§E3.40実二次形式

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実数体では、零でない対角係数を絶対値の平方根で正規化することができる。その結果、全ての実二次形式は正の平方、負の平方、および零係数の和へ合同変換される。Sylvester の慣性法則は、三種類の項の個数が基底の選び方に依存しないことを述べる。

1 符号付き平方和

定理 1.1.VVをnn次元実線形空間、q:V→Rq:V\to\mathbb Rを二次形式とする。このとき、ある基底に関する座標で

q(x)=x12+⋯+xp2−xp+12−⋯−xp+r2q(x) =x_1^2+\cdots+x_p^2 -x_{p+1}^2-\cdots-x_{p+r}^2

と表すことができる。残るz=n−p−rz=n-p-r個の座標の係数は零である。

証明方針は、標数が22でない場合の対称双線形形式との対応と対角化を用い、係数ai≠0a_i\ne0に対応する基底ベクトルを∣ai∣−1/2|a_i|^{-1/2}倍して係数をsgn⁡(ai)\operatorname{sgn}(a_i)に変えることである。

証明.§E3.39 命題 2.1によりqqは対称双線形形式BqB_qと一対一に対応する。§E3.39 定理 3.1により、ある基底(e1,…,en)(e_1,\ldots,e_n)と実数a1,…,ana_1,\ldots,a_nが存在して

q(∑ixiei)=∑iaixi2q\left(\sum_i x_ie_i\right)=\sum_i a_ix_i^2

となる。ai>0a_i>0ならfi=ei/aif_i=e_i/\sqrt{a_i}、ai<0a_i<0ならfi=ei/−aif_i=e_i/\sqrt{-a_i}、ai=0a_i=0ならfi=eif_i=e_iと置く。(fi)(f_i)は基底であり、この基底に関する係数はaia_iの符号に応じて1,−1,01,-1,0になる。基底を並べ替えれば表示した形を得る。▨

2 Sylvester の慣性法則

定義 2.1. 実二次形式q:V→Rq:V\to\mathbb Rが 正定値 (positive definite) であるとは、全てのx∈V∖{0}x\in V\setminus\{0\}に対して

q(x)>0q(x)>0

が成り立つことをいう。部分空間U⊆VU\subseteq Vに対し、制限q∣Uq|_Uが正定値であるという場合にも同じ定義を用いる。

定理 2.2 (Sylvester の慣性法則).定理 1.1に現れる三つの整数

(p,r,z)(p,r,z)

は、符号付き対角化に用いた基底の選び方に依存しない。(p,r,z)(p,r,z)をqqの 慣性指数といい、(p,r)(p,r)を正負の 符号数という。

証明方針は、ppをqqの制限が正定値になる部分空間の次元の最大値として基底を用いずに特徴づけることである。−q-qへ同じ議論を適用してrrを特徴づけ、残りとしてzzを得る。

証明. 一つの符号付き対角化を固定し、対応する基底を(e1,…,en)(e_1,\ldots,e_n)とする。

V+=span⁡(e1,…,ep)V_+=\operatorname{span}(e_1,\ldots,e_p)

上では、0≠x∈V+0\ne x\in V_+に対してq(x)>0q(x)>0である。したがって

p≤max⁡{dim⁡U∣U⊆V, q∣U が正定値}.p\leq \max\{\dim U\mid U\subseteq V,\ q|_U\text{ が正定値}\}.

逆向きを示す。

V≤0=span⁡(ep+1,…,en)V_{\leq0}=\operatorname{span}(e_{p+1},\ldots,e_n)

と置くとdim⁡V≤0=n−p\dim V_{\leq0}=n-pであり、全てのx∈V≤0x\in V_{\leq0}に対してq(x)≤0q(x)\leq0である。q∣Uq|_Uが正定値でdim⁡U>p\dim U>pなら

dim⁡U+dim⁡V≤0>n\dim U+\dim V_{\leq0}>n

なので0≠x∈U∩V≤00\ne x\in U\cap V_{\leq0}が存在する。x∈Ux\in Uからq(x)>0q(x)>0、同時にx∈V≤0x\in V_{\leq0}からq(x)≤0q(x)\leq0となり矛盾する。よってdim⁡U≤p\dim U\leq pであり、

p=max⁡{dim⁡U∣U⊆V, q∣U が正定値}.p= \max\{\dim U\mid U\subseteq V,\ q|_U\text{ が正定値}\}.

