§E18.5被覆空間と持ち上げ

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被覆写像は、底空間の十分小さい近傍の上で、互いに交わらない複数のコピーに分かれる写像である。この局所的な分解により、道とホモトピーは始点を指定すれば一意に持ち上がる。

1 被覆写像と基本例

定義 1.1. 全射連続写像p:E→Xp:E\to Xが被覆写像 (covering map) であるとは、各点x∈Xx\in Xに開近傍UUが存在し、

p−1(U)=∐λ∈ΛVλp^{-1}(U)=\coprod_{\lambda\in\Lambda}V_\lambda

と互いに交わらない開集合の和に分かれ、各制限p∣Vλ:Vλ→Up|_{V_\lambda}:V_\lambda\to Uが同相写像になることをいう。このようなUUを均等被覆近傍 (evenly covered neighborhood)、VλV_\lambdaをその上のシート (sheet) という。

連続写像f:Y→Xf:Y\to Xに対し、連続写像f~:Y→E\widetilde f:Y\to Eがp∘f~=fp\circ\widetilde f=fを満たすとき、f~\widetilde fをffの持ち上げ (lift) という。

定義 1.2. 被覆写像p:E→Xp:E\to Xが与えられたとき、EEをXXの被覆空間 (covering space) という。点x∈Xx\in Xの逆像p−1(x)p^{-1}(x)をxx上のファイバー (fiber) という。すべてのファイバーがnn点からなるとき、ppを nn重被覆 (n-sheeted covering) という。

例 1.3 (指数写像と冪写像). 次の写像は被覆写像である。

  1. p:R→S1p:\mathbb R\to S^1、p(t)=e2πitp(t)=e^{2\pi it}。S1S^1の長さが一周未満の開弧UUをとると、p−1(U)p^{-1}(U)は整数平行移動で並ぶ開区間の直和であり、各区間はUUへ同相に写る。
  2. 正の整数nnに対し、pn:S1→S1p_n:S^1\to S^1、pn(z)=znp_n(z)=z^n。十分短い開弧上で偏角を一つ選ぶと、その逆像は偏角を2πk/n2\pi k/nだけずらしたnn個の開弧に分かれる。したがってpnp_nはnn重被覆である。

被覆写像の局所的な単射性から、二つの持ち上げは一点で一致すれば連結な定義域全体で一致する。

補題 1.4.YYを連結空間、f:Y→Xf:Y\to Xを連続写像、p:E→Xp:E\to Xを被覆写像とする。ffの二つの持ち上げf~0,f~1:Y→E\widetilde f_0,\widetilde f_1:Y\to Eが一点で一致するなら、YY全体で一致する。

証明.A={y∈Y:f~0(y)=f~1(y)}A=\{y\in Y:\widetilde f_0(y)=\widetilde f_1(y)\}とおく。y∈Ay\in Aとし、f(y)f(y)の均等被覆近傍UUと、共通の値を含むシートVVをとる。連続性により、yyの十分小さい近傍では両方の持ち上げがVVに値をとる。その近傍ではp∣Vp|_Vの単射性から両者は一致する。したがってAAは開である。

y∉Ay\notin Aなら、f~0(y)\widetilde f_0(y)とf~1(y)\widetilde f_1(y)はf(y)f(y)の同じ均等被覆近傍上の異なるシートに属する。連続性により、yyの十分小さい近傍でも二つの像は異なるシートに属するため一致しない。したがってY∖AY\setminus Aも開である。AAは空でない開かつ閉な部分集合であり、YYは連結であるからA=YA=Yである。▨

2 道の持ち上げ

補題 2.1 (道の持ち上げ).p:E→Xp:E\to Xを被覆写像、α:[0,1]→X\alpha:[0,1]\to Xを道、e0∈p−1(α(0))e_0\in p^{-1}(\alpha(0))とする。このとき、

p∘α~=α,α~(0)=e0p\circ\widetilde\alpha=\alpha, \qquad \widetilde\alpha(0)=e_0

を満たす道α~:[0,1]→E\widetilde\alpha:[0,1]\to Eが一意に存在する。

証明.α([0,1])\alpha([0,1])を均等被覆近傍で覆う。逆像をとると[0,1][0,1]の開被覆を得る。[0,1][0,1]はコンパクト距離空間であるから、この開被覆には Lebesgue 数δ>0\delta>0が存在する。分点

0=t0<t1<⋯<tm=10=t_0<t_1<\cdots<t_m=1

をti−ti−1<δt_i-t_{i-1}<\deltaとなるように選ぶ。各区間[ti−1,ti][t_{i-1},t_i]の像は一つの均等被覆近傍UiU_iに含まれる。

α~(t0)=e0\widetilde\alpha(t_0)=e_0とする。[0,ti−1][0,t_{i-1}]まで持ち上げを構成したと仮定する。p−1(Ui)p^{-1}(U_i)のうちα~(ti−1)\widetilde\alpha(t_{i-1})を含むシートをViV_iとし、

α~(t)=(p∣Vi)−1(α(t))(ti−1≤t≤ti)\widetilde\alpha(t)=(p|_{V_i})^{-1}(\alpha(t)) \qquad(t_{i-1}\le t\le t_i)

