§E17.5部分多様体・はめ込み・埋め込み

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多様体の中に含まれる多様体を扱うには、包含写像がどのような写像であるかを条件として書く必要がある。微分dFpdF_pの単射性や全射性は各点での線形代数の条件であり、局所的な情報しか持たない。一方、像が部分空間位相に関してもとの多様体と同相であるかどうかは大域的な条件であり、階数だけからは決まらない。

本記事は、まず微分の階数によってはめ込みと沈め込みを定義し、埋め込みを、単射なはめ込みであって像への同相写像であるものとして定義する。次に、階数だけでは埋め込みが定まらないことを、8の字曲線と円環面上の稠密な巻線という二つの例で示す。続いて定数階数定理を逆関数定理から導き、正則値の逆像が埋め込み部分多様体になることを証明する。最後に、はめ込み部分多様体を定義し、直交群を正則値の逆像として構成する。

「実解析 II」が供給する逆関数定理はC1C^1級であり、逆写像についてもC1C^1級であることしか主張しない。しかしC1C^1級の逆写像が定める座標はC∞C^\infty級の極大アトラスの元にならないので、そのままでは多様体のチャートを作ることができない。本記事は最初に、逆写像の正則性をCkC^k級(1≤k≤∞1\le k\le\infty)へ持ち上げる補題を証明し、以後はその形で逆関数定理を用いる。この補題を経ずに定数階数定理を導くことはできない。

以下、MMをmm次元、NNをnn次元C∞C^\infty多様体とする。

1 逆写像の正則性を持ち上げる

CkC^{k}級の写像の和、積および合成がふたたびCkC^{k}級であることは、「可微分多様体の定義」で§E17.1 補題 1.1として証明した。本節ではそれを繰り返し用いる。

補題 1.1.U⊆RnU\subseteq\mathbb{R}^{n}を開集合、f ⁣:U→Rnf\colon U\to\mathbb{R}^{n}をCkC^{k}級(1≤k≤∞1\le k\le\infty)とし、a∈Ua\in UにおいてDf(a)Df(a)が可逆であるとする。§E4.7 定理 2.1が与える開近傍U0∋aU_0\ni a、V0∋f(a)V_0\ni f(a)と逆写像g ⁣:V0→U0g\colon V_0\to U_0について、ggはCkC^{k}級である。

証明.§E4.7 定理 2.1によりggはC1C^{1}級であり、V0V_0の各点yyで

Dg(y)=Df(g(y))−1Dg(y)=Df\bigl(g(y)\bigr)^{-1}

が成り立つ。とくにDf(g(y))Df(g(y))はすべてのy∈V0y\in V_0で可逆である。

正則行列に逆行列を対応させる写像がC∞C^\infty級であることを示す。ここでは行列式と随伴行列に関する「線形代数 II」の結果を用いる。nn次正方行列の全体をRn2\mathbb{R}^{n^{2}}と同一視する。det⁡\detは成分の多項式であるから連続であり、

GL={A∣det⁡A≠0}\mathrm{GL}=\{A\mid\det A\ne 0\}

は開集合である。§E3.21 補題 1.1により、随伴行列adj⁡(A)\operatorname{adj}(A)についてAadj⁡(A)=(det⁡A)IA\operatorname{adj}(A)=(\det A)Iが成り立つので、A∈GLA\in\mathrm{GL}に対してA−1=(det⁡A)−1adj⁡(A)A^{-1}=(\det A)^{-1}\operatorname{adj}(A)である。adj⁡(A)\operatorname{adj}(A)の各成分はAAの成分の多項式であり、det⁡A\det Aも多項式でGL\mathrm{GL}の上で消えないから、A−1A^{-1}の各成分はAAの成分の有理式であって分母が消えない。したがって写像inv⁡ ⁣:GL→Rn2\operatorname{inv}\colon\mathrm{GL}\to\mathbb{R}^{n^{2}}、inv⁡(A)=A−1\operatorname{inv}(A)=A^{-1}はC∞C^\infty級である。

k=1k=1ならば結論は§E4.7 定理 2.1そのものである。k≥2k\ge 2(k=∞k=\inftyを含む)とする。1≤j1\le jかつj≤k−1j\le k-1を満たす整数jjについて、ggがCjC^{j}級ならばggがCj+1C^{j+1}級であることを示す。DfDfはCk−1C^{k-1}級であるからCjC^{j}級である。ggはCjC^{j}級であるから、§E17.1 補題 1.1によりDf∘gDf\circ gはCjC^{j}級である。inv⁡\operatorname{inv}はC∞C^\infty級であるからCjC^{j}級であり、ふたたび§E17.1 補題 1.1により

Dg=inv⁡∘(Df∘g)Dg=\operatorname{inv}\circ\bigl(Df\circ g\bigr)

はCjC^{j}級である。よってggはCj+1C^{j+1}級である。

j=1j=1から始めてこの手順を繰り返すと、kkが有限ならばj=k−1j=k-1の段でggがCkC^{k}級であることが得られる。k=∞k=\inftyならばすべての正の整数jjについて繰り返すことができるので、ggはC∞C^\infty級である。▨

以後、C∞C^\infty級の写像に対して逆関数定理を用いるときは、補題 1.1によって逆写像もC∞C^\infty級であるとしてよい。とくに、Df(a)Df(a)が可逆であればffはaaの近傍からf(a)f(a)の近傍へのC∞C^\infty微分同相を与える。

2 はめ込み・沈め込み・埋め込み

定義 2.1.F ⁣:M→NF\colon M\to Nを滑らかな写像とする。

  1. FFがはめ込み (immersion) であるとは、すべてのp∈Mp\in Mに対してdFp ⁣:TpM→TF(p)NdF_p\colon T_pM\to T_{F(p)}Nが単射であることをいう。
  2. FFが沈め込み (submersion) であるとは、すべてのp∈Mp\in Mに対してdFpdF_pが全射であることをいう。
  3. FFが埋め込み (embedding) であるとは、FFが単射なはめ込みであり、かつ像F(M)F(M)にNNからの部分空間位相を与えたとき、F ⁣:M→F(M)F\colon M\to F(M)が同相写像であることをいう。

はめ込みであることと沈め込みであることは、§E17.3 命題 5.5により、各チャート表示の Jacobi 行列の階数がそれぞれmm、nnに等しいことと同値である。一方、埋め込みであるかどうかは階数だけでは決まらない。

例 2.2 (8の字曲線).γ ⁣:(−π,π)→R2\gamma\colon(-\pi,\pi)\to\mathbb{R}^{2}を

γ(t)=(sin⁡2t, sin⁡t)\gamma(t)=(\sin 2t,\ \sin t)

