§E18.22Euler 標数と Betti 数

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有限 CW 複体には、胞体の個数から定まる整数と、ホモロジー群の自由階数から定まる整数がある。本記事では、二つの整数が一致することを、有限生成加群の階数の加法性から証明する。捩れ部分は Euler 標数に寄与しないが、捩れ係数はホモロジー群の同型類を記述するために別に記録する必要がある。

1 自由部分と捩れ部分

まず、前提となる PID 上有限生成加群の構造定理をホモロジー群へ適用する。

定義 1.1.RRを非零可換 PID、KKをRRの分数体、MMを有限生成RR加群とする。MMの 階数 (rank) と 捩れ部分 (torsion submodule) を

rank⁡RM:=dim⁡K(M⊗RK),TR(M):={x∈M∣rx=0 を満たす 0≠r∈R が存在する}\operatorname{rank}_R M :=\dim_K(M\otimes_RK), \qquad T_R(M):=\{x\in M\mid rx=0\text{ を満たす }0\neq r\in R\text{ が存在する}\}

で定める。

§E6.29 定理 14.1を用いると、ある非負整数bbと、非零非単元d1,…,ds∈Rd_1,\ldots,d_s\in Rが存在して

M≅Rb⊕R/(d1)⊕⋯⊕R/(ds),d1∣d2∣⋯∣dsM\cong R^b\oplus R/(d_1)\oplus\cdots\oplus R/(d_s), \qquad d_1\mid d_2\mid\cdots\mid d_s

と書くことができる。bbは一意であり、各did_iの同伴類も一意である。自由直和因子がKbK^bへ移り、巡回捩れ直和因子がKKとのテンソル積で消えるため、b=rank⁡RMb=\operatorname{rank}_R Mである。

定義 1.2.Hn(X;Z)H_n(X;\mathbb Z)が有限生成であるとする。構造定理による一意な表示を

Hn(X;Z)≅Zbn(X)⊕Z/dn,1Z⊕⋯⊕Z/dn,snZ,H_n(X;\mathbb Z) \cong \mathbb Z^{b_n(X)} \oplus \mathbb Z/d_{n,1}\mathbb Z \oplus\cdots\oplus \mathbb Z/d_{n,s_n}\mathbb Z,2≤dn,1∣dn,2∣⋯∣dn,sn2\leq d_{n,1}\mid d_{n,2}\mid\cdots\mid d_{n,s_n}

と書く。bn(X)b_n(X)を第nnBetti 数 (Betti number) といい、正の整数dn,1,…,dn,snd_{n,1},\ldots,d_{n,s_n}を第nnホモロジーの 捩れ係数 (torsion coefficient) という。

例 1.3 (実射影平面の自由部分と捩れ部分).H0(RP2;Z)≅ZH_0(\mathbb {RP}^2;\mathbb Z)\cong\mathbb Z、H1(RP2;Z)≅Z/2ZH_1(\mathbb {RP}^2;\mathbb Z)\cong\mathbb Z/2\mathbb Z、H2(RP2;Z)=0H_2(\mathbb {RP}^2;\mathbb Z)=0である。したがって

(b0,b1,b2)=(1,0,0)(b_0,b_1,b_2)=(1,0,0)

であり、唯一の捩れ係数は次数11に属する22である。Betti 数だけでは、この22を復元することができない。

2 階数の加法性

Euler 標数の証明に必要な代数的事実を、分数体への局所化から導く。

補題 2.1.RRを非零可換 PID とし、

0⟶A→iB→qC⟶00\longrightarrow A\xrightarrow{i}B\xrightarrow{q}C\longrightarrow0

を有限生成RR加群の短完全列とする。このとき

rank⁡RB=rank⁡RA+rank⁡RC\operatorname{rank}_RB =\operatorname{rank}_RA+\operatorname{rank}_RC

である。

証明.S:=R∖{0}S:=R\setminus\{0\}と置く。分数体KKとのテンソル積はSSによる局所化と同じである。局所化した列

0⟶S−1A⟶S−1B⟶S−1C⟶00\longrightarrow S^{-1}A\longrightarrow S^{-1}B \longrightarrow S^{-1}C\longrightarrow0

