1 区分的に滑らかな曲線
定義 1.1.U⊂Rnを開集合とする。連続写像γ:[a,b]→Uに対して、分割
a=t0<t1<⋯<tN=bが存在し、各制限γ∣[tj−1,tj]が端点における片側微分を含めてC1級であるとき、γを 区分的C1曲線 (piecewiseC1curve) という。γ(a)を始点 (initial point)、γ(b)を終点 (terminal point) という。
各開小区間上の導関数をγ′と書く。区分点における導関数の値は、後で定義する積分へ影響しない。定数曲線も区分的C1曲線である。
定義 1.2.γ:[a,b]→Uを区分的C1曲線とする。逆向きの曲線 (reversed curve)γ−を
γ−(t)=γ(a+b−t)(a≤t≤b)で定める。
η:[c,d]→Uも区分的C1曲線であり、γ(b)=η(c)を満たすとする。このとき、γの後にηを進む連結曲線 (concatenated curve)γ∗η:[a,b+d−c]→Uを
(γ∗η)(t)={γ(t),η(c+t−b),a≤t≤b,b≤t≤b+d−cで定める。接続点で導関数が一致する必要はないため、γ∗ηは一般にはC1級ではないが、区分的C1曲線である。
2 二種類の線積分
定義 2.1.γ:[a,b]→Uを区分的C1曲線、f:U→Rを連続なスカラー場、F:U→Rnを連続なベクトル場とする。分割a=t0<⋯<tN=bを一つ取り、
∫γfds:=j=1∑N∫tj−1tjf(γ(t))∥γ′(t)∥dt,∫γF⋅dr:=j=1∑N∫tj−1tjF(γ(t))⋅γ′(t)dtと定める。第一式を スカラー場の線積分 (scalar line integral)、第二式を ベクトル場の線積分 (vector line integral) という。
命題 2.3.γとηを定義 1.2の曲線とする。このとき
∫γ∗ηfds=∫γfds+∫ηfds,∫γ∗ηF⋅dr=∫γF⋅dr+∫ηF⋅drが成り立つ。また、
∫γ−fds=∫γfds,∫γ−F⋅dr=−∫γF⋅drが成り立つ。
証明. 連結曲線の分割へ接続点bを加えると、定義の和はγ上の和とη上の和に分かれる。これにより、連結に関する二式を得る。
逆向きの曲線については(γ−)′(t)=−γ′(a+b−t)である。スカラー場の線積分ではノルムが負号を消し、ベクトル場の線積分では内積に負号が残る。各小区間で補題 3.1をu=a+b−tに適用し、小区間の和を取ると、後半の二式を得る。▨
3 再パラメータ化
補題 3.1 (一変数の定積分の置換公式).mを正の整数とし、h:[α,β]→Rmを連続とする。ψ:[p,q]→[α,β]をC1級とする。このとき、積分を成分ごとに定めると
∫pqh(ψ(u))ψ′(u)du=∫ψ(p)ψ(q)h(t)dtが成り立つ。ただし、上端が下端より小さい積分は符号を反転して定める。
証明.hを[α,β]の外側では端点値で延長し、その延長もhと書く。H(x)=∫αxh(t)dtとおく。一変数の第一基本定理§D1.19 定理 1.1を成分ごとに適用するとH:R→RmはC1級であり、H′=hである。連鎖律§E4.3 定理 1.1により
(H∘ψ)′(u)=h(ψ(u))ψ′(u)を得る。第二基本定理§D1.19 定理 2.1を成分ごとに適用すると
∫pqh(ψ(u))ψ′(u)du=H(ψ(q))−H(ψ(p))=∫ψ(p)ψ(q)h(t)dtとなる。▨
命題 3.2.γ:[a,b]→Uを区分的C1曲線とする。ϕ:[c,d]→[a,b]を区分的C1級の同相写像とし、各滑らかな小区間の内部でϕ′は零にならないとする。
ϕ(c)=aかつϕ(d)=bならば、γ=γ∘ϕに対して
∫γfds=∫γfds,∫γF⋅dr=∫γF⋅drが成り立つ。ϕ(c)=bかつϕ(d)=aならば、
∫γfds=∫γfds,∫γF⋅dr=−∫γF⋅drが成り立つ。
証明.γとϕの区分点、およびγの区分点のϕによる逆像を用いて[c,d]を細分する。各小区間では連鎖律§E4.3 定理 1.1により
(γ∘ϕ)′(u)=γ′(ϕ(u))ϕ′(u)が成り立つ。ϕが向きを保つ場合にはϕ′(u)>0であるから、
