1 一の冪根と円分指標
定義 1.1.Kを体とし、n≥1とする。分離閉包Ksの部分群
μn={ζ∈Ks×∣ζn=1}をn乗根群 (group of n-th roots of unity) という。位数がちょうどnの元を原始n乗根 (primitive n-th root of unity) という。
charK∤nなら(xn−1)′=nxn−1はxn−1と互いに素なので、μnはn個の元をもつ。§E8.7 定理 2.1は、体の乗法群の任意の有限部分群が巡回群であると述べる。この定理をKs×の有限部分群μnへ適用すると、μnは位数nの巡回群であり、原始n乗根が存在する。
定義 1.2.charK∤nとし、原始n乗根ζn∈Ksを固定する。各σ∈GKに対して一意なχn(σ)∈(Z/nZ)×が
σ(ζn)=ζnχn(σ)を満たす。この連続準同型
χn:GK⟶(Z/nZ)×をn次円分指標 (n-th cyclotomic character) という。
補題 1.3.定義 1.2の写像χnは群準同型であり、有限群(Z/nZ)×に離散位相を入れると連続である。
証明.σは乗法と元の位数を保つので、σ(ζn)は原始n乗根であり、定義 1.2の指数は(Z/nZ)×に一意に定まる。σ,τ∈GKに対して
στ(ζn)=σ(ζnχn(τ))=ζnχn(σ)χn(τ)である。一意性によりχn(στ)=χn(σ)χn(τ)となるので、χnは群準同型である。その核はζnの固定部分群Gal(Ks/K(ζn))である。K(ζn)/Kは有限拡大なので、この部分群はGKの開部分群である。有限離散群への準同型は核が開なら連続であるため、χnは連続である。▨
命題 1.4.K(μn)=K(ζn)はK上有限 Galois 拡大であり、制限写像と円分指標は同型
Gal(K(μn)/K) ∼ imχn≤(Z/nZ)×を与える。とくに[K(μn):K]はφ(n)を割る。
証明.K(μn)は分離多項式xn−1の分解体なので有限 Galois 拡大である。自己同型は生成元ζnの像によって一意に定まり、その像は原始n乗根ζnaである。したがって円分指標は
Galois 群から(Z/nZ)×への単射を与える。その像は定義によりimχnである。位数を比較すると次数の主張が従う。▨
μn⊂Kであることとχnが自明であることは同値である。μnが基礎体に含まれない場合、GKはμnへ非自明に作用し、この作用は後続の Kummer 理論で保持しなければならない。
2 円分多項式
複素数体の中でζn=e2πi/nと固定する。
定義 2.1. 原始n乗根を根とするモニック多項式
Φn(x)=1≤a≤n(a,n)=1∏(x−ζna)をn次円分多項式 (n-th cyclotomic polynomial) という。その次数は Euler の関数φ(n)である。
補題 2.2 (原始多項式に対する Gauss の補題). 整数係数多項式の係数の最大公約数を内容といい、内容が1の多項式を原始多項式という。次が成り立つ。
- 二つの原始多項式の積は原始多項式である。
- 原始かつモニックなF∈Z[x]がF=ghとQ[x]で分解され、g,hがモニックなら、g,h∈Z[x]である。
したがって、モニックなH∈Z[x]がモニックで原始なF∈Z[x]をQ[x]で割り切るなら、そのモニックな商もZ[x]に属する。
証明.(1)を示す。原始多項式P,Q∈Z[x]の積が原始でないと仮定する。その全係数を割る素数pを取ると、Fp[x]においてPQ=0となる。一方、原始性によりP=0かつQ=0であり、Fp[x]は整域なので矛盾する。よって(1)の主張が従う。
(2)を示す。g=rG、h=sHと書く。ただし、G,H∈Z[x]は原始多項式、r,sは正の有理数であり、G,Hの最高次係数は正とすることができる。(1)の主張によりGHは原始であり、
