1 認めて用いる三角形分割
定理 1.1.Mをコンパクトで境界を持たない曲面とする。次の条件をすべて満たすMの閉部分集合の有限族T={T1,…,TF}が存在する。
- M=T1∪⋯∪TFである。
- 各Tiは、一つのチャートの定義域に含まれ、その定義域の上に正規直交接標構を取ることができる。さらにTiは§E19.14 定理 6.1の仮定を満たす領域である。すなわち、Tiのチャートによる像は単連結であり、その境界は三つの正則で滑らかな弧と三つの相異なる点からなる区分的に滑らかな正則単純閉曲線であって、§E4.22 定義 1.2の意味で局所的な片側性を持つ。三つの点における外角は、いずれも開区間(−π,π)に属する。
- 各Tiに対して、閉じた二次元単体ΔからTiへの同相写像σiであって、Δの三つの頂点と三つの辺を、それぞれ(2)の三つの点と三つの弧へ写すものが与えられている。
- i=jのとき、Ti∩Tjは空集合であるか、両者に共通する一つの点であるか、両者に共通する一つの弧(その両端の点を含む)である。
- 各弧は、ちょうど二つの三角形の境界に現れる。
- 各点vについて、vを(2)の点として持つ三角形のvにおける内角の総和は2πである。ここで内角とは、外角θに対するπ−θをいう。
Tの元を三角形、(2)の弧を辺、その端点を頂点という。頂点の個数をV、辺の本数をE、三角形の枚数をFと書く。
命題 1.3.Mをコンパクトで境界を持たない曲面、Tを定理 1.1の三角形分割とする。
- Tの頂点、辺の内部、三角形の内部をそれぞれ0次元、1次元、2次元の胞体とすると、Mは有限 CW 複体の構造を持つ。したがって§E18.22 定義 3.1の Euler 標数χ(M)が定まり
χ(M)=V−E+F
である。χ(M)は§E18.22 定理 3.2により有限 CW 分解の取り方に依らない。とくに三角形分割Tの取り方に依らない。
- 3F=2Eが成り立つ。したがって
2πχ(M)=2πV−πF
である。
この主張に曲面の向きは用いない。
証明.(1)を示す。Δを閉じた二次元単体とする。σi:Δ→Tiは同相写像であり、定理 1.1 (3)によりΔの境界をTiの三つの辺の合併へ写す。Δは閉円板と同相であるから、σiを2次元胞体の特性写像として取ることができる。各辺は正則で滑らかな弧であり、両端が相異なるから、閉区間[0,1]からその閉包への同相写像が存在する。これを1次元胞体の特性写像として取る。頂点は0次元胞体である。
開胞体が互いに交わらずMを覆うことを確かめる。p∈Mを取ると、定理 1.1 (1)によりあるTiに属する。pがTiの三つの弧のいずれにも属さなければpはTiの内部の点であり、2次元胞体に属する。pが弧に属するならば、pは頂点であるか、辺の内部の点である。よって開胞体はMを覆う。互いに交わらないことは、定理 1.1 (4)と、各Tiの内部・辺の内部・頂点が互いに交わらないことから従う。
胞体の個数は有限であるから、閉包有限性は自明である。Mはコンパクト Hausdorff 空間であり、有限個の胞体の閉包の合併として書かれるから、Mの位相は胞体の特性写像が定める弱位相に一致する。したがってMは有限 CW 複体である。胞体の個数はc0=V、c1=E、c2=Fであるから、§E18.22 定義 3.1によりχ(M)=V−E+Fである。
(2)を示す。組(e,Ti)であって辺eが三角形Tiの境界に現れるものの個数を二通りに数える。三角形ごとに数えると、定理 1.1 (2)により各三角形はちょうど三つの辺を持つから3Fである。辺ごとに数えると、定理 1.1 (5)により各辺はちょうど二つの三角形に現れるから2Eである。よって3F=2Eである。E=3F/2を代入すると
2πχ(M)=2π(V−23F+F)=2πV−πFである。▨
2 曲面上の積分と全曲率
