§E3.13対称冪

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以下、KKを可換体、VVをKK上の線形空間とする。非負整数rrに対してSrS_rをrr次対称群とし、r=1r=1ではS1={id⁡}S_1=\{\operatorname{id}\}とPid⁡=id⁡VP_{\operatorname{id}}=\operatorname{id}_Vと定める。r≥2r\ge2とσ∈Sr\sigma\in S_rに対しては、Pσ:V⊗r→V⊗rP_\sigma:V^{\otimes r}\to V^{\otimes r}を§E3.12 定理 3.1の置換作用素とする。対称多重線形写像は、入力の順序を変更しても値が変わらない。rr次対称冪Sym⁡r(V)\operatorname{Sym}^r(V)は、V⊗rV^{\otimes r}で因子の順序だけが異なるテンソルを同一視して得られる。この商構成は係数体の標数に依存せず、対称化のためにr!r!で割る必要がない。

1 対称冪の構成

定義 1.1.r≥1r\ge1とし、V⊗rV^{\otimes r}の部分空間

Rr=span⁡{Pσz−z:σ∈Sr, z∈V⊗r}R_r=\operatorname{span}\{P_\sigma z-z:\sigma\in S_r,\ z\in V^{\otimes r}\}

を取る。商線形空間

Sym⁡r(V)=V⊗r/Rr\operatorname{Sym}^r(V)=V^{\otimes r}/R_r

をVVの rr次対称冪 (rr-th symmetric power) という。純テンソルv1⊗⋯⊗vrv_1\otimes\cdots\otimes v_rの像をv1⋯vrv_1\cdots v_rと書く。Sym⁡0(V)=K\operatorname{Sym}^0(V)=Kと定める。

商の定義から、任意の置換σ\sigmaについて

v1⋯vr=vσ(1)⋯vσ(r)v_1\cdots v_r=v_{\sigma(1)}\cdots v_{\sigma(r)}

である。積の記号は因子の順序を記録しないが、各変数について線形である。

定理 1.2.r≥1r\ge1とする。対称rr重線形写像B:Vr→WB:V^r\to Wに対し、

B~:Sym⁡r(V)→W,B~(v1⋯vr)=B(v1,…,vr)\widetilde B:\operatorname{Sym}^r(V)\to W,\qquad \widetilde B(v_1\cdots v_r)=B(v_1,\ldots,v_r)

を満たす線形写像がただ一つ存在する。

証明.r=1r=1ではR1=0R_1=0なのでSym⁡1(V)=V\operatorname{Sym}^1(V)=Vと標準的に同一視することができ、B~=B\widetilde B=Bとすればよい。以下、r≥2r\ge2とする。テンソル積の普遍性により、BBは線形写像L:V⊗r→WL:V^{\otimes r}\to W、L(v1⊗⋯⊗vr)=B(v1,…,vr)L(v_1\otimes\cdots\otimes v_r)=B(v_1,\ldots,v_r)を定める。BBは対称なので、純テンソルzzについてL(Pσz−z)=0L(P_\sigma z-z)=0である。純テンソルはテンソル冪を生成するため、任意のzzについて同じ式が成り立ち、Rr⊆ker⁡LR_r\subseteq\ker Lとなる。したがってLLは商へ降下してB~\widetilde Bを定める。Sym⁡r(V)\operatorname{Sym}^r(V)はv1⋯vrv_1\cdots v_rの形の元によって生成されるため、この条件を満たす線形写像は一意である。▨

2 基底と次元

定理 2.1.VVをnn次元とし、(e1,…,en)(e_1,\ldots,e_n)を基底とする。r=0r=0ではSym⁡0(V)=K\operatorname{Sym}^0(V)=Kであり、空積11だけからなる集合が基底なのでdim⁡Sym⁡0(V)=1\dim\operatorname{Sym}^0(V)=1である。

r≥1r\ge1のとき、非負整数a1,…,ana_1,\ldots,a_nでa1+⋯+an=ra_1+\cdots+a_n=rを満たすものに対する

e1a1⋯enane_1^{a_1}\cdots e_n^{a_n}

の全体はSym⁡r(V)\operatorname{Sym}^r(V)の基底である。したがって

dim⁡Sym⁡r(V)=(n+r−1r).\dim\operatorname{Sym}^r(V)=\binom{n+r-1}{r}.

