1 任意標数における定義
偏極形式は加法の可換性から対称である。また
bq(x,x)=q(2x)−2q(x)=2q(x)
である。最後の等式は任意標数で成り立つが、qをbqから復元するには2が可逆でなければならない。
定義 1.2. 双線形形式Bの 根基 (radical) を
rad(B)={x∈V∣B(x,y)=0 が全ての y∈V について成立する}と定める。rad(B)={0}のときBは 非退化 (nondegenerate) であり、それ以外のとき退化 (degenerate) しているという。
二次形式qについて、本記事では偏極形式bqの退化性をqの退化性 (degeneracy) と呼ぶ。0=x∈Vがq(x)=0を満たすとき、xを 等方ベクトル (isotropic vector) といい、そのようなベクトルが存在する二次形式を 等方的 (isotropic) という。非零の等方ベクトルをもたない二次形式を 非等方的 (anisotropic) という。
標数2ではbq(x,x)=0が全てのxについて成立する一方、qは根基上でも非零になり得る。したがって、標数2の二次形式について「退化」を用いるときは、偏極形式の根基を指すことを明示する必要がある。
定義 1.3.q:V→Kとq′:W→Kを二次形式とする。線形同型S:V→Wが
q′(Sx)=q(x)(x∈V)を満たすとき、qとq′は 等長 (isometric) であるという。
二つの正方行列A,A′について、ある可逆行列Pが存在して
A′=PTAPとなるとき、AとA′は 合同 (congruent) であるという。標数が2でない場合、対称双線形形式の基底変更は表現行列を合同な行列へ移す。
証明.E-座標を列ベクトルで表すとB(x,y)=xTAyである。F-座標をx′,y′とすればx=Px′、y=Py′なので
B(x,y)=(Px′)TA(Py′)=(x′)T(PTAP)y′.したがって新しい表現行列はPTAPである。▨
2 標数が 2 でない場合の偏極
命題 2.1.Kの標数が2でないとする。二次形式qに対して
Bq(x,y)=21(q(x+y)−q(x)−q(y))=21bq(x,y)と置くと、Bqは対称双線形形式であり
q(x)=Bq(x,x)を満たす。逆に、対称双線形形式Bに対してqB(x)=B(x,x)と置けば二次形式になり、二つの構成は互いに逆である。
証明方針は、二次形式の定義からbqの対称双線形性を用い、bq(x,x)=2q(x)を2で割ることである。逆向きでは双線形性を展開して偏極形式を計算する。
証明.bqは定義により双線形であり、bq(x,y)=bq(y,x)なのでBq=21bqは対称双線形形式である。また
Bq(x,x)=21bq(x,x)=21⋅2q(x)=q(x).対称双線形形式Bに対しqB(x)=B(x,x)と置くと
qB(ax)=B(ax,ax)=a2qB(x)であり、
bqB(x,y)=B(x+y,x+y)−B(x,x)−B(y,y)=B(x,y)+B(y,x)=2B(x,y).したがってbqBは双線形であり、qBは二次形式である。さらにBqB=21bqB=Bであり、前半からqBq=qである。よって二つの構成は互いに逆である。▨
例 2.2 (標数 2 で偏極が情報を失う).K=F2、V=Kとし、
q(x)=x2と置く。q(ax)=a2q(x)であり、
bq(x,y)=(x+y)2−x2−y2=2xy=0.したがってqは非零の二次形式であるが、その偏極形式は零である。零二次形式も同じ偏極形式をもつため、bqからqを復元することはできない。また、この規約ではqは偏極形式の意味で退化しているがq(1)=1である。実際、rad(bq)=Vである一方、qの根基への制限は零写像ではない。
3 対称双線形形式の対角化
定理 3.1.Kの標数が2でないとし、Vを有限次元K-線形空間とする。任意の対称双線形形式Bに対して、Vの基底(e1,…,en)で
B(ei,ej)=0(i=j)となるものが存在する。したがって、対応する二次形式は
q(x1e1+⋯+xnen)=a1x12+⋯+anxn2と表される。Bが退化している場合には、一部のaiは零になり得る。
証明方針は、B=0ならB(v,v)=0となるベクトルを偏極によって見つけ、そのベクトルが張る一次元空間と直交補空間の直和へ分けて次元について帰納することである。
証明.n=dimVについて帰納法を用いる。n=0では空基底について成立する。B=0なら任意の基底が条件を満たす。B=0とする。もし全てのv∈VについてB(v,v)=0なら、命題 2.1をq(v)=B(v,v)に適用してB=0を得るため矛盾する。したがってB(v,v)=0となるv∈Vが存在する。
W=v⊥={x∈V∣B(v,x)=0}と置く。x↦B(v,x)はvで非零値を取る線形汎関数なので、その核Wは余次元1である。またB(v,v)=0なのでv∈/Wであり、
V=Kv⊕W.B∣W×Wは対称双線形形式である。帰納法の仮定によりWにはB-直交基底が存在する。その基底の前にvを置けばVのB-直交基底になる。各ai=B(ei,ei)と置くと二次形式の表示も従う。▨
例 3.2 (退化性と等方性は異なる).K=R上の
q(x,y)=x2−y2を考える。対応する対称双線形形式の行列はdiag(1,−1)で可逆なので、qは非退化である。一方、
q(1,1)=0であるため(1,1)は非零の等方ベクトルであり、qは等方的である。非退化性は偏極形式の根基に関する条件であり、非等方性とは異なる。
4 演習
問題 4.1 (仮定の使用箇所).命題 2.1と定理 3.1で標数が2でないという仮定を用いる箇所は、bqを2で割る箇所、およびB(v,v)=0が全てのvについて成立することからB=0を導く箇所である。二次形式、偏極形式、等方性、および合同の定義そのものには、標数が2でないという仮定を置いていない。