§E18.3基本群

最終更新

基本群は、基点から出て基点へ戻る道を端点固定ホモトピーで分類し、道の連結を積とする群である。本記事では、道の積を「左の道を先に、右の道を後にたどる」と定め、この規約を基点変更まで一貫して用いる。

1 道と端点固定ホモトピー

定義 1.1. 位相空間XXにおける道 (path) とは、連続写像α:[0,1]→X\alpha:[0,1]\to Xである。α(0)\alpha(0)を始点 (initial point)、α(1)\alpha(1)を終点 (terminal point) という。

始点と終点を共有する道α,β\alpha,\betaが端点を固定してホモトピック (homotopic relative to endpoints) であるとは、連続写像H:[0,1]2→XH:[0,1]^2\to Xが存在して、すべてのs,t∈[0,1]s,t\in[0,1]について

H(s,0)=α(s),H(s,1)=β(s),H(0,t)=α(0),H(1,t)=α(1)H(s,0)=\alpha(s),\quad H(s,1)=\beta(s),\quad H(0,t)=\alpha(0),\quad H(1,t)=\alpha(1)

となることをいう。本記事では、この関係もα≃β\alpha\simeq\betaと書く。

命題 1.2. 二点x0,x1∈Xx_0,x_1\in Xを固定する。x0x_0からx1x_1への道の間の端点固定ホモトピーは同値関係である。

証明. 反射律はH(s,t)=α(s)H(s,t)=\alpha(s)、対称律はH′(s,t)=H(s,1−t)H'(s,t)=H(s,1-t)によって得られる。H:α≃βH:\alpha\simeq\betaとK:β≃γK:\beta\simeq\gammaが与えられたとき、t≤1/2t\le1/2ではH(s,2t)H(s,2t)、t≥1/2t\ge1/2ではK(s,2t−1)K(s,2t-1)と定める。二つの式はt=1/2t=1/2でβ(s)\beta(s)に一致するため、貼り合わせ補題から連続な端点固定ホモトピーを得る。したがって推移律も成り立つ。▨

2 道の積と群構造

定義 2.1.α(1)=β(0)\alpha(1)=\beta(0)を満たす二つの道に対し、積 (path concatenation)α∗β\alpha*\betaを

(α∗β)(s)={α(2s),0≤s≤12,β(2s−1),12≤s≤1(\alpha*\beta)(s)= \begin{cases} \alpha(2s),&0\le s\le\frac12,\\ \beta(2s-1),&\frac12\le s\le1 \end{cases}

と定める。したがってα∗β\alpha*\betaは、先にα\alphaをたどり、次にβ\betaをたどる。

命題 2.2.α≃α′\alpha\simeq\alpha'とβ≃β′\beta\simeq\beta'がいずれも端点固定ホモトピーであり、α(1)=β(0)\alpha(1)=\beta(0)であるなら、α∗β≃α′∗β′\alpha*\beta\simeq\alpha'*\beta'である。

証明.H:α≃α′H:\alpha\simeq\alpha'とK:β≃β′K:\beta\simeq\beta'をとる。s≤1/2s\le1/2ではL(s,t)=H(2s,t)L(s,t)=H(2s,t)、s≥1/2s\ge1/2ではL(s,t)=K(2s−1,t)L(s,t)=K(2s-1,t)と定める。H(1,t)=α(1)=β(0)=K(0,t)H(1,t)=\alpha(1)=\beta(0)=K(0,t)であるから、貼り合わせ補題によりLLは連続である。LLはα∗β\alpha*\betaからα′∗β′\alpha'*\beta'への端点固定ホモトピーである。▨

定義 2.3. 基点x0∈Xx_0\in Xを固定する。x0x_0を始点と終点とする道をx0x_0におけるループ (loop) という。ループの端点固定ホモトピー類全体をπ1(X,x0)\pi_1(X,x_0)と書き、

[α][β]=[α∗β][\alpha][\beta]=[\alpha*\beta]

によって積を定める。

結合律と単位元律では、道をたどる速度だけを変更する。

補題 2.4. 連続写像φ:[0,1]→[0,1]\varphi:[0,1]\to[0,1]がφ(0)=0\varphi(0)=0とφ(1)=1\varphi(1)=1を満たすなら、任意の道α\alphaに対してα∘φ≃α\alpha\circ\varphi\simeq\alphaである。

証明.