F=rsGHである。原始多項式R∈Z[x]と有理数cに対し、cRが整数係数なら、cを既約分数で表したときの分母はRの全係数を割るので、その分母は1である。さらにcRも原始なら∣c∣=1である。この事実を上の等式へ適用するとrs=1を得る。g,hはモニックなので、G,Hの最高次係数をそれぞれu,vとすればr=1/u、s=1/vである。したがってuv=1であり、正整数u,vはともに1である。ゆえにr=s=1となり、g=G、h=Hは整数係数である。最後の主張はF=H(F/H)へ(2)の主張を適用すれば従う。▨
補題 2.3.Φn(x)はZ[x]に属し、
xn−1=d∣n∏Φd(x)(1)が成り立つ。
証明.xn−1の各根は、位数がnのある約数dに等しい一の根である。位数ごとに根を分けると式 (1) を得る。
整係数性をnについて帰納する。Φ1=x−1∈Z[x]である。n>1とし、真の約数に対して主張を仮定する。式 (1) から
xn−1=Φn(x)d∣nd<n∏Φd(x)である。右辺の第二因子はモニック整係数多項式である。モニック多項式による除法から商ΦnはQ[x]に属する。xn−1と第二因子はモニックで原始なので、補題 2.2の商に関する結論によりΦn∈Z[x]である。▨
定理 2.4.Φn(x)はQ[x]で既約である。したがって
[Q(ζn):Q]=φ(n),Gal(Q(ζn)/Q)≅(Z/nZ)×,であり、a∈(Z/nZ)×は自己同型σa(ζn)=ζnaに対応する。
証明.f∈Q[x]をζnのQ上のモニック最小多項式とする。fはxn−1をQ[x]で割り切るので、補題 2.2をxn−1のモニック分解へ適用するとf∈Z[x]である。またf∣Φnであり、同じ補題をモニック分解Φn=fgへ適用するとg∈Z[x]である。
ℓ∤nを素数とする。ζnℓがfの根でないと仮定するとg(ζnℓ)=0なので、ζnはg(xℓ)の根でありf(x)∣g(xℓ)となる。係数をFℓへ還元すると
g(xℓ)=g(x)ℓである。したがってfとgは非定数の共通因子をもち、Φn=fgは重複因子をもつ。しかしℓ∤nなのでxn−1とその微分nxn−1はFℓ[x]で互いに素であり、式 (1) からその因子Φnも重複因子をもたない。これは矛盾である。ゆえにζnℓはfの根である。
上の議論では、ζnをfの任意の原始n乗根へ置き換えることができる。実際、その根の最小多項式も既約多項式fであり、同じ割り切りの議論が成り立つ。任意のa∈(Z/nZ)×は、nと互いに素な正整数で代表させ、その素因数を順に適用することにより、ζnaもfの根である。したがってfはφ(n)個の原始n乗根をすべて根にもつ。f∣Φnかつ両者はモニックなのでf=Φnである。
次数公式が従い、命題 1.4の単射は、位数がともにφ(n)である二つの有限群の間の単射になるため同型である。▨
3 中間体
証明.定理 2.4により円分拡大の Galois 群はGである。有限 Galois 対応§E8.10 定理 4.1を適用すると全単射と次数公式を得る。Gのすべての部分群は正規なので、対応する中間拡大は Galois 拡大である。▨
例 3.2 (最大実部分体).n≥3とする。複素共役はσ−1に対応する。その固定体は
Q(ζn+ζn−1)である。実際、右辺は複素共役で固定され、ζnは
x2−(ζn+ζn−1)x+1を満たす。ζnは実数でないため拡大次数は2であり、固定体の次数と一致する。したがって
[Q(ζn+ζn−1):Q]=2φ(n)である。
4 トレースとノルム
定義 4.1. 正整数上のMöbius 関数 (Möbius function)μを次で定める。μ(1)=1とする。r>1がある素数の平方で割り切れるならμ(r)=0とし、rが相異なるs個の素数の積ならμ(r)=(−1)sとする。
補題 4.2. 任意の正整数rに対して
d∣r∑μ(d)={1,0,r=1,r>1(2)である。したがって、正整数a,nに対して1(a,n)=1=∑d∣(a,n)μ(d)が成り立つ。
証明.r=1の場合は定義から従う。r>1の相異なる素因数をp1,…,psとする。μ(d)=0となる約数dはp1,…,psから選んだ部分集合の積に限られるので、二項定理から
