§E17.19Lie 群と古典行列群

最終更新

群は演算だけを持つ代数的な対象であり、多様体は微分の言葉だけを持つ幾何的な対象である。両方の構造を同じ集合の上に置き、演算が微分の言葉と両立することを要求すると、群の元を動かす操作がそのまま多様体の微分同相になる。すると、単位元の近傍で成り立つことを群の演算によって他のすべての点へ運ぶことができる。

本記事は、まず Lie 群を、積と逆元がともにC∞C^\inftyであるものとして定義する。次に、一般線形群を行列全体の開部分多様体として構成する。続いて、ユニタリ群、特殊線形群および斜交群を、それぞれ適当なC∞C^\infty写像の正則値の逆像として構成し、微分が全射であることを実際の計算で確かめる。そのうえで左移動と右移動が微分同相であることを示し、最後に、Lie 群の局所的な性質が単位元の近傍によって決まることを確かめる。

直交群は「部分多様体・はめ込み・埋め込み」が§E17.5 定理 5.2として正則値の逆像で構成しており、本記事はそれを引用するにとどめ、同じ主張を二度証明しない。

1 Lie 群の定義

定義 1.1. 集合GGが Lie 群 (Lie group) であるとは、次の三つがすべて成り立つことをいう。

  1. GGに群の構造が与えられている(§E7.1 定義 1.1)。
  2. GGに有限次元C∞C^\infty多様体の構造が与えられている(§E17.1 定義 2.2)。
  3. 積の写像μ ⁣:G×G→G\mu\colon G\times G\to G、μ(g,h)=gh\mu(g,h)=ghと、逆元の写像ι ⁣:G→G\iota\colon G\to G、ι(g)=g−1\iota(g)=g^{-1}が、いずれもC∞C^\inftyである。ここでG×GG\times Gには§E17.1 命題 7.3の積多様体の構造を与える。

GGの単位元をeeと書く。GGの部分群HHがGGの埋め込み部分多様体(§E17.5 定義 4.1)であり、その可微分構造のもとでふたたび Lie 群になるとき、HHをGGの埋め込み Lie 部分群 (embedded Lie subgroup) という。

条件 (c)で逆元の写像のC∞C^\infty性を別に要求する点について述べる。積の写像がC∞C^\inftyであることだけを仮定して逆元の写像のC∞C^\infty性を導くことは、陰関数定理を積の写像へ適用することによって可能であるが、その議論には積の微分の形を単位元で調べる段階が要る。本単元は定義の側でこの条件を課し、確かめる対象を明示する立場を取る。以下で構成するすべての例について、逆元の写像がC∞C^\inftyであることを個別に確かめる。

注意 1.2 (用いる双線形形式・Hermite 形式・斜交形式について). 以下では次の三つを用いる。

  • Rn\mathbb{R}^{n}の標準内積⟨u,w⟩=∑i=1nuiwi\langle u,w\rangle=\sum_{i=1}^{n}u^{i}w^{i}。
  • Cn\mathbb{C}^{n}の標準 Hermite 形式⟨u,w⟩C=∑i=1nui‾ wi\langle u,w\rangle_{\mathbb{C}}=\sum_{i=1}^{n}\overline{u^{i}}\,w^{i}。
  • R2n\mathbb{R}^{2n}の標準斜交形式ω0(u,w)=uTJw\omega_0(u,w)=u^{\mathsf T}J w。ここでJ=(0In−In0)J=\begin{pmatrix}0&I_n\\-I_n&0\end{pmatrix}である。

これらはいずれも、固定したベクトル空間Rn\mathbb{R}^{n}、Cn\mathbb{C}^{n}、R2n\mathbb{R}^{2n}の上に与えた代数的な構造である。多様体の各点の接空間へ、点について滑らかに変化する内積を与えたものではない。すなわち、これらは Riemann 計量ではない。本単元は多様体の上に Riemann 計量を導入せず、長さ、角度、曲率および測地線を扱わない。それらは「Riemann 幾何 I」が扱う。

以下で「直交」という語を用いるときはRn\mathbb{R}^{n}の標準内積に関するものを、「ユニタリ」という語を用いるときはCn\mathbb{C}^{n}の標準 Hermite 形式に関するものを、「斜交」という語を用いるときはR2n\mathbb{R}^{2n}の標準斜交形式に関するものを指す。他の形式を選べば別の群が得られる。

2 一般線形群

命題 2.1.nnを正の整数とし、Mn(R)M_n(\mathbb{R})をnn次実正方行列の全体とする。成分を並べることによってMn(R)M_n(\mathbb{R})をRn2\mathbb{R}^{n^{2}}と同一視し、§E17.1 例 2.4の可微分構造を与える。

GLn(R)={A∈Mn(R)∣det⁡A≠0}GL_n(\mathbb{R})=\{A\in M_n(\mathbb{R})\mid\det A\ne 0\}

はMn(R)M_n(\mathbb{R})の開集合であり、§E17.1 命題 7.1によってn2n^{2}次元C∞C^\infty多様体になる。この可微分構造と行列の積のもとで、GLn(R)GL_n(\mathbb{R})は Lie 群である。

同じ主張がGLn(C)GL_n(\mathbb{C})についても成り立つ。Mn(C)M_n(\mathbb{C})をR2n2\mathbb{R}^{2n^{2}}と同一視すると、GLn(C)GL_n(\mathbb{C})は2n22n^{2}次元C∞C^\infty多様体であり Lie 群である。

証明.det⁡ ⁣:Mn(R)→R\det\colon M_n(\mathbb{R})\to\mathbb{R}は成分の多項式であるから連続である。GLn(R)=det⁡−1(R∖{0})GL_n(\mathbb{R})=\det^{-1}(\mathbb{R}\setminus\{0\})は連続写像による開集合の逆像であるからMn(R)M_n(\mathbb{R})の開集合である。I∈GLn(R)I\in GL_n(\mathbb{R})であるから空でない。よって§E17.1 命題 7.1により、GLn(R)GL_n(\mathbb{R})はMn(R)M_n(\mathbb{R})と同じn2n^{2}という次元のC∞C^\infty多様体である。群であることは§E7.1 命題 3.2による。

積の写像を調べる。GLn(R)×GLn(R)GL_n(\mathbb{R})\times GL_n(\mathbb{R})はRn2×Rn2\mathbb{R}^{n^{2}}\times\mathbb{R}^{n^{2}}の開集合であり、その上でμ(A,B)=AB\mu(A,B)=ABの第(i,j)(i,j)成分は

(AB)ij=∑l=1nAilBlj(AB)_{ij}=\sum_{l=1}^{n}A_{il}B_{lj}

であって、AAとBBの成分の多項式である。多項式写像はすべての階数の偏導関数を持ち、それらは連続であるからC∞C^\inftyである。恒等写像をチャートに取ると、この座標表示がそのままμ\muの座標表示であるから、§E17.1 命題 4.2によりμ\muはC∞C^\inftyである。

逆元の写像を調べる。「部分多様体・はめ込み・埋め込み」の§E17.5 補題 1.1の証明で確かめたとおり、§E3.21 補題 1.1による随伴行列adj⁡(A)\operatorname{adj}(A)を用いるとA−1=(det⁡A)−1adj⁡(A)A^{-1}=(\det A)^{-1}\operatorname{adj}(A)である。adj⁡(A)\operatorname{adj}(A)の各成分はAAの成分の多項式であり、det⁡A\det Aも多項式であってGLn(R)GL_n(\mathbb{R})の上で消えない。したがってA−1A^{-1}の各成分はAAの成分の有理式であり、分母が定義域の上で消えないのでC∞C^\inftyである。よってι\iotaはC∞C^\inftyである。

GLn(C)GL_n(\mathbb{C})についても、複素行列A=(Aij)A=(A_{ij})の実部と虚部を並べてMn(C)M_n(\mathbb{C})をR2n2\mathbb{R}^{2n^{2}}と同一視すればよい。複素数の積は実部と虚部の双線形な式で書かれるから、ABABの実部と虚部はAAとBBの実部と虚部の多項式である。行列式についても、det⁡A\det Aの実部と虚部は成分の実部と虚部の多項式であり、∣det⁡A∣2\lvert\det A\rvert^{2}は実数値の多項式である。GLn(C)={A∣∣det⁡A∣2≠0}GL_n(\mathbb{C})=\{A\mid\lvert\det A\rvert^{2}\ne 0\}は開集合であり、逆行列の成分は(det⁡A)−1(\det A)^{-1}と余因子行列の成分の積として、実部と虚部の有理式で書かれ、分母∣det⁡A∣2\lvert\det A\rvert^{2}は消えない。よって同じ結論を得る。▨

