1 Kummer 完全列
定理 1.1 (Kummer 完全列).Kを体とし、n≥2をcharK∤nを満たす整数とする。離散GK-加群の列
1⟶μn⟶Ks×(⋅)nKs×⟶1(1)は完全である。GKのμnへの作用は、円分指標χn:GK→(Z/nZ)×による作用である。
証明.n乗写像の核は定義によりμnである。任意のa∈Ks×に対してxn−aは微分nxn−1と互いに素なので分離多項式である。Ksは分離閉体であるため、この多項式はKsに根をもち、n乗写像は全射である。すべての写像はGKの作用と可換する。
原始n乗根ζnを選ぶと、§E8.20 定義 1.2によりσ(ζn)=ζnχn(σ)である。したがってμnの作用は円分指標によって与えられる。▨
定理 1.2.定理 1.1の仮定のもとで、K×/K×nと、連続な乗法一次コサイクル
z:GK⟶μn,zστ=zσσ(zτ)を基点変更
zσ′=ζσ(ζ)zσ(ζ∈μn)で同一視した同値類との間に、自然な群同型
K×/K×n ∼ {μn 値連続一次コサイクル}/∼(2)がある。a∈K×の類は、Ksでαn=aとなるαを選んで定めるコサイクル
za,σ=ασ(α)∈μn(3)に対応する。この同値類が分類する対象は、方程式xn=aの解全体
Xa={x∈Ks∣xn=a}からなるμn-主等質空間である。
証明.αn=aなら、式 (3) のn乗はσ(a)/a=1なのでza,σ∈μnである。また
za,στ=αστ(α)=ασ(α)σ(ατ(α))であるから、zaは一次コサイクルである。別の根ζαを選ぶと式 (3) はσ(ζ)za,σ/ζへ変わるので、同じ同値類を定める。さらにaをacn、c∈K×へ替えたときは根をαcと選ぶことができ、コサイクルは変わらない。したがって式 (2) の写像は定まる。αの固定部分群は開いているため、zaは連続である。根の積を選べばコサイクルも積になるため、この写像は群準同型である。
この写像が単射であることを示す。αn=a、βn=bから得たコサイクルが同値であるとし、あるζ∈μnについて
βσ(β)=ζσ(ζ)ασ(α)がすべてのσ∈GKに対して成り立つとする。この等式はc=β/(ζα)がGKに固定されることを意味するのでc∈K×であり、b/a=cnとなる。ゆえに[a]=[b]である。
全射性を示すため、μn値連続一次コサイクルzを取る。zをKs×値コサイクルとみなし、乗法版 Hilbert の定理 90§E8.18 定理 4.3を適用すると、あるα∈Ks×が存在してzσ=σ(α)/αとなる。zσn=1であるからαnはGKに固定される。したがってa=αn∈K×であり、zは[a]の像である。
Xaにはμnが乗法で自由かつ推移的に作用し、GKの作用とσ(ζα)=σ(ζ)σ(α)の意味で両立する。基点αを別の根ζαへ替えたときのコサイクルの変化は上で定めた同値関係そのものである。したがって式 (2) はμn-主等質空間Xaの同型類も分類する。▨
式 (2) はμn⊂Kを仮定していない。したがって、任意の体で成立する結論は
n乗根の主等質空間の分類であり、巡回拡大の分類ではない。
2 一の冪根を含む場合
以下この節ではμn⊂Kを追加で仮定する。このときGKのμnへの作用は自明であり、一次コサイクル条件は連続準同型条件になる。さらに基点変更ではσ(ζ)/ζ=1なので、異なるコサイクルが同値になることはない。したがって式 (2) は自然な群同型
K×/K×n ∼ Homcont(GK,μn)
を与える。
命題 2.1.μn⊂Kとし、[a]∈K×/K×nに対応する指標をza:GK→μnとする。d=#imza、L=Kskerzaとおくと、L/Kは次数dの巡回 Galois 拡大であり、d∣nである。さらにL=K(α)、αn=aと書くことができる。
この対応が記録するのは、拡大L/Kだけでなく、単射
Gal(L/K) ∼ imza⊆μn,σ⟼ασ(α)を備えた標識付き巡回拡大である。
証明.μnの作用が自明なのでzaは連続準同型である。開正規部分群kerzaの固定体Lは有限 Galois
拡大であり
Gal(L/K)≅imzaである。μnは巡回群なので像も位数d∣nの巡回群である。
