1 巻き数
基点を1=p(0)とする。1におけるループαの、0を始点とする一意な持ち上げをαとする。p(α(1))=1であり、p−1(1)=Zであるから、α(1)は整数である。
定義 1.1. 写像
wind:π1(S1,1)⟶Z,wind([α])=α(1)を巻き数写像 (winding number homomorphism) という。
定理 1.2.αとβが端点を固定してホモトピックなら、
wind([α])=wind([β])である。
証明.H:α≃βを端点固定ホモトピーとする。下辺の持ち上げとしてαを指定し、§E18.5 補題 3.1によってHをH:[0,1]2→Rへ持ち上げる。端点固定性の遺伝により、t↦H(0,t)とt↦H(1,t)は定値である。左辺の値は0であるから、上辺H(−,1)は0を始点とするβの持ち上げであり、一意性からβに等しい。右辺が定値であることから
α(1)=H(1,0)=H(1,1)=β(1)を得る。▨
定理 1.3. 道の積を左から先にたどる規約のもとで、
wind([α][β])=wind([α])+wind([β])である。
証明.m=α(1)とする。p(t+m)=p(t)であるから、s↦m+β(s)は、mを始点とするβの持ち上げである。したがって、
α∗β(s)={α(2s),m+β(2s−1),0≤s≤1/2,1/2≤s≤1は0を始点とするα∗βの持ち上げである。その終点はm+β(1)である。▨
定理 1.4. 巻き数写像wind:π1(S1,1)→Zは群の同型である。
証明. 全射性を示す。任意の整数nに対し、αn(s)=e2πinsとおく。αn(s)=nsは0を始点とする持ち上げであるから、wind([αn])=nである。
単射性を示す。wind([α])=0なら、持ち上げαは0を始点と終点とするR内のループである。実数直線は凸であるから、
K(s,t)=(1−t)α(s)はαから定値ループへの端点固定ホモトピーである。p∘Kはαから定値ループへの端点固定ホモトピーであるから、[α]=1である。したがって核は自明である。定理 1.3と合わせて、巻き数写像は同型である。▨
系 1.5.
π1(S1,1)≅Z.正の向きに一周するループα1の類が生成元に対応する。
たとえばαn(s)=e2πinsの巻き数はnである。積αm∗αnの巻き数はm+nであり、逆道αˉnの巻き数は−nである。この計算は道の積と整数の加法が対応することを具体的に示す。
2 円板から円周へのレトラクション
定理 2.1. 包含写像i:S1↪D2に対してr∘i=idS1を満たす連続写像r:D2→S1は存在しない。
証明. そのようなrが存在すると仮定する。関手性から
r#∘i#=(r∘i)#=(idS1)#=idπ1(S1,1)となる。一方、D2は可縮であるからπ1(D2,1)=0であり、i#:Z→0は零準同型である。したがってr#∘i#も零準同型であり、Zの恒等準同型にはなりえない。矛盾である。▨
必要なのはレトラクションの非存在である。変位レトラクトが存在しないという事実だけでは、任意のレトラクションまで排除したことにならないため、次の不動点定理の証明には不足する。
系 2.2.S1はD2とホモトピー同値でない。
証明. ホモトピー同値なら基本群は同型になるが、系 1.5によりπ1(S1)≅Zであり、D2の基本群は自明である。▨
3 二次元 Brouwer 不動点定理
定理 3.1 (二次元 Brouwer 不動点定理). 任意の連続写像f:D2→D2は不動点をもつ。
証明.fが不動点をもたないと仮定する。v(x)=x−f(x)とおくと、すべてのx∈D2でv(x)=0である。xからv(x)の向きへ進んで初めて円周に達する点を
r(x)=x+λ(x)v(x)と定める。条件∥r(x)∥=1は
∥v(x)∥2λ2+2⟨x,v(x)⟩λ+∥x∥2−1=0である。この方程式の一意な非負根は
λ(x)=∥v(x)∥2−⟨x,v(x)⟩+⟨x,v(x)⟩2+∥v(x)∥2(1−∥x∥2)である。v(x)=0であるから分母は正であり、右辺はxの連続関数である。したがってr:D2→S1は連続である。
x∈S1ならλ=0が上の方程式の非負根である。また、⟨x,x−f(x)⟩=1−⟨x,f(x)⟩>0であるから、もう一つの根は負である。よってλ(x)=0、すなわちr(x)=xである。したがってrはD2からS1へのレトラクションになるが、これは定理 2.1に反する。ゆえfは不動点をもつ。▨
4 代数学の基本定理
定理 4.1 (代数学の基本定理). 正の次数をもつ複素係数多項式は、複素数の範囲に少なくとも一つの根をもつ。
証明. 最高次係数で割ることにより、多項式を
P(z)=zn+an−1zn−1+⋯+a0,n≥1としてよい。根をもたないと仮定する。
R>0を十分大きくとれば、∣z∣=R上で
∣an−1zn−1+⋯+a0∣<∣z∣n=Rnとなる。0≤u≤1に対し
Qu(z)=zn+u(an−1zn−1+⋯+a0)とおく。三角不等式から∣z∣=R上でQu(z)=0である。したがって、各uについて基点を1にそろえたループ
F(u,t)=∣Qu(Re2πit)∣Qu(Re2πit)Qu(R)∣Qu(R)∣が定義される。これはt↦e2πintと、ループ
γR(t)=∣P(Re2πit)∣P(Re2πit)P(R)∣P(R)∣を結ぶ基点固定ホモトピーである。よってγRの巻き数はnである。
一方、Pは根をもたないという仮定から、
G(r,t)=∣P(rRe2πit)∣P(rRe2πit)P(rR)∣P(rR)∣(0≤r≤1)が定義される。これはγRと基点1の定値ループを結ぶ基点固定ホモトピーである。定値ループの巻き数は0であるから、巻き数のホモトピー不変性によりn=0となる。これはn≥1に反する。したがってPは根をもつ。▨
5 演習
問題 5.1.
- 巻き数の well-definedness の証明で、ホモトピーの右辺の持ち上げが定値になる理由を述べよ。
- Brouwer 不動点定理の証明で、変位レトラクトの非存在ではなくレトラクションの非存在が必要な理由を述べよ。
- 代数学の基本定理の証明では、同じループγRの巻き数を二通りに計算した。それぞれの値と、それを与えるホモトピーを述べよ。
解答.
- 元のホモトピーが端点を固定するため、右辺は底空間の定値道の持ち上げになる。始点を固定した定値道の持ち上げは一意であり、定値である。
- 不動点がない写像から構成されるのは、境界上で恒等写像になる任意のレトラクションである。そのレトラクションが恒等写像とホモトピックになることまでは導かれないため、変位レトラクトだけを否定しても矛盾しない。
- 最高次項が残りの項を支配する円周上のホモトピーにより巻き数はnになる。根がないという仮定のもとで円周の半径をRから0へ縮めるホモトピーにより、同じ巻き数は定値ループの巻き数0になる。
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