注意 2.2 (行列群の接空間の同一視).GLn(R)GL_n(\mathbb{R})はMn(R)≅Rn2M_n(\mathbb{R})\cong\mathbb{R}^{n^{2}}の開集合であるから、§E17.3 命題 1.4と§E17.3 例 3.4により、各点A∈GLn(R)A\in GL_n(\mathbb{R})における接空間TA(GLn(R))T_A\bigl(GL_n(\mathbb{R})\bigr)はMn(R)M_n(\mathbb{R})と標準的に同一視される。以下、この同一視のもとで接ベクトルを行列として書く。GLn(C)GL_n(\mathbb{C})についても同様にTA(GLn(C))T_A\bigl(GL_n(\mathbb{C})\bigr)をMn(C)M_n(\mathbb{C})と同一視する。

この同一視のもとで、Mn(R)M_n(\mathbb{R})の開集合の上で定義された写像FFの微分dFAdF_Aは、座標表示の全微分に一致する(§E17.3 命題 5.5)。とくにFFの各成分が多項式であるとき、dFA(H)dF_A(H)はt↦F(A+tH)t\mapsto F(A+tH)のttの一次の項の係数として計算することができる。

3 左移動と右移動

命題 3.1.GGを Lie 群、g∈Gg\in Gとする。左移動Lg ⁣:G→GL_g\colon G\to Gと右移動Rg ⁣:G→GR_g\colon G\to Gを

Lg(h)=gh,Rg(h)=hgL_g(h)=gh,\qquad R_g(h)=hg

で定める。このときLgL_gとRgR_gはいずれもGGの微分同相であり、逆写像はそれぞれLg−1L_{g^{-1}}、Rg−1R_{g^{-1}}である。とくにd(Lg)h ⁣:ThG→TghGd(L_g)_h\colon T_hG\to T_{gh}Gとd(Rg)h ⁣:ThG→ThgGd(R_g)_h\colon T_hG\to T_{hg}Gは線形同型である。

証明.jg ⁣:G→G×Gj_g\colon G\to G\times Gをjg(h)=(g,h)j_g(h)=(g,h)で定める。G×GG\times Gの可微分構造は§E17.1 命題 7.3の積のチャートで与えられているから、jgj_gの座標表示は定数写像と恒等写像を並べたものでありC∞C^\inftyである。§E17.1 命題 4.2によりjgj_gはC∞C^\inftyである。Lg=μ∘jgL_g=\mu\circ j_gであり、μ\muは定義 1.1によりC∞C^\inftyであるから、§E17.1 系 4.3によりLgL_gはC∞C^\inftyである。

群の結合律と単位元の性質から、すべてのh∈Gh\in Gに対して

Lg−1(Lg(h))=g−1(gh)=(g−1g)h=h,Lg(Lg−1(h))=g(g−1h)=hL_{g^{-1}}\bigl(L_g(h)\bigr)=g^{-1}(gh)=(g^{-1}g)h=h, \qquad L_g\bigl(L_{g^{-1}}(h)\bigr)=g(g^{-1}h)=h

が成り立つ。したがってLgL_gは全単射であり、逆写像はLg−1L_{g^{-1}}である。g−1∈Gg^{-1}\in Gに対して上の議論を適用するとLg−1L_{g^{-1}}もC∞C^\inftyである。よってLgL_gは微分同相である(§E17.1 定義 4.1)。

右移動については、jg′(h)=(h,g)j'_g(h)=(h,g)と置いて同じ議論を行えばよい。Rg−1R_{g^{-1}}が逆写像であることは(hg)g−1=h(hg)g^{-1}=hと(hg−1)g=h(hg^{-1})g=hによる。

微分が線形同型であることは§E17.3 系 5.4による。▨

系 3.2.GGを Lie 群、g,h∈Gg,h\in Gとする。Lhg−1L_{hg^{-1}}はggをhhへ写すGGの微分同相である。したがって、GGの任意の二点は微分同相によって移り合う。

証明.命題 3.1によりLhg−1L_{hg^{-1}}は微分同相であり、Lhg−1(g)=(hg−1)g=hL_{hg^{-1}}(g)=(hg^{-1})g=hである。▨

命題 3.3.GGを Lie 群、UUを単位元eeの開近傍とする。

  1. 各g∈Gg\in Gに対してgU=Lg(U)gU=L_g(U)はggの開近傍であり、LgL_gはUUからgUgUへの微分同相である。
  2. GGが連結ならば、G=⋃k=1∞(U∩U−1)kG=\bigcup_{k=1}^{\infty}(U\cap U^{-1})^{k}が成り立つ。ここでU−1={u−1∣u∈U}U^{-1}=\{u^{-1}\mid u\in U\}であり、VkV^{k}はVVの元kk個の積の全体を表す。すなわち、単位元の任意の開近傍は連結な Lie 群を生成する。
  3. HHをGGの部分群とし、HHがeeのある開近傍WWについてH∩WH\cap WがGGのkk次元スライスチャートの切片になるとする。すなわち、eeを含むGGのチャート(W,φ)(W,\varphi)でφ(W∩H)=φ(W)∩(Rk×{0})\varphi(W\cap H)=\varphi(W)\cap(\mathbb{R}^{k}\times\{0\})を満たすものが存在するとする。このときHHはGGのkk次元埋め込み部分多様体である。

証明の要は次の点である。(1)は命題 3.1の直接の帰結である。(2)では、右辺が開かつ閉な部分群であることを示す。(3)では、単位元の周りのスライスチャートを左移動で各点へ運び、§E17.5 定義 4.1の条件を各点で確かめる。左移動がHHをHHの左剰余類へ写すことから、h∈Hh\in Hに対してはLhL_hがHHをHHへ写すことを用いる。

証明.(1)を示す。命題 3.1によりLgL_gは微分同相であり、とくに同相写像であるから、開集合UUの像gUgUは開集合である。e∈Ue\in Uであるからg=ge∈gUg=ge\in gUである。制限Lg∣U ⁣:U→gUL_g|_U\colon U\to gUは全単射であり、UUとgUgUを開部分多様体(§E17.1 命題 7.1)と見ると、Lg∣UL_g|_Uとその逆写像Lg−1∣gUL_{g^{-1}}|_{gU}はいずれもC∞C^\infty写像の制限としてC∞C^\inftyである。よって微分同相である。

(2)を示す。V=U∩U−1V=U\cap U^{-1}と置く。逆元の写像ι\iotaは微分同相(ι∘ι=id⁡\iota\circ\iota=\operatorname{id}でありι\iotaはC∞C^\inftyである)であるからU−1=ι(U)U^{-1}=\iota(U)は開集合であり、e−1=ee^{-1}=eよりe∈Ve\in Vである。よってVVはeeの開近傍であり、V=V−1V=V^{-1}を満たす。

K=⋃k=1∞VkK=\bigcup_{k=1}^{\infty}V^{k}

と置く。KKは積で閉じており、V=V−1V=V^{-1}から逆元でも閉じているので、GGの部分群である。

KKが開集合であることを示す。g∈Kg\in Kとするとg∈Vkg\in V^{k}となるkkが存在する。gV⊆VkV=Vk+1⊆KgV\subseteq V^{k}V=V^{k+1}\subseteq Kであり、(1)によりgVgVはggの開近傍である。よってKKは開集合である。

KKが閉集合であることを示す。g∈G∖Kg\in G\setminus Kとする。gVgVがKKと交わると仮定すると、v∈Vv\in Vとx∈Kx\in Kでgv=xgv=xとなるものが存在し、g=xv−1∈KV−1=KV⊆Kg=xv^{-1}\in KV^{-1}=KV\subseteq Kとなって仮定に反する。よってgV∩K=∅gV\cap K=\varnothingであり、gVgVはggを含む開集合でG∖KG\setminus Kに含まれる。したがってG∖KG\setminus Kは開集合であり、KKは閉集合である。

