相が存在する。有界な場合はu↦tan⁡(π(2u−a−b)/(2(b−a)))u\mapsto\tan\bigl(\pi(2u-a-b)/(2(b-a))\bigr)を用いる。右端だけが無限の場合は平行移動で(0,∞)(0,\infty)へ移してu↦log⁡uu\mapsto\log uを合成し、左端だけが無限の場合は、先に反転u↦−uu\mapsto-uを施して右端だけが無限の場合へ帰着させる。両側が無限の場合は恒等写像を取ればよい。この微分同相と恒等写像の積はM×JM\times JからM×RM\times\mathbb{R}への微分同相であり、π\piと可換であるから、定理 2.1 (4)と合わせて主張を得る。▨

6 具体例

例 6.1 (凸開集合と穴のある平面).Rn\mathbb{R}^nの空でない凸開集合UUは、どの点に関しても星型であるから定理 4.3によりHdR0(U)≅RH^0_{\mathrm{dR}}(U)\cong\mathbb{R}、HdRk(U)=0H^k_{\mathrm{dR}}(U)=0(k≥1k\ge1)である。開球と開直方体はこの形である。

一方U=R2∖{(0,0)}U=\mathbb{R}^2\setminus\{(0,0)\}についてはHdR1(U)≠0H^1_{\mathrm{dR}}(U)\ne 0である。実際、§E17.11 例 5.3の11形式

ω=−y dx+x dyx2+y2\omega=\frac{-y\,dx+x\,dy}{x^2+y^2}

は閉形式であるが完全形式ではないので、[ω]≠0[\omega]\ne 0である。UUは連結であるからHdR0(U)≅RH^0_{\mathrm{dR}}(U)\cong\mathbb{R}である。またUUは22次元であるからHdRk(U)=0H^k_{\mathrm{dR}}(U)=0(k≥3k\ge3)である。HdR1(U)H^1_{\mathrm{dR}}(U)とHdR2(U)H^2_{\mathrm{dR}}(U)の完全な決定は「Mayer–Vietoris と計算例」で行う。

この二つを比べると、閉形式が完全形式であるかどうかが定義域の形に依存するという§E17.12 注意 5.6の観察が、コホモロジーが00であるかどうかという形に言い換えられていることが分かる。

例 6.2 (微分同相でない多様体の区別).定理 2.1 (4)により、微分同相な二つの多様体は同型なコホモロジーを持つ。対偶を取ると、コホモロジーが同型でない二つの多様体は微分同相でない。たとえばR2\mathbb{R}^2とR2∖{(0,0)}\mathbb{R}^2\setminus\{(0,0)\}は、前者がHdR1=0H^1_{\mathrm{dR}}=0(定理 4.3)、後者がHdR1≠0H^1_{\mathrm{dR}}\ne 0(例 6.1)であるから微分同相でない。

さらに系 3.5により、滑らかにホモトピー同値な二つの多様体も同型なコホモロジーを持つ。したがって de Rham コホモロジーは微分同相の不変量であるだけでなく、滑らかなホモトピー同値の不変量でもある。次元が異なる多様体が滑らかにホモトピー同値になることがある(命題 5.2)ので、この不変量は次元を見分けない。

7 演習

問題 7.1.

  1. 命題 1.4の証明で、df=0df=0からffが局所定数であることを導く段では、座標近傍を連結に取った。連結でない座標近傍を取ると議論のどこが止まるかを述べる。
  2. 定理 2.1 (1)で、F∗F^*が閉形式を閉形式へ、完全形式を完全形式へ写すことを示した。二つのうち一方だけでは商の間の写像が定まらない。それぞれが何を保証しているのかを述べる。
  3. 命題 3.2の推移律の証明で、ρ0\rho_0を挟まずにH1H_1とH2H_2をそのままつなぐと、t=1/2t=1/2で滑らかさが失われることがある。M=N=RM=N=\mathbb{R}、H1(p,t)=p+tH_1(p,t)=p+t、H2(p,t)=p+1+t2H_2(p,t)=p+1+t^2の場合に、つなぎ目での一階微分を計算して確かめる。
  4. 定理 3.3の証明で、K(d(H∗ω))=0K(d(H^*\omega))=0を用いた。ω\omegaが閉形式であるという仮定を落とすと、この項が残る。残る項が何を表すかを、k=0k=0の場合に§E17.12 定理 4.4の式から書き下す。
  5. 定理 4.2の証明で、κ∗=0\kappa^*=0(k≥1k\ge1)とκ∗=id⁡\kappa^*=\operatorname{id}という二つの事実を組み合わせた。k=0k=0でこの議論を行うと何が起こるかを述べ、k=0k=0を別に扱った理由を説明する。
  6. 定理 4.3を定理 4.2から導く道筋を書き下し、§E17.12 定理 5.1を用いる道筋との違いを、原始形式が具体的に得られるかどうかという観点で述べる。
  7. 命題 5.2のHHの分母が正であることを、ρ(t)=0\rho(t)=0の場合とρ(t)>0\rho(t)>0の場合に分けて確かめた。ρ\rhoの値域が[0,1][0,1]に含まれることをどこで使ったかを特定する。
  8. 命題 5.3を用いて、HdRk(S1×R)≅HdRk(S1)H^k_{\mathrm{dR}}(S^1\times\mathbb{R})\cong H^k_{\mathrm{dR}}(S^1)を導く。さらにS1×RS^1\times\mathbb{R}とR2∖{0}\mathbb{R}^2\setminus\{0\}が滑らかにホモトピー同値であることを、命題 5.2と合わせて述べる。

8 境界と次

本記事はホモトピーを滑らかなものに限った。位相空間としてホモトピー同値であるが滑らかなホモトピー同値を直接には与えられない場合もある。連続なホモトピーを滑らかなホモトピーへ近似することができるという定理があり、それを用いると滑らかさの仮定を外すことができるが、その証明は本単元の範囲を超えるので用いない。本記事の主張はすべて滑らかなホモトピーの言葉で述べてある。

de Rham コホモロジーが位相不変量であること、すなわち特異コホモロジーと同型であることを述べるのが de Rham の定理である。特異ホモロジー、基本群および de Rham の定理は「位相幾何入門」が扱う。

本記事ではH0H^0と、可縮な場合および星型開集合の場合しか計算していない。球面と円環面のように可縮でない多様体のコホモロジーを計算するには、多様体を二つの開集合へ分けて、それぞれのコホモロジーと共通部分のコホモロジーから元の多様体のコホモロジーを復元する道具が要る。それが Mayer–Vietoris 完全列であり、「Mayer–Vietoris と計算例」が扱う。同じ記事で、コンパクトで向きづけられた境界のない連結多様体の最高次コホモロジーが消えないことを、Stokes の定理から導く。

コホモロジーには外積から誘導される積が入り、次数付き環になる。この構造は本単元では用いないので扱わない。

参考文献

  1. John M. Lee, Introduction to Smooth Manifolds, 2nd ed., Graduate Texts in Mathematics 218, Springer, New York, 2013.de Rham コホモロジーの定義、引き戻しの関手性、および滑らかなホモトピー不変性の構成を参考にした。
  2. Raoul Bott and Loring W. Tu, Differential Forms in Algebraic Topology, Graduate Texts in Mathematics 82, Springer, New York, 1982.積多様体の上のホモトピー作用素からホモトピー不変性を導く筋道を参考にした。
  3. Frank W. Warner, Foundations of Differentiable Manifolds and Lie Groups, Graduate Texts in Mathematics 94, Springer, 1983, originally published 1971.de Rham 複体の定義と、可縮な多様体に対する帰結を参考にした。

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