1 関数の微分
命題 1.1.f∈C∞(M)に対し、p∈Mとv∈TpMについて
(df)p(v)=v(f)と定めるとdf∈Ω1(M)である。チャート(U,φ=(x1,…,xn))の上では
df=i=1∑n∂xi∂fdxiである。またf,g∈C∞(M)に対してd(fg)=fdg+gdfが成り立つ。
証明. 接ベクトルはC∞(M)上の導分であるからv↦v(f)は線形であり、(df)p∈Tp∗Mである。チャート上での成分は(df)p(∂/∂xi∣p)=(∂f/∂xi)(p)であり(§E17.3 定理 3.3)、これはU上のC∞関数である。§E17.10 命題 4.1によりこの値が1形式としての成分に一致し、§E17.10 命題 2.2によりdfはC∞切断である。座標表示も同じ成分の計算から従う。
積については、導分の性質からv(fg)=f(p)v(g)+g(p)v(f)である。両辺をpとvについて読み替えるとd(fg)=fdg+gdfを得る。▨
チャート(U,φ=(x1,…,xn))の座標関数xiはU上のC∞関数であり、その微分は命題 1.1によりdxiに一致する。すなわち、余接空間の双対基底として導入した記号dxiと、座標関数の微分としての記号は同じ対象を表す。
2 外微分の特徴づけ
定義 2.1.M上の外微分 (exterior derivative) とは、非負整数kごとに与えられた写像の族
d:Ωk(M)⟶Ωk+1(M)であって、次の四条件を満たすもののことをいう。
- 各kについてdはR線形である。
- f∈Ω0(M)=C∞(M)に対し、dfは命題 1.1の意味でのfの微分である。
- α∈Ωk(M)、β∈Ωl(M)に対して次数付き Leibniz 則
d(α∧β)=dα∧β+(−1)kα∧dβ
が成り立つ。
- すべてのω∈Ωk(M)に対してd(dω)=0である。
条件 (c)の符号は外積の規約に合わせて定めている。本単元は§E17.10 定義 3.1の行列式の規約を用いる。
補題 2.2.dを定義 2.1 条件 (a)から 3 までを満たす族とする。
- (局所性)ω,η∈Ωk(M)が開集合Uの上で一致するならば、dωとdηはUの上で一致する。
- (制限)U⊆Mを開集合とする。ω∈Ωk(U)とp∈Uに対し、pのある近傍の上で1に等しく台がUに含まれるコンパクト集合であるC∞関数χを取り、χωをUの外へ0で延ばしてΩk(M)の元と見て
(dUω)p:=(d(χω))p
と定めると、この値はχのとり方に依らない。こうして定まる族dU:Ωk(U)→Ωk+1(U)はUの上で定義 2.1 条件 (a)から 3 までを満たし、ω∈Ωk(M)に対してdU(ω∣U)=(dω)∣Uを満たす。さらにdが定義 2.1 条件 (d)を満たすならばdUも定義 2.1 条件 (d)を満たす。
証明.(1)を示す。定義 2.1 条件 (a)によりω−ηを考えればよいので、ω∣U=0のとき(dω)∣U=0を示す。p∈Uを取る。§E17.2 命題 1.5により、C∞関数χ:M→[0,1]であって、pのある開近傍W⊆Uの上でχ≡1であり、suppχがコンパクトでsuppχ⊆Uを満たすものが存在する。
M=U∪(M∖suppχ)であり、Uの上ではω=0、M∖suppχの上ではχ=0であるから、Mの全体でχω=0である。χは0次形式であるからχ∧ω=χωであり、定義 2.1 条件 (c)をk=0として適用すると
0=d(χω)=dχ∧ω+χdωを得る。pで評価する。v∈TpMに対し(dχ)p(v)=v(χ)であり、χはWの上で定数関数1に等しいので§E17.3 補題 1.3によりv(χ)=v(1)である。導分の性質からv(1)=v(1⋅1)=2v(1)、すなわちv(1)=0である。よって(dχ)p=0である。χ(p)=1であるから、上の等式は(dω)p=0を与える。p∈Uは任意であったから(dω)∣U=0である。
