§E3.6商空間と余核

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部分空間W⊆VW\subseteq Vによる商空間は、差がWWに属するベクトルを同一視して得られる線形空間である。商空間上の演算を定義するには、剰余類の代表元を変更しても結果が変わらないことを証明する必要がある。線形写像がWW上で零なら、その写像は商空間V/WV/W上のただ一つの線形写像へ降下する。

1 商空間の構成

VVをKK上の線形空間、W⊆VW\subseteq Vを部分空間とする。v,v′∈Vv,v'\in Vに対し

v∼Wv′⟺v−v′∈Wv\sim_Wv'\quad\Longleftrightarrow\quad v-v'\in W

によって二項関係∼W\sim_Wを定める。

命題 1.1.∼W\sim_WはVV上の同値関係である。

証明. 任意のv∈Vv\in Vについてv−v=0∈Wv-v=0\in Wなのでv∼Wvv\sim_Wvであり、反射律が成り立つ。v∼Wv′v\sim_Wv'ならv−v′∈Wv-v'\in Wである。WWは加法逆元について閉じているのでv′−v=−(v−v′)∈Wv'-v=-(v-v')\in Wとなり、v′∼Wvv'\sim_Wvである。したがって対称律が成り立つ。さらにv∼Wv′v\sim_Wv'かつv′∼Wv′′v'\sim_Wv''なら

v−v′′=(v−v′)+(v′−v′′)∈Wv-v''=(v-v')+(v'-v'')\in W

なのでv∼Wv′′v\sim_Wv''であり、推移律が成り立つ。▨

定義 1.2.命題 1.1が与えるvvを含む同値類を剰余類 (coset) といい、v+W={v+w:w∈W}v+W=\{v+w:w\in W\}と書く。剰余類全体からなる集合を商集合 (quotient set) といい、V/WV/Wと書く。

命題 1.3.V/WV/W上に

(v+W)+(u+W)=(v+u)+W,a(v+W)=av+W(v+W)+(u+W)=(v+u)+W,\qquad a(v+W)=av+W

と定めると、右辺は代表元v,uv,uの選び方に依存しない。これらの演算によりV/WV/WはKK上の線形空間になる。

証明.v+W=v′+Wv+W=v'+Wとu+W=u′+Wu+W=u'+Wを仮定する。この等式はv−v′∈Wv-v'\in Wとu−u′∈Wu-u'\in Wを意味する。WWは部分空間なので

(v+u)−(v′+u′)=(v−v′)+(u−u′)∈W(v+u)-(v'+u')=(v-v')+(u-u')\in W

であり、(v+u)+W=(v′+u′)+W(v+u)+W=(v'+u')+Wとなる。またa(v−v′)∈Wa(v-v')\in Wなのでav+W=av′+Wav+W=av'+Wである。したがって二つの演算は代表元に依存せず定まる。

結合法則、交換法則、分配法則などはVVの対応する等式に代表元を取って得られる。零ベクトルはW=0+WW=0+W、v+Wv+Wの加法逆元は−v+W-v+Wである。よってV/WV/Wは線形空間である。▨

定義 1.4. 写像

πW:V→V/W,πW(v)=v+W\pi_W:V\to V/W,\qquad \pi_W(v)=v+W

を標準射影 (canonical projection) という。

命題 1.5.πW\pi_Wは全射な線形写像であり、

ker⁡πW=W\ker\pi_W=W

を満たす。

証明. 商空間の演算の定義からπW(av+bu)=a(v+W)+b(u+W)\pi_W(av+bu)=a(v+W)+b(u+W)なので線形である。V/WV/Wの各元は定義からv+Wv+Wの形なので全射である。またπW(v)=W\pi_W(v)=Wであることとv∈Wv\in Wは同値なので、核はWWである。▨

2 商への降下

定理 2.1.W⊆VW\subseteq Vを部分空間、T:V→XT:V\to Xを線形写像とする。W⊆ker⁡TW\subseteq\ker Tであるための必要十分条件は、

T‾:V/W→X,T‾(v+W)=T(v)\overline T:V/W\to X,\qquad \overline T(v+W)=T(v)

という線形写像が定義されることである。この条件の下でT=T‾∘πWT=\overline T\circ\pi_Wを満たすT‾\overline Tはただ一つである。

証明.W⊆ker⁡TW\subseteq\ker Tとする。v+W=v′+Wv+W=v'+Wならv−v′∈W⊆ker⁡Tv-v'\in W\subseteq\ker TなのでT(v)−T(v′)=T(v−v′)=0T(v)-T(v')=T(v-v')=0である。したがってT‾(v+W)=T(v)\overline T(v+W)=T(v)は代表元に依存せず定まる。商空間の演算とTTの線形性からT‾\overline Tは線形であり、定義からT‾(πW(v))=T(v)\overline T(\pi_W(v))=T(v)となる。

