§E17.9葉層と葉

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Frobenius の定理は、対合的な分布に対して各点の周りに平坦チャートを与える。平坦チャートの中では、分布の積分多様体は座標の後半n−kn-k個を定数にした板として現れる。異なるチャートの板をつなぎ合わせると、多様体全体がkk次元の部分多様体へ分割される。この分割が葉層であり、その各成分が葉である。

本記事は、平坦チャートによって葉層を定義し、葉を極大な連結積分多様体として構成する。構成の要は、葉が各平坦チャートと高々可算個の板でしか交わらないことである。この可算性は多様体の第二可算性から従い、これによって葉に第二可算な多様体の構造が入る。次に、葉に入る位相と可微分構造が一意に定まることを証明する。

葉はMMの埋め込み部分多様体になるとは限らない。円環面上の無理数傾きの線形葉層では、各葉が円環面の中で稠密であり、葉の位相は部分空間位相と一致しない。最後に、充実トーラス上の Reeb 成分を構成する。そこでは境界の円環面が一枚のコンパクトな葉になり、内部の葉はいずれもR2\mathbb{R}^2と微分同相であってその閉包が境界の円環面を含む。

本記事ではMMを境界を持たないnn次元C∞C^\infty多様体とし、1≤k<n1\le k<nとする。第二可算性、 Lindelöf 性、コンパクト性および連結性については「位相空間論 I」が定めた形を用い、Rn\mathbb{R}^nの開集合の上の微分に関する事実については「実解析 II」が定めた形を用いる。

1 葉層と板

定義 1.1.DDをMM上の階数kkの対合的なC∞C^\infty分布とする。DDに対する平坦チャート(§E17.8 定義 2.2)の全体をF(D)\mathcal{F}(D)と書き、DDが定めるMMの kk次元葉層 (kk-dimensional foliation) という。§E17.8 定理 5.1によりF(D)\mathcal{F}(D)に属するチャートの定義域はMMを覆う。F(D)\mathcal{F}(D)に属するチャートの板(§E17.8 定義 2.2)を、この葉層の板という。

補題 1.2.NNを境界を持たない連結なC∞C^\infty多様体、h∈C∞(N)h\in C^\infty(N)とし、すべてのq∈Nq\in Nでdhq=0dh_q=0であるとする。このときhhは定数である。

証明.q0∈Nq_0\in Nを取り、A={q∈N:h(q)=h(q0)}A=\{q\in N:h(q)=h(q_0)\}と置く。hhは連続であるからAAは閉集合である。AAが開集合であることを示す。q∈Aq\in Aを取り、qqの周りのチャート(W,α)(W,\alpha)でα(W)\alpha(W)が開球であるものを取る。h∘α−1h\circ\alpha^{-1}の全微分は至るところ00でありα(W)\alpha(W)は凸であるから、§E4.3 系 2.3によりh∘α−1h\circ\alpha^{-1}は定数である。よってW⊆AW\subseteq Aである。NNは連結でありAAは空でない開かつ閉な部分集合であるからA=NA=Nである。▨

補題 1.3.MMを境界を持たないnn次元C∞C^\infty多様体、DDをMM上の階数kkの対合的なC∞C^\infty分布とする。(U,χ)(U,\chi)と(U′,χ′)(U',\chi')をDDに対する平坦チャートとし、それぞれの座標を(t1,…,tk,uk+1,…,un)(t^1,\dots,t^k,u^{k+1},\dots,u^n)、(t′1,…,t′k,u′k+1,…,u′n)(t'^1,\dots,t'^k,u'^{k+1},\dots,u'^n)と書く。

  1. U∩U′U\cap U'の上で ∂u′a∂ti=0(1≤i≤k, k+1≤a≤n)\frac{\partial u'^a}{\partial t^i}=0\qquad(1\le i\le k,\ k+1\le a\le n) が成り立つ。すなわち、座標変換χ′∘χ−1\chi'\circ\chi^{-1}の後半n−kn-k個の成分は、前半kk個の変数に依存しない。
  2. PPを(U,χ)(U,\chi)の板とすると、P∩U′P\cap U'の各連結成分の上でu′k+1,…,u′nu'^{k+1},\dots,u'^nは定数であり、その連結成分は(U′,χ′)(U',\chi')のただ一枚の板に含まれる。

証明.(1)を示す。q∈U∩U′q\in U\cap U'とする。∂/∂ti∣q∈Dq\partial/\partial t^i|_q\in D_qであり、(U′,χ′)(U',\chi')が平坦チャートであることからDqD_qは∂/∂t′1∣q,…,∂/∂t′k∣q\partial/\partial t'^1|_q,\dots,\partial/\partial t'^k|_qが張る。したがって

∂∂ti∣q=∑j=1kcj ∂∂t′j∣q\frac{\partial}{\partial t^i}\Big|_q=\sum_{j=1}^{k}c^j\,\frac{\partial}{\partial t'^j}\Big|_q

と書くことができる。関数u′au'^a(a>ka>k)へ作用させると、∂u′a/∂t′j=0\partial u'^a/\partial t'^j=0であるから

∂u′a∂ti(q)=∑j=1kcj ∂u′a∂t′j(q)=0\frac{\partial u'^a}{\partial t^i}(q)=\sum_{j=1}^{k}c^j\,\frac{\partial u'^a}{\partial t'^j}(q)=0

である。

(2)を示す。PPは§E17.8 命題 2.3によりkk次元C∞C^\infty多様体であり、そのチャートはχ\chiの最初のkk座標である。CCをP∩U′P\cap U'の連結成分とすると、CCはPPの開集合であるから境界を持たない連結なkk次元C∞C^\infty多様体である。a>ka>kに対してu′a∣Cu'^a|_Cの微分は、CCの座標ベクトル場が∂/∂ti\partial/\partial t^iであることと(1)により00である。よって補題 1.2によりu′au'^aはCCの上で定数である。したがってCCは(U′,χ′)(U',\chi')の一枚の板に含まれる。板どうしは交わらないので、その板は一意である。▨

補題 1.4.MMを境界を持たないnn次元C∞C^\infty多様体、DDをMM上の階数kkの対合的なC∞C^\infty分布とする。(U,χ)(U,\chi)をDDに対する平坦チャート、ι:N→M\iota:N\to MをDDの連結な積分多様体(§E17.8 定義 2.1)でι(N)⊆U\iota(N)\subseteq Uを満たすものとする。このときι(N)\iota(N)は(U,χ)(U,\chi)のただ一枚の板PPに含まれる。さらにι\iotaをPPへの写像とみなしたものは単射なはめ込みであり、NNからPPの開集合への微分同相を与える。