(2)を示す。χ1,χ2をともに条件を満たす関数とすると、χ1ωとχ2ωはpのある近傍の上でωに一致するので互いに一致し、(1)により(d(χ1ω))p=(d(χ2ω))pである。よって(dUω)pはχに依らない。pの近傍W(そこでχ≡1)の上ではdUω=d(χω)∣WであるからdUωはC∞切断である。
ω∈Ωk(M)のとき、χ(ω∣U)を0拡張したものはWの上でωに一致するので、(1)により(dU(ω∣U))p=(dω)pである。
定義 2.1 条件 (a)は各点の定義式がωについて線形であることから従う。定義 2.1 条件 (b)は、f∈C∞(U)とv∈TpMに対しχfがWの上でfに一致することと§E17.3 補題 1.3から(d(χf))p(v)=v(χf)=v(f)となることによる。
定義 2.1 条件 (c)を見る。α∈Ωk(U)、β∈Ωl(U)、p∈Uとし、χを上のように取る。(χα)∧(χβ)=χ2(α∧β)とχ(α∧β)はともにWの上でα∧βに一致するので、(1)により
(dU(α∧β))p=(d((χα)∧(χβ)))p=(d(χα)∧(χβ)+(−1)k(χα)∧d(χβ))pである。χ(p)=1であるから、右辺は(dUα)p∧βp+(−1)kαp∧(dUβ)pに等しい。
定義 2.1 条件 (d)を見る。ω∈Ωk(U)とp∈Uに対し、χを上のように取る(pの開近傍Wの上でχ≡1、suppχはコンパクトでUに含まれる)。さらに§E17.2 命題 1.5により、pのある開近傍W′⊆Wの上で1に等しく、台がコンパクトでWに含まれるC∞関数χ′を取る。Wの上ではdUω=d(χω)∣Wであるから、χ′dUωを0拡張したものはW′の上でd(χω)に一致する。よって 1 により
(dU(dUω))p=(d(χ′dUω))p=(d(d(χω)))p=0である。▨
証明. まず、増加とは限らない添字の列K=(k1,…,km)とf∈C∞(W)に対して
D(fdxK)=df∧dxK,dxK=dxk1∧⋯∧dxkmが成り立つことを確かめる。Kに重複があれば§E17.10 系 3.6によりdxK=0であり、両辺は0である。重複がなければ、Kを昇順に並べ替える置換πを取るとdxK=sgn(π)dxK′(K′は増加添字)であり、両辺がともにsgn(π)倍で対応するので、Kが増加添字の場合に帰着する。その場合はDの定義そのものである。
定義 2.1 条件 (a)は、座標表示の成分がωについて線形であり、dが関数について線形であることから従う。定義 2.1 条件 (b)は、k=0のとき増加添字が空列だけでありdx∅=1となるので、Df=dfとなることによる。
定義 2.1 条件 (c)を示す。双線形性からα=adxI、β=bdxJ(I、Jは増加添字、∣I∣=k、∣J∣=l、a,b∈C∞(W))の場合に帰着する。α∧β=abdxI∧dxJであり、dxI∧dxJ=dx(I,J)(IとJを連ねた添字列)であるから、上で確かめた式と命題 1.1の積の規則により
D(α∧β)=d(ab)∧dxI∧dxJ=(bda+adb)∧dxI∧dxJである。一方
Dα∧β=(da∧dxI)∧(bdxJ)=bda∧dxI∧dxJであり、dbは1形式、dxIはk次形式であるから§E17.10 定理 3.5によりdxI∧db=(−1)kdb∧dxIであり、
(−1)kα∧Dβ=(−1)kadxI∧db∧dxJ=(−1)k(−1)kadb∧dxI∧dxJ=adb∧dxI∧dxJである。二つの和はD(α∧β)に等しい。
定義 2.1 条件 (d)を示す。ω=∑IωIdxIに対し、命題 1.1により
Dω=I∑j=1∑n∂xj∂ωIdxj∧dxIである。ふたたびDを適用すると、上で確かめた式により
