1 符号付き平方和
定理 1.1.Vをn次元実線形空間、q:V→Rを二次形式とする。このとき、ある基底に関する座標で
q(x)=x12+⋯+xp2−xp+12−⋯−xp+r2と表すことができる。残るz=n−p−r個の座標の係数は零である。
証明方針は、標数が2でない場合の対称双線形形式との対応と対角化を用い、係数ai=0に対応する基底ベクトルを∣ai∣−1/2倍して係数をsgn(ai)に変えることである。
証明.§E3.39 命題 2.1によりqは対称双線形形式Bqと一対一に対応する。§E3.39 定理 3.1により、ある基底(e1,…,en)と実数a1,…,anが存在して
q(i∑xiei)=i∑aixi2となる。ai>0ならfi=ei/ai、ai<0ならfi=ei/−ai、ai=0ならfi=eiと置く。(fi)は基底であり、この基底に関する係数はaiの符号に応じて1,−1,0になる。基底を並べ替えれば表示した形を得る。▨
2 Sylvester の慣性法則
定義 2.1. 実二次形式q:V→Rが 正定値 (positive definite) であるとは、全てのx∈V∖{0}に対して
q(x)>0が成り立つことをいう。部分空間U⊆Vに対し、制限q∣Uが正定値であるという場合にも同じ定義を用いる。
定理 2.2 (Sylvester の慣性法則).定理 1.1に現れる三つの整数
(p,r,z)は、符号付き対角化に用いた基底の選び方に依存しない。(p,r,z)をqの 慣性指数といい、(p,r)を正負の 符号数という。
証明方針は、pをqの制限が正定値になる部分空間の次元の最大値として基底を用いずに特徴づけることである。−qへ同じ議論を適用してrを特徴づけ、残りとしてzを得る。
証明. 一つの符号付き対角化を固定し、対応する基底を(e1,…,en)とする。
V+=span(e1,…,ep)上では、0=x∈V+に対してq(x)>0である。したがって
p≤max{dimU∣U⊆V, q∣U が正定値}.逆向きを示す。
V≤0=span(ep+1,…,en)と置くとdimV≤0=n−pであり、全てのx∈V≤0に対してq(x)≤0である。q∣Uが正定値でdimU>pなら
dimU+dimV≤0>nなので0=x∈U∩V≤0が存在する。x∈Uからq(x)>0、同時にx∈V≤0からq(x)≤0となり矛盾する。よってdimU≤pであり、
p=max{dimU∣U⊆V, q∣U が正定値}.右辺は基底に依存しないためpは不変である。
−qへ同じ議論を適用すると、負の平方の個数rは−qが正定値になる部分空間の次元の最大値として定まり、基底に依存しない。最後にz=n−p−rも基底に依存しない。▨
系 2.3.n次元実二次形式qが正定値であるための必要十分条件は、その慣性指数が
(n,0,0)であることである。
証明.qが正定値ならV自身が正定値部分空間なので、慣性法則の証明における特徴づけからp=nである。したがってr=z=0である。逆に慣性指数が(n,0,0)なら、符号付き対角表示はq(x)=x12+⋯+xn2であり、x=0に対してq(x)>0である。▨
例 2.4 (符号数の計算とその不変性).
q(x,y)=x2+4xy+y2とする。平方完成によって
q(x,y)=(x+2y)2−3y2である。u=x+2y、v=3yと置く座標変換は可逆であり、
q=u2−v2となる。したがって慣性指数は(1,1,0)、符号数は(1,1)である。定理 2.2により、別の合同変換を用いても正の平方と負の平方の個数は変わらない。
3 Sylvester の判定法
実対称行列S∈Mn(R)の左上k×k小行列をSkとし、
Δk=detSk
と置く。Δkをk次の 首座小行列式という。
定理 3.1 (Sylvester の判定法).n≥1とする。実対称行列S∈Mn(R)が正定値であるための必要十分条件は
Δ1>0,Δ2>0,…,Δn>0である。
証明方針は、必要性について各座標部分空間への制限を用いる。十分性については、左上(n−1)×(n−1)ブロックに帰納法を適用し、Schur 補元で二次形式を正の二項へ平方完成する。
証明. まずSが正定値であるとする。1≤k≤nに対し、Rkを最初のk個の座標が張る部分空間とみなすと、Skはこの部分空間への二次形式の制限を表す。したがってSkも正定値である。定理 1.1によってPTSkP=Ikとなる可逆行列Pが存在する。行列式を取ると
(detP)2detSk=1なのでΔk=detSk>0である。
逆に、全てのΔkが正であると仮定し、nについて帰納法を用いる。n=1ではS=(Δ1)なので成立する。n≥2とし、
S=(Sn−1bTbc)と書く。帰納法の仮定からSn−1は正定値であり、特に可逆である。Schur 補元
s=c−bTSn−1−1bを考える。
L=(In−10−Sn−1−1b1)と置いて積を計算すると
LTSL=(Sn−100s).detL=1なので
Δn=detS=detSn−1s=Δn−1s.仮定からΔn,Δn−1>0であるためs>0である。
x=(y,t)∈Rn−1×Rに対して平方完成すると
xTSx=(y+tSn−1−1b)TSn−1(y+tSn−1−1b)+st2.x=0とする。t=0なら第2項が正であり、t=0ならy=0なので第1項が正である。したがってxTSx>0であり、Sは正定値である。▨
例 3.2 (首座小行列式による判定).
S=2−10−12−10−12では
Δ1=2,Δ2=3,Δ3=4.全て正なので定理 3.1によりSは正定値である。
一方、
S′=(1221)ではΔ1=1、Δ2=−3なので正定値ではない。実際、q′(1,−1)=−2<0であるため、正定値性の定義を直接満たさない。
4 p進体との境界
例 4.1 (p進体では平方類が残る).pを素数とし、1次元Qp-線形空間上の二次形式
q1(x)=x2,qp(x)=px2を考える。二つが等長なら、あるc∈Qp×が存在してc2=pとなる。ところがp進付値について
vp(c2)=2vp(c)は偶数である一方、vp(p)=1は奇数である。したがってpはQpの平方ではなく、q1とqpは等長でない。
実数体では非零の一次元形式を係数の正負で分けるが、Qpでは実数の順序にもとづく正負を用いない。上の例では付値の偶奇で区別される平方類が合同不変量として残る。したがって実数体の符号数だけをp進体上の分類へ移すことはできない。本記事では平方類の例を境界として示すだけであり、p進体上の二次形式の一般分類は扱わない。
5 演習
問題 5.1 (Sylvester の判定法の仮定). 正定値性の判定に用いるのは、全ての主小行列式ではなく、固定した順序基底に関する左上の首座小行列式
Δ1,…,Δnである。十分性の帰納証明ではΔn−1>0からSn−1の正定値性と可逆性を得て、Δn/Δn−1>0から Schur 補元の正値性を得る。対称性を外すとxTSxはSの対称部分しか記録しないため、この判定法をそのまま適用することはできない。