§E8.3超越基底と超越次数

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体拡大に含まれる元がすべて代数的であるとき、その拡大は各元の多項式関係によって記述される。超越的な元が現れると、どの元を独立な変数として選び、選び方に依存しない量をどのように取り出すかが新たな問題になる。代数的独立性から超越基底を定めることで、拡大を純超越部分とその上の代数拡大に分け、超越次数によって純超越部分の大きさを測ることができる。本記事では、超越基底の存在と濃度の一意性を示し、塔での加法性と有理関数体・有限生成拡大における意味を検討する。

1 代数的独立性と純超越拡大

無限個の変数をもつ多項式も、各多項式が実際に用いる変数は有限個である。

定義 1.1. 体の包含K⊆LK\subseteq Lと部分集合S⊆LS\subseteq Lを考える。各s∈Ss\in Sに変数XsX_sを対応させた評価準同型

ev⁡S ⁣:K[Xs∣s∈S]⟶L,Xs⟼s\operatorname{ev}_S\colon K[X_s\mid s\in S]\longrightarrow L, \qquad X_s\longmapsto s

が単射であるとき、SSはKK上代数的に独立 (algebraically independent) であるという。評価準同型が単射でないとき、SSはKK上代数的に従属 (algebraically dependent) であるという。

同値な形で述べると、SSがKK上代数的に独立であるための必要十分条件は、任意の相異なるs1,…,sn∈Ss_1,\ldots,s_n\in Sと任意の非零多項式P∈K[X1,…,Xn]P\in K[X_1,\ldots,X_n]に対して

P(s1,…,sn)≠0P(s_1,\ldots,s_n)\ne0

となることである。

定義 1.2. 体の包含K⊆LK\subseteq Lに対し、KK上代数的に独立な部分集合S⊆LS\subseteq Lが存在してL=K(S)L=K(S)となるとき、L/KL/Kを純超越拡大 (purely transcendental extension) と呼ぶ。

SSがKK上代数的に独立であるとき、評価準同型は分数体の同型

K(Xs∣s∈S)→ ∼ K(S)K(X_s\mid s\in S)\xrightarrow{\ \sim\ }K(S)

を誘導する。ここでA=K[Xs∣s∈S]A=K[X_s\mid s\in S]とおき、評価準同型をj=ev⁡S ⁣:A→Lj=\operatorname{ev}_S\colon A\to Lと書く。代数的独立性によりjjは単射であり、体LLへの単射が存在するためAAは整域である。分数体の最小性§E6.6 命題 3.3を適用すると、jjはFrac⁡(A)\operatorname{Frac}(A)からLLへの単射に延長され、その像はj(A)=K[S]j(A)=K[S]を含むLLの最小の部分体になる。K(S)K(S)の定義により、その部分体はK(S)K(S)であるから、この延長が表示した同型を与える。左辺は、有限個の変数だけを用いる多項式の比からなる有理関数体である。

例えば、不定元t1,…,tnt_1,\ldots,t_nはKK上代数的に独立であり、K(t1,…,tn)/KK(t_1,\ldots,t_n)/Kは純超越拡大である。一方、集合{t,t2}\{t,t^2\}はX2−X12X_2-X_1^2という非零多項式関係を満たすため、KK上代数的に従属である。

超越基底は、純超越部分を最大まで選んだものである。

定義 1.3. 体の包含K⊆LK\subseteq Lを考える。部分集合B⊆LB\subseteq Lが次の二条件を満たすとき、BBをL/KL/Kの超越基底 (transcendence basis) と呼ぶ。

  1. BBはKK上代数的に独立である。
  2. L/K(B)L/K(B)は代数拡大である。

超越基底の濃度が一意であることを後で証明する。その一意な濃度をL/KL/Kの超越次数 (transcendence degree) と呼び、

trdeg⁡KL\operatorname{trdeg}_K L

と書く。

代数的独立集合へ元を一つ添加できるかどうかは、その元のK(B)K(B)上の代数性によって判定する。

補題 1.4. 体の包含K⊆LK\subseteq L、KK上代数的に独立な部分集合S⊆LS\subseteq L、および元α∈L∖S\alpha\in L\setminus Sを考える。S∪{α}S\cup\{\alpha\}がKK上代数的に独立であることと、α\alphaがK(S)K(S)上超越的であることは同値である。

