§E18.18Brouwer の不動点定理と次元不変性

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球面の最高次ホモロジーは、境界球面を球体の内部へ押し込めた後に元へ戻すレトラクションを排除する。同じ矛盾から任意次元の Brouwer の不動点定理が従う。さらに、局所ホモロジーは Euclid 空間の次元を一点の近傍だけから検出し、写像度は偶数次元球面上の連続接ベクトル場の零点を検出する。

1 無レトラクション定理

定義 1.1.A⊂XA\subset Xとする。連続写像r:X→Ar:X\to Aが

r∣A=id⁡Ar|_A=\operatorname{id}_A

を満たすとき、rrをXXからAAへのレトラクションといい、AAをXXのレトラクトという。

定理 1.2 (球体の無レトラクション定理).n≥1n\geq1とし、Dn={x∈Rn:∥x∥≤1}D^n=\{x\in\mathbb R^n:\lVert x\rVert\leq1\}、Sn−1=∂DnS^{n-1}=\partial D^nとする。DnD^nからSn−1S^{n-1}へのレトラクションは存在しない。

証明. 包含写像をi:Sn−1↪Dni:S^{n-1}\hookrightarrow D^nとする。レトラクションr:Dn→Sn−1r:D^n\to S^{n-1}が存在すれば

r∘i=id⁡Sn−1r\circ i=\operatorname{id}_{S^{n-1}}

となる。被約ホモロジーと§E18.11 命題 1.5を用いると

r∗∘i∗=id⁡H~n−1(Sn−1)r_*\circ i_*=\operatorname{id}_{\widetilde H_{n-1}(S^{n-1})}

を得る。

n=1n=1ではS0S^0は二点からなるためH~0(S0)≅Z\widetilde H_0(S^0)\cong\mathbb Zである。n≥2n\geq2では§E18.16 定理 2.1からH~n−1(Sn−1)≅Z\widetilde H_{n-1}(S^{n-1})\cong\mathbb Zである。したがって、すべてのn≥1n\geq1についてH~n−1(Sn−1)≅Z\widetilde H_{n-1}(S^{n-1})\cong\mathbb Zとなる。一方、DnD^nはホモトピーH(x,t)=(1−t)xH(x,t)=(1-t)xによって一点へ収縮する。§E18.11 定理 3.2と一点空間のホモロジーから

H~n−1(Dn)=0\widetilde H_{n-1}(D^n)=0

である。したがってi∗i_*はZ\mathbb Zから零群への準同型であり、r∗∘i∗r_*\circ i_*は零準同型になる。これはZ\mathbb Z上の恒等準同型ではないため矛盾する。ゆえにレトラクションは存在しない。▨

系 1.3.D2D^2からその境界S1S^1へのレトラクションは存在しない。

証明.定理 1.2でn=2n=2とすればよい。▨

二次元の場合は、π1(S1)≅Z\pi_1(S^1)\cong\mathbb Zとπ1(D2)=0\pi_1(D^2)=0を用いても同じ合成の矛盾を得る。基本群による証明は円板に対して十分であるが、一般のnnに対してπ1(Sn−1)\pi_1(S^{n-1})は最高次元の穴を検出しない。被約ホモロジーを用いると、すべてのn≥1n\geq1を同じ式で扱うことができる。

2 Brouwer の不動点定理

無レトラクション定理を適用するため、不動点をもたない自己写像から境界へのレトラクションを具体的に構成する。

定理 2.1 (Brouwer の不動点定理).n≥1n\geq1とする。任意の連続写像f:Dn→Dnf:D^n\to D^nに対して、f(x)=xf(x)=xを満たす点x∈Dnx\in D^nが存在する。

証明.ffが不動点をもたないと仮定する。各x∈Dnx\in D^nに対して

v(x):=x−f(x)v(x):=x-f(x)

と置く。不動点が存在しないという仮定からv(x)≠0v(x)\neq0である。f(x)f(x)を始点としてxxを通る半直線とSn−1S^{n-1}との交点のうち、xxからv(x)v(x)の向きへ進んで最初に得られる点をr(x)r(x)とする。すなわち

r(x)=x+λ(x)v(x),λ(x)≥0,r(x)=x+\lambda(x)v(x),\qquad \lambda(x)\geq0,

かつ∥r(x)∥=1\lVert r(x)\rVert=1と定める。

λ\lambdaが一意かつ連続に定まることを示す。等式∥x+λv(x)∥2=1\lVert x+\lambda v(x)\rVert^2=1は

∥v(x)∥2λ2+2⟨x,v(x)⟩λ+∥x∥2−1=0\lVert v(x)\rVert^2\lambda^2 +2\langle x,v(x)\rangle\lambda +\lVert x\rVert^2-1=0

