1 無レトラクション定理
定義 1.1.A⊂Xとする。連続写像r:X→Aが
r∣A=idAを満たすとき、rをXからAへのレトラクションといい、AをXのレトラクトという。
定理 1.2 (球体の無レトラクション定理).n≥1とし、Dn={x∈Rn:∥x∥≤1}、Sn−1=∂Dnとする。DnからSn−1へのレトラクションは存在しない。
証明. 包含写像をi:Sn−1↪Dnとする。レトラクションr:Dn→Sn−1が存在すれば
r∘i=idSn−1となる。被約ホモロジーと§E18.11 命題 1.5を用いると
r∗∘i∗=idHn−1(Sn−1)を得る。
n=1ではS0は二点からなるためH0(S0)≅Zである。n≥2では§E18.16 定理 2.1からHn−1(Sn−1)≅Zである。したがって、すべてのn≥1についてHn−1(Sn−1)≅Zとなる。一方、DnはホモトピーH(x,t)=(1−t)xによって一点へ収縮する。§E18.11 定理 3.2と一点空間のホモロジーから
Hn−1(Dn)=0である。したがってi∗はZから零群への準同型であり、r∗∘i∗は零準同型になる。これはZ上の恒等準同型ではないため矛盾する。ゆえにレトラクションは存在しない。▨
系 1.3.D2からその境界S1へのレトラクションは存在しない。
二次元の場合は、π1(S1)≅Zとπ1(D2)=0を用いても同じ合成の矛盾を得る。基本群による証明は円板に対して十分であるが、一般のnに対してπ1(Sn−1)は最高次元の穴を検出しない。被約ホモロジーを用いると、すべてのn≥1を同じ式で扱うことができる。
2 Brouwer の不動点定理
無レトラクション定理を適用するため、不動点をもたない自己写像から境界へのレトラクションを具体的に構成する。
定理 2.1 (Brouwer の不動点定理).n≥1とする。任意の連続写像f:Dn→Dnに対して、f(x)=xを満たす点x∈Dnが存在する。
証明.fが不動点をもたないと仮定する。各x∈Dnに対して
v(x):=x−f(x)と置く。不動点が存在しないという仮定からv(x)=0である。f(x)を始点としてxを通る半直線とSn−1との交点のうち、xからv(x)の向きへ進んで最初に得られる点をr(x)とする。すなわち
r(x)=x+λ(x)v(x),λ(x)≥0,かつ∥r(x)∥=1と定める。
λが一意かつ連続に定まることを示す。等式∥x+λv(x)∥2=1は
∥v(x)∥2λ2+2⟨x,v(x)⟩λ+∥x∥2−1=0と同値である。定数項は非正で最高次係数は正なので、二根の一方は非負であり、他方は非正である。非負根は
λ(x)=∥v(x)∥2−⟨x,v(x)⟩+⟨x,v(x)⟩2+∥v(x)∥2(1−∥x∥2)である。分母はv(x)=0によって正であり、根号の中は二つの非負数の和である。したがってλとrは連続である。
x∈Sn−1なら
⟨x,v(x)⟩=1−⟨x,f(x)⟩≥1−∥f(x)∥≥0.このとき上の公式で1−∥x∥2=0であるからλ(x)=0となり、r(x)=xを得る。ゆえにr:Dn→Sn−1はレトラクションである。これは定理 1.2に反する。したがってfは不動点をもつ。▨
系 2.2 (Brouwer の不動点定理の二次元の場合). 任意の連続写像f:D2→D2は不動点をもつ。
3 局所ホモロジーと次元不変性
§E18.15 定義 2.1で定義した局所ホモロジーを Euclid 空間で計算する。局所ホモロジーが非零になる次数が、Euclid 空間の次元を与える。
命題 3.1.m≥1、x∈Rmとする。このとき
Hk(Rm,Rm∖{x};Z)≅{Z0k=m,k=mである。
証明. 平行移動によってx=0としてよい。Rmは可縮であり、Rm∖{0}は
H(z,t)=((1−t)+∥z∥t)zによってSm−1へ変形収縮する。対(Rm,Rm∖{0})の長完全列を被約ホモロジーで書くと、k≥1について