コンパクトな曲面の全体にわたる積分は、まだ定義されていない。§E19.4 定義 5.1が定めるのは、一つのチャートの定義域に含まれるコンパクト集合の面積だけである(§E19.4 注意 5.3)。三角形分割は、この定義の範囲に収まる断片へ曲面を分ける手段を与える。
定義 2.1.Mをコンパクトで境界を持たない曲面、Tを定理 1.1の三角形分割、f:M→Rを連続関数とする。定理 1.1 (2)により、各三角形Tiは§E19.14 定理 6.1の仮定を満たす領域、すなわち§E19.14 定義 1.1の単純な座標領域である。一つの三角形の上の積分∫TifdAは「局所 Gauss–Bonnet とホロノミー」の§E19.14 定義 1.2が定めており、その値がチャートの取り方に依らないことも同記事が示している。これを用いて
∫M,TfdA=i=1∑F∫TifdAと定める。
この段階では、∫M,TfdAが三角形分割Tの取り方に依らないかどうかは分からない。f=Kの場合については、定理 4.1を証明したあとで系 4.2として結論する。一般の連続関数については、本記事は独立性を主張しない。
3 隣り合う三角形が共有する辺
大域の等式を得るために足し合わせるとき、境界に沿う線積分が相殺することが要点である。相殺は、共有する辺が二つの三角形から互いに逆向きに走られることによって起こる。この事実が、曲面の向きを使う唯一の箇所である。
補題 3.1.Mをコンパクトで境界を持たない向きづけられた曲面、Tを定理 1.1の三角形分割とする。各三角形Tiの境界に§E19.14 定理 6.1が用いる向き、すなわち領域を左に見る向きを与える。辺eが二つの三角形Ti、Tjに共有されるとき、Tiの境界の向きとTjの境界の向きはeの上で互いに逆である。したがって
i=1∑F∫∂Tiκgds=0が成り立つ。
証明.eの内部の点pを取る。定理 1.1 (4)と定理 1.1 (5)により、pを含む三角形はTiとTjに限る。実際、p∈TkならばTk∩Tiはpを含むので、定理 1.1 (4)により共通の頂点か共通の辺であり、pは辺の内部の点であるから共通の辺はeでなければならず、定理 1.1 (5)によりk∈{i,j}である。⋃k=i,jTkは有限個の閉集合の合併であるから閉集合であり、pを含まない。よってpの開近傍WでW⊆Ti∪Tjとなるものが存在する。
Tiを含むチャートを取り、Wを十分小さく取ると、§E4.22 定義 1.2が要求する局所的な片側性により、W∖eはちょうど二つの連結成分に分かれ、一方はTiの内部に、他方はTiの外部に含まれる。TiとTjの内部は交わらず、W⊆Ti∪Tjであるから、後者の成分はTjの内部に含まれる。すなわちTiとTjはeの互いに反対の側にある。
eを弧長で径数づけた単位速度の曲線をγとし、T=γ′、nを§E19.8 定義 5.1の単位法ベクトル、すなわち∥n∥=1、I(T,n)=0であって(T,n)がMの向きに関して正の基底であるものとする。領域を左に見る向きとは、nがその領域の内側を向くことである。Tを−Tに取り替えるとnも−nに取り替わるから、nが指す側は反転する。TiとTjがeの反対側にあることから、Tiの境界として与えられる向きとTjの境界として与えられる向きは互いに逆である。
相殺を確かめる。eの長さをLとし、γ:[0,L]→MをTiの境界の向きに取った単位速度の径数づけとする。Tjの境界の向きに取った径数づけはγ(s)=γ(L−s)である。§E19.8 命題 5.2 (2)により曲線の向きの反転は測地曲率の符号を変え、径数の平行移動は測地曲率を変えないからκg(s)=−κg(L−s)である。よって
∫0Lκg(s)ds=−∫0Lκg(L−s)ds=−∫0Lκg(σ)dσである。∑i∫∂Tiκgdsは、すべての辺についての寄与の和であり、定理 1.1 (5)により各辺はちょうど二つの三角形から寄与を受ける。上の等式によりその二つは打ち消し合うから、総和は0である。▨
4 大域 Gauss–Bonnet の定理
