§E19.7曲面上の共変微分と平行移動

最終更新

曲面M⊆R3M\subseteq\mathbb{R}^3の上のベクトル場を微分すると、得られるベクトルは一般に接平面から出る。曲面の内側だけで意味を持つ微分を作るには、外の空間で微分してから接平面へ射影すればよい。本記事は、この射影を共変微分として定め、その成分を記述する Christoffel 記号が第一基本形式の成分とその一階偏微分だけで書き表されることを証明する。

この事実が、本単元の後半すべての土台になる。共変微分が第一基本形式だけで決まるならば、共変微分から作られる量、すなわち平行移動、測地線、測地曲率、および接続形式もまた第一基本形式だけで決まる。曲面がどのようにR3\mathbb{R}^3へ入っているかを知らない観測者が、第一基本形式だけを手掛かりにこれらの量を再構成することができる。

本記事が実際に示すのは次の五つである。第一に、接平面への正射影として共変微分を定め、それが座標の取り方に依らず、内積との両立と捩れの消滅を満たすことである。第二に、Christoffel 記号を第一基本形式の成分とその一階偏微分によって書き下すことである。第三に、内積との両立と捩れの消滅を満たす接続がちょうど一つしかないことである。第四に、二次元のC∞C^\infty多様体に正定値の第一基本形式を与えた対象、すなわち抽象曲面に対して、同じ接続が定まることである。第五に、曲線に沿う平行なベクトル場が線形常微分方程式の解として一意に存在し、平行移動が第一基本形式を保つ線形同型であることである。

1 曲面に沿うベクトル場と方向微分

本記事の前半では、M⊆R3M\subseteq\mathbb{R}^3を正則曲面(§E19.3 定義 1.1)とする。向きづけ可能であることは仮定しない。「滑らか」はC∞C^\inftyを意味する。R3\mathbb{R}^3の標準内積を⟨ , ⟩\langle\ ,\ \rangle、ノルムを∥ ∥\lVert\ \rVertと書く。点p∈Mp\in Mにおける接平面TpMT_pM(§E19.3 定義 3.1)はR3\mathbb{R}^3の二次元部分空間である。第一基本形式はIp(X,Y)=⟨X,Y⟩\mathrm{I}_p(X,Y)=\langle X,Y\rangle(X,Y∈TpMX,Y\in T_pM)である(§E19.4 定義 1.1)。

注意 1.1 (接空間の二つの見方を同一視すること).MMは二次元のC∞C^\infty多様体であり(§E19.3 定義 1.1)、正則パラメータ表示x:W→M\boldsymbol{x}:W\to M(§E19.3 定義 1.3)の逆写像がチャートを与える(§E19.3 命題 1.7)。多様体としての接空間の座標基底(「多様体入門」の§E17.3 定理 3.3)を∂/∂ui\partial/\partial u^iと書くと、包含写像ι:M→R3\iota:M\to\mathbb{R}^3の微分は

dιp(∂∂ui)=xui(q)(x(q)=p)d\iota_p\left(\frac{\partial}{\partial u^i}\right)=\boldsymbol{x}_{u^i}(q) \qquad(\boldsymbol{x}(q)=p)

を満たし、R3\mathbb{R}^3の接空間をR3\mathbb{R}^3自身と同一視すれば、多様体としての接空間から§E19.3 定義 3.1の接平面TpMT_pMへの線形同型を与える。本記事は、この同一視のもとで両者を同じ記号TpMT_pMで書き、座標基底を∂i=xui\partial_i=\boldsymbol{x}_{u^i}と書く。同一視によって、接ベクトル場はC∞(M)C^\infty(M)の上の導分として作用し(「多様体入門」の§E17.4 定理 5.3)、二つの接ベクトル場の括弧積[X,Y][X,Y]が定まる(同§E17.7 定義 1.2)。

定義 1.2.U⊆MU\subseteq Mを開集合とする。写像Y:U→R3Y:U\to\mathbb{R}^3がUU上の接ベクトル場 (tangent vector field) であるとは、次の二つがともに成り立つことをいう。

  1. すべてのp∈Up\in Uに対してY(p)∈TpMY(p)\in T_pMである。
  2. UUの中に像を持つすべての正則パラメータ表示x:W→U\boldsymbol{x}:W\to Uについて、合成Y∘x:W→R3Y\circ\boldsymbol{x}:W\to\mathbb{R}^3がC∞C^\inftyである。

UU上の接ベクトル場の全体をX(U)\mathfrak{X}(U)と書く。

条件 2 は、一つの正則パラメータ表示について確かめれば足りる。二つの表示の間の座標変換が滑らかな微分同相であるから(§E19.3 定理 1.8)、一つの表示でC∞C^\inftyであれば他のすべての表示でもC∞C^\inftyになる。

定義 1.3.U⊆MU\subseteq Mを開集合、Z:U→R3Z:U\to\mathbb{R}^3を滑らかな写像、p∈Up\in U、X∈TpMX\in T_pMとする。γ:(−δ,δ)→U\gamma:(-\delta,\delta)\to Uをγ(0)=p\gamma(0)=pかつγ′(0)=X\gamma'(0)=Xを満たす滑らかな曲線とし、

DXZ=(Z∘γ)′(0)∈R3D_XZ=(Z\circ\gamma)'(0)\in\mathbb{R}^3

と定める。

命題 1.4.定義 1.3の記号のもとで、次が成り立つ。

  1. DXZD_XZは条件を満たす曲線γ\gammaの取り方に依らない。正則パラメータ表示x:W→U\boldsymbol{x}:W\to Uがx(q)=p\boldsymbol{x}(q)=pを満たし、X=∑i=12ai∂i(q)X=\sum_{i=1}^{2}a^i\partial_i(q)と書き表されているならば DXZ=∑i=12ai ∂(Z∘x)∂ui(q)D_XZ=\sum_{i=1}^{2}a^i\,\frac{\partial(Z\circ\boldsymbol{x})}{\partial u^i}(q) である。
  2. 写像TpM→R3T_pM\to\mathbb{R}^3、X↦DXZX\mapsto D_XZは線形である。
  3. Z, Z~:U→R3Z,\ \widetilde{Z}:U\to\mathbb{R}^3が滑らかであるとき、関数⟨Z,Z~⟩:U→R\langle Z,\widetilde{Z}\rangle:U\to\mathbb{R}について X⟨Z,Z~⟩=⟨DXZ,Z~(p)⟩+⟨Z(p),DXZ~⟩X\langle Z,\widetilde{Z}\rangle=\langle D_XZ,\widetilde{Z}(p)\rangle+\langle Z(p),D_X\widetilde{Z}\rangle が成り立つ。

証明.(1)を示す。MMの開集合UUは、それ自身がR3\mathbb{R}^3の二次元埋め込み部分多様体であるから正則曲面である。ZZはUUの上の滑らかな写像であるから、「第一基本形式と面積要素」の§E19.4 補題 2.3 (3)を、UUとZZ(値の空間の次元は33)へ適用することができる。§E19.4 補題 2.3 (3)の前半は、(Z∘γ)′(0)(Z\circ\gamma)'(0)が条件を満たす曲線γ\gammaの取り方に依らないこと、すなわちDXZD_XZがγ\gammaによらずに定まることを与える。§E19.4 補題 2.3 (3)の最後の等式は、正則パラメータ表示x\boldsymbol{x}の微分による像∑i=12ai∂i(q)\sum_{i=1}^{2}a^i\partial_i(q)に対する値が∑i=12ai ∂(Z∘x)∂ui(q)\sum_{i=1}^{2}a^i\,\dfrac{\partial(Z\circ\boldsymbol{x})}{\partial u^i}(q)に等しいことを述べているから、主張の表示を得る。

(2)を示す。§E19.4 補題 2.3 (3)により、X↦DXZX\mapsto D_XZは線形写像である。1 の右辺が係数(a1,a2)(a^1,a^2)について線形であり、X↦(a1,a2)X\mapsto(a^1,a^2)が線形同型であることからも従う。

(3)を示す。γ\gammaを条件を満たす曲線とすると、⟨Z,Z~⟩∘γ=⟨Z∘γ,Z~∘γ⟩\langle Z,\widetilde{Z}\rangle\circ\gamma=\langle Z\circ\gamma,\widetilde{Z}\circ\gamma\rangleである。実数値関数の積の微分法を成分ごとに用いてt=0t=0で微分すれば主張を得る。▨

2 共変微分

p∈Mp\in Mに対して、πp:R3→TpM\pi_p:\mathbb{R}^3\to T_pMを接平面への正射影とする。w∈R3w\in\mathbb{R}^3に対してw⊤=πp(w)w^{\top}=\pi_p(w)と書く。UUの上で単位法線ベクトル場NNを取ることができるならばπp(w)=w−⟨w,N(p)⟩N(p)\pi_p(w)=w-\langle w,N(p)\rangle N(p)であるが、正射影そのものはNNの符号の取り方に依らないので、以下ではMMが向きづけ可能であることを仮定しない。

定義 2.1.M⊆R3M\subseteq\mathbb{R}^3を正則曲面、U⊆MU\subseteq Mを開集合、Y∈X(U)Y\in\mathfrak{X}(U)、p∈Up\in U、X∈TpMX\in T_pMとする。

∇XY=(DXY)⊤=πp(DXY)∈TpM\nabla_XY=\bigl(D_XY\bigr)^{\top}=\pi_p\bigl(D_XY\bigr)\in T_pM

と定め、これをXX方向のYYの共変微分 (covariant derivative) という。X∈X(U)X\in\mathfrak{X}(U)に対しては、各点p∈Up\in Uで∇X(p)Y\nabla_{X(p)}Yを取って得られるUU上の写像を∇XY\nabla_XYと書く。

命題 2.2.U⊆MU\subseteq Mを開集合、X,X1,X2,Y,Y1,Y2,Z∈X(U)X,X_1,X_2,Y,Y_1,Y_2,Z\in\mathfrak{X}(U)、f∈C∞(U)f\in C^\infty(U)とする。次が成り立つ。