証明.α\alphaがK(S)K(S)上代数的であると仮定する。K(S)K(S)係数の非零多項式関係の分母を払うと、有限個のs1,…,sr∈Ss_1,\ldots,s_r\in Sと非零多項式

P∈K[X1,…,Xr,T]P\in K[X_1,\ldots,X_r,T]

が存在してP(s1,…,sr,α)=0P(s_1,\ldots,s_r,\alpha)=0となる。SSの代数的独立性により、分母を払った後の係数はすべて同時には零にならない。したがってS∪{α}S\cup\{\alpha\}は代数的に従属である。

逆に、S∪{α}S\cup\{\alpha\}が代数的に従属であると仮定する。α∉S\alpha\notin Sであるから、α\alphaに対応する変数をSSの元に対応する変数とは異なるTTとして扱うことができる。したがって、有限個のs1,…,sr∈Ss_1,\ldots,s_r\in Sと非零多項式P∈K[X1,…,Xr,T]P\in K[X_1,\ldots,X_r,T]が存在して

P(s1,…,sr,α)=0P(s_1,\ldots,s_r,\alpha)=0

となる。PPをTTの多項式とみる。SSはKK上代数的に独立であるから、P(s1,…,sr,T)P(s_1,\ldots,s_r,T)はK(S)[T]K(S)[T]の非零多項式である。さらに、この多項式のTT次数が零ならば、その非零定数項がs1,…,srs_1,\ldots,s_rの非自明な多項式関係を与えるため、SSの代数的独立性に反する。したがって、この多項式のTT次数は正であり、α\alphaはK(S)K(S)上代数的である。▨

この判定から、代数的独立集合が極大であることと超越基底であることが一致する。

系 1.5. 体の包含K⊆LK\subseteq Lと、KK上代数的に独立な部分集合B⊆LB\subseteq Lを考える。BBが包含関係について極大なKK上代数的独立集合であることと、BBがL/KL/Kの超越基底であることは同値である。

証明.BBが極大であると仮定する。α∈B\alpha\in Bならばα∈K(B)\alpha\in K(B)であるから、α\alphaはK(B)K(B)上代数的である。α∈L∖B\alpha\in L\setminus Bならば、極大性によりB∪{α}B\cup\{\alpha\}は代数的に従属であり、補題 1.4によりα\alphaはK(B)K(B)上代数的である。したがってL/K(B)L/K(B)は代数拡大であり、BBは超越基底である。

逆に、BBが超越基底であると仮定する。任意のα∈L∖B\alpha\in L\setminus BはK(B)K(B)上代数的であるから、補題 1.4によりB∪{α}B\cup\{\alpha\}は代数的に従属である。したがって、BBを真に含むKK上代数的に独立な部分集合は存在せず、BBは極大である。▨

2 超越基底の存在

任意の代数的独立集合を含む超越基底が存在する。

定理 2.1. 体の包含K⊆LK\subseteq Lと、KK上代数的に独立な部分集合S0⊆LS_0\subseteq Lを考える。このとき、S0⊆BS_0\subseteq Bを満たすL/KL/Kの超越基底BBが存在する。

証明.S0S_0を含むKK上代数的に独立なLLの部分集合全体をP\mathcal Pとし、包含関係で順序づける。集合S0S_0はP\mathcal Pの元であるから、P\mathcal Pは空ではない。

C⊆P\mathcal C\subseteq\mathcal Pを鎖とする。C\mathcal Cが空ならば、S0∈PS_0\in\mathcal PがC\mathcal Cの上界である。C\mathcal Cが空でないならば、U=⋃S∈CSU=\bigcup_{S\in\mathcal C}Sとおく。各S∈CS\in\mathcal CはS0S_0を含むため、UUもS0S_0を含む。もしUUが代数的に従属ならば、ある有限個の元u1,…,un∈Uu_1,\ldots,u_n\in Uが非自明な多項式関係を満たす。鎖C\mathcal Cは包含関係について全順序集合であるから、u1,…,unu_1,\ldots,u_nをすべて含むS∈CS\in\mathcal Cが存在する。この多項式関係はSSの代数的独立性に反する。したがってUUは代数的に独立であり、U∈PU\in\mathcal Pは鎖C\mathcal Cの上界である。