証明.a>ka>kを取り、h=ua∘ι∈C∞(N)h=u^a\circ\iota\in C^\infty(N)と置く。q∈Nq\in Nに対してdhq=d(ua)ι(q)∘dιqdh_q=d(u^a)_{\iota(q)}\circ d\iota_qであり、dιq(TqN)=Dι(q)d\iota_q(T_qN)=D_{\iota(q)}は∂/∂ti\partial/\partial t^iが張るのでd(ua)d(u^a)はその上で消える。よってdhq=0dh_q=0であり、補題 1.2によりhhは定数である。aaは任意であったから、ι(N)\iota(N)は一枚の板PPに含まれる。PPが一意であることは、板どうしが交わらないことによる。

PPは§E17.8 命題 2.3によりkk次元C∞C^\infty多様体であり、そのチャートはχ\chiの最初のkk座標である。ι\iotaのPPへの座標表示はχ∘ι\chi\circ\iotaの最初のkk成分であるからC∞C^\inftyである。その微分は、MMへのι\iotaの微分が単射であることから単射である。dim⁡N=dim⁡P=k\dim N=\dim P=kであるから微分は同型であり、§E4.7 定理 2.1と§E17.5 補題 1.1によりι:N→P\iota:N\to Pは局所微分同相である。ι\iotaは単射であるから、NNから開集合ι(N)⊆P\iota(N)\subseteq Pへの微分同相である。▨

2 葉の定義と可算性

定義 2.1.MMを境界を持たないnn次元C∞C^\infty多様体、DDをMM上の階数kkの対合的なC∞C^\infty分布とする。葉層F(D)\mathcal{F}(D)の板の有限列P1,…,PmP_1,\dots,P_mが

Pr∩Pr+1≠∅(1≤r≤m−1)P_r\cap P_{r+1}\ne\varnothing\qquad(1\le r\le m-1)

を満たすとき、この列を板の鎖 (chain of plaques) という。p,q∈Mp,q\in Mに対して、p∼qp\sim qであるとは、板の鎖P1,…,PmP_1,\dots,P_mであってp∈P1p\in P_1かつq∈Pmq\in P_mを満たすものが存在することをいう。

命題 2.2.定義 2.1の関係∼\simはMM上の同値関係である。

証明. 反射律は、各点が少なくとも一枚の板に属することによる(定義 1.1のとおり平坦チャートの定義域がMMを覆い、各点はその点を含む板に属する)。対称律は列を逆順にすることによる。推移律は二つの鎖を連結することによる。▨

定義 2.3.MM、DDを定義 2.1のとおりとする。命題 2.2の同値関係∼\simによるMMの同値類を、葉層F(D)\mathcal{F}(D)の葉 (leaf) という。

補題 2.4.MM、DDを定義 2.1のとおりとし、LLを葉、PPを板とする。P∩L≠∅P\cap L\ne\varnothingならばP⊆LP\subseteq Lである。

証明.q∈P∩Lq\in P\cap Lとする。PPの任意の点rrに対して、長さ11の鎖(P)(P)がqqとrrを結ぶのでr∼qr\sim qであり、r∈Lr\in Lである。▨

定理 2.5.MMを境界を持たないnn次元C∞C^\infty多様体、DDをMM上の階数kkの対合的なC∞C^\infty分布とし、LLを葉層F(D)\mathcal{F}(D)の葉とする。

  1. LLは高々可算個の板の和集合である。
  2. 任意の平坦チャート(U′,χ′)(U',\chi')に対して、LLと交わる(U′,χ′)(U',\chi')の板は高々可算個である。

証明. 可算な平坦チャートの族を取る。MMは第二可算(§E2.13 定義 5.1)であるから Lindelöf である(§E2.21 命題 1.6)。平坦チャートの定義域からなる開被覆にこれを適用して、可算な部分族C={(Um,χm)}m≥1\mathcal{C}=\{(U_m,\chi_m)\}_{m\ge1}であって{Um}\{U_m\}がMMを覆うものを取る。

第一段。任意の板の中の二点は、C\mathcal{C}の板の鎖で結ばれる。PPを平坦チャート(U,χ)(U,\chi)の板、p,q∈Pp,q\in Pとする。PPはχ\chiによってRk\mathbb{R}^kの開直方体と同相であるから弧状連結であり、PPの中の連続な道c:[0,1]→Pc:[0,1]\to Pでc(0)=pc(0)=p、c(1)=qc(1)=qとなるものが存在する。

A={s∈[0,1]: p と c(s) が C の板の鎖で結ばれる}A=\{s\in[0,1]:\ p\ \text{と}\ c(s)\ \text{が}\ \mathcal{C}\ \text{の板の鎖で結ばれる}\}

と置く。0∈A0\in Aである。

s∈[0,1]s\in[0,1]を取り、c(s)∈Umc(s)\in U_mとなるmmを選ぶ。P∩UmP\cap U_mはPPの開集合であり、PPは局所連結であるから、c(s)c(s)を含むP∩UmP\cap U_mの連結成分CCはPPの開集合である。補題 1.3 (2)により、CCは(Um,χm)(U_m,\chi_m)のただ一枚の板QQに含まれる。ccは連続であるから、ssを含む[0,1][0,1]の相対開集合IIが存在してc(I)⊆C⊆Qc(I)\subseteq C\subseteq Qである。s′∈Is'\in Iに対して、c(s)c(s)とc(s′)c(s')はともにQQに属するので長さ11の鎖で結ばれる。したがってs∈As\in AならばI⊆AI\subseteq Aであり、s∉As\notin AならばI∩A=∅I\cap A=\varnothingである。よってAAは[0,1][0,1]の開かつ閉な部分集合であり、[0,1][0,1]は連結である(§E2.43 定義 1.1)からA=[0,1]A=[0,1]である。とくに1∈A1\in A、すなわちppとqqはC\mathcal{C}の板の鎖で結ばれる。

したがって、p∼qp\sim qであることと、C\mathcal{C}の板だけを用いた鎖でppとqqが結ばれることは同値である。任意の鎖の各板の中で、両端の点をC\mathcal{C}の板の鎖に置き換えればよい。