KKは空でない(e∈Ke\in K)開かつ閉な部分集合であるから、GGが連結であること(§E2.43 定義 1.1)によりK=GK=Gである。

(3)を示す。h∈Hh\in Hを任意に取る。LhL_hは微分同相であるから、(hW,φ∘Lh−1∣hW)(hW,\varphi\circ L_{h^{-1}}|_{hW})はGGのチャートである。実際、Lh−1L_{h^{-1}}はhWhWからWWへの微分同相であり((1))、φ\varphiはWWからφ(W)⊆Rm\varphi(W)\subseteq\mathbb{R}^{m}への同相写像であるから、合成は同相写像である。座標変換がC∞C^\inftyであることは、φ\varphiがGGの可微分構造に属するチャートでありLh−1L_{h^{-1}}が微分同相であることから従う(§E17.1 系 7.2と§E17.1 系 4.3)。

ψ=φ∘Lh−1∣hW\psi=\varphi\circ L_{h^{-1}}|_{hW}と置く。HHは部分群であるから、h∈Hh\in Hに対してLh−1(hW∩H)=W∩h−1H=W∩HL_{h^{-1}}(hW\cap H)=W\cap h^{-1}H=W\cap Hである。ここでh−1H=Hh^{-1}H=Hを用いた。したがって

ψ(hW∩H)=φ(W∩H)=φ(W)∩(Rk×{0})=ψ(hW)∩(Rk×{0})\psi(hW\cap H)=\varphi(W\cap H)=\varphi(W)\cap\bigl(\mathbb{R}^{k}\times\{0\}\bigr) =\psi(hW)\cap\bigl(\mathbb{R}^{k}\times\{0\}\bigr)

である。最後の等号はψ(hW)=φ(W)\psi(hW)=\varphi(W)による。よって(hW,ψ)(hW,\psi)はhhにおけるスライスチャートである。h∈Hh\in Hは任意であったから、§E17.5 定義 4.1によりHHはGGのkk次元埋め込み部分多様体である。▨

(3)は、単位元の周りで一つスライスチャートを作れば、部分群であることだけから他のすべての点でのスライスチャートが得られることを述べている。「閉部分群定理」はこの形をそのまま用いる。すなわち、そこで実際に構成するのは単位元の周りのスライスチャート一つだけである。

4 正則値の逆像として構成する古典行列群

以下では、行列の集合を適当なC∞C^\infty写像の正則値の逆像として表し、§E17.5 定理 4.3を適用する。手順は各群について共通であり、次の四段である。第一に、群を定める行列方程式を、値域が対称行列、Hermite 行列、実数、交代行列のいずれかである写像FFの等式F(A)=cF(A)=cとして書く。第二に、FFがC∞C^\inftyであることを確かめる。第三に、A∈F−1(c)A\in F^{-1}(c)における微分dFAdF_Aを計算し、任意の値に対して原像を具体的に構成して全射性を確かめる。第四に、次元を数え、単位元における接空間ker⁡dFI\ker dF_Iを決定する。

注意 4.1 (直交群は既に構成されている). 実直交群

O(n)={A∈Mn(R)∣ATA=I}O(n)=\{A\in M_n(\mathbb{R})\mid A^{\mathsf T}A=I\}

については、「部分多様体・はめ込み・埋め込み」の§E17.5 定理 5.2が、F(A)=ATAF(A)=A^{\mathsf T}AをMn(R)M_n(\mathbb{R})から対称行列の空間への写像と見て、IIが正則値であることをH=12ASH=\tfrac12ASの計算によって示している。同記事の結論は、O(n)O(n)がMn(R)M_n(\mathbb{R})のn(n−1)/2n(n-1)/2次元埋め込み部分多様体であり、TIO(n)T_IO(n)が交代行列の全体に対応するというものである。本記事はこれを引用し、同じ主張を再証明しない。

O(n)O(n)が Lie 群であることは、下の命題 4.2から従う。

命題 4.2.GGを Lie 群、H⊆GH\subseteq Gを部分群であってGGの埋め込み部分多様体でもあるものとする。HHに§E17.5 命題 4.2が与える可微分構造を入れると、HHは Lie 群である。すなわちHHはGGの埋め込み Lie 部分群である。

証明.HHは§E17.5 命題 4.2によりC∞C^\infty多様体であり、包含写像ιH ⁣:H→G\iota_H\colon H\to Gは埋め込みである。群であることは仮定に含まれる。

積の写像μH ⁣:H×H→H\mu_H\colon H\times H\to HがC∞C^\inftyであることを示す。μG\mu_GをGGの積の写像とすると、合成

H×H→ ιH×ιH G×G→ μG GH\times H\xrightarrow{\ \iota_H\times\iota_H\ }G\times G\xrightarrow{\ \mu_G\ }G

はC∞C^\infty写像の合成であるからC∞C^\inftyである(§E17.1 系 4.3。ιH×ιH\iota_H\times\iota_HがC∞C^\inftyであることは、積のチャートに関する座標表示が二つの座標表示を並べたものであることによる)。この合成の像はHHに含まれ、μH\mu_Hは像をHHと見たものである。

そこで、C∞C^\infty写像Φ ⁣:N→G\Phi\colon N\to Gの像が埋め込み部分多様体HHに含まれるならば、Φ\PhiをN→HN\to Hと見たときもC∞C^\inftyであることを示す。q∈Nq\in Nを取り、p=Φ(q)∈Hp=\Phi(q)\in Hとする。ppにおけるスライスチャート(U,φ)(U,\varphi)、φ(U∩H)=φ(U)∩(Rk×{0})\varphi(U\cap H)=\varphi(U)\cap(\mathbb{R}^{k}\times\{0\})を取ると、§E17.5 命題 4.2により(U∩H,πk∘φ∣U∩H)(U\cap H,\pi_k\circ\varphi|_{U\cap H})はHHのチャートである。HHには部分空間位相を与えているので、Φ ⁣:N→H\Phi\colon N\to Hは連続である(Φ−1(U∩H)=Φ−1(U)\Phi^{-1}(U\cap H)=\Phi^{-1}(U)が開集合であることによる)。qqの周りのチャート(O,χ)(O,\chi)をΦ(O)⊆U\Phi(O)\subseteq Uとなるように取ると、φ∘Φ∘χ−1\varphi\circ\Phi\circ\chi^{-1}はC∞C^\inftyであり、その値はRk×{0}\mathbb{R}^{k}\times\{0\}に属する。HHのチャートに関する座標表示はこれに線形写像πk\pi_kを合成したものであるからC∞C^\inftyである。§E17.1 命題 4.2によりΦ ⁣:N→H\Phi\colon N\to HはC∞C^\inftyである。

この事実をΦ=μG∘(ιH×ιH)\Phi=\mu_G\circ(\iota_H\times\iota_H)へ適用するとμH\mu_HはC∞C^\inftyである。逆元の写像についても、ιG∘ιH ⁣:H→G\iota_G\circ\iota_H\colon H\to Gの像がHHに含まれることから同じ事実を適用すればよい。よってHHは Lie 群である。▨

4.1 ユニタリ群

定理 4.3.nnを正の整数とし、Mn(C)M_n(\mathbb{C})をnn次複素正方行列の全体、

Herm⁡n={S∈Mn(C)∣S∗=S}\operatorname{Herm}_n=\{S\in M_n(\mathbb{C})\mid S^{*}=S\}

を Hermite 行列の全体とする。ここでA∗=A‾TA^{*}=\overline{A}^{\mathsf T}である。Mn(C)M_n(\mathbb{C})をR2n2\mathbb{R}^{2n^{2}}と、Herm⁡n\operatorname{Herm}_nをRn2\mathbb{R}^{n^{2}}と同一視して§E17.1 例 2.4の可微分構造を与える。

F ⁣:Mn(C)→Herm⁡n,F(A)=A∗AF\colon M_n(\mathbb{C})\to\operatorname{Herm}_n,\qquad F(A)=A^{*}A

はC∞C^\inftyであり、IIはFFの正則値である。したがって

U(n)=F−1(I)={A∈Mn(C)∣A∗A=I}U(n)=F^{-1}(I)=\{A\in M_n(\mathbb{C})\mid A^{*}A=I\}

はMn(C)M_n(\mathbb{C})のn2n^{2}次元埋め込み部分多様体であり、命題 4.2により Lie 群である。単位行列における接空間は歪 Hermite 行列の全体