Zorn の補題§E1.20 定理 2.1により、P\mathcal Pには極大元BBが存在する。系 1.5によりBBはL/KL/Kの超越基底であり、定義からS0⊆BS_0\subseteq Bである。▨

注意 2.2 (存在証明で用いる選択公理).定理 2.1が任意の体拡大について極大な代数的独立集合を与える箇所で Zorn の補題を用いた。Zorn の補題は選択公理と同値である。有限生成拡大で、有限個の指定された生成元の中から極大な代数的独立部分集合を選ぶだけならば、有限回の選択で足りるため、この Zorn の補題は不要である。

3 交換補題

超越基底の濃度を比較するために、一つの代数的に独立な元を別の元と交換する。

補題 3.1 (有限交換補題). 体の包含K⊆LK\subseteq L、有限なKK上代数的独立集合S⊆LS\subseteq L、および元z∈Lz\in Lを考える。zzがK(S)K(S)上代数的かつKK上超越的であると仮定する。このとき、あるs∈Ss\in Sが存在し、

S′=(S∖{s})∪{z}S'=(S\setminus\{s\})\cup\{z\}

はKK上代数的に独立である。さらに、ssはK(S′)K(S')上代数的であり、K(S,z)/K(S′)K(S,z)/K(S')は代数拡大である。

証明.SSは有限集合であり、zzはK(S)K(S)上代数的である。したがって、zzがK(T)K(T)上代数的になる部分集合T⊆ST\subseteq Sのうち、包含関係について極小なものを選ぶことができる。zzはKK上超越的であるからT≠∅T\ne\emptysetである。s∈Ts\in Tを一つ取り、

F=K(T∖{s})F=K(T\setminus\{s\})

とおく。TTの極小性により、zzはFF上超越的である。

一方、zzはF(s)F(s)上代数的である。TTはKK上代数的に独立なのでssはFF上超越的であり、F(s)F(s)は一変数有理関数体である。zzが満たすF(s)F(s)係数の非零多項式を取り、係数の分母を払うと、非零多項式

P(X,Y)∈F[X,Y]P(X,Y)\in F[X,Y]

でP(s,z)=0P(s,z)=0を満たすものを得る。PPがXXに依存しなければ、P(z)=0P(z)=0はzzがFF上超越的であることに反する。したがってPPのXX次数は正である。また、zzはFF上超越的であるから、P(X,z)P(X,z)はF(z)[X]F(z)[X]の非零多項式である。ゆえにssはF(z)F(z)上代数的である。

集合

T′=(T∖{s})∪{z}T'=(T\setminus\{s\})\cup\{z\}

はKK上代数的に独立である。実際、T∖{s}T\setminus\{s\}はSSの部分集合なのでKK上代数的に独立であり、zzはK(T∖{s})=FK(T\setminus\{s\})=F上超越的である。

U=S∖TU=S\setminus Tとおく。T′∪UT'\cup UがKK上代数的に従属であると仮定し、U={u1,…,um}U=\{u_1,\ldots,u_m\}の順に元を添加するときに初めて従属が生じる元をuju_jとする。このときuju_jは

K(T′,u1,…,uj−1)K(T',u_1,\ldots,u_{j-1})

上代数的であるから、この体を含むK(T,z,u1,…,uj−1)K(T,z,u_1,\ldots,u_{j-1})上でも代数的である。さらにzzはK(T)K(T)上代数的なので、K(T,z,u1,…,uj−1)K(T,z,u_1,\ldots,u_{j-1})はK(T,u1,…,uj−1)K(T,u_1,\ldots,u_{j-1})上代数拡大である。代数性の推移性§E8.2 定理 5.1により、uju_jはK(T,u1,…,uj−1)K(T,u_1,\ldots,u_{j-1})上代数的になる。これはSSの代数的独立性に反する。したがって

S′=T′∪U=(S∖{s})∪{z}S'=T'\cup U=(S\setminus\{s\})\cup\{z\}

はKK上代数的に独立である。

既に示したようにssはF(z)⊆K(S′)F(z)\subseteq K(S')上代数的である。K(S,z)=K(S′)(s)K(S,z)=K(S')(s)であるから、K(S,z)/K(S′)K(S,z)/K(S')は代数拡大である。▨