第二段。一枚の板は高々可算個の板としか交わらない。PPを平坦チャート(U,χ)(U,\chi)の板、(U′,χ′)(U',\chi')を平坦チャートとする。P∩U′P\cap U'はPPの開集合である。PPはRk\mathbb{R}^kの開直方体と微分同相であるから第二可算であり、局所連結である。よってP∩U′P\cap U'の連結成分は開集合であり、その個数は高々可算である(各成分はPPの可算基の元を少なくとも一つ含み、成分どうしは交わらない)。補題 1.3 (2)により、各連結成分は(U′,χ′)(U',\chi')のただ一枚の板に含まれる。PPと交わる(U′,χ′)(U',\chi')の板は、P∩U′P\cap U'のある連結成分と交わるから、その個数は連結成分の個数以下であり高々可算である。

第三段。(1)を示す。p∈Lp\in Lを取り、ppを含むC\mathcal{C}の板を一つ選んでP0P^0とする。S1={P0}\mathcal{S}_1=\{P^0\}とし、Sr+1\mathcal{S}_{r+1}を、Sr\mathcal{S}_rのいずれかの板と交わるC\mathcal{C}の板の全体とする。第二段とC\mathcal{C}が可算であることから、Sr\mathcal{S}_rが可算であればSr+1\mathcal{S}_{r+1}も可算である(可算個の可算集合の和集合である)。よって帰納法により各Sr\mathcal{S}_rは可算であり、S=⋃r≥1Sr\mathcal{S}=\bigcup_{r\ge1}\mathcal{S}_rも可算である。

L=⋃Q∈SQL=\bigcup_{Q\in\mathcal{S}}Qを示す。第一段により、q∈Lq\in Lに対してppとqqを結ぶC\mathcal{C}の板の鎖Q1,…,QNQ_1,\dots,Q_Nが存在する。p∈Q1∩P0p\in Q_1\cap P^0であるからQ1∈S2Q_1\in\mathcal{S}_2であり、以下順にQl∈Sl+1Q_l\in\mathcal{S}_{l+1}である。よってq∈QN⊆⋃Q∈SQq\in Q_N\subseteq\bigcup_{Q\in\mathcal{S}}Qである。逆にS\mathcal{S}の各板はP0P^0から鎖で到達することができるのでLLに含まれる。

第四段。(2)を示す。(U′,χ′)(U',\chi')を平坦チャートとする。(1)によりL=⋃Q∈SQL=\bigcup_{Q\in\mathcal{S}}Qであり、LLと交わる(U′,χ′)(U',\chi')の板は、あるQ∈SQ\in\mathcal{S}と交わる。第二段により各QQと交わる(U′,χ′)(U',\chi')の板は高々可算であり、S\mathcal{S}は可算であるから、全体としても高々可算である。▨

3 葉の多様体構造

定理 3.1.MMを境界を持たないnn次元C∞C^\infty多様体、DDをMM上の階数kkの対合的なC∞C^\infty分布とし、LLを葉層F(D)\mathcal{F}(D)の葉とする。LLに含まれる板の全体を基底とする位相をLLに入れ、各板PPに§E17.8 命題 2.3のC∞C^\infty構造を与えると、LLは連結なkk次元C∞C^\infty多様体になり、包含写像ιL:L→M\iota_L:L\to Mは単射なはめ込みである。この構造によってLLはDDの連結な積分多様体であり、LLの点を通るDDの任意の連結な積分多様体の像はLLに含まれる。

証明. 板が基底をなすこと。補題 2.4により、LLと交わる板はLLに含まれる。各点q∈Lq\in Lはある板に属する。q∈P1∩P2q\in P_1\cap P_2(PiP_iはLLに含まれる板、(Ui,χi)(U_i,\chi_i)の板)とする。qqの周りの平坦チャート(U3,χ3)(U_3,\chi_3)をU3⊆U1∩U2U_3\subseteq U_1\cap U_2となるように取る(§E17.8 定理 5.1のチャートを縮めればよい)。qqを通る(U3,χ3)(U_3,\chi_3)の板P3P_3は連結な積分多様体(§E17.8 命題 2.3)でありU1U_1に含まれるから、補題 1.4により(U1,χ1)(U_1,\chi_1)の一枚の板に含まれる。q∈P3q\in P_3かつq∈P1q\in P_1であるから、その板はP1P_1である。同様にP3⊆P2P_3\subseteq P_2である。よって板の全体は基底の条件を満たす。

Hausdorff 性。q≠q′q\ne q'をLLの二点とする。MMは Hausdorff(§E2.15 定義 1.2)であるから、交わらない開集合V∋qV\ni q、V′∋q′V'\ni q'がMMに存在する。VVに含まれる平坦チャートを取り、そのqqを通る板をPP、同様にV′V'に含まれる平坦チャートのq′q'を通る板をP′P'とすると、P∩P′=∅P\cap P'=\varnothingであり、両者はLLの開集合である。

第二可算性。定理 2.5 (1)によりLLは高々可算個の板の和集合である。各板はLLの開集合であり、Rk\mathbb{R}^kの開直方体と同相であるから第二可算である。可算個の第二可算な開部分空間の和集合は第二可算であるから、LLは第二可算である。

チャートの両立。PPを(U,χ)(U,\chi)の板、P′P'を(U′,χ′)(U',\chi')の板とし、P∩P′≠∅P\cap P'\ne\varnothingとする。板のチャートはχ\chiとχ′\chi'の最初のkk座標であるから、座標変換はχ′∘χ−1\chi'\circ\chi^{-1}の最初のkk成分を、後半の座標を定数に固定して制限したものである。χ′∘χ−1\chi'\circ\chi^{-1}はC∞C^\inftyであるから、この制限もC∞C^\inftyである。逆向きも同様であるから、二つのチャートは両立する。

以上によりLLはkk次元C∞C^\infty多様体である。連結性は、LLの任意の二点が板の鎖で結ばれ、各板が連結であることから従う。

包含写像。ιL\iota_Lの板PP上での座標表示は(t1,…,tk)↦(t1,…,tk,c)(t^1,\dots,t^k)\mapsto(t^1,\dots,t^k,c)であるからC∞C^\inftyであり、微分は単射である。ιL\iota_Lは包含写像であるから単射である。よってιL\iota_Lは単射なはめ込みであり、§E17.5 定義 4.4の意味でLLははめ込み部分多様体である。TqLT_qLの像は∂/∂ti\partial/\partial t^iが張る空間、すなわちDqD_qであるから、LLはDDの積分多様体である。