と同値である。定数項は非正で最高次係数は正なので、二根の一方は非負であり、他方は非正である。非負根は

λ(x)=−⟨x,v(x)⟩+⟨x,v(x)⟩2+∥v(x)∥2(1−∥x∥2)∥v(x)∥2\lambda(x)= \frac{-\langle x,v(x)\rangle+ \sqrt{\langle x,v(x)\rangle^2+ \lVert v(x)\rVert^2(1-\lVert x\rVert^2)}} {\lVert v(x)\rVert^2}

である。分母はv(x)≠0v(x)\neq0によって正であり、根号の中は二つの非負数の和である。したがってλ\lambdaとrrは連続である。

x∈Sn−1x\in S^{n-1}なら

⟨x,v(x)⟩=1−⟨x,f(x)⟩≥1−∥f(x)∥≥0.\langle x,v(x)\rangle =1-\langle x,f(x)\rangle \geq1-\lVert f(x)\rVert \geq0.

このとき上の公式で1−∥x∥2=01-\lVert x\rVert^2=0であるからλ(x)=0\lambda(x)=0となり、r(x)=xr(x)=xを得る。ゆえにr:Dn→Sn−1r:D^n\to S^{n-1}はレトラクションである。これは定理 1.2に反する。したがってffは不動点をもつ。▨

系 2.2 (Brouwer の不動点定理の二次元の場合). 任意の連続写像f:D2→D2f:D^2\to D^2は不動点をもつ。

証明.定理 2.1でn=2n=2とすればよい。▨

3 局所ホモロジーと次元不変性

§E18.15 定義 2.1で定義した局所ホモロジーを Euclid 空間で計算する。局所ホモロジーが非零になる次数が、Euclid 空間の次元を与える。

命題 3.1.m≥1m\geq1、x∈Rmx\in\mathbb R^mとする。このとき

Hk(Rm,Rm∖{x};Z)≅{Zk=m,0k≠mH_k(\mathbb R^m,\mathbb R^m\setminus\{x\};\mathbb Z) \cong \begin{cases} \mathbb Z&k=m,\\ 0&k\neq m \end{cases}

である。

証明. 平行移動によってx=0x=0としてよい。Rm\mathbb R^mは可縮であり、Rm∖{0}\mathbb R^m\setminus\{0\}は

H(z,t)=((1−t)+t∥z∥)zH(z,t)=\left((1-t)+\frac{t}{\lVert z\rVert}\right)z

によってSm−1S^{m-1}へ変形収縮する。対(Rm,Rm∖{0})(\mathbb R^m,\mathbb R^m\setminus\{0\})の長完全列を被約ホモロジーで書くと、k≥1k\geq1について

Hk(Rm,Rm∖{0})≅H~k−1(Rm∖{0})≅H~k−1(Sm−1)H_k(\mathbb R^m,\mathbb R^m\setminus\{0\}) \cong\widetilde H_{k-1}(\mathbb R^m\setminus\{0\}) \cong\widetilde H_{k-1}(S^{m-1})

となる。§E18.16 定理 2.1から右辺はk=mk=mのときだけZ\mathbb Zであり、それ以外は零である。零次では、非空な部分空間の零次ホモロジーから連結なRm\mathbb R^mの零次ホモロジーへの写像が全射なので、相対零次ホモロジーは零である。▨

定理 3.2.m,nm,nを正の整数とする。空でない開集合U⊂RmU\subset\mathbb R^mとV⊂RnV\subset\mathbb R^nが同相ならばm=nm=nである。

証明. 同相写像h:U→Vh:U\to Vが存在するとし、x∈Ux\in U、y:=h(x)y:=h(x)と置く。同相写像は対の同相

(U,U∖{x})⟶(V,V∖{y})(U,U\setminus\{x\})\longrightarrow(V,V\setminus\{y\})

を与えるため、すべてのkkについて

Hk(U,U∖{x})≅Hk(V,V∖{y})H_k(U,U\setminus\{x\})\cong H_k(V,V\setminus\{y\})

である。

UUは開いているので、xxを中心とし閉包がUUに含まれる開球を取ることができる。§E18.15 定理 1.1によって、UUにおけるxxの局所ホモロジーはRm\mathbb R^mにおけるxxの局所ホモロジーと同型である。同様に、VVにおけるyyの局所ホモロジーはRn\mathbb R^nにおけるyyの局所ホモロジーと同型である。したがって命題 3.1から

Hk(U,U∖{x})≅{Zk=m,0k≠m,Hk(V,V∖{y})≅{Zk=n,0k≠n.H_k(U,U\setminus\{x\})\cong \begin{cases}\mathbb Z&k=m,\\0&k\neq m, \end{cases} \qquad H_k(V,V\setminus\{y\})\cong \begin{cases}\mathbb Z&k=n,\\0&k\neq n. \end{cases}

となる。二つの次数別群が同型であるため、非零になる唯一の次数が一致し、m=nm=nを得る。▨

注意 3.3 (次元不変性の範囲).定理 3.2は、次元の異なる Euclid 空間の空でない開集合が同相でないことを述べる。連続単射が開写像になるという領域不変性、および球面が Euclid 空間を分離するという Jordan–Brouwer の分離定理は証明していない。