有限交換補題を繰り返すと、有限な独立集合の要素数を比較することができる。

補題 3.2. 体の包含K⊆LK\subseteq Lと有限なKK上代数的独立集合S,C⊆LS,C\subseteq Lを考える。CCの各元がK(S)K(S)上代数的であると仮定する。このとき

∣C∣≤∣S∣|C|\le |S|

が成り立つ。

証明.∣C∣|C|に関する帰納法を用いる。CCが空ならば主張は成り立つ。CCが空でないと仮定し、c∈Cc\in Cを一つ取る。単集合{c}\{c\}はKK上代数的に独立であるから、ccはKK上超越的である。仮定によりccはK(S)K(S)上代数的である。補題 3.1により、あるs∈Ss\in Sが存在して

S′=(S∖{s})∪{c}S'=(S\setminus\{s\})\cup\{c\}

はKK上代数的に独立であり、K(S,c)/K(S′)K(S,c)/K(S')は代数拡大である。

C∖{c}C\setminus\{c\}はK(c)K(c)上代数的に独立である。実際、K(c)K(c)係数の多項式関係の分母を払えば、CCの元に関するKK係数の非自明な多項式関係が生じる。同じ理由によりS∖{s}S\setminus\{s\}はK(c)K(c)上代数的に独立である。

各d∈C∖{c}d\in C\setminus\{c\}はK(S)K(S)上代数的であり、K(S,c)/K(S′)K(S,c)/K(S')は代数拡大である。代数性の推移性§E8.2 定理 5.1により、ddは

K(S′)=K(c)(S∖{s})K(S')=K(c)(S\setminus\{s\})

上代数的である。基礎体をK(c)K(c)に取り替えて帰納法の仮定を適用すると

∣C∣−1≤∣S∣−1|C|-1\le |S|-1

を得る。したがって∣C∣≤∣S∣|C|\le|S|である。▨

任意濃度の集合を比較するため、有限部分集合ごとの交換結果を一つの単射として整合させる。

補題 3.3 (有限支持族に対する Hall 補題). 集合C,BC,Bと、各c∈Cc\in Cに対応する有限部分集合Sc⊆BS_c\subseteq Bを考える。任意の有限部分集合C0⊆CC_0\subseteq Cに対して

∣⋃c∈C0Sc∣≥∣C0∣\left|\bigcup_{c\in C_0}S_c\right|\ge |C_0|

が成り立つと仮定する。選択公理のもとで、単射φ ⁣:C→B\varphi\colon C\to Bで

φ(c)∈Sc(c∈C)\varphi(c)\in S_c\qquad(c\in C)

を満たすものが存在する。

証明.CCが有限であると仮定し、∣C∣|C|に関する帰納法を用いる。CCが空ならば主張は成り立つ。任意の空でない真部分集合D⊊CD\subsetneq Cについて

∣⋃c∈DSc∣≥∣D∣+1\left|\bigcup_{c\in D}S_c\right|\ge|D|+1

が成り立つ場合、c0∈Cc_0\in Cとb0∈Sc0b_0\in S_{c_0}を選ぶ。任意のH⊆C∖{c0}H\subseteq C\setminus\{c_0\}に対し、H≠∅H\ne\emptysetならば

∣⋃c∈HSc∣≥∣H∣+1\left|\bigcup_{c\in H}S_c\right|\ge |H|+1

である。各ScS_cからb0b_0を除いても和集合の元は高々一つしか減らないため、族{Sc∖{b0}}c∈C∖{c0}\{S_c\setminus\{b_0\}\}_{c\in C\setminus\{c_0\}}は Hall 条件を満たす。帰納法で得られるこの族の単射代表系とc0↦b0c_0\mapsto b_0を合わせると、CCの単射代表系を得る。

任意の空でない真部分集合に対するこの不等式が成り立たない場合、ある空でない真部分集合D⊊CD\subsetneq Cが存在して

∣⋃c∈DSc∣=∣D∣\left|\bigcup_{c\in D}S_c\right|=|D|

となる。帰納法によりDDには単射代表系が存在する。C∖DC\setminus Dに属する各ccについて、ScS_cから⋃d∈DSd\bigcup_{d\in D}S_dを除く。任意のH⊆C∖DH\subseteq C\setminus Dに対し、元の Hall 条件から