極大性。ι:N→M\iota:N\to MをDDの連結な積分多様体とし、ι(N)∩L≠∅\iota(N)\cap L\ne\varnothingとする。q0∈Nq_0\in Nをι(q0)∈L\iota(q_0)\in Lとなるように取り、q∈Nq\in Nを任意に取る。NNは連結な多様体であるから弧状連結であり、q0q_0からqqへの連続な道c:[0,1]→Nc:[0,1]\to Nが存在する。

A={s∈[0,1]: ι(c(s))∼ι(q0)}A=\{s\in[0,1]:\ \iota(c(s))\sim\iota(q_0)\}

と置く。0∈A0\in Aである。

s∈[0,1]s\in[0,1]を取り、ι(c(s))\iota(c(s))の周りの平坦チャート(U,χ)(U,\chi)を取る。ι−1(U)\iota^{-1}(U)はNNの開集合であり、NNは局所連結であるから、c(s)c(s)を含む連結成分CCは開集合である。ι∣C\iota|_Cは連結な積分多様体であり像がUUに含まれるから、補題 1.4によりι(C)\iota(C)は一枚の板PPに含まれる。ccは連続であるから、ssを含む[0,1][0,1]の相対開集合IIでc(I)⊆Cc(I)\subseteq Cとなるものが存在する。s′∈Is'\in Iに対してι(c(s))\iota(c(s))とι(c(s′))\iota(c(s'))はともにPPに属するのでι(c(s))∼ι(c(s′))\iota(c(s))\sim\iota(c(s'))である。したがってs∈As\in AならばI⊆AI\subseteq Aであり、s∉As\notin AならばI∩A=∅I\cap A=\varnothingである。よってAAは[0,1][0,1]の開かつ閉な部分集合であり、[0,1][0,1]は連結であるからA=[0,1]A=[0,1]である。とくにι(q)=ι(c(1))∼ι(q0)\iota(q)=\iota(c(1))\sim\iota(q_0)でありι(q)∈L\iota(q)\in Lである。よってι(N)⊆L\iota(N)\subseteq Lである。▨

系 3.2.MMを境界を持たないnn次元C∞C^\infty多様体、DDをMM上の階数kkの対合的なC∞C^\infty分布とし、LLを葉層F(D)\mathcal{F}(D)の葉とする。ι:N→M\iota:N\to MをDDの連結な積分多様体でι(N)⊆L\iota(N)\subseteq Lを満たすものとする。このときι(N)\iota(N)はLLの開集合であり、ι:N→L\iota:N\to LはNNからι(N)\iota(N)への微分同相である。

証明.q∈Nq\in Nを取り、ι(q)\iota(q)の周りの平坦チャート(U,χ)(U,\chi)を取る。ι−1(U)\iota^{-1}(U)はNNの開集合であり、NNは局所連結であるから、qqを含む連結成分CCは開集合である。ι∣C\iota|_Cは連結な積分多様体であり像がUUに含まれるから、補題 1.4により一枚の板PPの開集合への微分同相を与える。PPはLLと交わるので補題 2.4によりLLに含まれ、LLの開集合である。したがってι(C)\iota(C)はLLの開集合であり、ι(N)\iota(N)はこれらの和集合としてLLの開集合である。またι∣C\iota|_CはLLのチャートに関してCCからの微分同相であるから、ι:N→L\iota:N\to Lは局所微分同相であり、単射であるからι(N)\iota(N)への微分同相である。▨

定理 3.3.MMを境界を持たないnn次元C∞C^\infty多様体、DDをMM上の階数kkの対合的なC∞C^\infty分布とし、LLを葉層F(D)\mathcal{F}(D)の葉とする。LLの上の位相T\mathcal{T}とC∞C^\infty構造A\mathcal{A}が、(L,T,A)(L,\mathcal{T},\mathcal{A})を連結なkk次元C∞C^\infty多様体にし、包含写像を単射なはめ込みかつDDの積分多様体にするならば、T\mathcal{T}とA\mathcal{A}は定理 3.1で構成したものに一致する。

証明.N=(L,T,A)N=(L,\mathcal{T},\mathcal{A})と書き、ι:N→M\iota:N\to Mを包含写像とする。

LLに含まれる各板はNNの開集合であり、NNから誘導されるC∞C^\infty構造は板の構造に一致する。PPをLLに含まれる板、(U,χ)(U,\chi)をその平坦チャートとする。ι−1(U)\iota^{-1}(U)はNNの開集合であり、NNは局所連結であるから、その連結成分は開集合である。各連結成分CCは連結な積分多様体であり像がUUに含まれるから、補題 1.4により一枚の板PCP_Cの開集合への微分同相を与える。PC=PP_C=Pとなる成分CCを集めると、対応するι(C)\iota(C)は互いに交わらず(成分が交わらずι\iotaが単射である)、いずれもPPの開集合であり、和集合はPPに等しい。実際、P⊆LP\subseteq Lの各点はι\iotaの像であり、その原像が属する連結成分CCについてPCP_Cはその点を含む板、すなわちPPである。PPは連結であるから、そのような成分はちょうど一つであり、ι∣C:C→P\iota|_C:C\to Pは微分同相である。とくにP=ι(C)P=\iota(C)はNNの開集合である。

板はT\mathcal{T}の基底をなす。W∈TW\in\mathcal{T}、q∈Wq\in Wとする。ι(q)\iota(q)の周りの平坦チャート(U,χ)(U,\chi)を取り、qqを含むι−1(U)\iota^{-1}(U)の連結成分をCC、対応する板をPPとすると、上によりι∣C:C→P\iota|_C:C\to Pは微分同相である。C∩WC\cap WはCCの開集合であるからι(C∩W)\iota(C\cap W)はPPの開集合であり、PPの位相はMMからの相対位相であるから、MMの開集合V∋ι(q)V\ni\iota(q)が存在してP∩V⊆ι(C∩W)P\cap V\subseteq\iota(C\cap W)である。ι(q)\iota(q)の周りの平坦チャート(U′,χ′)(U',\chi')をU′⊆U∩VU'\subseteq U\cap Vとなるように取り、ι(q)\iota(q)を通るその板をP′P'とする。P′P'は連結な積分多様体でありUUに含まれるから、補題 1.4により(U,χ)(U,\chi)の一枚の板に含まれ、ι(q)\iota(q)を含むことからその板はPPである。よってP′⊆P∩U′⊆P∩V⊆ι(C∩W)⊆ι(W)P'\subseteq P\cap U'\subseteq P\cap V\subseteq\iota(C\cap W)\subseteq\iota(W)である。P′P'はLLと交わるのでLLに含まれ、前段によりNNの開集合である。したがってWWは板の和集合である。