  1. ∇XY∈X(U)\nabla_XY\in\mathfrak{X}(U)である。
  2. ∇fX1+X2Y=f ∇X1Y+∇X2Y\nabla_{fX_1+X_2}Y=f\,\nabla_{X_1}Y+\nabla_{X_2}Yである。
  3. ∇X(Y1+Y2)=∇XY1+∇XY2\nabla_X(Y_1+Y_2)=\nabla_XY_1+\nabla_XY_2であり、∇X(fY)=(Xf) Y+f ∇XY\nabla_X(fY)=(Xf)\,Y+f\,\nabla_XYである。
  4. X⟨Y,Z⟩=⟨∇XY,Z⟩+⟨Y,∇XZ⟩X\langle Y,Z\rangle=\langle\nabla_XY,Z\rangle+\langle Y,\nabla_XZ\rangleである。
  5. ∇XY−∇YX=[X,Y]\nabla_XY-\nabla_YX=[X,Y]である。

証明. 正則パラメータ表示x:W→U\boldsymbol{x}:W\to Uを一つ取り、X=∑iai∂iX=\sum_{i}a^i\partial_i、Y=∑jbj∂jY=\sum_{j}b^j\partial_jと書く。ここでai,bja^i,b^jはWW上のC∞C^\infty関数である。実際、⟨X,∂l⟩=∑iaigil\langle X,\partial_l\rangle=\sum_ia^ig_{il}(gil=⟨∂i,∂l⟩g_{il}=\langle\partial_i,\partial_l\rangle)はC∞C^\inftyであり、行列(gil)(g_{il})は正則で成分がC∞C^\inftyであるから、Cramer の公式によりaia^iはC∞C^\inftyである。bjb^jについても同様である。

(1)と(3)の後半を示す。命題 1.4 (1)により

DXY=∑j=12(Xbj) ∂j+∑i,j=12aibj xuiuj(∗)D_XY=\sum_{j=1}^{2}(Xb^j)\,\partial_j+\sum_{i,j=1}^{2}a^ib^j\,\boldsymbol{x}_{u^iu^j} \tag{$\ast$}

である。ここでXbj=∑iai ∂bj/∂uiXb^j=\sum_i a^i\,\partial b^j/\partial u^iである。WWの上で

N=∂1×∂2∥∂1×∂2∥N=\frac{\partial_1\times\partial_2}{\lVert\partial_1\times\partial_2\rVert}

と置くとNNはC∞C^\inftyであり、∇XY=DXY−⟨DXY,N⟩N\nabla_XY=D_XY-\langle D_XY,N\rangle Nであるから、∇XY\nabla_XYはC∞C^\inftyである。値は各点で接平面に属するから∇XY∈X(U)\nabla_XY\in\mathfrak{X}(U)である。fYfYに対して(∗)(\ast)を適用するとDX(fY)=(Xf)Y+f DXYD_X(fY)=(Xf)Y+f\,D_XYであり、Y(p)∈TpMY(p)\in T_pMであるから射影して∇X(fY)=(Xf)Y+f∇XY\nabla_X(fY)=(Xf)Y+f\nabla_XYを得る。

(2)と(3)の前半を示す。命題 1.4 (2)によりX↦DXYX\mapsto D_XYは各点で線形であり、ff倍についてはDfXY=fDXYD_{fX}Y=fD_XYが同じ主張から従う。射影は線形であるから主張を得る。DX(Y1+Y2)=DXY1+DXY2D_X(Y_1+Y_2)=D_XY_1+D_XY_2も方向微分の定義から従う。

(4)を示す。命題 1.4 (3)によりX⟨Y,Z⟩=⟨DXY,Z⟩+⟨Y,DXZ⟩X\langle Y,Z\rangle=\langle D_XY,Z\rangle+\langle Y,D_XZ\rangleである。Z(p)∈TpMZ(p)\in T_pMでありπp\pi_pは正射影であるから⟨DXY,Z(p)⟩=⟨πp(DXY),Z(p)⟩=⟨∇XY,Z⟩(p)\langle D_XY,Z(p)\rangle=\langle\pi_p(D_XY),Z(p)\rangle=\langle\nabla_XY,Z\rangle(p)である。⟨Y,DXZ⟩\langle Y,D_XZ\rangleについても同様である。

(5)を示す。(∗)(\ast)と、XXとYYを入れ替えた同じ式との差を取る。xuiuj=xujui\boldsymbol{x}_{u^iu^j}=\boldsymbol{x}_{u^ju^i}(「実解析 II」の§E4.4 定理 2.1。x\boldsymbol{x}はC∞C^\inftyであるから仮定を満たす)であるから、二階偏導関数を含む項は相殺し、

DXY−DYX=∑k=12(∑i=12(ai∂bk∂ui−bi∂ak∂ui))∂kD_XY-D_YX=\sum_{k=1}^{2}\left(\sum_{i=1}^{2}\left(a^i\frac{\partial b^k}{\partial u^i}-b^i\frac{\partial a^k}{\partial u^i}\right)\right)\partial_k

となる。右辺は括弧積の座標表示(「多様体入門」の§E17.7 命題 1.3)に一致するからDXY−DYX=[X,Y]D_XY-D_YX=[X,Y]である。[X,Y][X,Y]は接ベクトル場であるから、両辺を射影して∇XY−∇YX=[X,Y]\nabla_XY-\nabla_YX=[X,Y]を得る。▨

3 Christoffel 記号

正則パラメータ表示x:W→M\boldsymbol{x}:W\to Mを固定し、座標を(u1,u2)(u^1,u^2)、座標基底を∂i=xui\partial_i=\boldsymbol{x}_{u^i}と書く。第一基本形式の成分を

gij=⟨∂i,∂j⟩g_{ij}=\langle\partial_i,\partial_j\rangle

と書く。先行する記事の記法との対応はg11=Eg_{11}=E、g12=g21=Fg_{12}=g_{21}=F、g22=Gg_{22}=Gである。行列(gij)(g_{ij})は各点で正定値対称であり、det⁡(gij)=EG−F2>0\det(g_{ij})=EG-F^2>0であるから可逆である。その逆行列の成分をgklg^{kl}と書く。本記事は総和を∑\sumで明示する。

定義 3.1.∇∂i∂j\nabla_{\partial_i}\partial_jは接ベクトル場であるから、WW上の関数Γijk\Gamma^k_{ij}によって

∇∂i∂j=∑k=12Γijk ∂k\nabla_{\partial_i}\partial_j=\sum_{k=1}^{2}\Gamma^k_{ij}\,\partial_k

と一意に書き表される。このΓijk\Gamma^k_{ij}を、パラメータ表示x\boldsymbol{x}に関するChristoffel 記号 (Christoffel symbols) という。

xuiuj\boldsymbol{x}_{u^iu^j}を接成分と法成分に分けると

xuiuj=∑k=12Γijk ∂k+hij N\boldsymbol{x}_{u^iu^j}=\sum_{k=1}^{2}\Gamma^k_{ij}\,\partial_k+h_{ij}\,N

となる。ここでNNは局所的に取った単位法線ベクトル場であり、hij=⟨N,xuiuj⟩h_{ij}=\langle N,\boldsymbol{x}_{u^iu^j}\rangleは第二基本形式の成分(§E19.5 定義 3.1)である。Christoffel 記号は、この分解の接成分にほかならない。以下の定理が主張するのは、接成分が第一基本形式だけで決まるということである。法成分hijh_{ij}については同じことが成り立たない。

計算の要になるのは、次の代数的な同値である。

補題 3.2.WW上の関数Γijk\Gamma^k_{ij}(i,j,k∈{1,2}i,j,k\in\{1,2\})に対して

Γij,l=∑k=12gkl Γijk\Gamma_{ij,l}=\sum_{k=1}^{2}g_{kl}\,\Gamma^k_{ij}

と置く。このとき次の二つは同値である。

  1. すべてのi,j,li,j,lについてΓij,l=Γji,l\Gamma_{ij,l}=\Gamma_{ji,l}であり、すべてのi,j,ki,j,kについて ∂gij∂uk=Γki,j+Γkj,i\frac{\partial g_{ij}}{\partial u^k}=\Gamma_{ki,j}+\Gamma_{kj,i} が成り立つ。
  2. すべてのi,j,li,j,lについて Γij,l=12(∂gjl∂ui+∂gil∂uj−∂gij∂ul)\Gamma_{ij,l}=\frac12\left(\frac{\partial g_{jl}}{\partial u^i}+\frac{\partial g_{il}}{\partial u^j}-\frac{\partial g_{ij}}{\partial u^l}\right) が成り立つ。

証明.(1)⇒\Rightarrow(2)を示す。1 の第二の等式を、添字を入れ替えて三通り書く。

∂gjl∂ui=Γij,l+Γil,j,∂gil∂uj=Γji,l+Γjl,i,∂gij∂ul=Γli,j+Γlj,i\frac{\partial g_{jl}}{\partial u^i}=\Gamma_{ij,l}+\Gamma_{il,j},\qquad \frac{\partial g_{il}}{\partial u^j}=\Gamma_{ji,l}+\Gamma_{jl,i},\qquad \frac{\partial g_{ij}}{\partial u^l}=\Gamma_{li,j}+\Gamma_{lj,i}

第一式と第二式を加え、第三式を引く。1 の対称性Γab,c=Γba,c\Gamma_{ab,c}=\Gamma_{ba,c}によりΓil,j=Γli,j\Gamma_{il,j}=\Gamma_{li,j}とΓjl,i=Γlj,i\Gamma_{jl,i}=\Gamma_{lj,i}が成り立つので、これらの項は相殺し、残るのはΓij,l+Γji,l=2Γij,l\Gamma_{ij,l}+\Gamma_{ji,l}=2\Gamma_{ij,l}である。よって 2 を得る。

(2)⇒\Rightarrow(1)を示す。2 の右辺はiiとjjの入れ替えについて対称であるからΓij,l=Γji,l\Gamma_{ij,l}=\Gamma_{ji,l}である。また