と定める。端点で既存の値と一致するため、貼り合わせ補題により連続な持ち上げを得る。有限回の帰納によって全区間上の持ち上げが存在する。

一意性は補題 1.4を連結空間[0,1][0,1]に適用すれば従う。▨

3 ホモトピーの持ち上げ

補題 3.1 (ホモトピーの持ち上げ).p:E→Xp:E\to Xを被覆写像とし、H:[0,1]2→XH:[0,1]^2\to Xを連続写像とする。道H(−,0)H(-,0)の持ち上げH~0:[0,1]→E\widetilde H_0:[0,1]\to Eが与えられたとき、

p∘H~=H,H~(s,0)=H~0(s)p\circ\widetilde H=H, \qquad \widetilde H(s,0)=\widetilde H_0(s)

を満たす連続写像H~:[0,1]2→E\widetilde H:[0,1]^2\to Eが一意に存在する。

さらに、H(0,t)H(0,t)とH(1,t)H(1,t)がそれぞれttに依存しないなら、H~(0,t)\widetilde H(0,t)とH~(1,t)\widetilde H(1,t)もそれぞれttに依存しない。

証明.H([0,1]2)H([0,1]^2)を均等被覆近傍で覆い、その逆像による[0,1]2[0,1]^2の開被覆を考える。正方形を最大距離で距離空間とみなすと、コンパクト性から Lebesgue 数δ>0\delta>0が存在する。縦横の辺長がδ\deltaより小さい有限格子へ分割すれば、各小長方形RRのHHによる像は一つの均等被覆近傍URU_Rに含まれる。

最下段の左端の小長方形から右へ進む。小長方形RRの下辺では、既に定義された持ち上げの像は連結であり、p−1(UR)p^{-1}(U_R)の一つのシートVRV_Rに含まれる。RR全体では

H~∣R=(p∣VR)−1∘H∣R\widetilde H|_R=(p|_{V_R})^{-1}\circ H|_R

と定める。右隣の長方形で得る式は、共通の縦辺上でHHの持ち上げを与え、下端の一点で既存の式と一致する。補題 1.4を共通の縦辺に適用すると、二つの式は縦辺全体で一致する。したがって最下段全体へ連続に貼り合わせることができる。

一段を構成した後、その上辺を次の段の初期値として同じ操作を繰り返す。有限回の帰納により正方形全体の持ち上げを得る。一意性は、二つの持ち上げが下辺で一致することと、正方形の連結性から補題 1.4を適用すれば従う。

H(0,t)H(0,t)が定値道なら、t↦H~(0,t)t\mapsto\widetilde H(0,t)はその定値道の持ち上げである。始点を同じくする定値持ち上げとの一意性から、この道も定値である。右辺についても同様である。▨

定理 3.2. 任意の被覆写像について、始点を指定した道の持ち上げは一意に存在する。また、ホモトピーの一辺上の持ち上げを指定すれば、ホモトピー全体の持ち上げが一意に存在する。端点固定ホモトピーを持ち上げると端点固定性も保たれる。

証明. 道については補題 2.1、ホモトピーについては補題 3.1が主張を与える。▨

定理 3.3.p:(E,e0)→(X,x0)p:(E,e_0)\to(X,x_0)を基点付き被覆写像とする。このとき

p∗:π1(E,e0)⟶π1(X,x0)p_*:\pi_1(E,e_0)\longrightarrow\pi_1(X,x_0)

は単射である。

証明.[α]∈ker⁡p∗[\alpha]\in\ker p_*とする。p∘αp\circ\alphaからx0x_0における定値ループへの端点固定ホモトピーHHが存在する。H(−,0)=p∘αH(-,0)=p\circ\alphaの持ち上げとしてα\alphaを指定し、補題 3.1によりHHを持ち上げる。端点固定性により、持ち上げの左右の辺はe0e_0に固定される。上辺はe0e_0を始点とする定値道の持ち上げであるから、道の持ち上げの一意性により定値道である。したがって、この持ち上げはα\alphaから定値ループへの端点固定ホモトピーであり、[α]=1[\alpha]=1である。よって核は自明である。▨

4 一般の写像の持ち上げ判定

定義 4.1. 位相空間YYが局所弧状連結 (locally path-connected) であるとは、各点y∈Yy\in Yと各開近傍WWに対し、yyの弧状連結な開近傍VVでV⊆WV\subseteq Wを満たすものが存在することをいう。

定理 4.2.YYを連結かつ局所弧状連結な空間、p:(E,e0)→(X,x0)p:(E,e_0)\to(X,x_0)を被覆写像、f:(Y,y0)→(X,x0)f:(Y,y_0)\to(X,x_0)を基点付き連続写像とする。基点を保つ持ち上げf~:(Y,y0)→(E,e0)\widetilde f:(Y,y_0)\to(E,e_0)が存在するための必要十分条件は

f∗(π1(Y,y0))⊆p∗(π1(E,e0))f_*(\pi_1(Y,y_0))\subseteq p_*(\pi_1(E,e_0))