{H∈Mn(C)∣H∗+H=0}\{H\in M_n(\mathbb{C})\mid H^{*}+H=0\}

に対応する。

証明では次の点を確かめる。まずHerm⁡n\operatorname{Herm}_nが実ベクトル空間としてn2n^{2}次元であることを、対角成分が実数であり対角より上の成分が任意の複素数であることから数える。次にdFA(H)=H∗A+A∗HdF_A(H)=H^{*}A+A^{*}Hを計算し、A∗A=IA^{*}A=IとS∗=SS^{*}=SからH=12ASH=\tfrac12ASがdFA(H)=SdF_A(H)=Sを与えることを確かめる。

証明. Herm⁡n\operatorname{Herm}_nの次元を数える。S∈Herm⁡nS\in\operatorname{Herm}_nとするとSii‾=Sii\overline{S_{ii}}=S_{ii}から対角成分は実数である。i<ji<jについてはSji=Sij‾S_{ji}=\overline{S_{ij}}であるから、対角より上の成分SijS_{ij}(i<ji<j)を任意の複素数として与えるとSSが定まる。よって実ベクトル空間としての次元は

n+2⋅n(n−1)2=n+n(n−1)=n2n+2\cdot\frac{n(n-1)}{2}=n+n(n-1)=n^{2}

である。Herm⁡n\operatorname{Herm}_nはMn(C)≅R2n2M_n(\mathbb{C})\cong\mathbb{R}^{2n^{2}}の実部分空間であり、Rn2\mathbb{R}^{n^{2}}と線形同型である。

FFがC∞C^\inftyであることを示す。F(A)F(A)の(i,j)(i,j)成分は∑l=1nAli‾ Alj\sum_{l=1}^{n}\overline{A_{li}}\,A_{lj}である。複素数の積と共役は、実部と虚部について双線形または線形であるから、この成分の実部と虚部はAAの成分の実部と虚部の多項式である。多項式写像はC∞C^\inftyである。値がHerm⁡n\operatorname{Herm}_nに属することはF(A)∗=(A∗A)∗=A∗A=F(A)F(A)^{*}=(A^{*}A)^{*}=A^{*}A=F(A)による。

微分を計算する。H∈Mn(C)H\in M_n(\mathbb{C})、t∈Rt\in\mathbb{R}に対して

F(A+tH)=(A+tH)∗(A+tH)=A∗A+t(H∗A+A∗H)+t2H∗HF(A+tH)=(A+tH)^{*}(A+tH)=A^{*}A+t\bigl(H^{*}A+A^{*}H\bigr)+t^{2}H^{*}H

である。FFの座標表示は実の座標についての多項式写像であり、ttの一次の項の係数が全微分のHHにおける値であるから、注意 2.2の同一視のもとで

dFA(H)=H∗A+A∗HdF_A(H)=H^{*}A+A^{*}H

である。

IIが正則値であることを示す。A∈F−1(I)A\in F^{-1}(I)、すなわちA∗A=IA^{*}A=Iとし、S∈Herm⁡nS\in\operatorname{Herm}_nを任意に取る。H=12ASH=\tfrac12ASと置く。H∗=12S∗A∗=12SA∗H^{*}=\tfrac12S^{*}A^{*}=\tfrac12SA^{*}であるから

dFA(H)=12SA∗A+12A∗AS=12S+12S=SdF_A(H)=\tfrac12SA^{*}A+\tfrac12A^{*}AS=\tfrac12S+\tfrac12S=S

である。ここでA∗A=IA^{*}A=IとS∗=SS^{*}=Sを用いた。SSは任意であったからdFAdF_Aは全射であり、IIはFFの正則値である。

次元と接空間を求める。I∈U(n)I\in U(n)であるからF−1(I)≠∅F^{-1}(I)\ne\varnothingである。§E17.5 定理 4.3によりU(n)U(n)は埋め込み部分多様体であり、次元は

2n2−n2=n22n^{2}-n^{2}=n^{2}

である。単位行列における接空間はker⁡dFI\ker dF_Iであり、dFI(H)=H∗I+I∗H=H∗+HdF_I(H)=H^{*}I+I^{*}H=H^{*}+Hであるから、ker⁡dFI\ker dF_IはH∗+H=0H^{*}+H=0を満たす行列の全体、すなわち歪 Hermite 行列の全体である。

次元を独立に数えて確かめる。H∗=−HH^{*}=-HとするとHii‾=−Hii\overline{H_{ii}}=-H_{ii}であるから対角成分は純虚数であり、実自由度は各iiについて11である。i<ji<jについてはHji=−Hij‾H_{ji}=-\overline{H_{ij}}であるから、HijH_{ij}(i<ji<j)が任意の複素数として与えられ、実自由度は2⋅n(n−1)/2=n(n−1)2\cdot n(n-1)/2=n(n-1)である。合計はn+n(n−1)=n2n+n(n-1)=n^{2}であり、上で求めた次元と一致する。

U(n)U(n)が群であることは、A∗A=IA^{*}A=IとB∗B=IB^{*}B=Iから(AB)∗(AB)=B∗A∗AB=B∗B=I(AB)^{*}(AB)=B^{*}A^{*}AB=B^{*}B=Iであり、A∗A=IA^{*}A=IからA−1=A∗A^{-1}=A^{*}であって(A∗)∗A∗=AA∗=I(A^{*})^{*}A^{*}=AA^{*}=Iであることによる。最後の等式は、A∗A=IA^{*}A=Iを満たす正方行列AAが可逆でA−1=A∗A^{-1}=A^{*}であることから従う。よってU(n)U(n)はGLn(C)GL_n(\mathbb{C})の部分群であり、命題 4.2により Lie 群である。▨

例 4.4 (U(1)U(1)とU(2)U(2)).n=1n=1の場合、U(1)={z∈C∣zˉz=1}={z∣∣z∣=1}U(1)=\{z\in\mathbb{C}\mid\bar zz=1\}=\{z\mid\lvert z\rvert=1\}である。定理 4.3が与える次元は12=11^{2}=1であり、U(1)U(1)が円周であることと整合する。単位元における接空間はhˉ+h=0\bar h+h=0を満たす複素数の全体、すなわち純虚数の全体であり、実11次元である。

n=2n=2の場合、次元は22=42^{2}=4である。TIU(2)T_IU(2)は

H=(iaz−zˉib)(a,b∈R, z∈C)H=\begin{pmatrix}i a& z\\ -\bar z& i b\end{pmatrix} \qquad(a,b\in\mathbb{R},\ z\in\mathbb{C})

の形の行列の全体であり、実の自由度はaa、bb、zzの実部と虚部の44個である。これは上で求めた次元と一致する。

4.2 特殊線形群

定理 4.5.nnを正の整数とする。det⁡ ⁣:GLn(R)→R\det\colon GL_n(\mathbb{R})\to\mathbb{R}はC∞C^\inftyであり、11はdet⁡\detの正則値である。したがって

SLn(R)={A∈GLn(R)∣det⁡A=1}SL_n(\mathbb{R})=\{A\in GL_n(\mathbb{R})\mid\det A=1\}

はGLn(R)GL_n(\mathbb{R})のn2−1n^{2}-1次元埋め込み部分多様体であり、命題 4.2により Lie 群である。単位行列における接空間はトレースが00である行列の全体

{H∈Mn(R)∣tr⁡H=0}\{H\in M_n(\mathbb{R})\mid\operatorname{tr}H=0\}

に対応する。

証明の要はd(det⁡)A(H)=det⁡(A)tr⁡(A−1H)d(\det)_A(H)=\det(A)\operatorname{tr}(A^{-1}H)を導く点である。この式は、det⁡(A+tH)=det⁡(A)det⁡(I+tA−1H)\det(A+tH)=\det(A)\det(I+tA^{-1}H)と、det⁡(I+tB)\det(I+tB)のttの一次の項の係数がtr⁡B\operatorname{tr}Bであることから従う。後者は、行列式の定義に現れる置換ごとの積のうち、ttの一次の項を持つのが恒等置換に対応する項∏i(1+tBii)\prod_{i}(1+tB_{ii})だけであることによる。

