1 正作用素の正の平方根
係数体KをRまたはCとする。
定理 1.1.Vを有限次元K-内積空間、A∈End(V)を正作用素とする。このとき、一意な正作用素Bが存在して
B2=Aを満たす。このBをA1/2と書く。
証明方針は、有限次元スペクトル定理によってAを非負固有値の直交スペクトル分解へ書き、各固有値の非負平方根を取ることで存在を示す。一意性は、別の正の平方根がAと可換して各固有空間を保つことから示す。
証明.K=Cの場合は§E3.37 定理 2.1、K=Rの場合は§E3.37 定理 3.1により、Aの固有ベクトルからなる正規直交基底(e1,…,en)が存在する。正作用素の固有値は非負なので
Aei=λiei,λi≥0.Bei=λieiと定める。Bはこの正規直交基底で非負実対角行列として表されるため正作用素であり、B2ei=λiei=AeiなのでB2=Aである。
Cも正作用素でC2=Aを満たすとする。CA=C3=ACなので、CはAの各固有空間Eλ=ker(A−λI)を保つ。C∣Eλは正作用素である。実または複素のスペクトル定理をこの制限へ適用すると、EλにはCの正規直交固有基底が存在する。その固有値をμとすると、Cの正性からμ≥0であり、C2=Aからμ2=λである。したがってμ=λである。よってCは各Eλ上でλIに等しく、C=Bである。▨
系 1.2.Aを正作用素とする。このとき
kerA1/2=kerA,imA1/2=(kerA)⊥.
証明.定理 1.1で用いた正規直交固有基底において、Aの固有値λが零であることとA1/2の固有値λが零であることは同値である。よって二つの核は一致する。また自己随伴作用素Sについて
(imS)⊥=kerS∗=kerS.有限次元で両辺の直交補空間を取ればimS=(kerS)⊥である。S=A1/2として像の式を得る。▨
2 部分等長作用素
定義 2.1. 有限次元内積空間の間の線形写像U:V→Wが、
IU=(kerU)⊥への制限で内積を保つとき、Uを部分等長作用素 (partial isometry) という。IUをUの初期空間 (initial space)、imUを終空間 (final space) という。
部分等長作用素は初期空間上で単射であり、初期空間を終空間へ等長同型で移す。核上では零である。
命題 2.2.U:V→Wが部分等長作用素なら
U∗U=PIU,UU∗=PimU,ここで右辺は対応する部分空間への直交射影である。
証明.V=IU⊕kerUと直交分解する。x,y∈IUなら
⟨x,U∗Uy⟩=⟨Ux,Uy⟩=⟨x,y⟩,である。x∈kerUの場合にも⟨x,U∗Uy⟩=⟨Ux,Uy⟩=0=⟨x,y⟩である。したがって、この等式は全てのx∈Vについて成立し、内積の非退化性からU∗Uy=yである。y∈kerUならU∗Uy=0である。したがってU∗UはIU上で恒等写像、kerU上で零写像であり、PIUに等しい。
U∣IU:IU→imUは等長同型である。z=Uy∈imU、y∈IUに対して
UU∗z=UU∗Uy=Uy=z.z⊥imUなら⟨x,U∗z⟩=⟨Ux,z⟩=0が全てのx∈Vについて成立するのでU∗z=0である。したがってUU∗は終空間上で恒等写像、その直交補空間上で零写像であり、PimUに等しい。▨
3 極分解の存在
定理 3.1 (有限次元極分解).V,Wを有限次元実または複素内積空間、T:V→Wを線形写像とする。
∣T∣=(T∗T)1/2と置く。このとき、ただ一つの部分等長作用素U:V→Wが存在して
T=U∣T∣,kerU=kerTを満たす。Uの初期空間と終空間はそれぞれ
IU=(kerT)⊥,imU=imTである。
