§E19.15大域 Gauss–Bonnet と Euler 標数

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「局所 Gauss–Bonnet とホロノミー」は、座標近傍の中の単連結な領域について、Gauss 曲率の面積分と測地曲率の線積分と外角の総和との和が2π2\piに等しいことを証明した。この等式は一つの領域についての局所的な主張である。本記事は、コンパクトで境界を持たない曲面をこのような領域へ分割し、各領域について得られる等式を足し合わせる。境界の寄与は隣り合う領域どうしで相殺し、角の寄与は頂点ごとにまとまるので、残るのは Gauss 曲率の積分と、分割の頂点・辺・面の個数だけである。後者は Euler 標数にほかならない。

本記事が実際に示すのは次の六つである。第一に、与えられた三角形分割が曲面に有限 CW 複体の構造を与え、頂点・辺・面の個数が Euler 標数を計算することである。第二に、曲面の向きから各三角形の境界の向きが定まり、隣り合う三角形が共有する辺を互いに逆向きに走ることである。第三に、コンパクトで向きづけられた境界のない曲面の全曲率が2πχ(M)2\pi\chi(M)に等しいことである。第四に、三次元 Euclid 空間の中のコンパクトな曲面が Gauss 曲率の正の点を必ず持つことである。第五に、三次元 Euclid 空間に埋め込まれた円環面では正の Gauss 曲率を持つ点と負の Gauss 曲率を持つ点がともに存在する一方、抽象曲面まで許すと Gauss 曲率が恒等的に零である円環面が存在することである。第六に、境界を持たず各面が平面三角形であるメッシュについて、角欠損の総和が2πχ2\pi\chiに等しいことである。

本記事は、コンパクトな曲面が適当な三角形分割を持つことを証明しない。本リポジトリのどの単元もこれを証明しないので、外部の結果として認めて用いる。何を認めるのか、なぜ「位相幾何入門」が供給する位相的な三角形分割では足りないのか、どこへ委ねるのかを次節で明示する。

以下、(M,I)(M,\mathrm{I})は抽象曲面(§E19.7 定義 5.1)とし、共変微分、測地曲率、面積要素、接続形式および Gauss 曲率は§E19.7 注意 5.4によって抽象曲面へ移したものを用いる。M⊆R3M\subseteq\mathbb{R}^3が正則曲面(§E19.3 定義 1.1)である場合も含む。「滑らか」はC∞C^\inftyを意味する。曲面の向きとは、M⊆R3M\subseteq\mathbb{R}^3のときは大域的な単位法線ベクトル場の選択(§E19.3 定義 4.2)、抽象曲面のときは各接平面の順序づけられた基底の正負を、点について連続に定めることをいう。

1 認めて用いる三角形分割

定理 1.1.MMをコンパクトで境界を持たない曲面とする。次の条件をすべて満たすMMの閉部分集合の有限族T={T1,…,TF}\mathcal{T}=\{T_1,\dots,T_F\}が存在する。

  1. M=T1∪⋯∪TFM=T_1\cup\dots\cup T_Fである。
  2. 各TiT_iは、一つのチャートの定義域に含まれ、その定義域の上に正規直交接標構を取ることができる。さらにTiT_iは§E19.14 定理 6.1の仮定を満たす領域である。すなわち、TiT_iのチャートによる像は単連結であり、その境界は三つの正則で滑らかな弧と三つの相異なる点からなる区分的に滑らかな正則単純閉曲線であって、§E4.22 定義 1.2の意味で局所的な片側性を持つ。三つの点における外角は、いずれも開区間(−π,π)(-\pi,\pi)に属する。
  3. 各TiT_iに対して、閉じた二次元単体Δ\DeltaからTiT_iへの同相写像σi\sigma_iであって、Δ\Deltaの三つの頂点と三つの辺を、それぞれ(2)の三つの点と三つの弧へ写すものが与えられている。
  4. i≠ji\ne jのとき、Ti∩TjT_i\cap T_jは空集合であるか、両者に共通する一つの点であるか、両者に共通する一つの弧(その両端の点を含む)である。
  5. 各弧は、ちょうど二つの三角形の境界に現れる。
  6. 各点vvについて、vvを(2)の点として持つ三角形のvvにおける内角の総和は2π2\piである。ここで内角とは、外角θ\thetaに対するπ−θ\pi-\thetaをいう。

T\mathcal{T}の元を三角形、(2)の弧を辺、その端点を頂点という。頂点の個数をVV、辺の本数をEE、三角形の枚数をFFと書く。

注意 1.2 (この主張を証明せず、認めて用いること). 本記事は定理 1.1を証明しない。本リポジトリのどの単元もこれを証明しない。したがって文献へ委ねて認めて用いる。委ね先は、Radó による二次元多様体の三角形分割可能性の証明、Moise による現代的な扱い、および Whitehead による滑らかな多様体の滑らかな三角形分割の構成である。書誌情報は本記事の参考文献に挙げた。

「位相幾何入門」の§E18.24 定理 1.1は、境界を持たないコンパクトな二次元位相多様体が有限三角形分割を持つことを述べる。しかし同記事もこれを外部の結果として認めており、証明していない。さらに、同主張が与えるのは位相的な三角形分割であって、辺が滑らかな弧であることも、各三角形が一つのチャートの定義域に含まれることも述べていない。§E19.14 定理 6.1を各三角形へ適用するためには、辺に沿う測地曲率の線積分と頂点における外角が定まる必要があるので、位相的な三角形分割だけでは足りない。この差が、§E18.24 定理 1.1をそのまま引くのではなく定理 1.1を別に置く理由である。

「すべての辺が測地線である三角形分割が常に存在する」とは書かない。その主張は、十分近い二点が測地線で結ばれることと、測地的に凸な近傍が存在することを要する。いずれも指数写像と Gauss の補題によって示されるものであり、本単元は指数写像を構成しない(§E19.8 注意 1.3)。これらは「Riemann 幾何 I」が扱う。定理 1.1は辺が測地線であることを要求しないので、本記事の証明はこの主張を必要としない。

定理 1.1 (6)も仮定の一部である。頂点のまわりに集まる三角形の内角が2π2\piを埋め尽くすことは、頂点の近傍が三角形によって隙間なく覆われることの言い換えであるが、本記事はこれを定理 1.1 (1)⇒\Rightarrow(5)だけから導かず、分割の性質として仮定に含める。

