§E8.11正規拡大と共役

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有限 Galois 理論では、有限拡大の自己同型と最小多項式の完全分解を対応させた。一般の代数拡大では、自己同型だけでなく、代数閉包へのすべての埋め込みを考える必要がある。埋め込みが拡大体を集合として保つという条件が正規性である。

本記事では、有限代数拡大に対する埋め込み延長を、有限部分拡大全体の逆極限へ拡張する。逆極限の非空性は、有限離散空間の積へ Tychonoff の定理を適用して証明する。この延長定理から、正規性の埋め込みによる特徴づけ、分解体の一意性、および代数閉包の一意性を導く。

1 共役、正規拡大、正規閉包

KKの代数閉包Ω\Omegaを一つ固定し、代数拡大をΩ\Omegaの部分体として扱う。

定義 1.1.α∈Ω\alpha\in\OmegaをKK上代数的とする。最小多項式mα,Km_{\alpha,K}のΩ\Omegaにおける根を、α\alphaのKK上の共役 (conjugate) という。

代数拡大L/KL/Kが正規拡大 (normal extension) であるとは、K[x]K[x]の任意の既約多項式ffについて、ffがLLに根を一つもてば、ffがL[x]L[x]で一次式の積に分解することをいう。重根を許すため、正規性は分離性を含意しない。

定義 1.2.L/KL/KをΩ\Omega内の有限拡大とする。Ω\Omega内の有限正規拡大N/KN/KがLLを含み、LLを含むΩ\Omega内の任意の正規拡大がNNを含むとき、NNをL/KL/Kの正規閉包 (normal closure) という。

例えばQ(23)/Q\mathbb Q(\sqrt[3]2)/\mathbb Qは正規ではない。x3−2x^3-2の一つの根を含むが、二つの非実根を含まないからである。その正規閉包はQ(23,ω)\mathbb Q(\sqrt[3]2,\omega)になる。この主張は、後で定理 4.1の構成から確認する。

2 有限段階から代数拡大全体へ

§E8.10 補題 1.3は有限代数拡大への埋め込み延長を、生成元を一つずつ添加して証明した。任意の代数拡大では生成元が無限個になり得るため、有限部分拡大上の埋め込みを整合的に選ぶ。

定理 2.1.E/FE/Fを代数拡大とし、Ω\Omegaを代数的閉体とする。任意の体埋め込みτ:F→Ω\tau:F\to\Omegaは、体埋め込みτ~:E→Ω\widetilde\tau:E\to\Omegaへ延長することができる。

証明.E/FE/Fの有限部分拡大全体をI\mathcal Iとする。D,D′∈ID,D'\in\mathcal Iに対して、それらの合成体もE/FE/Fの有限部分拡大なので、I\mathcal Iは包含について有向集合である。

各D∈ID\in\mathcal Iに対し、τ\tauを延長する埋め込みの集合を

XD={σ:D→Ω∣σ∣F=τ}X_D=\{\sigma:D\to\Omega\mid\sigma|_F=\tau\}

とおく。§E8.10 補題 1.3によりXDX_Dは非空である。また、生成元を一つずつ添加すると各段階の像は最小多項式の有限個の根から選ばれるため、XDX_Dは有限集合である。XDX_Dに離散位相を入れると有限コンパクト Hausdorff 空間になる。

D⊆D′D\subseteq D'なら、制限写像rD′D:XD′→XDr_{D'D}:X_{D'}\to X_Dが定まる。この写像は全射である。実際、σ∈XD\sigma\in X_Dは有限代数拡大D′/DD'/Dへ§E8.10 補題 1.3によって延長することができる。

積空間

X=∏D∈IXDX=\prod_{D\in\mathcal I}X_D

を考える。各因子は非空であるため、選択公理§E1.2 注意 5.7によりXXは非空である。 Tychonoff の定理§E2.19 定理 8.2によりXXはコンパクトである。各包含D⊆D′D\subseteq D'に対して

CD′D={(σA)A∈X∣rD′D(σD′)=σD}C_{D'D}=\{(\sigma_A)_A\in X\mid r_{D'D}(\sigma_{D'})=\sigma_D\}

とおく。XDX_Dは離散 Hausdorff なのでCD′DC_{D'D}は閉集合である。

閉集合族{CD′D}\{C_{D'D}\}が有限交叉性をもつことを示す。有限個の包含条件に現れる体をすべて含むD0∈ID_0\in\mathcal Iを取る。XD0X_{D_0}は非空なのでρ∈XD0\rho\in X_{D_0}を一つ取り、各条件に現れるDDの座標をρ∣D\rho|_Dとする。先にXXの点を一つ取り、条件に現れる有限個の座標だけをρ\rhoの制限へ置き換えると、指定された有限個の条件をすべて満たす点が得られる。したがって有限交叉性が成り立つ。