で定める。γ\gammaは単射なはめ込みであるが、像への同相写像ではない。

滑らかさとはめ込みであること。成分は初等関数でありC∞C^\inftyである。γ′(t)=(2cos⁡2t, cos⁡t)\gamma'(t)=(2\cos 2t,\ \cos t)であり、γ′(t)=0\gamma'(t)=0とするとcos⁡t=0\cos t=0すなわちt=±π/2t=\pm\pi/2であるが、そのときcos⁡2t=cos⁡(±π)=−1≠0\cos 2t=\cos(\pm\pi)=-1\ne 0である。よってγ′(t)≠0\gamma'(t)\ne 0がすべてのttで成り立ち、Jacobi 行列の階数は11である。したがってγ\gammaははめ込みである。

単射性。γ(s)=γ(t)\gamma(s)=\gamma(t)、s,t∈(−π,π)s,t\in(-\pi,\pi)とする。sin⁡s=sin⁡t\sin s=\sin tからs=ts=t、s=π−ts=\pi-t、s=−π−ts=-\pi-tのいずれかが成り立つ((−π,π)(-\pi,\pi)の範囲でこれ以外の解は無い)。s=π−ts=\pi-tの場合、s∈(−π,π)s\in(-\pi,\pi)よりt∈(0,π)t\in(0,\pi)であり、

sin⁡2s=sin⁡(2π−2t)=−sin⁡2t\sin 2s=\sin(2\pi-2t)=-\sin 2t

であるからsin⁡2t=−sin⁡2t\sin2t=-\sin2t、すなわちsin⁡2t=0\sin 2t=0である。2t∈(0,2π)2t\in(0,2\pi)であるから2t=π2t=\pi、t=π/2t=\pi/2となりs=π/2=ts=\pi/2=tである。s=−π−ts=-\pi-tの場合も同様にt=−π/2=st=-\pi/2=sを得る。よってγ\gammaは単射である。

像。x=sin⁡2t=2sin⁡tcos⁡tx=\sin2t=2\sin t\cos t、y=sin⁡ty=\sin tであるからx=2ycos⁡tx=2y\cos tであり、x2=4y2cos⁡2t=4y2(1−y2)x^{2}=4y^{2}\cos^{2}t=4y^{2}(1-y^{2})が成り立つ。逆にx2=4y2(1−y2)x^{2}=4y^{2}(1-y^{2})を満たす(x,y)(x,y)を取る。右辺が非負であることから∣y∣≤1|y|\le 1である。sin⁡t0=y\sin t_0=yを満たすt0∈[−π/2,π/2]t_0\in[-\pi/2,\pi/2]を取るとcos⁡t0=1−y2\cos t_0=\sqrt{1-y^{2}}でありsin⁡2t0=2y1−y2\sin 2t_0=2y\sqrt{1-y^{2}}である。x=2y1−y2x=2y\sqrt{1-y^{2}}ならばγ(t0)=(x,y)\gamma(t_0)=(x,y)である。x=−2y1−y2x=-2y\sqrt{1-y^{2}}かつx≠0x\ne 0ならばt0≠0t_0\ne 0であり、t0>0t_0>0のときt1=π−t0∈[π/2,π)t_1=\pi-t_0\in[\pi/2,\pi)、t0<0t_0<0のときt1=−π−t0∈(−π,−π/2]t_1=-\pi-t_0\in(-\pi,-\pi/2]と置くと、いずれも(−π,π)(-\pi,\pi)に属しsin⁡t1=y\sin t_1=y、cos⁡t1=−1−y2\cos t_1=-\sqrt{1-y^{2}}であるからγ(t1)=(x,y)\gamma(t_1)=(x,y)である。x=0x=0のときはy=0y=0または∣y∣=1|y|=1であり、それぞれt=0t=0、t=±π/2t=\pm\pi/2が対応する。よって像は{(x,y)∣x2=4y2(1−y2)}\{(x,y)\mid x^{2}=4y^{2}(1-y^{2})\}に等しい。この集合は連続関数の零点集合であるから閉集合であり、∣x∣≤1|x|\le 1、∣y∣≤1|y|\le 1から有界であるから、コンパクトである。

像への同相写像でないこと。tk=π−1/kt_k=\pi-1/k(kkは正の整数)と置くとtk∈(−π,π)t_k\in(-\pi,\pi)でありtk→πt_k\to\piである。γ\gammaの成分は連続であるから

γ(tk)⟶(sin⁡2π, sin⁡π)=(0,0)=γ(0)\gamma(t_k)\longrightarrow(\sin 2\pi,\ \sin\pi)=(0,0)=\gamma(0)

である。γ\gammaが像への同相写像であるとすると、逆写像γ−1\gamma^{-1}は像の上で連続であるからtk=γ−1(γ(tk))→γ−1(0,0)=0t_k=\gamma^{-1}(\gamma(t_k))\to\gamma^{-1}(0,0)=0となるが、tk→πt_k\to\piであるから矛盾である。したがってγ\gammaは埋め込みでない。像がコンパクトで定義域がコンパクトでないことからも同じ結論が得られる。

定義域をR\mathbb{R}に取ることはできない。γ\gammaの成分は2π2\piを周期に持つのでγ(0)=γ(2π)\gamma(0)=\gamma(2\pi)となり、単射でなくなるためである。

補題 2.3.e:R→S1e:\mathbb{R}\to S^1をe(s)=(cos⁡2πs, sin⁡2πs)e(s)=(\cos 2\pi s,\ \sin 2\pi s)で定めると、eeはC∞C^\infty写像であり、至るところ局所微分同相である。

証明.S1S^1のチャートを§E17.1 命題 5.1の立体射影で取ると、φN(x,y)=x/(1−y)\varphi_N(x,y)=x/(1-y)、φS(x,y)=x/(1+y)\varphi_S(x,y)=x/(1+y)である。θ=2πs\theta=2\pi sと置くと

φN(e(s))=cos⁡θ1−sin⁡θ,φS(e(s))=cos⁡θ1+sin⁡θ\varphi_N\bigl(e(s)\bigr)=\frac{\cos\theta}{1-\sin\theta}, \qquad \varphi_S\bigl(e(s)\bigr)=\frac{\cos\theta}{1+\sin\theta}

であり、前者はsin⁡θ≠1\sin\theta\ne 1、後者はsin⁡θ≠−1\sin\theta\ne-1の範囲で分母が消えずC∞C^\inftyである。さらに

ddθ(cos⁡θ1−sin⁡θ)=11−sin⁡θ,ddθ(cos⁡θ1+sin⁡θ)=−11+sin⁡θ\frac{d}{d\theta}\left(\frac{\cos\theta}{1-\sin\theta}\right) =\frac{1}{1-\sin\theta}, \qquad \frac{d}{d\theta}\left(\frac{\cos\theta}{1+\sin\theta}\right) =-\frac{1}{1+\sin\theta}

であり、それぞれのチャートの定義域で導関数は消えない。二つの定義域はR\mathbb{R}を覆うので、eeはC∞C^\infty写像であり、補題 1.1により至るところ局所微分同相である。▨