証明. det⁡\detがC∞C^\inftyであることを示す。det⁡A=∑σ∈Snsgn⁡(σ)∏i=1nAiσ(i)\det A=\sum_{\sigma\in S_n}\operatorname{sgn}(\sigma)\prod_{i=1}^{n}A_{i\sigma(i)}は成分の多項式であるからC∞C^\inftyである。

det⁡(I+tB)\det(I+tB)の一次の項を求める。上の展開式でA=I+tBA=I+tBと置く。σ\sigmaが恒等置換でないならば、σ(i)≠i\sigma(i)\ne iとなる添字が少なくとも二つ存在するので(一つだけということはない。σ\sigmaが全単射であるからである)、対応する項∏i(I+tB)iσ(i)\prod_{i}(I+tB)_{i\sigma(i)}は少なくとも二つの因子tBiσ(i)tB_{i\sigma(i)}を含み、t2t^{2}で割り切れる。恒等置換に対応する項は

∏i=1n(1+tBii)=1+t∑i=1nBii+(t2 の倍数)\prod_{i=1}^{n}(1+tB_{ii})=1+t\sum_{i=1}^{n}B_{ii}+(t^{2}\text{ の倍数})

である。したがって

det⁡(I+tB)=1+ttr⁡B+(t2 の倍数)(1)\det(I+tB)=1+t\operatorname{tr}B+(t^{2}\text{ の倍数}) \tag{1}

である。

微分を計算する。A∈GLn(R)A\in GL_n(\mathbb{R})、H∈Mn(R)H\in M_n(\mathbb{R})とする。行列式の乗法性(§E3.15 命題 2.2)により

det⁡(A+tH)=det⁡(A(I+tA−1H))=det⁡(A)det⁡(I+tA−1H)\det(A+tH)=\det\bigl(A(I+tA^{-1}H)\bigr)=\det(A)\det(I+tA^{-1}H)

である。(1) をB=A−1HB=A^{-1}Hに適用すると、ttの一次の項の係数はdet⁡(A)tr⁡(A−1H)\det(A)\operatorname{tr}(A^{-1}H)である。det⁡\detの座標表示は多項式であるから、注意 2.2の同一視のもとで

d(det⁡)A(H)=det⁡(A) tr⁡(A−1H)d(\det)_A(H)=\det(A)\,\operatorname{tr}\bigl(A^{-1}H\bigr)

である。

11が正則値であることを示す。A∈det⁡−1(1)A\in\det^{-1}(1)とする。T1RT_1\mathbb{R}をR\mathbb{R}と同一視すると、dFAdF_Aが全射であることはd(det⁡)Ad(\det)_Aが零写像でないことと同値である。c∈Rc\in\mathbb{R}を任意に取り、H=cnAH=\tfrac{c}{n}Aと置く。det⁡A=1\det A=1であるから

d(det⁡)A(H)=1⋅tr⁡(A−1⋅cnA)=cntr⁡(I)=cn⋅n=cd(\det)_A(H)=1\cdot\operatorname{tr}\left(A^{-1}\cdot\frac{c}{n}A\right) =\frac{c}{n}\operatorname{tr}(I)=\frac{c}{n}\cdot n=c

である。よってd(det⁡)Ad(\det)_Aは全射であり、11は正則値である。

次元と接空間を求める。I∈SLn(R)I\in SL_n(\mathbb{R})であるから逆像は空でない。§E17.5 定理 4.3によりSLn(R)SL_n(\mathbb{R})はGLn(R)GL_n(\mathbb{R})のn2−1n^{2}-1次元埋め込み部分多様体である。単位行列における接空間はker⁡d(det⁡)I\ker d(\det)_Iであり、d(det⁡)I(H)=det⁡(I)tr⁡(I−1H)=tr⁡Hd(\det)_I(H)=\det(I)\operatorname{tr}(I^{-1}H)=\operatorname{tr}Hであるから、ker⁡d(det⁡)I={H∣tr⁡H=0}\ker d(\det)_I=\{H\mid\operatorname{tr}H=0\}である。この空間は、n2n^{2}個の成分に一つの線形条件∑i=1nHii=0\sum_{i=1}^{n}H_{ii}=0を課したものであり、条件は自明でないので次元はn2−1n^{2}-1である。求めた次元と一致する。

SLn(R)SL_n(\mathbb{R})がGLn(R)GL_n(\mathbb{R})の部分群であることは§E7.2 命題 2.2による。したがって命題 4.2により Lie 群である。▨

例 4.6 (SL2(R)SL_2(\mathbb{R})).n=2n=2のときSL2(R)SL_2(\mathbb{R})の次元は22−1=32^{2}-1=3である。TISL2(R)T_ISL_2(\mathbb{R})はトレースが00である22次実行列の全体であり、基底として

(100−1),(0100),(0010)\begin{pmatrix}1&0\\0&-1\end{pmatrix},\qquad \begin{pmatrix}0&1\\0&0\end{pmatrix},\qquad \begin{pmatrix}0&0\\1&0\end{pmatrix}

の三つを取ることができる。三つはいずれもトレースが00であり、一次独立である。トレースが00である22次行列(abc−a)\begin{pmatrix}a&b\\c&-a\end{pmatrix}は、第一の行列のaa倍、第二の行列のbb倍、第三の行列のcc倍の和であるから、三つは全体を張る。次元は33であり、上で求めた値と一致する。

4.3 斜交群

定義 4.7.nnを正の整数とし、

J=(0In−In0)∈M2n(R)J=\begin{pmatrix}0&I_n\\-I_n&0\end{pmatrix}\in M_{2n}(\mathbb{R})

と定める。R2n\mathbb{R}^{2n}の標準斜交形式 (standard symplectic form) をω0(u,w)=uTJw\omega_0(u,w)=u^{\mathsf T}Jwで定める。A∈M2n(R)A\in M_{2n}(\mathbb{R})がω0\omega_0を保つとは、すべてのu,w∈R2nu,w\in\mathbb{R}^{2n}に対してω0(Au,Aw)=ω0(u,w)\omega_0(Au,Aw)=\omega_0(u,w)が成り立つことをいい、これはATJA=JA^{\mathsf T}JA=Jと同値である。ω0\omega_0を保つ行列の全体を

Sp(2n,R)={A∈M2n(R)∣ATJA=J}Sp(2n,\mathbb{R})=\{A\in M_{2n}(\mathbb{R})\mid A^{\mathsf T}JA=J\}

と書き、斜交群 (symplectic group) という。

証明. 同値性を示す。ω0(Au,Aw)=(Au)TJ(Aw)=uT(ATJA)w\omega_0(Au,Aw)=(Au)^{\mathsf T}J(Aw)=u^{\mathsf T}(A^{\mathsf T}JA)wである。したがって、ATJA=JA^{\mathsf T}JA=Jならばすべてのu,wu,wについてω0(Au,Aw)=uTJw=ω0(u,w)\omega_0(Au,Aw)=u^{\mathsf T}Jw=\omega_0(u,w)である。逆に、すべてのu,wu,wについてuT(ATJA)w=uTJwu^{\mathsf T}(A^{\mathsf T}JA)w=u^{\mathsf T}Jwが成り立つとすると、B=ATJA−JB=A^{\mathsf T}JA-JについてuTBw=0u^{\mathsf T}Bw=0がすべてのu,wu,wで成り立つ。標準基底eie_i、eje_jを代入するとBij=0B_{ij}=0であるからB=0B=0である。▨

注意 4.8 (JJの性質). 上のJJは次を満たす。

JT=−J,J2=−I2n,J−1=−J=JT.J^{\mathsf T}=-J,\qquad J^{2}=-I_{2n},\qquad J^{-1}=-J=J^{\mathsf T}.

