§E8.6分解体

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「代数閉包」で構成した体KKの代数閉包K‾\overline Kを一つ固定する。多項式族の分解体をこの共通の周囲の体の中で定めれば、有限個の多項式だけでなく、無限個の多項式からなる族も同じ式で扱うことができる。この定義では、根を含む最小の部分体を明示するため、分解体の最小性が構成に含まれる。

1 根全体が生成する体

S⊂K‾S\subset\overline Kに対して、K(S)K(S)をK∪SK\cup Sを含むK‾\overline Kの部分体の交わりとする。K‾\overline K自身がこの条件を満たすので、この交わりを取る対象は空でない。部分体の交わりは再び部分体であるから、K(S)K(S)はK∪SK\cup Sを含む最小のK‾\overline Kの部分体である。

定義 1.1.F⊂K[x]∖K\mathcal F\subset K[x]\setminus Kを任意の非定数一変数多項式からなる族とする。K‾\overline Kの中のF\mathcal Fの根全体を

RF={α∈K‾∣ある f∈F が存在して f(α)=0}R_{\mathcal F}= \{\alpha\in\overline K\mid \text{ある }f\in\mathcal F\text{ が存在して }f(\alpha)=0\}

とおく。このとき

LF=K(RF)⊂K‾L_{\mathcal F}=K(R_{\mathcal F})\subset\overline K

を、固定したK‾\overline KにおけるF\mathcal Fの分解体 (splitting field) という。

有限族の場合にも、この定義は通常の分解体の定義と同じ二つの条件、すなわち全ての多項式が一次式の積に分解することと、その根から体が生成されることを表している。次の定理で最小性を厳密に確認する。

定理 1.2.F⊂K[x]∖K\mathcal F\subset K[x]\setminus Kとし、LF=K(RF)L_{\mathcal F}=K(R_{\mathcal F})とおく。

  1. 各f∈Ff\in\mathcal FはLF[x]L_{\mathcal F}[x]で一次式の積に分解する。
  2. K⊆E⊆K‾K\subseteq E\subseteq\overline Kを中間体とする。各f∈Ff\in\mathcal FがE[x]E[x]で一次式の積に分解するとき、かつそのときに限りRF⊆ER_{\mathcal F}\subseteq Eである。したがってLF⊆EL_{\mathcal F}\subseteq Eである。
  3. LFL_{\mathcal F}は、F\mathcal Fの全ての多項式を分解するK‾\overline Kの中間体全体の交わりに等しい。
  4. F\mathcal Fが有限族なら、LF/KL_{\mathcal F}/Kは有限次代数拡大である。

証明.K‾\overline Kは代数閉体であるから、各f∈Ff\in\mathcal FはK‾[x]\overline K[x]で一次式の積に分解する。その根は重複度を除いてRFR_{\mathcal F}に属する。LFL_{\mathcal F}はRFR_{\mathcal F}を含むので、同じ分解はLF[x]L_{\mathcal F}[x]での分解である。これで(1)を得る。

RF⊆ER_{\mathcal F}\subseteq Eなら、上の分解の全ての根がEEに属するから、各f∈Ff\in\mathcal FはE[x]E[x]で分解する。逆に各f∈Ff\in\mathcal FがE[x]E[x]で分解すると仮定する。α∈RF\alpha\in R_{\mathcal F}を取ると、あるf∈Ff\in\mathcal Fに対してf(α)=0f(\alpha)=0である。ffのE[x]E[x]における一次式分解をK‾[x]\overline K[x]で考えると、因数分解の一意性によりα\alphaはその一次因子の根の一つである。したがってα∈E\alpha\in Eである。よってRF⊆ER_{\mathcal F}\subseteq Eである。

これにより(2)の同値が従う。さらにK(RF)K(R_{\mathcal F})はK∪RFK\cup R_{\mathcal F}を含む最小の部分体であるから、RF⊆ER_{\mathcal F}\subseteq EならLF⊆EL_{\mathcal F}\subseteq Eである。一方、(1)によりLFL_{\mathcal F}自身が全てのf∈Ff\in\mathcal Fを分解する。この二つの事実から、分解する中間体全体の交わりはLFL_{\mathcal F}に等しい。これで(3)を得る。

