§E18.11特異ホモロジー

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Δ 複体をもたない空間にも適用することができる鎖複体を、空間へ入るすべての標準単体から構成する。この構成では生成元が多くなる一方、連続写像とホモトピーに対する自然性が定義から得られる。

1 特異鎖複体

定義 1.1. 位相空間XXの 特異nn単体 (singular n-simplex) とは、連続写像

σ:Δn⟶X\sigma:\Delta^n\longrightarrow X

をいう。像が埋め込まれた単体であることは要求しない。

定義 1.2.Cn(X)C_n(X)を、XXの特異nn単体すべてを基底とする自由アーベル群とする。標準単体の第ii面への包含をδi:Δn−1→Δn\delta_i:\Delta^{n-1}\to\Delta^nと書き、

∂nσ=∑i=0n(−1)iσ∘δi\partial_n\sigma=\sum_{i=0}^n(-1)^i\sigma\circ\delta_i

と定め、線形にCn(X)C_n(X)全体へ延長する。

定理 1.3. 任意の位相空間XXについて∂n−1∂n=0\partial_{n-1}\partial_n=0である。

証明.i<ji<jに対して面写像は

δjδi=δiδj−1\delta_j\delta_i=\delta_i\delta_{j-1}

を満たす。すなわち、頂点iiと頂点jjを除いた面は、除く順序によらず同じ写像になる。一方、二通りの出現の符号はそれぞれ(−1)i+j(-1)^{i+j}と(−1)i+j−1(-1)^{i+j-1}であり、互いに打ち消し合う。二頂点のすべての組について相殺するため、∂2σ=0\partial^2\sigma=0である。線形性により任意の特異鎖について結論が成り立つ。▨

定義 1.4.Zn(X):=ker⁡∂nZ_n(X):=\ker\partial_nを nn次輪体群 (group of n-cycles)、Bn(X):=im⁡∂n+1B_n(X):=\operatorname{im}\partial_{n+1}を nn次境界群 (group of n-boundaries) とする。定理 1.3によりBn(X)⊂Zn(X)B_n(X)\subset Z_n(X)であるから、

Hn(X):=Zn(X)/Bn(X)H_n(X):=Z_n(X)/B_n(X)

をXXの第nn特異ホモロジー群 (singular homology group) と定める。

連続写像f:X→Yf:X\to Yに対してf#(σ):=f∘σf_\#(\sigma):=f\circ\sigmaと置くと、f#∂=∂f#f_\#\partial=\partial f_\#である。したがってf#f_\#はホモロジー準同型f∗:Hn(X)→Hn(Y)f_*:H_n(X)\to H_n(Y)を誘導する。

命題 1.5. 連続写像X→fY→gZX\xrightarrow{f}Y\xrightarrow{g}Zについて

(g∘f)∗=g∗∘f∗,(id⁡X)∗=id⁡Hn(X)(g\circ f)_*=g_*\circ f_*,\qquad (\operatorname{id}_X)_*=\operatorname{id}_{H_n(X)}

が成り立つ。

証明. 特異単体ごとに(g∘f)#σ=g#(f#σ)(g\circ f)_\#\sigma=g_\#(f_\#\sigma)および(id⁡X)#σ=σ(\operatorname{id}_X)_\#\sigma=\sigmaが成り立つ。鎖写像の等式を輪体の同値類へ移せば結論を得る。▨

2 零次ホモロジー

補題 2.1. 集合SS上の同値関係を∼\simとする。SSを基底とする自由アーベル群を、s−ts-t(s∼ts\sim t)が生成する部分群で割った商は、同値類の集合S/∼S/{\sim}を基底とする自由アーベル群である。

証明.ssをその同値類[s][s]へ送る準同型は全射であり、すべてのs−ts-tを零へ送る。各同値類から代表元を一つ選ぶと、任意の元は代表元の線形結合と差s−ts-tの線形結合へ一意に分けられる。したがって核はこれらの差が生成する部分群に一致する。▨

定理 2.2.π0path(X)\pi_0^{\mathrm{path}}(X)をXXの弧状連結成分の集合とすると、自然な同型

H0(X)≅⨁P∈π0path(X)ZH_0(X)\cong\bigoplus_{P\in\pi_0^{\mathrm{path}}(X)}\mathbb Z

がある。

証明. 特異零単体は点x∈Xx\in Xと同じであり、∂0=0\partial_0=0である。特異一次単体γ:[0,1]→X\gamma:[0,1]\to Xの境界はγ(1)−γ(0)\gamma(1)-\gamma(0)であるため、境界群は同じ弧状連結成分に属する二点の差を含む。逆に一次鎖の各境界はこの形の差の和なので、異なる弧状連結成分の点を同一視しない。補題 2.1を適用すれば結論を得る。▨