である。持ち上げが存在すれば一意である。

証明. 持ち上げf~\widetilde fが存在すれば、関手性からf∗=p∗∘f~∗f_*=p_*\circ\widetilde f_*であるため、像の包含が成り立つ。

逆に、像の包含を仮定する。連結かつ局所弧状連結な空間は弧状連結である。各y∈Yy\in Yに対し、y0y_0からyyへの道γy\gamma_yを選ぶ。f∘γyf\circ\gamma_yをe0e_0から持ち上げ、その終点をf~(y)\widetilde f(y)と定める。

この値が道の選択に依存しないことを示す。γy′\gamma_y'もy0y_0からyyへの道とする。ループγy∗γˉy′\gamma_y*\bar\gamma_y'の像のホモトピー類は、仮定によりp∗p_*の像に属する。したがって、f∘(γy∗γˉy′)f\circ(\gamma_y*\bar\gamma_y')はEEのe0e_0におけるループの像と端点固定ホモトピックである。ホモトピー持ち上げの一意性により、f∘(γy∗γˉy′)f\circ(\gamma_y*\bar\gamma_y')のe0e_0からの持ち上げは閉じる。その前半はf∘γyf\circ\gamma_yの持ち上げである。後半を逆向きにたどると、f∘γy′f\circ\gamma_y'のe0e_0からの持ち上げになり、その終点は前半の終点と一致する。よってf~(y)\widetilde f(y)は well-defined である。

連続性を示す。y∈Yy\in Yを固定し、f(y)f(y)の均等被覆近傍UUをとる。局所弧状連結性により、yyの弧状連結な開近傍V⊆f−1(U)V\subseteq f^{-1}(U)をとることができる。f~(y)\widetilde f(y)を含むUU上のシートをWWとする。z∈Vz\in Vに対し、yyからzzへのVV内の道をγy\gamma_yの後へ連結して定義を計算すると、

f~(z)=(p∣W)−1(f(z))\widetilde f(z)=(p|_W)^{-1}(f(z))

となる。したがってf~∣V=(p∣W)−1∘f∣V\widetilde f|_V=(p|_W)^{-1}\circ f|_Vは連続である。各点の近傍で連続であるからf~\widetilde fは連続であり、定義からp∘f~=fp\circ\widetilde f=f、f~(y0)=e0\widetilde f(y_0)=e_0を満たす。一意性は補題 1.4から従う。▨

局所弧状連結性を外すと、像の包含だけでは連続な持ち上げを保証しない。

例 4.3 (局所弧状連結性を外した反例).T⊂R2T\subset\mathbb R^2を閉じた位相正弦曲線

T={(x,sin⁡(1/x)):0<x≤1}∪({0}×[−1,1])T=\{(x,\sin(1/x)):0<x\le1\}\cup(\{0\}\times[-1,1])

とする。正弦曲線部分の一点qqに円周CCを一点で接着してY=T∨qCY=T\vee_q Cを作る。YYは連結であるが、{0}×[−1,1]\{0\}\times[-1,1]上の点では局所弧状連結でない。

基点y0∈{0}×[−1,1]y_0\in\{0\}\times[-1,1]をとり、f:Y→S1f:Y\to S^1をTT上では定値11、CC上では一周する基点付き同相写像とする。y0y_0の弧状連結成分は縦線分であるからπ1(Y,y0)=0\pi_1(Y,y_0)=0であり、指数被覆p:(R,0)→(S1,1)p:(\mathbb R,0)\to(S^1,1)に対する像の包含条件は成り立つ。

しかし、ffがR\mathbb Rへ持ち上がれば、そのCCへの制限は円周を一周する写像のR\mathbb Rへの持ち上げになる。この持ち上げは円周上で始点と終点を同じ値にしなければならない一方、道の持ち上げは一周後に値を11だけ増加させるため矛盾する。したがって連続な持ち上げは存在しない。

5 演習

問題 5.1.

  1. 道の持ち上げを区間ごとに構成するとき、次の区間で用いるシートが一意に決まる理由を述べよ。
  2. ホモトピー持ち上げの格子構成で、隣り合う二つの小長方形上の式が共通辺で一致する理由を述べよ。
  3. 持ち上げ判定条件の十分性の証明で局所弧状連結性を用いる箇所を特定せよ。
解答.
  1. 直前までに定まった持ち上げの端点が、均等被覆近傍上のシートの一つだけに属するためである。そのシート上では被覆写像の逆写像が一意に定まる。
  2. 共通辺上の二つの式は同じ写像の持ち上げであり、共通辺の一端で一致する。共通辺は連結であるため、持ち上げの一意性から辺全体で一致する。
  3. f(y)f(y)の均等被覆近傍UUに対し、yyの弧状連結な開近傍V⊆f−1(U)V\subseteq f^{-1}(U)を選ぶ箇所で用いる。これにより、VV上の持ち上げを一つのシートの逆写像として表し、連続性を証明することができる。

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参考文献

  1. Allen Hatcher, Algebraic Topology, Cambridge University Press, 2002.道・ホモトピーの持ち上げと、基本群による持ち上げ判定の標準的な証明を参考にした。

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