1 臨界点
定義 1.1.U⊂Rnを開集合とし、f:U→Rを全微分可能な関数とする。Df(a)=0を満たす点a∈Uをfの臨界点 (critical point) という。勾配を用いれば、この条件は∇f(a)=0と同値である。
2 二次形式の符号
定義 2.1.Hを実対称n×n行列とし、
qH(h)=hTHhとおく。二次形式qHが§E3.40 定義 2.1の意味で正定値であるとき、Hは正定値 (positive definite) であるという。−Hが正定値であるとき、Hは負定値 (negative definite) であるという。また、qHが正の値と負の値をともに取るとき、Hは不定値 (indefinite) であるという。
§E3.40 定理 1.1と§E3.40 定理 2.2により、実二次形式は正の平方、負の平方および零係数の個数によって分類される。本記事では、この分類を証明せずに用いる。
系 2.2 (Sylvester の判定法).Hを実対称n×n行列とし、Hの左上k×k小行列の行列式をΔkとする。Hが正定値であるための必要十分条件は
Δ1>0,Δ2>0,…,Δn>0である。
系 2.3.α,β,γ∈Rとし、
H=(αββγ)とおく。
- α>0かつdetH>0ならば、Hは正定値である。
- α<0かつdetH>0ならば、Hは負定値である。
- detH<0ならば、Hは不定値である。
証明.(1)の場合、二つの首座小行列式はα>0とdetH>0であるから、系 2.2によりHは正定値である。(2)の場合、−Hの二つの首座小行列式は−α>0とdet(−H)=detH>0であるから、−Hは正定値である。
(3)の場合、Hは正則なので、二次形式の慣性指数に零係数は現れない。§E3.40 定理 1.1による符号付き対角表示で正または負の平方だけが現れるならば、合同変換の行列をPとして
det(PTHP)=(detP)2detHの左辺は正になる。しかし、右辺はdetH<0から負であり、矛盾する。従って正の平方と負の平方が一つずつ現れ、§E3.40 定理 2.2によりHは不定値である。▨
3 Hessian による局所極値判定
定理 3.1.n∈N≥1とし、U⊂Rnを開集合、f:U→RをC2級関数とする。a∈Uをfの臨界点とし、H=Hf(a)とおく。このとき、次が成り立つ。
- Hが正定値ならば、aはfの狭義局所最小点である。
- Hが負定値ならば、aはfの狭義局所最大点である。
- Hが不定値ならば、aはfの局所最小点でも局所最大点でもない。
証明.§E4.4 定義 3.3によりHは実対称行列である。まず、Hが正定値であると仮定する。§D3.15 定理 3.1により、正規直交固有ベクトルv1,…,vnと実固有値λ1,…,λnが存在する。各iについて
λi=viTHvi>0である。従ってc=min1≤i≤nλi>0とおけば、h=∑iξiviに対して
hTHh=i=1∑nλiξi2≥ci=1∑nξi2=c∥h∥2(1)となる。
aは臨界点であるから、二次 Taylor 展開§E4.5 系 2.1により
f(a+h)−f(a)=21hTHh+r(h),∥h∥2r(h)⟶0(h→0,h=0)(2)である。Uは開集合なので、あるρ>0が存在してB(a,ρ)⊂Uとなる。また、式 (2) の極限から、あるδ0>0が存在して
0<∥h∥<δ0⟹∣r(h)∣≤4c∥h∥2(3)となる。δ=min{ρ,δ0}とおくと、式 (1) と式 (3) により、0<∥h∥<δに対して
f(a+h)−f(a)≥2c∥h∥2−4c∥h∥2=4c∥h∥2>0である。従ってaは狭義局所最小点である。
Hが負定値である場合、−fはC2級であり、aは−fの臨界点である。また、H−f(a)=−Hは正定値である。既に示した場合を−fへ適用すると、aは−fの狭義局所最小点、従ってfの狭義局所最大点である。
最後に、Hが不定値であると仮定する。定義により、あるu+,u−∈Rn∖{0}が存在して