最後にF={f1,…,fr}\mathcal F=\{f_1,\ldots,f_r\}とする。各fif_iは有限個の根しかもたないため、RF={α1,…,αs}R_{\mathcal F}=\{\alpha_1,\ldots,\alpha_s\}は有限集合である。各αj\alpha_jはあるfif_iの根なのでKK上代数的である。したがって

K⊆K(α1)⊆K(α1,α2)⊆⋯⊆K(α1,…,αs)=LFK\subseteq K(\alpha_1)\subseteq K(\alpha_1,\alpha_2)\subseteq\cdots\subseteq K(\alpha_1,\ldots,\alpha_s)=L_{\mathcal F}

は有限拡大の塔である。ゆえにLF/KL_{\mathcal F}/Kは有限次代数拡大である。▨

2 有限族と無限族の違い

一つの多項式は有限族の特別な場合である。したがって、非定数多項式f∈K[x]f\in K[x]の分解体は有限次代数拡大である。これが通常の分解体について用いる有限性である。

有限族に対しては、任意の拡大体の中で「全ての多項式が分解し、その根で生成される」という通常の条件を満たす二つの体はKKを固定する同型を除いて一意である。この結論は、有限代数拡大への埋め込みを延長する定理を用いる。本サイトでは、その定理を整備した後の「正規拡大と共役」で§E8.11 定理 5.1として証明する。ここで証明したのは、固定したK‾\overline Kの内部での最小性と、有限族に対する存在および有限性である。

これに対して、無限族の分解体は一般に有限次ではない。固定したK‾\overline Kの内部では定理 1.2によって一意に定まるが、異なる代数閉包に置かれた無限族の分解体について基礎体を固定する同型を除く一意性は、本記事では主張しない。

例 2.1 (無限次となる分解体).K=QK=\mathbb Qとし、Q‾⊂C\overline{\mathbb Q}\subset\mathbb Cを固定する。多項式族

F={xn−2∣n≥2}\mathcal F=\{x^n-2\mid n\ge2\}

を考える。LFL_{\mathcal F}は各n≥2n\ge2に対して実数の根αn=2n\alpha_n=\sqrt[n]{2}を含む。

多項式xn−2x^n-2は素数22に関する Eisenstein の判定法によりQ\mathbb Q上既約である。したがって

[Q(αn):Q]=n[\mathbb Q(\alpha_n):\mathbb Q]=n

である。もしLF/QL_{\mathcal F}/\mathbb Qが有限次なら、その次数は全ての部分拡大Q(αn)/Q\mathbb Q(\alpha_n)/\mathbb Qの次数以上でなければならない。しかしnnは任意に大きく取ることができる。よってLF/QL_{\mathcal F}/\mathbb Qは無限次である。

3 有限の場合の商体による根の添加

有限族の分解体には、代数閉包を固定せずに根を一つずつ添加する構成もある。これは上の定義の根が代数的であることと、有限の場合に有限次拡大の塔を得ることを具体的に示す。

命題 3.1.KKを体とし、p∈K[x]p\in K[x]をモニック既約多項式とする。商環

Kp=K[x]/(p)K_p=K[x]/(p)

は体であり、α=x+(p)∈Kp\alpha=x+(p)\in K_pはp(α)=0p(\alpha)=0を満たす。また、n=deg⁡pn=\deg pとすると1,α,…,αn−11,\alpha,\ldots,\alpha^{n-1}はKpK_pのKK上の基底であり、[Kp:K]=n[K_p:K]=nである。

証明.ppが既約であることと、主イデアル(p)(p)がK[x]K[x]の極大イデアルであることは同値である。したがってKpK_pは体である。商写像をq:K[x]→Kpq:K[x]\to K_pとすると、

p(α)=p(q(x))=q(p(x))=0p(\alpha)=p\bigl(q(x)\bigr)=q\bigl(p(x)\bigr)=0

である。

多項式の除法により、任意のf∈K[x]f\in K[x]はf=ap+rf=ap+r、deg⁡r<n\deg r<nと一意に表される。したがってq(f)=q(r)q(f)=q(r)であり、1,α,…,αn−11,\alpha,\ldots,\alpha^{n-1}はKpK_pを生成する。これらの間に非自明なKK-係数一次関係があれば、次数がnn未満の非零多項式が(p)(p)に属することになるが、そのような多項式はppの非零倍ではない。ゆえに一次関係は自明であり、表示された元は基底である。▨