∣⋃c∈H∪DSc∣≥∣H∣+∣D∣\left|\bigcup_{c\in H\cup D}S_c\right|\ge |H|+|D|

であり、DD側で除く元は∣D∣|D|個である。したがって残りの族も Hall 条件を満たす。帰納法によりC∖DC\setminus Dにも単射代表系が存在し、二つの代表系の像は互いに交わらない。以上により有限の場合が証明された。

CCを任意の集合とし、その有限部分集合全体をD\mathcal Dと書く。各D∈DD\in\mathcal Dに対して、DD上の単射代表系全体

MD={f ⁣:D⟶B∣f は単射であり、すべての c∈D に対して f(c)∈Sc}\mathcal M_D =\{f\colon D\longrightarrow B\mid f\text{ は単射であり、すべての }c\in D\text{ に対して }f(c)\in S_c\}

を考える。有限の場合の結果により、各MD\mathcal M_Dは空でない。

有限部分集合D0⊆CD_0\subseteq Cに対し、

UD0={D∈D∣D0⊆D}U_{D_0}=\{D\in\mathcal D\mid D_0\subseteq D\}

とおく。

集合XX上のフィルターとは、部分集合族F⊆P(X)\mathcal F\subseteq\mathcal P(X)であって、X∈FX\in\mathcal F、有限交叉について閉じ、A∈FA\in\mathcal FかつA⊆A′⊆XA\subseteq A'\subseteq XならばA′∈FA'\in\mathcal Fとなるものをいう。∅∉F\emptyset\notin\mathcal Fを満たすフィルターを真のフィルターという。集合族B⊆P(X)\mathcal B\subseteq\mathcal P(X)が生成するフィルターは、B\mathcal Bの元の有限交叉を含むXXの部分集合全体からなる。包含関係について極大な真のフィルターをウルトラフィルターという。

集合族{UD0∣D0∈D}\{U_{D_0}\mid D_0\in\mathcal D\}に対して

UD1∩⋯∩UDr=UD1∪⋯∪DrU_{D_1}\cap\cdots\cap U_{D_r}=U_{D_1\cup\cdots\cup D_r}

である。右辺はD1∪⋯∪DrD_1\cup\cdots\cup D_rを元にもつため空集合ではない。したがって、この集合族がD\mathcal D上に生成するフィルターF0\mathcal F_0は真のフィルターである。

F0\mathcal F_0を含むD\mathcal D上の真のフィルター全体を包含関係で順序づける。この半順序集合はF0\mathcal F_0を元にもつため空ではない。鎖{Fi}i∈I\{\mathcal F_i\}_{i\in I}が空ならば、F0\mathcal F_0がその上界である。鎖が空でないならば、

F=⋃i∈IFi\mathcal F=\bigcup_{i\in I}\mathcal F_i

とおく。各Fi\mathcal F_iはD\mathcal Dを含み、空集合を含まない。また、A,B∈FA,B\in\mathcal Fならば、鎖の二元のうち大きいフィルターがAAとBBの両方を含むためA∩B∈FA\cap B\in\mathcal Fである。上方閉性も、AAを含むいずれかのFi\mathcal F_iから従う。したがってF\mathcal FはF0\mathcal F_0を含む真のフィルターであり、鎖の上界である。

Zorn の補題§E1.20 定理 2.1により、F0\mathcal F_0を含む極大な真のフィルターU\mathcal Uが存在する。この極大性から、任意のA⊆DA\subseteq\mathcal Dに対して

A∈UまたはD∖A∈UA\in\mathcal U\qquad\text{または}\qquad\mathcal D\setminus A\in\mathcal U

のいずれかが成り立つ。実際、A∉UA\notin\mathcal Uとする。U\mathcal UとAAが生成するフィルターは極大性により真ではないため、あるV∈UV\in\mathcal Uが存在してV∩A=∅V\cap A=\emptysetとなる。するとV⊆D∖AV\subseteq\mathcal D\setminus Aと上方閉性からD∖A∈U\mathcal D\setminus A\in\mathcal Uである。AAと補集合の両方がU\mathcal Uに属すれば、その交わりである空集合も属するため、両方が属することはない。したがってU\mathcal Uはウルトラフィルターである。

選択公理§E1.20 定理 2.1を用いて、すべてのD∈DD\in\mathcal DについてfD∈MDf_D\in\mathcal M_Dを一つずつ選ぶ。各c∈Cc\in Cとb∈Scb\in S_cに対し、