u+THu+>0,u−THu−<0となる。式 (2) へh=tu+を代入してt2で割ると
t2f(a+tu+)−f(a)⟶21u+THu+>0(t→0,t=0)である。同様に、
t2f(a+tu−)−f(a)⟶21u−THu−<0である。Uがaの近傍を含むことと二つの極限から、任意の十分小さい正のtに対して
f(a+tu+)>f(a),f(a+tu−)<f(a)となる。従ってaの任意の近傍にはf(a)より大きい値を取る点と小さい値を取る点が存在するので、aは局所最小点でも局所最大点でもない。▨
4 退化する Hessian
例 4.1 (定符号と退化の基本例). 関数
f1(x,y)=x2+y2,f2(x,y)=x2−y2を考える。原点は両方の関数の臨界点である。Hf1(0,0)=2Iは正定値なので、原点はf1の狭義局所最小点である。一方、Hf2(0,0)=diag(2,−2)は不定値なので、原点はf2の局所極値ではない。
次に、
f3(x,y)=x2+y4,f4(x,y)=x2−y4を考える。二つの関数は原点で同じ Hessiandiag(2,0)をもつ。f3(x,y)>0は(x,y)=(0,0)に対して成り立つので、原点はf3の狭義局所最小点である。これに対し、f4(x,0)=x2>0およびf4(0,y)=−y4<0が非零の十分小さいx,yに対して成り立つので、原点はf4の局所極値ではない。同じ半正定値 Hessian が異なる結論をもたらすため、退化する場合には
Hessian だけで局所極値を判定することができない。
例 4.2 (完全に退化する鞍点).f(x,y)=x3−3xy2とする。原点では∇f(0,0)=0かつHf(0,0)=0である。極座標を用いると
f(rcosθ,rsinθ)=r3cos(3θ)となる。任意のr>0に対して、θ=0では値が正であり、θ=π/3では値が負である。従って原点は局所極値ではない。零行列である Hessian は、この符号変化を捉えない。
5 首座小行列式による計算
例 5.1 (三変数の判定). 関数
f(x,y,z)=x2−xy+y2+2z2を考える。原点は臨界点であり、その Hessian は
Hf(0,0,0)=2−10−120004である。首座小行列式は
Δ1=2,Δ2=3,Δ3=12である。従って系 2.2により Hessian は正定値であり、定理 3.1により原点はfの狭義局所最小点である。
6 演習
問題 6.1 (二次判定と退化する場合).α,β∈Rに対し、
fα,β(x,y)=x2+2αxy+y2+βx4とおく。原点が臨界点であることを確認し、次の各場合に原点を分類せよ。
- ∣α∣<1。
- ∣α∣>1。
- ∣α∣=1かつβ>0、β=0、β<0の各場合。
解答.
一階偏導関数は
∂x∂fα,β=2x+2αy+4βx3,∂y∂fα,β=2αx+2yであるから、原点は臨界点である。原点における Hessian は
H=2(1αα1),detH=4(1−α2)である。
∣α∣<1の場合、Hの第1首座小行列式は2>0であり、行列式も正である。系 2.3によりHは正定値なので、原点は狭義局所最小点である。∣α∣>1の場合、detH<0なのでHは不定値であり、原点は局所最小点でも局所最大点でもない。
∣α∣=1の場合、Hessian は退化している。α=1ならば
f1,β(x,y)=(x+y)2+βx4,α=−1ならば
f−1,β(x,y)=(x−y)2+βx4である。β>0ならば、いずれの表示でも原点以外で値が正になるので、原点は狭義局所最小点である。β=0ならば関数は非負であるが、直線y=−xまたはy=x上で零になるので、原点は狭義でない局所最小点である。β<0ならば、対応する直線上では非零のxに対して値が負である一方、x=0かつy=0では値が正である。従って原点は局所最小点でも局所最大点でもない。▨