Γki,j+Γkj,i=12(∂gij∂uk+∂gkj∂ui−∂gki∂uj)+12(∂gji∂uk+∂gki∂uj−∂gkj∂ui)=∂gij∂uk\Gamma_{ki,j}+\Gamma_{kj,i} =\frac12\left(\frac{\partial g_{ij}}{\partial u^k}+\frac{\partial g_{kj}}{\partial u^i}-\frac{\partial g_{ki}}{\partial u^j}\right) +\frac12\left(\frac{\partial g_{ji}}{\partial u^k}+\frac{\partial g_{ki}}{\partial u^j}-\frac{\partial g_{kj}}{\partial u^i}\right) =\frac{\partial g_{ij}}{\partial u^k}

である。▨

定理 3.3.M⊆R3M\subseteq\mathbb{R}^3を正則曲面、x:W→M\boldsymbol{x}:W\to Mを正則パラメータ表示とする。定義 3.1の Christoffel 記号はΓijk=Γjik\Gamma^k_{ij}=\Gamma^k_{ji}を満たし、

Γijk=12∑l=12gkl(∂gjl∂ui+∂gil∂uj−∂gij∂ul)\Gamma^k_{ij}=\frac12\sum_{l=1}^{2}g^{kl}\left(\frac{\partial g_{jl}}{\partial u^i}+\frac{\partial g_{il}}{\partial u^j}-\frac{\partial g_{ij}}{\partial u^l}\right)

が成り立つ。とくにΓijk\Gamma^k_{ij}は、第一基本形式の成分gijg_{ij}とその一階偏導関数だけを用いて書き表すことができる。第二基本形式も単位法線も、この式には現れない。

証明.Γij,l=∑kgklΓijk\Gamma_{ij,l}=\sum_kg_{kl}\Gamma^k_{ij}と置く。定義から

Γij,l=⟨∑kΓijk∂k, ∂l⟩=⟨∇∂i∂j,∂l⟩\Gamma_{ij,l}=\left\langle\sum_{k}\Gamma^k_{ij}\partial_k,\ \partial_l\right\rangle =\langle\nabla_{\partial_i}\partial_j,\partial_l\rangle

である。∇∂i∂j=(xuiuj)⊤\nabla_{\partial_i}\partial_j=(\boldsymbol{x}_{u^iu^j})^{\top}であり∂l∈TpM\partial_l\in T_pMであるから

Γij,l=⟨xuiuj,∂l⟩\Gamma_{ij,l}=\langle\boldsymbol{x}_{u^iu^j},\partial_l\rangle

である。

対称性を示す。x\boldsymbol{x}はC∞C^\inftyであるから§E4.4 定理 2.1によりxuiuj=xujui\boldsymbol{x}_{u^iu^j}=\boldsymbol{x}_{u^ju^i}であり、したがってΓij,l=Γji,l\Gamma_{ij,l}=\Gamma_{ji,l}である。(gkl)(g_{kl})は可逆であるから、これはΓijk=Γjik\Gamma^k_{ij}=\Gamma^k_{ji}と同値である。

第一基本形式の微分との関係を示す。gij=⟨∂i,∂j⟩g_{ij}=\langle\partial_i,\partial_j\rangleをuku^kについて偏微分すると、内積についての積の微分法により

∂gij∂uk=⟨xukui,∂j⟩+⟨∂i,xukuj⟩=Γki,j+Γkj,i\frac{\partial g_{ij}}{\partial u^k} =\langle\boldsymbol{x}_{u^ku^i},\partial_j\rangle+\langle\partial_i,\boldsymbol{x}_{u^ku^j}\rangle =\Gamma_{ki,j}+\Gamma_{kj,i}

である。

以上により補題 3.2 (1)が成り立つので、同補題により

Γij,l=12(∂gjl∂ui+∂gil∂uj−∂gij∂ul)\Gamma_{ij,l}=\frac12\left(\frac{\partial g_{jl}}{\partial u^i}+\frac{\partial g_{il}}{\partial u^j}-\frac{\partial g_{ij}}{\partial u^l}\right)

である。両辺にgklg^{kl}を掛けてllについて和を取ると、∑lgklΓij,l=∑l,mgklgmlΓijm=Γijk\sum_lg^{kl}\Gamma_{ij,l}=\sum_{l,m}g^{kl}g_{ml}\Gamma^m_{ij}=\Gamma^k_{ij}であるから、主張の式を得る。▨

第一基本形式が直交している場合、すなわちF=0F=0の場合は、逆行列が対角行列になるので式が短くなる。本単元は回転面と球面をこの形で扱うので、書き下しておく。

公式 3.4. 正則パラメータ表示x(u,v)\boldsymbol{x}(u,v)がF=⟨xu,xv⟩≡0F=\langle\boldsymbol{x}_u,\boldsymbol{x}_v\rangle\equiv0を満たすとする。u1=uu^1=u、u2=vu^2=vと書き、下付きのu,vu,vで偏微分を表すと

Γ111=Eu2E,Γ121=Γ211=Ev2E,Γ221=−Gu2E,\Gamma^1_{11}=\frac{E_u}{2E},\qquad \Gamma^1_{12}=\Gamma^1_{21}=\frac{E_v}{2E},\qquad \Gamma^1_{22}=-\frac{G_u}{2E},Γ112=−Ev2G,Γ122=Γ212=Gu2G,Γ222=Gv2G\Gamma^2_{11}=-\frac{E_v}{2G},\qquad \Gamma^2_{12}=\Gamma^2_{21}=\frac{G_u}{2G},\qquad \Gamma^2_{22}=\frac{G_v}{2G}

が成り立つ。

証明.F=0F=0であるから(gij)=diag⁡(E,G)(g_{ij})=\operatorname{diag}(E,G)でありg11=1/Eg^{11}=1/E、g22=1/Gg^{22}=1/G、g12=g21=0g^{12}=g^{21}=0である。定理 3.3の式でl=kl=kの項だけが残るので

Γij1=12E(∂gj1∂ui+∂gi1∂uj−∂gij∂u1),Γij2=12G(∂gj2∂ui+∂gi2∂uj−∂gij∂u2)\Gamma^1_{ij}=\frac{1}{2E}\left(\frac{\partial g_{j1}}{\partial u^i}+\frac{\partial g_{i1}}{\partial u^j}-\frac{\partial g_{ij}}{\partial u^1}\right),\qquad \Gamma^2_{ij}=\frac{1}{2G}\left(\frac{\partial g_{j2}}{\partial u^i}+\frac{\partial g_{i2}}{\partial u^j}-\frac{\partial g_{ij}}{\partial u^2}\right)

である。g11=Eg_{11}=E、g22=Gg_{22}=G、g12=g21=0g_{12}=g_{21}=0を代入する。たとえばΓ221\Gamma^1_{22}については、g21=0g_{21}=0より第一項と第二項が消え、第三項が−∂g22/∂u1=−Gu-\partial g_{22}/\partial u^1=-G_uとなるのでΓ221=−Gu/(2E)\Gamma^1_{22}=-G_u/(2E)である。Γ122\Gamma^2_{12}については、第一項が∂g22/∂u1=Gu\partial g_{22}/\partial u^1=G_u、第二項が∂g12/∂u2=0\partial g_{12}/\partial u^2=0、第三項が−∂g12/∂u2=0-\partial g_{12}/\partial u^2=0であるからΓ122=Gu/(2G)\Gamma^2_{12}=G_u/(2G)である。残りの四つも同じ代入で得られる。▨

4 共変微分を定める二つの条件

定理 3.3は、共変微分が第一基本形式だけで決まることを座標を用いて示している。同じことを座標に依らない形で述べるために、共変微分を特徴づける二つの条件を取り出す。

定義 4.1.MMを正則曲面とする。写像

∇:X(M)×X(M)→X(M),(X,Y)↦∇XY\nabla:\mathfrak{X}(M)\times\mathfrak{X}(M)\to\mathfrak{X}(M),\qquad(X,Y)\mapsto\nabla_XY

がMMの接続 (affine connection) であるとは、すべてのX,X1,X2,Y,Y1,Y2∈X(M)X,X_1,X_2,Y,Y_1,Y_2\in\mathfrak{X}(M)とf∈C∞(M)f\in C^\infty(M)に対して次の三つが成り立つことをいう。

  1. ∇fX1+X2Y=f ∇X1Y+∇X2Y\nabla_{fX_1+X_2}Y=f\,\nabla_{X_1}Y+\nabla_{X_2}Yである。
  2. ∇X(Y1+Y2)=∇XY1+∇XY2\nabla_X(Y_1+Y_2)=\nabla_XY_1+\nabla_XY_2である。
  3. ∇X(fY)=(Xf) Y+f ∇XY\nabla_X(fY)=(Xf)\,Y+f\,\nabla_XYである。

定理 4.2.MMを正則曲面、I\mathrm{I}をその第一基本形式とする。次の二つをともに満たすMMの接続∇\nablaは、ちょうど一つ存在する。

  1. 内積との両立。すべてのX,Y,Z∈X(M)X,Y,Z\in\mathfrak{X}(M)に対してX I(Y,Z)=I(∇XY,Z)+I(Y,∇XZ)X\,\mathrm{I}(Y,Z)=\mathrm{I}(\nabla_XY,Z)+\mathrm{I}(Y,\nabla_XZ)である。
  2. 捩れの消滅。すべてのX,Y∈X(M)X,Y\in\mathfrak{X}(M)に対して∇XY−∇YX=[X,Y]\nabla_XY-\nabla_YX=[X,Y]である。

この接続は定義 2.1の共変微分であり、すべてのX,Y,Z∈X(M)X,Y,Z\in\mathfrak{X}(M)に対して Koszul の公式

2 I(∇XY,Z)=X I(Y,Z)+Y I(Z,X)−Z I(X,Y)+I([X,Y],Z)−I([X,Z],Y)−I([Y,Z],X)2\,\mathrm{I}(\nabla_XY,Z)=X\,\mathrm{I}(Y,Z)+Y\,\mathrm{I}(Z,X)-Z\,\mathrm{I}(X,Y) +\mathrm{I}([X,Y],Z)-\mathrm{I}([X,Z],Y)-\mathrm{I}([Y,Z],X)