H(s,t)=α((1−t)φ(s)+ts)H(s,t)=\alpha((1-t)\varphi(s)+ts)

と定める。[0,1][0,1]の凸性から括弧内は[0,1][0,1]に属し、HHは連続である。t=0,1t=0,1でそれぞれα∘φ\alpha\circ\varphiとα\alphaになり、s=0,1s=0,1では端点が固定される。▨

定理 2.5.α\alphaをx0x_0からx1x_1への道とし、exe_xを点xxにおける定値道とする。このとき

ex0∗α≃α,α∗ex1≃αe_{x_0}*\alpha\simeq\alpha, \qquad \alpha*e_{x_1}\simeq\alpha

である。

証明.ex0∗αe_{x_0}*\alphaとα∗ex1\alpha*e_{x_1}は、それぞれ

φ0(s)={0,s≤1/2,2s−1,s≥1/2,φ1(s)={2s,s≤1/2,1,s≥1/2\varphi_0(s)= \begin{cases}0,&s\le1/2,\\2s-1,&s\ge1/2, \end{cases} \qquad \varphi_1(s)= \begin{cases}2s,&s\le1/2,\\1,&s\ge1/2 \end{cases}

に対するα∘φ0\alpha\circ\varphi_0とα∘φ1\alpha\circ\varphi_1である。補題 2.4を適用すれば結論を得る。▨

定理 2.6. 連結可能な三つの道α,β,γ\alpha,\beta,\gammaに対し、

(α∗β)∗γ≃α∗(β∗γ)(\alpha*\beta)*\gamma\simeq\alpha*(\beta*\gamma)

である。

証明. 写像

φ(s)={2s,0≤s≤1/4,s+1/4,1/4≤s≤1/2,(s+1)/2,1/2≤s≤1\varphi(s)= \begin{cases} 2s,&0\le s\le1/4,\\ s+1/4,&1/4\le s\le1/2,\\ (s+1)/2,&1/2\le s\le1 \end{cases}

は連続で、φ(0)=0\varphi(0)=0、φ(1)=1\varphi(1)=1を満たす。各区間で定義を書き下すと、

(α∗β)∗γ=(α∗(β∗γ))∘φ(\alpha*\beta)*\gamma=(\alpha*(\beta*\gamma))\circ\varphi

となる。したがって補題 2.4から結論を得る。▨

定理 2.7.αˉ(s)=α(1−s)\bar\alpha(s)=\alpha(1-s)と定める。α\alphaがx0x_0からx1x_1への道なら、

α∗αˉ≃ex0,αˉ∗α≃ex1\alpha*\bar\alpha\simeq e_{x_0}, \qquad \bar\alpha*\alpha\simeq e_{x_1}

である。

証明.α∗αˉ\alpha*\bar\alphaに対して

u(s,t)={2s(1−t),0≤s≤1/2,(2−2s)(1−t),1/2≤s≤1,H(s,t)=α(u(s,t))u(s,t)= \begin{cases} 2s(1-t),&0\le s\le1/2,\\ (2-2s)(1-t),&1/2\le s\le1 \end{cases}, \qquad H(s,t)=\alpha(u(s,t))

と定める。二つの式はs=1/2s=1/2で一致するためHHは連続である。H(−,0)=α∗αˉH(-,0)=\alpha*\bar\alpha、H(−,1)=ex0H(-,1)=e_{x_0}であり、両端はx0x_0に固定される。αˉ∗α\bar\alpha*\alphaについてもαˉ\bar\alphaに同じ構成を適用すればよい。▨

定理 2.8.π1(X,x0)\pi_1(X,x_0)は道の積によって群をなす。単位元は[ex0][e_{x_0}]であり、[α][\alpha]の逆元は[αˉ][\bar\alpha]である。

証明. 積の well-definedness は命題 2.2、結合律は定理 2.6、単位元律は定理 2.5、逆元律は定理 2.7が与える。▨

3 基点変更

命題 3.1.γ\gammaをx0x_0からx1x_1への道とする。写像

βγ:π1(X,x0)⟶π1(X,x1),βγ([α])=[γˉ∗α∗γ]\beta_\gamma:\pi_1(X,x_0)\longrightarrow\pi_1(X,x_1), \qquad \beta_\gamma([\alpha])=[\bar\gamma*\alpha*\gamma]

は群の同型である。

証明. 結合律はホモトピー類上で成り立つため、括弧を省略する。x0x_0におけるループα,α′\alpha,\alpha'に対し、

(γˉ∗α∗γ)∗(γˉ∗α′∗γ)≃γˉ∗α∗(γ∗γˉ)∗α′∗γ≃γˉ∗(α∗α′)∗γ(\bar\gamma*\alpha*\gamma)*(\bar\gamma*\alpha'*\gamma) \simeq \bar\gamma*\alpha*(\gamma*\bar\gamma)*\alpha'*\gamma \simeq \bar\gamma*(\alpha*\alpha')*\gamma

である。したがってβγ\beta_\gammaは準同型である。βγˉ\beta_{\bar\gamma}と合成すると、γ∗γˉ\gamma*\bar\gammaおよびγˉ∗γ\bar\gamma*\gammaを定値道へ置き換えることができるため恒等写像を得る。よってβγ\beta_\gammaは同型である。▨