Ac,b={D∈D∣c∈D, fD(c)=b}A_{c,b}=\{D\in\mathcal D\mid c\in D,\ f_D(c)=b\}

とおく。有限個の集合Ac,bA_{c,b}(b∈Scb\in S_c)はU{c}U_{\{c\}}を分割し、U{c}∈UU_{\{c\}}\in\mathcal Uである。もしどのAc,bA_{c,b}もU\mathcal Uに属さなければ、それぞれの補集合がU\mathcal Uに属し、それらとU{c}U_{\{c\}}の有限交叉である空集合もU\mathcal Uに属してしまう。したがって、少なくとも一つのAc,bA_{c,b}がU\mathcal Uに属する。相異なるb,b′∈Scb,b'\in S_cに対してAc,b∩Ac,b′=∅A_{c,b}\cap A_{c,b'}=\emptysetなので、二つが同時にU\mathcal Uに属することはない。したがって、b∈Scb\in S_cのうちちょうど一つについてAc,b∈UA_{c,b}\in\mathcal Uとなる。その一意な元をφ(c)\varphi(c)と定める。

もし相異なるc,c′∈Cc,c'\in Cがφ(c)=φ(c′)=b\varphi(c)=\varphi(c')=bを満たすならば、

Ac,b∩Ac′,b∈UA_{c,b}\cap A_{c',b}\in\mathcal U

となるため、この交わりは空ではない。しかし交わりに属するDDでは、単射fDf_Dがccとc′c'を同じbbへ写すことになり、fDf_Dの単射性に反する。したがってφ\varphiは単射である。▨

4 超越基底の濃度の一意性

交換補題と Hall 補題を用いて、二つの超越基底の間に単射を構成する。

定理 4.1. 体の包含K⊆LK\subseteq Lに対し、BBとCCがともにL/KL/Kの超越基底であると仮定する。このとき

∣B∣=∣C∣|B|=|C|

である。したがって定義 1.3の超越次数は超越基底の選び方に依存しない。

証明.L/K(B)L/K(B)は代数拡大であるから、各c∈Cc\in CはK(B)K(B)上代数的である。ccを消す一つの多項式関係に現れるBBの元は有限個だけである。したがって、選択公理§E1.20 定理 2.1を用いて、すべてのc∈Cc\in Cに対して有限部分集合Sc⊆BS_c\subseteq Bを一つずつ選び、ccがK(Sc)K(S_c)上代数的になるようにする。

有限部分集合C0⊆CC_0\subseteq Cを任意に取って

S=⋃c∈C0ScS=\bigcup_{c\in C_0}S_c

とおく。C0C_0とSSは有限なKK上代数的独立集合であり、C0C_0の各元はK(S)K(S)上代数的である。補題 3.2により

∣C0∣≤∣S∣|C_0|\le|S|

となる。したがって有限支持族{Sc}c∈C\{S_c\}_{c\in C}は補題 3.3の Hall 条件を満たす。同補題により単射C→BC\to Bが存在する。

BBとCCの役割を交換すると、同じ議論によって単射B→CB\to Cが存在する。Schröder–Bernstein の定理§E1.11 定理 4.2により∣B∣=∣C∣|B|=|C|である。▨

注意 4.2 (濃度比較で用いる選択公理). 任意濃度の超越基底を比較する証明では、各c∈Cc\in Cの有限支持ScS_cを同時に選ぶ箇所と、有限部分集合ごとの代表系を一つの単射へ整合させる補題 3.3の箇所で選択公理を用いた。同補題の証明では、Zorn の補題によってウルトラフィルターを構成した。有限な超越基底だけを比較する場合は補題 3.2で足りるため、ウルトラフィルターを用いる必要はない。

5 体の塔と超越次数

代数拡大へ任意の元を添加しても、代数性は保たれる。

補題 5.1. 体の包含F⊆E⊆LF\subseteq E\subseteq LについてE/FE/Fが代数拡大であると仮定し、部分集合S⊆LS\subseteq Lを取る。このときE(S)/F(S)E(S)/F(S)は代数拡大である。