命題 1.3.MMをコンパクトで境界を持たない曲面、T\mathcal{T}を定理 1.1の三角形分割とする。

  1. T\mathcal{T}の頂点、辺の内部、三角形の内部をそれぞれ00次元、11次元、22次元の胞体とすると、MMは有限 CW 複体の構造を持つ。したがって§E18.22 定義 3.1の Euler 標数χ(M)\chi(M)が定まり χ(M)=V−E+F\chi(M)=V-E+F である。χ(M)\chi(M)は§E18.22 定理 3.2により有限 CW 分解の取り方に依らない。とくに三角形分割T\mathcal{T}の取り方に依らない。
  2. 3F=2E3F=2Eが成り立つ。したがって 2πχ(M)=2πV−πF2\pi\chi(M)=2\pi V-\pi F である。

この主張に曲面の向きは用いない。

証明.(1)を示す。Δ\Deltaを閉じた二次元単体とする。σi:Δ→Ti\sigma_i:\Delta\to T_iは同相写像であり、定理 1.1 (3)によりΔ\Deltaの境界をTiT_iの三つの辺の合併へ写す。Δ\Deltaは閉円板と同相であるから、σi\sigma_iを22次元胞体の特性写像として取ることができる。各辺は正則で滑らかな弧であり、両端が相異なるから、閉区間[0,1][0,1]からその閉包への同相写像が存在する。これを11次元胞体の特性写像として取る。頂点は00次元胞体である。

開胞体が互いに交わらずMMを覆うことを確かめる。p∈Mp\in Mを取ると、定理 1.1 (1)によりあるTiT_iに属する。ppがTiT_iの三つの弧のいずれにも属さなければppはTiT_iの内部の点であり、22次元胞体に属する。ppが弧に属するならば、ppは頂点であるか、辺の内部の点である。よって開胞体はMMを覆う。互いに交わらないことは、定理 1.1 (4)と、各TiT_iの内部・辺の内部・頂点が互いに交わらないことから従う。

胞体の個数は有限であるから、閉包有限性は自明である。MMはコンパクト Hausdorff 空間であり、有限個の胞体の閉包の合併として書かれるから、MMの位相は胞体の特性写像が定める弱位相に一致する。したがってMMは有限 CW 複体である。胞体の個数はc0=Vc_0=V、c1=Ec_1=E、c2=Fc_2=Fであるから、§E18.22 定義 3.1によりχ(M)=V−E+F\chi(M)=V-E+Fである。

(2)を示す。組(e,Ti)(e,T_i)であって辺eeが三角形TiT_iの境界に現れるものの個数を二通りに数える。三角形ごとに数えると、定理 1.1 (2)により各三角形はちょうど三つの辺を持つから3F3Fである。辺ごとに数えると、定理 1.1 (5)により各辺はちょうど二つの三角形に現れるから2E2Eである。よって3F=2E3F=2Eである。E=3F/2E=3F/2を代入すると

2πχ(M)=2π(V−3F2+F)=2πV−πF2\pi\chi(M)=2\pi\left(V-\frac{3F}{2}+F\right)=2\pi V-\pi F

である。▨

2 曲面上の積分と全曲率

コンパクトな曲面の全体にわたる積分は、まだ定義されていない。§E19.4 定義 5.1が定めるのは、一つのチャートの定義域に含まれるコンパクト集合の面積だけである(§E19.4 注意 5.3)。三角形分割は、この定義の範囲に収まる断片へ曲面を分ける手段を与える。

定義 2.1.MMをコンパクトで境界を持たない曲面、T\mathcal{T}を定理 1.1の三角形分割、f:M→Rf:M\to\mathbb{R}を連続関数とする。定理 1.1 (2)により、各三角形TiT_iは§E19.14 定理 6.1の仮定を満たす領域、すなわち§E19.14 定義 1.1の単純な座標領域である。一つの三角形の上の積分∫Tif dA\int_{T_i}f\,dAは「局所 Gauss–Bonnet とホロノミー」の§E19.14 定義 1.2が定めており、その値がチャートの取り方に依らないことも同記事が示している。これを用いて

∫M,Tf dA=∑i=1F∫Tif dA\int_{M,\mathcal{T}}f\,dA=\sum_{i=1}^{F}\int_{T_i}f\,dA

と定める。

この段階では、∫M,Tf dA\int_{M,\mathcal{T}}f\,dAが三角形分割T\mathcal{T}の取り方に依らないかどうかは分からない。f=Kf=Kの場合については、定理 4.1を証明したあとで系 4.2として結論する。一般の連続関数については、本記事は独立性を主張しない。

3 隣り合う三角形が共有する辺

大域の等式を得るために足し合わせるとき、境界に沿う線積分が相殺することが要点である。相殺は、共有する辺が二つの三角形から互いに逆向きに走られることによって起こる。この事実が、曲面の向きを使う唯一の箇所である。

補題 3.1.MMをコンパクトで境界を持たない向きづけられた曲面、T\mathcal{T}を定理 1.1の三角形分割とする。各三角形TiT_iの境界に§E19.14 定理 6.1が用いる向き、すなわち領域を左に見る向きを与える。辺eeが二つの三角形TiT_i、TjT_jに共有されるとき、TiT_iの境界の向きとTjT_jの境界の向きはeeの上で互いに逆である。したがって

∑i=1F∫∂Tiκg ds=0\sum_{i=1}^{F}\int_{\partial T_i}\kappa_g\,ds=0

が成り立つ。

証明.eeの内部の点ppを取る。定理 1.1 (4)と定理 1.1 (5)により、ppを含む三角形はTiT_iとTjT_jに限る。実際、p∈Tkp\in T_kならばTk∩TiT_k\cap T_iはppを含むので、定理 1.1 (4)により共通の頂点か共通の辺であり、ppは辺の内部の点であるから共通の辺はeeでなければならず、定理 1.1 (5)によりk∈{i,j}k\in\{i,j\}である。⋃k≠i,jTk\bigcup_{k\ne i,j}T_kは有限個の閉集合の合併であるから閉集合であり、ppを含まない。よってppの開近傍WWでW⊆Ti∪TjW\subseteq T_i\cup T_jとなるものが存在する。

