1 体準同型と体拡大
体拡大を包含写像だけに限定せず、単位元を保つ環準同型によって定義する。
定義 1.1. 体K,Lと単位元を保つ環準同型
ι:K⟶Lを考える。このような準同型を 体準同型 (field homomorphism) といい、K,Lとιの組を 体の拡大 (field extension) という。準同型ιを省略してL/Kと書く。
a∈Kとx∈Lに対してa⋅x=ι(a)xと定めると、LはK上の線形空間になる。§E3.3 定理 2.1によりLはK上の基底をもち、§E3.3 定理 3.3により基底の濃度は基底の選択によらない。そのため、§E3.3 定義 3.4で定義された次元
[L:K]:=dimKLを 拡大次数 (degree of a field extension) という。[L:K]が有限であるとき、L/Kを 有限次拡大 (finite extension) という。
定義に現れる準同型は、追加の仮定を置かなくても単射である。
命題 1.2. 体K,Lの間の単位元を保つ環準同型ι:K→Lは単射である。
証明.a∈kerιを取る。a=0ならばa−1∈Kが存在し、
1L=ι(1K)=ι(a−1a)=ι(a−1)ι(a)=0Lとなるが、体では1L=0Lである。したがってa=0であり、kerι=(0)であるから、ιは単射である。▨
以後、Kを像ι(K)と同一視し、体拡大を包含K⊆Lとして書く。この同一視のもとで、Kの加法と乗法はLにおける演算の制限である。
例 1.3 (二次拡大).C/Rでは{1,i}がR上の基底であるから
[C:R]=2である。次に、2∈/Qを確かめる。もし2=m/nを互いに素な整数m,n(n=0)で表すことができるならば、m2=2n2である。したがってmは偶数であり、m=2rと書くとn2=2r2となるため、nも偶数である。これはm,nが互いに素であることに反する。
W:=spanQ{1,2}とおく。WはQと2を含む。a,b,c,d∈Qに対して
(a+b2)±(c+d2)=(a±c)+(b±d)2,(a+b2)(c+d2)=(ac+2bd)+(ad+bc)2であるから、Wは加法、減法および乗法について閉じている。また、0=a+b2∈Wに対してa2−2b2=0である。実際、a2−2b2=0かつb=0ならば2=±a/b∈Qとなり、b=0ならばa=0となる。ゆえに
(a+b2)−1=a2−2b2a−b2∈Wであり、Wは体である。WはQと2を含む体である一方、1,2∈Q(2)であるから、W=Q(2)となる。さらに、a+b2=0かつb=0ならば2=−a/b∈Qとなるので、a+b2=0からa=b=0が従う。したがって{1,2}はQ(2)のQ上の基底であり、
[Q(2):Q]=2である。
2 塔の公式
定理 2.1 (塔の公式). 体の包含K⊆M⊆Lに対して[M:K]と[L:M]が有限であると仮定する。このとき[L:K]も有限であり、
[L:K]=[L:M][M:K]が成り立つ。
証明.m=[M:K]、n=[L:M]とおく。MのK上の基底をu1,…,umとし、LのM上の基底をv1,…,vnとする。
任意のx∈Lに対し、b1,…,bn∈Mが存在して
x=j=1∑nbjvjと書くことができる。さらに、各jに対してa1j,…,amj∈Kが存在して
bj=i=1∑maijuiと書くことができる。したがって
x=i=1∑mj=1∑naijuivjであり、mn個の元uivjはLをK上生成する。
次に、aij∈Kが
i=1∑mj=1∑naijuivj=0を満たすと仮定する。vjごとにまとめると
j=1∑n(i=1∑maijui)vj=0となる。v1,…,vnはM上一次独立であるから、各jについて
i=1∑maijui=0である。u1,…,umはK上一次独立であるから、すべてのi,jについてaij=0である。したがってuivjはK上一次独立である。
以上により、{uivj∣1≤i≤m, 1≤j≤n}はLのK上の基底である。ゆえに[L:K]=mn=[L:M][M:K]が成り立つ。▨
具体的な二次拡大の塔では、塔の公式を基底から直接確認することができる。
例 2.2 (次数の計算). 体の包含
Q⊆Q(2)⊆Q(2,3)を考える。上で示した基底により、第一段の次数は2である。M:=Q(2)とおくと、3∈/Mは次のように確認される。もし3=a+b2(a,b∈Q)ならば、両辺を二乗して
3=a2+2b2+2ab2を得る。1,2のQ上の一次独立性からab=0である。b=0ならばa2=3、a=0ならばb2=3/2となるが、いずれも有理数について成り立たない。実際、有理数を既約分数で表して等式の両辺を整数の平方に直すと、素数3の指数の偶奇が両辺で異なる。
U:=spanM{1,3}とおく。UはMと3を含む。u,v,s,t∈Mに対して
(u+v3)±(s+t3)=(u±s)+(v±t)3,(u+v3)(s+t3)=(us+3vt)+(ut+vs)3であるから、Uは加法、減法および乗法について閉じている。また、0=u+v3∈Uに対してu2−3v2=0である。実際、u2−3v2=0かつv=0ならば、M⊆Rであることからu/v=±3となり、3∈/Mに反する。v=0ならばu=0である。したがって
