1 道と端点固定ホモトピー
定義 1.1. 位相空間Xにおける道 (path) とは、連続写像α:[0,1]→Xである。α(0)を始点 (initial point)、α(1)を終点 (terminal point) という。
始点と終点を共有する道α,βが端点を固定してホモトピック (homotopic relative to endpoints) であるとは、連続写像H:[0,1]2→Xが存在して、すべてのs,t∈[0,1]について
H(s,0)=α(s),H(s,1)=β(s),H(0,t)=α(0),H(1,t)=α(1)となることをいう。本記事では、この関係もα≃βと書く。
命題 1.2. 二点x0,x1∈Xを固定する。x0からx1への道の間の端点固定ホモトピーは同値関係である。
証明. 反射律はH(s,t)=α(s)、対称律はH′(s,t)=H(s,1−t)によって得られる。H:α≃βとK:β≃γが与えられたとき、t≤1/2ではH(s,2t)、t≥1/2ではK(s,2t−1)と定める。二つの式はt=1/2でβ(s)に一致するため、貼り合わせ補題から連続な端点固定ホモトピーを得る。したがって推移律も成り立つ。▨
2 道の積と群構造
定義 2.1.α(1)=β(0)を満たす二つの道に対し、積 (path concatenation)α∗βを
(α∗β)(s)={α(2s),β(2s−1),0≤s≤21,21≤s≤1と定める。したがってα∗βは、先にαをたどり、次にβをたどる。
命題 2.2.α≃α′とβ≃β′がいずれも端点固定ホモトピーであり、α(1)=β(0)であるなら、α∗β≃α′∗β′である。
証明.H:α≃α′とK:β≃β′をとる。s≤1/2ではL(s,t)=H(2s,t)、s≥1/2ではL(s,t)=K(2s−1,t)と定める。H(1,t)=α(1)=β(0)=K(0,t)であるから、貼り合わせ補題によりLは連続である。Lはα∗βからα′∗β′への端点固定ホモトピーである。▨
定義 2.3. 基点x0∈Xを固定する。x0を始点と終点とする道をx0におけるループ (loop) という。ループの端点固定ホモトピー類全体をπ1(X,x0)と書き、
[α][β]=[α∗β]によって積を定める。
結合律と単位元律では、道をたどる速度だけを変更する。
補題 2.4. 連続写像φ:[0,1]→[0,1]がφ(0)=0とφ(1)=1を満たすなら、任意の道αに対してα∘φ≃αである。
証明.
H(s,t)=α((1−t)φ(s)+ts)と定める。[0,1]の凸性から括弧内は[0,1]に属し、Hは連続である。t=0,1でそれぞれα∘φとαになり、s=0,1では端点が固定される。▨
定理 2.5.αをx0からx1への道とし、exを点xにおける定値道とする。このとき
ex0∗α≃α,α∗ex1≃αである。
証明.ex0∗αとα∗ex1は、それぞれ
φ0(s)={0,2s−1,s≤1/2,s≥1/2,φ1(s)={2s,1,s≤1/2,s≥1/2に対するα∘φ0とα∘φ1である。補題 2.4を適用すれば結論を得る。▨
定理 2.6. 連結可能な三つの道α,β,γに対し、
(α∗β)∗γ≃α∗(β∗γ)である。
証明. 写像
φ(s)=⎩⎨⎧2s,s+1/4,(s+1)/2,0≤s≤1/4,1/4≤s≤1/2,1/2≤s≤1は連続で、φ(0)=0、φ(1)=1を満たす。各区間で定義を書き下すと、
(α∗β)∗γ=(α∗(β∗γ))∘φとなる。したがって補題 2.4から結論を得る。▨
定理 2.7.αˉ(s)=α(1−s)と定める。αがx0からx1への道なら、
α∗αˉ≃ex0,αˉ∗α≃ex1である。
証明.α∗αˉに対して