以上によりT\mathcal{T}はLLに含まれる板が生成する位相であり、定理 3.1の位相に一致する。さらに各板の上でA\mathcal{A}から誘導されるC∞C^\infty構造は板の構造に一致するので、A\mathcal{A}も定理 3.1の構造に一致する。▨

4 円環面上の線形葉層

以下の二つの例では、円周S1={z∈C:∣z∣=1}S^1=\{z\in\mathbb{C}:|z|=1\}をR2=C\mathbb{R}^2=\mathbb{C}の部分多様体として扱う。∣z∣=1|z|=1という条件はR2\mathbb{R}^2に固定した多項式の条件であって、円周そのものに計量を与えたものではない。

補題 4.1.§E17.5 補題 2.3の写像をE:R→S1E:\mathbb{R}\to S^1、E(u)=(cos⁡2πu, sin⁡2πu)E(u)=(\cos2\pi u,\ \sin2\pi u)と書く。このときEEは全射であり、E(u)=E(u′)E(u)=E(u')であることとu−u′∈Zu-u'\in\mathbb{Z}であることは同値である。

証明.S1S^1の各点はあるθ∈R\theta\in\mathbb{R}によって(cos⁡θ,sin⁡θ)(\cos\theta,\sin\theta)と表すことができるので、その点はE(θ/(2π))E(\theta/(2\pi))に等しい。よってEEは全射である。また、三角関数の周期性により、E(u)=E(u′)E(u)=E(u')であることと2π(u−u′)∈2πZ2\pi(u-u')\in2\pi\mathbb{Z}であることは同値である。これはu−u′∈Zu-u'\in\mathbb{Z}と同値である。▨

例 4.2 (円環面上の無理数傾きの線形葉層).T2=S1×S1T^2=S^1\times S^1を積多様体(§E17.1 命題 7.3)とし、α\alphaを無理数とする。Π:R2→T2\Pi:\mathbb{R}^2\to T^2をΠ(u,v)=(E(u),E(v))\Pi(u,v)=(E(u),E(v))とすると、§E17.5 補題 2.3によりΠ\Piは局所微分同相である。Π\Piの局所逆写像が定めるチャートを取ると、二つのチャートの座標変換は整数ベクトルによる平行移動である。したがってR2\mathbb{R}^2上の定数ベクトル場∂/∂u+α ∂/∂v\partial/\partial u+\alpha\,\partial/\partial vはT2T^2上のC∞C^\inftyベクトル場XXを定める。XXは至るところ消えないので、Dq=span⁡{Xq}D_q=\operatorname{span}\{X_q\}は階数11のC∞C^\infty分布であり、§E17.8 例 6.1により対合的である。これが定める葉層を考える。

XXの流れ。局所座標でφt(u,v)=(u+t,v+αt)\varphi_t(u,v)=(u+t,v+\alpha t)であるから、T2T^2の上では

φt(E(u),E(v))=(E(u+t), E(v+αt))\varphi_t\bigl(E(u),E(v)\bigr)=\bigl(E(u+t),\ E(v+\alpha t)\bigr)

である。右辺はR\mathbb{R}全体で定義されるのでXXは完備である。

各軌道は単射なはめ込みの像である。q0=(E(u0),E(v0))∈T2q_0=(E(u_0),E(v_0))\in T^2を取る。t↦φt(q0)t\mapsto\varphi_t(q_0)が単射であることを示す。φt(q0)=φs(q0)\varphi_t(q_0)=\varphi_s(q_0)とすると、補題 4.1によりt−s∈Zt-s\in\mathbb{Z}かつα(t−s)∈Z\alpha(t-s)\in\mathbb{Z}である。t−s=mt-s=m(mmは整数)と置くとαm∈Z\alpha m\in\mathbb{Z}であり、α\alphaは無理数であるからm=0m=0、すなわちt=st=sである。この事実は初期点q0q_0に依らない。速度ベクトルはXφt(q0)≠0X_{\varphi_t(q_0)}\ne0であるから、t↦φt(q0)t\mapsto\varphi_t(q_0)は単射なはめ込みであり、その像はDDの連結な積分多様体である。

葉は流れの軌道である。軌道{φt(q):t∈R}\{\varphi_t(q):t\in\mathbb{R}\}は上により連結な積分多様体の像であり、軌道はT2T^2を分割する。系 3.2により各軌道は、それを含む葉の開集合である。一つの葉は、それに含まれる軌道たちの交わらない開集合による和集合であり、葉は連結であるから、葉はちょうど一つの軌道である。

点(E(0),E(0))(E(0),E(0))を通る葉。この葉は

γ(t)=(E(t), E(αt))(t∈R)\gamma(t)=\bigl(E(t),\ E(\alpha t)\bigr)\qquad(t\in\mathbb{R})

の像である(前段のq0=(E(0),E(0))q_0=(E(0),E(0))の場合である)。§E17.5 例 2.4により、γ\gammaは単射なはめ込みであるが像への同相写像ではなく、像はT2T^2で稠密である。

葉は埋め込み部分多様体でない。定理 3.1と系 3.2により、γ\gammaはR\mathbb{R}から葉LLへの微分同相である。仮にLLがT2T^2の埋め込み部分多様体であれば、LLの多様体としての位相はT2T^2からの相対位相であり、包含写像は像への同相写像である。するとγ\gammaも像への同相写像になり、§E17.5 例 2.4に反する。したがってLLは埋め込み部分多様体でなく、はめ込み部分多様体にとどまる。

板との関係。LLはT2T^2で稠密であるから、どの平坦チャートの定義域とも交わり、その中で無限個の板と交わる。定理 2.5により、その個数は高々可算である。これを具体的に確かめる。Π\Piの局所逆写像が定めるチャートの座標を(u,v)(u,v)とすると、DDは∂/∂u+α ∂/∂v\partial/\partial u+\alpha\,\partial/\partial vが張るので、座標を(t,w)=(u, v−αu)(t,w)=(u,\ v-\alpha u)へ取り替えるとDDは∂/∂t\partial/\partial tが張る。この座標変換は線形同型であるが、もとのチャートの像が開直方体であっても新しい座標での像は平行四辺形になるので、そのままでは§E17.8 定義 2.2が要求する開直方体の条件を満たさない。そこで、新しい座標での像に含まれる開直方体を一つ取り、その逆像へ定義域を縮める。こうして得た平坦チャートを(U,χ)(U,\chi)とすると、L∩UL\cap Uの板はw=v−αuw=v-\alpha uの値が{m−αl:l,m∈Z}\{m-\alpha l:l,m\in\mathbb{Z}\}の元であるものに対応し、この集合は可算無限である。