例 2.4 (円環面上の稠密な巻線).e(s)=(cos⁡2πs, sin⁡2πs)∈S1e(s)=(\cos 2\pi s,\ \sin 2\pi s)\in S^{1}と書き、α\alphaを無理数とする。T2=S1×S1T^{2}=S^{1}\times S^{1}(§E17.1 例 7.4)に対して

F ⁣:R→T2,F(t)=(e(t), e(αt))F\colon\mathbb{R}\to T^{2}, \qquad F(t)=\bigl(e(t),\ e(\alpha t)\bigr)

と定める。FFは単射なはめ込みであるが、像への同相写像ではない。さらに像はT2T^{2}で稠密である。

滑らかさとはめ込みであること。補題 2.3によりeeはC∞C^\infty写像であり、その微分は至るところ線形同型である。積多様体への写像は、§E17.1 命題 7.3の積のチャートを取れば各成分の滑らかさから滑らかであるから、FFはC∞C^\infty写像である。さらにFFの第一成分はeeであるから、dFtdF_tが零写像になることはない。したがってdFtdF_tの階数はすべてのttで11であり、FFははめ込みである。

単射性。F(s)=F(t)F(s)=F(t)とするとe(s)=e(t)e(s)=e(t)とe(αs)=e(αt)e(\alpha s)=e(\alpha t)が成り立つ。e(u)=e(v)e(u)=e(v)であることとu−v∈Zu-v\in\mathbb{Z}であることは同値であるから、s−t=m∈Zs-t=m\in\mathbb{Z}かつαm∈Z\alpha m\in\mathbb{Z}である。m≠0m\ne 0ならばα=(αm)/m\alpha=(\alpha m)/mが有理数となり仮定に反する。よってm=0m=0、すなわちs=ts=tである。

整数倍の小数部分。実数uuに対して、uuと最も近い整数との距離を∥u∥Z\lVert u\rVert_{\mathbb{Z}}と書く。任意の正の整数NNに対して、1≤m≤N1\le m\le Nを満たす整数mmで0<∥αm∥Z<1/N0<\lVert\alpha m\rVert_{\mathbb{Z}}<1/Nとなるものが存在する。実際、j=0,1,…,Nj=0,1,\dots,Nに対するαj\alpha jの小数部分は[0,1)[0,1)に属し、[0,1)[0,1)を長さ1/N1/NのNN個の区間に分けると、鳩の巣原理により二つのj1<j2j_1<j_2が同じ区間に入る。m=j2−j1m=j_2-j_1と置けば1≤m≤N1\le m\le Nかつ∥αm∥Z<1/N\lVert\alpha m\rVert_{\mathbb{Z}}<1/Nであり、α\alphaが無理数でm≠0m\ne 0であるから∥αm∥Z≠0\lVert\alpha m\rVert_{\mathbb{Z}}\ne 0である。

像への同相写像でないこと。上により、各正の整数kkに対して整数mk≥1m_k\ge 1で0<∥αmk∥Z<1/k0<\lVert\alpha m_k\rVert_{\mathbb{Z}}<1/kとなるものを取る。MMを正の整数とすると、1≤m≤M1\le m\le Mの範囲で∥αm∥Z\lVert\alpha m\rVert_{\mathbb{Z}}の最小値は正の数cMc_Mであるから、1/k<cM1/k<c_Mを満たすkkに対してmk>Mm_k>Mである。よってmk→∞m_k\to\inftyである。一方

F(mk)=(e(mk), e(αmk))=(e(0), e(αmk))F(m_k)=\bigl(e(m_k),\ e(\alpha m_k)\bigr)=\bigl(e(0),\ e(\alpha m_k)\bigr)

であり、∥αmk∥Z→0\lVert\alpha m_k\rVert_{\mathbb{Z}}\to 0であるからe(αmk)→e(0)e(\alpha m_k)\to e(0)である。したがってF(mk)→F(0)F(m_k)\to F(0)である。FFが像への同相写像であるとするとmk→0m_k\to 0となるが、mk→∞m_k\to\inftyであるから矛盾である。

像の稠密性。ε>0\varepsilon>0を取り、0<∥αm∥Z=δ<ε0<\lVert\alpha m\rVert_{\mathbb{Z}}=\delta<\varepsilonを満たす正の整数mmを取る。αm\alpha mの整数倍の小数部分は、kkを11ずつ増やすごとにδ\deltaまたは−δ-\deltaだけ(11を法として)動くので、{{kαm}∣k∈Z}\{\{k\alpha m\}\mid k\in\mathbb{Z}\}は[0,1)[0,1)の中で互いの間隔がδ\delta以下になるように並ぶ。よって{{nα}∣n∈Z}\{\{n\alpha\}\mid n\in\mathbb{Z}\}は[0,1)[0,1)で稠密である。T2T^{2}の任意の点を(e(a),e(b))(e(a),e(b))と書く。t=a+nt=a+nと取るとF(t)=(e(a), e(αa+αn))F(t)=(e(a),\ e(\alpha a+\alpha n))であり、{αn}\{\alpha n\}を{b−αa}\{b-\alpha a\}にいくらでも近く取ることができるので、F(t)F(t)は(e(a),e(b))(e(a),e(b))にいくらでも近づく。よって像は稠密である。

例 2.2と例 2.4は、いずれも単射なはめ込みでありながら埋め込みでない。前者は像がコンパクトで定義域がコンパクトでないという形で、後者は像が稠密であるという形で、部分空間位相ともとの位相が食い違う。微分の階数はどちらも最大であるから、階数だけでは埋め込みは定まらない。

3 定数階数定理

定理 3.1 (定数階数定理).F ⁣:M→NF\colon M\to Nを滑らかな写像、p∈Mp\in Mとし、ppのある開近傍の上でrank⁡dF\operatorname{rank}dFが定数kkであるとする。このとき、ppを含むMMのチャート(U,φ)(U,\varphi)とF(p)F(p)を含むNNのチャート(V,ψ)(V,\psi)であって、F(U)⊆VF(U)\subseteq V、φ(p)=0\varphi(p)=0、ψ(F(p))=0\psi(F(p))=0かつ

ψ∘F∘φ−1(x1,…,xm)=(x1,…,xk,0,…,0)\psi\circ F\circ\varphi^{-1}(x^{1},\dots,x^{m})=(x^{1},\dots,x^{k},0,\dots,0)

を満たすものが存在する。ここで階数が一定であるという仮定は、点ppにおける条件ではなく、ppのある近傍の上での条件である。

証明の骨子は次のとおりである。座標表示をffとし、DfDfの左上のkk次小行列が可逆になるように座標の番号を付け替える。始域側でΦ(x′,x′′)=(f′(x′,x′′),x′′)\Phi(x',x'')=(f'(x',x''),x'')と置くと、DΦ(0)D\Phi(0)が可逆になるので逆関数定理を用いることができる。これによってf∘Φ−1(u,v)=(u,G(u,v))f\circ\Phi^{-1}(u,v)=(u,G(u,v))の形になり、階数がkkであることから∂G/∂v=0\partial G/\partial v=0が従う。したがってGGはuuだけの関数であり、終域側でy′′y''からG(y′)G(y')を引く微分同相を合成すれば残りの成分が消える。