逆にT=T‾∘πWT=\overline T\circ\pi_Wを満たすT‾\overline Tが存在するとする。w∈Ww\in Wに対しπW(w)=W=0V/W\pi_W(w)=W=0_{V/W}なのでT(w)=T‾(0V/W)=0XT(w)=\overline T(0_{V/W})=0_Xである。したがってW⊆ker⁡TW\subseteq\ker Tである。

T=S∘πWT=S\circ\pi_Wを満たす線形写像S:V/W→XS:V/W\to Xがあるとする。任意のv+W∈V/Wv+W\in V/Wに対してS(v+W)=S(πW(v))=T(v)=T‾(v+W)S(v+W)=S(\pi_W(v))=T(v)=\overline T(v+W)なのでS=T‾S=\overline Tである。▨

例 2.2 (評価写像の商への降下).V=K[t]≤3V=K[t]_{\le3}とし、ev⁡0(p)=p(0)\operatorname{ev}_0(p)=p(0)とする。W=tK[t]≤2W=tK[t]_{\le2}は定数項が零である多項式全体なのでW=ker⁡ev⁡0W=\ker\operatorname{ev}_0である。したがって評価写像は

ev⁡‾0:V/W→K,p+W⟼p(0)\overline{\operatorname{ev}}_0:V/W\to K,\qquad p+W\longmapsto p(0)

へ降下する。p−q∈Wp-q\in Wならppとqqの定数項が等しいので、代表元の変更によって値は変わらない。

3 余核と第一同型定理

定義 3.1. 線形写像T:V→WT:V\to Wの余核 (cokernel) を

coker⁡T=W/im⁡T\operatorname{coker}T=W/\operatorname{im}T

と定義する。標準射影W→coker⁡TW\to\operatorname{coker}Tを余核写像 (cokernel map) という。

余核は、TTの像が終域全体に達しない部分を商として表す。TTが全射であるための必要十分条件はcoker⁡T={0}\operatorname{coker}T=\{0\}である。

定理 3.2 (第一同型定理). 線形写像T:V→WT:V\to Wに対し、

T~:V/ker⁡T⟶im⁡T,v+ker⁡T⟼T(v)\widetilde T:V/\ker T\longrightarrow\operatorname{im}T,\qquad v+\ker T\longmapsto T(v)

は線形同型である。

証明.定理 2.1をW=ker⁡TW=\ker Tとして適用すると、T~\widetilde Tは代表元に依存せず定まる線形写像である。

T~(v+ker⁡T)=0\widetilde T(v+\ker T)=0ならT(v)=0T(v)=0なのでv∈ker⁡Tv\in\ker Tであり、v+ker⁡T=ker⁡Tv+\ker T=\ker Tは商空間の零ベクトルである。したがってker⁡T~={0}\ker\widetilde T=\{0\}であり、T~\widetilde Tは単射である。

任意のy∈im⁡Ty\in\operatorname{im}Tは、あるv∈Vv\in Vによってy=T(v)y=T(v)と書くことができる。このときy=T~(v+ker⁡T)y=\widetilde T(v+\ker T)なので、T~\widetilde Tは全射である。よってT~\widetilde Tは線形同型である。▨

第一同型定理は、線形写像が核の方向を全て同一視した後には単射になり、残った商空間が像と同型になることを述べる。同型はv+ker⁡T↦T(v)v+\ker T\mapsto T(v)という式によって標準的に定まる。

4 演習

問題 4.1 (降下条件の証明確認). 写像T‾(v+W)=T(v)\overline T(v+W)=T(v)が代表元に依存せず定まることを証明するために必要な条件がW=ker⁡TW=\ker TではなくW⊆ker⁡TW\subseteq\ker Tで十分である理由を述べよ。

解答.

同じ剰余類を表す二つの代表元の差はWWに属する。その差をTTが零へ送れば二つの代表元の像は一致するので、WWの全ての元が核に属すれば十分である。核がWWより大きい場合には、異なる剰余類が同じ値へ送られることがあるが、写像の定義可能性は損なわれない。▨

参考文献

  1. Sheldon Axler, Linear Algebra Done Right, 4th ed., Springer, 2024.商線形空間、商写像、第一同型定理を参考にした。
  2. Steven Roman, Advanced Linear Algebra, 3rd ed., Graduate Texts in Mathematics, Springer, New York, 2008.余核と写像の商への降下を参考にした。

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