コンパクト性により

⋂D⊆D′CD′D≠∅\bigcap_{D\subseteq D'}C_{D'D}\ne\varnothing

である。この交叉から整合的な族(σD)D∈I(\sigma_D)_{D\in\mathcal I}を取る。a∈Ea\in Eに対して、aaを含む有限部分拡大DDを選び

τ~(a)=σD(a)\widetilde\tau(a)=\sigma_D(a)

と定める。二つの有限部分拡大を選んでも、その合成体への制限条件によって値は一致する。和、積および逆元は二つの元を同時に含む有限部分拡大の中で保存されるため、τ~\widetilde\tauは体埋め込みである。FFに対する値はτ\tauに等しいので、求める延長を得る。▨

3 正規性の埋め込みによる特徴づけ

定理 3.1.L/KL/KをΩ\Omega内の代数拡大とする。次の条件は同値である。

  1. L/KL/Kは正規拡大である。
  2. LLの各元のKK上の共役がすべてLLに属する。
  3. 任意のKK-埋め込みσ:L→Ω\sigma:L\to\Omegaがσ(L)=L\sigma(L)=Lを満たす。

証明.(1)⇒\Rightarrow(2)を示す。正規拡大の定義をmα,Km_{\alpha,K}へ適用すれば得られる。

(2)⇒\Rightarrow(3)を示す。α∈L\alpha\in Lに対してσ(α)\sigma(\alpha)はα\alphaの共役なので、(2)によりσ(L)⊆L\sigma(L)\subseteq Lである。さらにmα,Km_{\alpha,K}の根からなる有限集合をRα⊆LR_\alpha\subseteq Lとすると、σ\sigmaはRαR_\alphaからRαR_\alphaへの単射を定めるため、この有限集合を置換する。したがって各α∈L\alpha\in Lに対し、σ(β)=α\sigma(\beta)=\alphaとなるβ∈Rα⊆L\beta\in R_\alpha\subseteq Lが存在する。ゆえにσ\sigmaは全射であり、σ(L)=L\sigma(L)=Lである。

(3)⇒\Rightarrow(2)を示す。α∈L\alpha\in Lとし、β∈Ω\beta\in\Omegaをα\alphaのKK上の共役とする。α↦β\alpha\mapsto\betaはKK-同型K(α)→K(β)⊆ΩK(\alpha)\to K(\beta)\subseteq\Omegaを定める。定理 2.1を代数拡大L/K(α)L/K(\alpha)へ適用すると、この同型はKK-埋め込みσ~:L→Ω\widetilde\sigma:L\to\Omegaへ延長される。(3)によりσ~(L)=L\widetilde\sigma(L)=Lなのでβ=σ~(α)∈L\beta=\widetilde\sigma(\alpha)\in Lである。▨

正規性は分離性と独立である。標数p>0p>0でa∉Kpa\notin K^pとし、L=K(α)L=K(\alpha)、αp=a\alpha^p=aとすると、LLの任意の元β\betaはβp∈K\beta^p\in Kを満たす。したがってmβ,Km_{\beta,K}はxp−βp=(x−β)px^p-\beta^p=(x-\beta)^pを割り切り、LLで分解する。ゆえにL/KL/Kは純非分離かつ正規であるが、分離拡大ではない。

4 正規閉包

定理 4.1.L/KL/KをΩ\Omega内の有限拡大とする。L/KL/Kの正規閉包が存在する。

L=K(α1,…,αr)L=K(\alpha_1,\ldots,\alpha_r)とし、fi=mαi,Kf_i=m_{\alpha_i,K}とおくと、積f1⋯frf_1\cdots f_rのΩ\Omega内の分解体が正規閉包である。

証明.NNをf1⋯frf_1\cdots f_rのΩ\Omega内の分解体とする。各αi\alpha_iはNNに属するためL⊆NL\subseteq Nであり、N/KN/Kは有限拡大である。

σ:N→Ω\sigma:N\to\OmegaをKK-埋め込みとする。σ\sigmaは各fif_iの根を同じfif_iの根へ写す。NNはそれらの根で生成されるためσ(N)⊆N\sigma(N)\subseteq Nである。有限次元性によりσ(N)=N\sigma(N)=Nとなり、定理 3.1からN/KN/Kは正規拡大である。

M/KM/KをΩ\Omega内の正規拡大でL⊆ML\subseteq Mを満たすものとする。MMは各αi\alpha_iを含むため、正規性によりfif_iのすべての根を含む。したがって、それらの根で生成されるNNを含む。ゆえにNNは最小の正規拡大である。▨

例 4.2 (三次単拡大の正規閉包).L=Q(23)L=\mathbb Q(\sqrt[3]2)とする。生成元の最小多項式はx3−2x^3-2であり、その三つの根は23\sqrt[3]2、ω23\omega\sqrt[3]2、ω223\omega^2\sqrt[3]2である。定理 4.1により