定理 4.1 (大域 Gauss–Bonnet の定理).Mをコンパクトで境界を持たず向きづけられた曲面とし、§E19.7 定義 5.1の意味の抽象曲面でよいものとする。Tを定理 1.1の三角形分割とする。このとき
∫M,TKdA=2πχ(M)が成り立つ。
証明の方針を述べる。出発点は、各三角形Tiへ§E19.14 定理 6.1を適用して得るF本の等式である。中間目標は、それらを足し合わせて現れる三つの和を別々に評価することである。第一の和は定義 2.1の定義そのものによって全曲率になる。第二の和は補題 3.1によって0になる。第三の和は外角の総和であり、外角を内角へ書き換え、三角形ごとの和を頂点ごとの和へ組み替えると、定理 1.1 (6)によって3πF−2πVになる。本質的な一手はこの組み替えであり、そこで初めて頂点の個数Vが現れる。最後に、辺の本数を含まない形の等式が得られるので、命題 1.3の3F=2Eを用いてV、E、Fを Euler 標数へまとめる。
証明. 各三角形Tiは定理 1.1 (2)により§E19.14 定理 6.1の仮定を満たす。境界∂Tiに領域を左に見る向きを与え、三つの頂点における外角をθi1,θi2,θi3と書くと
∫TiKdA+∫∂Tiκgds+j=1∑3θij=2πである。i=1,…,Fについて加える。右辺の総和は2πFである。
第一の和。定義 2.1により
i=1∑F∫TiKdA=∫M,TKdAである。
第二の和。補題 3.1により
i=1∑F∫∂Tiκgds=0である。
第三の和。内角をαij=π−θijと置くと、各iについて∑j=13θij=3π−∑j=13αijである。したがって
i=1∑Fj=1∑3θij=3πF−i=1∑Fj=1∑3αijである。右辺の二重和は、すべての三角形のすべての頂点における内角を集めたものである。この集まりを、三角形ごとではなく頂点ごとに組み替える。定理 1.1 (6)により、各頂点vに集まる内角の総和は2πである。頂点はV個であるから
i=1∑Fj=1∑3αij=2πVであり、
i=1∑Fj=1∑3θij=3πF−2πVである。
三つの評価を合わせると
∫M,TKdA+0+3πF−2πV=2πFであるから
∫M,TKdA=2πF−3πF+2πV=2πV−πFである。命題 1.3 (2)により2πV−πF=2πχ(M)であるから、主張が従う。▨
系 4.2.Mをコンパクトで境界を持たず向きづけられた曲面とする。∫M,TKdAの値は定理 1.1の三角形分割Tの取り方に依らない。この共通の値を∫MKdAと書き、Mの全曲率という。
証明.定理 4.1により、どのTに対しても∫M,TKdA=2πχ(M)である。命題 1.3 (1)によりχ(M)は有限 CW 分解の取り方に依らないから、右辺はTに依らない。▨
5 球面と円環面
系 5.1.Mをコンパクトで境界を持たず向きづけられた曲面とする。
- Mが球面と同相ならば∫MKdA=4πである。
- Mが円環面と同相ならば∫MKdA=0である。
証明. 同相な有限 CW 複体はホモトピー同値であるから、§E18.22 系 4.1により Euler 標数は等しい。§E18.22 例 5.2により、球面の Euler 標数は2、円環面の Euler 標数は0である。定理 4.1へ代入すると、それぞれ2π⋅2=4πと2π⋅0=0を得る。▨
例 5.2 (半径rの球面の八分割による検算). 半径r>0の球面M={p∈R3:∥p∥=r}を取り、向きは、囲む領域から見て内向きの単位法線N(p)=−p/rに取る。三つの座標平面でMを切ると、Mは八つの閉領域(八分儀)へ分かれる。この分割が定理 1.1の条件を満たすことを確かめる。頂点は座標軸とMとの交わりの六点、辺は大円の四分の一の弧の十二本、三角形は八枚である。各八分儀は開半球に含まれ、開半球は§E19.3 命題 2.1のグラフ表示によって一つのチャートの定義域であり、その上で§E19.10 命題 1.3により正規直交接標構を取ることができる。各辺はちょうど二つの八分儀に現れ、各頂点には四枚の八分儀が集まり、それぞれの内角はπ/2であるから、内角の総和は2πである。二つの八分儀は、座標の符号が一つ違えば一本の辺を、二つ違えば一つの頂点を共有し、三つ違えば共有点を持たない。