右辺は基底に依存しないためppは不変である。

−q-qへ同じ議論を適用すると、負の平方の個数rrは−q-qが正定値になる部分空間の次元の最大値として定まり、基底に依存しない。最後にz=n−p−rz=n-p-rも基底に依存しない。▨

系 2.3.nn次元実二次形式qqが正定値であるための必要十分条件は、その慣性指数が

(n,0,0)(n,0,0)

であることである。

証明.qqが正定値ならVV自身が正定値部分空間なので、慣性法則の証明における特徴づけからp=np=nである。したがってr=z=0r=z=0である。逆に慣性指数が(n,0,0)(n,0,0)なら、符号付き対角表示はq(x)=x12+⋯+xn2q(x)=x_1^2+\cdots+x_n^2であり、x≠0x\ne0に対してq(x)>0q(x)>0である。▨

例 2.4 (符号数の計算とその不変性).

q(x,y)=x2+4xy+y2q(x,y)=x^2+4xy+y^2

とする。平方完成によって

q(x,y)=(x+2y)2−3y2q(x,y)=(x+2y)^2-3y^2

である。u=x+2yu=x+2y、v=3 yv=\sqrt3\,yと置く座標変換は可逆であり、

q=u2−v2q=u^2-v^2

となる。したがって慣性指数は(1,1,0)(1,1,0)、符号数は(1,1)(1,1)である。定理 2.2により、別の合同変換を用いても正の平方と負の平方の個数は変わらない。

3 Sylvester の判定法

実対称行列S∈Mn(R)S\in M_n(\mathbb R)の左上k×kk\times k小行列をSkS_kとし、

Δk=det⁡Sk\Delta_k=\det S_k

と置く。Δk\Delta_kをkk次の 首座小行列式という。

定理 3.1 (Sylvester の判定法).n≥1n\geq1とする。実対称行列S∈Mn(R)S\in M_n(\mathbb R)が正定値であるための必要十分条件は

Δ1>0,Δ2>0,…,Δn>0\Delta_1>0,\quad\Delta_2>0,\quad\ldots,\quad\Delta_n>0

である。

証明方針は、必要性について各座標部分空間への制限を用いる。十分性については、左上(n−1)×(n−1)(n-1)\times(n-1)ブロックに帰納法を適用し、Schur 補元で二次形式を正の二項へ平方完成する。

証明. まずSSが正定値であるとする。1≤k≤n1\leq k\leq nに対し、Rk\mathbb R^kを最初のkk個の座標が張る部分空間とみなすと、SkS_kはこの部分空間への二次形式の制限を表す。したがってSkS_kも正定値である。定理 1.1によってPTSkP=IkP^{\mathsf T}S_kP=I_kとなる可逆行列PPが存在する。行列式を取ると

(det⁡P)2det⁡Sk=1(\det P)^2\det S_k=1

なのでΔk=det⁡Sk>0\Delta_k=\det S_k>0である。

逆に、全てのΔk\Delta_kが正であると仮定し、nnについて帰納法を用いる。n=1n=1ではS=(Δ1)S=(\Delta_1)なので成立する。n≥2n\geq2とし、

S=(Sn−1bbTc)S= \begin{pmatrix} S_{n-1}&b\\ b^{\mathsf T}&c \end{pmatrix}

と書く。帰納法の仮定からSn−1S_{n-1}は正定値であり、特に可逆である。Schur 補元

s=c−bTSn−1−1bs=c-b^{\mathsf T}S_{n-1}^{-1}b

を考える。

L=(In−1−Sn−1−1b01)L= \begin{pmatrix} I_{n-1}&-S_{n-1}^{-1}b\\ 0&1 \end{pmatrix}

と置いて積を計算すると

LTSL=(Sn−100s).L^{\mathsf T}SL= \begin{pmatrix} S_{n-1}&0\\ 0&s \end{pmatrix}.

det⁡L=1\det L=1なので

Δn=det⁡S=det⁡Sn−1 s=Δn−1s.\Delta_n=\det S=\det S_{n-1}\,s=\Delta_{n-1}s.

