§E3.11テンソル積

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以下、KKを可換体とする。テンソル積V⊗KWV\otimes_KWは、V×WV\times W上の双線形写像を一つの線形写像として表す線形空間である。純テンソルv⊗wv\otimes wは一つの組(v,w)(v,w)の像である。一般のテンソルは純テンソルの有限和であり、一つの純テンソルとして表されるとは限らない。本記事は自由線形空間の商としてテンソル積を構成し、その普遍性と一意性を証明する。

1 構成と普遍性

定義 1.1.V,WV,WをKK上の線形空間とする。V×WV\times Wを基底とする自由線形空間をFFとする。FFの元(v,w)(v,w)を[v,w][v,w]と書く。次の形の元全体が生成する部分空間をR⊆FR\subseteq Fとする。

[v+v′,w]−[v,w]−[v′,w],[av,w]−a[v,w],[v,w+w′]−[v,w]−[v,w′],[v,aw]−a[v,w].\begin{aligned} [v+v',w]-[v,w]-[v',w],&\qquad [av,w]-a[v,w],\\ [v,w+w']-[v,w]-[v,w'],&\qquad [v,aw]-a[v,w]. \end{aligned}

商線形空間F/RF/RをVVとWWのテンソル積 (tensor product) といい、V⊗KWV\otimes_KWと書く。[v,w]+R[v,w]+Rをv⊗wv\otimes wと書き、純テンソル (pure tensor) という。

商でRRの各生成元が零になるため、

(v+v′)⊗w=v⊗w+v′⊗w,(av)⊗w=a(v⊗w)(v+v')\otimes w=v\otimes w+v'\otimes w,\qquad (av)\otimes w=a(v\otimes w)

および第二変数についての対応する式が成り立つ。したがってτ:V×W→V⊗KW\tau:V\times W\to V\otimes_KW、τ(v,w)=v⊗w\tau(v,w)=v\otimes wは双線形である。

定理 1.2. 任意の線形空間XXと双線形写像B:V×W→XB:V\times W\to Xに対し、

B~:V⊗KW→X,B~(v⊗w)=B(v,w)\widetilde B:V\otimes_KW\to X,\qquad \widetilde B(v\otimes w)=B(v,w)

を満たす線形写像がただ一つ存在する。

証明. 自由線形空間の基底上でL([v,w])=B(v,w)L([v,w])=B(v,w)と指定すると、線形写像L:F→XL:F\to Xがただ一つ定まる。BBの双線形性により、RRの定義に現れる四種類の生成元は全てLLによって零へ送られる。したがってR⊆ker⁡LR\subseteq\ker Lである。§E3.6 定理 2.1によりLLはただ一つの線形写像B~:F/R→X\widetilde B:F/R\to Xへ降下し、B~(v⊗w)=L([v,w])=B(v,w)\widetilde B(v\otimes w)=L([v,w])=B(v,w)を満たす。

V⊗KWV\otimes_KWは純テンソルの有限一次結合によって生成される。したがって同じ条件を満たす線形写像は全ての生成元v⊗wv\otimes w上で一致し、線形性により全体で一致する。▨

命題 1.3. 線形空間T,T′T,T'と双線形写像τ:V×W→T\tau:V\times W\to T、τ′:V×W→T′\tau':V\times W\to T'がともに定理 1.2の普遍性を満たすなら、

Φ:T→T′,Φ(τ(v,w))=τ′(v,w)\Phi:T\to T',\qquad \Phi(\tau(v,w))=\tau'(v,w)

を満たす線形同型Φ\Phiがただ一つ存在する。

証明.τ′\tau'にTTの普遍性を適用すると、条件を満たす線形写像Φ:T→T′\Phi:T\to T'がただ一つ得られる。同様にτ\tauにT′T'の普遍性を適用するとΨ:T′→T\Psi:T'\to Tが得られる。合成Ψ∘Φ\Psi\circ\Phiとid⁡T\operatorname{id}_Tはともにτ(v,w)\tau(v,w)を自身へ送る。TTの普遍性における一意性からΨ∘Φ=id⁡T\Psi\circ\Phi=\operatorname{id}_Tである。同様にΦ∘Ψ=id⁡T′\Phi\circ\Psi=\operatorname{id}_{T'}なのでΦ\Phiは同型である。Φ\Phi自体の一意性も最初の普遍性から従う。▨

2 基底と次元

定理 2.1.V,WV,Wを有限次元とし、(e1,…,em)(e_1,\ldots,e_m)、(f1,…,fn)(f_1,\ldots,f_n)をそれぞれの基底とする。このとき

