1 生成と一次独立性
定義 1.1.VをK上の線形空間、S⊆Vとする。Sの元の有限一次結合全体
spanS={i=1∑maisi:m≥0, ai∈K, si∈S}をSの生成部分空間 (span) という。m=0の和は零ベクトルとする。
命題 1.2.spanSはSを含む部分空間であり、Sを含む任意の部分空間Wに対してspanS⊆Wが成り立つ。
証明. 有限一次結合の和とスカラー倍は再び有限一次結合なので、§E3.2 命題 1.5によりspanSは部分空間である。各s∈Sは1sと書くことができるのでSを含む。WがSを含む部分空間なら、Wは有限回の加法とスカラー倍について閉じているため、Sの任意の有限一次結合を含む。したがってspanS⊆Wである。▨
定義 1.3. 部分集合S⊆Vが一次独立 (linearly independent) であるとは、相異なるs1,…,sm∈Sとa1,…,am∈Kに対して
i=1∑maisi=0ならばa1=⋯=am=0となることをいう。Sが一次独立でありspanS=Vを満たすとき、SをVの基底 (basis) という。
補題 1.4.Sを一次独立集合とし、v∈Vとする。S∪{v}が一次独立であるための必要十分条件はv∈/spanSである。
証明.v∈spanSなら、v=∑i=1maisiからv−∑iaisi=0というvの係数が1である非自明な関係を得る。逆にS∪{v}に非自明な関係があるとする。Sだけの係数が非零ならSの一次独立性に反するので、vの係数cは非零である。関係をvについて解くとv=−c−1∑iaisi∈spanSとなる。▨
2 Zorn の補題による基底の存在
定理 2.1 (基底への延長).Vの任意の一次独立集合S0は、Vのある基底Bに含まれる。とくに、任意の線形空間は基底をもつ。
証明.S0を含む一次独立部分集合全体を
P={S⊆V:S0⊆S, S は一次独立}とし、包含関係で順序を付ける。C⊆Pを鎖とする。Cが空ならS0∈Pが上界である。以下、Cは空でないとする。U=⋃S∈CSはS0を含む。Uの有限部分{u1,…,um}を取る。各uiを含むCの元を一つずつ選ぶと、Cは包含関係について全順序集合であり、選んだ有限個の元のうち最大のものが全てのuiを含む。その元は一次独立なので、{u1,…,um}も一次独立である。一次関係は有限個のベクトルだけを含むため、Uは一次独立である。したがってU∈Pであり、Uは鎖Cの上界である。
§E1.20 定理 2.1の Zorn の補題によりPは極大元Bをもつ。もしspanB=Vなら、v∈V∖spanBを取ることができる。補題 1.4によりB∪{v}は一次独立であり、Bの極大性に反する。したがってspanB=Vであり、BはS0を含む基底である。S0=∅とすれば、任意のVに基底が存在する。▨
証明で Zorn の補題を用いた箇所は、鎖ごとの上界から極大一次独立集合の存在を導いた一手だけである。極大一次独立集合が生成系であることは、Zorn の補題ではなく補題 1.4と極大性から従う。
3 基底の濃度
補題 3.1 (有限交換補題).v1,…,vmが一次独立であり、w1,…,wnがVを生成するならばm≤nである。さらに、適切なm個のwjをv1,…,vmで置き換えても、得られるn個のベクトルはVを生成する。
証明.mについて帰納法を用いる。m=0では、与えられた生成系を変更する必要がない。m≥1とし、帰納法の仮定をv1,…,vm−1に適用する。添字を付け替えることにより、v1,…,vm−1,wm,…,wnがVを生成するとしてよい。この生成系で
vm=i=1∑m−1aivi+j=m∑nbjwjと表す。もし全てのbjが零ならvm∈span{v1,…,vm−1}となり、一次独立性に反する。したがってbk=0となるk≥mがある。等式をwkについて解けば、wkをvmで置き換えた集合もVを生成する。とくにkが存在するためm≤nである。▨
補題 3.2.Bを一次独立集合、Cを無限な生成集合とする。このとき∣B∣≤∣C∣である。
