§A5.15調和点列と調和共役

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4点の複比が−1-1になることを調和であるといい、調和共役とは、3点からその条件を満たす第4点を定めることである。ここでは、一直線上の4点を有向線分比で測り、完全四辺形から調和共役を作る方法までを証明します。長さの比だけでは内分と外分の違いが消えるので、符号を最初から含めます。

定理 1 (調和共役の存在と一意性(主定理)). 同一直線上の有限な相異なる3点A,B,X\mathrm{A},\mathrm{B},\mathrm{X}をとり、X\mathrm{X}はA,B\mathrm{A},\mathrm{B}の中点ではないとする。このとき、有限な点Y\mathrm{Y}で(A,B;X,Y)=−1(\mathrm{A},\mathrm{B};\mathrm{X},\mathrm{Y})=-1を満たすものはただ1つ存在する。A=a,B=b,X=u\mathrm{A}=a,\mathrm{B}=b,\mathrm{X}=uとすると

y=u(a+b)−2ab2u−a−by=\frac{u(a+b)-2ab}{2u-a-b}

である。X\mathrm{X}が中点なら、有限なY\mathrm{Y}は存在しない。この記事ではその場合を射影直線上の無限遠点として拡張しない。

図は調和共役の位置を実演するものであり、複比が -1 であることの証明ではありません。

1 複比と調和点列

この記事では、実アフィン平面上の有限な点だけを扱います。直線上の有向線分と有向線分比は§A5.9 定義 2.1の約束を使います。つまり、直線に向きを入れた座標xxについて

UV‾=x(V)−x(U),UX‾XV‾\overline{\mathrm{UV}}=x(\mathrm{V})-x(\mathrm{U}), \qquad \frac{\overline{\mathrm{UX}}}{\overline{\mathrm{XV}}}

と書きます。最後の分母が00にならないことが必要です。

定義 1.1 (複比と調和点列). 同一直線上の相異なる点A,B,X,Y\mathrm{A},\mathrm{B},\mathrm{X},\mathrm{Y}に対し、X,Y\mathrm{X},\mathrm{Y}がA,B\mathrm{A},\mathrm{B}と一致しないとき

(A,B;X,Y):=AX‾/XB‾AY‾/YB‾(\mathrm{A},\mathrm{B};\mathrm{X},\mathrm{Y}) := \frac{\overline{\mathrm{AX}}/\overline{\mathrm{XB}}} {\overline{\mathrm{AY}}/\overline{\mathrm{YB}}}

を複比という。この複比が−1-1であるとき、順序を含む4点(A,B;X,Y)(\mathrm{A},\mathrm{B};\mathrm{X},\mathrm{Y})を調和点列といい、Y\mathrm{Y}を区間AB\mathrm{AB}に関するX\mathrm{X}の調和共役という。

この定義は、直線の向きを逆にしても変わりません。4本の有向線分がすべて符号反転しますが、それぞれの比の分子・分母が同時に反転するからです。また、座標を原点からずらしたり単位を変えたりしても、各比は同じ値になります。

直線上でA\mathrm{A}を座標00、B\mathrm{B}を座標11とし、X\mathrm{X}の座標をuu、Y\mathrm{Y}の座標をvvとします。このとき

AX‾XB‾=u1−u,AY‾YB‾=v1−v.\frac{\overline{\mathrm{AX}}}{\overline{\mathrm{XB}}}=\frac{u}{1-u}, \qquad \frac{\overline{\mathrm{AY}}}{\overline{\mathrm{YB}}}=\frac{v}{1-v}.

したがって、調和条件は

u1−u=−v1−v,すなわちv=u2u−1\frac{u}{1-u}=-\frac{v}{1-v}, \qquad\text{すなわち}\qquad v=\frac{u}{2u-1}

と書けます。ただしu≠0,1,12u\ne 0,1,\tfrac12です。u=0u=0またはu=1u=1はX\mathrm{X}が端点に一致するため定義域外で、u=12u=\tfrac12では有限なvvが存在しません。

2 完全四辺形から作る

定義 2.1 (完全四辺形). 相異なる4本の直線で、3本が同一の点を通らず、平行な2本もないものを完全四辺形という。4直線の6つの交点を、 2本ずつの「向かい合う直線」の組で分けると、3組の交点を結ぶ3本の直線ができる。これらを完全四辺形の対角線という。