u(s,t)={2s(1−t),(2−2s)(1−t),0≤s≤1/2,1/2≤s≤1,H(s,t)=α(u(s,t))と定める。二つの式はs=1/2で一致するためHは連続である。H(−,0)=α∗αˉ、H(−,1)=ex0であり、両端はx0に固定される。αˉ∗αについてもαˉに同じ構成を適用すればよい。▨
定理 2.8.π1(X,x0)は道の積によって群をなす。単位元は[ex0]であり、[α]の逆元は[αˉ]である。
3 基点変更
命題 3.1.γをx0からx1への道とする。写像
βγ:π1(X,x0)⟶π1(X,x1),βγ([α])=[γˉ∗α∗γ]は群の同型である。
証明. 結合律はホモトピー類上で成り立つため、括弧を省略する。x0におけるループα,α′に対し、
(γˉ∗α∗γ)∗(γˉ∗α′∗γ)≃γˉ∗α∗(γ∗γˉ)∗α′∗γ≃γˉ∗(α∗α′)∗γである。したがってβγは準同型である。βγˉと合成すると、γ∗γˉおよびγˉ∗γを定値道へ置き換えることができるため恒等写像を得る。よってβγは同型である。▨
命題 3.2.x0からx1への道γ,γ′が端点を固定してホモトピックなら、βγ=βγ′である。
証明.γ≃γ′なら、時間を逆にすることによりγˉ≃γˉ′である。命題 2.2を二回適用すると、任意のx0におけるループαについて
γˉ∗α∗γ≃γˉ′∗α∗γ′となる。したがって二つの基点変更同型は等しい。▨
系 3.3.Xが弧状連結なら、任意のx0,x1∈Xに対してπ1(X,x0)≅π1(X,x1)である。
証明. 弧状連結性によりx0からx1への道が存在するため、命題 3.1を適用することができる。▨
異なる二つの道が与える基点変更同型は一般には一致せず、両者の差は基本群の内部自己同型として現れる。したがって「基点によらない」とは、標準的な同型が選択なしに一意に定まるという意味ではなく、道を選べば同型になるという意味である。
4 積空間の基本群
定理 4.1. 基点付き位相空間(X,x0),(Y,y0)に対し、射影が誘導する写像
Φ:π1(X×Y,(x0,y0))⟶π1(X,x0)×π1(Y,y0),[α]⟼([pX∘α],[pY∘α])は群の同型である。
証明. 端点固定ホモトピーを射影と合成すると端点固定ホモトピーになるため、Φは well-defined である。射影は道の積を保つため、Φは準同型である。
逆向きの写像を
Ψ([β],[γ])=[t↦(β(t),γ(t))]と定める。積空間の普遍性により、二つの座標写像が連続であることと対の写像が連続であることは同値である。座標ごとの端点固定ホモトピーを対にすれば積空間での端点固定ホモトピーになるため、Ψは well-defined である。また、道の積を座標ごとに計算すればΨは準同型である。
Φ∘Ψは定義から恒等写像である。任意の道α:[0,1]→X×Yは
α(t)=(pX(α(t)),pY(α(t)))を満たすため、Ψ∘Φも恒等写像である。▨
5 演習
問題 5.1.
- 道の積の規約のもとで、x0からx1への道γを用いた基点変更にγˉ∗α∗γが現れる理由を、各道の始点と終点から説明せよ。
- γ≃γ′が端点固定ホモトピーであるとき、基点変更同型が一致する証明で積の well-definednessをどこに用いるかを述べよ。
- π1(X×Y)≅π1(X)×π1(Y)の逆写像を明示し、それがホモトピー類の代表元に依存しない理由を述べよ。
解答.
- αはx0におけるループである。x1から出発するには最初にγˉでx0へ移り、次にαをたどり、最後にγでx1へ戻る必要がある。
- γˉ≃γˉ′とγ≃γ′を、中央の同じ道αの左右でそれぞれ積へ組み込む箇所で用いる。
- ([β],[γ])を[t↦(β(t),γ(t))]へ送る。代表元を端点固定ホモトピーで取り替えた場合、二つのホモトピーを座標とする積空間への写像が端点固定ホモトピーを与える。
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