D(Dω)=I∑j=1∑ni=1∑n∂xi∂xj∂2ωIdxi∧dxj∧dxIである。ωIはC∞であるから§E4.4 定理 2.1により∂2ωI/∂xi∂xjはiとjの入れ替えで不変であり、§E17.10 系 3.6によりdxi∧dxj=−dxj∧dxiである。したがって添字の対(i,j)と(j,i)に対応する項が相殺し、i=jの項はdxi∧dxi=0から消える。よってD(Dω)=0である。▨
定理 2.4.M上の外微分、すなわち定義 2.1の四条件を満たす族dがただ一つ存在する。チャート(U,φ=(x1,…,xn))の上では
(dω)∣U=1≤i1<⋯<ik≤n∑dωi1⋯ik∧dxi1∧⋯∧dxikである。とくにこの表示は、それがチャートに依らない対象を定めることを別に確かめる必要がなく、一意性から座標のとり方に依らない。
証明. 一意性。dとd′をともに四条件を満たす族とする。補題 2.2により、どちらもチャートの定義域Uの上の族dU、dU′を誘導し、(dω)∣U=dU(ω∣U)を満たす。したがってdU=dU′をすべてのチャートについて示せば足りる。
ω∈Ωk(U)を取り、ω=∑IωIdxIと座標表示する。まず、増加添字I=(i1<⋯<ik)に対してdU(dxI)=0をkについての帰納法で示す。k=1のときは、定義 2.1 条件 (b)によりdxi=dUxiであるから、定義 2.1 条件 (d)によりdU(dxi)=dU(dUxi)=0である。k−1で成り立つとすると、dxI=dxi1∧dxI′(I′=(i2<⋯<ik))に定義 2.1 条件 (c)を適用して
dU(dxI)=dU(dxi1)∧dxI′−dxi1∧dU(dxI′)=0を得る。
つぎに定義 2.1 条件 (c)をα=ωI∈Ω0(U)、β=dxIとして適用すると
dU(ωIdxI)=dUωI∧dxI+ωIdU(dxI)=dωI∧dxIである(第二の等号で定義 2.1 条件 (b)と上の結果を用いた)。定義 2.1 条件 (a)によりdUω=∑IdωI∧dxIである。右辺はdUの作り方に依らない式であるからdU=dU′である。
存在。各チャート(U,φ)に対して補題 2.3の族Dφを取る。二つのチャート(U,φ)、(V,ψ)について、W=U∩V=∅とすると、DφとDψはいずれもWの上で四条件を満たす族を与える。WはMの開集合であるからそれ自身C∞多様体であり(§E17.1 命題 7.1)、上の一意性の議論を多様体Wに適用すると、Wの上でDφ=Dψである。
したがってω∈Ωk(M)に対して(dω)∣U:=Dφ(ω∣U)と定めると、この定め方はチャートの選び方に依らず、M上の(k+1)次形式dωが定まる。四条件はいずれも各点の近傍だけで述べることができる条件であり、各チャートの上で補題 2.3により成り立つので、dはMの全体で四条件を満たす。▨
命題 2.5. すべての非負整数kとω∈Ωk(M)に対してd(dω)=0である。
例 2.6 (三次元空間で外微分が勾配・回転・発散を与えること).R3の標準座標を(x,y,z)とする。R3の標準内積と体積形式dx∧dy∧dzを用いると、ベクトル場F=(F1,F2,F3)に対して次の二つの対応が定まる。
F ⟼ F1dx+F2dy+F3dz(1 次形式),F ⟼ F1dy∧dz+F2dz∧dx+F3dx∧dy(2 次形式).関数gには3次形式gdx∧dy∧dzを対応させる。この三つの対応のもとで、外微分は勾配・回転・発散を与える。これら三つの演算の定義は「実解析 II」の§E4.17 定義 1.2による。回転を表す記号は同じ定義に合わせてcurlと書く。
0次形式fについては命題 1.1により
df=∂x∂fdx+∂y∂fdy+∂z∂fdzであり、これはgradfに対応する1形式である。
1形式ω=Pdx+Qdy+Rdzについては、定理 2.4の表示から