証明.ppを含むチャート(U1,φ1)(U_1,\varphi_1)とF(p)F(p)を含むチャート(V1,ψ1)(V_1,\psi_1)を、φ1(p)=0\varphi_1(p)=0、ψ1(F(p))=0\psi_1(F(p))=0、F(U1)⊆V1F(U_1)\subseteq V_1、かつU1U_1が仮定の近傍に含まれるように取る(FFは連続であるからU1U_1を小さく取り直せばよい)。Ω=φ1(U1)\Omega=\varphi_1(U_1)と置き、f=ψ1∘F∘φ1−1 ⁣:Ω→Rnf=\psi_1\circ F\circ\varphi_1^{-1}\colon\Omega\to\mathbb{R}^{n}とする。ffはC∞C^\inftyでありf(0)=0f(0)=0、§E17.3 命題 5.5によりrank⁡Df=k\operatorname{rank}Df=kがΩ\Omegaの各点で成り立つ。

Df(0)Df(0)の階数がkkであるから、kk次の小行列で行列式が00でないものが存在する。Rm\mathbb{R}^{m}とRn\mathbb{R}^{n}の座標の番号を置換すると(座標の置換は線形微分同相であり、チャートに合成してもチャートである)、左上のkk次小行列(∂fa/∂xb)1≤a,b≤k\bigl(\partial f^{a}/\partial x^{b}\bigr)_{1\le a,b\le k}の行列式が00でないとしてよい。行列式は連続であるから、Ω\Omegaを小さく取り直してこの行列式がΩ\Omega全体で00でないとしてよい。

x=(x′,x′′)∈Rk×Rm−kx=(x',x'')\in\mathbb{R}^{k}\times\mathbb{R}^{m-k}、f=(f′,f′′)f=(f',f'')(f′f'はRk\mathbb{R}^{k}値、f′′f''はRn−k\mathbb{R}^{n-k}値)と書き、

Φ(x′,x′′)=(f′(x′,x′′), x′′)\Phi(x',x'')=\bigl(f'(x',x''),\ x''\bigr)

と定める。Φ\PhiはΩ\Omega上のC∞C^\infty写像であり

DΦ=(∂f′/∂x′∂f′/∂x′′0Im−k)D\Phi=\begin{pmatrix}\partial f'/\partial x'&\partial f'/\partial x''\\[2pt] 0&I_{m-k}\end{pmatrix}

であるからdet⁡DΦ=det⁡(∂f′/∂x′)≠0\det D\Phi=\det(\partial f'/\partial x')\ne 0である。§E4.7 定理 2.1と補題 1.1により、00を含む開集合Ω0⊆Ω\Omega_0\subseteq\OmegaとΦ(0)=0\Phi(0)=0を含む開集合Ω1\Omega_1が存在して、Φ ⁣:Ω0→Ω1\Phi\colon\Omega_0\to\Omega_1はC∞C^\infty微分同相である。逆写像をΨ\Psiと書き、Ω1\Omega_1の座標を(u,v)∈Rk×Rm−k(u,v)\in\mathbb{R}^{k}\times\mathbb{R}^{m-k}と書く。

Φ∘Ψ=id⁡\Phi\circ\Psi=\operatorname{id}の第一成分からf′(Ψ(u,v))=uf'(\Psi(u,v))=u、第二成分からΨ′′(u,v)=v\Psi''(u,v)=vである。G=f′′∘ΨG=f''\circ\Psiと置くと

f∘Ψ(u,v)=(u, G(u,v))f\circ\Psi(u,v)=\bigl(u,\ G(u,v)\bigr)

である。Ψ\Psiは微分同相であるからDΨD\Psiは可逆であり、§E4.3 定理 1.1によりD(f∘Ψ)=Df(Ψ) DΨD(f\circ\Psi)=Df(\Psi)\,D\Psiの階数はDfDfの階数に等しくkkである。一方

D(f∘Ψ)=(Ik0∂G/∂u∂G/∂v)D(f\circ\Psi)=\begin{pmatrix}I_{k}&0\\[2pt] \partial G/\partial u&\partial G/\partial v\end{pmatrix}

である。(∂G/∂v)c,d≠0(\partial G/\partial v)_{c,d}\ne 0となる添字c,dc,dが存在すると仮定する。第1,…,k1,\dots,k行と第k+ck+c行、第1,…,k1,\dots,k列と第k+dk+d列から作る(k+1)(k+1)次小行列式は、第一列から第kk列までの形から

det⁡(Ik0∗(∂G/∂v)c,d)=(∂G/∂v)c,d≠0\det\begin{pmatrix}I_{k}&0\\ *&(\partial G/\partial v)_{c,d}\end{pmatrix}=(\partial G/\partial v)_{c,d}\ne 0

となり、階数がk+1k+1以上になって矛盾する。よって∂G/∂v=0\partial G/\partial v=0がΩ1\Omega_1の各点で成り立つ。

00を含む開球の積W′×W′′⊆Ω1W'\times W''\subseteq\Omega_1(W′⊆RkW'\subseteq\mathbb{R}^{k}、W′′⊆Rm−kW''\subseteq\mathbb{R}^{m-k})を取る。u∈W′u\in W'を固定すると、W′′W''は凸でありv↦G(u,v)v\mapsto G(u,v)の微分は00であるから、§E4.3 系 2.3によりG(u,v)G(u,v)はvvに依らない。そこでg(u)=G(u,0)g(u)=G(u,0)と置くと、W′×W′′W'\times W''の上でf∘Ψ(u,v)=(u,g(u))f\circ\Psi(u,v)=(u,g(u))である。ggはC∞C^\inftyであり、g(0)=G(0,0)=f′′(Ψ(0,0))=f′′(0)=0g(0)=G(0,0)=f''(\Psi(0,0))=f''(0)=0である。

終域側の写像を

χ ⁣:W′×Rn−k⟶W′×Rn−k,χ(y′,y′′)=(y′, y′′−g(y′))\chi\colon W'\times\mathbb{R}^{n-k}\longrightarrow W'\times\mathbb{R}^{n-k}, \qquad \chi(y',y'')=\bigl(y',\ y''-g(y')\bigr)

で定める。χ\chiはC∞C^\inftyであり、(z′,z′′)↦(z′,z′′+g(z′))(z',z'')\mapsto(z',z''+g(z'))が逆写像を与えるのでC∞C^\infty微分同相である。