5 充実トーラス上の Reeb 成分

充実トーラスT=D2×S1\mathbb{T}=D^2\times S^1(D2={(x,y)∈R2:x2+y2≤1}D^2=\{(x,y)\in\mathbb{R}^2:x^2+y^2\le1\})は境界を持つ対象であり、本記事のここまでの枠組み(境界を持たない多様体)の外にある。境界を持つ多様体の一般論、すなわち半空間へのチャートによる定義と境界の一般的な性質は「境界を持つ多様体と境界の向き」が扱う。以下ではT\mathbb{T}を具体的な対象として扱い、内部T˚=D2˚×S1\mathring{\mathbb{T}}=\mathring{D^2}\times S^1(D2˚={(x,y):x2+y2<1}\mathring{D^2}=\{(x,y):x^2+y^2<1\})における葉層を本記事の枠組みで構成する。さらに、分布を境界まで滑らかに延長し、境界点の半空間型の平坦チャートを直接構成して、境界∂D2×S1=S1×S1\partial D^2\times S^1=S^1\times S^1が一枚の極大なコンパクト葉になることを示す。

例 5.1 (Reeb 成分).f:D2˚→Rf:\mathring{D^2}\to\mathbb{R}を

f(x,y)=exp⁡(11−x2−y2)f(x,y)=\exp\left(\frac{1}{1-x^2-y^2}\right)

で定める。1−x2−y2>01-x^2-y^2>0であるからffはD2˚\mathring{D^2}上でC∞C^\inftyであり、x2+y2→1x^2+y^2\to1のときf→+∞f\to+\inftyである。

分布を定める。T˚=D2˚×S1\mathring{\mathbb{T}}=\mathring{D^2}\times S^1は境界を持たない33次元C∞C^\infty多様体である。§E17.5 補題 2.3のEEの局所逆写像をssと書くと、∂/∂s\partial/\partial sは局所座標のとり方に依らず定まるS1S^1上のC∞C^\inftyベクトル場である(二つの局所逆写像は定数だけ異なる)。これをT˚\mathring{\mathbb{T}}上のベクトル場と見てTTと書く。

Z1=∂∂x+fx T,Z2=∂∂y+fy TZ_1=\frac{\partial}{\partial x}+f_x\,T,\qquad Z_2=\frac{\partial}{\partial y}+f_y\,T

と定める(fx=∂f/∂xf_x=\partial f/\partial x、fy=∂f/∂yf_y=\partial f/\partial y)。Z1Z_1とZ2Z_2はC∞C^\inftyであり、D2˚\mathring{D^2}方向の成分がそれぞれ∂/∂x\partial/\partial x、∂/∂y\partial/\partial yであるから各点で一次独立である。D=span⁡{Z1,Z2}D=\operatorname{span}\{Z_1,Z_2\}は階数22のC∞C^\infty分布である。

対合性。局所座標(x,y,s)(x,y,s)ではT=∂/∂sT=\partial/\partial sであり、Z1Z_1の成分は(1,0,fx)(1,0,f_x)、Z2Z_2の成分は(0,1,fy)(0,1,f_y)である。§E17.7 命題 1.3により、[Z1,Z2][Z_1,Z_2]の第一成分と第二成分は、Z1Z_1とZ2Z_2の第一・第二成分が定数であることから00である。第三成分は

(1⋅∂fy∂x+0⋅∂fy∂y+fx∂fy∂s)−(0⋅∂fx∂x+1⋅∂fx∂y+fy∂fx∂s)=∂2f∂x ∂y−∂2f∂y ∂x=0\left(1\cdot\frac{\partial f_y}{\partial x}+0\cdot\frac{\partial f_y}{\partial y}+f_x\frac{\partial f_y}{\partial s}\right) -\left(0\cdot\frac{\partial f_x}{\partial x}+1\cdot\frac{\partial f_x}{\partial y}+f_y\frac{\partial f_x}{\partial s}\right) =\frac{\partial^2f}{\partial x\,\partial y}-\frac{\partial^2f}{\partial y\,\partial x}=0

である(ffはssに依らないので∂fx/∂s=∂fy/∂s=0\partial f_x/\partial s=\partial f_y/\partial s=0であり、二階偏導関数の対称性は§E4.4 定理 2.1による)。よって[Z1,Z2]=0[Z_1,Z_2]=0でありDDは対合的である。§E17.8 定理 5.1によりDDは葉層を定める。

葉を同定する。λ∈S1\lambda\in S^1を取り、λ=E(μ)\lambda=E(\mu)とする。写像

Λμ:D2˚→T˚,Λμ(x,y)=((x,y), E(f(x,y)+μ))\Lambda_\mu:\mathring{D^2}\to\mathring{\mathbb{T}},\qquad \Lambda_\mu(x,y)=\bigl((x,y),\ E(f(x,y)+\mu)\bigr)

はC∞C^\infty写像の合成であるからC∞C^\inftyであり、第一成分を見れば単射である。局所座標(x,y,s)(x,y,s)での表示は(x,y)↦(x,y,f(x,y)+μ)(x,y)\mapsto(x,y,f(x,y)+\mu)であるから、微分は単射であり、像の接空間は(1,0,fx)(1,0,f_x)と(0,1,fy)(0,1,f_y)が張る空間、すなわちDDである。よってΛμ\Lambda_\muの像は連結な積分多様体である。

μ\muを[0,1)[0,1)の範囲で動かすと、これらの像はT˚\mathring{\mathbb{T}}を分割する。実際、((x,y),w)∈T˚((x,y),w)\in\mathring{\mathbb{T}}に対してw=E(ν)w=E(\nu)となるν\nuを取ると、μ≡ν−f(x,y)\mu\equiv\nu-f(x,y)( mod  1\bmod\ 1)がただ一つ定まる。系 3.2により各像はそれを含む葉の開集合であり、葉は連結であるから、葉はちょうど一つの像に一致する。すなわちT˚\mathring{\mathbb{T}}の葉はLμ=Λμ(D2˚)L_\mu=\Lambda_\mu(\mathring{D^2})(μ∈[0,1)\mu\in[0,1))である。

葉の微分同相型。Λμ\Lambda_\muはD2˚\mathring{D^2}からLμL_\muへの微分同相である(系 3.2)。さらに

Ψ:D2˚→R2,Ψ(x,y)=(x,y)1−x2−y2\Psi:\mathring{D^2}\to\mathbb{R}^2,\qquad \Psi(x,y)=\frac{(x,y)}{\sqrt{1-x^2-y^2}}