ここでいう対角線は、四辺形の辺の一部ではありません。4直線を

AP,BP,AR,BQ\mathrm{AP},\quad \mathrm{BP},\quad \mathrm{AR},\quad \mathrm{BQ}

としたとき、6つの交点は

直線の組交点AP∩BPPAP∩ARAAP∩BQQBP∩ARRBP∩BQBAR∩BQS\begin{array}{c|c} \text{直線の組}&\text{交点}\\ \hline \mathrm{AP}\cap\mathrm{BP}&\mathrm{P}\\ \mathrm{AP}\cap\mathrm{AR}&\mathrm{A}\\ \mathrm{AP}\cap\mathrm{BQ}&\mathrm{Q}\\ \mathrm{BP}\cap\mathrm{AR}&\mathrm{R}\\ \mathrm{BP}\cap\mathrm{BQ}&\mathrm{B}\\ \mathrm{AR}\cap\mathrm{BQ}&\mathrm{S} \end{array}

です。向かい合う組は(AP,BP)(\mathrm{AP},\mathrm{BP})と(AR,BQ)(\mathrm{AR},\mathrm{BQ})、(AP,AR)(\mathrm{AP},\mathrm{AR})と(BP,BQ)(\mathrm{BP},\mathrm{BQ})、(AP,BQ)(\mathrm{AP},\mathrm{BQ})と(BP,AR)(\mathrm{BP},\mathrm{AR})なので、対角線はPS\mathrm{PS}、AB\mathrm{AB}、QR\mathrm{QR}になります。

3 動かして構成を観察する

下の図でX\mathrm{X}を線分AB\mathrm{AB}上で動かしてください。P\mathrm{P}とQ\mathrm{Q}を固定し、X\mathrm{X}を通る直線とBP\mathrm{BP}の交点をR\mathrm{R}とします。そこからS=AR∩BQ\mathrm{S}=\mathrm{AR}\cap\mathrm{BQ}、Y=PS∩AB\mathrm{Y}=\mathrm{PS}\cap\mathrm{AB}を作っています。4本の太い直線AP,BP,AR,BQ\mathrm{AP},\mathrm{BP},\mathrm{AR},\mathrm{BQ}が完全四辺形です。

図は構成の順番を見せるためのものです。特定の位置で一直線に見えたり、複比の値が変わらなかったりしても、それだけで全ての位置についての定理にはなりません。図を動かして得た観察は、証明ではありません。次の定理で、完全四辺形のどのような補助線を選んでも調和性が出ることを計算します。

4 完全四辺形による調和共役の定理

定理 4.1 (完全四辺形による調和共役の構成). 一直線上の相異なる点A,B,X\mathrm{A},\mathrm{B},\mathrm{X}をとり、X\mathrm{X}はA,B\mathrm{A},\mathrm{B}の中点ではないとする。直線AB\mathrm{AB}の外に点P\mathrm{P}を選ぶ。X\mathrm{X}を通る直線がAP\mathrm{AP},BP\mathrm{BP}とそれぞれ相異なる有限点Q,R\mathrm{Q},\mathrm{R}で交わるようにし、さらに

S=AR∩BQ,Y=PS∩AB\mathrm{S}=\mathrm{AR}\cap\mathrm{BQ}, \qquad \mathrm{Y}=\mathrm{PS}\cap\mathrm{AB}

が有限な相異なる点として定まるよう、補助線を一般の位置に選ぶ。このとき4直線AP,BP,AR,BQ\mathrm{AP},\mathrm{BP},\mathrm{AR},\mathrm{BQ}は完全四辺形をなし、

(A,B;X,Y)=−1(\mathrm{A},\mathrm{B};\mathrm{X},\mathrm{Y})=-1

である。したがってY\mathrm{Y}はX\mathrm{X}の調和共役である。

証明の方針。 アフィン変換でA=(0,0)\mathrm{A}=(0,0)、B=(1,0)\mathrm{B}=(1,0)、P=(0,1)\mathrm{P}=(0,1)と置きます。Q\mathrm{Q}とR\mathrm{R}をそれぞれAP\mathrm{AP}とBP\mathrm{BP}上の1変数で表し、QR\mathrm{QR}がX\mathrm{X}を通る条件からその2変数の関係を得ます。次にS\mathrm{S}とY\mathrm{Y}を直線の交点として計算し、Y\mathrm{Y}の座標がu/(2u−1)u/(2u-1)になることを示します。最後に定義を展開します。

