§E3.22最小多項式

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有限次元自己準同型TTを零へ送る多項式全体はK[t]K[t]のイデアルをなす。K[t]K[t]では全てのイデアルが一つの多項式で生成されるため、零化イデアルにはただ一つのモニック生成元がある。この生成元が最小多項式mTm_Tである。Cayley–Hamilton の定理によりmTm_Tは特性多項式を割り、TTの対角化可能性はmTm_Tが相異なる一次因子の積であることによって判定される。

1 零化イデアルの生成元

定義 1.1.T:V→VT:V\to Vの零化イデアル

Ann⁡(T)={p∈K[t]:p(T)=0}\operatorname{Ann}(T)=\{p\in K[t]:p(T)=0\}

のただ一つのモニック生成元をTTの最小多項式 (minimal polynomial) といい、mT(t)m_T(t)と書く。

命題 1.2. 最小多項式は存在して一意である。任意のp∈K[t]p\in K[t]について

p(T)=0⟺mT∣pp(T)=0\quad\Longleftrightarrow\quad m_T\mid p

が成り立つ。

証明.§E3.21 定理 2.1によりχT≠0\chi_T\ne0はχT(T)=0\chi_T(T)=0を満たすので、Ann⁡(T)\operatorname{Ann}(T)は零でない。零でない零化多項式のうち次数が最小であるものを取り、最高次係数で割ってモニックにしたものをmmとする。

p(T)=0p(T)=0とし、多項式の除法でp=qm+rp=qm+r、deg⁡r<deg⁡m\deg r<\deg mと書く。作用素へ評価すると0=p(T)=q(T)m(T)+r(T)=r(T)0=p(T)=q(T)m(T)+r(T)=r(T)となる。r≠0r\ne0なら、最高次係数で割ることによりmmより低い次数のモニック零化多項式を得て最小性に反する。したがってr=0r=0であり、m∣pm\mid pである。逆にm∣pm\mid pなら積の評価からp(T)=0p(T)=0となる。よってAnn⁡(T)=(m)\operatorname{Ann}(T)=(m)である。二つのモニック生成元は互いに割り合い、最高次係数も同じなので一致する。▨

系 1.3.

mT∣χTm_T\mid\chi_T

が成り立つ。

証明. Cayley–Hamilton の定理によりχT(T)=0\chi_T(T)=0である。命題 1.2の割り切り条件をp=χTp=\chi_Tに適用する。▨

2 根と係数拡大

定理 2.1.λ∈K\lambda\in Kについて

mT(λ)=0⟺χT(λ)=0⟺λ は T の固有値m_T(\lambda)=0 \quad\Longleftrightarrow\quad \chi_T(\lambda)=0 \quad\Longleftrightarrow\quad \lambda\text{ は }T\text{ の固有値}

が成り立つ。

証明.系 1.3によりmT(λ)=0m_T(\lambda)=0ならχT(λ)=0\chi_T(\lambda)=0である。§E3.20 命題 3.1により、χT(λ)=0\chi_T(\lambda)=0とλ\lambdaが固有値であることは同値である。最後にλ\lambdaを固有値とし、0≠v0\ne vを対応する固有ベクトルとする。任意の多項式ppについてp(T)v=p(λ)vp(T)v=p(\lambda)vである。p=mTp=m_Tとすると左辺は零なのでmT(λ)v=0m_T(\lambda)v=0となり、v≠0v\ne0からmT(λ)=0m_T(\lambda)=0を得る。▨