証明. 各b∈Bについて、bをCの有限一次結合で表し、その式に現れる係数が非零である元の有限集合をFb⊆Cとする。Fbは空ではない。有限集合F⊆CごとにBF={b∈B:Fb=F}とおく。BFはspanFに含まれる一次独立集合なので、補題 3.1により∣BF∣≤∣F∣である。したがって各BFは有限であり、
B=F∈[C]<ω⋃BFと書くことができる。ここで[C]<ωはCの有限部分集合全体である。
残る基数評価を示す。選択公理により、CをCと等濃な基数κ=∣C∣と同一視することができる。基数は順序数であるから、Cの元はκ未満の順序数として扱うことができる。無限基数の有限積についてκr=κが各正整数rで成り立つ。この等式は次の標準的な最小反例論法で得られる。λ2>λとなる最小の無限基数λがあると仮定し、λ×λを
(max(α,β),α,β)の辞書式順序で整列する。これは整列順序である。x=(α,β)とし、γ=max(α,β)+1<λと置く。xより前の対は全てγ×γに属する。γが有限なら、この初期部分も有限である。γが無限ならμ=∣γ∣<λであり、λの最小性からμ2=μ<λである。したがって、いずれの場合にもxより前の集合の濃度はλ未満である。
ρ(x)を、この整列順序でxより前にある集合の順序型とする。x<yならxはyより前の集合に属するのでρ(x)<ρ(y)であり、ρは単射である。また∣ρ(x)∣<λである。λは基数なので、この不等式からρ(x)<λが従う。よってρ:λ×λ→λは単射である。逆向きにはα↦(α,0)が単射なので、§E1.11 定理 4.2からλ2=λとなり、仮定に反する。よってκ2=κであり、帰納法でκr=κが全ての正整数rについて成り立つ。さらにℵ0≤κなのでκ≤ℵ0⋅κ≤κ⋅κ=κであり、ℵ0⋅κ=κである。
各有限部分集合を重複を許す有限列として並べることにより
∣[C]<ω∣≤r<ω∑∣C∣r=ℵ0⋅κ=κである。逆向きはc↦{c}から従うので∣[C]<ω∣=κである。各BFは有限であるから、
∣B∣≤∣[C]<ω∣⋅ℵ0=κ=∣C∣を得る。▨
定理 3.3. 同じ線形空間Vの任意の二つの基底B,Cは等しい濃度をもつ。
証明.B,Cの一方が有限であるとし、役割を交換してBがm元からなるとしてよい。Cが相異なるm+1元を含むなら、それらは一次独立であり、m元の有限生成系Bに補題 3.1を適用するとm+1≤mとなって矛盾する。したがってCは有限であり、∣C∣≤mである。ここで初めて、一次独立集合Bと有限生成系Cに交換補題を適用することができ、m≤∣C∣を得る。よって∣B∣=m=∣C∣である。
両方が無限なら、Bは一次独立でCは無限生成集合なので補題 3.2から∣B∣≤∣C∣を得る。役割を交換して∣C∣≤∣B∣も得る。§E1.11 定理 4.2により∣B∣=∣C∣である。▨
定義 3.4. 線形空間Vの基底の濃度をVの次元 (dimension) といい、dimKVと書く。基底が有限集合であるときVを有限次元 (finite-dimensional) という。この場合dimKVは非負整数である。零空間の基底は空集合なのでdimK{0}=0である。
定理 3.3により、次元は基底の選び方に依存しない。無限次元の場合の次元は基数であり、有限次元の場合のような非負整数の差を無条件に用いることはできない。
例 3.5 (多項式空間の基底).K[t]の集合{1,t,t2,…}は基底である。多項式は有限個の係数だけをもつので、この集合がK[t]を生成する。相異なる冪の有限一次結合が零多項式なら全係数が零なので、一次独立でもある。したがってdimKK[t]=ℵ0である。
4 演習
問題 4.1 (Zorn の補題を用いる箇所の確認).定理 2.1の証明で、鎖の和集合が一次独立であることを示す際に、鎖が全順序集合であることをどのように用いたかを述べよ。
解答.
一次関係に現れるベクトルは有限個である。各ベクトルを含む鎖の元を有限個選ぶと、全順序性により、その有限個の中に包含関係について最大の元がある。その最大の元は一次関係に現れる全ベクトルを含み、かつ一次独立である。したがって一次関係の全係数は零である。鎖でない集合族では、有限個の元を同時に含む一つの一次独立集合が存在するとは限らない。▨