TiT_iを含むチャートを取り、WWを十分小さく取ると、§E4.22 定義 1.2が要求する局所的な片側性により、W∖eW\setminus eはちょうど二つの連結成分に分かれ、一方はTiT_iの内部に、他方はTiT_iの外部に含まれる。TiT_iとTjT_jの内部は交わらず、W⊆Ti∪TjW\subseteq T_i\cup T_jであるから、後者の成分はTjT_jの内部に含まれる。すなわちTiT_iとTjT_jはeeの互いに反対の側にある。

eeを弧長で径数づけた単位速度の曲線をγ\gammaとし、T=γ′T=\gamma'、nnを§E19.8 定義 5.1の単位法ベクトル、すなわち∥n∥=1\lVert n\rVert=1、I(T,n)=0\mathrm{I}(T,n)=0であって(T,n)(T,n)がMMの向きに関して正の基底であるものとする。領域を左に見る向きとは、nnがその領域の内側を向くことである。TTを−T-Tに取り替えるとnnも−n-nに取り替わるから、nnが指す側は反転する。TiT_iとTjT_jがeeの反対側にあることから、TiT_iの境界として与えられる向きとTjT_jの境界として与えられる向きは互いに逆である。

相殺を確かめる。eeの長さをLLとし、γ:[0,L]→M\gamma:[0,L]\to MをTiT_iの境界の向きに取った単位速度の径数づけとする。TjT_jの境界の向きに取った径数づけはγ~(s)=γ(L−s)\widetilde{\gamma}(s)=\gamma(L-s)である。§E19.8 命題 5.2 (2)により曲線の向きの反転は測地曲率の符号を変え、径数の平行移動は測地曲率を変えないからκ~g(s)=−κg(L−s)\widetilde{\kappa}_g(s)=-\kappa_g(L-s)である。よって

∫0Lκ~g(s) ds=−∫0Lκg(L−s) ds=−∫0Lκg(σ) dσ\int_0^{L}\widetilde{\kappa}_g(s)\,ds=-\int_0^{L}\kappa_g(L-s)\,ds=-\int_0^{L}\kappa_g(\sigma)\,d\sigma

である。∑i∫∂Tiκg ds\sum_i\int_{\partial T_i}\kappa_g\,dsは、すべての辺についての寄与の和であり、定理 1.1 (5)により各辺はちょうど二つの三角形から寄与を受ける。上の等式によりその二つは打ち消し合うから、総和は00である。▨

4 大域 Gauss–Bonnet の定理

定理 4.1 (大域 Gauss–Bonnet の定理).MMをコンパクトで境界を持たず向きづけられた曲面とし、§E19.7 定義 5.1の意味の抽象曲面でよいものとする。T\mathcal{T}を定理 1.1の三角形分割とする。このとき

∫M,TK dA=2πχ(M)\int_{M,\mathcal{T}}K\,dA=2\pi\chi(M)

が成り立つ。

証明の方針を述べる。出発点は、各三角形TiT_iへ§E19.14 定理 6.1を適用して得るFF本の等式である。中間目標は、それらを足し合わせて現れる三つの和を別々に評価することである。第一の和は定義 2.1の定義そのものによって全曲率になる。第二の和は補題 3.1によって00になる。第三の和は外角の総和であり、外角を内角へ書き換え、三角形ごとの和を頂点ごとの和へ組み替えると、定理 1.1 (6)によって3πF−2πV3\pi F-2\pi Vになる。本質的な一手はこの組み替えであり、そこで初めて頂点の個数VVが現れる。最後に、辺の本数を含まない形の等式が得られるので、命題 1.3の3F=2E3F=2Eを用いてVV、EE、FFを Euler 標数へまとめる。

証明. 各三角形TiT_iは定理 1.1 (2)により§E19.14 定理 6.1の仮定を満たす。境界∂Ti\partial T_iに領域を左に見る向きを与え、三つの頂点における外角をθi1,θi2,θi3\theta_{i1},\theta_{i2},\theta_{i3}と書くと

∫TiK dA+∫∂Tiκg ds+∑j=13θij=2π\int_{T_i}K\,dA+\int_{\partial T_i}\kappa_g\,ds+\sum_{j=1}^{3}\theta_{ij}=2\pi

である。i=1,…,Fi=1,\dots,Fについて加える。右辺の総和は2πF2\pi Fである。

第一の和。定義 2.1により

∑i=1F∫TiK dA=∫M,TK dA\sum_{i=1}^{F}\int_{T_i}K\,dA=\int_{M,\mathcal{T}}K\,dA

である。

第二の和。補題 3.1により

∑i=1F∫∂Tiκg ds=0\sum_{i=1}^{F}\int_{\partial T_i}\kappa_g\,ds=0

である。

第三の和。内角をαij=π−θij\alpha_{ij}=\pi-\theta_{ij}と置くと、各iiについて∑j=13θij=3π−∑j=13αij\sum_{j=1}^{3}\theta_{ij}=3\pi-\sum_{j=1}^{3}\alpha_{ij}である。したがって

∑i=1F∑j=13θij=3πF−∑i=1F∑j=13αij\sum_{i=1}^{F}\sum_{j=1}^{3}\theta_{ij}=3\pi F-\sum_{i=1}^{F}\sum_{j=1}^{3}\alpha_{ij}

である。右辺の二重和は、すべての三角形のすべての頂点における内角を集めたものである。この集まりを、三角形ごとではなく頂点ごとに組み替える。定理 1.1 (6)により、各頂点vvに集まる内角の総和は2π2\piである。頂点はVV個であるから

∑i=1F∑j=13αij=2πV\sum_{i=1}^{F}\sum_{j=1}^{3}\alpha_{ij}=2\pi V

であり、

∑i=1F∑j=13θij=3πF−2πV\sum_{i=1}^{F}\sum_{j=1}^{3}\theta_{ij}=3\pi F-2\pi V

である。

三つの評価を合わせると

∫M,TK dA+0+3πF−2πV=2πF\int_{M,\mathcal{T}}K\,dA+0+3\pi F-2\pi V=2\pi F

であるから

∫M,TK dA=2πF−3πF+2πV=2πV−πF\int_{M,\mathcal{T}}K\,dA=2\pi F-3\pi F+2\pi V=2\pi V-\pi F

である。命題 1.3 (2)により2πV−πF=2πχ(M)2\pi V-\pi F=2\pi\chi(M)であるから、主張が従う。▨

系 4.2.MMをコンパクトで境界を持たず向きづけられた曲面とする。∫M,TK dA\int_{M,\mathcal{T}}K\,dAの値は定理 1.1の三角形分割T\mathcal{T}の取り方に依らない。この共通の値を∫MK dA\displaystyle\int_MK\,dAと書き、MMの全曲率という。