を満たす。

証明の方針を述べる。存在は命題 2.2がすでに与えているので、示すべきは一意性である。一意性は、(1)を三通りの添字の組で書き、二つを加えて一つを引くことで得られる。このとき(2)を用いると、右辺には∇\nablaが∇XY\nabla_XYの形でしか残らず、I(∇XY,Z)\mathrm{I}(\nabla_XY,Z)がI\mathrm{I}と括弧積だけで表される。第一基本形式が正定値であること、および各接ベクトルを値に持つ接ベクトル場が存在することから、この式は∇XY\nabla_XYを各点で決定する。

証明. 存在を示す。命題 2.2 (2)と命題 2.2 (3)により、定義 2.1の共変微分は定義 4.1の意味の接続である。命題 2.2 (4)が(1)を、命題 2.2 (5)が(2)を与える。

Koszul の公式を導く。∇\nablaを(1)と(2)を満たす接続とする。(1)を三通りに書くと

X I(Y,Z)=I(∇XY,Z)+I(Y,∇XZ),X\,\mathrm{I}(Y,Z)=\mathrm{I}(\nabla_XY,Z)+\mathrm{I}(Y,\nabla_XZ),Y I(Z,X)=I(∇YZ,X)+I(Z,∇YX),Y\,\mathrm{I}(Z,X)=\mathrm{I}(\nabla_YZ,X)+\mathrm{I}(Z,\nabla_YX),Z I(X,Y)=I(∇ZX,Y)+I(X,∇ZY)Z\,\mathrm{I}(X,Y)=\mathrm{I}(\nabla_ZX,Y)+\mathrm{I}(X,\nabla_ZY)

である。第一式と第二式を加え、第三式を引く。第一式の第一項と第二式の第二項をまとめ、残りを二つずつ組にすると

X I(Y,Z)+Y I(Z,X)−Z I(X,Y)=I(∇XY+∇YX,Z)+I(Y,∇XZ−∇ZX)+I(X,∇YZ−∇ZY)X\,\mathrm{I}(Y,Z)+Y\,\mathrm{I}(Z,X)-Z\,\mathrm{I}(X,Y) =\mathrm{I}(\nabla_XY+\nabla_YX,Z)+\mathrm{I}(Y,\nabla_XZ-\nabla_ZX)+\mathrm{I}(X,\nabla_YZ-\nabla_ZY)

となる。(2)により∇XZ−∇ZX=[X,Z]\nabla_XZ-\nabla_ZX=[X,Z]と∇YZ−∇ZY=[Y,Z]\nabla_YZ-\nabla_ZY=[Y,Z]が成り立ち、また∇XY+∇YX=2∇XY−[X,Y]\nabla_XY+\nabla_YX=2\nabla_XY-[X,Y]である。代入して整理すると

X I(Y,Z)+Y I(Z,X)−Z I(X,Y)=2 I(∇XY,Z)−I([X,Y],Z)+I([X,Z],Y)+I([Y,Z],X)X\,\mathrm{I}(Y,Z)+Y\,\mathrm{I}(Z,X)-Z\,\mathrm{I}(X,Y) =2\,\mathrm{I}(\nabla_XY,Z)-\mathrm{I}([X,Y],Z)+\mathrm{I}([X,Z],Y)+\mathrm{I}([Y,Z],X)

となり、移項すれば Koszul の公式を得る。

一意性を示す。∇\nablaと∇~\widetilde{\nabla}がともに条件 1 と 2 を満たすとする。Koszul の公式の右辺は∇\nablaを含まないので、すべてのX,Y,Z∈X(M)X,Y,Z\in\mathfrak{X}(M)に対して

I(∇XY−∇~XY, Z)=0\mathrm{I}\bigl(\nabla_XY-\widetilde{\nabla}_XY,\ Z\bigr)=0

である。p∈Mp\in Mとw∈TpMw\in T_pMを任意に取る。ppのまわりの正則パラメータ表示を取り、山型関数(「多様体入門」の§E17.2 命題 1.5)χ\chiを、ppの近傍でχ≡1\chi\equiv1、台が座標近傍に含まれるように取ると、座標基底の定数係数の一次結合にχ\chiを掛けて零で延長したものはX(M)\mathfrak{X}(M)に属し、ppでの値をwwにすることができる。このZZを取るとIp(∇XY(p)−∇~XY(p),w)=0\mathrm{I}_p(\nabla_XY(p)-\widetilde{\nabla}_XY(p),w)=0であり、wwは任意であるから、Ip\mathrm{I}_pが正定値であること(したがって非退化であること)により∇XY(p)=∇~XY(p)\nabla_XY(p)=\widetilde{\nabla}_XY(p)である。ppとX,YX,Yは任意であったから∇=∇~\nabla=\widetilde{\nabla}である。▨

注意 4.3 (Koszul の公式が用いた構造).定理 4.2の一意性の証明で用いたのは、MMが二次元のC∞C^\infty多様体であること、接ベクトル場が関数へ導分として作用すること、括弧積が定まること、および第一基本形式が正定値対称双線形形式であることだけである。曲面がR3\mathbb{R}^3へどのように入っているかは、一度も用いていない。次の節はこの観察を定義の形にする。

5 抽象曲面

定義 5.1. 抽象曲面 (abstract surface) とは、組(M,I)(M,\mathrm{I})であって次の二つを満たすものをいう。

  1. MMは境界を持たない二次元のC∞C^\infty多様体である(「多様体入門」の§E17.1 定義 2.2)。
  2. I\mathrm{I}は、各点p∈Mp\in Mに対して接空間TpMT_pM上の正定値対称双線形形式Ip\mathrm{I}_pを与える対応であり、点について滑らかに変化する。すなわち、MMの任意のチャート(U,(u1,u2))(U,(u^1,u^2))に対して gij=I(∂∂ui,∂∂uj):U→Rg_{ij}=\mathrm{I}\left(\frac{\partial}{\partial u^i},\frac{\partial}{\partial u^j}\right):U\to\mathbb{R} がC∞C^\infty関数である。

I\mathrm{I}を(M,I)(M,\mathrm{I})の第一基本形式 (first fundamental form) という。本単元は、この対象を二次元の場合に限って扱う。一般次元へ広げた対象と、その上の同種の構成は「Riemann 幾何 I」が扱う。

例 5.2 (正則曲面は抽象曲面である).M⊆R3M\subseteq\mathbb{R}^3を正則曲面とし、注意 1.1の同一視のもとでIp(X,Y)=⟨X,Y⟩\mathrm{I}_p(X,Y)=\langle X,Y\rangleと定める(§E19.4 定義 1.1)。Ip\mathrm{I}_pはR3\mathbb{R}^3の内積の制限であるから対称であり、TpMT_pM上で正定値である。チャートを正則パラメータ表示の逆写像として取るとgij=⟨xui,xuj⟩g_{ij}=\langle\boldsymbol{x}_{u^i},\boldsymbol{x}_{u^j}\rangleであり、x\boldsymbol{x}がC∞C^\inftyであるからgijg_{ij}はC∞C^\inftyである。したがって(M,I)(M,\mathrm{I})は抽象曲面である。

抽象曲面についても、定義 4.1の三条件をそのまま接続の定義として用いる。同定義はMMがR3\mathbb{R}^3に入っていることを用いていないからである。

定理 5.3.(M,I)(M,\mathrm{I})を抽象曲面とする。定理 4.2 (1)と定理 4.2 (2)をともに満たすMMの接続∇\nablaが、ちょうど一つ存在する。MMの任意のチャート(U,(u1,u2))(U,(u^1,u^2))の上で、∇\nablaは

∇∂i∂j=∑k=12Γijk ∂k,Γijk=12∑l=12gkl(∂gjl∂ui+∂gil∂uj−∂gij∂ul)\nabla_{\partial_i}\partial_j=\sum_{k=1}^{2}\Gamma^k_{ij}\,\partial_k,\qquad \Gamma^k_{ij}=\frac12\sum_{l=1}^{2}g^{kl}\left(\frac{\partial g_{jl}}{\partial u^i}+\frac{\partial g_{il}}{\partial u^j}-\frac{\partial g_{ij}}{\partial u^l}\right)

で与えられる。ここで∂i=∂/∂ui\partial_i=\partial/\partial u^iであり、(gkl)(g^{kl})は(gij)(g_{ij})の逆行列である。MMが正則曲面であるときは、この接続は定義 2.1の共変微分に一致する。

証明.定理 4.2の一意性の証明は、注意 4.3のとおりR3\mathbb{R}^3への埋め込みを用いていない。したがって同じ議論がそのまま抽象曲面に対して成り立ち、条件 1 と 2 を満たす接続は高々一つである。同じ議論はMMの任意の開集合VVに対しても成り立つ。VVはI\mathrm{I}の制限によってふたたび抽象曲面になるからである。

チャート上で接続を作る。チャート(U,(u1,u2))(U,(u^1,u^2))を取り、上の式でΓijk\Gamma^k_{ij}を定める。(gij)(g_{ij})は各点で正定値であるから可逆であり、gklg^{kl}はC∞C^\infty関数である(逆行列の成分は行列式の商として書かれる)。X=∑iai∂iX=\sum_ia^i\partial_i、Y=∑jbj∂j∈X(U)Y=\sum_jb^j\partial_j\in\mathfrak{X}(U)に対して

∇XUY=∑k=12(Xbk+∑i,j=12Γijkaibj)∂k\nabla^U_XY=\sum_{k=1}^{2}\left(Xb^k+\sum_{i,j=1}^{2}\Gamma^k_{ij}a^ib^j\right)\partial_k

と定める。右辺はC∞C^\infty係数の接ベクトル場であり、XXについてC∞(U)C^\infty(U)線形、YYについて加法的であり、∇XU(fY)=(Xf)Y+f∇XUY\nabla^U_X(fY)=(Xf)Y+f\nabla^U_XYを満たす。したがって∇U\nabla^UはUUの接続である。