が完全であることを直接確かめる。

a/s∈S−1Aa/s\in S^{-1}Aの像が零なら、あるt∈St\in Sが存在してti(a)=0ti(a)=0となる。iiは単射なのでta=0ta=0であり、a/s=0a/s=0である。したがって左の写像は単射である。b/s∈S−1Bb/s\in S^{-1}Bの像が零なら、あるt∈St\in Sが存在してtq(b)=0tq(b)=0となる。よってtb∈ker⁡q=im⁡itb\in\ker q=\operatorname{im}iであり、あるa∈Aa\in Aが存在してi(a)=tbi(a)=tbとなる。このとき

bs=tbts=i(a)ts\frac{b}{s}=\frac{tb}{ts}=\frac{i(a)}{ts}

であるから、中央の核は左の像に一致する。右の写像の全射性はqqの全射性から従う。

以上により、KKベクトル空間の短完全列

0⟶A⊗RK⟶B⊗RK⟶C⊗RK⟶00\longrightarrow A\otimes_RK\longrightarrow B\otimes_RK \longrightarrow C\otimes_RK\longrightarrow0

を得る。有限次元ベクトル空間の次元の加法性を適用すれば、表示した階数の等式を得る。▨

3 胞体数と Betti 数の交代和

定義 3.1.XXを有限 CW 複体とし、nn次元胞体の個数をcn(X)c_n(X)と書く。XXの Euler 標数 (Euler characteristic) を

χ(X):=∑n≥0(−1)ncn(X)\chi(X):=\sum_{n\geq0}(-1)^nc_n(X)

で定める。有限 CW 複体では、和に現れる非零項は有限個である。

主定理の証明では、胞体鎖群の二つの短完全列へ補題 2.1を適用する。境界群の階数が隣り合う次数に一度ずつ現れ、交代和の中で相殺することが本質である。

定理 3.2. 有限 CW 複体XXについて

χ(X)=∑n≥0(−1)nbn(X)\chi(X)=\sum_{n\geq0}(-1)^nb_n(X)

である。したがって定義 3.1の値は、XXに入れた有限 CW 分解のとり方に依存しない。

証明.Cn:=Cncell(X)C_n:=C_n^{\mathrm{cell}}(X)、Zn:=ker⁡∂nZ_n:=\ker\partial_n、Bn:=im⁡∂n+1B_n:=\operatorname{im}\partial_{n+1}と置く。有限 CW 複体では各CnC_nは階数cn(X)c_n(X)の有限生成自由アーベル群である。部分群Zn,BnZ_n,B_nと商群Hn:=Zn/BnH_n:=Z_n/B_nも有限生成である。§E18.21 定理 2.1によりHnH_nはHn(X;Z)H_n(X;\mathbb Z)と同型である。

二つの短完全列

0⟶Zn⟶Cn→∂nBn−1⟶0,0\longrightarrow Z_n\longrightarrow C_n \xrightarrow{\partial_n}B_{n-1}\longrightarrow0,0⟶Bn⟶Zn⟶Hn⟶00\longrightarrow B_n\longrightarrow Z_n \longrightarrow H_n\longrightarrow0

へ補題 2.1を適用する。rn:=rank⁡Bnr_n:=\operatorname{rank}B_nと置くと

cn(X)=rank⁡Zn+rn−1=bn(X)+rn+rn−1c_n(X)=\operatorname{rank}Z_n+r_{n-1} =b_n(X)+r_n+r_{n-1}

を得る。XXの最高胞体次元をNNとし、r−1=rN=0r_{-1}=r_N=0と約束する。したがって

χ(X)=∑n=0N(−1)n(bn(X)+rn+rn−1)=∑n=0N(−1)nbn(X)+∑n=0N−1(−1)nrn+∑n=1N(−1)nrn−1=∑n=0N(−1)nbn(X).\begin{aligned} \chi(X) &=\sum_{n=0}^N(-1)^n\bigl(b_n(X)+r_n+r_{n-1}\bigr)\\ &=\sum_{n=0}^N(-1)^nb_n(X) +\sum_{n=0}^{N-1}(-1)^nr_n +\sum_{n=1}^{N}(-1)^nr_{n-1}\\ &=\sum_{n=0}^N(-1)^nb_n(X). \end{aligned}

最後の二つの和は、第二の和で添字を一つずらすと項ごとに相殺する。右辺は特異ホモロジー群だけから定まるため、左辺は有限 CW 分解のとり方に依存しない。▨

捩れ係数は上の交代和に現れない。例えば、円板とRP2\mathbb {RP}^2はともに Euler 標数11をもつが、RP2\mathbb {RP}^2の一次ホモロジーには位数22の捩れがある。Euler 標数が等しいことだけから二つの空間がホモトピー同値であると結論してはならない。