証明.定理 4.1により、どのT\mathcal{T}に対しても∫M,TK dA=2πχ(M)\int_{M,\mathcal{T}}K\,dA=2\pi\chi(M)である。命題 1.3 (1)によりχ(M)\chi(M)は有限 CW 分解の取り方に依らないから、右辺はT\mathcal{T}に依らない。▨

注意 4.3 (この定理が向きを使う箇所と使わない箇所). 向きが必要になるのは補題 3.1だけである。そこでは、各三角形の境界に領域を左に見る向きを整合的に与えるために、MMの向きから定まる接平面の向きを用いた。一方、Euler 標数の引用には向きを用いない。命題 1.3は有限 CW 複体の構造だけを使い、§E18.22 定義 3.1の定義域は有限 CW 複体である。二つを混同すると、向きづけ可能でない曲面に対して Euler 標数が定義されないかのような誤解が生じる。向きづけ可能でない曲面に対する Gauss–Bonnet の定理は、二重被覆を経由する別の議論を要し、「Riemann 幾何 I」が扱う。

5 球面と円環面

系 5.1.MMをコンパクトで境界を持たず向きづけられた曲面とする。

  1. MMが球面と同相ならば∫MK dA=4π\displaystyle\int_MK\,dA=4\piである。
  2. MMが円環面と同相ならば∫MK dA=0\displaystyle\int_MK\,dA=0である。

証明. 同相な有限 CW 複体はホモトピー同値であるから、§E18.22 系 4.1により Euler 標数は等しい。§E18.22 例 5.2により、球面の Euler 標数は22、円環面の Euler 標数は00である。定理 4.1へ代入すると、それぞれ2π⋅2=4π2\pi\cdot2=4\piと2π⋅0=02\pi\cdot0=0を得る。▨

例 5.2 (半径rrの球面の八分割による検算). 半径r>0r>0の球面M={p∈R3:∥p∥=r}M=\{p\in\mathbb{R}^3:\lVert p\rVert=r\}を取り、向きは、囲む領域から見て内向きの単位法線N(p)=−p/rN(p)=-p/rに取る。三つの座標平面でMMを切ると、MMは八つの閉領域(八分儀)へ分かれる。この分割が定理 1.1の条件を満たすことを確かめる。頂点は座標軸とMMとの交わりの六点、辺は大円の四分の一の弧の十二本、三角形は八枚である。各八分儀は開半球に含まれ、開半球は§E19.3 命題 2.1のグラフ表示によって一つのチャートの定義域であり、その上で§E19.10 命題 1.3により正規直交接標構を取ることができる。各辺はちょうど二つの八分儀に現れ、各頂点には四枚の八分儀が集まり、それぞれの内角はπ/2\pi/2であるから、内角の総和は2π2\piである。二つの八分儀は、座標の符号が一つ違えば一本の辺を、二つ違えば一つの頂点を共有し、三つ違えば共有点を持たない。

一つの八分儀TTに§E19.14 定理 6.1を適用する。三つの辺は大円の弧であり、§E19.8 例 6.1により測地線であるから、§E19.8 命題 5.2 (1)によりκg≡0\kappa_g\equiv0である。三つの内角はいずれもπ/2\pi/2であるから、外角もθj=π−π/2=π/2\theta_j=\pi-\pi/2=\pi/2である。よって

∫TK dA+0+3π2=2π,∫TK dA=π2\int_TK\,dA+0+\frac{3\pi}{2}=2\pi,\qquad \int_TK\,dA=\frac{\pi}{2}

である。八枚を加えると

∫MK dA=8⋅π2=4π\int_MK\,dA=8\cdot\frac{\pi}{2}=4\pi

となり、系 5.1 (1)と一致する。V−E+F=6−12+8=2V-E+F=6-12+8=2であり、命題 1.3の3F=2E3F=2Eも24=2424=24として成り立つ。

さらに、球面のすべての点でK=1/r2K=1/r^2である(§E19.6 命題 4.3)から、上の計算はA(T)=(π/2)r2A(T)=(\pi/2)r^2、したがって球面の面積が8⋅(π/2)r2=4πr28\cdot(\pi/2)r^2=4\pi r^2であることを与える。半径rrは全曲率の値には現れない。

例 5.3 (円環面の全曲率の直接計算).§E19.4 例 6.4の円環面Ta,bT_{a,b}(0<b<a0<b<a)を取り、

x(u,v)=((a+bcos⁡u)cos⁡v, (a+bcos⁡u)sin⁡v, bsin⁡u)\boldsymbol{x}(u,v)=\bigl((a+b\cos u)\cos v,\ (a+b\cos u)\sin v,\ b\sin u\bigr)

と置く。x\boldsymbol{x}はR2\mathbb{R}^2の全体で定義され、uuとvvのそれぞれについて周期2π2\piを持ち、(u,v)(u,v)を2π2\piの整数倍の差で同一視するとTa,bT_{a,b}への全単射を与える。§E19.4 例 6.4によりE=b2E=b^2、F=0F=0、G=(a+bcos⁡u)2G=(a+b\cos u)^2であるから

EG−F2=b(a+bcos⁡u)>0\sqrt{EG-F^2}=b(a+b\cos u)>0

である。§E19.6 命題 4.3により、芯の円へ向かう単位法線に関して

K=cos⁡ub(a+bcos⁡u)K=\frac{\cos u}{b(a+b\cos u)}

である。したがって

KEG−F2=cos⁡uK\sqrt{EG-F^2}=\cos u

である。

m≥3m\ge3を整数とし、正方形[0,2π]2[0,2\pi]^2を一辺2π/m2\pi/mのm2m^2個の小正方形へ分け、各小正方形を左下と右上を結ぶ対角線で二つの三角形へ分ける。x\boldsymbol{x}による像を取り、2π2\piの整数倍の差で同一視すると、Ta,bT_{a,b}の三角形分割Tm\mathcal{T}_mを得る。mmを十分大きく取れば、各三角形は一つのチャートの定義域に含まれ、定理 1.1 (1)⇒\Rightarrow(5)が満たされる。定理 1.1 (6)については、各頂点のまわりの三角形が径数平面の中でその頂点のまわりを隙間なく囲む扇形の像であり、扇形の角を第一基本形式で測っても、隣り合う扇形の角は加法的で総和が2π2\piになるから、成り立つ。