条件 2 を確かめる。写像T(X,Y)=∇XUY−∇YUX−[X,Y]T(X,Y)=\nabla^U_XY-\nabla^U_YX-[X,Y]はXXとYYの両方についてC∞(U)C^\infty(U)線形である。実際、XXについてのC∞(U)C^\infty(U)線形性は接続の条件 1 と[fX,Y]=f[X,Y]−(Yf)X[fX,Y]=f[X,Y]-(Yf)Xから、YYについてのそれは接続の条件 3 と[X,fY]=f[X,Y]+(Xf)Y[X,fY]=f[X,Y]+(Xf)Yから従う(括弧積のこれらの性質は§E17.7 命題 1.3から直ちに得られる)。UUはチャートの定義域であるから、X=∑iai∂iX=\sum_ia^i\partial_i、Y=∑jbj∂jY=\sum_jb^j\partial_jをUU全体で書くことができ、C∞(U)C^\infty(U)双線形性によりT(X,Y)=∑i,jaibj T(∂i,∂j)T(X,Y)=\sum_{i,j}a^ib^j\,T(\partial_i,\partial_j)である。補題 3.2によりΓijk=Γjik\Gamma^k_{ij}=\Gamma^k_{ji}であり、[∂i,∂j]=0[\partial_i,\partial_j]=0である(§E17.7 命題 1.3で成分が定数であることによる)からT(∂i,∂j)=0T(\partial_i,\partial_j)=0であり、T≡0T\equiv0である。

条件 1 を確かめる。写像C(X;Y,Z)=X I(Y,Z)−I(∇XUY,Z)−I(Y,∇XUZ)C(X;Y,Z)=X\,\mathrm{I}(Y,Z)-\mathrm{I}(\nabla^U_XY,Z)-\mathrm{I}(Y,\nabla^U_XZ)はX,Y,ZX,Y,ZのそれぞれについてC∞(U)C^\infty(U)線形である。XXについては接続の条件 1 から、YYについては

C(X;fY,Z)=(Xf)I(Y,Z)+fX I(Y,Z)−I((Xf)Y+f∇XUY,Z)−f I(Y,∇XUZ)=f C(X;Y,Z)C(X;fY,Z)=(Xf)\mathrm{I}(Y,Z)+fX\,\mathrm{I}(Y,Z)-\mathrm{I}\bigl((Xf)Y+f\nabla^U_XY,Z\bigr)-f\,\mathrm{I}(Y,\nabla^U_XZ)=f\,C(X;Y,Z)

から、ZZについては同じ計算から従う。前段と同じ理由でC(X;Y,Z)=∑i,j,kakbicj C(∂k;∂i,∂j)C(X;Y,Z)=\sum_{i,j,k}a^kb^ic^j\,C(\partial_k;\partial_i,\partial_j)(Z=∑jcj∂jZ=\sum_jc^j\partial_j)であるから、座標基底について確かめれば足りる。補題 3.2 (2)⇒\Rightarrow(1)への含意により∂gij/∂uk=Γki,j+Γkj,i\partial g_{ij}/\partial u^k=\Gamma_{ki,j}+\Gamma_{kj,i}であり、これは

∂k I(∂i,∂j)=I(∇∂kU∂i,∂j)+I(∂i,∇∂kU∂j)\partial_k\,\mathrm{I}(\partial_i,\partial_j)=\mathrm{I}(\nabla^U_{\partial_k}\partial_i,\partial_j)+\mathrm{I}(\partial_i,\nabla^U_{\partial_k}\partial_j)

にほかならない。よってC(∂k;∂i,∂j)=0C(\partial_k;\partial_i,\partial_j)=0である。

貼り合わせる。二つのチャート(U1, ⋅ )(U_1,\ \cdot\ )と(U2, ⋅ )(U_2,\ \cdot\ )の像が重なるとき、∇U1\nabla^{U_1}と∇U2\nabla^{U_2}のU1∩U2U_1\cap U_2への制限は、ともにU1∩U2U_1\cap U_2の接続であって条件 1 と 2 を満たす。∇XUY\nabla^U_XYを与える上の式は、点ppにおける値がX(p)X(p)、Y(p)Y(p)、ppの近傍におけるYYの成分およびppにおけるΓijk\Gamma^k_{ij}の値だけで決まる形をしているので、開部分集合へ制限しても接続の三条件と条件 1、2 がそのまま成り立つ。U1∩U2U_1\cap U_2は抽象曲面であるから、冒頭で述べた一意性により両者は一致する。したがってp∈Mp\in MとX,Y∈X(M)X,Y\in\mathfrak{X}(M)に対して(∇XY)(p)=(∇X∣UUY∣U)(p)(\nabla_XY)(p)=(\nabla^U_{X|_U}Y|_U)(p)(UUはppを含む任意のチャートの定義域)と定めることができ、∇\nablaは well-defined である。接続の三条件と条件 1、2 はいずれも各点で確かめられる形をしているので、∇\nablaはこれらを満たす。

正則曲面の場合を確かめる。M⊆R3M\subseteq\mathbb{R}^3が正則曲面であるとき、定義 2.1の共変微分は条件 1 と 2 を満たす接続であるから(命題 2.2)、一意性により∇\nablaに一致する。▨

注意 5.4 (以後の構成が第一基本形式だけを与えられた対象へ移ること). 本記事が構成した共変微分は、定理 5.3のとおり、第一基本形式の成分とその一階偏導関数だけから定まる。曲面がR3\mathbb{R}^3へどのように入っているかは用いていない。したがって共変微分と、次節で構成する平行移動は、抽象曲面に対してそのまま定まる。

以後の記事が扱う測地線、測地曲率、面積要素、正規直交標構と接続形式、および Gauss 曲率も、同じ理由で抽象曲面に対して定まる。各記事は、その量が第一基本形式だけを用いて書き表されることをその場で確かめる。この事実は、大域 Gauss–Bonnet の定理をR3\mathbb{R}^3に埋め込まれていない曲面へ適用するときに必要になる。平坦な第一基本形式を持つ円環面は、その典型である。

6 曲線に沿う共変微分と平行移動

以下、(M,I)(M,\mathrm{I})を抽象曲面とし、∇\nablaを定理 5.3の接続とする。MMが正則曲面である場合も含む。曲線γ:I→M\gamma:I\to Mが滑らかであるとは、IIが開区間のときはγ\gammaがC∞C^\infty写像であることをいい、IIが開区間でないときは、IIを含む開区間の上のC∞C^\infty写像の制限として書き表されることをいう。

定義 6.1.γ:I→M\gamma:I\to Mを滑らかな曲線とする。γ\gammaに沿うベクトル場 (vector field along a curve) とは、各t∈It\in Iに対してV(t)∈Tγ(t)MV(t)\in T_{\gamma(t)}Mを与える対応VVであって、次を満たすものをいう。γ(t0)\gamma(t_0)を含む任意のチャート(U,(u1,u2))(U,(u^1,u^2))に対して、γ−1(U)\gamma^{-1}(U)の上で

V(t)=∑k=12vk(t) ∂k∣γ(t)V(t)=\sum_{k=1}^{2}v^k(t)\,\partial_k\bigl|_{\gamma(t)}

と書いたときの係数vkv^kがC∞C^\infty関数である。γ\gammaに沿うベクトル場の全体をX(γ)\mathfrak{X}(\gamma)と書く。

速度ベクトル場γ′\gamma'はX(γ)\mathfrak{X}(\gamma)に属する。座標表示をui(t)u^i(t)と書くとγ′(t)=∑iu˙i(t) ∂i∣γ(t)\gamma'(t)=\sum_i\dot u^i(t)\,\partial_i|_{\gamma(t)}である。

命題 6.2.γ:I→M\gamma:I\to Mを滑らかな曲線とする。写像D/dt:X(γ)→X(γ)D/dt:\mathfrak{X}(\gamma)\to\mathfrak{X}(\gamma)であって次の二つを満たすものが、ちょうど一つ存在する。

  1. すべてのV,W∈X(γ)V,W\in\mathfrak{X}(\gamma)とh∈C∞(I)h\in C^\infty(I)に対して D(V+W)dt=DVdt+DWdt,D(hV)dt=h˙ V+h DVdt\frac{D(V+W)}{dt}=\frac{DV}{dt}+\frac{DW}{dt},\qquad \frac{D(hV)}{dt}=\dot h\,V+h\,\frac{DV}{dt} が成り立つ。
  2. t0∈It_0\in Iとし、YYがγ(t0)\gamma(t_0)の近傍UU上の接ベクトル場であって、t0t_0のある近傍でV(t)=Y(γ(t))V(t)=Y(\gamma(t))が成り立つとする。このときDVdt(t0)=∇γ′(t0)Y\dfrac{DV}{dt}(t_0)=\nabla_{\gamma'(t_0)}Yである。

さらに、チャート(U,(u1,u2))(U,(u^1,u^2))の上では

DVdt=∑k=12(v˙k(t)+∑i,j=12Γijk(γ(t)) u˙i(t) vj(t))∂k∣γ(t)\frac{DV}{dt}=\sum_{k=1}^{2}\left(\dot v^k(t)+\sum_{i,j=1}^{2}\Gamma^k_{ij}(\gamma(t))\,\dot u^i(t)\,v^j(t)\right)\partial_k\bigl|_{\gamma(t)}

であり、M⊆R3M\subseteq\mathbb{R}^3が正則曲面であるときは

DVdt(t)=(V′(t))⊤\frac{DV}{dt}(t)=\bigl(V'(t)\bigr)^{\top}

である。ここで右辺は、R3\mathbb{R}^3に値を持つ写像VVの通常の導関数のTγ(t)MT_{\gamma(t)}Mへの正射影である。

証明. (1)が局所性を含むことを示す。V∈X(γ)V\in\mathfrak{X}(\gamma)がt0t_0の近傍JJの上で零であるとする。χ∈C∞(I)\chi\in C^\infty(I)を、t0t_0の近傍でχ≡1\chi\equiv1かつsupp⁡χ⊆J\operatorname{supp}\chi\subseteq Jとなるように取る(「多様体入門」の§E17.2 命題 1.5を一次元の多様体IIに適用する)。するとχV\chi VはII全体で零であるから、(1)により