命題 2.2.L/KL/Kを体拡大とし、TL:VL→VLT_L:V_L\to V_Lを係数拡大とする。mTm_Tの係数をLLの元とみなすと

mTL=mTm_{T_L}=m_T

がL[t]L[t]の等式として成り立つ。したがって定理 2.1は任意の体拡大LLに属する根についても成り立つ。

証明.V={0}V=\{0\}ならmT=1m_T=1であり、係数拡大後も零空間なので主張は成立する。以下、V≠{0}V\ne\{0\}とする。d=deg⁡mTd=\deg m_Tとする。mT(TL)=0m_T(T_L)=0なので、mTLm_{T_L}の次数はdd以下である。一方、I,T,…,Td−1I,T,\ldots,T^{d-1}はKK上で一次独立である。もし非自明な関係があれば、次数がdd未満の非零零化多項式が得られ、mTm_Tの最小性に反する。

基底を選んで各TjT^jをKn2K^{n^2}の列ベクトルとみなす。KK成分の列ベクトルがKK上で一次独立なら、それらを列に並べた行列は階数ddの小行列式をもつ。その小行列式はKKの非零元であり、LLでも非零である。したがって同じ列はLL上でも一次独立である。よってI,TL,…,TLd−1I,T_L,\ldots,T_L^{d-1}はLL上で一次独立であり、TLT_Lには次数dd未満の非零零化多項式がない。mTLm_{T_L}とmTm_Tはともに次数ddのモニック零化多項式なので一致する。

LL上で定理 2.1の証明をTLT_Lに適用し、§E3.20 命題 3.3と上の等式を用いれば、LLに属する根についても同じ同値を得る。▨

3 巡回部分空間

命題 3.1.v∈Vv\in Vとし、Cv=K[T]vC_v=K[T]vとする。§E3.18 命題 3.3のモニック多項式cvc_vは、制限作用素T∣CvT|_{C_v}の最小多項式である。またcv∣mTc_v\mid m_Tである。

証明.p(T∣Cv)=0p(T|_{C_v})=0であるための必要十分条件は、CvC_vの生成元vvに対してp(T)v=0p(T)v=0であることである。実際、後者が成り立てば任意のq(T)v∈Cvq(T)v\in C_vについてp(T)q(T)v=q(T)p(T)v=0p(T)q(T)v=q(T)p(T)v=0となる。§E3.18 命題 3.3によりp(T)v=0p(T)v=0であるための必要十分条件はcv∣pc_v\mid pなので、cvc_vは制限の最小多項式である。mT(T)v=0m_T(T)v=0であるから同じ割り切り条件によりcv∣mTc_v\mid m_Tとなる。▨

命題 3.2.v1,…,vnv_1,\ldots,v_nをVVの基底とし、各cvic_{v_i}を§E3.18 命題 3.3の多項式とする。このとき

mT=lcm⁡(cv1,…,cvn)m_T=\operatorname{lcm}(c_{v_1},\ldots,c_{v_n})

である。ただし最小公倍多項式はモニックに取る。

証明. 多項式ppがTTを零化するための必要十分条件はp(T)vi=0p(T)v_i=0が全ての基底ベクトルについて成り立つことである。各iiについて、この条件はcvi∣pc_{v_i}\mid pと同値である。したがって零化多項式全体は、全てのcvic_{v_i}の公倍多項式全体であり、そのモニック最小次数の元は最小公倍多項式である。零化イデアルのモニック生成元の一意性から表示式を得る。▨

4 対角化可能性

定理 4.1.TTがKK上で対角化可能であるための必要十分条件は、最小多項式が

mT(t)=∏i=1r(t−λi)m_T(t)=\prod_{i=1}^{r}(t-\lambda_i)

という相異なるλi∈K\lambda_i\in Kに対する一次因子の積になることである。

証明.V={0}V=\{0\}ではmT=1m_T=1は空積であり、空基底によってTTは対角表示をもつ。以下、V≠{0}V\ne\{0\}とする。TTが対角化可能とし、相異なる固有値をλ1,…,λr\lambda_1,\ldots,\lambda_rとする。固有ベクトル基底上では∏i(T−λiI)=0\prod_i(T-\lambda_iI)=0なので、mTm_Tは∏i(t−λi)\prod_i(t-\lambda_i)を割る。一方、定理 2.1により各λi\lambda_iはmTm_Tの根である。したがってmT=∏i(t−λi)m_T=\prod_i(t-\lambda_i)である。