仮定からΔn,Δn−1>0\Delta_n,\Delta_{n-1}>0であるためs>0s>0である。

x=(y,t)∈Rn−1×Rx=(y,t)\in\mathbb R^{n-1}\times\mathbb Rに対して平方完成すると

xTSx=(y+tSn−1−1b)TSn−1(y+tSn−1−1b)+st2.x^{\mathsf T}Sx =\bigl(y+tS_{n-1}^{-1}b\bigr)^{\mathsf T} S_{n-1}\bigl(y+tS_{n-1}^{-1}b\bigr)+st^2.

x≠0x\ne0とする。t≠0t\ne0なら第2項が正であり、t=0t=0ならy≠0y\ne0なので第1項が正である。したがってxTSx>0x^{\mathsf T}Sx>0であり、SSは正定値である。▨

例 3.2 (首座小行列式による判定).

S=(2−10−12−10−12)S= \begin{pmatrix} 2&-1&0\\ -1&2&-1\\ 0&-1&2 \end{pmatrix}

では

Δ1=2,Δ2=3,Δ3=4.\Delta_1=2,\qquad\Delta_2=3,\qquad\Delta_3=4.

全て正なので定理 3.1によりSSは正定値である。

一方、

S′=(1221)S'=\begin{pmatrix}1&2\\2&1\end{pmatrix}

ではΔ1=1\Delta_1=1、Δ2=−3\Delta_2=-3なので正定値ではない。実際、q′(1,−1)=−2<0q'(1,-1)=-2<0であるため、正定値性の定義を直接満たさない。

4 pp進体との境界

例 4.1 (pp進体では平方類が残る).ppを素数とし、11次元Qp\mathbb Q_p-線形空間上の二次形式

q1(x)=x2,qp(x)=px2q_1(x)=x^2,\qquad q_p(x)=px^2

を考える。二つが等長なら、あるc∈Qp×c\in\mathbb Q_p^\timesが存在してc2=pc^2=pとなる。ところがpp進付値について

vp(c2)=2vp(c)v_p(c^2)=2v_p(c)

は偶数である一方、vp(p)=1v_p(p)=1は奇数である。したがってppはQp\mathbb Q_pの平方ではなく、q1q_1とqpq_pは等長でない。

実数体では非零の一次元形式を係数の正負で分けるが、Qp\mathbb Q_pでは実数の順序にもとづく正負を用いない。上の例では付値の偶奇で区別される平方類が合同不変量として残る。したがって実数体の符号数だけをpp進体上の分類へ移すことはできない。本記事では平方類の例を境界として示すだけであり、pp進体上の二次形式の一般分類は扱わない。

5 演習

問題 5.1 (Sylvester の判定法の仮定). 正定値性の判定に用いるのは、全ての主小行列式ではなく、固定した順序基底に関する左上の首座小行列式

Δ1,…,Δn\Delta_1,\ldots,\Delta_n

である。十分性の帰納証明ではΔn−1>0\Delta_{n-1}>0からSn−1S_{n-1}の正定値性と可逆性を得て、Δn/Δn−1>0\Delta_n/\Delta_{n-1}>0から Schur 補元の正値性を得る。対称性を外すとxTSxx^{\mathsf T}SxはSSの対称部分しか記録しないため、この判定法をそのまま適用することはできない。

参考文献

  1. Serge Lang, Linear Algebra, 3rd ed., Springer, New York, 1987.実対称双線形形式の標準形と Sylvester の慣性法則を参考にした。
  2. Roger A. Horn and Charles R. Johnson, Matrix Analysis, 2nd ed., Cambridge University Press, Cambridge, 2013.Sylvester の正定値判定と Schur 補元による証明を参考にした。
  3. T. Y. Lam, Introduction to Quadratic Forms over Fields, Graduate Studies in Mathematics 67, American Mathematical Society, Providence, 2005.p 進体上で平方類が必要になる境界を参考にした。

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