一つの八分儀Tに§E19.14 定理 6.1を適用する。三つの辺は大円の弧であり、§E19.8 例 6.1により測地線であるから、§E19.8 命題 5.2 (1)によりκg≡0である。三つの内角はいずれもπ/2であるから、外角もθj=π−π/2=π/2である。よって
∫TKdA+0+23π=2π,∫TKdA=2πである。八枚を加えると
∫MKdA=8⋅2π=4πとなり、系 5.1 (1)と一致する。V−E+F=6−12+8=2であり、命題 1.3の3F=2Eも24=24として成り立つ。
さらに、球面のすべての点でK=1/r2である(§E19.6 命題 4.3)から、上の計算はA(T)=(π/2)r2、したがって球面の面積が8⋅(π/2)r2=4πr2であることを与える。半径rは全曲率の値には現れない。
例 5.3 (円環面の全曲率の直接計算).§E19.4 例 6.4の円環面Ta,b(0<b<a)を取り、
x(u,v)=((a+bcosu)cosv, (a+bcosu)sinv, bsinu)と置く。xはR2の全体で定義され、uとvのそれぞれについて周期2πを持ち、(u,v)を2πの整数倍の差で同一視するとTa,bへの全単射を与える。§E19.4 例 6.4によりE=b2、F=0、G=(a+bcosu)2であるから
EG−F2=b(a+bcosu)>0である。§E19.6 命題 4.3により、芯の円へ向かう単位法線に関して
K=b(a+bcosu)cosuである。したがって
KEG−F2=cosuである。
m≥3を整数とし、正方形[0,2π]2を一辺2π/mのm2個の小正方形へ分け、各小正方形を左下と右上を結ぶ対角線で二つの三角形へ分ける。xによる像を取り、2πの整数倍の差で同一視すると、Ta,bの三角形分割Tmを得る。mを十分大きく取れば、各三角形は一つのチャートの定義域に含まれ、定理 1.1 (1)⇒(5)が満たされる。定理 1.1 (6)については、各頂点のまわりの三角形が径数平面の中でその頂点のまわりを隙間なく囲む扇形の像であり、扇形の角を第一基本形式で測っても、隣り合う扇形の角は加法的で総和が2πになるから、成り立つ。
各三角形の像の面積分は、対応する小三角形の上の重積分に等しく、小三角形は[0,2π]2を内部の交わらない形で覆うから
∫Ta,b,TmKdA=∬[0,2π]2cosududv=∫02π(∫02πcosudu)dv=0である。ここで累次積分への書き換えは「実解析 II」の§E4.12 定理 1による。この値は系 5.1 (2)と一致する。∫02πcosudu=0であることが、§E19.6 注意 4.4が観察した正負の相殺の定量的な形である。
6 コンパクトな曲面は Gauss 曲率の正の点を持つ
定理 6.1.M⊆R3を空でないコンパクトな正則曲面とする。連続関数q↦∥q∥はMの上で最大値を取る。最大値を与える点をp、R=∥p∥と置くとR>0であり、次が成り立つ。
- TpMはpに直交する。したがってpにおける単位法線は±p/Rである。
- N(p)=−p/R(すなわち原点へ向かう向き)を取ると、すべての単位接ベクトルX∈TpMについてIIp(X,X)≥1/Rが成り立つ。
- K(p)≥R21>0である。とくにpは楕円点である(§E19.6 定義 3.1)。
証明.Mはコンパクトかつ空でないので、連続関数q↦∥q∥は最大値を取る。Mは二次元の曲面であるから一点集合ではない。仮にR=0とするとM⊆{0}となって矛盾するのでR>0である。Rが最大値であることから、Mは原点を中心とする半径Rの閉球に含まれる。