4 偶数次元球面上のベクトル場

Sn⊂Rn+1S^n\subset\mathbb R^{n+1}の点xxにおける接ベクトルを、xxと直交するベクトルとして表す。

定理 4.1.n≥2n\geq2を偶数とする。すべてのx∈Snx\in S^nで

v(x)⊥x,v(x)≠0v(x)\perp x,\qquad v(x)\neq0

を満たす連続写像v:Sn→Rn+1v:S^n\to\mathbb R^{n+1}は存在しない。

証明. そのようなvvが存在すると仮定し、

w(x):=v(x)∥v(x)∥w(x):=\frac{v(x)}{\lVert v(x)\rVert}

と置く。wwは連続であり、∥w(x)∥=1\lVert w(x)\rVert=1およびw(x)⊥xw(x)\perp xを満たす。写像

H:Sn×[0,1]⟶Sn,H(x,t)=cos⁡(πt)x+sin⁡(πt)w(x)H:S^n\times[0,1]\longrightarrow S^n, \qquad H(x,t)=\cos(\pi t)x+\sin(\pi t)w(x)

を考える。直交性から

∥H(x,t)∥2=cos⁡2(πt)∥x∥2+sin⁡2(πt)∥w(x)∥2=1\lVert H(x,t)\rVert^2 =\cos^2(\pi t)\lVert x\rVert^2 +\sin^2(\pi t)\lVert w(x)\rVert^2 =1

であるため、HHの値は常にSnS^nに属する。またH(x,0)=xH(x,0)=x、H(x,1)=−xH(x,1)=-xなので、HHは恒等写像と対蹠写像aaの間のホモトピーである。

§E18.17 命題 1.2のホモトピー不変性から

1=deg⁡(id⁡Sn)=deg⁡a1=\deg(\operatorname{id}_{S^n})=\deg a

となる。しかし§E18.17 定理 2.2とnnの偶数性からdeg⁡a=(−1)n+1=−1\deg a=(-1)^{n+1}=-1である。これは矛盾である。ゆえに至る所で非零となる連続接ベクトル場は存在しない。▨

例 4.2 (奇数次元との対比).S1⊂R2S^1\subset\mathbb R^2では

v(x1,x2)=(−x2,x1)v(x_1,x_2)=(-x_2,x_1)

が連続で至る所非零の接ベクトル場を与える。実際、⟨(x1,x2),v(x1,x2)⟩=0\langle(x_1,x_2),v(x_1,x_2)\rangle=0であり、∥v(x1,x2)∥=1\lVert v(x_1,x_2)\rVert=1である。この例は、偶数次元という仮定を外した主張が成り立たないことを示す。

5 演習

問題 5.1.

  1. 無レトラクション定理の証明で、被約ホモロジーを用いるとn=1n=1も同じ議論に含まれる理由を説明せよ。
  2. Brouwer の不動点定理の証明で、x∈Sn−1x\in S^{n-1}ならλ(x)=0\lambda(x)=0となることを式から確かめよ。
  3. U⊂R3U\subset\mathbb R^3とV⊂R5V\subset\mathbb R^5を空でない開集合とする。局所ホモロジーのどの次数を比較すれば、UUとVVが同相でないと分かるか。
  4. 非零接ベクトル場から恒等写像と対蹠写像の間のホモトピーが得られる理由を、ノルムの計算を含めて再構成せよ。
解答 (解答).

第一問ではS0S^0が二点からなるためH~0(S0)≅Z\widetilde H_0(S^0)\cong\mathbb Zである一方、区間D1D^1は可縮なのでH~0(D1)=0\widetilde H_0(D^1)=0である。したがってn=1n=1でも恒等準同型が零群を経由するという矛盾が生じる。第二問では∥x∥=1\lVert x\rVert=1かつ⟨x,v(x)⟩=1−⟨x,f(x)⟩≥0\langle x,v(x)\rangle=1-\langle x,f(x)\rangle\geq0なので、平方根は⟨x,v(x)⟩\langle x,v(x)\rangleに等しく、分子が零になる。第三問では第3局所ホモロジーを比較すればよい。UU側ではZ\mathbb Zであるが、VV側では零である。第四問ではxxと正規化したベクトル場w(x)w(x)が直交するため、cos⁡(πt)x+sin⁡(πt)w(x)\cos(\pi t)x+\sin(\pi t)w(x)のノルムの二乗はcos⁡2(πt)+sin⁡2(πt)=1\cos^2(\pi t)+\sin^2(\pi t)=1である。端点t=0,1t=0,1ではそれぞれx,−xx,-xとなる。▨

参考文献

  1. Allen Hatcher, Algebraic Topology, Cambridge University Press, 2002.無レトラクション定理、Brouwer の不動点定理、局所ホモロジーによる次元不変性および対蹠写像の次数の応用を参考にした。

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