N=Q(23,ω)N=\mathbb Q(\sqrt[3]2,\omega)

がL/QL/\mathbb Qの正規閉包である。LLは実数体の部分体なので非実根を含まず、正規ではない。

5 分解体と代数閉包の一意性

定理 5.1.F⊂K[x]∖{0}\mathcal F\subset K[x]\setminus\{0\}を有限族とする。F\mathcal Fの二つの分解体LLとL′L'は、KKを固定する体同型によって同型である。

証明.L′L'の代数閉包Ω′\Omega'を一つ取る。L/KL/Kは有限代数拡大なので、恒等埋め込みK→Ω′K\to\Omega'は定理 2.1により埋め込みσ:L→Ω′\sigma:L\to\Omega'へ延長される。

f∈Ff\in\mathcal Fを取る。L[x]L[x]におけるffの一次因子分解へσ\sigmaを施すと、Ω′[x]\Omega'[x]におけるffの一次因子分解を得る。したがって、LLにあるffのすべての根の像は、重複度も含めてffのすべての根を尽くす。L′L'もffの分解体なので、それらの像はL′L'に属する。

LLはF\mathcal Fの根で生成されるからσ(L)⊆L′\sigma(L)\subseteq L'である。一方、σ(L)\sigma(L)はF\mathcal Fのすべての根を含み、L′L'はそれらの根で生成されるのでL′⊆σ(L)L'\subseteq\sigma(L)である。したがってσ(L)=L′\sigma(L)=L'であり、σ:L→L′\sigma:L\to L'が求めるKK-同型である。▨

定理 5.2.Ω\OmegaとΩ′\Omega'を体KKの代数閉包とする。このときKKを固定する体同型Ω→∼Ω′\Omega\xrightarrow{\sim}\Omega'が存在する。

証明.Ω/K\Omega/Kは代数拡大であり、Ω′\Omega'は代数的閉体である。定理 2.1により、恒等埋め込みK→Ω′K\to\Omega'はKK-埋め込みσ:Ω→Ω′\sigma:\Omega\to\Omega'へ延長される。

β∈Ω′\beta\in\Omega'を取る。Ω′/K\Omega'/Kは代数拡大なので、β\betaの最小多項式mβ,K∈K[x]m_{\beta,K}\in K[x]が存在する。Ω\Omegaは代数的閉体なので

mβ,K(x)=c∏i=1d(x−αi)m_{\beta,K}(x)=c\prod_{i=1}^{d}(x-\alpha_i)

とΩ[x]\Omega[x]で分解する。σ\sigmaはKKを固定するため、この等式へσ\sigmaを施すと

mβ,K(x)=c∏i=1d(x−σ(αi))m_{\beta,K}(x)=c\prod_{i=1}^{d}(x-\sigma(\alpha_i))

をΩ′[x]\Omega'[x]で得る。β\betaは左辺の根なので、あるiiについてβ=σ(αi)\beta=\sigma(\alpha_i)である。したがってσ\sigmaは全射であり、体同型である。▨

二つの一意性はいずれも同型の存在を述べる。同型そのものが一意であるとは限らない。例えばQ(2)\mathbb Q(\sqrt2)には、2\sqrt2の符号を変える非自明なQ\mathbb Q-自己同型がある。

6 演習

問題 6.1.

  1. 定理 2.1の逆極限構成で、制限写像XD′→XDX_{D'}\to X_Dが全射であることを有限埋め込み延長から証明せよ。
  2. 正規拡大L/KL/KへのKK-埋め込みL→ΩL\to\Omegaが単に像をLLに含めるだけでなく、LL上全射になる理由を、共役の有限集合を用いて説明せよ。
  3. Q(24)/Q\mathbb Q(\sqrt[4]2)/\mathbb Qの正規閉包を求め、生成元の最小多項式のすべての根を列挙せよ。
  4. 定理 5.2の証明で、Ω′/K\Omega'/Kの代数性が使われる箇所と、Ω\Omegaの代数閉性が使われる箇所を分けて述べよ。

7 扱った範囲と次の記事

本記事では、有限部分拡大上の埋め込みを Tychonoff の定理によって貼り合わせ、任意の代数拡大に対する埋め込み延長定理を証明した。その結果として、正規性の埋め込みによる特徴づけ、有限拡大の正規閉包、分解体の一意性および代数閉包の一意性を得た。次の記事では、正規性とは独立な現象である純非分離性を Frobenius 準同型によって調べる。

参考文献

  1. Serge Lang, Algebra, revised 3 ed., Graduate Texts in Mathematics, Springer, New York, 2002.
  2. David S. Dummit and Richard M. Foote, Abstract Algebra, 3rd ed., Wiley, 2004.
  3. Nathan Jacobson, Basic Algebra I, 2nd ed., Dover Publications, Mineola, N.Y., 2009, originally published 1985.

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