1 自由部分と捩れ部分
まず、前提となる PID 上有限生成加群の構造定理をホモロジー群へ適用する。
定義 1.1.Rを非零可換 PID、KをRの分数体、Mを有限生成R加群とする。Mの 階数 (rank) と 捩れ部分 (torsion submodule) を
rankRM:=dimK(M⊗RK),TR(M):={x∈M∣rx=0 を満たす 0=r∈R が存在する}で定める。
§E6.29 定理 14.1を用いると、ある非負整数bと、非零非単元d1,…,ds∈Rが存在して
M≅Rb⊕R/(d1)⊕⋯⊕R/(ds),d1∣d2∣⋯∣ds
と書くことができる。bは一意であり、各diの同伴類も一意である。自由直和因子がKbへ移り、巡回捩れ直和因子がKとのテンソル積で消えるため、b=rankRMである。
定義 1.2.Hn(X;Z)が有限生成であるとする。構造定理による一意な表示を
Hn(X;Z)≅Zbn(X)⊕Z/dn,1Z⊕⋯⊕Z/dn,snZ,2≤dn,1∣dn,2∣⋯∣dn,snと書く。bn(X)を第nBetti 数 (Betti number) といい、正の整数dn,1,…,dn,snを第nホモロジーの 捩れ係数 (torsion coefficient) という。
例 1.3 (実射影平面の自由部分と捩れ部分).H0(RP2;Z)≅Z、H1(RP2;Z)≅Z/2Z、H2(RP2;Z)=0である。したがって
(b0,b1,b2)=(1,0,0)であり、唯一の捩れ係数は次数1に属する2である。Betti 数だけでは、この2を復元することができない。
2 階数の加法性
Euler 標数の証明に必要な代数的事実を、分数体への局所化から導く。
補題 2.1.Rを非零可換 PID とし、
0⟶AiBqC⟶0を有限生成R加群の短完全列とする。このとき
rankRB=rankRA+rankRCである。
証明.S:=R∖{0}と置く。分数体Kとのテンソル積はSによる局所化と同じである。局所化した列
0⟶S−1A⟶S−1B⟶S−1C⟶0が完全であることを直接確かめる。
a/s∈S−1Aの像が零なら、あるt∈Sが存在してti(a)=0となる。iは単射なのでta=0であり、a/s=0である。したがって左の写像は単射である。b/s∈S−1Bの像が零なら、あるt∈Sが存在してtq(b)=0となる。よってtb∈kerq=imiであり、あるa∈Aが存在してi(a)=tbとなる。このとき
sb=tstb=tsi(a)であるから、中央の核は左の像に一致する。右の写像の全射性はqの全射性から従う。
以上により、Kベクトル空間の短完全列
0⟶A⊗RK⟶B⊗RK⟶C⊗RK⟶0を得る。有限次元ベクトル空間の次元の加法性を適用すれば、表示した階数の等式を得る。▨
3 胞体数と Betti 数の交代和
定義 3.1.Xを有限 CW 複体とし、n次元胞体の個数をcn(X)と書く。Xの Euler 標数 (Euler characteristic) を
χ(X):=n≥0∑(−1)ncn(X)で定める。有限 CW 複体では、和に現れる非零項は有限個である。
主定理の証明では、胞体鎖群の二つの短完全列へ補題 2.1を適用する。境界群の階数が隣り合う次数に一度ずつ現れ、交代和の中で相殺することが本質である。
証明.Cn:=Cncell(X)、Zn:=ker∂n、Bn:=im∂n+1と置く。有限 CW 複体では各Cnは階数cn(X)の有限生成自由アーベル群である。部分群Zn,Bnと商群Hn:=Zn/Bnも有限生成である。§E18.21 定理 2.1によりHnはHn(X;Z)と同型である。
二つの短完全列
0⟶Zn⟶Cn∂nBn−1⟶0,0⟶Bn⟶Zn⟶Hn⟶0へ補題 2.1を適用する。rn:=rankBnと置くと
cn(X)=rankZn+rn−1=bn(X)+rn+rn−1を得る。Xの最高胞体次元をNとし、r−1=rN=0と約束する。したがって
χ(X)=n=0∑N(−1)n(bn(X)+rn+rn−1)=n=0∑N(−1)nbn(X)+n=0∑N−1(−1)nrn+n=1∑N(−1)nrn−1=n=0∑N(−1)nbn(X).最後の二つの和は、第二の和で添字を一つずらすと項ごとに相殺する。右辺は特異ホモロジー群だけから定まるため、左辺は有限 CW 分解のとり方に依存しない。▨
捩れ係数は上の交代和に現れない。例えば、円板とRP2はともに Euler 標数1をもつが、RP2の一次ホモロジーには位数2の捩れがある。Euler 標数が等しいことだけから二つの空間がホモトピー同値であると結論してはならない。
4 ホモトピー不変性
系 4.1. 有限 CW 複体XとYがホモトピー同値なら
χ(X)=χ(Y)である。
証明. ホモトピー同値は、§E18.11 定理 3.2と特異ホモロジーの関手性により、各次数で同型
Hn(X;Z)≅Hn(Y;Z)を誘導する。したがってbn(X)=bn(Y)がすべてのnで成り立つ。定理 3.2の両辺へ Betti 数の等式を代入すれば結論を得る。▨
5 多面体の Euler 公式
証明. 凸多面体の内部の点pを一つ取る。pを始点とする各半直線は多面体の境界とちょうど一度交わるため、pを中心とする球面への動径射影は、多面体の境界からS2への連続な全単射を与える。定義域はコンパクトで終域は Hausdorff 空間なので、この全単射は同相写像である。
多面体の頂点、辺および面は、その境界へ有限 CW 分解を与える。したがって定義 3.1から
χ(S2)=V−E+Fである。一方、§E18.16 定理 2.1により
H0(S2;Z)≅Z,H1(S2;Z)=0,H2(S2;Z)≅Zであり、他の次数のホモロジー群は零である。定理 3.2から
χ(S2)=1−0+1=2を得る。二つの等式を合わせるとV−E+F=2である。同じ証明はS2の任意の有限胞体分解へ適用することができる。▨
例 5.2 (代表的な閉曲面の検算). 球面、円環面および実射影平面の標準胞体分解では、それぞれ
XS2T2RP2c0111c1021c2111χ(X)201となる。対応する Betti 数の交代和は、それぞれ1+1=2、1−2+1=0、1=1であり、胞体数の計算と一致する。RP2の捩れ係数2は Euler 標数へ寄与しない。
6 演習
問題 6.1.
- 有限鎖複体0→CN→⋯→C0→0の各Cnが有限生成自由R加群であるとする。補題 2.1だけを用いて、鎖群の階数の交代和がホモロジー群の階数の交代和に等しいことを示せ。
- 正十二面体では(V,E,F)=(20,30,12)である。多面体の Euler 公式を直接検算せよ。
- 有限 CW 複体の Euler 標数が等しくても、ホモトピー同値であるとは限らない理由を、円板とRP2のホモロジー群から説明せよ。
解答.
(1)ではZn=ker∂n、Bn=im∂n+1と置き、二つの短完全列からrankCn=rankHn+rankBn+rankBn−1を得る。交代和を取ると二つの境界群の和が相殺する。(2)では20−30+12=2である。(3)では両空間の Euler 標数は1であるが、円板の正次数ホモロジー群はすべて零である一方、H1(RP2;Z)≅Z/2Zである。ホモトピー同値はホモロジー同型を誘導するため、二つの空間はホモトピー同値でない。▨