U=φ1−1(Ψ(W′×W′′))U=\varphi_1^{-1}\bigl(\Psi(W'\times W'')\bigr)、φ=Φ∘φ1∣U\varphi=\Phi\circ\varphi_1|_{U}と置く。Φ\Phiは微分同相であるから(U,φ)(U,\varphi)はMMのチャートであり、φ(p)=Φ(0)=(f′(0),0)=0\varphi(p)=\Phi(0)=(f'(0),0)=0である。またV=V1∩ψ1−1(W′×Rn−k)V=V_1\cap\psi_1^{-1}(W'\times\mathbb{R}^{n-k})、ψ=χ∘ψ1∣V\psi=\chi\circ\psi_1|_{V}と置くと、(V,ψ)(V,\psi)はNNのチャートでありψ(F(p))=χ(0)=(0,−g(0))=0\psi(F(p))=\chi(0)=(0,-g(0))=0である。q∈Uq\in Uに対してψ1(F(q))=f(Ψ(u,v))=(u,g(u))\psi_1(F(q))=f(\Psi(u,v))=(u,g(u))(ここで(u,v)=φ(q)(u,v)=\varphi(q))でありu∈W′u\in W'であるからF(U)⊆VF(U)\subseteq Vである。

最後に、φ(U)=W′×W′′\varphi(U)=W'\times W''の上で

ψ∘F∘φ−1=χ∘ψ1∘F∘φ1−1∘Ψ=χ∘(f∘Ψ)\psi\circ F\circ\varphi^{-1}=\chi\circ\psi_1\circ F\circ\varphi_1^{-1}\circ\Psi=\chi\circ(f\circ\Psi)

であり、χ(u,g(u))=(u,g(u)−g(u))=(u,0)\chi(u,g(u))=(u,g(u)-g(u))=(u,0)であるから

ψ∘F∘φ−1(u,v)=(u,0)\psi\circ F\circ\varphi^{-1}(u,v)=(u,0)

が成り立つ。これは主張の式である。▨

4 埋め込み部分多様体と正則値

定義 4.1.MMをmm次元C∞C^\infty多様体、S⊆MS\subseteq M、kkを0≤k≤m0\le k\le mを満たす整数とする。SSが kk次元埋め込み部分多様体 (kk-dimensional embedded submanifold) であるとは、各q∈Sq\in Sに対してMMのチャート(U,φ)(U,\varphi)でq∈Uq\in Uかつ

φ(U∩S)=φ(U)∩(Rk×{0})\varphi(U\cap S)=\varphi(U)\cap\bigl(\mathbb{R}^{k}\times\{0\}\bigr)

を満たすものが存在することをいう。ここでRk×{0}={x∈Rm∣xk+1=⋯=xm=0}\mathbb{R}^{k}\times\{0\}=\{x\in\mathbb{R}^{m}\mid x^{k+1}=\cdots=x^{m}=0\}である。このようなチャートを スライスチャート (slice chart) という。

命題 4.2.SSをMMのkk次元埋め込み部分多様体とし、SSにMMからの部分空間位相を与える。πk ⁣:Rm→Rk\pi_k\colon\mathbb{R}^{m}\to\mathbb{R}^{k}を最初のkk成分への射影とする。スライスチャート(U,φ)(U,\varphi)に対してφS=πk∘φ∣U∩S\varphi_S=\pi_k\circ\varphi|_{U\cap S}と定めると、これらの全体はSSのkk次元C∞C^\inftyアトラスであり、SSはkk次元C∞C^\infty多様体になる。この可微分構造のもとで包含写像ι ⁣:S→M\iota\colon S\to Mは埋め込みである。

証明.SSは Hausdorff 空間の部分空間であるから Hausdorff であり、第二可算空間の部分空間であるから第二可算である。

φS\varphi_Sを調べる。φ(U∩S)⊆Rk×{0}\varphi(U\cap S)\subseteq\mathbb{R}^{k}\times\{0\}であるから、πk\pi_kのRk×{0}\mathbb{R}^{k}\times\{0\}への制限は同相写像Rk×{0}→Rk\mathbb{R}^{k}\times\{0\}\to\mathbb{R}^{k}であり、φS\varphi_Sは単射である。像は

φS(U∩S)={u∈Rk∣(u,0)∈φ(U)}\varphi_S(U\cap S)=\{u\in\mathbb{R}^{k}\mid(u,0)\in\varphi(U)\}

であり、これは連続写像u↦(u,0)u\mapsto(u,0)による開集合φ(U)\varphi(U)の逆像であるからRk\mathbb{R}^{k}の開集合である。U∩SU\cap SはSSの開集合であり、φ\varphiは同相写像であるからφ∣U∩S\varphi|_{U\cap S}はU∩SU\cap Sからφ(U)∩(Rk×{0})\varphi(U)\cap(\mathbb{R}^{k}\times\{0\})(部分空間位相)への同相写像である。πk\pi_kの制限と合わせてφS\varphi_Sは同相写像である。定義域の合併はSSに等しい。

座標変換を調べる。(U,φ)(U,\varphi)、(U′,φ′)(U',\varphi')をスライスチャートとすると、u∈φS(U∩U′∩S)u\in\varphi_S(U\cap U'\cap S)に対して

φS′∘φS−1(u)=πk(φ′(φ−1(u,0)))\varphi'_S\circ\varphi_S^{-1}(u)=\pi_k\Bigl(\varphi'\bigl(\varphi^{-1}(u,0)\bigr)\Bigr)

である。右辺はC∞C^\infty写像φ′∘φ−1\varphi'\circ\varphi^{-1}に、C∞C^\infty写像u↦(u,0)u\mapsto(u,0)と線形写像πk\pi_kを合成したものでありC∞C^\inftyである。定義域はφS(U∩U′∩S)\varphi_S(U\cap U'\cap S)であり、U∩U′∩SU\cap U'\cap SがSSの開集合であることから開集合である。逆向きも同様であるから、二つのスライスチャートは両立する。

包含写像を調べる。(U∩S,φS)(U\cap S,\varphi_S)と(U,φ)(U,\varphi)に関するι\iotaの座標表示はu↦φ(φS−1(u))=(u,0)u\mapsto\varphi(\varphi_S^{-1}(u))=(u,0)でありC∞C^\inftyである。§E17.1 命題 4.2によりι\iotaは滑らかである。この座標表示の Jacobi 行列は、上のkk行が単位行列IkI_k、下のm−km-k行が零行列であるm×km\times k行列であるから階数はkkであり、§E17.3 命題 5.5によりdιqd\iota_qは単射である。よってι\iotaははめ込みであり、単射である。SSには部分空間位相を与えているので、ι ⁣:S→ι(S)=S\iota\colon S\to\iota(S)=Sは恒等写像であり同相である。したがってι\iotaは埋め込みである。▨