各三角形の像の面積分は、対応する小三角形の上の重積分に等しく、小三角形は[0,2π]2[0,2\pi]^2を内部の交わらない形で覆うから

∫Ta,b,TmK dA=∬[0,2π]2cos⁡u du dv=∫02π(∫02πcos⁡u du)dv=0\int_{T_{a,b},\mathcal{T}_m}K\,dA=\iint_{[0,2\pi]^2}\cos u\,du\,dv=\int_0^{2\pi}\left(\int_0^{2\pi}\cos u\,du\right)dv=0

である。ここで累次積分への書き換えは「実解析 II」の§E4.12 定理 1による。この値は系 5.1 (2)と一致する。∫02πcos⁡u du=0\int_0^{2\pi}\cos u\,du=0であることが、§E19.6 注意 4.4が観察した正負の相殺の定量的な形である。

6 コンパクトな曲面は Gauss 曲率の正の点を持つ

定理 6.1.M⊆R3M\subseteq\mathbb{R}^3を空でないコンパクトな正則曲面とする。連続関数q↦∥q∥q\mapsto\lVert q\rVertはMMの上で最大値を取る。最大値を与える点をpp、R=∥p∥R=\lVert p\rVertと置くとR>0R>0であり、次が成り立つ。

  1. TpMT_pMはppに直交する。したがってppにおける単位法線は±p/R\pm p/Rである。
  2. N(p)=−p/RN(p)=-p/R(すなわち原点へ向かう向き)を取ると、すべての単位接ベクトルX∈TpMX\in T_pMについてIIp(X,X)≥1/R\mathrm{II}_p(X,X)\ge1/Rが成り立つ。
  3. K(p)≥1R2>0K(p)\ge\dfrac{1}{R^2}>0である。とくにppは楕円点である(§E19.6 定義 3.1)。

証明.MMはコンパクトかつ空でないので、連続関数q↦∥q∥q\mapsto\lVert q\rVertは最大値を取る。MMは二次元の曲面であるから一点集合ではない。仮にR=0R=0とするとM⊆{0}M\subseteq\{0\}となって矛盾するのでR>0R>0である。RRが最大値であることから、MMは原点を中心とする半径RRの閉球に含まれる。

(1)を示す。X∈TpMX\in T_pMを取る。§E19.3 命題 3.3により、MMの中の滑らかな曲線γ:(−ε,ε)→M\gamma:(-\varepsilon,\varepsilon)\to Mでγ(0)=p\gamma(0)=p、γ′(0)=X\gamma'(0)=Xとなるものが存在する。h(t)=∥γ(t)∥2=⟨γ(t),γ(t)⟩h(t)=\lVert\gamma(t)\rVert^2=\langle\gamma(t),\gamma(t)\rangleと置くと、hhはt=0t=0で最大値R2R^2を取るからh′(0)=0h'(0)=0である。h′(t)=2⟨γ(t),γ′(t)⟩h'(t)=2\langle\gamma(t),\gamma'(t)\rangleであるから⟨p,X⟩=0\langle p,X\rangle=0である。XXは任意であったからp⊥TpMp\perp T_pMであり、∥p∥=R\lVert p\rVert=Rであるから±p/R\pm p/Rが単位法線である。

(2)を示す。N(p)=−p/RN(p)=-p/Rと取り、X∈TpMX\in T_pM、∥X∥=1\lVert X\rVert=1とする。上のhhについてhhはt=0t=0で最大であるからh′′(0)≤0h''(0)\le0である。

h′′(t)=2⟨γ′(t),γ′(t)⟩+2⟨γ(t),γ′′(t)⟩h''(t)=2\langle\gamma'(t),\gamma'(t)\rangle+2\langle\gamma(t),\gamma''(t)\rangle

であるから

h′′(0)=2∥X∥2+2⟨p,γ′′(0)⟩=2+2⟨p,γ′′(0)⟩≤0h''(0)=2\lVert X\rVert^2+2\langle p,\gamma''(0)\rangle=2+2\langle p,\gamma''(0)\rangle\le0

である。一方、MMの上で⟨γ′(t),N(γ(t))⟩≡0\langle\gamma'(t),N(\gamma(t))\rangle\equiv0が成り立つので、ttについて微分すると

⟨γ′′(0),N(p)⟩+⟨X, ddt∣t=0N(γ(t))⟩=0\langle\gamma''(0),N(p)\rangle+\left\langle X,\ \frac{d}{dt}\Bigl|_{t=0}N(\gamma(t))\right\rangle=0

である。§E19.5 定義 1.4によりddt∣0N(γ(t))=dNp(X)=−Sp(X)\dfrac{d}{dt}\bigl|_{0}N(\gamma(t))=dN_p(X)=-S_p(X)であるから

⟨γ′′(0),N(p)⟩=⟨X,Sp(X)⟩=IIp(X,X)\langle\gamma''(0),N(p)\rangle=\langle X,S_p(X)\rangle=\mathrm{II}_p(X,X)

である(§E19.5 定義 3.1)。N(p)=−p/RN(p)=-p/R、すなわちp=−R N(p)p=-R\,N(p)であるから

⟨p,γ′′(0)⟩=−R ⟨N(p),γ′′(0)⟩=−R IIp(X,X)\langle p,\gamma''(0)\rangle=-R\,\langle N(p),\gamma''(0)\rangle=-R\,\mathrm{II}_p(X,X)

である。これをh′′(0)≤0h''(0)\le0へ代入すると

2−2R IIp(X,X)≤0,IIp(X,X)≥1R2-2R\,\mathrm{II}_p(X,X)\le0,\qquad \mathrm{II}_p(X,X)\ge\frac1R

を得る。

(3)を示す。(2)により、N(p)=−p/RN(p)=-p/Rに関する法曲率(§E19.5 定義 4.2)はすべての単位接ベクトルについて1/R1/R以上である。§E19.6 系 1.5により主曲率は法曲率の最大値と最小値であるからκ1(p)≥1/R\kappa_1(p)\ge1/Rかつκ2(p)≥1/R\kappa_2(p)\ge1/Rである。よって

K(p)=κ1(p)κ2(p)≥1R2>0K(p)=\kappa_1(p)\kappa_2(p)\ge\frac{1}{R^2}>0

である。KKは単位法線の選び方に依らない(§E19.6 注意 2.5)から、この不等式は向きの取り方に依存しない。▨

注意 6.2 (この補題が埋め込みを使う箇所).定理 6.1の証明は、MMがR3\mathbb{R}^3の部分集合であることを二か所で使う。第一に、位置ベクトルq↦qq\mapsto qというR3\mathbb{R}^3の値を持つ関数の長さを考えた点である。第二に、その二階微分の法成分が第二基本形式で表されるという§E19.5 定義 3.1の性質を使った点である。抽象曲面には位置ベクトルも第二基本形式も無いので、この主張を抽象曲面へ移すことはできない。実際、§E19.11 例 5.1の平坦な計量を持つ円環面は、Gauss 曲率が恒等的に00であるコンパクトな抽象曲面である。

7 円環面の Gauss 曲率の符号

定理 7.1.