命題 3.2.x0x_0からx1x_1への道γ,γ′\gamma,\gamma'が端点を固定してホモトピックなら、βγ=βγ′\beta_\gamma=\beta_{\gamma'}である。

証明.γ≃γ′\gamma\simeq\gamma'なら、時間を逆にすることによりγˉ≃γˉ′\bar\gamma\simeq\bar\gamma'である。命題 2.2を二回適用すると、任意のx0x_0におけるループα\alphaについて

γˉ∗α∗γ≃γˉ′∗α∗γ′\bar\gamma*\alpha*\gamma\simeq\bar\gamma'*\alpha*\gamma'

となる。したがって二つの基点変更同型は等しい。▨

系 3.3.XXが弧状連結なら、任意のx0,x1∈Xx_0,x_1\in Xに対してπ1(X,x0)≅π1(X,x1)\pi_1(X,x_0)\cong\pi_1(X,x_1)である。

証明. 弧状連結性によりx0x_0からx1x_1への道が存在するため、命題 3.1を適用することができる。▨

異なる二つの道が与える基点変更同型は一般には一致せず、両者の差は基本群の内部自己同型として現れる。したがって「基点によらない」とは、標準的な同型が選択なしに一意に定まるという意味ではなく、道を選べば同型になるという意味である。

4 積空間の基本群

定理 4.1. 基点付き位相空間(X,x0),(Y,y0)(X,x_0),(Y,y_0)に対し、射影が誘導する写像

Φ:π1(X×Y,(x0,y0))⟶π1(X,x0)×π1(Y,y0),[α]⟼([pX∘α],[pY∘α])\Phi:\pi_1(X\times Y,(x_0,y_0))\longrightarrow \pi_1(X,x_0)\times\pi_1(Y,y_0), \qquad [\alpha]\longmapsto([p_X\circ\alpha],[p_Y\circ\alpha])

は群の同型である。

証明. 端点固定ホモトピーを射影と合成すると端点固定ホモトピーになるため、Φ\Phiは well-defined である。射影は道の積を保つため、Φ\Phiは準同型である。

逆向きの写像を

Ψ([β],[γ])=[t↦(β(t),γ(t))]\Psi([\beta],[\gamma])=[t\mapsto(\beta(t),\gamma(t))]

と定める。積空間の普遍性により、二つの座標写像が連続であることと対の写像が連続であることは同値である。座標ごとの端点固定ホモトピーを対にすれば積空間での端点固定ホモトピーになるため、Ψ\Psiは well-defined である。また、道の積を座標ごとに計算すればΨ\Psiは準同型である。

Φ∘Ψ\Phi\circ\Psiは定義から恒等写像である。任意の道α:[0,1]→X×Y\alpha:[0,1]\to X\times Yは

α(t)=(pX(α(t)),pY(α(t)))\alpha(t)=(p_X(\alpha(t)),p_Y(\alpha(t)))

を満たすため、Ψ∘Φ\Psi\circ\Phiも恒等写像である。▨

5 演習

問題 5.1.

  1. 道の積の規約のもとで、x0x_0からx1x_1への道γ\gammaを用いた基点変更にγˉ∗α∗γ\bar\gamma*\alpha*\gammaが現れる理由を、各道の始点と終点から説明せよ。
  2. γ≃γ′\gamma\simeq\gamma'が端点固定ホモトピーであるとき、基点変更同型が一致する証明で積の well-definednessをどこに用いるかを述べよ。
  3. π1(X×Y)≅π1(X)×π1(Y)\pi_1(X\times Y)\cong\pi_1(X)\times\pi_1(Y)の逆写像を明示し、それがホモトピー類の代表元に依存しない理由を述べよ。
解答.
  1. α\alphaはx0x_0におけるループである。x1x_1から出発するには最初にγˉ\bar\gammaでx0x_0へ移り、次にα\alphaをたどり、最後にγ\gammaでx1x_1へ戻る必要がある。
  2. γˉ≃γˉ′\bar\gamma\simeq\bar\gamma'とγ≃γ′\gamma\simeq\gamma'を、中央の同じ道α\alphaの左右でそれぞれ積へ組み込む箇所で用いる。
  3. ([β],[γ])([\beta],[\gamma])を[t↦(β(t),γ(t))][t\mapsto(\beta(t),\gamma(t))]へ送る。代表元を端点固定ホモトピーで取り替えた場合、二つのホモトピーを座標とする積空間への写像が端点固定ホモトピーを与える。

▨

参考文献

  1. Allen Hatcher, Algebraic Topology, Cambridge University Press, 2002.基本群、基点変更および積空間の基本群の標準的な構成を参考にした。

前提記事