0=D(χV)dt(t0)=χ˙(t0)V(t0)+χ(t0)DVdt(t0)=DVdt(t0)0=\frac{D(\chi V)}{dt}(t_0)=\dot\chi(t_0)V(t_0)+\chi(t_0)\frac{DV}{dt}(t_0)=\frac{DV}{dt}(t_0)

である。したがってDV/dtDV/dtのt0t_0における値は、t0t_0の近傍におけるVVだけで決まる。

チャート上の表示を導く。t0∈It_0\in Iを取り、γ(t0)\gamma(t_0)を含むチャート(U,(u1,u2))(U,(u^1,u^2))を取る。J=γ−1(U)J=\gamma^{-1}(U)はt0t_0を含むIIの相対開集合である。JJの上でV=∑kvk (∂k∘γ)V=\sum_kv^k\,(\partial_k\circ\gamma)と書く。条件 1 と局所性により

DVdt=∑k=12(v˙k (∂k∘γ)+vk D(∂k∘γ)dt)\frac{DV}{dt}=\sum_{k=1}^{2}\left(\dot v^k\,(\partial_k\circ\gamma)+v^k\,\frac{D(\partial_k\circ\gamma)}{dt}\right)

である。∂k\partial_kはUU上の接ベクトル場であるから、(2)により

D(∂k∘γ)dt(t)=∇γ′(t)∂k=∑i=12u˙i(t) ∇∂i∂k=∑i,l=12u˙i(t) Γikl(γ(t)) ∂l\frac{D(\partial_k\circ\gamma)}{dt}(t)=\nabla_{\gamma'(t)}\partial_k =\sum_{i=1}^{2}\dot u^i(t)\,\nabla_{\partial_i}\partial_k =\sum_{i,l=1}^{2}\dot u^i(t)\,\Gamma^l_{ik}(\gamma(t))\,\partial_l

である。代入して添字を整理すると主張の表示を得る。この計算は、条件 1 と 2 を満たす作用素の値を一意に決めているので、一意性が従う。逆に、各チャート上でこの式によってDV/dtDV/dtを定めると、条件 1 と 2 を満たす作用素が得られる。二つのチャートの重なりの上で値が一致することは、いま示した一意性を重なりの上で用いれば従う。これで存在も従う。

正則曲面の場合を示す。M⊆R3M\subseteq\mathbb{R}^3とし、正則パラメータ表示を取る。V(t)=∑kvk(t) ∂k(γ(t))V(t)=\sum_kv^k(t)\,\partial_k(\gamma(t))をR3\mathbb{R}^3に値を持つ写像とみてttについて微分すると、連鎖律により

V′(t)=∑k=12v˙k(t) ∂k+∑i,j=12u˙i(t) vj(t) xuiujV'(t)=\sum_{k=1}^{2}\dot v^k(t)\,\partial_k+\sum_{i,j=1}^{2}\dot u^i(t)\,v^j(t)\,\boldsymbol{x}_{u^iu^j}

である。(xuiuj)⊤=∑kΓijk∂k(\boldsymbol{x}_{u^iu^j})^{\top}=\sum_k\Gamma^k_{ij}\partial_kであるから、正射影を取れば主張の表示に一致する。▨

命題 6.3.γ:I→M\gamma:I\to Mを滑らかな曲線、V,W∈X(γ)V,W\in\mathfrak{X}(\gamma)とする。このときIIの上で

ddt I(V,W)=I(DVdt,W)+I(V,DWdt)\frac{d}{dt}\,\mathrm{I}(V,W)=\mathrm{I}\left(\frac{DV}{dt},W\right)+\mathrm{I}\left(V,\frac{DW}{dt}\right)

が成り立つ。

証明. 主張は局所的であるから、チャート(U,(u1,u2))(U,(u^1,u^2))を取りγ−1(U)\gamma^{-1}(U)の上で示せば足りる。V=∑ivi∂iV=\sum_iv^i\partial_i、W=∑jwj∂jW=\sum_jw^j\partial_jと書くとI(V,W)=∑i,jgij(γ(t))viwj\mathrm{I}(V,W)=\sum_{i,j}g_{ij}(\gamma(t))v^iw^jである。連鎖律により

ddt I(V,W)=∑i,j,k∂gij∂uk u˙k viwj+∑i,jgij(v˙iwj+viw˙j)\frac{d}{dt}\,\mathrm{I}(V,W) =\sum_{i,j,k}\frac{\partial g_{ij}}{\partial u^k}\,\dot u^k\,v^iw^j +\sum_{i,j}g_{ij}\bigl(\dot v^iw^j+v^i\dot w^j\bigr)

である。一方、命題 6.2の表示により

I(DVdt,W)+I(V,DWdt)=∑i,jgij(v˙iwj+viw˙j)+∑i,j,k,l(gljΓkil+gilΓkjl)u˙kviwj\mathrm{I}\left(\frac{DV}{dt},W\right)+\mathrm{I}\left(V,\frac{DW}{dt}\right) =\sum_{i,j}g_{ij}\bigl(\dot v^iw^j+v^i\dot w^j\bigr) +\sum_{i,j,k,l}\Bigl(g_{lj}\Gamma^l_{ki}+g_{il}\Gamma^l_{kj}\Bigr)\dot u^kv^iw^j

である。∑lgljΓkil=Γki,j\sum_lg_{lj}\Gamma^l_{ki}=\Gamma_{ki,j}と∑lgilΓkjl=Γkj,i\sum_lg_{il}\Gamma^l_{kj}=\Gamma_{kj,i}であり、補題 3.2によりΓki,j+Γkj,i=∂gij/∂uk\Gamma_{ki,j}+\Gamma_{kj,i}=\partial g_{ij}/\partial u^kであるから、二つの式は一致する。▨

定義 6.4.γ:I→M\gamma:I\to Mを滑らかな曲線とする。V∈X(γ)V\in\mathfrak{X}(\gamma)がγ\gammaに沿って平行 (parallel) であるとは、IIの全体でDVdt=0\dfrac{DV}{dt}=0が成り立つことをいう。

平行であるという条件は、チャート上では

v˙k(t)=−∑i,j=12Γijk(γ(t)) u˙i(t) vj(t)(k=1,2)\dot v^k(t)=-\sum_{i,j=1}^{2}\Gamma^k_{ij}(\gamma(t))\,\dot u^i(t)\,v^j(t)\qquad(k=1,2)

という、未知関数(v1,v2)(v^1,v^2)についての線形常微分方程式系である。係数−∑iΓijk(γ(t))u˙i(t)-\sum_i\Gamma^k_{ij}(\gamma(t))\dot u^i(t)はttのC∞C^\infty関数であり、とくに連続である。したがって解の存在と一意性は、Picard–Lindelöf の定理ではなく、連続な係数を持つ線形系についての定理から得られる。二つを取り違えると結論の範囲が変わる。Picard–Lindelöf の定理が与えるのは初期点の近くでの解であるのに対し、線形系についての定理は、解が係数の定義区間の全体で存在することまで述べているからである。

定理 6.5.(M,I)(M,\mathrm{I})を抽象曲面、γ:I→M\gamma:I\to Mを滑らかな曲線(IIは区間)、t0∈It_0\in Iとする。

  1. 各V0∈Tγ(t0)MV_0\in T_{\gamma(t_0)}Mに対して、γ\gammaに沿って平行なベクトル場V∈X(γ)V\in\mathfrak{X}(\gamma)であってV(t0)=V0V(t_0)=V_0を満たすものが、ちょうど一つ存在する。
  2. t1∈It_1\in Iに対して、Pt0t1:Tγ(t0)M→Tγ(t1)MP^{t_1}_{t_0}:T_{\gamma(t_0)}M\to T_{\gamma(t_1)}MをPt0t1(V0)=V(t1)P^{t_1}_{t_0}(V_0)=V(t_1)で定める。この写像をγ\gammaに沿う平行移動という。Pt0t1P^{t_1}_{t_0}は線形であり、第一基本形式を保つ。すなわちすべてのV0,W0∈Tγ(t0)MV_0,W_0\in T_{\gamma(t_0)}Mに対して I(Pt0t1V0, Pt0t1W0)=I(V0,W0)\mathrm{I}\bigl(P^{t_1}_{t_0}V_0,\ P^{t_1}_{t_0}W_0\bigr)=\mathrm{I}(V_0,W_0) が成り立つ。とくにPt0t1P^{t_1}_{t_0}は線形同型であり、逆写像はPt1t0P^{t_0}_{t_1}である。

証明の方針を述べる。一意性は常微分方程式の理論を経由せずに得られる。二つの平行な場の差はふたたび平行であり、命題 6.3により平行な場どうしの第一基本形式による内積は定数であるから、差の長さが至るところ零になるからである。存在については、曲線の像が一つのチャートに含まれる場合に、平行であるという条件がそのまま線形常微分方程式系になるので、連続な係数を持つ線形系についての定理を適用して区間の全体で解を得る。一般の曲線については、コンパクトな部分区間の像を有限個のチャートで覆って区間を分割し、各小区間で解を作って端点で継ぎ足し、一意性によって整合させる。

証明. 平行な場どうしの内積が定数であることを示す。V,WV,Wをγ\gammaに沿って平行とすると、命題 6.3により

ddt I(V,W)=I(0,W)+I(V,0)=0\frac{d}{dt}\,\mathrm{I}(V,W)=\mathrm{I}(0,W)+\mathrm{I}(V,0)=0