はC∞C^\inftyであり、逆写像Ψ−1(a,b)=(a,b)1+a2+b2\Psi^{-1}(a,b)=\dfrac{(a,b)}{\sqrt{1+a^2+b^2}}もC∞C^\inftyであるから微分同相である。よってすべての葉LμL_\muはR2\mathbb{R}^2と微分同相であり、コンパクトでない。

葉の閉包は境界の円環面を含む。(q,w)∈∂D2×S1(q,w)\in\partial D^2\times S^1を取り、q∈∂D2q\in\partial D^2、w=E(ν)w=E(\nu)とする。μ\muを固定する。t∈[0,1)t\in[0,1)に対してpt=tq∈D2˚p_t=tq\in\mathring{D^2}と置くと

f(pt)=exp⁡(11−t2)f(p_t)=\exp\left(\frac{1}{1-t^2}\right)

であり、ttについて連続かつ狭義単調増加で、t→1−t\to1^-のとき+∞+\inftyへ発散する。したがって十分大きいすべての整数mmに対して、中間値の定理によりf(ptm)+μ−ν=mf(p_{t_m})+\mu-\nu=mを満たすtm∈[0,1)t_m\in[0,1)が存在し、m→∞m\to\inftyのときtm→1t_m\to1である。このとき

Λμ(ptm)=(ptm, E(f(ptm)+μ))=(tmq, E(ν+m))=(tmq, w)\Lambda_\mu(p_{t_m})=\bigl(p_{t_m},\ E(f(p_{t_m})+\mu)\bigr)=\bigl(t_mq,\ E(\nu+m)\bigr)=(t_mq,\ w)

であり、m→∞m\to\inftyで(q,w)(q,w)へ収束する。よって(q,w)∈Lμ‾(q,w)\in\overline{L_\mu}である。(q,w)(q,w)は任意であったから、各葉の閉包は境界の円環面∂D2×S1\partial D^2\times S^1を含む。

分布を境界まで延長する。境界の近傍では極座標(r,θ)(r,\theta)を用いる。1/2<r<11/2<r<1とすると

∂f∂r=2r(1−r2)2exp⁡(11−r2)>0\frac{\partial f}{\partial r} =\frac{2r}{(1-r^2)^2}\exp\left(\frac{1}{1-r^2}\right)>0

である。この近傍で

h(r)=(∂f∂r)−1=(1−r2)22rexp⁡(−11−r2)h(r)=\left(\frac{\partial f}{\partial r}\right)^{-1} =\frac{(1-r^2)^2}{2r}\exp\left(-\frac{1}{1-r^2}\right)

と置き、h(1)=0h(1)=0と定める。u=1−r2u=1-r^2と置く。関数η(u)=e−1/u\eta(u)=e^{-1/u}(u>0u>0)、η(u)=0\eta(u)=0(u≤0u\le0)は、§E17.2 補題 1.1により原点で平坦である。したがって、r=1r=1の近傍で

h~(r)=(1−r2)22r η(1−r2)\widetilde h(r)=\frac{(1-r^2)^2}{2r}\,\eta(1-r^2)

と置くと、h~\widetilde hはC∞C^\inftyであり、r<1r<1ではhhに一致し、r≥1r\ge1では00である。よって、以下ではhhをこのC∞C^\infty延長の意味で用いる。とくに、hhのすべての導関数はr=1r=1で00になる。

A=∂/∂θA=\partial/\partial\thetaとし、1/2<r≤11/2<r\le1の範囲で

B=T+h(r)∂∂rB=T+h(r)\frac{\partial}{\partial r}

と置く。内部では

span⁡{∂∂θ,∂∂r+∂f∂rT}=span⁡{A,B}=D\operatorname{span}\left\{\frac{\partial}{\partial\theta}, \frac{\partial}{\partial r}+\frac{\partial f}{\partial r}T\right\} =\operatorname{span}\{A,B\}=D

である。AAとBBは境界までC∞C^\inftyであり、r=1r=1でもA=∂/∂θA=\partial/\partial\theta、B=TB=Tは一次独立である。したがって、内部のDDは境界まで階数22のC∞C^\infty分布D~\widetilde Dに延長し、境界では

D~(q,w)=T(q,w)(∂D2×S1)\widetilde D_{(q,w)}=T_{(q,w)}(\partial D^2\times S^1)

となる。また、hhはθ\thetaとssに依らないので[A,B]=0[A,B]=0であり、延長した分布は境界を含む近傍でも対合的である。

境界点の半空間型の平坦チャートを構成する。V=h(r) ∂/∂rV=h(r)\,\partial/\partial rとし、その局所流をϕσ(r)\phi_\sigma(r)と書く。上で構成したhhを11の両側で用いる。通常の常微分方程式の滑らかな依存性により、ϕσ(r)\phi_\sigma(r)は(σ,r)(\sigma,r)のC∞C^\infty関数であり、ϕσ(1)=1\phi_\sigma(1)=1である。また変分方程式から

∂ϕσ∂r(r)=exp⁡(∫0σh′(ϕt(r)) dt)>0\frac{\partial\phi_\sigma}{\partial r}(r) =\exp\left(\int_0^\sigma h'\bigl(\phi_t(r)\bigr)\,dt\right)>0

を得る。

境界点((cos⁡θ0,sin⁡θ0),E(s0))((\cos\theta_0,\sin\theta_0),E(s_0))を固定する。aa、σ\sigma、τ\tauを十分小さく取り、τ≥0\tau\ge0として

Q(a,σ,τ)=(ϕσ(1−τ)(cos⁡(θ0+a),sin⁡(θ0+a)),E(s0+σ))Q(a,\sigma,\tau)= \left( \phi_\sigma(1-\tau)(\cos(\theta_0+a),\sin(\theta_0+a)), E(s_0+\sigma) \right)

と定める。QQの三つの座標方向の微分は、それぞれAA、BB、およびAAとBBの張る平面に属さない零でない動径方向のベクトルである。したがって、QQをτ≥0\tau\ge0に制限した写像は、十分小さい半直方体から境界点の相対開近傍へのC∞C^\infty微分同相になる。その逆写像を(a,σ,τ)(a,\sigma,\tau)と書くと