dω=(∂y∂R−∂z∂Q)dy∧dz+(∂z∂P−∂x∂R)dz∧dx+(∂x∂Q−∂y∂P)dx∧dyである。実際、d(Pdx)=∂y∂Pdy∧dx+∂z∂Pdz∧dxなどを三項について書き、dy∧dx=−dx∧dyなどで整理すると上の式になる。係数の組はcurl(P,Q,R)に一致する。
2形式η=F1dy∧dz+F2dz∧dx+F3dx∧dyについては
dη=(∂x∂F1+∂y∂F2+∂z∂F3)dx∧dy∧dzである(dy∧dz∧dx=dz∧dx∧dy=dx∧dy∧dzを用いた)。係数はdivFである。
命題 2.5を0次形式と1次形式へ適用すると、curlgrad=0とdivcurl=0(§E4.17 定理 2.1)を得る。f=xyzで確かめるとdf=yzdx+xzdy+xydzであり、d(df)のdx∧dyの係数は∂x(xz)−∂y(yz)=z−z=0である。他の二つの係数も同様に消える。
この対応はR3の標準内積と体積形式に依存する。ベクトル場から1次形式への対応は内積によって定まり、2次形式への対応は内積と体積形式の両方によって定まる。一般の多様体には内積も体積形式も付随していないので、計量を選ばなければこの対応を書くことができない。本単元は多様体に Riemann 計量を導入しないため、勾配・回転・発散を一般の多様体上の演算として扱わない。計量を導入したうえでの一般論は「Riemann 幾何 I」が扱う。上の対応をふたたび用いるのは「Stokes の定理」で三次元の古典的な積分定理へ降りる箇所だけである。
3 引き戻しとの可換性
命題 3.1.F:M→NをC∞写像、ω∈Ωk(N)とする。このとき
F∗(dω)=d(F∗ω)が成り立つ。
証明. k=0の場合。g∈C∞(N)、p∈M、v∈TpMとする。F∗g=g∘Fであるから
(d(F∗g))p(v)=v(g∘F)=dFp(v)(g)=(dg)F(p)(dFp(v))=(F∗(dg))p(v)である。第二の等号は微分dFpの定義(§E17.3 定理 5.3)、第三の等号は命題 1.1による。
一般の場合。両辺はpの近傍だけで決まる。実際、F∗は各点で定まり(§E17.10 定義 5.1)、dは局所的である(補題 2.2)。そこでF(p)の周りのチャート(V,ψ=(y1,…,ym))と、pの周りのチャート(U,φ)でF(U)⊆Vを満たすものを取る(Fの連続性から取ることができる)。Fa=ya∘Fと置く。
Vの上でω=∑AωAdya1∧⋯∧dyak(A=(a1<⋯<ak))と表す。§E17.10 命題 5.4と、いま示したk=0の場合によるF∗(dya)=d(ya∘F)=dFaから、Uの上で
F∗ω=A∑(ωA∘F)dFa1∧⋯∧dFakである。この右辺へ外微分を施す。定義 2.1 条件 (c)と定義 2.1 条件 (d)から、定理 2.4の一意性の証明と同じ帰納法によりd(dFa1∧⋯∧dFak)=0である。実際、各FaはU上のC∞関数であるからd(dFa)=0であり、定義 2.1 条件 (c)を繰り返し適用すると各項にd(dFar)が現れて消える。したがって
d(F∗ω)=A∑d(ωA∘F)∧dFa1∧⋯∧dFakである。
一方dω=∑AdωA∧dya1∧⋯∧dyakであるから、§E17.10 定理 5.3とk=0の場合により
F∗(dω)=A∑F∗(dωA)∧F∗(dya1)∧⋯∧F∗(dyak)=A∑d(ωA∘F)∧dFa1∧⋯∧dFakである。二つは一致する。pは任意であったから、等式はMの全体で成り立つ。▨
外微分の座標表示が座標のとり方に依らないことは、定理 2.4の一意性から従う。座標変換もまたC∞写像であるから、命題 3.1を座標変換へ適用しても同じ結論が得られる。
例 3.2 (引き戻しとの可換性の検算).M={(u,v)∈R2:u>0}、N=R2、F(u,v)=(ucosv, usinv)とし、ω=xdy∈Ω1(N)を取る。