4 三次多項式の例

例 4.1 (x3−2x^3-2の分解体).Q‾⊂C\overline{\mathbb Q}\subset\mathbb Cを固定し、a=23∈Ra=\sqrt[3]{2}\in\mathbb Rとする。ω\omegaを11の原始三乗根とすると、x3−2x^3-2の三つの根は

a,aω,aω2a,\qquad a\omega,\qquad a\omega^2

である。したがって定義 1.1による{x3−2}\{x^3-2\}の分解体は

L=Q(a,ω)L=\mathbb Q(a,\omega)

である。

x3−2x^3-2に有理根があると仮定し、その根を互いに素な整数p,qp,qによってp/qp/q、q>0q>0と書く。p3=2q3p^3=2q^3であるから、qqを割る素数はppも割ることになり、q=1q=1である。さらにppは22を割るため、有理根の候補は1,−1,2,−21,-1,2,-2である。x3−2x^3-2にこれらを代入した値はそれぞれ−1,−3,6,−10-1,-3,6,-10であるため、有理根は存在しない。三次多項式が可約なら一次因子をもつので、x3−2x^3-2はQ\mathbb Q上既約である。したがって§E8.2 定理 3.1により[Q(a):Q]=3[\mathbb Q(a):\mathbb Q]=3である。

体Q(a)\mathbb Q(a)はR\mathbb Rの部分体であるが、ω\omegaは非実数であるからω∉Q(a)\omega\notin\mathbb Q(a)である。ω\omegaはx2+x+1x^2+x+1を満たすため、そのQ(a)\mathbb Q(a)上の最小多項式は二次である。ゆえに[L:Q(a)]=2[L:\mathbb Q(a)]=2である。塔の公式§E8.1 定理 2.1を用いると

[L:Q]=[L:Q(a)] [Q(a):Q]=2⋅3=6[L:\mathbb Q]=[L:\mathbb Q(a)]\,[\mathbb Q(a):\mathbb Q]=2\cdot3=6

を得る。

5 演習

問題 5.1 (分解体の構成と次数).

  1. K⊆E⊆K‾K\subseteq E\subseteq\overline Kとする。f∈K[x]∖Kf\in K[x]\setminus KがE[x]E[x]で一次式の積に分解するとき、K‾\overline Kにおけるffの全ての根がEEに属することを証明せよ。
  2. F={f1,…,fr}\mathcal F=\{f_1,\ldots,f_r\}とする。RFR_{\mathcal F}の元を一つずつ添加する有限拡大の塔を用いて、[LF:K][L_{\mathcal F}:K]が有限であることを示せ。
  3. 例のF={xn−2∣n≥2}\mathcal F=\{x^n-2\mid n\ge2\}について、[Q(2n):Q]=n[\mathbb Q(\sqrt[n]{2}):\mathbb Q]=nが[LF:Q]=∞[L_{\mathcal F}:\mathbb Q]=\inftyを導く論理を説明せよ。

6 扱った範囲と次の記事

本記事では、「代数閉包」で構成したK‾\overline Kの中で、任意の非定数多項式族の分解体を根全体が生成する最小部分体として定義した。有限族では分解体が有限次であることを示し、無限族では無限次となる例を与えた。続く「有限体の位数と乗法群」では、有限体の位数と乗法群の巡回性を調べる。後の有限体の Galois 理論では、xpn−xx^{p^n}-xの分解体として位数pnp^nの有限体を構成する。有限族の分解体の基礎体を固定する同型を除く一意性は、「正規拡大と共役」で証明する。

参考文献

  1. David S. Dummit and Richard M. Foote, Abstract Algebra, 3rd ed., Wiley, 2004.
  2. Serge Lang, Algebra, revised 3 ed., Graduate Texts in Mathematics, Springer, New York, 2002.

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