逆に表示した分解を仮定する。

ei(t)=∏j≠it−λjλi−λje_i(t)=\prod_{j\ne i}\frac{t-\lambda_j}{\lambda_i-\lambda_j}

とおく。∑iei(t)\sum_ie_i(t)は次数がrr未満で、各λk\lambda_kで値11を取るため、相異なるrr個の根をもつ多項式∑iei(t)−1\sum_ie_i(t)-1は零多項式である。したがってI=∑iei(T)I=\sum_ie_i(T)である。任意のv∈Vv\in Vをv=∑iviv=\sum_iv_i、vi=ei(T)vv_i=e_i(T)vと分けると

(T−λiI)vi=mT(T)∏j≠i(λi−λj)v=0.(T-\lambda_iI)v_i =\frac{m_T(T)}{\prod_{j\ne i}(\lambda_i-\lambda_j)}v=0.

したがって各viv_iはλi\lambda_iの固有空間に属する。VVは固有空間の和で生成されるので、各固有空間の基底を合わせると固有ベクトル基底を得る。よってTTは対角化可能である。▨

例 4.2 (同じ特性多項式と異なる最小多項式).

A=(2102),B=2I2A=\begin{pmatrix}2&1\\0&2\end{pmatrix},\qquad B=2I_2

はいずれも特性多項式(t−2)2(t-2)^2をもつ。A−2I≠0A-2I\ne0かつ(A−2I)2=0(A-2I)^2=0なのでmA=(t−2)2m_A=(t-2)^2であり、AAは対角化可能でない。一方B−2I=0B-2I=0なのでmB=t−2m_B=t-2であり、BBは対角化可能である。特性多項式だけでは対角化可能性を判定することはできない。

例 4.3 (代数的重複度と幾何的重複度).

A=(2100020000210002)A=\begin{pmatrix} 2&1&0&0\\ 0&2&0&0\\ 0&0&2&1\\ 0&0&0&2 \end{pmatrix}

ではχA=(t−2)4\chi_A=(t-2)^4、mA=(t−2)2m_A=(t-2)^2である。A−2IA-2Iの核はe1,e3e_1,e_3が張る二次元空間なので、固有値22の代数的重複度は44、幾何的重複度は22である。最小多項式の二乗因子と固有空間の次元不足は、いずれも対角化が不可能であることを示す。

5 演習

問題 5.1 (対角化判定の証明確認). 逆向きの証明でvi=ei(T)vv_i=e_i(T)vがλi\lambda_iの固有空間に属することを示す式を再構成し、分母が零でない理由を述べよ。

解答.

定義から

(t−λi)ei(t)=∏j(t−λj)∏j≠i(λi−λj)=mT(t)∏j≠i(λi−λj).(t-\lambda_i)e_i(t) =\frac{\prod_j(t-\lambda_j)} {\prod_{j\ne i}(\lambda_i-\lambda_j)} =\frac{m_T(t)} {\prod_{j\ne i}(\lambda_i-\lambda_j)}.

TTを評価しvvに作用させると、mT(T)=0m_T(T)=0なので(T−λiI)vi=0(T-\lambda_iI)v_i=0となる。λi\lambda_iは相異なるため各λi−λj\lambda_i-\lambda_jは非零であり、体KKでは逆元をもつ。▨

参考文献

  1. Kenneth Hoffman and Ray Kunze, Linear Algebra, 2nd ed., Prentice Hall, Englewood Cliffs, N.J., 1971.最小多項式、巡回部分空間、対角化判定を参考にした。
  2. Steven Roman, Advanced Linear Algebra, 3rd ed., Graduate Texts in Mathematics, Springer, New York, 2008.零化イデアルと係数拡大に対する最小多項式を参考にした。

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