§E18.10Δ複体と単体的ホモロジー

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多角形を一つの二胞体として接着する CW 分解と、多角形を三角形へ分けてから貼り合わせる Δ 複体構造は、同じ空間を表す別の分解である。本記事では後者を用いる。円環面を例に取ると、一頂点・二辺・一二胞体の分解は CW 分解であり、一頂点・三辺・二三角形の分解が本記事で用いる Δ 複体構造である。

1 Δ複体と境界作用素

定義 1.1. 位相空間XXの Δ 複体構造 (Delta complex structure) とは、各n≥0n\geq 0に対する標準単体からの写像

σα:Δn⟶X\sigma_\alpha:\Delta^n\longrightarrow X

の族で、次の条件を満たすものをいう。

  1. 各σα\sigma_\alphaはΔ˚n\mathring\Delta^n上で単射であり、開単体σα(Δ˚n)\sigma_\alpha(\mathring\Delta^n)は互いに交わらず、その和集合がXXである。
  2. σα\sigma_\alphaを任意の面へ制限すると、頂点順序を保つ標準的な同一視を通じて、族に属する一つの写像σβ\sigma_\betaになる。
  3. 部分集合U⊂XU\subset Xが開であることと、すべてのα\alphaについてσα−1(U)\sigma_\alpha^{-1}(U)がΔn\Delta^nで開であることが同値である。

CnΔ(X)C_n^\Delta(X)をXXのnn次元開単体を基底とする自由アーベル群とする。頂点順序を[v0,…,vn][v_0,\ldots,v_n]で表し、面の向きを誘導された順序で定めるとき、境界作用素を

∂n[v0,…,vn]=∑i=0n(−1)i[v0,…,v^i,…,vn]\partial_n[v_0,\ldots,v_n] =\sum_{i=0}^n(-1)^i[v_0,\ldots,\widehat v_i,\ldots,v_n]

で定める。貼り合わせによって同じ面になる項は、同じ基底元として符号を付けてまとめる。

注意 1.2 (Δ複体と CW 分解の違い). Δ 複体の一つの二単体には三つの一次元面しかない。したがって、境界語がaba−1b−1aba^{-1}b^{-1}である一つの二胞体を、そのまま一つの二単体とみなすことはできない。正方形へ対角線を一本加え、二つの三角形に分けてから辺を貼り合わせる必要がある。

定理 1.3. 任意の Δ 複体XXと任意のn≥2n\geq2について

∂n−1∂n=0\partial_{n-1}\partial_n=0

が成り立つ。

証明では、二つの頂点を除く順序だけが異なる二項を対応させる。

証明.[v0,…,vn][v_0,\ldots,v_n]を一つの向きづけられたnn単体とする。i<ji<jを満たす二頂点vi,vjv_i,v_jを除いた面は、先にviv_iを除いてから、添字が一つ下がったvjv_jを除く項と、先にvjv_jを除いてからviv_iを除く項の二回現れる。前者の符号は

(−1)i(−1)j−1=(−1)i+j−1(-1)^i(-1)^{j-1}=(-1)^{i+j-1}

であり、後者の符号は

(−1)j(−1)i=(−1)i+j(-1)^j(-1)^i=(-1)^{i+j}

である。二つの係数の和は零である。すべての二頂点の組について同じ相殺が起こるため、∂n−1∂n[v0,…,vn]=0\partial_{n-1}\partial_n[v_0,\ldots,v_n]=0である。線形性により鎖群全体でも結論が成り立つ。▨

定義 1.4.定理 1.3によりim⁡∂n+1⊂ker⁡∂n\operatorname{im}\partial_{n+1}\subset\ker\partial_nである。商群

HnΔ(X):=ker⁡∂n/im⁡∂n+1H_n^\Delta(X):=\ker\partial_n/\operatorname{im}\partial_{n+1}

をXXの第nn単体的ホモロジー群 (simplicial homology group) という。

2 円環面

正方形の向かい合う辺を同じ向きに貼り、対角線を一本加える。商では頂点は一つになり、二つの辺a,ba,bと対角線cc、二つの二単体U,LU,Lが残る。向きを選ぶと

∂2U=c−a−b,∂2L=a+b−c,∂1a=∂1b=∂1c=0\partial_2U=c-a-b,\qquad \partial_2L=a+b-c, \qquad \partial_1a=\partial_1b=\partial_1c=0

となる。

命題 2.1. 円環面T2T^2について

H0Δ(T2)≅Z,H1Δ(T2)≅Z2,H2Δ(T2)≅ZH_0^\Delta(T^2)\cong\mathbb Z,\qquad H_1^\Delta(T^2)\cong\mathbb Z^2,\qquad H_2^\Delta(T^2)\cong\mathbb Z

であり、それ以外の次数では零である。

証明. 基底を(a,b,c)(a,b,c)と(U,L)(U,L)の順に取ると、∂2\partial_2の行列は

(−11−111−1)\begin{pmatrix} -1&1\\ -1&1\\ 1&-1 \end{pmatrix}

であり、階数は一である。核はU+LU+Lが生成するためH2Δ(T2)≅ZH_2^\Delta(T^2)\cong\mathbb Zである。∂1=0\partial_1=0なので