証明.E(S)E(S)はF(S)F(S)にEEのすべての元を添加して得られる。各e∈Ee\in EはFF上代数的であるから、同じ多項式によってF(S)F(S)上でも代数的である。E(S)E(S)の任意の元は、有限個のe1,…,er∈Ee_1,\ldots,e_r\in Eを用いる体F(S)(e1,…,er)F(S)(e_1,\ldots,e_r)に属する。§E8.2 定理 4.2により、この体はF(S)F(S)上有限次である。さらに、有限拡大の代数性§E8.2 命題 4.1により、この有限次拡大のすべての元、特に先ほど取った任意の元はF(S)F(S)上代数的である。したがってE(S)/F(S)E(S)/F(S)は代数拡大である。▨

中間体の超越基底と上段の超越基底を合わせると、全体の超越基底になる。

定理 5.2 (超越次数の塔の公式). 体の包含K⊆E⊆LK\subseteq E\subseteq Lに対し、

trdeg⁡KL=trdeg⁡KE+trdeg⁡EL\operatorname{trdeg}_K L =\operatorname{trdeg}_K E+\operatorname{trdeg}_E L

が成り立つ。右辺の加法は基数の加法である。

証明.定理 2.1を空集合から適用して、E/KE/Kの超越基底BBとL/EL/Eの超越基底CCを取る。このときB∩C=∅B\cap C=\emptysetである。実際、c∈C∩Bc\in C\cap Bならばc∈Ec\in Eであり、非零多項式X−c∈E[X]X-c\in E[X]がccを根にもつ。これはCCがEE上代数的に独立であることに反する。

もしB∪CB\cup CがKK上代数的に従属ならば、有限個のb1,…,br∈Bb_1,\ldots,b_r\in Bとc1,…,cs∈Cc_1,\ldots,c_s\in Cおよび非零多項式

P∈K[X1,…,Xr,Y1,…,Ys]P\in K[X_1,\ldots,X_r,Y_1,\ldots,Y_s]

が存在して

P(b1,…,br,c1,…,cs)=0P(b_1,\ldots,b_r,c_1,\ldots,c_s)=0

となる。PPをY1,…,YsY_1,\ldots,Y_sの多項式とみると、その係数はK[b1,…,br]⊆EK[b_1,\ldots,b_r]\subseteq Eに属する。CCはEE上代数的に独立であるから、すべての係数をb1,…,brb_1,\ldots,b_rで評価した値が零でなければならない。BBはKK上代数的に独立であるから、各係数多項式自体が零である。これはPPが非零であることに矛盾する。したがってB∪CB\cup CはKK上代数的に独立である。

E/K(B)E/K(B)は代数拡大である。補題 5.1により

E(C)/K(B)(C)=E(C)/K(B∪C)E(C)/K(B)(C)=E(C)/K(B\cup C)

は代数拡大である。また、L/E(C)L/E(C)は代数拡大である。代数性の推移性§E8.2 定理 5.1により、L/K(B∪C)L/K(B\cup C)は代数拡大である。したがってB∪CB\cup CはL/KL/Kの超越基底である。

定理 4.1により、

trdeg⁡KL=∣B∪C∣=∣B∣+∣C∣=trdeg⁡KE+trdeg⁡EL\operatorname{trdeg}_K L =|B\cup C| =|B|+|C| =\operatorname{trdeg}_K E+\operatorname{trdeg}_E L

が成り立つ。▨

6 有理関数体と有限生成体拡大

有理関数体では、変数そのものが超越基底になる。

例 6.1 (有理関数体の超越次数). 不定元の集合{ti∣i∈I}\{t_i\mid i\in I\}はKK上代数的に独立である。したがって{ti∣i∈I}\{t_i\mid i\in I\}はK(ti∣i∈I)/KK(t_i\mid i\in I)/Kの超越基底であり、

trdeg⁡KK(ti∣i∈I)=∣I∣\operatorname{trdeg}_K K(t_i\mid i\in I)=|I|

である。特に、一変数有理関数体の超越次数は11であり、nn変数有理関数体の超越次数はnnである。

有限生成体拡大では、有限個の生成元の中から超越基底を選ぶことができる。

定理 6.2. 体の包含K⊆LK\subseteq Lに対し、

L=K(α1,…,αn)L=K(\alpha_1,\ldots,\alpha_n)