∥(γ∘ϕ)′(u)∥=∥γ′(ϕ(u))∥ϕ′(u).二種類の線積分へ代入し、各小区間で一変数の定積分の置換公式補題 3.1をt=ϕ(u)に適用すると、向きを保つ二式を得る。
ϕが向きを反転する場合にはϕ′(u)<0である。ノルムを含む式では∣ϕ′(u)∣が現れるため符号は残らず、内積を含む式ではϕ′(u)の符号が残る。補題 3.1における積分端点の順序も反転することを用いると、向きを反転する二式を得る。▨
例 3.3 (らせんに沿う線積分).F(x,y,z)=(y,−x,z)とし、
γ(t)=(cost,sint,t),0≤t≤2πとする。このとき
F(γ(t))⋅γ′(t)=−sin2t−cos2t+t=t−1である。従って
∫γF⋅dr=∫02π(t−1)dt=2π2−2πを得る。向きを反転すれば、積分値は−2π2+2πになる。
4 勾配定理
定理 4.1 (勾配定理).U⊂Rnを開集合、φ∈C1(U)とし、γ:[a,b]→Uを区分的C1曲線とする。このとき
∫γ∇φ⋅dr=φ(γ(b))−φ(γ(a))が成り立つ。
証明.γがC1級である各小区間[tj−1,tj]では、連鎖律§E4.3 定理 1.1により
dtdφ(γ(t))=∇φ(γ(t))⋅γ′(t)が成り立つ。一変数の微積分学の基本定理§D1.19 定理 2.1を各小区間へ適用すると、
∫tj−1tj∇φ(γ(t))⋅γ′(t)dt=φ(γ(tj))−φ(γ(tj−1))を得る。j=1,…,Nについて加えると、中間の端点値が相殺し、始点と終点の値だけが残る。▨
系 4.2.φ∈C1(U)とし、γをU内の区分的C1閉曲線とする。このとき
∫γ∇φ⋅dr=0である。
証明. 閉曲線ではγ(a)=γ(b)である。定理 4.1の右辺へ代入すると零を得る。▨
5 経路独立性とポテンシャル
定義 5.1.U⊂Rnの任意の二点をU内の区分的C1曲線で結ぶことができるとき、Uは区分的C1弧状連結 (piecewiseC1path-connected) であるという。
定義 5.2.F:U→Rnを連続なベクトル場とする。あるφ∈C1(U)が存在してF=∇φを満たすとき、Fを 保存場 (conservative vector field)、φをFの ポテンシャル (potential function) という。
U内の任意の二本の区分的C1曲線が同じ始点と同じ終点をもつならば、それらに沿うFの線積分が等しいとき、Fの線積分は 経路独立 (path-independent) であるという。
定理 5.3.U⊂Rnを開かつ区分的C1弧状連結な集合とし、F:U→Rnを連続とする。次の三条件は同値である。
- Fは保存場である。
- Fの線積分は経路独立である。
- U内の任意の区分的C1閉曲線γに対して∫γF⋅dr=0である。
証明.(1)⇒(2)を示す。(1)を仮定し、F=∇φとする。同じ始点pと終点qをもつ任意の二曲線に対し、定理 4.1はいずれの線積分もφ(q)−φ(p)に等しいことを与える。従って(2)を得る。
(2)⇒(3)を示す。(2)を仮定する。閉曲線と、その始点に留まる定数曲線は同じ始点と終点をもつ。定数曲線に沿う線積分は零であるから、(3)を得る。
(3)⇒(2)を示す。(3)を仮定する。同じ始点と終点をもつ二曲線をγとηとする。γ∗η−は閉曲線であるから、命題 2.3により
0=∫γ∗η−F⋅dr=∫γF⋅dr−∫ηF⋅dr.従って(2)を得る。
(2)⇒(1)を示す。最後に、U=∅ならば、空写像φ:U→RはC1級であり、その勾配は空写像Fに等しいため、(1)が成り立つ。以下ではU=∅とする。基点x0∈Uを固定する。各x∈Uに対してx0からxへ至る区分的C1曲線を取り、
φ(x):=∫x0xF⋅drと定める。右辺は選んだ曲線に沿う積分を表す。(2)により、その値は曲線の選択に依存しない。
x∈Uと標準基底ベクトルejを固定する。Uは開集合であるから、十分小さい∣h∣に対してx+thej∈U(0≤t≤1)である。x0からxへの曲線へこの線分を連結し、経路独立性を用いると