  1. M⊆R3M\subseteq\mathbb{R}^3をコンパクトで境界を持たず向きづけられた正則曲面であってχ(M)=0\chi(M)=0を満たすものとする。このときK(p)>0K(p)>0となる点p∈Mp\in MとK(q)<0K(q)<0となる点q∈Mq\in Mがともに存在する。
  2. 抽象曲面まで許すと、上の結論は成り立たない。§E19.11 例 5.1は、Gauss 曲率が恒等的に00であり、円環面と同相なコンパクトな抽象曲面を与える。この曲面ではK>0K>0となる点もK<0K<0となる点も存在しない。

証明.(1)を示す。定理 6.1によりK(p)>0K(p)>0となる点p∈Mp\in Mが存在する。定理 4.1とχ(M)=0\chi(M)=0により

∫MK dA=2π⋅0=0\int_MK\,dA=2\pi\cdot0=0

である。K<0K<0となる点が存在しないと仮定する。すなわちMMの全体でK≥0K\ge0であるとする。定理 1.1の三角形分割T\mathcal{T}を一つ取ると、定義 2.1により各iiについて∫TiK dA≥0\int_{T_i}K\,dA\ge0であり、その総和が00であるから、すべてのiiについて∫TiK dA=0\int_{T_i}K\,dA=0である。

ppを含む三角形TiT_iを取る。定理 1.1 (3)によりTiT_iは閉じた二次元単体と同相であるから、TiT_iは自身の内部の閉包に等しく、ppのどの近傍もTiT_iの内部と交わる。KKは連続であるから、MMの開集合W∋pW\ni pでWWの上でK>K(p)/2K>K(p)/2となるものが存在する。TiT_iを含むチャートを取り、TiT_iの像をQiQ_i、WWとTiT_iの内部との交わりの像をQ′Q'と書くと、Q′Q'は空でないR2\mathbb{R}^2の開集合であるから、内部が空でない閉長方形RRでR⊆Q′R\subseteq Q'となるものを含む。RRの面積を∣R∣>0\lvert R\rvert>0と書く。EiGi−Fi2\sqrt{E_iG_i-F_i^2}はRRの上で正の値を取る連続関数であり、RRはコンパクトであるから、正の最小値c>0c>0を持つ。よって

∫TiK dA ≥ ∬R(K∘xi)EiGi−Fi2 du dv ≥ K(p)2 c ∣R∣ > 0\int_{T_i}K\,dA\ \ge\ \iint_{R}(K\circ\boldsymbol{x}_i)\sqrt{E_iG_i-F_i^{2}}\,du\,dv\ \ge\ \frac{K(p)}{2}\,c\,\lvert R\rvert\ >\ 0

である。ここで最初の不等号は、被積分関数がQiQ_iの全体で非負であることによる。これは∫TiK dA=0\int_{T_i}K\,dA=0に矛盾する。したがってK(q)<0K(q)<0となる点qqが存在する。

(2)を示す。§E19.11 例 5.1の抽象曲面はK≡0K\equiv0を満たすから、K>0K>0となる点もK<0K<0となる点も存在しない。▨

例 7.2 (標準的な円環面が定理の仮定を満たすこと).§E19.4 例 6.4のTa,bT_{a,b}(0<b<a0<b<a)を取る。Ta,bT_{a,b}はR3\mathbb{R}^3の有界閉集合であるからコンパクトである。写像

(u,v)⟼((a+bcos⁡u)cos⁡v, (a+bcos⁡u)sin⁡v, bsin⁡u)(u,v)\longmapsto\bigl((a+b\cos u)\cos v,\ (a+b\cos u)\sin v,\ b\sin u\bigr)

は、uuとvvを2π2\piの整数倍の差で同一視した対象、すなわち二つの円周の直積からTa,bT_{a,b}への連続な全単射である。定義域はコンパクト、終域は Hausdorff であるから同相写像である。同相な空間はホモトピー同値であるから、§E18.22 系 4.1と§E18.22 例 5.2によりχ(Ta,b)=0\chi(T_{a,b})=0である。

Ta,bT_{a,b}は向きづけ可能である。実際、(x,y,z)∈Ta,b(x,y,z)\in T_{a,b}に対してx2+y2≥a−b>0\sqrt{x^2+y^2}\ge a-b>0であるから

cos⁡v=xx2+y2,sin⁡v=yx2+y2,cos⁡u=x2+y2−ab,sin⁡u=zb\cos v=\frac{x}{\sqrt{x^2+y^2}},\quad \sin v=\frac{y}{\sqrt{x^2+y^2}},\quad \cos u=\frac{\sqrt{x^2+y^2}-a}{b},\quad \sin u=\frac zb

はいずれもTa,bT_{a,b}の上の滑らかな関数として一意に定まる。これらを用いて

N(x,y,z)=−(cos⁡ucos⁡v, cos⁡usin⁡v, sin⁡u)N(x,y,z)=-\bigl(\cos u\cos v,\ \cos u\sin v,\ \sin u\bigr)

と定めると、NNはTa,bT_{a,b}の全体で定義された滑らかな単位法線ベクトル場であり、§E19.6 命題 4.3が芯の円へ向かう向きとして用いたものに一致する。したがって定理 7.1 (1)の仮定がすべて満たされ、Ta,bT_{a,b}にはK>0K>0の点とK<0K<0の点がともに存在する。この結論は、§E19.6 注意 4.4がK=cos⁡u/(b(a+bcos⁡u))K=\cos u/\bigl(b(a+b\cos u)\bigr)という具体的な式から直接読み取った事実と一致する。定理 7.1は、この式を計算せずに、埋め込まれたすべての円環面について同じ結論を与える点が異なる。