d∣r∑μ(d)=j=0∑s(js)(−1)j=(1−1)s=0となる。最後の等式は式 (2) をr=(a,n)へ適用したものである。▨
証明.αを一の根とし、その位数をsとする。s=pau、p∤uと書くと
ord(αp)=pmax(a−1,0)uである。したがって、αpの位数がmであることは、s=mまたはs=pmであることと同値である。ゆえにΦm(xp)の根は、原始m乗根と原始pm乗根との互いに交わらない合併である。これらの根はxpm−1の根なので重複しない。三つの多項式はモニックであるからΦm(xp)=Φm(x)Φpm(x)となり、第一の式を得る。
次にαpr−1の位数がpmであるとする。位数の公式
ord(αpr−1)=gcd(s,pr−1)sへs=pauを代入すると、u=mかつa−min(a,r−1)=1を得る。この条件はa=rと同値なので、αの位数はprmである。逆向きも同じ公式から従う。よってΦpm(xpr−1)の根は原始prm乗根全体であり、根は重複しない。両辺がモニックなので第二の式が従う。▨
命題 4.4.n≥2、k∈Zとする。このとき
TrQ(ζn)/Q(ζnk)=d∣gcd(n,k)∑dμ(n/d),(4)とくにTr(ζn)=μ(n)である。また
NQ(ζn)/Q(ζn)={−1,1,n=2,n>2,および
NQ(ζn)/Q(1−ζn)=Φn(1)={p,1,n=pr が素数冪,n が素数冪でない(5)が成り立つ。
証明. 埋め込み表示§E8.16 定理 2.1と Galois 群の記述から、トレースは
cn(k)=1≤a≤n(a,n)=1∑ζnakである。互いに素であることの指示関数を表す補題 4.2の等式1(a,n)=1=∑d∣(a,n)μ(d)を代入すると
cn(k)=d∣n∑μ(d)b=1∑n/dζndbk.内側の幾何級数は(n/d)∣kのときn/d、それ以外は0である。e=n/dと置き換えると式 (4) を得る。
n>2では単元類aと−aを組にすることができ、対応する根の積はζnaζn−a=1である。n=2では唯一の原始根が−1なので、ζnのノルムの式を得る。
最後に
N(1−ζn)=(a,n)=1∏(1−ζna)=Φn(1)である。n=prなら、補題 4.3をm=1へ適用して
Φpr(x)=Φp(xpr−1)=xpr−1−1xpr−1=1+xpr−1+⋯+x(p−1)pr−1を得る。したがってΦpr(1)=pである。nが素数冪でない場合、n=prm、p∤m、m>1となる素数pを取る。同じ補題から
Φn(1)=Φpm(1)=Φm(1)Φm(1)=1となる。m>1のとき1は原始m乗根でないのでΦm(1)=0であり、この除法は定義される。▨
例 4.5 (第八円分体).Φ8(x)=x4+1であり、Gal(Q(ζ8)/Q)≅(Z/8Z)×≅C2×C2である。三つの位数二の部分群は、三つの二次中間体
Q(i),Q(2),Q(−2)に対応する。また命題 4.4によりTr(ζ8)=μ(8)=0、N(1−ζ8)=Φ8(1)=2である。
5 演習
問題 5.1 (円分体の確認).
- charK∤nのとき、μnが位数nの巡回群であることを、分離性と§E8.7 定理 2.1から証明せよ。
- 定理 2.4の証明で、素数ℓがnを割らないという仮定が使われる箇所を二つ挙げよ。
- n=5について Galois 群のすべての部分群を求め、中間体の次数を計算せよ。
- 式 (4) を用いてTrQ(ζ12)/Q(ζ12k)をk=1,2,3,4について計算せよ。
- μn⊂Kの場合に、σ(ζ)=ζχn(σ)という作用を自明作用に置き換えてはならない理由を説明せよ。
6 扱った範囲と次の記事
本記事では、円分指標、円分拡大、有理数体上の円分多項式の既約性、中間体、トレースおよびノルムを証明した。次の記事では、n乗写像の核であるμnを用いて Kummer 完全列を構成する。円分指標が非自明な場合には、μnの Galois 作用を保持する。