まずdω=dx∧dyである。§E17.10 例 5.5によりF∗(dx∧dy)=udu∧dvである。
つぎにF∗ωを計算する。§E17.10 命題 5.4によりF∗(dy)=sinvdu+ucosvdv、F∗x=ucosvであるから
F∗ω=(ucosv)(sinvdu+ucosvdv)=usinvcosvdu+u2cos2vdvである。外微分を取ると、du∧dvの係数は
∂u∂(u2cos2v)−∂v∂(usinvcosv)=2ucos2v−u(cos2v−sin2v)=u(cos2v+sin2v)=uである。したがってd(F∗ω)=udu∧dv=F∗(dω)である。
4 不変表示
座標を用いない表示を得るために、ベクトル場を引数とする写像がいつ各点で決まる対象を定めるのかを確かめる。
証明.補題 2.2 (1)を示す。多重線形性により
B(X1,…,Xm)−B(Y1,…,Ym)=r=1∑mB(Y1,…,Yr−1,Xr−Yr,Xr+1,…,Xm)であるから、ある引数がpで消えるとき値がpで0になることを示せばよい。X∣p=0とし、Xが第一引数にあるとする(他の引数の場合も同じ議論である)。
pの周りのチャート(U,φ=(x1,…,xn))を取り、Uの上でX=∑i=1nai∂/∂xiと書く。X∣p=0からai(p)=0である。§E17.2 命題 1.5により、pのある開近傍W⊆Uの上で1に等しく、台がコンパクトでUに含まれるC∞関数χ:M→[0,1]を取る。χaiをUの外へ0で延ばしたものをbi∈C∞(M)、χ∂/∂xiを同様に延ばしたものをEi∈X(M)とする。
M=U∪(M∖suppχ)であり、Uの上では両辺がχ2Xに等しく、suppχの外では両辺が0であるから、Mの上で
χ2X=i=1∑nbiEiが成り立つ。C∞(M)多重線形性から
χ2B(X,X2,…,Xm)=B(χ2X,X2,…,Xm)=i=1∑nbiB(Ei,X2,…,Xm)である。pで評価するとχ(p)=1かつbi(p)=ai(p)=0であるから、B(X,X2,…,Xm)(p)=0を得る。
これで 1 の前半が従う。各点pとv1,…,vm∈TpMに対しては、vrを値に持つC∞ベクトル場を取ってBp(v1,…,vm)を定める。そのようなベクトル場は、座標表示vr=∑i=1ncri∂/∂xi∣pに対して∑i=1ncriEiを取れば存在する。Bpの多重線形性はBの多重線形性から従う。
(2)を示す。二つの引数が同じ接ベクトルであるとき、その接ベクトルを値に持つ同一のベクトル場を両方の引数へ入れればBの交代性から値は0である。(1)によりこの値がBpの値であるから、Bpは交代的である。滑らかさを見る。p∈Mを取り、上のWとEiを用いると、Wの上でEi=∂/∂xiであるから、増加添字I=(i1<⋯<im)に対して
Bq(∂xi1∂q,…,∂xim∂q)=B(Ei1,…,Eim)(q)(q∈W)であり、右辺はC∞関数である。§E17.10 命題 4.1によりこの値が座標表示の成分であり、§E17.10 命題 2.2 条件 (c)から、p↦BpはC∞切断である。▨
括弧積[X,Y]は§E17.7 定義 1.2による。括弧積は局所的である。すなわちXとX′、YとY′がそれぞれ開集合Wの上で一致すれば、[X,Y]と[X′,Y′]もWの上で一致する。実際、p∈Wとf∈C∞(M)に対し、YfとY′fはWの上で一致するので§E17.3 補題 1.3によりXp(Yf)=Xp(Y′f)=Xp′(Y′f)であり、XとYを入れ替えた項についても同様である。
証明. 右辺をB(X,Y)と書く。BはR双線形である。
Bが交代的であることを見る。XとYを入れ替えると、第一項と第二項が入れ替わって符号が変わり、[Y,X]=−[X,Y](§E17.7 定義 1.2)から第三項も符号が変わる。よってB(Y,X)=−B(X,Y)であり、とくにB(X,X)=0である。