{ei⊗fj:1≤i≤m, 1≤j≤n}\{e_i\otimes f_j:1\le i\le m,\ 1\le j\le n\}

はV⊗KWV\otimes_KWの基底である。したがって

dim⁡(V⊗KW)=(dim⁡V)(dim⁡W)\dim(V\otimes_KW)=(\dim V)(\dim W)

である。

証明.v=∑iaieiv=\sum_i a_ie_i、w=∑jbjfjw=\sum_jb_jf_jとすると双線形性により

v⊗w=∑i,jaibj(ei⊗fj)v\otimes w=\sum_{i,j}a_ib_j(e_i\otimes f_j)

である。任意のテンソルは純テンソルの有限和なので、ei⊗fje_i\otimes f_jはテンソル積を生成する。

一次独立性を示す。双対基底を(ei)(e^i)、(fj)(f^j)とする。各(p,q)(p,q)についてBpq(v,w)=ep(v)fq(w)B_{pq}(v,w)=e^p(v)f^q(w)は双線形なので、普遍性により線形汎関数B~pq:V⊗W→K\widetilde B_{pq}:V\otimes W\to Kを定める。

B~pq(ei⊗fj)=ep(ei)fq(fj)=δpiδqj\widetilde B_{pq}(e_i\otimes f_j)=e^p(e_i)f^q(f_j)=\delta_{pi}\delta_{qj}

である。∑i,jcijei⊗fj=0\sum_{i,j}c_{ij}e_i\otimes f_j=0にB~pq\widetilde B_{pq}を施すとcpq=0c_{pq}=0となる。全ての係数が零なので一次独立である。要素数はmnmnであり、次元公式を得る。▨

例 2.2 (純テンソルでないテンソル).V=W=K2V=W=K^2とし、標準基底をe1,e2e_1,e_2とする。

z=e1⊗e1+e2⊗e2z=e_1\otimes e_1+e_2\otimes e_2

は純テンソルではない。実際、z=(ae1+be2)⊗(ce1+de2)z=(ae_1+be_2)\otimes(ce_1+de_2)と仮定すると、基底ei⊗eje_i\otimes e_jの係数比較により

ac=1,ad=0,bc=0,bd=1ac=1,\qquad ad=0,\qquad bc=0,\qquad bd=1

を得る。ac=1ac=1からa,c≠0a,c\ne0なのでad=0ad=0とbc=0bc=0からd=b=0d=b=0となり、bd=1bd=1に反する。したがってzzは純テンソルの和としては表されるが、一つの純テンソルにはならない。

3 線形写像のテンソル積

命題 3.1. 線形写像S:V→V′S:V\to V'、T:W→W′T:W\to W'に対し、

(S⊗T)(v⊗w)=S(v)⊗T(w)(S\otimes T)(v\otimes w)=S(v)\otimes T(w)

を満たす線形写像S⊗T:V⊗W→V′⊗W′S\otimes T:V\otimes W\to V'\otimes W'がただ一つ存在する。さらに

(S2∘S1)⊗(T2∘T1)=(S2⊗T2)∘(S1⊗T1)(S_2\circ S_1)\otimes(T_2\circ T_1) =(S_2\otimes T_2)\circ(S_1\otimes T_1)

およびid⁡V⊗id⁡W=id⁡V⊗W\operatorname{id}_V\otimes\operatorname{id}_W=\operatorname{id}_{V\otimes W}が成り立つ。

証明. 写像(v,w)↦S(v)⊗T(w)(v,w)\mapsto S(v)\otimes T(w)は双線形なので、テンソル積の普遍性によってS⊗TS\otimes Tが存在して一意に定まる。合成の式の両辺は、任意の純テンソルv⊗wv\otimes wをS2(S1v)⊗T2(T1w)S_2(S_1v)\otimes T_2(T_1w)へ送る。純テンソルが全体を生成するため両辺は一致する。恒等写像の式も純テンソル上で一致することから従う。▨

命題 3.2. 有限次元線形空間の基底に関するS,TS,Tの表現行列をそれぞれA=(aki)A=(a_{ki})、B=(bℓj)B=(b_{\ell j})とする。テンソル積基底を辞書式順序で並べると、S⊗TS\otimes Tの表現行列は Kronecker 積A⊗BA\otimes Bであり、(k,ℓ)(k,\ell)行(i,j)(i,j)列の成分はakibℓja_{ki}b_{\ell j}である。

証明.