注意 7.3 (埋め込まれた円環面と抽象曲面の円環面を区別すること).定理 4.1からχ(M)=0\chi(M)=0の曲面について直ちに従うのは∫MK dA=0\int_MK\,dA=0だけである。この等式は、KKが至るところ00である場合を排除しない。したがって「円環面では正の Gauss 曲率と負の Gauss 曲率が必ず共存する」という主張は、抽象曲面に対しては偽である。§E19.11 例 5.1がその反例である。

共存が結論されるのは、R3\mathbb{R}^3に埋め込まれた場合に限る。そこでは定理 6.1がK>0K>0となる点の存在を与え、∫MK dA=0\int_MK\,dA=0と合わせてK<0K<0となる点の存在が従う。注意 6.2のとおり、この補題は埋め込みを本質的に使う。

依存の向きを述べておく。§E19.11 例 5.1は、平坦な計量を持つ円環面がR3\mathbb{R}^3の正則曲面として実現されないことを述べ、その根拠のうち「R3\mathbb{R}^3のコンパクトな正則曲面は Gauss 曲率が正である点を持つ」という事実を本記事へ委ねている。それが定理 6.1であり、その証明は§E19.11 例 5.1を用いないので循環は生じない。同じ非実現性は定理 7.1 (1)からも従う。もし実現されたとすると、コンパクトでχ=0\chi=0の埋め込まれた曲面であってK≡0K\equiv0を満たすものが存在することになり、1 に矛盾するからである。

8 角欠損についての離散版

滑らかな曲面の Gauss 曲率に対応する量を、平面三角形を貼り合わせた対象の上で考えることができる。曲率は各面の上では00であり、頂点にのみ集中する。その集中の度合いを測るのが角欠損である。

定義 8.1. 三角形メッシュ (triangular mesh) とは、有限個の点の集合V\mathcal{V}(頂点)、V\mathcal{V}の二元部分集合の有限集合E\mathcal{E}(辺)、およびV\mathcal{V}の三元部分集合の有限集合F\mathcal{F}(面)の組であって、各面の三つの二元部分集合がいずれもE\mathcal{E}に属するものをいう。V=∣V∣V=\lvert\mathcal{V}\rvert、E=∣E∣E=\lvert\mathcal{E}\rvert、F=∣F∣F=\lvert\mathcal{F}\rvertと書き、χ=V−E+F\chi=V-E+Fと定める。

各面f∈Ff\in\mathcal{F}に、その三つの頂点における角θ(f,v)>0\theta(f,v)>0(v∈fv\in f)が与えられているとする。頂点vvにおける角欠損 (angle defect) を

d(v)=2π−∑f∈F, v∈fθ(f,v)d(v)=2\pi-\sum_{f\in\mathcal{F},\ v\in f}\theta(f,v)

と定める。

系 8.2. 三角形メッシュが次の二つを満たすとする。

  1. 境界を持たない。すなわち、各辺はちょうど二つの面に含まれる。
  2. 各面が平面三角形である。すなわち、各面ffについて∑v∈fθ(f,v)=π\sum_{v\in f}\theta(f,v)=\piが成り立つ。

このとき

∑v∈Vd(v)=2πχ\sum_{v\in\mathcal{V}}d(v)=2\pi\chi

が成り立つ。

証明. 角欠損の定義を頂点について加える。

∑v∈Vd(v)=2πV−∑v∈V ∑f∋vθ(f,v)\sum_{v\in\mathcal{V}}d(v)=2\pi V-\sum_{v\in\mathcal{V}}\ \sum_{f\ni v}\theta(f,v)

である。右辺の二重和は、組(f,v)(f,v)(f∈Ff\in\mathcal{F}、v∈fv\in f)についての和であるから、頂点ごとの和を面ごとの和へ組み替えることができる。(2)により各面についての内側の和はπ\piであるから

∑v∈V ∑f∋vθ(f,v)=∑f∈F ∑v∈fθ(f,v)=πF\sum_{v\in\mathcal{V}}\ \sum_{f\ni v}\theta(f,v)=\sum_{f\in\mathcal{F}}\ \sum_{v\in f}\theta(f,v)=\pi F

である。よって

∑v∈Vd(v)=2πV−πF\sum_{v\in\mathcal{V}}d(v)=2\pi V-\pi F

である。

次にχ\chiを書き換える。組(e,f)(e,f)(e∈Ee\in\mathcal{E}、eeはffに含まれる辺)の個数を二通りに数える。面ごとに数えると、各面は三つの辺を持つから3F3Fである。辺ごとに数えると、(1)により各辺はちょうど二つの面に含まれるから2E2Eである。よって3F=2E3F=2E、すなわちE=3F/2E=3F/2である。したがって

2πχ=2π(V−3F2+F)=2πV−πF2\pi\chi=2\pi\left(V-\frac{3F}{2}+F\right)=2\pi V-\pi F

である。二つの式の右辺が一致するから、主張が従う。▨

注意 8.3 (恒等式が述べていることと述べていないこと).系 8.2は組合せ的な恒等式であり、証明に極限も近似も現れない。使った仮定は、各辺がちょうど二つの面に含まれることと、各面の内角の和がπ\piであることの二つだけである。どちらか一方でも外すと結論は成り立たない。境界を持つメッシュでは境界の辺が一つの面にしか含まれないので3F=2E3F=2Eが崩れ、面が平面三角形でなければ内角の和がπ\piにならない。

この恒等式は、定理 4.1の離散的な対応物である。2πχ2\pi\chiという右辺は共通であり、左辺では∫MK dA\int_MK\,dAが∑vd(v)\sum_vd(v)に置き換わっている。しかし、両者を結ぶ収束についてはここで何も主張しない。滑らかな曲面を三角形メッシュで近似したとき、各頂点の角欠損が近傍における Gauss 曲率の積分へ近づくかどうかは、恒等式とは別の主張である。「三角形メッシュと角欠損の計算」は、この恒等式を球面と円環面の多面体近似について数値的に確かめ、収束を数値実験として観察する。恒等式の証明の責務は本記事が持ち、実装の記事は新しい定理を立てない。

9 高次元への一般化

注意 9.1 (偶数次元への一般化).定理 4.1は、コンパクトで向きづけられた偶数次元の Riemann 多様体へ一般化される。2n2n次元の場合、曲率テンソルから作られる2n2n次微分形式(Pfaff 形式)の積分が Euler 標数の定数倍に等しい、という形である。n=1n=1の場合が本記事の定理であり、そこでは Pfaff 形式がK dAK\,dAになる。この一般化は Chern による内在的な証明を持つ。書誌情報は本記事の参考文献に挙げた。

本記事はこの一般化を証明せず、後続の記事の根拠にも用いない。曲率テンソル、一般次元の Riemann 多様体および Pfaff 形式は「Riemann 幾何 I」が扱い、ベクトル束の上の接続、曲率形式および特性類は「ベクトル束と接続」が扱う。本単元が扱うのは、接平面の上の共変微分と、標構に依存する接続形式までである。

10 演習

問題 10.1.