4 ホモトピー不変性

系 4.1. 有限 CW 複体XXとYYがホモトピー同値なら

χ(X)=χ(Y)\chi(X)=\chi(Y)

である。

証明. ホモトピー同値は、§E18.11 定理 3.2と特異ホモロジーの関手性により、各次数で同型

Hn(X;Z)≅Hn(Y;Z)H_n(X;\mathbb Z)\cong H_n(Y;\mathbb Z)

を誘導する。したがってbn(X)=bn(Y)b_n(X)=b_n(Y)がすべてのnnで成り立つ。定理 3.2の両辺へ Betti 数の等式を代入すれば結論を得る。▨

5 多面体の Euler 公式

定理 5.1 (多面体の Euler 公式). 凸三次元多面体の頂点数、辺数および面数を、それぞれV,E,FV,E,Fとする。このとき

V−E+F=2V-E+F=2

である。より一般に、S2S^2の任意の有限胞体分解について同じ等式が成り立つ。

証明. 凸多面体の内部の点ppを一つ取る。ppを始点とする各半直線は多面体の境界とちょうど一度交わるため、ppを中心とする球面への動径射影は、多面体の境界からS2S^2への連続な全単射を与える。定義域はコンパクトで終域は Hausdorff 空間なので、この全単射は同相写像である。

多面体の頂点、辺および面は、その境界へ有限 CW 分解を与える。したがって定義 3.1から

χ(S2)=V−E+F\chi(S^2)=V-E+F

である。一方、§E18.16 定理 2.1により

H0(S2;Z)≅Z,H1(S2;Z)=0,H2(S2;Z)≅ZH_0(S^2;\mathbb Z)\cong\mathbb Z, \qquad H_1(S^2;\mathbb Z)=0, \qquad H_2(S^2;\mathbb Z)\cong\mathbb Z

であり、他の次数のホモロジー群は零である。定理 3.2から

χ(S2)=1−0+1=2\chi(S^2)=1-0+1=2

を得る。二つの等式を合わせるとV−E+F=2V-E+F=2である。同じ証明はS2S^2の任意の有限胞体分解へ適用することができる。▨

例 5.2 (代表的な閉曲面の検算). 球面、円環面および実射影平面の標準胞体分解では、それぞれ

Xc0c1c2χ(X)S21012T21210RP21111\begin{array}{c|c|c|c|c} X&c_0&c_1&c_2&\chi(X)\\ \hline S^2&1&0&1&2\\ T^2&1&2&1&0\\ \mathbb {RP}^2&1&1&1&1 \end{array}

となる。対応する Betti 数の交代和は、それぞれ1+1=21+1=2、1−2+1=01-2+1=0、1=11=1であり、胞体数の計算と一致する。RP2\mathbb {RP}^2の捩れ係数22は Euler 標数へ寄与しない。

6 演習

問題 6.1.

  1. 有限鎖複体0→CN→⋯→C0→00\to C_N\to\cdots\to C_0\to0の各CnC_nが有限生成自由RR加群であるとする。補題 2.1だけを用いて、鎖群の階数の交代和がホモロジー群の階数の交代和に等しいことを示せ。
  2. 正十二面体では(V,E,F)=(20,30,12)(V,E,F)=(20,30,12)である。多面体の Euler 公式を直接検算せよ。
  3. 有限 CW 複体の Euler 標数が等しくても、ホモトピー同値であるとは限らない理由を、円板とRP2\mathbb {RP}^2のホモロジー群から説明せよ。
解答.

(1)ではZn=ker⁡∂nZ_n=\ker\partial_n、Bn=im⁡∂n+1B_n=\operatorname{im}\partial_{n+1}と置き、二つの短完全列からrank⁡Cn=rank⁡Hn+rank⁡Bn+rank⁡Bn−1\operatorname{rank}C_n=\operatorname{rank}H_n+\operatorname{rank}B_n+\operatorname{rank}B_{n-1}を得る。交代和を取ると二つの境界群の和が相殺する。(2)では20−30+12=220-30+12=2である。(3)では両空間の Euler 標数は11であるが、円板の正次数ホモロジー群はすべて零である一方、H1(RP2;Z)≅Z/2ZH_1(\mathbb {RP}^2;\mathbb Z)\cong\mathbb Z/2\mathbb Zである。ホモトピー同値はホモロジー同型を誘導するため、二つの空間はホモトピー同値でない。▨

参考文献

  1. Allen Hatcher, Algebraic Topology, Cambridge University Press, 2002.有限 CW 複体の Euler 標数と胞体鎖複体による証明を参考にした。

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