証明.r=0r=0の主張はSym⁡0(V)=K\operatorname{Sym}^0(V)=Kの定義から従う。以下、r≥1r\ge1とする。n=0n=0ならV={0}V=\{0\}なのでV⊗r={0}V^{\otimes r}=\{0\}であり、Sym⁡r(V)={0}\operatorname{Sym}^r(V)=\{0\}である。この場合、表示した単項式の集合は空で、(r−1r)=0\binom{r-1}{r}=0なので主張が成り立つ。以下、n≥1n\ge1とする。

V⊗rV^{\otimes r}の基底テンソルei1⊗⋯⊗eire_{i_1}\otimes\cdots\otimes e_{i_r}の像は、商で因子を並べ替えることによりe1a1⋯enane_1^{a_1}\cdots e_n^{a_n}の形になる。したがって表示した元は対称冪を生成する。

一次独立性を示す。多項式環K[x1,…,xn]K[x_1,\ldots,x_n]の次数rrの斉次部分をK[x1,…,xn]rK[x_1,\ldots,x_n]_rとする。写像

(v1,…,vr)⟼(∑i(v1)ixi)⋯(∑i(vr)ixi)(v_1,\ldots,v_r)\longmapsto \left(\sum_i(v_1)_ix_i\right)\cdots \left(\sum_i(v_r)_ix_i\right)

はK[x1,…,xn]rK[x_1,\ldots,x_n]_rに値を取る対称rr重線形写像である。定理 1.2により線形写像Φ:Sym⁡r(V)→K[x1,…,xn]r\Phi:\operatorname{Sym}^r(V)\to K[x_1,\ldots,x_n]_rを定め、

Φ(e1a1⋯enan)=x1a1⋯xnan\Phi(e_1^{a_1}\cdots e_n^{a_n})=x_1^{a_1}\cdots x_n^{a_n}

を満たす。右辺は多項式環の相異なる単項式であり一次独立なので、左辺も一次独立である。

非負整数解a1+⋯+an=ra_1+\cdots+a_n=rの個数は、rr個の印とn−1n-1個の仕切りを並べる対応により(n+r−1r)\binom{n+r-1}{r}である。よって次元公式を得る。▨

例 2.2 (二次対称冪).V=K2V=K^2の基底をe1,e2e_1,e_2とする。Sym⁡2(V)\operatorname{Sym}^2(V)の基底は

e12,e1e2,e22e_1^2,\quad e_1e_2,\quad e_2^2

であり、次元は(32)=3\binom{3}{2}=3である。商ではe1e2=e2e1e_1e_2=e_2e_1となる。標数22でもこの等式と基底は変わらない。

3 対称代数

定義 3.1. 単位元をもつ結合的KK-代数 (unital associativeKK-algebra) とは、KK-線形空間AAと双線形写像

A×A→A,(a,b)⟼abA\times A\to A,\qquad (a,b)\longmapsto ab

の組であって、任意のa,b,c∈Aa,b,c\in Aに対して(ab)c=a(bc)(ab)c=a(bc)を満たし、さらに1Aa=a1A=a1_Aa=a1_A=aを満たす元1A∈A1_A\in Aをもつものをいう。ab=baab=baが全てのa,b∈Aa,b\in Aについて成り立つとき、AAを可換KK-代数 (commutativeKK-algebra) という。

単位元をもつ結合的KK-代数A,BA,Bの間の写像φ:A→B\varphi:A\to BがKK-線形であり、

φ(ab)=φ(a)φ(b),φ(1A)=1B\varphi(ab)=\varphi(a)\varphi(b),\qquad \varphi(1_A)=1_B

を満たすとき、φ\varphiを単位的KK-代数準同型 (unitalKK-algebra homomorphism) という。

定義 3.2.KK-線形空間VVに対し、

T(V)=⨁r≥0V⊗r,V⊗0=KT(V)=\bigoplus_{r\ge0}V^{\otimes r}, \qquad V^{\otimes0}=K

と置く。この直和の元は、有限個のrrを除いてzr=0z_r=0となる族(zr)r≥0(z_r)_{r\ge0}であり、和とスカラー倍は各成分で定める。純テンソルに対して