(1)を示す。X∈TpMを取る。§E19.3 命題 3.3により、Mの中の滑らかな曲線γ:(−ε,ε)→Mでγ(0)=p、γ′(0)=Xとなるものが存在する。h(t)=∥γ(t)∥2=⟨γ(t),γ(t)⟩と置くと、hはt=0で最大値R2を取るからh′(0)=0である。h′(t)=2⟨γ(t),γ′(t)⟩であるから⟨p,X⟩=0である。Xは任意であったからp⊥TpMであり、∥p∥=Rであるから±p/Rが単位法線である。
(2)を示す。N(p)=−p/Rと取り、X∈TpM、∥X∥=1とする。上のhについてhはt=0で最大であるからh′′(0)≤0である。
h′′(t)=2⟨γ′(t),γ′(t)⟩+2⟨γ(t),γ′′(t)⟩であるから
h′′(0)=2∥X∥2+2⟨p,γ′′(0)⟩=2+2⟨p,γ′′(0)⟩≤0である。一方、Mの上で⟨γ′(t),N(γ(t))⟩≡0が成り立つので、tについて微分すると
⟨γ′′(0),N(p)⟩+⟨X, dtdt=0N(γ(t))⟩=0である。§E19.5 定義 1.4によりdtd0N(γ(t))=dNp(X)=−Sp(X)であるから
⟨γ′′(0),N(p)⟩=⟨X,Sp(X)⟩=IIp(X,X)である(§E19.5 定義 3.1)。N(p)=−p/R、すなわちp=−RN(p)であるから
⟨p,γ′′(0)⟩=−R⟨N(p),γ′′(0)⟩=−RIIp(X,X)である。これをh′′(0)≤0へ代入すると
2−2RIIp(X,X)≤0,IIp(X,X)≥R1を得る。
(3)を示す。(2)により、N(p)=−p/Rに関する法曲率(§E19.5 定義 4.2)はすべての単位接ベクトルについて1/R以上である。§E19.6 系 1.5により主曲率は法曲率の最大値と最小値であるからκ1(p)≥1/Rかつκ2(p)≥1/Rである。よって
K(p)=κ1(p)κ2(p)≥R21>0である。Kは単位法線の選び方に依らない(§E19.6 注意 2.5)から、この不等式は向きの取り方に依存しない。▨
7 円環面の Gauss 曲率の符号
定理 7.1.
- M⊆R3をコンパクトで境界を持たず向きづけられた正則曲面であってχ(M)=0を満たすものとする。このときK(p)>0となる点p∈MとK(q)<0となる点q∈Mがともに存在する。
- 抽象曲面まで許すと、上の結論は成り立たない。§E19.11 例 5.1は、Gauss 曲率が恒等的に0であり、円環面と同相なコンパクトな抽象曲面を与える。この曲面ではK>0となる点もK<0となる点も存在しない。
証明.(1)を示す。定理 6.1によりK(p)>0となる点p∈Mが存在する。定理 4.1とχ(M)=0により
∫MKdA=2π⋅0=0である。K<0となる点が存在しないと仮定する。すなわちMの全体でK≥0であるとする。定理 1.1の三角形分割Tを一つ取ると、定義 2.1により各iについて∫TiKdA≥0であり、その総和が0であるから、すべてのiについて∫TiKdA=0である。
pを含む三角形Tiを取る。定理 1.1 (3)によりTiは閉じた二次元単体と同相であるから、Tiは自身の内部の閉包に等しく、pのどの近傍もTiの内部と交わる。Kは連続であるから、Mの開集合W∋pでWの上でK>K(p)/2となるものが存在する。Tiを含むチャートを取り、Tiの像をQi、WとTiの内部との交わりの像をQ′と書くと、Q′は空でないR2の開集合であるから、内部が空でない閉長方形RでR⊆Q′となるものを含む。Rの面積を∣R∣>0と書く。EiGi−Fi2はRの上で正の値を取る連続関数であり、Rはコンパクトであるから、正の最小値c>0を持つ。よって
∫TiKdA ≥ ∬R(K∘xi)EiGi−Fi2dudv ≥ 2K(p)c∣R∣ > 0である。ここで最初の不等号は、被積分関数がQiの全体で非負であることによる。これは∫TiKdA=0に矛盾する。したがってK(q)<0となる点qが存在する。