式 (3) から、σ(α)=αとza(σ)=1は同値である。したがってαの固定部分群はkerzaであり、Galois 対応によりK(α)=Lとなる。最後の同型が標識を与える。▨
同じ巡回拡大でも標識を変えると異なる指標になる。標識を忘れた対象を正確に記述すると次のようになる。
命題 2.2.[a],[b]∈K×/K×nの位数が同じ正整数dであるとする。対応する標識を忘れた固定体がKs内で等しいことと、あるu∈(Z/dZ)×について
[b]=[a]uとなることは同値である。
証明.[b]=[a]uなら、対応する指標はzb=zauである。uは位数dの像に自己同型として作用するため、二つの指標の核は等しく、固定体も等しい。
逆に固定体が等しければ二つの指標の核は等しい。したがって両指標は同じ巡回商群を位数dのμnの部分群へ同型に写す。その二つの同型の差は位数dの巡回群の自己同型なので、あるu∈(Z/dZ)×による冪乗である。式 (2) の全単射から[b]=[a]uを得る。▨
3 Kummer 対と有限アーベル拡大
定義 3.1.μn⊂Kとし、B≤K×/K×nを有限部分群とする。各[b]∈Bについてβbn=bとなる元をKsで選び
LB=K(βb∣[b]∈B)とおく。Kummer 対 (Kummer pairing) を
⟨ , ⟩B:Gal(LB/K)×B⟶μn,⟨σ,[b]⟩B=βbσ(βb)(4)で定める。
代表元をbからbcnへ替え、根をβbcへ替えても式 (4) は変わらない。根を別のものへ替えるとμn⊂Kの元を掛けるだけなので、やはり値は変わらない。
補題 3.2.Aを指数がnを割る有限アーベル群とし、μnを位数nの巡回群とする。このとき
∣Hom(A,μn)∣=∣A∣(5)である。また、任意のa∈A∖{1}に対して、ψ(a)=1を満たすψ∈Hom(A,μn)が存在する。
証明. 有限アーベル群の基本定理§E7.18 定理 6.3により、nの約数d1,…,drが存在して
A≅Cd1×⋯×Cdrと書くことができる。実際、基本定理による各巡回因子の位数はAの指数を割るため、nも割る。
Cdiの生成元をeiとする。準同型Cdi→μnはeiの像によって一意に定まり、像として選ぶことができる元は
μn[di]={ζ∈μn∣ζdi=1}である。di∣nでありμnは位数nの巡回群なので、μn[di]は位数diの部分群である。したがって
∣Hom(Cdi,μn)∣=diとなる。直積の各成分へ制限することにより
Hom(A,μn)≅i=1∏rHom(Cdi,μn)であるから、両辺の位数を取ると式 (5) を得る。
a=1とし、表示した直積分解における第i成分aiが自明でない添字iを選ぶ。原始n乗根ζnを一つ取り、eiをζnn/diへ写し、他の巡回因子を1へ写す準同型をψとする。ζnn/diの位数はdiなので、ai=1からψ(a)=1が従う。▨
定理 3.3.μn⊂Kとし、B≤K×/K×nを有限部分群とする。LB/Kは指数がnを割る有限アーベル Galois 拡大であり、式 (4) は両側で非退化な完全双線形対である。とくに
Gal(LB/K)≅Hom(B,μn),[LB:K]=∣B∣.(6)
証明. 各多項式xn−bは、μn⊂Kなのでβbを一つ含む体ではすべての根をもち、charK∤nなので分離的である。有限個の生成元を選べばLBはそれらの多項式の分解体になるため、有限 Galois 拡大である。各自己同型はそれぞれのβbをμn倍するので、Galois 群はアーベル群であり、その各元の位数はnを割る。
式 (4) は両変数について群準同型である。左側で全ての[b]と自明に対をなすσは、すべてのβbを固定するためLB全体を固定し、σ=1である。右側で全てのσと自明に対をなす[b]については、βbがGal(LB/K)に固定されるためβb∈Kであり、[b]=1となる。したがって対は両側で非退化である。
BとGal(LB/K)はいずれも指数がnを割る有限アーベル群である。補題 3.2により∣Hom(B,μn)∣=∣B∣および∣Hom(Gal(LB/K),μn)∣=∣Gal(LB/K)∣である。両側の非退化性が与える二つの単射の位数を比較すると等号になり、式 (6) と完全性を得る。▨
定理 3.4.μn⊂Kとする。対応