φ(x+hej)−φ(x)=∫01F(x+thej)⋅(hej)dt=∫0hFj(x+sej)dsを得る。h=0で割ってh→0とすると、Fjの連続性から∂jφ(x)=Fj(x)となる。全てのFjが連続であるから、§E4.2 系 2.2によりφ∈C1(U)であり、∇φ=Fである。従って(1)を得る。▨
6 星型領域における保存場の判定
定義 6.1.U⊂Rnとa∈Uに対し、任意のx∈Uと0≤t≤1について
a+t(x−a)∈Uが成り立つとき、Uはaに関して 星型 (star-shaped) であるという。
定理 6.2.U⊂R3をa∈Uに関して星型な開集合とする。F=(F1,F2,F3)∈C1(U;R3)が§E4.17 定義 1.2の回転について
curlF=0を満たすならば、
φ(x):=∫01F(a+t(x−a))⋅(x−a)dtはFのポテンシャルである。
証明.x∈Uとj∈{1,2,3}を固定する。Uは開集合であるから、xjを内部に含む有界閉区間Jを十分小さく取り、xの第j座標をs∈Jへ置き換えた点x(s)が全てUに属するようにすることができる。Uはaに関して星型であるから、a+t(x(s)−a)は全ての(t,s)∈[0,1]×JについてUに属する。
Fとその一階偏導関数は連続であり、[0,1]×Jはコンパクトである。§E2.9 定理 5.1により、以下の被積分関数とそのsに関する偏導関数はこの長方形上で一様連続である。従って、有限区間上のパラメータ積分の微分公式§D1.26 補題 2.1を適用することができる。s=xjとすると
∂jφ(x)=∫01[Fj(a+t(x−a))+tk=1∑3∂jFk(a+t(x−a))(xk−ak)]dtを得る。
curlF=0は、全てのj,k∈{1,2,3}に対する∂jFk=∂kFjと同値である。従って
∂jφ(x)=∫01[Fj(a+t(x−a))+tk=1∑3∂kFj(a+t(x−a))(xk−ak)]dt=∫01dtd[tFj(a+t(x−a))]dt=Fj(x).従って全てのjについて∂jφ=Fjである。Fjは連続であるから§E4.2 系 2.2によりφ∈C1(U)であり、∇φ=Fとなる。▨
例 6.4 (穴のある領域における反例).
U=R2∖{(0,0)},F(x,y)=(−x2+y2y,x2+y2x)とおく。FはU上でC1級であり、直接微分すると
∂xF2=(x2+y2)2y2−x2=∂yF1を得る。従って二次元の回転∂xF2−∂yF1は零である。
一方、単位円を反時計回りに回る曲線γ(t)=(cost,sint)(0≤t≤2π)に対して
F(γ(t))=(−sint,cost)=γ′(t)であるから
∫γF⋅dr=∫02π1dt=2π.定理 5.3により、FはU全体では保存場でない。
7 演習
問題 7.1 (二種類の線積分と向き).γ(t)=(cost,sint)(0≤t≤π)、f(x,y)=x、F(x,y)=(−y,x)とする。∫γfdsと∫γF⋅drを求めよ。また、γの向きを反転したとき、二つの値がどのように変わるかを定義から確認せよ。
解答.
∥γ′(t)∥=1であるから
∫γfds=∫0πcostdt=0.また、F(γ(t))=(−sint,cost)=γ′(t)であるから
∫γF⋅dr=∫0π∥γ′(t)∥2dt=π.逆向きでは導関数に負号が付く。速さのノルムは変わらないため第一の値は0のままであり、接ベクトルとの内積は符号を変えるため第二の値は−πになる。▨
問題 7.2 (星型領域におけるポテンシャルの構成).U=R3とし、
F(x,y,z)=(2xy+z,x2,x)とする。curlF=0を確認し、基点を原点として定理 6.2の構成からポテンシャルを求めよ。さらに、原点から(1,2,3)へ至る任意の区分的C1曲線に沿うFの線積分を求めよ。
解答.
直接計算すると
curlF=(∂yx−∂zx2,∂z(2xy+z)−∂xx,∂xx2−∂y(2xy+z))=(0,0,0)である。また、
φ(x,y,z)=∫01F(tx,ty,tz)⋅(x,y,z)dt=∫01(3t2x2y+2txz)dt=x2y+xz.実際に∇φ=(2xy+z,x2,x)=Fである。従って定理 4.1により、求める線積分は
φ(1,2,3)−φ(0,0,0)=2+3=5であり、経路に依存しない。▨