実際、JJの転置は(0−InIn0)=−J\begin{pmatrix}0&-I_n\\I_n&0\end{pmatrix}=-Jであり、

J2=(0In−In0)(0In−In0)=(−In00−In)=−I2nJ^{2}=\begin{pmatrix}0&I_n\\-I_n&0\end{pmatrix}\begin{pmatrix}0&I_n\\-I_n&0\end{pmatrix} =\begin{pmatrix}-I_n&0\\0&-I_n\end{pmatrix}=-I_{2n}

である。J2=−IJ^{2}=-IからJ(−J)=IJ(-J)=IでありJ−1=−JJ^{-1}=-Jである。とくにJ∈GL2n(R)J\in GL_{2n}(\mathbb{R})である。

定理 4.9.nnを正の整数とし、Alt⁡2n(R)={S∈M2n(R)∣ST=−S}\operatorname{Alt}_{2n}(\mathbb{R})=\{S\in M_{2n}(\mathbb{R})\mid S^{\mathsf T}=-S\}を2n2n次交代行列の全体とする。M2n(R)M_{2n}(\mathbb{R})をR4n2\mathbb{R}^{4n^{2}}と、Alt⁡2n(R)\operatorname{Alt}_{2n}(\mathbb{R})をRn(2n−1)\mathbb{R}^{n(2n-1)}と同一視して§E17.1 例 2.4の可微分構造を与える。

F ⁣:M2n(R)→Alt⁡2n(R),F(A)=ATJAF\colon M_{2n}(\mathbb{R})\to\operatorname{Alt}_{2n}(\mathbb{R}),\qquad F(A)=A^{\mathsf T}JA

はC∞C^\inftyであり、JJはFFの正則値である。したがって

Sp(2n,R)=F−1(J)Sp(2n,\mathbb{R})=F^{-1}(J)

はM2n(R)M_{2n}(\mathbb{R})のn(2n+1)n(2n+1)次元埋め込み部分多様体であり、命題 4.2により Lie 群である。単位行列における接空間は

sp(2n,R)={H∈M2n(R)∣HTJ+JH=0}\mathfrak{sp}(2n,\mathbb{R})=\{H\in M_{2n}(\mathbb{R})\mid H^{\mathsf T}J+JH=0\}

に対応する。

証明では、FFの値が交代行列であることをJT=−JJ^{\mathsf T}=-Jから確かめ、dFA(H)=HTJA+ATJHdF_A(H)=H^{\mathsf T}JA+A^{\mathsf T}JHを計算する。全射性は、交代行列SSに対してH=12AJ−1SH=\tfrac12AJ^{-1}Sを取ることで得られる。このHHの作り方は、直交群の場合のH=12ASH=\tfrac12ASにJ−1J^{-1}を挟んだものである。

証明. Alt⁡2n(R)\operatorname{Alt}_{2n}(\mathbb{R})の次元を数える。ST=−SS^{\mathsf T}=-Sとすると対角成分はSii=−SiiS_{ii}=-S_{ii}から00であり、対角より上の2n(2n−1)/2=n(2n−1)2n(2n-1)/2=n(2n-1)個の成分が自由である。よって次元はn(2n−1)n(2n-1)である。

FFの値が交代行列であることを示す。注意 4.8によりJT=−JJ^{\mathsf T}=-Jであるから

F(A)T=(ATJA)T=ATJTA=−ATJA=−F(A)F(A)^{\mathsf T}=(A^{\mathsf T}JA)^{\mathsf T}=A^{\mathsf T}J^{\mathsf T}A=-A^{\mathsf T}JA=-F(A)

である。F(A)F(A)の各成分はAAの成分の多項式であるからFFはC∞C^\inftyである。

微分を計算する。H∈M2n(R)H\in M_{2n}(\mathbb{R})、t∈Rt\in\mathbb{R}に対して

F(A+tH)=(A+tH)TJ(A+tH)=ATJA+t(HTJA+ATJH)+t2HTJHF(A+tH)=(A+tH)^{\mathsf T}J(A+tH) =A^{\mathsf T}JA+t\bigl(H^{\mathsf T}JA+A^{\mathsf T}JH\bigr)+t^{2}H^{\mathsf T}JH

である。よって注意 2.2の同一視のもとで

dFA(H)=HTJA+ATJHdF_A(H)=H^{\mathsf T}JA+A^{\mathsf T}JH

である。

JJが正則値であることを示す。A∈F−1(J)A\in F^{-1}(J)、すなわちATJA=JA^{\mathsf T}JA=Jとする。この等式とdet⁡J≠0\det J\ne 0(注意 4.8)からdet⁡(A)2det⁡J=det⁡J\det(A)^{2}\det J=\det Jでありdet⁡A=±1≠0\det A=\pm1\ne 0であるからAAは可逆である。S∈Alt⁡2n(R)S\in\operatorname{Alt}_{2n}(\mathbb{R})を任意に取り、

H=12AJ−1SH=\tfrac12AJ^{-1}S

と置く。J−1=−JJ^{-1}=-JであるからH=−12AJSH=-\tfrac12AJSとも書くことができる。転置を取ると、ST=−SS^{\mathsf T}=-SとJT=−JJ^{\mathsf T}=-Jにより

HT=−12STJTAT=−12(−S)(−J)AT=−12SJATH^{\mathsf T}=-\tfrac12S^{\mathsf T}J^{\mathsf T}A^{\mathsf T}=-\tfrac12(-S)(-J)A^{\mathsf T}=-\tfrac12SJA^{\mathsf T}

である。したがって

HTJA=−12SJATJA=−12SJ(ATJA)=−12SJJ=−12SJ2=12SH^{\mathsf T}JA=-\tfrac12SJA^{\mathsf T}JA=-\tfrac12SJ\bigl(A^{\mathsf T}JA\bigr)=-\tfrac12SJJ=-\tfrac12S J^{2}=\tfrac12S

である。ここでATJA=JA^{\mathsf T}JA=JとJ2=−IJ^{2}=-Iを用いた。また

ATJH=−12ATJAJS=−12JJS=−12J2S=12SA^{\mathsf T}JH=-\tfrac12A^{\mathsf T}JAJS=-\tfrac12JJS=-\tfrac12J^{2}S=\tfrac12S

である。ここでもATJA=JA^{\mathsf T}JA=JとJ2=−IJ^{2}=-Iを用いた。二つを加えて

dFA(H)=12S+12S=SdF_A(H)=\tfrac12S+\tfrac12S=S

を得る。SSは任意であったからdFAdF_Aは全射であり、JJはFFの正則値である。

次元と接空間を求める。ITJI=JI^{\mathsf T}JI=JであるからI∈F−1(J)I\in F^{-1}(J)であり、逆像は空でない。§E17.5 定理 4.3によりSp(2n,R)Sp(2n,\mathbb{R})は埋め込み部分多様体であり、次元は

4n2−n(2n−1)=4n2−2n2+n=2n2+n=n(2n+1)4n^{2}-n(2n-1)=4n^{2}-2n^{2}+n=2n^{2}+n=n(2n+1)

である。単位行列における接空間はker⁡dFI\ker dF_Iであり、dFI(H)=HTJ+JHdF_I(H)=H^{\mathsf T}J+JHであるから、ker⁡dFI={H∣HTJ+JH=0}\ker dF_I=\{H\mid H^{\mathsf T}J+JH=0\}である。

次元を独立に数えて確かめる。HTJ+JH=0H^{\mathsf T}J+JH=0はJH=−HTJJH=-H^{\mathsf T}J、すなわち(JH)T=HTJT=−HTJ=JH(JH)^{\mathsf T}=H^{\mathsf T}J^{\mathsf T}=-H^{\mathsf T}J=JHと同値である。よってH∈ker⁡dFIH\in\ker dF_IであることとJHJHが対称行列であることは同値である。H↦JHH\mapsto JHはJJが可逆であることからM2n(R)M_{2n}(\mathbb{R})の線形同型であるから、ker⁡dFI\ker dF_Iの次元は対称行列の空間の次元2n(2n+1)/2=n(2n+1)2n(2n+1)/2=n(2n+1)に等しい。上で求めた次元と一致する。

Sp(2n,R)Sp(2n,\mathbb{R})が群であることを示す。A,B∈Sp(2n,R)A,B\in Sp(2n,\mathbb{R})とすると

(AB)TJ(AB)=BT(ATJA)B=BTJB=J(AB)^{\mathsf T}J(AB)=B^{\mathsf T}\bigl(A^{\mathsf T}JA\bigr)B=B^{\mathsf T}JB=J