一点空間∗*には各次数で特異単体が一つあり、Cn(∗)≅ZC_n(*)\cong\mathbb Zである。その境界はnnが偶数なら恒等写像、nnが奇数なら零写像になる。したがって

H0(∗)≅Z,Hn(∗)=0(n>0)H_0(*)\cong\mathbb Z,\qquad H_n(*)=0\quad(n>0)

である。

3 角柱作用素とホモトピー不変性

f,g:X→Yf,g:X\to Yの間のホモトピーをF:X×I→YF:X\times I\to Yとする。Δn×I\Delta^n\times Iを、各0≤i≤n0\leq i\leq nに対して頂点列

(v0,0),…,(vi,0),(vi,1),…,(vn,1)(v_0,0),\ldots,(v_i,0),(v_i,1),\ldots,(v_n,1)

をもつ(n+1)(n+1)単体へ分割する。この単体の標準写像をλi:Δn+1→Δn×I\lambda_i:\Delta^{n+1}\to\Delta^n\times Iと書く。

定義 3.1. 特異nn単体σ:Δn→X\sigma:\Delta^n\to Xに対して

Pn(σ):=∑i=0n(−1)iF∘(σ×id⁡I)∘λi∈Cn+1(Y)P_n(\sigma):=\sum_{i=0}^n(-1)^iF\circ(\sigma\times\operatorname{id}_I)\circ\lambda_i \in C_{n+1}(Y)

と定める。これを線形に延長したPn:Cn(X)→Cn+1(Y)P_n:C_n(X)\to C_{n+1}(Y)をFFの角柱作用素 (prism operator) という。

定理 3.2. 角柱作用素は

∂P+P∂=g#−f#\partial P+P\partial=g_\#-f_\#

を満たす。したがって、ホモトピックな写像は同じホモロジー準同型を誘導する。

証明.Pn(σ)P_n(\sigma)の各単体の境界を展開する。隣接する二つの角柱単体が共有する斜めの面は、ii番目の単体と(i+1)(i+1)番目の単体から反対符号で現れて相殺する。Δn×{1}\Delta^n\times\{1\}はg∘σg\circ\sigmaとして正符号で残り、Δn×{0}\Delta^n\times\{0\}はf∘σf\circ\sigmaとして負符号で残る。側面∂Δn×I\partial\Delta^n\times Iに属する項は、面の番号による符号を含めると−Pn−1(∂σ)-P_{n-1}(\partial\sigma)に一致する。ゆえに

∂Pn(σ)=g#σ−f#σ−Pn−1(∂σ)\partial P_n(\sigma)=g_\#\sigma-f_\#\sigma-P_{n-1}(\partial\sigma)

である。

z∈Zn(X)z\in Z_n(X)なら∂z=0\partial z=0なので、g#z−f#z=∂Pn(z)g_\#z-f_\#z=\partial P_n(z)は境界である。したがってg∗[z]=f∗[z]g_*[z]=f_*[z]である。▨

ホモトピー同値f:X→Yf:X\to Yにホモトピー逆写像h:Y→Xh:Y\to Xがあるとき、関手性とホモトピー不変性からh∗f∗=id⁡h_*f_*=\operatorname{id}およびf∗h∗=id⁡f_*h_*=\operatorname{id}となる。したがってf∗f_*は各次数で同型である。

4 演習

問題 4.1.

  1. 弧状連結な空間XXについて、包含{x0}↪X\{x_0\}\hookrightarrow XがH0H_0上の同型を誘導することを示せ。
  2. 恒等写像が定値写像にホモトピックな空間XXについて、Hn(X)=0H_n(X)=0がすべてのn>0n>0で成り立つことを示せ。

解答。 第一問は、両群が一つの弧状連結成分を基底とするZ\mathbb Zであり、包含がその基底を基底へ送ることから従う。第二問では、恒等写像と定値写像がHnH_n上で同じ写像を誘導する。n>0n>0では定値写像がX→∗→XX\to *\to Xと分解し、Hn(∗)=0H_n(*)=0なので零写像を誘導する。ゆえにid⁡Hn(X)=0\operatorname{id}_{H_n(X)}=0であり、Hn(X)=0H_n(X)=0である。

参考文献

  1. Allen Hatcher, Algebraic Topology, Cambridge University Press, 2002.特異鎖複体、角柱作用素およびホモトピー不変性の標準的な構成を参考にした。

前提記事