Hk(Rm,Rm∖{0})≅Hk−1(Rm∖{0})≅Hk−1(Sm−1)となる。§E18.16 定理 2.1から右辺はk=mのときだけZであり、それ以外は零である。零次では、非空な部分空間の零次ホモロジーから連結なRmの零次ホモロジーへの写像が全射なので、相対零次ホモロジーは零である。▨
定理 3.2.m,nを正の整数とする。空でない開集合U⊂RmとV⊂Rnが同相ならばm=nである。
証明. 同相写像h:U→Vが存在するとし、x∈U、y:=h(x)と置く。同相写像は対の同相
(U,U∖{x})⟶(V,V∖{y})を与えるため、すべてのkについて
Hk(U,U∖{x})≅Hk(V,V∖{y})である。
Uは開いているので、xを中心とし閉包がUに含まれる開球を取ることができる。§E18.15 定理 1.1によって、Uにおけるxの局所ホモロジーはRmにおけるxの局所ホモロジーと同型である。同様に、Vにおけるyの局所ホモロジーはRnにおけるyの局所ホモロジーと同型である。したがって命題 3.1から
Hk(U,U∖{x})≅{Z0k=m,k=m,Hk(V,V∖{y})≅{Z0k=n,k=n.となる。二つの次数別群が同型であるため、非零になる唯一の次数が一致し、m=nを得る。▨
4 偶数次元球面上のベクトル場
Sn⊂Rn+1の点xにおける接ベクトルを、xと直交するベクトルとして表す。
定理 4.1.n≥2を偶数とする。すべてのx∈Snで
v(x)⊥x,v(x)=0を満たす連続写像v:Sn→Rn+1は存在しない。
証明. そのようなvが存在すると仮定し、
w(x):=∥v(x)∥v(x)と置く。wは連続であり、∥w(x)∥=1およびw(x)⊥xを満たす。写像
H:Sn×[0,1]⟶Sn,H(x,t)=cos(πt)x+sin(πt)w(x)を考える。直交性から
∥H(x,t)∥2=cos2(πt)∥x∥2+sin2(πt)∥w(x)∥2=1であるため、Hの値は常にSnに属する。またH(x,0)=x、H(x,1)=−xなので、Hは恒等写像と対蹠写像aの間のホモトピーである。
§E18.17 命題 1.2のホモトピー不変性から
1=deg(idSn)=degaとなる。しかし§E18.17 定理 2.2とnの偶数性からdega=(−1)n+1=−1である。これは矛盾である。ゆえに至る所で非零となる連続接ベクトル場は存在しない。▨
例 4.2 (奇数次元との対比).S1⊂R2では
v(x1,x2)=(−x2,x1)が連続で至る所非零の接ベクトル場を与える。実際、⟨(x1,x2),v(x1,x2)⟩=0であり、∥v(x1,x2)∥=1である。この例は、偶数次元という仮定を外した主張が成り立たないことを示す。
5 演習
問題 5.1.
- 無レトラクション定理の証明で、被約ホモロジーを用いるとn=1も同じ議論に含まれる理由を説明せよ。
- Brouwer の不動点定理の証明で、x∈Sn−1ならλ(x)=0となることを式から確かめよ。
- U⊂R3とV⊂R5を空でない開集合とする。局所ホモロジーのどの次数を比較すれば、UとVが同相でないと分かるか。
- 非零接ベクトル場から恒等写像と対蹠写像の間のホモトピーが得られる理由を、ノルムの計算を含めて再構成せよ。
解答 (解答).
第一問ではS0が二点からなるためH0(S0)≅Zである一方、区間D1は可縮なのでH0(D1)=0である。したがってn=1でも恒等準同型が零群を経由するという矛盾が生じる。第二問では∥x∥=1かつ⟨x,v(x)⟩=1−⟨x,f(x)⟩≥0なので、平方根は⟨x,v(x)⟩に等しく、分子が零になる。第三問では第3局所ホモロジーを比較すればよい。U側ではZであるが、V側では零である。第四問ではxと正規化したベクトル場w(x)が直交するため、cos(πt)x+sin(πt)w(x)のノルムの二乗はcos2(πt)+sin2(πt)=1である。端点t=0,1ではそれぞれx,−xとなる。▨