BがC∞(M)双線形であることを見る。交代性から第二引数について確かめれば足りる。f∈C∞(M)に対し、§E17.7 定義 1.2の定義から[X,fY]=f[X,Y]+(Xf)Yである。実際、g∈C∞(M)に対して
[X,fY]g=X(fYg)−fY(Xg)=(Xf)(Yg)+fX(Yg)−fY(Xg)=(f[X,Y]+(Xf)Y)gである。したがって
B(X,fY)=X(fω(Y))−fY(ω(X))−ω(f[X,Y]+(Xf)Y)=(Xf)ω(Y)+fX(ω(Y))−fY(ω(X))−fω([X,Y])−(Xf)ω(Y)=fB(X,Y)である。加法性は明らかであるから、BはC∞(M)双線形である。
補題 4.1により、BはM上の2次微分形式を定める。左辺dωも2次微分形式であるから、両者が各点の座標基底の上で一致することを示せばよい。
p∈Mを取り、チャート(U,φ=(x1,…,xn))と、その上の座標基底を取る。補題 4.1の証明で作ったEi=χ∂/∂xiを用いると、pの近傍Wの上でEi=∂/∂xiであり、括弧積の局所性から[Ei,Ej]∣W=[∂/∂xi,∂/∂xj]∣W=0である(座標基底どうしの括弧積が消えることは、∂i∂jf=∂j∂if、すなわち§E4.4 定理 2.1による)。
Uの上でω=∑i=1nωidxiと表す。定理 2.4により
dω=i=1∑nj=1∑n∂xj∂ωidxj∧dxiであり、§E17.10 系 3.6により(dxj∧dxi)(∂/∂xa,∂/∂xb)=δajδbi−δbjδaiであるから
dω(∂xa∂,∂xb∂)=∂xa∂ωb−∂xb∂ωaである。一方、q∈Wに対し補題 4.1 (1)により
Bq(∂xa∂q,∂xb∂q)=B(Ea,Eb)(q)=∂xa∂ωb(q)−∂xb∂ωa(q)−0である(Wの上でEa=∂/∂xaであり、ω(∂/∂xb)=ωbは§E17.10 命題 4.1による)。両者は一致する。pとチャートは任意であったから、二つの2次形式は等しい。▨
定理 4.3.kを非負整数、ω∈Ωk(M)、X0,…,Xk∈X(M)とする。このとき
dω(X0,…,Xk)=i=0∑k(−1)iXi(ω(X0,…,Xi,…,Xk))+0≤i<j≤k∑(−1)i+jω([Xi,Xj],X0,…,Xi,…,Xj,…,Xk)が成り立つ。ここでXiはその引数を省くことを表す。k=0ではこの式はdf(X0)=X0(f)を、k=1では定理 4.2を与える。
証明.k=0のときは第二の和が空であり、第一の和はX0(f)である。これは命題 1.1そのものである。以下k≥1とする。
右辺をDω(X0,…,Xk)と書く。Dωは各引数についてR線形である。
隣り合う二つの引数が等しいとき値が0であること。Xp=Xp+1=Xとする。第一の和では、i∈/{p,p+1}の項に現れるωの引数の並びにXpとXp+1の両方が残るので、ωの交代性から値は0である。i=pの項とi=p+1の項では、省いた後の引数の並びが(Xp=Xp+1であるから)同一であり、外側の作用素もXp=Xp+1で同じであるが、符号(−1)pと(−1)p+1が反対であるから相殺する。
第二の和では、(i,j)=(p,p+1)の項は[X,X]=0(§E17.7 定義 1.2の交代性)から0である。i,jがともに{p,p+1}に属さない項では、ωの引数の並びにXpとXp+1の両方が残るので0である。i<pに対する(i,p)と(i,p+1)の二項では、[Xi,Xp]=[Xi,Xp+1]であり、残りの引数の並びも同一であり、符号(−1)i+pと(−1)i+p+1が反対であるから相殺する。j>p+1に対する(p,j)と(p+1,j)の二項についても同様である。よってDω(X0,…,Xk)=0である。
