1 核の増大列
定義 1.1.Kを可換体、Vを有限次元K-線形空間、T∈EndK(V)とし、n=dimKVと置く。λ∈Kに対し
Gλ(T)=ker(T−λI)nをλに対応する一般固有空間 (generalized eigenspace) という。
補題 1.2.Kを可換体、Vをn次元K-線形空間、N∈EndK(V)とする。増大列
kerN⊆kerN2⊆⋯について、kerNk=kerNk+1が一度成り立てば、それ以降の全ての核は等しい。特に、
kerNn=kerNn+1=⋯である。
証明.kerNk=kerNk+1と仮定する。x∈kerNk+2ならNx∈kerNk+1=kerNkなので、Nk+1x=0である。したがってx∈kerNk+1であり、逆の包含は常に成り立つからkerNk+1=kerNk+2となる。この議論を繰り返せば、それ以降の核は全て等しい。
kerNj⊊kerNj+1であるたびに次元は少なくとも1増える。次元はn以下なので、n番目までには等号が生じる。よってkerNn以降は一定である。▨
命題 1.3.Kを可換体、Vを有限次元K-線形空間、T∈EndK(V)、λ∈Kとする。各k≥1に対してker(T−λI)kはT-不変である。したがってGλ(T)もT-不変であり、T−λIのGλ(T)への制限は冪零である。
証明.Tと(T−λI)kは可換する。x∈ker(T−λI)kなら
(T−λI)kTx=T(T−λI)kx=0なので、Txも同じ核に属する。特にGλ(T)は不変であり、その上では(T−λI)n=0である。▨
2 固有値ごとの直和分解
定理 2.1.Kを可換体、Vを有限次元K-線形空間、T∈EndK(V)とする。Tの特性多項式が
χT(t)=i=1∏r(t−λi)aiとK[t]で分解するとする。ここでλ1,…,λrは相異なり、ai≥1である。このとき
V=Gλ1(T)⊕⋯⊕Gλr(T)であり、
dimKGλi(T)=aiが各iについて成り立つ。
証明. 最小多項式は特性多項式を割り、§E3.22 定理 2.1により両者の根は一致するので、正整数eiを用いて
mT(t)=i=1∏r(t−λi)ei,1≤ei≤aiと書くことができる。§E3.23 定理 1.1により
V=i=1⨁rker(T−λiI)ei.この直和の第j成分ではT=λjI+Njと書け、Njej=0である。j=iなら
T−λiI=(λj−λi)(I+λj−λiNj)であり、括弧内の逆写像は有限幾何級数で与えられる。したがってT−λiIは第j成分上で可逆である。一方、第i成分上では(T−λiI)ei=0である。よってk≥eiに対して
ker(T−λiI)k=ker(T−λiI)ei.ei≤ai≤nなので、右辺はGλi(T)である。これにより、表示した一般固有空間の直和分解を得る。
次元を求める。Wi=Gλi(T)、Ni=(T−λiI)∣Wiと置くとNiは冪零である。冪零指数をqとすれば
(I−sNi)−1=I+sNi+⋯+sq−1Niq−1がK[s]上で成り立つ。したがってdet(I−sNi)はK[s]の単元であり、s=0での値が1なので恒等的に1である。di=dimWiとすると
χT∣Wi(t)=det((t−λi)I−Ni)=(t−λi)di.直和に適合する基底ではTの行列はブロック対角形であるから
χT(t)=i=1∏rχT∣Wi(t)=i=1∏r(t−λi)di.相異なる一次因子の指数を比較してdi=aiを得る。▨
直和分解により、一般の作用素を固有値ごとの作用素へ分けることができる。各成分上の作用素は
T∣Gλ(T)=λI+Nλ
と書け、Nλは冪零である。後続の記事では、この冪零部分の構造を調べる。
3 計算例
例 3.1 (固有空間では足りない例).V=C3とし、
A=200120002とする。固有値2の代数的重複度は3である。一方、
A−2I=000100000なので
ker(A−2I)=span(e1,e3)は二次元である。しかし(A−2I)2=0であるから
G2(A)=ker(A−2I)3=C3.一般固有空間の次元は代数的重複度3と一致する。
例 3.2 (射影作用素の構成).
A=2000120000210005とする。特性多項式は(t−2)3(t−5)である。
f1(t)=t−5,f2(t)=(t−2)3に対し、
g1(t)=27−t2+t−7,g2(t)=271と置くと、直接展開することにより
g1f1+g2f2=1を確認することができる。一次分解の射影作用素
P1=g1(A)f1(A),P2=g2(A)f2(A)は
P1=10000100001−310000,P2=00000000000310001となる。行列積を計算すると
P1+P2=I,Pi2=Pi,P1P2=P2P1=0である。さらにrankP1=3、rankP2=1なので、それぞれの像がG2(A)とG5(A)を与える。
4 演習
問題 4.1 (核の段階とブロックの情報). 上の三次行列について
dimker(A−2I)=2,dimker(A−2I)2=3である。第一の次元だけでは空間全体を分解することができないが、第二段階で核が全空間に達する。この差は、固有値2に対して長さが2の冪零鎖が存在することを表す。