証明方針は、im∣T∣上でU(∣T∣x)=Txと定め、核の一致によって表示に依存せず定まることを示すことである。この写像が内積を保つことを∣T∣2=T∗Tから確認し、kerT上では零として延長する。
証明.T∗Tは正作用素なので、定理 1.1により∣T∣が存在する。任意のx∈Vに対し
∥Tx∥2=⟨x,T∗Tx⟩.したがってTx=0とT∗Tx=0は同値である。一方、∣T∣2=T∗Tと正性から
∣T∣2x=0⟺∥∣T∣x∥2=⟨x,∣T∣2x⟩=0⟺∣T∣x=0.よって
ker∣T∣=ker(T∗T)=kerT.im∣T∣上で
U0(∣T∣x)=Txと定める。∣T∣x=∣T∣yならx−y∈ker∣T∣=kerTなのでTx=Tyであり、U0は表示に依存せず定まる。線形性も定義式から従う。また任意のx,y∈Vに対して
⟨U0∣T∣x,U0∣T∣y⟩=⟨Tx,Ty⟩=⟨x,T∗Ty⟩=⟨x,∣T∣2y⟩=⟨∣T∣x,∣T∣y⟩.したがってU0はim∣T∣上の等長写像である。
系 1.2により
V=im∣T∣⊕⊥ker∣T∣.Uをim∣T∣上ではU0、ker∣T∣上では零として定める。このときUは初期空間im∣T∣=(kerT)⊥上で等長であり、kerU=kerTなので部分等長作用素である。定義からU∣T∣x=Txであり、終空間はimU=imTである。
一意性を示す。Uも同じ条件を満たすとする。z∈im∣T∣をz=∣T∣xと書けば
Uz=U∣T∣x=Tx=Uz.またkerU=kerT=ker∣T∣なので、二つの写像はker∣T∣上でともに零である。直交直和の両成分で一致するためU=Uである。▨
命題 3.2.T=UPとし、P:V→Vは正作用素、U:V→Wは部分等長作用素で
kerU=kerPを満たすとする。このとき
P=∣T∣であり、Uは定理 3.1の部分等長因子である。
証明.Pは自己随伴なのでimP=(kerP)⊥=IUである。命題 2.2からU∗U=PIUなので
T∗T=PU∗UP=PPIUP=P2.最後の等式ではimP⊆IUを用いた。正の平方根の一意性からP=(T∗T)1/2=∣T∣である。
さらに、Tx=0ならUPx=0なのでPx∈kerU=kerPである。一方Px∈imP=(kerP)⊥でもあるからPx=0である。よってkerT=kerP=kerUであり、定理 3.1の一意性からUも同定される。▨
系 3.3.V=Wとし、T∈End(V)が可逆であるとする。このとき
T=U∣T∣,U=T∣T∣−1であり、∣T∣は正かつ可逆、Uは複素数体上でユニタリ、実数体上で直交作用素である。
証明.kerT=0なのでker∣T∣=0であり、有限次元性から∣T∣は可逆である。極分解の式を右から∣T∣−1と合成するとU=T∣T∣−1を得る。Uの初期空間はV全体であり、終空間もimT=V全体なので、Uは全空間の等長同型である。§E3.35 定理 3.1により複素数体上ではユニタリ、実数体上では直交作用素である。▨
4 核がある場合
例 4.1 (階数が落ちる写像の極分解). 標準内積をもつR2上で
T=(−3000)とする。このとき
TTT=(9000),∣T∣=(3000),U=(−1000).Uは初期空間span{e1}上で内積を保ち、kerU=span{e2}=kerTである。またU∣T∣=Tである。Uは全空間では直交作用素ではなく、核上で零になる部分等長作用素である。
5 演習
問題 5.1 (部分等長因子の定義域). 極分解の構成でU0(∣T∣x)=Txと定めるとき、確認すべき条件は
∣T∣x=∣T∣y⟹Tx=Tyである。この含意は
x−y∈ker∣T∣=ker(T∗T)=kerTから従う。∣T∣が可逆であると仮定する必要はなく、核がある場合もim∣T∣=(kerT)⊥上で定義することができる。