である。A∈Sp(2n,R)A\in Sp(2n,\mathbb{R})は上で見たとおり可逆であり、ATJA=JA^{\mathsf T}JA=Jの両辺に左から(AT)−1(A^{\mathsf T})^{-1}、右からA−1A^{-1}を掛けるとJ=(A−1)TJA−1J=(A^{-1})^{\mathsf T}JA^{-1}であるからA−1∈Sp(2n,R)A^{-1}\in Sp(2n,\mathbb{R})である。I∈Sp(2n,R)I\in Sp(2n,\mathbb{R})であるからSp(2n,R)Sp(2n,\mathbb{R})はGL2n(R)GL_{2n}(\mathbb{R})の部分群である(§E7.2 定義 1.1)。よって命題 4.2により Lie 群である。▨

例 4.10 (Sp(2,R)Sp(2,\mathbb{R})はSL2(R)SL_2(\mathbb{R})に等しい).n=1n=1の場合、J=(01−10)J=\begin{pmatrix}0&1\\-1&0\end{pmatrix}である。A=(abcd)A=\begin{pmatrix}a&b\\c&d\end{pmatrix}に対して

ATJA=(acbd)(01−10)(abcd)=(−ca−db)(abcd)=(0ad−bc−(ad−bc)0)A^{\mathsf T}JA =\begin{pmatrix}a&c\\b&d\end{pmatrix}\begin{pmatrix}0&1\\-1&0\end{pmatrix}\begin{pmatrix}a&b\\c&d\end{pmatrix} =\begin{pmatrix}-c&a\\-d&b\end{pmatrix}\begin{pmatrix}a&b\\c&d\end{pmatrix} =\begin{pmatrix}0&ad-bc\\-(ad-bc)&0\end{pmatrix}

である。したがってATJA=JA^{\mathsf T}JA=Jであることとad−bc=1ad-bc=1であることは同値であり、Sp(2,R)=SL2(R)Sp(2,\mathbb{R})=SL_2(\mathbb{R})である。

次元を照合する。定理 4.9が与える次元はn(2n+1)=1⋅3=3n(2n+1)=1\cdot 3=3であり、定理 4.5がn=2n=2について与える次元22−1=32^{2}-1=3と一致する。接空間についても、HTJ+JH=0H^{\mathsf T}J+JH=0を成分で書くと、H=(pqrs)H=\begin{pmatrix}p&q\\r&s\end{pmatrix}に対して

HTJ+JH=(−rp−sq)+(rs−p−q)=(0p+s−(p+s)0)H^{\mathsf T}J+JH =\begin{pmatrix}-r&p\\-s&q\end{pmatrix}+\begin{pmatrix}r&s\\-p&-q\end{pmatrix} =\begin{pmatrix}0&p+s\\-(p+s)&0\end{pmatrix}

であるから、条件はp+s=0p+s=0、すなわちtr⁡H=0\operatorname{tr}H=0である。これは定理 4.5が与えるTISL2(R)T_ISL_2(\mathbb{R})と一致する。

注意 4.11 (構成した古典行列群の一覧). 本記事で構成した群と、その次元および単位元における接空間を並べる。nnは正の整数とする。

群 定義する等式 次元 単位元における接空間
GLn(R)GL_n(\mathbb{R}) det⁡A≠0\det A\ne 0 n2n^{2} Mn(R)M_n(\mathbb{R})
GLn(C)GL_n(\mathbb{C}) det⁡A≠0\det A\ne 0 2n22n^{2} Mn(C)M_n(\mathbb{C})
O(n)O(n) ATA=IA^{\mathsf T}A=I n(n−1)/2n(n-1)/2 HT+H=0H^{\mathsf T}+H=0
U(n)U(n) A∗A=IA^{*}A=I n2n^{2} H∗+H=0H^{*}+H=0
SLn(R)SL_n(\mathbb{R}) det⁡A=1\det A=1 n2−1n^{2}-1 tr⁡H=0\operatorname{tr}H=0
Sp(2n,R)Sp(2n,\mathbb{R}) ATJA=JA^{\mathsf T}JA=J n(2n+1)n(2n+1) HTJ+JH=0H^{\mathsf T}J+JH=0

O(n)O(n)の行は§E17.5 定理 5.2による。他の行は本記事で証明した。

いずれの場合も、単位元における接空間はMn(R)M_n(\mathbb{R})またはMn(C)M_n(\mathbb{C})の線形部分空間として得られている。これらの部分空間が行列の交換子で閉じていることは「左不変ベクトル場と Lie 環」が示す。