(2)を示す。§E19.11 例 5.1の抽象曲面はK≡0を満たすから、K>0となる点もK<0となる点も存在しない。▨
例 7.2 (標準的な円環面が定理の仮定を満たすこと).§E19.4 例 6.4のTa,b(0<b<a)を取る。Ta,bはR3の有界閉集合であるからコンパクトである。写像
(u,v)⟼((a+bcosu)cosv, (a+bcosu)sinv, bsinu)は、uとvを2πの整数倍の差で同一視した対象、すなわち二つの円周の直積からTa,bへの連続な全単射である。定義域はコンパクト、終域は Hausdorff であるから同相写像である。同相な空間はホモトピー同値であるから、§E18.22 系 4.1と§E18.22 例 5.2によりχ(Ta,b)=0である。
Ta,bは向きづけ可能である。実際、(x,y,z)∈Ta,bに対してx2+y2≥a−b>0であるから
cosv=x2+y2x,sinv=x2+y2y,cosu=bx2+y2−a,sinu=bzはいずれもTa,bの上の滑らかな関数として一意に定まる。これらを用いて
N(x,y,z)=−(cosucosv, cosusinv, sinu)と定めると、NはTa,bの全体で定義された滑らかな単位法線ベクトル場であり、§E19.6 命題 4.3が芯の円へ向かう向きとして用いたものに一致する。したがって定理 7.1 (1)の仮定がすべて満たされ、Ta,bにはK>0の点とK<0の点がともに存在する。この結論は、§E19.6 注意 4.4がK=cosu/(b(a+bcosu))という具体的な式から直接読み取った事実と一致する。定理 7.1は、この式を計算せずに、埋め込まれたすべての円環面について同じ結論を与える点が異なる。
8 角欠損についての離散版
滑らかな曲面の Gauss 曲率に対応する量を、平面三角形を貼り合わせた対象の上で考えることができる。曲率は各面の上では0であり、頂点にのみ集中する。その集中の度合いを測るのが角欠損である。
定義 8.1. 三角形メッシュ (triangular mesh) とは、有限個の点の集合V(頂点)、Vの二元部分集合の有限集合E(辺)、およびVの三元部分集合の有限集合F(面)の組であって、各面の三つの二元部分集合がいずれもEに属するものをいう。V=∣V∣、E=∣E∣、F=∣F∣と書き、χ=V−E+Fと定める。
各面f∈Fに、その三つの頂点における角θ(f,v)>0(v∈f)が与えられているとする。頂点vにおける角欠損 (angle defect) を
d(v)=2π−f∈F, v∈f∑θ(f,v)と定める。
系 8.2. 三角形メッシュが次の二つを満たすとする。
- 境界を持たない。すなわち、各辺はちょうど二つの面に含まれる。
- 各面が平面三角形である。すなわち、各面fについて∑v∈fθ(f,v)=πが成り立つ。
このとき
v∈V∑d(v)=2πχが成り立つ。
証明. 角欠損の定義を頂点について加える。
v∈V∑d(v)=2πV−v∈V∑ f∋v∑θ(f,v)である。右辺の二重和は、組(f,v)(f∈F、v∈f)についての和であるから、頂点ごとの和を面ごとの和へ組み替えることができる。(2)により各面についての内側の和はπであるから
v∈V∑ f∋v∑θ(f,v)=f∈F∑ v∈f∑θ(f,v)=πFである。よって
v∈V∑d(v)=2πV−πFである。
次にχを書き換える。組(e,f)(e∈E、eはfに含まれる辺)の個数を二通りに数える。面ごとに数えると、各面は三つの辺を持つから3Fである。辺ごとに数えると、(1)により各辺はちょうど二つの面に含まれるから2Eである。よって3F=2E、すなわちE=3F/2である。したがって
2πχ=2π(V−23F+F)=2πV−πFである。二つの式の右辺が一致するから、主張が従う。▨
9 高次元への一般化
10 演習
問題 10.1.