定理 4.3.F ⁣:M→NF\colon M\to Nを滑らかな写像とし、c∈Nc\in NがFFの正則値であるとする。すなわち、F−1(c)F^{-1}(c)のすべての点ppでdFp ⁣:TpM→TcNdF_p\colon T_pM\to T_cNが全射であるとする。F−1(c)≠∅F^{-1}(c)\ne\varnothingならば、S=F−1(c)S=F^{-1}(c)はMMの(m−n)(m-n)次元埋め込み部分多様体であり、各p∈Sp\in Sに対して

dιp(TpS)=ker⁡dFpd\iota_p\bigl(T_pS\bigr)=\ker dF_p

が成り立つ。ここでι ⁣:S→M\iota\colon S\to Mは包含写像である。

証明.p∈Sp\in Sを取る。dFpdF_pは全射であるからm≥nm\ge nであり、§E17.3 命題 5.5により、ppの周りのチャート表示の Jacobi 行列の階数はnnである。階数がnnであることはnn次の小行列式のいずれかが00でないことと同値であり、小行列式は連続であるから、その小行列式はppのある近傍で00でない。したがってその近傍で階数はnn以上であり、行の個数がnnであるから階数はちょうどnnである。すなわちrank⁡dF\operatorname{rank}dFはppの近傍で定数nnである。

定理 3.1をk=nk=nとして適用すると、ppを含むチャート(U,φ)(U,\varphi)とc=F(p)c=F(p)を含むチャート(V,ψ)(V,\psi)で、F(U)⊆VF(U)\subseteq V、φ(p)=0\varphi(p)=0、ψ(c)=0\psi(c)=0かつ

ψ∘F∘φ−1(x1,…,xm)=(x1,…,xn)\psi\circ F\circ\varphi^{-1}(x^{1},\dots,x^{m})=(x^{1},\dots,x^{n})

を満たすものを取ることができる。q∈Uq\in Uに対してF(q)∈VF(q)\in Vであるから、F(q)=cF(q)=cであることとψ(F(q))=0\psi(F(q))=0であることは同値である。よって

φ(U∩S)=φ(U)∩{x∈Rm∣x1=⋯=xn=0}\varphi(U\cap S)=\varphi(U)\cap\{x\in\mathbb{R}^{m}\mid x^{1}=\cdots=x^{n}=0\}

である。座標の番号を、xn+1,…,xmx^{n+1},\dots,x^{m}を先に、x1,…,xnx^{1},\dots,x^{n}を後に並べ替える置換と合成すると(線形微分同相であるからチャートである)、条件はφ′(U∩S)=φ′(U)∩(Rm−n×{0})\varphi'(U\cap S)=\varphi'(U)\cap(\mathbb{R}^{m-n}\times\{0\})の形になる。p∈Sp\in Sは任意であったから、SSは(m−n)(m-n)次元埋め込み部分多様体である。

接空間を調べる。命題 4.2によりSSは(m−n)(m-n)次元多様体であり、ι\iotaは埋め込みである。合成F∘ι ⁣:S→NF\circ\iota\colon S\to Nは値が定数ccの写像である。定数写像κ\kappaについては、v∈TpSv\in T_pSとg∈C∞(N)g\in C^\infty(N)に対してg∘κg\circ\kappaが定数関数であるから、§E17.3 補題 1.2によりdκp(v)(g)=v(g∘κ)=0d\kappa_p(v)(g)=v(g\circ\kappa)=0である。よって§E17.3 定理 5.3により

dFp∘dιp=d(F∘ι)p=0dF_p\circ d\iota_p=d(F\circ\iota)_p=0

であり、dιp(TpS)⊆ker⁡dFpd\iota_p(T_pS)\subseteq\ker dF_pである。dιpd\iota_pは単射であるからdim⁡dιp(TpS)=dim⁡TpS=m−n\dim d\iota_p(T_pS)=\dim T_pS=m-nである。

dim⁡ker⁡dFp=m−n\dim\ker dF_p=m-nを示す。上で取ったチャート(U,φ)(U,\varphi)、(V,ψ)(V,\psi)に関してψ∘F∘φ−1(x1,…,xm)=(x1,…,xn)\psi\circ F\circ\varphi^{-1}(x^{1},\dots,x^{m})=(x^{1},\dots,x^{n})であるから、§E17.3 命題 5.5により、座標基底に関するdFpdF_pの表示は

dFp(∂∂xi∣p)={∂∂yi∣c(1≤i≤n)0(n+1≤i≤m)dF_p\left(\frac{\partial}{\partial x^{i}}\Big|_p\right) =\begin{cases}\dfrac{\partial}{\partial y^{i}}\Big|_{c}&(1\le i\le n)\\[6pt] 0&(n+1\le i\le m)\end{cases}

である。v=∑i=1mai ∂/∂xi∣pv=\sum_{i=1}^{m}a^{i}\,\partial/\partial x^{i}|_pに対してdFp(v)=∑i=1nai ∂/∂yi∣cdF_p(v)=\sum_{i=1}^{n}a^{i}\,\partial/\partial y^{i}|_{c}であり、§E17.3 定理 3.3の一次独立性により、dFp(v)=0dF_p(v)=0であることとa1=⋯=an=0a^{1}=\cdots=a^{n}=0であることは同値である。したがってker⁡dFp\ker dF_pは{∂/∂xn+1∣p,…,∂/∂xm∣p}\{\partial/\partial x^{n+1}|_p,\dots,\partial/\partial x^{m}|_p\}が張る部分空間であり、その次元はm−nm-nである。

次元が一致する部分空間の包含は等号であるから、dιp(TpS)=ker⁡dFpd\iota_p(T_pS)=\ker dF_pである。▨

定義 4.4.SSをC∞C^\infty多様体、ι ⁣:S→M\iota\colon S\to Mを単射なはめ込みとする。像ι(S)⊆M\iota(S)\subseteq Mに、ι ⁣:S→ι(S)\iota\colon S\to\iota(S)が同相写像になるような位相と、ι\iotaが微分同相になるような可微分構造を移す。この構造を与えたι(S)\iota(S)を MMのはめ込み部分多様体 (immersed submanifold ofMM) という。位相と可微分構造はι\iotaによって一意に定まる。

はめ込み部分多様体の位相は、MMからの部分空間位相と一致するとは限らない。例 2.2の8の字曲線の像と例 2.4の巻線の像はいずれもはめ込み部分多様体であるが、部分空間位相とは一致しない。一致するのはι\iotaが埋め込みであるとき、かつそのときに限る。

5 直交群

注意 5.1 (双線形形式の扱い). 以下で用いる「直交」は、Rn\mathbb{R}^{n}の上に固定した標準的な双線形形式⟨u,w⟩=∑i=1nuiwi\langle u,w\rangle=\sum_{i=1}^{n}u^{i}w^{i}に関するものである。直交群の群としての構造は「群論入門」が扱っている(§E7.1 定義 3.1)。これはベクトル空間Rn\mathbb{R}^{n}の上の代数的な構造であって、多様体の各点の接空間へ点について滑らかに変化する内積を与えたものではない。本単元は多様体の上に Riemann 計量を導入しない。

定理 5.2.nnを正の整数とし、Mn(R)M_n(\mathbb{R})をnn次実正方行列の全体、Sym⁡n(R)={S∈Mn(R)∣ST=S}\operatorname{Sym}_n(\mathbb{R})=\{S\in M_n(\mathbb{R})\mid S^{\mathsf T}=S\}とする。成分を並べることによってMn(R)M_n(\mathbb{R})をRn2\mathbb{R}^{n^{2}}と、Sym⁡n(R)\operatorname{Sym}_n(\mathbb{R})をRn(n+1)/2\mathbb{R}^{n(n+1)/2}と同一視し、それぞれ§E17.1 例 2.4の可微分構造を与える。