5 演習

問題 5.1 (Lie 群と古典行列群の確認). 次の各問に答えよ。

  1. 命題 3.1の証明では、Lg=μ∘jgL_g=\mu\circ j_gという分解を用いた。jg(h)=(g,h)j_g(h)=(g,h)がC∞C^\inftyであることを、§E17.1 命題 7.3の積のチャートに関する座標表示を書き下して確かめよ。
  2. 命題 3.3 (2)の証明で、V=U∩U−1V=U\cap U^{-1}と取り直した理由を述べよ。VVの代わりにUUをそのまま用いると、K=⋃kUkK=\bigcup_kU^{k}について証明のどの段が成り立たなくなるかを示せ。
  3. 命題 3.3 (3)の証明で、Lh−1(hW∩H)=W∩HL_{h^{-1}}(hW\cap H)=W\cap Hを導いた。この等式にh∈Hh\in Hという条件をどこで用いたかを指摘し、h∉Hh\notin Hのときにこの等式が成り立たないことを示せ。
  4. 定理 4.3のdFA(H)=SdF_A(H)=Sの計算を再現せよ。さらに、A∗A=IA^{*}A=Iを満たす正方行列AAが可逆であることを、A∗A=IA^{*}A=IからAAが単射であることを導くことによって示せ。
  5. 定理 4.5の証明では、det⁡(I+tB)\det(I+tB)のttの一次の項の係数がtr⁡B\operatorname{tr}Bであることを用いた。恒等置換でない置換σ\sigmaに対してσ(i)≠i\sigma(i)\ne iとなる添字が少なくとも二つ存在することを示し、対応する項がt2t^{2}で割り切れることを確かめよ。
  6. 定理 4.9の証明で取ったH=12AJ−1SH=\tfrac12AJ^{-1}Sについて、HTJA=12SH^{\mathsf T}JA=\tfrac12SとATJH=12SA^{\mathsf T}JH=\tfrac12Sの計算をそれぞれ再現せよ。ATJA=JA^{\mathsf T}JA=JとJ2=−IJ^{2}=-Iを用いた箇所を明示せよ。
  7. SO(n)=O(n)∩SLn(R)SO(n)=O(n)\cap SL_n(\mathbb{R})がO(n)O(n)の開部分集合であることを、det⁡\detがO(n)O(n)の上で値±1\pm1しか取らないことから示せ。SO(n)SO(n)の次元がO(n)O(n)の次元n(n−1)/2n(n-1)/2に等しいことを導け。
  8. SU(n)=U(n)∩{A∣det⁡A=1}SU(n)=U(n)\cap\{A\mid\det A=1\}の単位元における接空間が{H∣H∗+H=0, tr⁡H=0}\{H\mid H^{*}+H=0,\ \operatorname{tr}H=0\}に含まれることを示し、n=2n=2の場合にその実次元を計算せよ。
解答 (演習の解答).
  1. h0∈Gh_0\in Gを取り、h0h_0の周りのチャート(U0,φ0)(U_0,\varphi_0)とggの周りのチャート(U1,φ1)(U_1,\varphi_1)を取る。U1×U0U_1\times U_0上のチャートφ1×φ0\varphi_1\times\varphi_0に関するjgj_gの座標表示は、x∈φ0(U0)x\in\varphi_0(U_0)に対してx↦(φ1(g),x)x\mapsto(\varphi_1(g),x)である。第一成分は定数、第二成分は恒等写像であるからC∞C^\inftyである。§E17.1 命題 4.2によりjgj_gはC∞C^\inftyである。
  2. KKが部分群であることを示す段で、逆元で閉じていることをV=V−1V=V^{-1}から導いた。またKKが閉集合であることを示す段で、g=xv−1∈KV−1g=xv^{-1}\in KV^{-1}からKV−1=KV⊆KKV^{-1}=KV\subseteq Kを結論した。UUをそのまま用いるとU−1⊆⋃kUkU^{-1}\subseteq\bigcup_kU^{k}が保証されないので、KKが逆元で閉じているとは限らず、KU−1⊆KKU^{-1}\subseteq Kも従わない。したがってKKが部分群であるという段と、閉集合であるという段の両方が成り立たなくなる。
  3. Lh−1(hW∩H)=W∩h−1HL_{h^{-1}}(hW\cap H)=W\cap h^{-1}Hまではhhが何であっても成り立つ。h−1H=Hh^{-1}H=Hを用いた箇所でh∈Hh\in Hを使った。実際、HHは部分群であるからh∈Hh\in Hならばh−1H⊆Hh^{-1}H\subseteq Hであり、h∈Hh\in Hをh−1h^{-1}へ適用してhH⊆HhH\subseteq HからH⊆h−1HH\subseteq h^{-1}Hを得るのでh−1H=Hh^{-1}H=Hである。h∉Hh\notin Hのときはh−1Hh^{-1}HはHHの左剰余類であってHHと交わらないので、W∩h−1HW\cap h^{-1}HとW∩HW\cap Hは一般に一致しない。とくにe∈W∩He\in W\cap Hであるがe∈h−1He\in h^{-1}Hはh∈Hh\in Hと同値であるから、h∉Hh\notin Hならばe∉W∩h−1He\notin W\cap h^{-1}Hである。
  4. H=12ASH=\tfrac12ASとするとH∗=12S∗A∗=12SA∗H^{*}=\tfrac12S^{*}A^{*}=\tfrac12SA^{*}である。よって dFA(H)=H∗A+A∗H=12SA∗A+12A∗AS=12S+12S=SdF_A(H)=H^{*}A+A^{*}H=\tfrac12SA^{*}A+\tfrac12A^{*}AS=\tfrac12S+\tfrac12S=S である。可逆性については、Au=0Au=0とするとu=Iu=A∗Au=A∗0=0u=Iu=A^{*}Au=A^{*}0=0であるからAAは単射である。AAは有限次元ベクトル空間の線形写像であるから、単射であれば全単射であり可逆である。
  5. σ\sigmaが恒等置換でないとするとσ(i)≠i\sigma(i)\ne iとなるiiが存在する。j=σ(i)j=\sigma(i)と置くとj≠ij\ne iである。σ(j)=j\sigma(j)=jであるとするとσ(i)=j=σ(j)\sigma(i)=j=\sigma(j)となりσ\sigmaの単射性からi=ji=jとなって矛盾する。よってσ(j)≠j\sigma(j)\ne jであり、動かされる添字は少なくともiiとjjの二つである。対応する項∏l(I+tB)lσ(l)\prod_l(I+tB)_{l\sigma(l)}は、l=il=iとl=jl=jの因子がいずれも(I)lσ(l)=0(I)_{l\sigma(l)}=0を持つ非対角成分であるからtBlσ(l)tB_{l\sigma(l)}の形であり、積はt2t^{2}で割り切れる。
  6. H=−12AJSH=-\tfrac12AJSでありHT=−12STJTAT=−12SJATH^{\mathsf T}=-\tfrac12S^{\mathsf T}J^{\mathsf T}A^{\mathsf T}=-\tfrac12SJA^{\mathsf T}である。したがって HTJA=−12SJ(ATJA)=−12SJ⋅J=−12SJ2=12SH^{\mathsf T}JA=-\tfrac12SJ\bigl(A^{\mathsf T}JA\bigr)=-\tfrac12SJ\cdot J=-\tfrac12SJ^{2}=\tfrac12S であり、ATJA=JA^{\mathsf T}JA=Jを第二の等号で、J2=−IJ^{2}=-Iを第四の等号で用いた。また ATJH=−12(ATJA)JS=−12J⋅JS=−12J2S=12SA^{\mathsf T}JH=-\tfrac12\bigl(A^{\mathsf T}JA\bigr)JS=-\tfrac12J\cdot JS=-\tfrac12J^{2}S=\tfrac12S であり、同じ二つの等式を同じ順序で用いた。
  7. A∈O(n)A\in O(n)とするとATA=IA^{\mathsf T}A=Iであり、行列式の乗法性(§E3.15 命題 2.2)とdet⁡(AT)=det⁡A\det(A^{\mathsf T})=\det Aから(det⁡A)2=1(\det A)^{2}=1、すなわちdet⁡A=±1\det A=\pm1である。det⁡\detは連続であるからSO(n)=det⁡−1({1})∩O(n)SO(n)=\det^{-1}(\{1\})\cap O(n)はO(n)O(n)の閉集合であり、同時にdet⁡−1((0,∞))∩O(n)\det^{-1}\bigl((0,\infty)\bigr)\cap O(n)にも等しいのでO(n)O(n)の開集合である。§E17.1 命題 7.1によりSO(n)SO(n)はO(n)O(n)と同じ次元n(n−1)/2n(n-1)/2のC∞C^\infty多様体である。
  8. SU(n)SU(n)の単位元における接空間は、U(n)U(n)の接空間とSLn(C)SL_n(\mathbb{C})に相当する条件の共通部分に含まれる。U(n)U(n)側からH∗+H=0H^{*}+H=0が、det⁡\detの微分d(det⁡)I(H)=tr⁡Hd(\det)_I(H)=\operatorname{tr}Hが00であることからtr⁡H=0\operatorname{tr}H=0が従う。n=2n=2の場合、H∗=−HH^{*}=-Hを満たす行列は H=(iaz−zˉib)(a,b∈R, z∈C)H=\begin{pmatrix}ia&z\\-\bar z&ib\end{pmatrix}\qquad(a,b\in\mathbb{R},\ z\in\mathbb{C}) であり、tr⁡H=i(a+b)=0\operatorname{tr}H=i(a+b)=0はb=−ab=-aと同値である。よって自由度はaaとzzの実部と虚部の33個であり、実次元は33である。

▨

6 境界と次

逆元の写像のC∞C^\infty性。定義 1.1は積と逆元の両方のC∞C^\infty性を要求している。積のC∞C^\infty性だけから逆元のC∞C^\infty性を導く議論は本記事では扱わない。本記事で構成したすべての例について、逆元の写像がC∞C^\inftyであることを個別に確かめた。

Rn\mathbb{R}^{n}上の形式と多様体上の計量の区別。注意 1.2のとおり、古典行列群を定めるために用いた標準内積、標準 Hermite 形式および標準斜交形式は、固定したベクトル空間の上の代数的な構造である。これらは多様体O(n)O(n)、U(n)U(n)、Sp(2n,R)Sp(2n,\mathbb{R})の上の Riemann 計量ではない。本単元は計量を導入せず、長さ、角度、曲率および測地線は「Riemann 幾何 I」が扱う。

閉部分群の判定。本記事は、古典行列群を正則値の逆像として構成した。同じ群は「閉部分群定理」で別の方法によっても得られる。すなわち、GLn(R)GL_n(\mathbb{R})の位相で閉じている部分群は、正則値による構成を経由せずに埋め込み Lie 部分群になる。命題 3.3 (3)は、その証明で用いる形である。

本記事が扱わない事項。Lie 群と Lie 環の対応、随伴表現、閉部分群による等質空間の構成、単連結被覆群、および主束の構造群としての Lie 群は「Lie 群論」が扱う。Lie 環の抽象論、可解性と冪零性、Killing 形式および分類は「Lie 環論」が扱う。本単元が扱うのは、Lie 群の定義、古典行列群、左不変ベクトル場、指数写像および閉部分群定理までである。

次の記事。「左不変ベクトル場と Lie 環」は、命題 3.1が与える微分同相LgL_gを用いて、左移動で不変なベクトル場を定義する。注意 4.11に並べた単位元の接空間が行列の交換子で閉じていることも、同じ記事が示す。

参考文献

  1. John M. Lee, Introduction to Smooth Manifolds, 2nd ed., Graduate Texts in Mathematics 218, Springer, New York, 2013.Lie 群の定義、左移動が微分同相であること、および古典行列群を正則値の逆像として構成する手順を参考にした。
  2. Frank W. Warner, Foundations of Differentiable Manifolds and Lie Groups, Graduate Texts in Mathematics 94, Springer, 1983, originally published 1971.Lie 群の局所的な性質が単位元の近傍によって決まることの述べ方を参考にした。
  3. Brian C. Hall, Lie Groups, Lie Algebras, and Representations, 2nd ed., Graduate Texts in Mathematics 222, Springer, 2015.ユニタリ群および斜交群の定義と、それぞれを定める行列方程式の形を参考にした。

前提記事