であるからI(V,W)\mathrm{I}(V,W)はII上で定数である。

一意性を示す。VVとV~\widetilde{V}がともに平行でV(t0)=V~(t0)V(t_0)=\widetilde{V}(t_0)を満たすとする。Z=V−V~Z=V-\widetilde{V}と置くと、D/dtD/dtがR\mathbb{R}線形であること(命題 6.2 (1))によりZZも平行である。前段によりI(Z,Z)\mathrm{I}(Z,Z)は定数であり、Z(t0)=0Z(t_0)=0であるからI(Z,Z)≡0\mathrm{I}(Z,Z)\equiv0である。I\mathrm{I}は正定値であるからZ≡0Z\equiv0、すなわちV=V~V=\widetilde{V}である。

像が一つのチャートに含まれる開区間の場合について存在を示す。JJを開区間、γ(J)⊆U\gamma(J)\subseteq U((U,(u1,u2))(U,(u^1,u^2))はチャート)とする。平行であるという条件は上の線形常微分方程式系であり、係数行列A(t)A(t)の成分A jk(t)=−∑iΓijk(γ(t))u˙i(t)A^k_{\ j}(t)=-\sum_i\Gamma^k_{ij}(\gamma(t))\dot u^i(t)はJJ上の連続関数である。「常微分方程式」の§E10.7 系 1.2により、JJの各点における初期値を与えるごとにJJ全体で定義された解が存在する。解の成分は、方程式の右辺がC∞C^\infty係数であることから帰納的にC∞C^\inftyである。

一般の場合について存在を示す。滑らかな曲線の定義により、IIを含む開区間I~\widetilde{I}とγ\gammaの滑らかな延長γ~:I~→M\widetilde{\gamma}:\widetilde{I}\to Mが存在する。平行な場の制限はふたたび平行であるから、γ~\widetilde{\gamma}について主張 1 を示せば足りる。以下IIが開区間であるとする。

[c,d]⊆I[c,d]\subseteq Iをt0t_0を含むコンパクトな区間とする。γ([c,d])\gamma([c,d])の各点のまわりにチャートを取り、その逆像で[c,d][c,d]を覆う。[c,d][c,d]はコンパクトであるから、Lebesgue 数を取って分割c=s0<s1<⋯<sm=dc=s_0<s_1<\dots<s_m=dを、各γ([sn−1,sn])\gamma([s_{n-1},s_n])が一つのチャートの定義域UnU_nに含まれるように選ぶことができる。γ−1(Un)\gamma^{-1}(U_n)は開集合であり[sn−1,sn][s_{n-1},s_n]を含むから、[sn−1,sn][s_{n-1},s_n]を含む開区間Jn⊆γ−1(Un)J_n\subseteq\gamma^{-1}(U_n)が存在する。t0t_0を含む小区間から出発して前段を各JnJ_nに適用し、区間の端点における値を次の区間の初期値として順に解くと、[c,d][c,d]の上の平行な場が得られる。IIをt0t_0を含むコンパクト区間の増大列で尽くし、各区間の上で得た場を貼り合わせる。異なる区間の上の場は、いま示した一意性により重なりの上で一致するので、II全体の平行な場が定まる。

(2)を示す。線形性は、V1,V2V_1,V_2が平行でa,b∈Ra,b\in\mathbb{R}のときaV1+bV2aV_1+bV_2も平行であり、t0t_0での値がaV1(t0)+bV2(t0)aV_1(t_0)+bV_2(t_0)であることと、主張 1 の一意性から従う。第一基本形式を保つことは、前段で示した「平行な場どうしの内積が定数である」ことをt=t0t=t_0とt=t1t=t_1で比較して得られる。第一基本形式は正定値であるから、これを保つ線形写像は単射であり、Tγ(t0)MT_{\gamma(t_0)}MとTγ(t1)MT_{\gamma(t_1)}Mはともに二次元であるから全単射である。Pt1t0∘Pt0t1=id⁡P^{t_0}_{t_1}\circ P^{t_1}_{t_0}=\operatorname{id}は一意性から従う。▨

7 例

以下の例では、Christoffel 記号と平行移動を独立に計算する。

例 7.1 (平面と、座標に依存する Christoffel 記号).M={(x,y,0):(x,y)∈R2}M=\{(x,y,0):(x,y)\in\mathbb{R}^2\}とし、x(u,v)=(u,v,0)\boldsymbol{x}(u,v)=(u,v,0)を取る。E=1E=1、F=0F=0、G=1G=1であるから、公式 3.4のすべての式の分子が零になりΓijk≡0\Gamma^k_{ij}\equiv0である。したがって共変微分は成分ごとの通常の微分に一致し、曲線に沿って平行な場は成分が定数の場である。

同じ平面に極座標y(r,φ)=(rcos⁡φ,rsin⁡φ,0)\boldsymbol{y}(r,\varphi)=(r\cos\varphi,r\sin\varphi,0)(r>0r>0)を取るとE=1E=1、F=0F=0、G=r2G=r^2であるから

Γ221=−Gr2E=−r,Γ122=Γ212=Gr2G=1r\Gamma^1_{22}=-\frac{G_r}{2E}=-r,\qquad \Gamma^2_{12}=\Gamma^2_{21}=\frac{G_r}{2G}=\frac1r

であり、残る四つは零である。同じ曲面の同じ接続でありながら Christoffel 記号の値が異なるのは、Γijk\Gamma^k_{ij}が接続の座標成分であって、座標に依存する量だからである。定理 3.3が主張しているのは、Γijk\Gamma^k_{ij}が座標に依らないことではなく、一つの座標を固定したときΓijk\Gamma^k_{ij}が第一基本形式の成分から計算されるということである。

例 7.2 (円柱の平行移動).M={(x,y,z):x2+y2=1}M=\{(x,y,z):x^2+y^2=1\}とし、x(u,v)=(cos⁡u,sin⁡u,v)\boldsymbol{x}(u,v)=(\cos u,\sin u,v)を取る。xu=(−sin⁡u,cos⁡u,0)\boldsymbol{x}_u=(-\sin u,\cos u,0)、xv=(0,0,1)\boldsymbol{x}_v=(0,0,1)であるからE=1E=1、F=0F=0、G=1G=1であり、公式 3.4によりΓijk≡0\Gamma^k_{ij}\equiv0である。したがって、曲線γ(t)=x(u(t),v(t))\gamma(t)=\boldsymbol{x}(u(t),v(t))に沿うベクトル場V=ξ1∂1+ξ2∂2V=\xi^1\partial_1+\xi^2\partial_2が平行であることと、成分ξ1,ξ2\xi^1,\xi^2が定数であることは同値である。

第二基本形式は零ではない。単位法線をN=(cos⁡u,sin⁡u,0)N=(\cos u,\sin u,0)と取るとxuu=(−cos⁡u,−sin⁡u,0)\boldsymbol{x}_{uu}=(-\cos u,-\sin u,0)は−N-Nに等しく、第二基本形式の成分⟨N,xuu⟩\langle N,\boldsymbol{x}_{uu}\rangleは−1-1である。すなわちV′(t)V'(t)自体は一般に零でなく、その接成分だけが零になる。円柱の Christoffel 記号が平面のそれと一致することは、平面と円柱が局所等長であること(§E19.4 定義 7.1)の帰結である。

例 7.3 (球面の Christoffel 記号と緯線に沿う平行移動). 半径r>0r>0の球面M={p∈R3:∥p∥=r}M=\{p\in\mathbb{R}^3:\lVert p\rVert=r\}を取り、

x(u,v)=r(sin⁡ucos⁡v, sin⁡usin⁡v, cos⁡u)(0<u<π, v∈R)\boldsymbol{x}(u,v)=r(\sin u\cos v,\ \sin u\sin v,\ \cos u)\qquad(0<u<\pi,\ v\in\mathbb{R})

とする。xu=r(cos⁡ucos⁡v,cos⁡usin⁡v,−sin⁡u)\boldsymbol{x}_u=r(\cos u\cos v,\cos u\sin v,-\sin u)、xv=r(−sin⁡usin⁡v,sin⁡ucos⁡v,0)\boldsymbol{x}_v=r(-\sin u\sin v,\sin u\cos v,0)であるから

E=r2,F=0,G=r2sin⁡2uE=r^2,\qquad F=0,\qquad G=r^2\sin^2u

である。公式 3.4により

Γ221=−Gu2E=−2r2sin⁡ucos⁡u2r2=−sin⁡ucos⁡u,Γ122=Γ212=Gu2G=cos⁡usin⁡u\Gamma^1_{22}=-\frac{G_u}{2E}=-\frac{2r^2\sin u\cos u}{2r^2}=-\sin u\cos u,\qquad \Gamma^2_{12}=\Gamma^2_{21}=\frac{G_u}{2G}=\frac{\cos u}{\sin u}

であり、残る四つは零である。

向きは、囲む領域から見て内向きに取る。すなわちN(p)=−p/rN(p)=-p/rとする。これはx\boldsymbol{x}が定める向き(xu×xv)/∥xu×xv∥(\boldsymbol{x}_u\times\boldsymbol{x}_v)/\lVert\boldsymbol{x}_u\times\boldsymbol{x}_v\rVertとは反対の向きである。実際、u=π/2u=\pi/2、v=0v=0ではxu×xv=r2(1,0,0)\boldsymbol{x}_u\times\boldsymbol{x}_v=r^2(1,0,0)であり、これは外向きである。正規直交接標構を

e1=xvrsin⁡u,e2=xure_1=\frac{\boldsymbol{x}_v}{r\sin u},\qquad e_2=\frac{\boldsymbol{x}_u}{r}

と取ると(e1,e2,N)(e_1,e_2,N)は右手系である。u=u0u=u_0、v=0v=0で確かめるとe1=(0,1,0)e_1=(0,1,0)、e2=(cos⁡u0,0,−sin⁡u0)e_2=(\cos u_0,0,-\sin u_0)であり

e1×e2=(−sin⁡u0,0,−cos⁡u0)=Ne_1\times e_2=(-\sin u_0,0,-\cos u_0)=N

となる。

0<u0<π0<u_0<\piを固定し、緯線をvvの減る向きに

γ(t)=x(u0,−t)(0≤t≤2π)\gamma(t)=\boldsymbol{x}(u_0,-t)\qquad(0\le t\le2\pi)