F ⁣:Mn(R)→Sym⁡n(R),F(A)=ATAF\colon M_n(\mathbb{R})\to\operatorname{Sym}_n(\mathbb{R}), \qquad F(A)=A^{\mathsf T}A

は滑らかであり、単位行列IIはFFの正則値である。したがって

O(n)=F−1(I)={A∈Mn(R)∣ATA=I}O(n)=F^{-1}(I)=\{A\in M_n(\mathbb{R})\mid A^{\mathsf T}A=I\}

はMn(R)M_n(\mathbb{R})のn(n−1)/2n(n-1)/2次元埋め込み部分多様体であり、単位行列における接空間は交代行列の全体

{H∈Mn(R)∣HT+H=0}\{H\in M_n(\mathbb{R})\mid H^{\mathsf T}+H=0\}

に対応する。

証明.F(A)F(A)の(i,j)(i,j)成分は∑l=1nAliAlj\sum_{l=1}^{n}A_{li}A_{lj}であり、AAの成分の多項式であるからFFは滑らかである。F(A)T=ATA=F(A)F(A)^{\mathsf T}=A^{\mathsf T}A=F(A)であるから、値は確かにSym⁡n(R)\operatorname{Sym}_n(\mathbb{R})に属する。

微分を計算する。H∈Mn(R)H\in M_n(\mathbb{R})に対して

F(A+tH)=(A+tH)T(A+tH)=ATA+t(HTA+ATH)+t2HTHF(A+tH)=(A+tH)^{\mathsf T}(A+tH)=A^{\mathsf T}A+t\bigl(H^{\mathsf T}A+A^{\mathsf T}H\bigr)+t^{2}H^{\mathsf T}H

である。FFの座標表示は多項式写像であるから、その全微分のHHにおける値はttの一次の項の係数に等しい。§E17.3 例 3.4の同一視のもとで

dFA(H)=HTA+ATHdF_A(H)=H^{\mathsf T}A+A^{\mathsf T}H

である。

IIが正則値であることを示す。A∈F−1(I)A\in F^{-1}(I)、すなわちATA=IA^{\mathsf T}A=Iとし、S∈Sym⁡n(R)S\in\operatorname{Sym}_n(\mathbb{R})を任意に取る。H=12ASH=\tfrac12ASと置くと

dFA(H)=12(AS)TA+12AT(AS)=12STATA+12(ATA)S=12S+12S=SdF_A(H)=\tfrac12(AS)^{\mathsf T}A+\tfrac12A^{\mathsf T}(AS) =\tfrac12S^{\mathsf T}A^{\mathsf T}A+\tfrac12\bigl(A^{\mathsf T}A\bigr)S =\tfrac12S+\tfrac12S=S

である。ここでATA=IA^{\mathsf T}A=IとST=SS^{\mathsf T}=Sを用いた。よってdFAdF_Aは全射であり、IIは正則値である。

I∈O(n)I\in O(n)であるからF−1(I)≠∅F^{-1}(I)\ne\varnothingである。定理 4.3によりO(n)O(n)はMn(R)M_n(\mathbb{R})の埋め込み部分多様体であり、次元は

n2−n(n+1)2=2n2−n2−n2=n(n−1)2n^{2}-\frac{n(n+1)}{2}=\frac{2n^{2}-n^{2}-n}{2}=\frac{n(n-1)}{2}

である。

単位行列における接空間は定理 4.3によりker⁡dFI\ker dF_Iである。dFI(H)=HTI+ITH=HT+HdF_I(H)=H^{\mathsf T}I+I^{\mathsf T}H=H^{\mathsf T}+Hであるから、ker⁡dFI\ker dF_IはHT+H=0H^{\mathsf T}+H=0を満たす行列の全体、すなわち交代行列の全体である。交代行列は対角成分が00であり、対角より上のn(n−1)/2n(n-1)/2個の成分で決まるから、その次元はn(n−1)/2n(n-1)/2である。これは上で求めた次元と一致する。▨

6 演習

問題 6.1 (部分多様体と埋め込みの確認). 次の各問に答えよ。

  1. 補題 1.1の証明において、kkが有限のとき帰納の手順をj=k−1j=k-1で止めなければならない理由を述べよ。j=kj=kの段で何が成り立たなくなるかを、DfDfの正則性の階数から説明せよ。
  2. C1C^{1}級の逆写像が定める座標では、多様体のC∞C^\infty極大アトラスのチャートを作ることができない。その理由を、チャートの両立の定義に立ち返って述べよ。
  3. 例 2.2の単射性の証明を再現せよ。とくにs=π−ts=\pi-tの場合にsin⁡2s=−sin⁡2t\sin 2s=-\sin 2tとなることを加法定理から導け。
  4. 例 2.4において、α\alphaを有理数q/rq/r(rrは正の整数、既約)とするとFFが単射でなくなることを示せ。FFの像がどのような集合になるかも述べよ。
  5. 定理 3.1の証明で、∂G/∂v=0\partial G/\partial v=0を導いた(k+1)(k+1)次小行列式の議論を再現せよ。また、階数が一定であるという仮定を「点ppにおける階数がkkである」に弱めると、この議論のどこが成り立たなくなるかを述べよ。
  6. 定理 4.3の証明で、rank⁡dF\operatorname{rank}dFがppの近傍で定数であることを導いた議論を再現せよ。小行列式の連続性をどこで用いたかを明示せよ。
  7. F ⁣:R3→RF\colon\mathbb{R}^{3}\to\mathbb{R}、F(x,y,z)=x2+y2+z2F(x,y,z)=x^{2}+y^{2}+z^{2}について、11が正則値であることを確かめ、定理 4.3からS2S^{2}が22次元埋め込み部分多様体であることを導け。00が正則値でない理由も述べよ。
  8. 定理 5.2のdFA(H)=SdF_A(H)=Sの計算を再現せよ。さらにn=2n=2の場合にO(2)O(2)の次元を求め、その接空間ker⁡dFI\ker dF_Iの基底を具体的に書け。
解答 (演習の解答).