(u+v3)−1=u2−3v2u−v3∈Uであり、Uは体である。UはMと3を含む体である一方、M⊆Q(2,3)かつ3∈Q(2,3)であるから、U=Q(2,3)となる。さらに、u+v3=0かつv=0ならば3=−u/v∈Mとなるので、1,3はM上一次独立である。ゆえに、この二元はUのM上の基底であり、第二段の次数は2である。したがって定理 2.1により
[Q(2,3):Q]=4である。定理 2.1の証明における積基底の構成により、{1,2,3,6}はQ上の基底である。
また、§E6.28 定理 4.3により、三次多項式x3−2がQ[x]で可約ならば、Qに根をもつ。その根を既約分数a/b(a,b∈Z、b=0)とすると、a3=2b3である。この等式からaは偶数である。a=2cとおくとb3=4c3となり、bも偶数である。これはa/bが既約分数であることに反する。したがって
f:=x3−2はQ[x]で既約である。
α:=32とおき、Q上の部分空間
V:=spanQ{1,α,α2}を考える。Vは加法と加法逆元について閉じ、1∈Vである。さらに、u=a0+a1α+a2α2およびv=b0+b1α+b2α2をVの元とすると、α3=2およびα4=2αにより
uv=(a0b0+2a1b2+2a2b1)+(a0b1+a1b0+2a2b2)α+(a0b2+a1b1+a2b0)α2∈Vであるから、Vは乗法についても閉じている。
0=v=q(α)∈Vとし、q∈Q[x]をdegq<3となるように取る。q=0である。fは既約であるから、fとqのモニック最大公約元は1またはfであるが、degq<degfにより後者は起こらない。したがって、§E6.28 命題 3.1の Bézout 等式により、あるA,B∈Q[x]が存在して
Af+Bq=1となる。x=αを代入するとB(α)v=1を得る。さらに、§E6.28 定理 2.1によりB=Cf+r、ただしr=0またはdegr<3と書くと、B(α)=r(α)∈Vである。したがってv−1=r(α)∈Vであり、Vは体である。
VはQとαを含む体であるからQ(α)⊆Vである。一方、1,α,α2∈Q(α)であるからV⊆Q(α)である。ゆえにV=Q(α)となる。
最後に、c0+c1α+c2α2=0(c0,c1,c2∈Q)と仮定する。p:=c0+c1x+c2x2が非零ならば、degp<degfであり、fの既約性からfとpのモニック最大公約元は1である。§E6.28 命題 3.1の Bézout 等式により、あるA′,B′∈Q[x]が存在してA′f+B′p=1となる。この等式をx=αで評価すると1=0となり、矛盾する。したがってp=0であり、c0=c1=c2=0である。よって1,α,α2はQ上一次独立であり、Q(α)の基底をなす。以上により
[Q(32):Q]=3である。
3 素数次数と中間体
塔の公式は、中間体の次数が全体の次数を割ることを示す。
証明.§E3.3 定理 2.1を空集合に適用して、MのK上の基底Bを取る。BはLのK上一次独立な部分集合でもあるから、同じ定理により、Bを含むLのK上の基底Cが存在する。[L:K]は有限であるためCは有限集合であり、その部分集合Bも有限集合である。したがって§E3.3 定義 3.4により[M:K]<∞である。
さらに、CはLをK上生成し、K⊆Mであるから、LをM上でも生成する。有限集合CがLをM上生成するので、[L:M]<∞である。以上により塔の公式の二つの有限性の仮定が満たされるから、定理 2.1により
p=[L:K]=[L:M][M:K]である。二つの次数は正の整数であり、pは素数であるから、([L:M],[M:K])は(p,1)または(1,p)である。[M:K]=1ならば、Mの非零ベクトル1MはK上の基底であるからM=Kである。[L:M]=1ならば、同じ理由によりL=Mである。▨
4 演習
問題 4.1 (積基底と中間体の次数). 体の包含K⊆M⊆Lがあり、{1,u}がMのK上の基底、{1,v,v2}がLのM上の基底であると仮定する。LのK上の基底を一つ与え、[L:K]を求めよ。また、K⊆N⊆Lを満たし[N:K]=4となる中間体Nが存在しないことを証明せよ。
解答.
M/Kの基底とL/Mの基底の積を取ると、
{1,u,v,uv,v2,uv2}を得る。任意のx∈Lはa+bv+cv2(a,b,c∈M)と書くことができ、各係数をK上で1,uの一次結合に展開すれば、集合{1,u,v,uv,v2,uv2}がLを生成する。この六つの元のK係数一次関係を1,v,v2ごとにまとめると、まず各M係数が零になり、次に1,uの一次独立性からすべてのK係数が零になる。したがって{1,u,v,uv,v2,uv2}は基底であり、[L:K]=6である。
もし[N:K]=4となる中間体Nが存在するならば、上の六つの元はLをN上も生成するので[L:N]は有限である。したがって定理 2.1から
6=[L:K]=[L:N][N:K]=4[L:N]となる。しかし[L:N]は正の整数であるから、右辺は4の倍数であり、6には一致しない。したがって、そのような中間体Nは存在しない。▨