§E3.7完全列と分裂

最終更新

線形写像の列が中間の空間で完全であるとは、前の写像の像と後の写像の核が一致することをいう。短完全列

0⟶U⟶V⟶W⟶00\longrightarrow U\longrightarrow V\longrightarrow W\longrightarrow0

は、UUがVVの部分空間として現れ、その商がWWと同型である状況を表す。可換体上の線形空間では全ての短完全列が分裂するが、分裂には補空間または切断の選択が必要であり、一般には一意でも自然でもない。

1 完全性

定義 1.1. 線形写像の列

⋯⟶Vi−1→di−1Vi→diVi+1⟶⋯\cdots\longrightarrow V_{i-1}\xrightarrow{d_{i-1}}V_i \xrightarrow{d_i}V_{i+1}\longrightarrow\cdots

がViV_iで完全 (exact) であるとは

im⁡di−1=ker⁡di\operatorname{im}d_{i-1}=\ker d_i

が成り立つことをいう。全ての項で完全である列を完全列 (exact sequence) という。

完全性からdi∘di−1=0d_i\circ d_{i-1}=0が従うが、合成が零であることだけでは完全性は従わない。合成が零であることはim⁡di−1⊆ker⁡di\operatorname{im}d_{i-1}\subseteq\ker d_iしか与えない。

命題 1.2. 線形写像f:U→Vf:U\to V、g:V→Wg:V\to Wについて次が成り立つ。

  1. 0→U→fV0\to U\xrightarrow{f}VがUUで完全であることと、ffが単射であることは同値である。
  2. V→gW→0V\xrightarrow{g}W\to0がWWで完全であることと、ggが全射であることは同値である。

証明. 零空間からUUへの写像の像は{0U}\{0_U\}である。したがってUUでの完全性はker⁡f={0U}\ker f=\{0_U\}と同値であり、§E3.4 命題 1.5によりffの単射性と同値である。WWから零空間への写像の核はWW全体である。したがってWWでの完全性はim⁡g=W\operatorname{im}g=Wと同値であり、ggの全射性と同値である。▨

定義 1.3. 列

0⟶U→iV→pW⟶00\longrightarrow U\xrightarrow{i}V\xrightarrow{p}W\longrightarrow0

が完全であるとき、この列を短完全列 (short exact sequence) という。すなわちiiは単射、ppは全射であり、im⁡i=ker⁡p\operatorname{im}i=\ker pが成り立つ。

例 1.4 (部分空間が定める短完全列). 部分空間U⊆VU\subseteq Vに対し、包含写像ι:U→V\iota:U\to Vと標準射影π:V→V/U\pi:V\to V/Uを用いた

0⟶U→ιV→πV/U⟶00\longrightarrow U\xrightarrow{\iota}V\xrightarrow{\pi}V/U\longrightarrow0

は短完全列である。包含写像は単射であり、標準射影は全射である。§E3.6 命題 1.5によりker⁡π=U=im⁡ι\ker\pi=U=\operatorname{im}\iotaなので、中央でも完全である。

2 分裂

定義 2.1. 短完全列0→U→iV→pW→00\to U\xrightarrow{i}V\xrightarrow{p}W\to0に対し、線形写像s:W→Vs:W\to Vがp∘s=id⁡Wp\circ s=\operatorname{id}_Wを満たすとき、ssをppの切断 (section) という。線形写像r:V→Ur:V\to Uがr∘i=id⁡Ur\circ i=\operatorname{id}_Uを満たすとき、rrをiiの左逆写像 (left inverse)(レトラクション (retraction))という。切断または左逆写像が存在する短完全列を分裂する (split) という。

定理 2.2. 短完全列

0⟶U→iV→pW⟶00\longrightarrow U\xrightarrow{i}V\xrightarrow{p}W\longrightarrow0

について、次の条件は同値である。

  1. ppの切断s:W→Vs:W\to Vが存在する。
  2. V=im⁡i⊕CV=\operatorname{im}i\oplus Cかつp∣C:C→Wp|_C:C\to Wが同型となる部分空間CCが存在する。
  3. 写像Φ:U⊕W→V\Phi:U\oplus W\to V、Φ(u,w)=i(u)+s(w)\Phi(u,w)=i(u)+s(w)が、ある切断ssによって線形同型になる。
  4. iiの左逆写像(レトラクション)r:V→Ur:V\to Uが存在する。

証明.(1)⇒\Rightarrow(2)を示す。C=im⁡sC=\operatorname{im}sとする。p∘s=id⁡Wp\circ s=\operatorname{id}_Wなのでssは単射であり、p∣Cp|_Cはssを逆写像にもつ同型である。v∈Vv\in Vに対して

v=(v−s(p(v)))+s(p(v))v=\bigl(v-s(p(v))\bigr)+s(p(v))

と書くことができる。第一項にppを施すと零なので、第一項はker⁡p=im⁡i\ker p=\operatorname{im}iに属する。したがってV=im⁡i+CV=\operatorname{im}i+Cである。x∈im⁡i∩Cx\in\operatorname{im}i\cap Cならp(x)=0p(x)=0であり、p∣Cp|_Cは単射なのでx=0x=0である。よって直和である。