B⟼LBは、K×/K×nの有限部分群Bと、Ks内の指数がnを割る有限アーベル Galois 拡大L/Kとの間の全単射である。逆対応は
L⟼BL={[b]∈K×/K×n∣b=βn となる β∈L× が存在する}である。
証明. 前定理によりLB/Kは指定された型の拡大である。またB⊆BLBである。L/Kが指数がnを割る有限アーベル Galois 拡大である場合、自然な写像
κL:BL⟶Hom(Gal(L/K),μn),[βn]⟼(σ⟼βσ(β))(7)を考える。根または代表元を変えても指標は変わらない。指標が自明ならβ∈Kなので、κLは単射である。一方、任意の指標は乗法版 Hilbert の定理 90§E8.18 定理 4.3によりσ(β)/βと書くことができ、そのn乗はKに属する。したがってκLは全射である。
L=LBとすると、式 (6) により式 (7) の終域の位数は∣B∣である。B⊆BLBなのでBLB=Bを得る。
逆にL/Kを指数がnを割る有限アーベル Galois 拡大とし、G=Gal(L/K)とする。式 (7) により、BLはGの指標群全体と同型である。補題 3.2により有限アーベル群の指標は各非自明な元を分離するため、これらの指標の核の共通部分は自明である。対応する根をすべて添加した体の固定部分群も自明なのでL=LBLである。二つの対応は互いに逆である。▨
例 3.5 (二つの平方根からなる Kummer 拡大).charK=2とし、a,b∈K×/K×2が生成する部分群Bの位数が4であるとする。μ2⊂Kは自動的に成り立つ。Kummer 対により
K(a,b)/Kは次数4の Galois 拡大で、Galois 群はHom(B,μ2)≅C2×C2である。二つの生成元の符号を独立に変える自己同型が、Bの双対基底になる。
4 一の冪根を含まない場合の捻れ
命題 4.1.μnがKに含まれるとは仮定しない。K′=K(μn)、H=GK′=kerχnとする。Kummer 類[a]のコサイクルzaをHへ制限すると準同型
za∣H:H⟶μnになるが、γ∈GKとτ∈Hに対して
za(γτγ−1)=γ(za(τ))=za(τ)χn(γ)(8)という捻れた同変性を満たす。
証明.Hはμnへ自明に作用するため、コサイクル条件をHに制限すると準同型条件になる。z=zaと書く。コサイクル条件とzγ−1=γ−1(zγ−1)を用いると
zγτγ−1=zγγ(zτ)γτ(zγ−1).τはμnを固定するため、最後の因子はzγ−1になり、可換性から第一因子と相殺する。よってzγτγ−1=γ(zτ)である。最後の等号は円分指標の定義による。▨
例 4.2 (Q上の三乗根主等質空間).K=Q、n=3、a=2とする。式 (3) のコサイクル同値類は主等質空間x3=2を定める。しかしμ3⊂Qであり、Q(32)/Qは Galois 拡大ではない。K′=Q(μ3)へ移すとK′(32)/K′は巡回三次拡大になるが、複素共役はその指標を逆数へ移す。これは式 (8) でχ3が−1を取る場合である。したがって元の Kummer 類をQ上の巡回三次拡大と同一視することはできない。
5 演習
問題 5.1.
- Kummer コサイクル式 (3) が、μnへの作用を含むコサイクル条件を満たすことを計算せよ。
- μn⊂Kのとき、一つの非零 Kummer 類が定めるものが標識付き巡回拡大である理由を説明し、標識を忘れる単元作用を記述せよ。
- 定理 3.3の左右の非退化性をそれぞれ証明し、どちらがLBの生成条件を用いるかを明記せよ。
- B=⟨[a1],…,[ar]⟩に対して、[LB:K]=∣B∣が生成元の個数ではなくBの位数で決まる理由を説明せよ。
- μn⊂Kの場合に式 (8) の右辺をza(τ)に置き換えることができない理由を、円分指標から説明せよ。
6 扱った範囲と次の記事
本記事では、Kummer 類を常にμn-主等質空間として分類し、μn⊂Kの場合に限って標識付き巡回拡大および指数がnを割る有限アーベル拡大の分類へ進んだ。μn⊂Kの場合には円分指標による捻れを保持した。標数がpの場合のp-冪次巡回拡大はp乗写像では分離的に扱えないため、次の記事で
Witt ベクトルと Artin–Schreier–Witt 写像を用いる。