と仮定する。このとき、{α1,…,αn}\{\alpha_1,\ldots,\alpha_n\}のある部分集合BBがL/KL/Kの超越基底となり、L/K(B)L/K(B)は有限次拡大である。特に

trdeg⁡KL≤n\operatorname{trdeg}_K L\le n

である。

証明. 有限集合{α1,…,αn}\{\alpha_1,\ldots,\alpha_n\}の中から、包含関係について極大なKK上代数的独立部分集合BBを選ぶ。有限集合の部分集合を有限回比較すれば選ぶことができるため、この選択に Zorn の補題は要らない。

αi∉B\alpha_i\notin Bと仮定する。BBの極大性によりB∪{αi}B\cup\{\alpha_i\}はKK上代数的に従属である。補題 1.4によりαi\alpha_iはK(B)K(B)上代数的である。したがってLLはK(B)K(B)に有限個の代数的な元を添加して得られる。§E8.2 定理 4.2によりL/K(B)L/K(B)は有限次拡大である。ゆえにBBはL/KL/Kの超越基底であり、∣B∣≤n|B|\le nである。▨

例 6.3 (代数的な部分をもつ有限生成拡大).ttをKK上超越的な元とし、α\alphaをK(t)K(t)上代数的な元とする。L=K(t,α)L=K(t,\alpha)とおくと、{t}\{t\}はL/KL/Kの超越基底である。実際、ttはKK上超越的であり、L/K(t)L/K(t)は代数拡大である。したがって

trdeg⁡KL=1\operatorname{trdeg}_K L=1

である。さらにα\alphaの最小多項式の次数が有限であるため、L/K(t)L/K(t)は有限次拡大である。

7 演習

問題 7.1 (超越次数の塔の公式). 体KK上代数的に独立な元u,vu,vを取り、α\alphaをK(u)K(u)上代数的な元とする。E=K(u,α)E=K(u,\alpha)およびL=K(u,v,α)L=K(u,v,\alpha)とおく。trdeg⁡KE\operatorname{trdeg}_K E、trdeg⁡EL\operatorname{trdeg}_E L、trdeg⁡KL\operatorname{trdeg}_K Lを求め、超越次数の塔の公式を確認せよ。

解答.

uuはKK上超越的であり、α\alphaはK(u)K(u)上代数的であるから、{u}\{u\}はE/KE/Kの超越基底である。したがって

trdeg⁡KE=1\operatorname{trdeg}_K E=1

である。

u,vu,vはKK上代数的に独立である。α\alphaはK(u)K(u)上代数的であり、E=K(u)(α)E=K(u)(\alpha)であるから、§E8.2 定理 3.1によりE/K(u)E/K(u)は有限次拡大である。したがって§E8.2 命題 4.1によりE/K(u)E/K(u)は代数拡大である。もしvvがEE上代数的ならば、L=E(v)L=E(v)と§E8.2 定理 3.1によりL/EL/Eは有限次拡大であり、§E8.2 命題 4.1によりL/EL/Eは代数拡大である。代数性の推移性§E8.2 定理 5.1によりL/K(u)L/K(u)は代数拡大となるため、v∈Lv\in LはK(u)K(u)上代数的になる。これはu,vu,vのKK上の代数的独立性に反する。したがってvvはEE上超越的であり、L=E(v)L=E(v)であるから{v}\{v\}はL/EL/Eの超越基底である。ゆえに

trdeg⁡EL=1\operatorname{trdeg}_E L=1

である。

また、{u,v}\{u,v\}はKK上代数的に独立であり、L/K(u,v)L/K(u,v)はα\alphaを添加して得られる代数拡大である。したがって{u,v}\{u,v\}はL/KL/Kの超越基底であり、

trdeg⁡KL=2\operatorname{trdeg}_K L=2

である。以上から

trdeg⁡KL=2=1+1=trdeg⁡KE+trdeg⁡EL\operatorname{trdeg}_K L =2 =1+1 =\operatorname{trdeg}_K E+\operatorname{trdeg}_E L

となり、塔の公式を確認することができる。▨

参考文献

  1. Serge Lang, Algebra, revised 3 ed., Graduate Texts in Mathematics, Springer, New York, 2002.代数的独立性、超越基底、交換論法および超越次数の記述を参考にした。
  2. The Stacks Project Authors, The Stacks Project.超越基底の存在、超越次数および体の塔に対する加法性の記述を参考にした。

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