  1. 定理 4.1の証明を、三つの和の評価の順に再現する。そのうえで、定理 1.1 (6)を仮定から外したとき、証明のどの等式が成り立たなくなるかを特定する。
  2. 補題 3.1の証明において、MMが向きづけられているという仮定を使った箇所を特定する。向きを仮定しないと、eeに沿う二つの線積分が相殺することをどのように述べることができなくなるかを説明する。
  3. 命題 1.3 (1)の証明では曲面の向きを一度も使わなかった。この事実と、定理 4.1が向きを仮定していることとが両立する理由を、注意 4.3に即して述べる。
  4. 定理 1.1 (5)(各辺がちょうど二つの三角形に現れること)を、各辺が高々二つの三角形に現れるという条件へ弱めたとする。命題 1.3 (2)と補題 3.1のそれぞれについて、証明のどこが破綻するかを述べる。
  5. 定理 6.1の証明を再現し、h′′(0)≤0h''(0)\le0という不等式がIIp(X,X)≥1/R\mathrm{II}_p(X,X)\ge1/Rへ変わる計算を書き下す。次に、N(p)=+p/RN(p)=+p/Rを取った場合に不等式の向きがどう変わるかを確かめ、K(p)≥1/R2K(p)\ge1/R^2が向きの取り方に依らないことを説明する。
  6. 定理 7.1 (1)の証明のうち、K≥0K\ge0と∫MK dA=0\int_MK\,dA=0からK≡0K\equiv0を導いた部分を再現する。この部分で、三角形の内部が空でないことをどこで使ったかを特定する。
  7. 例 5.2の八分割について、頂点・辺・面の個数と定理 1.1 (6)を確かめ、χ=2\chi=2を計算する。次に、同じ球面を正四面体の四つの面に対応する四つの測地三角形へ分けた分割について、各三角形の内角の和と全曲率の分配を計算し、合計が4π4\piになることを確かめる。
  8. 系 8.2の証明を再現する。次に、正二十面体(V=12V=12、E=30E=30、F=20F=20、各面は正三角形)について各頂点の角欠損を計算し、総和が2πχ2\pi\chiに一致することを確かめる。
  9. 系 8.2 (2)を外し、各面が平面四角形であるメッシュを考える。仮定 1 を保ったまま、角欠損の総和がどのような式になるかを、同じ数え上げの手順で導く。

11 境界と次

三角形分割の存在を証明していないこと。定理 1.1は本記事の仮定である。したがって本記事は、コンパクトな曲面に対して大域 Gauss–Bonnet の定理が無条件に成り立つことを証明したのではなく、適当な三角形分割が与えられたときに成り立つことを証明した。委ね先は注意 1.2に挙げた文献である。この委譲は本記事の唯一の外部依存であり、定理 4.1の証明の中身は、局所 Gauss–Bonnet の定理と有限個の等式の足し合わせだけで閉じている。

境界を持つ曲面と向きづけ可能でない曲面を扱わないこと。境界を持つ曲面では、境界に沿う測地曲率の線積分と外角が右辺に残る。向きづけ可能でない曲面では補題 3.1の相殺が成り立たず、二重被覆を経由する議論が必要になる。いずれも「Riemann 幾何 I」が扱う。

完備曲面の大域論を扱わないこと。本記事が扱うのはコンパクトで境界を持たない曲面であり、完備であるがコンパクトでない曲面については何も述べていない。完備曲面の大域論、すなわち Hilbert の定理と Liebmann の剛性定理は「Riemann 幾何 II」が扱う。

全曲率の三角形分割からの独立性を、KK以外の関数については主張していないこと。系 4.2は定理 4.1を経由して得られたものであり、一般の連続関数ffについて∫M,Tf dA\int_{M,\mathcal{T}}f\,dAがT\mathcal{T}に依らないことは示していない。一般の関数に対する曲面上の積分は、一の分割を用いて構成することができるが、本記事はその構成を行わない。

次の記事へ渡すもの。定理 4.1は、閉曲面にどのような Gauss 曲率が入りうるかを判定する道具である。定理 7.1はその最初の適用例であり、埋め込みという仮定の有無が結論を変えることを示している。系 8.2は「三角形メッシュと角欠損の計算」が数値的に検算する対象である。曲率の積分が位相不変量に等しいという形の主張は、より一般には特性類の理論に属し、「ベクトル束と接続」が扱う。

参考文献

  1. Manfredo P. do Carmo, Differential Geometry of Curves and Surfaces, revised and updated second ed., Dover Publications, Mineola, N.Y., 2016.三角形分割による大域 Gauss–Bonnet の定理の証明の組み立て、三角形分割の存在を外部の結果として扱う扱い、およびコンパクトな曲面が Gauss 曲率の正の点を持つことの証明を参考にした。
  2. Tibor Radó, Über den Begriff der Riemannschen Fläche, Acta Litterarum ac Scientiarum Regiae Universitatis Hungaricae Francisco-Josephinae. Sectio Scientiarum Mathematicarum 2 (1925), 101–121.二次元多様体が三角形分割を持つことの証明を参考にした。
  3. Edwin E. Moise, Geometric Topology in Dimensions 2 and 3, Graduate Texts in Mathematics 47, Springer, 1977.二次元位相多様体の三角形分割可能性の現代的な扱いを参考にした。
  4. J. H. C. Whitehead, On C^1-complexes, Annals of Mathematics 41 (1940), 809–824.滑らかな多様体が滑らかな三角形分割を持つことを参考にした。
  5. Shiing-Shen Chern, A simple intrinsic proof of the Gauss–Bonnet formula for closed Riemannian manifolds, Annals of Mathematics 45 (1944), no. 4, 747–752.偶数次元のコンパクト Riemann 多様体への一般化の主張の形を参考にした。

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