R多重線形性と、隣り合う二引数が等しいとき値が消えることから、隣接する二引数の交換で符号が変わり、したがって任意の置換σについてDωはsgn(σ)倍になる。とくに任意の二引数が等しいとき値は0である。
C∞(M)多重線形性。上の符号の規則により、第0引数について確かめれば足りる。f∈C∞(M)に対しDω(fX0,X1,…,Xk)を計算する。
第一の和では、i=0の項がfX0(ω(X1,…,Xk))になる。i≥1の項ではωの第一引数がfX0になるので
(−1)iXi(fω(X0,…,Xi,…,Xk))=(−1)ifXi(ω(⋯))+(−1)i(Xif)ω(X0,…,Xi,…,Xk)となり、fDωに現れる項のほかに
i=1∑k(−1)i(Xif)ω(X0,…,Xi,…,Xk)が現れる。
第二の和では、i≥1の項はωの引数の一つがfX0になるだけでありf倍を与える。i=0の項では[fX0,Xj]=f[X0,Xj]−(Xjf)X0である(定理 4.2の証明で確かめた[X,fY]=f[X,Y]+(Xf)Yを、括弧積の交代性を用いて書き直したものである)。したがって(0,j)の項は
(−1)jfω([X0,Xj],X1,…,Xj,…,Xk)−(−1)j(Xjf)ω(X0,X1,…,Xj,…,Xk)となり、fDωに現れる項のほかに
−j=1∑k(−1)j(Xjf)ω(X0,X1,…,Xj,…,Xk)が現れる。二つの追加項は、同じ引数の並びに対する同じ係数を符号だけ変えて持つので相殺する。よってDω(fX0,X1,…,Xk)=fDω(X0,…,Xk)である。
以上よりDωは交代的なC∞(M)多重線形写像であり、補題 4.1によってM上の(k+1)次微分形式を定める。
座標基底での比較。p∈M、チャート(U,φ=(x1,…,xn))、および補題 4.1の証明で作ったEiを取る。pの近傍Wの上でEi=∂/∂xiであり、括弧積はWの上で消える。増加する添字a0<a1<⋯<akを取り、A=(a0,…,ak)と書く。Dω(Ea0,…,Eak)をWの上で計算すると、Eai=∂/∂xaiであり第二の和は括弧積が消えることから0になるので、q∈Wに対して
(Dω)q(∂xa0∂q,…,∂xak∂q)=r=0∑k(−1)r∂xar∂(ωA∖{ar})(q)である。ここでωA∖{ar}は、Aからarを除いた増加添字に対するωの成分である(§E17.10 命題 4.1)。
一方ω∣U=∑IωIdxI(Iは増加するk個の添字)に対し
dω∣U=I∑j=1∑n∂xj∂ωIdxj∧dxIであり、§E17.10 系 3.6により
(dxj∧dxi1∧⋯∧dxik)(∂xa0∂,…,∂xak∂)=det(δascr)r,s=0k,(c0,…,ck)=(j,i1,…,ik)である。この行列式が0でないのは、(c0,…,ck)が(a0,…,ak)の並べ替えであるときに限る。Iは増加添字であるから、j∈Iならば行が重複して行列式は0である。j∈/Iかつ{j}∪I={a0,…,ak}のときは、j=arかつI=A∖{ar}である。列(ar,a0,…,ar,…,ak)は(a0,…,ak)からarを先頭へ移したものであり、隣接交換をr回行って得られるので、行列式は(−1)rである。したがって
dω(∂xa0∂,…,∂xak∂)=r=0∑k(−1)r∂xar∂(ωA∖{ar})である。二つの値は一致する。dωとDωはともに交代形式であるから、増加する添字の組で一致すれば任意の座標基底の組で一致し、したがってpにおいて一致する。pは任意であったから、等式が成り立つ。▨
5 閉形式と完全形式
命題 5.2. 完全形式は閉形式である。すなわちω=dηならばdω=0である。
証明.dω=d(dη)=0である(命題 2.5)。▨
逆は一般には成り立たない。次の例は、閉形式であって完全形式でないものを与える。
6 演習
問題 6.1.