(v1⊗⋯⊗vp)(w1⊗⋯⊗wq)=v1⊗⋯⊗vp⊗w1⊗⋯⊗wq(v_1\otimes\cdots\otimes v_p)(w_1\otimes\cdots\otimes w_q) =v_1\otimes\cdots\otimes v_p\otimes w_1\otimes\cdots\otimes w_q

と定め、この積を双線形に延長する。各元が有限個の次数成分しかもたないため、積も有限和として定まる。この積は結合的であり、K=V⊗0K=V^{\otimes0}の元11が単位元になる。定義 3.1の意味で得られる単位元をもつ結合的KK-代数をVVのテンソル代数 (tensor algebra) という。

定義 3.3.AAを単位元をもつ結合的KK-代数とする。KK-部分空間I⊆AI\subseteq Aが、任意のa∈Aa\in Aとx∈Ix\in Iに対して

ax∈I,xa∈Iax\in I,\qquad xa\in I

を満たすとき、IIをAAの両側イデアル (two-sided ideal) という。部分集合S⊆AS\subseteq Aを含む両側イデアル全体の共通部分を、SSが生成する両側イデアル (two-sided ideal generated by a subset) という。

両側イデアルIIに対し、商線形空間A/IA/I上の積を

(a+I)(b+I)=ab+I(a+I)(b+I)=ab+I

で定める。代表元をa+xa+x、b+yb+y(x,y∈Ix,y\in I)へ変更したときの積の差はay+xb+xy∈Iay+xb+xy\in Iなので、この積は代表元に依存せず定まる。A/IA/Iは単位元1A+I1_A+Iをもつ結合的KK-代数になり、AAの商代数 (quotient algebra) という。

定義 3.4.定義 3.2のテンソル代数T(V)T(V)において、u⊗v−v⊗uu\otimes v-v\otimes u(u,v∈Vu,v\in V)全体が生成する定義 3.3の意味での両側イデアルをIIとする。商代数

Sym⁡(V)=T(V)/I\operatorname{Sym}(V)=T(V)/I

をVVの対称代数 (symmetric algebra) という。次数rrの部分はSym⁡r(V)\operatorname{Sym}^r(V)と標準的に同型である。

命題 3.5. イデアルIIは次数ごとの直和に分かれ、I0=0I_0=0である。各r≥1r\ge1について、次数rrの部分IrI_rは定義 1.1のRrR_rに一致する。したがって

Sym⁡(V)=⨁r≥0Sym⁡r(V)\operatorname{Sym}(V)=\bigoplus_{r\ge0}\operatorname{Sym}^r(V)

である。

証明.IIの生成元u⊗v−v⊗uu\otimes v-v\otimes uは次数22の斉次な元である。左右から斉次テンソルを掛けた元も斉次であるため、IIは次数ごとの直和に分かれ、I0=I1=0I_0=I_1=0である。r=1r=1ではS1S_1が恒等置換だけからなるためR1=0=I1R_1=0=I_1である。以下、r≥2r\ge2とする。次数rrのIrI_rは、基底に依存せず

z−P(j j+1)z(1≤j<r, z∈V⊗r)z-P_{(j\ j+1)}z\qquad(1\le j<r,\ z\in V^{\otimes r})

という隣接する二因子の交換差によって生成される。これはRrR_rに含まれる。

逆に任意の置換σ\sigmaを隣接互換の積σ=τm⋯τ1\sigma=\tau_m\cdots\tau_1と書くと、

Pσz−z=∑k=1m(Pτk⋯τ1z−Pτk−1⋯τ1z),P_\sigma z-z =\sum_{k=1}^{m} \bigl(P_{\tau_k\cdots\tau_1}z-P_{\tau_{k-1}\cdots\tau_1}z\bigr),

ただしk=1k=1の第二項はzzとする。各差は、あるテンソルに隣接互換を施した差なのでIrI_rに属する。したがってRr⊆IrR_r\subseteq I_rであり、Ir=RrI_r=R_rとなる。次数ごとに商を取ると表示した直和分解を得る。▨

定理 3.6.AAを単位元をもつ可換KK-代数とし、f:V→Af:V\to Aを線形写像とする。このとき、VVの像上でffと一致する単位的KK-代数準同型

f^:Sym⁡(V)→A\widehat f:\operatorname{Sym}(V)\to A

がただ一つ存在する。

証明.V⊗rV^{\otimes r}上で

v1⊗⋯⊗vr⟼f(v1)⋯f(vr)v_1\otimes\cdots\otimes v_r\longmapsto f(v_1)\cdots f(v_r)