(2)⇒\Rightarrow(1)を示す。p∣Cp|_Cの逆写像W→CW\to Cと包含写像C↪VC\hookrightarrow Vの合成をssとすればp∘s=id⁡Wp\circ s=\operatorname{id}_Wである。

(1)⇔\Leftrightarrow(3)を示す。切断ssがあれば、上で示したV=im⁡i⊕im⁡sV=\operatorname{im}i\oplus\operatorname{im}sとi,si,sの単射性によりΦ(u,w)=i(u)+s(w)\Phi(u,w)=i(u)+s(w)は全単射である。線形性も定義から従う。逆に(3)には切断の存在が含まれている。

(1)⇒\Rightarrow(4)を示す。分解v=i(u)+s(w)v=i(u)+s(w)は一意なのでr(v)=ur(v)=uと定めると、rrは線形でr∘i=id⁡Ur\circ i=\operatorname{id}_Uを満たす。(4)⇒\Rightarrow(2)を示す。C=ker⁡rC=\ker rとする。任意のv∈Vv\in Vは

v=i(r(v))+(v−i(r(v)))v=i(r(v))+\bigl(v-i(r(v))\bigr)

と書け、第二項はker⁡r\ker rに属する。i(u)∈ker⁡ri(u)\in\ker rならu=r(i(u))=0u=r(i(u))=0なので和は直和である。p∣Cp|_Cの核はC∩ker⁡p=C∩im⁡i={0}C\cap\ker p=C\cap\operatorname{im}i=\{0\}である。またw∈Ww\in Wに対してp(v)=wp(v)=wとなるvvを取り、c=v−i(r(v))∈Cc=v-i(r(v))\in Cとすればp(c)=wp(c)=wなので、p∣Cp|_Cは全射でもある。したがって同型である。▨

定理 2.3. 可換体KK上の線形空間の任意の短完全列は分裂する。

証明.0→U→iV→pW→00\to U\xrightarrow{i}V\xrightarrow{p}W\to0を短完全列とする。im⁡i\operatorname{im}iの基底をVVの基底へ延長し、追加した基底ベクトルが張る部分空間をCCとする。基底の構成からV=im⁡i⊕CV=\operatorname{im}i\oplus Cである。定理 2.2の証明と同様に、p∣Cp|_Cの核はC∩ker⁡p=C∩im⁡i={0}C\cap\ker p=C\cap\operatorname{im}i=\{0\}である。任意のw∈Ww\in Wに対してp(v)=wp(v)=wとなるv∈Vv\in Vを取り、直和分解v=i(u)+cv=i(u)+cを用いるとp(c)=wp(c)=wとなるのでp∣Cp|_Cは全射である。したがってp∣Cp|_Cは同型であり、短完全列は分裂する。▨

例 2.4 (分裂は一意でも自然でもない). 短完全列

0⟶K→iK2→pK⟶0,i(x)=(x,0),p(x,y)=y0\longrightarrow K\xrightarrow{i}K^2\xrightarrow{p}K\longrightarrow0,\qquad i(x)=(x,0),\quad p(x,y)=y

を考える。各a∈Ka\in Kに対してsa(t)=(at,t)s_a(t)=(at,t)とおくとp(sa(t))=tp(s_a(t))=tなので、全てのsas_aが切断である。KKが二つ以上の元をもつため、切断は一意でない。

さらに各c∈Kc\in Kに対してFc(x,y)=(x+cy,y)F_c(x,y)=(x+cy,y)とおくと、Fc∘i=iF_c\circ i=iかつp∘Fc=pp\circ F_c=pである。したがってFcF_cは短完全列の両端を固定する自己同型である。ところがFc∘sa=sa+cF_c\circ s_a=s_{a+c}である。全ての自己同型FcF_cによって固定される切断は存在しないので、この短完全列のデータだけから自己同型と両立する切断を選ぶことはできない。

3 演習

問題 3.1 (分裂証明の再構成). 切断ssからV=ker⁡p⊕im⁡sV=\ker p\oplus\operatorname{im}sを示すとき、任意のv∈Vv\in Vを二つの成分へ分ける式と、交わりが零であることを示す一手を書け。

解答.

分解式はv=(v−s(p(v)))+s(p(v))v=(v-s(p(v)))+s(p(v))である。第一項にppを施すと零なのでker⁡p\ker pに属し、第二項はim⁡s\operatorname{im}sに属する。x∈ker⁡p∩im⁡sx\in\ker p\cap\operatorname{im}sをx=s(w)x=s(w)と書くと、0=p(x)=p(s(w))=w0=p(x)=p(s(w))=wなのでx=s(0)=0x=s(0)=0である。▨

参考文献

  1. Serge Lang, Algebra, revised 3 ed., Graduate Texts in Mathematics, Springer, New York, 2002.線形空間と加群の完全列、分裂完全列を参考にした。
  2. Charles A. Weibel, An Introduction to Homological Algebra, Cambridge University Press, 1994.完全性、切断、左逆写像による分裂の同値条件を参考にした。

前提記事