(S⊗T)(ei⊗fj)=(∑kakiek′)⊗(∑ℓbℓjfℓ′)=∑k,ℓakibℓj(ek′⊗fℓ′).(S\otimes T)(e_i\otimes f_j) =\left(\sum_ka_{ki}e'_k\right)\otimes \left(\sum_\ell b_{\ell j}f'_\ell\right) =\sum_{k,\ell}a_{ki}b_{\ell j}(e'_k\otimes f'_\ell).

したがって、基底ベクトル(i,j)(i,j)の像の(k,ℓ)(k,\ell)成分はakibℓja_{ki}b_{\ell j}であり、これは Kronecker 積の定義に一致する。▨

例 3.3 (Kronecker 積の計算).

A=(1234),B=(0110)A=\begin{pmatrix}1&2\\3&4\end{pmatrix},\qquad B=\begin{pmatrix}0&1\\1&0\end{pmatrix}

に対して

A⊗B=(0102102003043040).A\otimes B= \begin{pmatrix} 0&1&0&2\\ 1&0&2&0\\ 0&3&0&4\\ 3&0&4&0 \end{pmatrix}.

例えば第一列は(S⊗T)(e1⊗f1)=3(e2′⊗f2′)+1(e1′⊗f2′)(S\otimes T)(e_1\otimes f_1) =3(e'_2\otimes f'_2)+1(e'_1\otimes f'_2)の係数列(0,1,0,3)T(0,1,0,3)^{\mathsf T}であり、表示行列の第一列と一致する。

4 有限次元での双対との同型

定理 4.1.V,WV,Wが有限次元なら、次の写像は線形同型である。

α:V∨⊗W∨⟶(V⊗W)∨,α(φ⊗ψ)(v⊗w)=φ(v)ψ(w),β:V∨⊗W⟶Hom⁡K(V,W),β(φ⊗w)(v)=φ(v)w.\begin{aligned} \alpha:V^\vee\otimes W^\vee&\longrightarrow(V\otimes W)^\vee, &\alpha(\varphi\otimes\psi)(v\otimes w)&=\varphi(v)\psi(w),\\ \beta:V^\vee\otimes W&\longrightarrow\operatorname{Hom}_K(V,W), &\beta(\varphi\otimes w)(v)&=\varphi(v)w. \end{aligned}

これらの写像は基底を選ばずに定まる。

証明. 右辺の式はそれぞれ(φ,ψ)(\varphi,\psi)および(φ,w)(\varphi,w)について双線形なので、テンソル積の普遍性によりα,β\alpha,\betaを定める。V,WV,Wの基底を(ei),(fj)(e_i),(f_j)、双対基底を(ei),(fj)(e^i),(f^j)とする。α(ei⊗fj)\alpha(e^i\otimes f^j)はテンソル積基底ep⊗fqe_p\otimes f_qのうち(p,q)=(i,j)(p,q)=(i,j)の係数を取り出す汎関数である。したがって、これらは(V⊗W)∨(V\otimes W)^\veeの双対基底をなし、α\alphaは同型である。

β(ei⊗fj)\beta(e^i\otimes f_j)はeie_iをfjf_jへ送り、他のepe_pを零へ送る線形写像である。これらmnmn個の写像はHom⁡K(V,W)\operatorname{Hom}_K(V,W)の標準的な基底をなすので、β\betaも同型である。定義式には基底が現れないため、同型自体は基底の選択に依存しない。▨

5 演習

問題 5.1 (普遍性の証明確認). 自由線形空間FF上の線形写像L([v,w])=B(v,w)L([v,w])=B(v,w)が商F/RF/Rへ降下することを証明する際に、双線形性をどのように用いるかを一つの生成関係について示せ。

解答.

例えばr=[v+v′,w]−[v,w]−[v′,w]∈Rr=[v+v',w]-[v,w]-[v',w]\in Rに対し、

L(r)=B(v+v′,w)−B(v,w)−B(v′,w)=0L(r)=B(v+v',w)-B(v,w)-B(v',w)=0

である。最後の等式はBBの第一変数に関する線形性から従う。他の三種類の生成関係も対応する変数の加法またはスカラー倍に関する線形性によって零へ送られる。したがってR⊆ker⁡LR\subseteq\ker Lとなる。▨

参考文献

  1. Werner H. Greub, Multilinear Algebra, 2nd ed., Universitext, Springer, New York, 1978.自由線形空間からのテンソル積の構成、普遍性、基底を参考にした。
  2. Serge Lang, Algebra, revised 3 ed., Graduate Texts in Mathematics, Springer, New York, 2002.テンソル積と双対および Hom との標準同型を参考にした。

前提記事