(1)帰納の各段ではDg=inv⁡∘(Df∘g)Dg=\operatorname{inv}\circ(Df\circ g)の右辺がCjC^{j}級であることを用いる。そのためにはDfDfがCjC^{j}級でなければならない。ffはCkC^{k}級であるからDfDfはCk−1C^{k-1}級であり、j≤k−1j\le k-1の範囲でしかこの条件が満たされない。j=kj=kとするとDfDfがCkC^{k}級であることが必要になるが、仮定からはそれが従わない。(2)二つのチャートが両立するとは、座標変換とその逆写像がともにC∞C^\infty級であることをいう。C1C^{1}級の逆写像が定める座標を使うと、座標変換はC1C^{1}級であることしか言えないので、C∞C^\infty両立の条件を確かめることができない。したがって、そのチャートがC∞C^\infty極大アトラスに属するかどうかが判定できない。(3)sin⁡s=sin⁡t\sin s=\sin tの解はs=t+2πjs=t+2\pi jまたはs=π−t+2πjs=\pi-t+2\pi j(jjは整数)であり、s,t∈(−π,π)s,t\in(-\pi,\pi)の範囲ではs=ts=t、s=π−ts=\pi-t、s=−π−ts=-\pi-tに限られる。s=π−ts=\pi-tのとき2s=2π−2t2s=2\pi-2tであり、加法定理によりsin⁡(2π−2t)=sin⁡2πcos⁡2t−cos⁡2πsin⁡2t=−sin⁡2t\sin(2\pi-2t)=\sin2\pi\cos2t-\cos2\pi\sin2t=-\sin2tである。sin⁡2s=sin⁡2t\sin2s=\sin2tと合わせてsin⁡2t=0\sin2t=0を得る。t∈(0,π)t\in(0,\pi)より2t∈(0,2π)2t\in(0,2\pi)であるから2t=π2t=\piである。(4)α=q/r\alpha=q/rとするとF(t+r)=(e(t+r),e(αt+q))=(e(t),e(αt))=F(t)F(t+r)=(e(t+r),e(\alpha t+q))=(e(t),e(\alpha t))=F(t)であるからFFは単射でない。FFは周期rrを持ち、像はFFの[0,r][0,r]への制限の像に等しい。[0,r][0,r]はコンパクトであるから像はコンパクトであり、T2T^{2}の閉じた曲線になる。(5)D(f∘Ψ)D(f\circ\Psi)は左上にIkI_{k}、その右に零行列を持つ。(∂G/∂v)c,d≠0(\partial G/\partial v)_{c,d}\ne 0とすると、第1,…,k1,\dots,k行と第k+ck+c行、第1,…,k1,\dots,k列と第k+dk+d列から作る(k+1)(k+1)次小行列は、左上がIkI_{k}、右上が零、右下が(∂G/∂v)c,d(\partial G/\partial v)_{c,d}であるから、行列式は(∂G/∂v)c,d(\partial G/\partial v)_{c,d}に等しく00でない。よって階数はk+1k+1以上となり、階数がkkであることに反する。仮定を点ppだけの条件に弱めると、階数がkkであることがΩ1\Omega_1の各点で言えなくなるので、Ω1\Omega_1全体で∂G/∂v=0\partial G/\partial v=0を結論することができない。(6)dFpdF_pが全射であることから、チャート表示の Jacobi 行列(n×mn\times m行列)の階数はnnである。階数がnnであることは、nn次の小行列式のうち少なくとも一つが00でないことと同値である。小行列式は成分の多項式であるから連続であり、φ(p)\varphi(p)で00でない値を取るならば、その近傍でも00でない。よって近傍で階数はnn以上である。行の個数がnnであるから階数はnnを超えることができず、近傍で階数はちょうどnnである。(7)DF(x,y,z)=(2x,2y,2z)DF(x,y,z)=(2x,2y,2z)である。F(x,y,z)=1F(x,y,z)=1を満たす点では(x,y,z)≠(0,0,0)(x,y,z)\ne(0,0,0)であるからDFDFは零でなく、1×31\times 3行列として階数11、すなわち全射である。よって11は正則値であり、F−1(1)=S2F^{-1}(1)=S^{2}は3−1=23-1=2次元埋め込み部分多様体である。00についてはF−1(0)={(0,0,0)}F^{-1}(0)=\{(0,0,0)\}であり、その点でDF=(0,0,0)DF=(0,0,0)は全射でないので00は正則値でない。(8)H=12ASH=\tfrac12ASとするとHT=12STAT=12SATH^{\mathsf T}=\tfrac12S^{\mathsf T}A^{\mathsf T}=\tfrac12SA^{\mathsf T}である。よって

dFA(H)=HTA+ATH=12SATA+12ATAS=12S+12S=SdF_A(H)=H^{\mathsf T}A+A^{\mathsf T}H=\tfrac12SA^{\mathsf T}A+\tfrac12A^{\mathsf T}AS=\tfrac12S+\tfrac12S=S

である。n=2n=2のとき次元は2⋅1/2=12\cdot 1/2=1である。ker⁡dFI\ker dF_Iは22次の交代行列の全体であり、基底として

(01−10)\begin{pmatrix}0&1\\-1&0\end{pmatrix}

の一つを取ることができる。▨

7 仮定と後続記事の境界

定理 3.1の仮定は、点ppにおける階数ではなくppの近傍における階数の一定性である。点ごとの条件に弱めると、∂G/∂v=0\partial G/\partial v=0を近傍全体で導くことができず、結論は成り立たない。定理 4.3では、全射性が開いた条件であること(小行列式の連続性)から近傍での一定性が自動的に従うので、点ごとの条件で足りている。

補題 1.1は、以後の記事で逆関数定理を用いるときの標準の形である。境界点と内点の区別(「境界を持つ多様体と境界の向き」)、平坦チャートの構成(「可積分分布と Frobenius の定理」)、指数写像が原点で局所微分同相であること(「1パラメータ部分群と指数写像」)は、いずれもこの補題を経由してC∞C^\inftyの結論を得る。

本記事は臨界値の全体が測度零であるという主張、すなわち Sard の定理を扱わない。それを用いる横断性と Morse 関数の存在も扱わない。これらは「微分位相幾何」が扱う。「1の分割の構成」で示したコンパクトな多様体のユークリッド空間への実現について、次元を2n+12n+1まで下げる Whitney の埋め込み定理も同じ単元が扱う。

はめ込み部分多様体(定義 4.4)は、葉層の葉が埋め込み部分多様体になるとは限らないことを述べるために「葉層と葉」で用いる。また、閉部分群定理(「閉部分群定理」)では、閉であるという仮定を外すと例 2.4の巻線が反例になることを扱う。

参考文献

  1. John M. Lee, Introduction to Smooth Manifolds, 2nd ed., Graduate Texts in Mathematics 218, Springer, New York, 2013.はめ込み、沈め込み、埋め込みの定義、定数階数定理の証明の組み立て、スライスチャートによる埋め込み部分多様体の特徴づけ、および正則値の逆像に関する定理を参考にした。
  2. Frank W. Warner, Foundations of Differentiable Manifolds and Lie Groups, Graduate Texts in Mathematics 94, Springer, 1983, originally published 1971.はめ込み部分多様体の定義と、単射なはめ込みの像が部分空間位相と一致しない例の扱い方を参考にした。
  3. Loring W. Tu, An Introduction to Manifolds, 2nd ed., Universitext, Springer, New York, 2011.8の字曲線を単射なはめ込みであって埋め込みでない例として扱う扱い方と、正則値による古典行列群の構成を参考にした。

前提記事