- 定理 4.1の証明を、三つの和の評価の順に再現する。そのうえで、定理 1.1 (6)を仮定から外したとき、証明のどの等式が成り立たなくなるかを特定する。
- 補題 3.1の証明において、Mが向きづけられているという仮定を使った箇所を特定する。向きを仮定しないと、eに沿う二つの線積分が相殺することをどのように述べることができなくなるかを説明する。
- 命題 1.3 (1)の証明では曲面の向きを一度も使わなかった。この事実と、定理 4.1が向きを仮定していることとが両立する理由を、注意 4.3に即して述べる。
- 定理 1.1 (5)(各辺がちょうど二つの三角形に現れること)を、各辺が高々二つの三角形に現れるという条件へ弱めたとする。命題 1.3 (2)と補題 3.1のそれぞれについて、証明のどこが破綻するかを述べる。
- 定理 6.1の証明を再現し、h′′(0)≤0という不等式がIIp(X,X)≥1/Rへ変わる計算を書き下す。次に、N(p)=+p/Rを取った場合に不等式の向きがどう変わるかを確かめ、K(p)≥1/R2が向きの取り方に依らないことを説明する。
- 定理 7.1 (1)の証明のうち、K≥0と∫MKdA=0からK≡0を導いた部分を再現する。この部分で、三角形の内部が空でないことをどこで使ったかを特定する。
- 例 5.2の八分割について、頂点・辺・面の個数と定理 1.1 (6)を確かめ、χ=2を計算する。次に、同じ球面を正四面体の四つの面に対応する四つの測地三角形へ分けた分割について、各三角形の内角の和と全曲率の分配を計算し、合計が4πになることを確かめる。
- 系 8.2の証明を再現する。次に、正二十面体(V=12、E=30、F=20、各面は正三角形)について各頂点の角欠損を計算し、総和が2πχに一致することを確かめる。
- 系 8.2 (2)を外し、各面が平面四角形であるメッシュを考える。仮定 1 を保ったまま、角欠損の総和がどのような式になるかを、同じ数え上げの手順で導く。
11 境界と次
三角形分割の存在を証明していないこと。定理 1.1は本記事の仮定である。したがって本記事は、コンパクトな曲面に対して大域 Gauss–Bonnet の定理が無条件に成り立つことを証明したのではなく、適当な三角形分割が与えられたときに成り立つことを証明した。委ね先は注意 1.2に挙げた文献である。この委譲は本記事の唯一の外部依存であり、定理 4.1の証明の中身は、局所 Gauss–Bonnet の定理と有限個の等式の足し合わせだけで閉じている。
境界を持つ曲面と向きづけ可能でない曲面を扱わないこと。境界を持つ曲面では、境界に沿う測地曲率の線積分と外角が右辺に残る。向きづけ可能でない曲面では補題 3.1の相殺が成り立たず、二重被覆を経由する議論が必要になる。いずれも「Riemann 幾何 I」が扱う。
完備曲面の大域論を扱わないこと。本記事が扱うのはコンパクトで境界を持たない曲面であり、完備であるがコンパクトでない曲面については何も述べていない。完備曲面の大域論、すなわち Hilbert の定理と Liebmann の剛性定理は「Riemann 幾何 II」が扱う。
全曲率の三角形分割からの独立性を、K以外の関数については主張していないこと。系 4.2は定理 4.1を経由して得られたものであり、一般の連続関数fについて∫M,TfdAがTに依らないことは示していない。一般の関数に対する曲面上の積分は、一の分割を用いて構成することができるが、本記事はその構成を行わない。
次の記事へ渡すもの。定理 4.1は、閉曲面にどのような Gauss 曲率が入りうるかを判定する道具である。定理 7.1はその最初の適用例であり、埋め込みという仮定の有無が結論を変えることを示している。系 8.2は「三角形メッシュと角欠損の計算」が数値的に検算する対象である。曲率の積分が位相不変量に等しいという形の主張は、より一般には特性類の理論に属し、「ベクトル束と接続」が扱う。