と径数づける。座標表示はu1(t)=u0u^1(t)=u_0、u2(t)=−tu^2(t)=-tであるからu˙1=0\dot u^1=0、u˙2=−1\dot u^2=-1である。γ\gammaに沿うベクトル場をV=ξ1∂1+ξ2∂2V=\xi^1\partial_1+\xi^2\partial_2と書くと、平行の条件は

ξ˙1=−Γ221 u˙2ξ2=−(−sin⁡u0cos⁡u0)(−1)ξ2=−sin⁡u0cos⁡u0 ξ2,\dot\xi^1=-\Gamma^1_{22}\,\dot u^2\xi^2=-(-\sin u_0\cos u_0)(-1)\xi^2=-\sin u_0\cos u_0\,\xi^2,ξ˙2=−Γ212 u˙2ξ1=−cos⁡u0sin⁡u0(−1)ξ1=cos⁡u0sin⁡u0 ξ1\dot\xi^2=-\Gamma^2_{21}\,\dot u^2\xi^1=-\frac{\cos u_0}{\sin u_0}(-1)\xi^1=\frac{\cos u_0}{\sin u_0}\,\xi^1

である。標構(e1,e2)(e_1,e_2)による成分をA=rsin⁡u0 ξ2A=r\sin u_0\,\xi^2、B=r ξ1B=r\,\xi^1と置くと

A˙=rsin⁡u0 ξ˙2=cos⁡u0⋅rξ1=(cos⁡u0)B,B˙=rξ˙1=−cos⁡u0⋅rsin⁡u0 ξ2=−(cos⁡u0)A\dot A=r\sin u_0\,\dot\xi^2=\cos u_0\cdot r\xi^1=(\cos u_0)B,\qquad \dot B=r\dot\xi^1=-\cos u_0\cdot r\sin u_0\,\xi^2=-(\cos u_0)A

である。したがって複素数値関数A+iBA+iBはddt(A+iB)=−i(cos⁡u0)(A+iB)\frac{d}{dt}(A+iB)=-i(\cos u_0)(A+iB)を満たし、

A(t)+iB(t)=e−itcos⁡u0(A(0)+iB(0))A(t)+iB(t)=e^{-it\cos u_0}\bigl(A(0)+iB(0)\bigr)

である。A2+B2A^2+B^2が定数であることも読み取ることができ、定理 6.5 (2)と整合する。

t=2πt=2\piで標構(e1,e2)(e_1,e_2)はもとに戻るから、この閉曲線に沿う平行移動P02πP^{2\pi}_0は、e1e_1からe2e_2へ向かう向きを正として測った角−2πcos⁡u0-2\pi\cos u_0の回転である。半径rrの球面の Gauss 曲率はK=1/r2K=1/r^2であり(§E19.6 命題 4.3。この値は向きの取り方に依らない)、面積要素はdA=EG−F2 du dv=r2sin⁡u du dvdA=\sqrt{EG-F^2}\,du\,dv=r^2\sin u\,du\,dv(§E19.4 定義 5.1)であるから、領域R={u<u0}R=\{u<u_0\}の面積は

∫0u0 ⁣ ⁣∫02πr2sin⁡u dv du=2πr2(1−cos⁡u0)\int_0^{u_0}\!\!\int_0^{2\pi}r^2\sin u\,dv\,du=2\pi r^2(1-\cos u_0)

であり、

∫RK dA=2π(1−cos⁡u0)\int_RK\,dA=2\pi(1-\cos u_0)

である。二つの値は2π2\piの差を除いて一致する。回転角は2π2\piの整数倍の差を除いてしか定まらないので、この一致は意味を持つ。

差が2π2\piちょうどになる理由は、本例が用いた標構(e1,e2)(e_1,e_2)が球冠R={u<u0}R=\{u<u_0\}の全体では定義されていないことにある。e1=xv/(rsin⁡u)e_1=\boldsymbol{x}_v/(r\sin u)はu→0u\to0で定義されず、RRの内点である北極を含む近傍へは連続に延びない。回転角を2π2\piの整数倍の差を除かずに実数として定めるには、領域全体で定義された標構が必要である。「局所 Gauss–Bonnet とホロノミー」の§E19.14 注意 7.2がこの点を特定し、§E19.14 例 8.4が、北極を含む球冠に対して立体射影の座標から標構を取り直すと、平行移動の回転角がちょうど∫RK dA\int_RK\,dAに等しくなることを示している。閉曲線に沿う平行移動の回転角が囲む領域の Gauss 曲率の積分に等しいという一般の主張は、局所 Gauss–Bonnet の定理から導かれるものであり、同じ記事が扱う。ここで確かめたのは、その主張と矛盾しないという一例である。

なお、vvの減る向きに径数づけたのは偶然ではない。内向きの単位法線NNとT=γ′/∥γ′∥T=\gamma'/\lVert\gamma'\rVertに対してN×TN\times Tが球冠{u<u0}\{u<u_0\}の内側を向くのは、この向きである。

8 演習

問題 8.1.

  1. 命題 2.2 (5)の証明では、二階偏導関数の対称性を用いてxuiuj\boldsymbol{x}_{u^iu^j}を含む項を相殺させた。この相殺を行わずにDXY−DYXD_XY-D_YXを計算すると、どの段階で括弧積の座標表示と食い違うかを、(∗)(\ast)の各項に即して述べよ。
  2. 補題 3.2の証明で、1 から 2 を導く際に対称性Γab,c=Γba,c\Gamma_{ab,c}=\Gamma_{ba,c}を用いた箇所を特定せよ。対称性を仮定しない場合に、同じ三つの式の組み合わせから何が得られるかを書き下せ。
  3. 定理 4.2の一意性の証明では、各接ベクトルw∈TpMw\in T_pMを値に持つ大域的な接ベクトル場を構成した。この構成を省いて「ZZをppの近傍上の接ベクトル場に取る」とすると、証明のどこが成り立たなくなるかを述べよ。
  4. 定理 5.3の証明では、捩れの消滅と内積との両立をそれぞれC∞C^\infty線形性によって座標基底の場合へ帰着させた。同じ帰着を、接続の条件 3 だけを用いて∇XUY\nabla^U_XYそのものについて行うことはできない。その理由を、∇XU(fY)\nabla^U_X(fY)の式に即して述べよ。
  5. 定理 6.5の証明で、線形常微分方程式についての§E10.7 系 1.2を用い、Picard–Lindelöf の定理を用いなかった。曲線の像が一つのチャートに含まれる場合について、Picard–Lindelöf の定理だけからは何が得られ、何が得られないかを述べよ。
  6. 例 7.3の計算を、u0=π/2u_0=\pi/2(赤道)の場合について実行し、平行移動が恒等写像になることを確かめよ。この結果と、赤道が測地線であることの関係を、定義 6.4に即して説明せよ。
  7. 例 7.2で、円柱上の螺旋γ(t)=x(t,ct)\gamma(t)=\boldsymbol{x}(t,ct)(ccは定数)に沿う平行移動を書き下し、それが恒等写像であることを示せ。同じ螺旋をR3\mathbb{R}^3の曲線とみたときの主法線が零でないことと、この結果が両立する理由を述べよ。

9 境界と次

指数写像と測地正規座標を構成しないこと。共変微分から測地線を作ると、初期点と初期速度を与えるごとに測地線が定まる。この対応が初期条件について滑らかであることを述べたのが指数写像であり、そこから測地正規座標と測地極座標が得られる。本単元はこの構成を行わない。理由は上流にある。「常微分方程式」は、解が初期値について連続に依存することまでを供給し、初期値についての微分可能性を扱わないと明記している。したがって指数写像の滑らかさを Part E の範囲で正当化することができない。指数写像、測地正規座標、測地極座標、および測地線が局所的に長さを最小にすることは「Riemann 幾何 I」が扱う。本単元は、局所 Gauss–Bonnet の定理を測地極座標ではなく正規直交標構と接続形式によって証明する経路を取る。

一般次元へ広げないこと。定理 4.2と定理 5.3の証明は、次元を二に限る箇所を持たない。同じ主張は一般次元の Riemann 多様体に対して成り立つ。本単元がこれを二次元に限るのは、後続の議論が二次元の標構と曲率の具体的な計算に依存するからである。一般次元の場合、および曲率テンソルと Jacobi 場は「Riemann 幾何 I」が扱う。

接続の一般論へ広げないこと。本記事の∇\nablaは接平面という特定のベクトル束の上の接続である。一般のベクトル束と主束の上の接続、曲率形式および特性類は「ベクトル束と接続」が扱う。

Christoffel 記号が座標に依存すること。例 7.1のとおり、Γijk\Gamma^k_{ij}の値は座標の取り方で変わる。Γijk\Gamma^k_{ij}が零であるかどうかは曲面の性質ではない。座標に依らない量は共変微分そのものであり、定理 4.2がそれを特徴づけている。

次の記事へ渡すもの。曲線に沿う共変微分は、速度ベクトル場に適用すると測地線の方程式を与える。平行移動は、変分法の基本補題の証明で、与えられた接ベクトルを滑らかに延ばす手段として用いられる。抽象曲面の定義は、大域 Gauss–Bonnet の定理をR3\mathbb{R}^3に埋め込まれていない曲面へ適用するときに必要になる。

参考文献

  1. Manfredo P. do Carmo, Differential Geometry of Curves and Surfaces, revised and updated second ed., Dover Publications, Mineola, N.Y., 2016.共変微分、Christoffel 記号および平行移動の構成と、内在性の位置づけを参考にした。
  2. Manfredo P. do Carmo, Riemannian Geometry, translated by Francis Flaherty, Mathematics: Theory & Applications, Birkhäuser, Boston, 1992.内積との両立と捩れの消滅による接続の一意性、および Koszul の公式の導出を参考にした。
  3. Barrett O'Neill, Elementary Differential Geometry, 2 (revised) ed., Academic Press, 2006.第一基本形式だけを与えられた二次元の対象に対して共変微分と平行移動を構成する扱いを参考にした。

前提記事