と定める。テンソル積の普遍性により各次数で線形写像が定まり、それらを直和するとF:T(V)→AF:T(V)\to Aを得る。積の定義からFFは単位的代数準同型である。AAは可換なのでF(u⊗v−v⊗u)=f(u)f(v)−f(v)f(u)=0F(u\otimes v-v\otimes u)=f(u)f(v)-f(v)f(u)=0であり、I⊆ker⁡FI\subseteq\ker Fである。したがってFFは商Sym⁡(V)\operatorname{Sym}(V)へ降下してf^\widehat fを定める。

Sym⁡(V)\operatorname{Sym}(V)はVVの像によって代数として生成されるため、ffと一致する代数準同型の値は全ての積上で決まり、一意である。▨

4 標数と対称化作用素

命題 4.1.r≥1r\ge1とする。r!r!がKKで可逆であるとき、

Sym⁡r=1r!∑σ∈SrPσ\operatorname{Sym}_r=\frac1{r!}\sum_{\sigma\in S_r}P_\sigma

はV⊗rV^{\otimes r}上のべき等な線形写像であり、その像は全てのPσP_\sigmaに固定されるテンソルの部分空間に一致する。r!r!がKKで零または非可逆なら、この式を対称冪の定義に用いることはできない。

証明. 任意のτ∈Sr\tau\in S_rについて

PτSym⁡r=1r!∑σ∈SrPτσ=1r!∑ρ∈SrPρ=Sym⁡rP_\tau\operatorname{Sym}_r =\frac1{r!}\sum_{\sigma\in S_r}P_{\tau\sigma} =\frac1{r!}\sum_{\rho\in S_r}P_\rho =\operatorname{Sym}_r

である。したがって像の元は全ての置換で固定される。逆にzzが全ての置換で固定されるならSym⁡r(z)=1r!∑σz=z\operatorname{Sym}_r(z)=\frac1{r!}\sum_\sigma z=zである。よって像は固定部分空間に一致し、Sym⁡r\operatorname{Sym}_rは像上で恒等写像となるためSym⁡r2=Sym⁡r\operatorname{Sym}_r^2=\operatorname{Sym}_rである。式には(r!)−1(r!)^{-1}が必要なので、可逆でない場合には定義されない。▨

例 4.2 (標数 2 では平均を用いない).KKの標数を22とし、r=2r=2とする。12(id⁡+P)\frac12(\operatorname{id}+P)は12\frac12が存在しないため定義されない。一方、

Sym⁡2(V)=V⊗2/span⁡{Pz−z:z∈V⊗2}\operatorname{Sym}^2(V)=V^{\otimes2}/\operatorname{span}\{Pz-z:z\in V^{\otimes2}\}

という商は問題なく定義され、vw=wvvw=wvを満たす。対称冪の商構成は平均作用素を必要としない。

5 演習

問題 5.1 (対称冪の普遍性の確認). 対称多重線形写像BBから得る線形写像L:V⊗r→WL:V^{\otimes r}\to WがRrR_rを零へ送る理由を、純テンソルと一般のテンソルに分けて説明せよ。

解答.

純テンソルz=v1⊗⋯⊗vrz=v_1\otimes\cdots\otimes v_rについては、BBの対称性からL(Pσz)=B(vσ−1(1),…,vσ−1(r))=B(v1,…,vr)=L(z)L(P_\sigma z)=B(v_{\sigma^{-1}(1)},\ldots,v_{\sigma^{-1}(r)})=B(v_1,\ldots,v_r)=L(z)である。一般のzzは純テンソルの有限一次結合であり、LLとPσP_\sigmaの線形性によって同じ等式が成り立つ。したがってL(Pσz−z)=0L(P_\sigma z-z)=0であり、これらが生成するRrR_rはker⁡L\ker Lに含まれる。▨

参考文献

  1. Werner H. Greub, Multilinear Algebra, 2nd ed., Universitext, Springer, New York, 1978.対称冪、対称代数、普遍性、基底を参考にした。
  2. Nicolas Bourbaki, Algebra I, Chapters 1–3, Elements of Mathematics, Springer, Berlin, 1989.任意標数における対称代数の商構成を参考にした。

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