H1Δ(T2)=Z⟨a,b,c⟩/⟨c−a−b⟩≅Z⟨a,b⟩H_1^\Delta(T^2) =\mathbb Z\langle a,b,c\rangle/\langle c-a-b\rangle \cong\mathbb Z\langle a,b\rangle

となる。頂点が一つなのでH0Δ(T2)≅ZH_0^\Delta(T^2)\cong\mathbb Zである。▨

3 Klein の壺

Klein の壺では、正方形の一組の向かい合う辺を同じ向きに、もう一組を反対向きに貼る。対角線を加えた Δ 複体は一頂点、三辺a,b,ca,b,c、二つの二単体U,LU,Lをもち、向きを

∂2U=c−a−b,∂2L=c−a+b\partial_2U=c-a-b,\qquad \partial_2L=c-a+b

となるように選ぶことができる。すべての辺は同じ頂点を始点と終点にもつので∂1=0\partial_1=0である。

命題 3.1. Klein の壺KKについて

H0Δ(K)≅Z,H1Δ(K)≅Z⊕Z/2Z,H2Δ(K)=0H_0^\Delta(K)\cong\mathbb Z,\qquad H_1^\Delta(K)\cong\mathbb Z\oplus\mathbb Z/2\mathbb Z,\qquad H_2^\Delta(K)=0

である。

証明.∂2U=0\partial_2U=0と∂2L=0\partial_2L=0を同時に満たす二鎖xU+yLxU+yLを考える。bbの係数から−x+y=0-x+y=0、ccの係数からx+y=0x+y=0を得るのでx=y=0x=y=0である。したがってH2Δ(K)=0H_2^\Delta(K)=0である。一次ホモロジーでは二つの関係

c=a+b,c=a−bc=a+b,\qquad c=a-b

が課される。第一の関係でccを消去すると第二の関係は2b=02b=0となるため

H1Δ(K)≅Z⟨a⟩⊕(Z/2Z)⟨b⟩H_1^\Delta(K)\cong \mathbb Z\langle a\rangle\oplus(\mathbb Z/2\mathbb Z)\langle b\rangle

である。H0Δ(K)H_0^\Delta(K)は一頂点からZ\mathbb Zになる。▨

4 実射影平面

円板の境界上の対蹠点を同一視する表示を、二つの三角形へ分ける。得られる Δ 複体には二頂点v0,v1v_0,v_1、三辺a,b,ca,b,c、二つの二単体U,LU,Lがある。a,ba,bをv0v_0からv1v_1へ向け、ccをループとして向きづけると

∂1a=∂1b=v1−v0,∂1c=0,\partial_1a=\partial_1b=v_1-v_0,\qquad \partial_1c=0, ∂2U=a−b+c,∂2L=a−b−c\partial_2U=a-b+c,\qquad \partial_2L=a-b-c

となる。二つの境界がker⁡∂1\ker\partial_1に属することは直接確かめることができる。

命題 4.1. 実射影平面について

H0Δ(RP2)≅Z,H1Δ(RP2)≅Z/2Z,H2Δ(RP2)=0H_0^\Delta(\mathbb{RP}^2)\cong\mathbb Z,\qquad H_1^\Delta(\mathbb{RP}^2)\cong\mathbb Z/2\mathbb Z,\qquad H_2^\Delta(\mathbb{RP}^2)=0

である。

証明.im⁡∂1\operatorname{im}\partial_1はv1−v0v_1-v_0が生成するのでH0Δ≅ZH_0^\Delta\cong\mathbb Zである。ker⁡∂1\ker\partial_1は

p:=a−b,q:=cp:=a-b,\qquad q:=c

を基底とする自由アーベル群である。この基底で

∂2U=p+q,∂2L=p−q\partial_2U=p+q,\qquad \partial_2L=p-q

となる。二つの列は一次独立なのでH2Δ=0H_2^\Delta=0である。また、商ではp=−qp=-qとp=qp=qが同時に成り立つため2q=02q=0であり、

H1Δ(RP2)=Z⟨p,q⟩/⟨p+q,p−q⟩≅Z/2ZH_1^\Delta(\mathbb{RP}^2) =\mathbb Z\langle p,q\rangle/\langle p+q,p-q\rangle \cong\mathbb Z/2\mathbb Z

を得る。▨

三例の計算は、貼り合わせの向きを境界行列の符号へ変換する手順を示している。単体的集合では退化単体も構造に含めるが、本記事の Δ 複体には退化作用素を導入していない。

5 演習

問題 5.1.

  1. 円環面の二単体の向きを一方だけ反転した場合に、境界行列とホモロジー群がどのように変わるかを求めよ。
  2. 実射影平面の計算で、∂2\partial_2の像がker⁡∂1\ker\partial_1の指数二の部分群であることを、行列式によって確認せよ。

解答。 第一問では、対応する列全体の符号が反転する。核と像は変わらないため、ホモロジー群は変わらない。第二問では、ker⁡∂1\ker\partial_1の基底(p,q)(p,q)に関する∂2\partial_2の行列は

(111−1)\begin{pmatrix}1&1\\1&-1\end{pmatrix}

である。その行列式の絶対値は二なので、像の指数は二である。

参考文献

  1. Allen Hatcher, Algebraic Topology, Cambridge University Press, 2002.Δ複体の定義、境界作用素および曲面の標準的な Δ複体構造を参考にした。

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