- 補題 2.2 (1)の証明で、χωがMの全体で0であることを言うためにM=U∪(M∖suppχ)を用いた。suppχ⊆Uという条件を落とすと、この分解のどこが成り立たなくなるのかを述べる。
- 定理 2.4の一意性の証明で、定義 2.1 条件 (d)を用いたのはdU(dxi)=0を示す一箇所だけである。この一箇所を落とすと、四条件のうち残りの三つだけからは作用素が一意に定まらないことを、d′(f)=df、d′(fdx1)=df∧dx1+fΘ(Θは固定した2次形式)という形の候補を検討して確かめる。
- 補題 2.3の定義 2.1 条件 (c)の検証で、dxI∧db=(−1)kdb∧dxIを用いた。この符号を(−1)k+1と誤ると Leibniz 則がどのように破れるかを、k=1の具体例で確かめる。
- 命題 3.1の証明は、k=0の場合を先に示し、それをF∗(dya)=dFaの形で一般の場合へ用いている。この一手がなければ議論が進まない箇所を特定する。
- 補題 4.1の証明で、χXではなくχ2X=∑i=1n(χai)(χ∂/∂xi)という分解を用いた理由を述べる。χaiとχ∂/∂xiのそれぞれがM全体で定義されることが、どの段階で必要になるのかを特定する。
- 定理 4.3の証明で、C∞(M)多重線形性を第0引数についてだけ確かめれば足りる理由を述べる。第r引数(r≥1)についての主張を、交代性からどのように導くのかを書き下す。
- 定理 4.3をk=2、ω=fdx1∧dx2、(X0,X1,X2)=(∂/∂x1,∂/∂x2,∂/∂x3)に対して両辺を計算し、ともに∂f/∂x3になることを確かめる。
- 例 5.3で、UをR2の上半平面へ取り替えるとωが完全形式になる。その場合の原始関数を一つ書き下し、上の矛盾を導く議論のどこが成り立たなくなるのかを述べる。
7 境界と次
外微分の四条件による特徴づけは、作用素が一意であることまでを述べている。逆に、四条件のうちどれか一つを落とすと一意性が失われる。定理 2.4の証明は、定義 2.1 条件 (d)をdU(dxi)=0を得るためだけに用いており、そこが一意性の要である。
定理 4.3に1/(k+1)の因子が付かないのは、外積を§E17.10 定義 3.1の行列式の規約で定めたからである。交代化作用素にk!l!(k+l)!を掛ける規約を採ると、不変表示の右辺に1/(k+1)が現れる。規約を混ぜて用いてはならない。
閉形式が完全形式であるかどうかは、定義域の形に依存する。例 5.3は、平面から一点を除いた領域でこの含意が破れることを示している。星型の開集合の上でk≥1の閉形式が完全であることは「内部積・Cartan の公式・Poincaré の補題」で証明する。閉形式の全体を完全形式の全体で割った商として不変量を作る操作は「de Rham 複体とホモトピー不変性」が扱う。
外微分の不変表示は、分布を1形式の共通零点として与えたときに、可積分条件を外積イデアルの言葉で書き直すために用いる。この書き直しは「Frobenius の定理の微分形式による定式化」が扱う。