D~=span⁡{∂∂a,∂∂σ},∂D2×S1={τ=0}\widetilde D=\operatorname{span}\left\{\frac{\partial}{\partial a}, \frac{\partial}{\partial\sigma}\right\}, \qquad \partial D^2\times S^1=\{\tau=0\}

である。これは境界点における半空間型の平坦チャートである。

境界の円環面が極大な葉であることを示す。N=∂D2×S1N=\partial D^2\times S^1は連結であり、各点でTqN=D~qT_qN=\widetilde D_qであるから、NNは連結な積分多様体である。PPをD~\widetilde Dの連結な積分多様体とし、PPがNNと交わるとする。上の半空間型の平坦チャートでは、dτd\tauはD~\widetilde D上で消える。したがって、PP上の関数τ∣P\tau|_PはP∩NP\cap Nの各点の近傍で定数00であり、P∩NP\cap NはPPの開集合である。一方、NNはT\mathbb{T}の閉集合であるからP∩NP\cap NはPPの閉集合でもある。PPの連結性からP⊆NP\subseteq Nを得る。よってNNはそれより大きい連結な積分多様体に含まれず、D~\widetilde Dの一枚の極大な葉である。N≅S1×S1N\cong S^1\times S^1はコンパクトである。

Reeb 成分。以上により、T=D2×S1\mathbb{T}=D^2\times S^1の分割

R={Lμ:μ∈[0,1)}∪{∂D2×S1}\mathcal{R}=\{L_\mu:\mu\in[0,1)\}\cup\{\partial D^2\times S^1\}

が得られる。内部の成分はいずれもR2\mathbb{R}^2と微分同相な非コンパクトな葉である。境界の成分はS1×S1S^1\times S^1と微分同相な一枚のコンパクト葉である。内部では既にLμL_\muが極大な葉であり、境界と交わる連結な積分多様体は境界に含まれるので、延長によって異なるLμL_\muが結合することもない。したがってR\mathcal{R}はD~\widetilde Dの葉全体である。この葉層を充実トーラス上の Reeb 成分という。

注意 5.2 (進まない範囲). Reeb 成分は、葉層に非コンパクトな葉とコンパクトな葉が同居する典型的な例である。三次元球面上の Reeb 葉層は、球面を二つの充実トーラスへ分ける分解を用いて二つの Reeb 成分を貼り合わせて作るが、その分解は本単元が扱わないので構成しない。葉層の分類、Reeb の安定性定理、葉層のホロノミー、およびコンパクトな葉の存在に関する Novikov の定理は「微分位相幾何」が扱う。

6 演習

問題 6.1.

  1. 補題 1.3の証明では、∂/∂ti\partial/\partial t^iを∂/∂t′j\partial/\partial t'^jの一次結合で書いた。この展開ができる理由を、二つのチャートがどちらも同じ分布DDに対する平坦チャートであることに即して述べよ。
  2. 定理 2.5の第一段では、板の中の二点を可算族の板の鎖で結んだ。この段を省略して第三段の議論を可算族に限らない板について行おうとすると、どこで可算性が失われるかを説明せよ。
  3. 定理 2.5の第二段は、PPが第二可算であることだけを使っている。MMが第二可算でない場合に、葉が一つの平坦チャートの中で非可算個の板と交わる例を作る方針を述べよ。
  4. 定理 3.1の Hausdorff 性の証明では、MMの Hausdorff 性から取った開集合の中に板を取った。LLの位相はMMからの相対位相ではないので、V∩LV\cap Lをそのまま用いることができない。その理由を述べよ。
  5. 定理 3.3の証明の第一段では、P=ι(C)P=\iota(C)となる連結成分CCがちょうど一つであることをPPの連結性から導いた。二つ以上あると仮定した場合にPPの連結性のどこに矛盾が生じるかを書き下せ。
  6. 例 4.2でα\alphaを有理数p/qp/q(既約分数)に取り替えると、葉はどのような対象になるかを決定し、そのとき葉が埋め込み部分多様体になることを示せ。
  7. 例 5.1のffをf(x,y)=11−x2−y2f(x,y)=\dfrac{1}{1-x^2-y^2}に取り替えたとき、h=(∂f/∂r)−1h=(\partial f/\partial r)^{-1}がr=1r=1まで滑らかに延長することを確かめよ。さらに、内部葉の閉包と境界葉に関する結論が同じように成立することを示せ。逆にffを有界な関数に取り替えると、内部葉の閉包が境界の円環面を含むという結論がどこで壊れるかを述べよ。

7 境界と次

葉の位相。葉はMMのはめ込み部分多様体であり、その位相は一般にMMからの相対位相より真に細かい。例 4.2の葉はMMで稠密であり、相対位相では11次元多様体にならない。定理 3.3は、葉に入れることのできる多様体構造が一つしかないことを保証するので、「葉の位相」という言い方が曖昧さを持たない。

境界を持つ場合。例 5.1は境界を持つ対象を扱う唯一の箇所である。境界を持つ多様体の定義、境界点と内点の区別、および境界が余次元11の多様体になることの一般論は「境界を持つ多様体と境界の向き」が扱う。本記事は、その一般論を先取りせず、Reeb 成分に必要な半空間型の平坦チャートだけを具体的に構成した。

微分形式による定式化。分布を一次独立な11形式の共通の零点集合として与える定式化と、可積分条件を外積イデアルの言葉で書く形は「Frobenius の定理の微分形式による定式化」が扱う。例 5.1の分布は、内部では局所的にds−dfds-dfの零点集合である。境界を含む極座標の近傍では、滑らかに延長した11形式dr−h(r) dsdr-h(r)\,dsの零点集合として同じ分布を表すことができる。

扱わない事項。葉層の分類、Reeb の安定性定理、葉層のホロノミー、Novikov の定理、および葉空間の構造は「微分位相幾何」が扱う。本単元は葉層と葉を定義し、線形葉層と充実トーラス上の Reeb 成分を例として構成するところまでを扱う。

参考文献

  1. John M. Lee, Introduction to Smooth Manifolds, 2nd ed., Graduate Texts in Mathematics 218, Springer, New York, 2013.葉層、葉の構成および葉に入る位相の一意性を参考にした。
  2. César Camacho and Alcides Lins Neto, Geometric Theory of Foliations, Birkhäuser, 1985.葉層の定義、線形葉層および Reeb 成分の構成を参考にした。
  3. Frank W. Warner, Foundations of Differentiable Manifolds and Lie Groups, Graduate Texts in Mathematics 94, Springer, 1983, originally published 1971.極大な積分多様体の構成と第二可算性の役割を参考にした。

前提記事