証明. 直線上のアフィン変換は全ての有向線分を同じ非零定数倍するので、有向線分比と複比を変えない。したがって上のアフィン変換で、X=(u,0)\mathrm{X}=(u,0)と書いてよい。補助線の一般位置の仮定により、ある実数q,rq,rを用いて

Q=(0,q),R=(1−r,r)\mathrm{Q}=(0,q), \qquad \mathrm{R}=(1-r,r)

と書ける。Q,R,X\mathrm{Q},\mathrm{R},\mathrm{X}が一直線上にあることを、2本のベクトルの行列式が 0であることとして書くと

u=q(1−r)q−r.u=\frac{q(1-r)}{q-r}.

ここでq−r≠0q-r\ne0は、QR\mathrm{QR}がAB\mathrm{AB}と平行でなく有限なX\mathrm{X}をもつことから従う。

直線AR\mathrm{AR}はy=r1−rxy=\dfrac{r}{1-r}x、直線BQ\mathrm{BQ}はy=q(1−x)y=q(1-x)である。D:=r+q(1−r)D:=r+q(1-r)と置くと、D≠0D\ne0(AR\mathrm{AR}とBQ\mathrm{BQ}が平行でない)なので、その交点S\mathrm{S}は

S=(q(1−r)D,qrD)\mathrm{S}=\left(\frac{q(1-r)}{D},\frac{qr}{D}\right)

となる。P=(0,1)\mathrm{P}=(0,1)とS\mathrm{S}を結ぶ直線がy=0y=0と交わる点の座標をvvとすれば、直線のパラメータ表示から

v=q(1−r)r+q−2qr.v=\frac{q(1-r)}{r+q-2qr}.

先ほどのu=q(1−r)/(q−r)u= q(1-r)/(q-r)を代入して整理すると

v=u2u−1.v=\frac{u}{2u-1}.

u≠12u\ne\tfrac12なので分母は0ではなく、Y\mathrm{Y}は有限です。さらにu≠0,1u\ne0,1と相異点の仮定からv≠0,1v\ne0,1であり、定義域の条件も満たします。よって

AX‾XB‾=u1−u,AY‾YB‾=v1−v=uu−1=−u1−u.\frac{\overline{\mathrm{AX}}}{\overline{\mathrm{XB}}} =\frac{u}{1-u}, \qquad \frac{\overline{\mathrm{AY}}}{\overline{\mathrm{YB}}} =\frac{v}{1-v} =\frac{u}{u-1} =-\frac{u}{1-u}.

従ってその商は−1-1である。さらにP=AP∩BP\mathrm{P}=\mathrm{AP}\cap\mathrm{BP}、S=AR∩BQ\mathrm{S}=\mathrm{AR}\cap\mathrm{BQ}、A=AP∩AR\mathrm{A}=\mathrm{AP}\cap\mathrm{AR}、B=BP∩BQ\mathrm{B}=\mathrm{BP}\cap\mathrm{BQ}、Q=AP∩BQ\mathrm{Q}=\mathrm{AP}\cap\mathrm{BQ}、R=BP∩AR\mathrm{R}=\mathrm{BP}\cap\mathrm{AR}なので、4直線は完全四辺形であり、その対角線はPS,AB,QR\mathrm{PS},\mathrm{AB},\mathrm{QR}である。構成上X=QR∩AB\mathrm{X}=\mathrm{QR}\cap\mathrm{AB}、Y=PS∩AB\mathrm{Y}=\mathrm{PS}\cap\mathrm{AB}だから、作図の主張も示された。▨

この証明で使った座標は、図を描くための特別な数値ではありません。任意の非退化な配置をアフィン座標で表しただけなので、補助線を変えても結果は同じです。完全四辺形の3本の対角線のうち、AB\mathrm{AB}上の2点X,Y\mathrm{X},\mathrm{Y}が調和共役の組になる、というのが構成の本質です。

5 内分・外分と符号

補題 5.1 (調和共役の内分・外分).A,B\mathrm{A},\mathrm{B}を異なる点、X\mathrm{X}をその直線上のA,B\mathrm{A},\mathrm{B}と異なる点でX\mathrm{X}が中点でないものとする。X\mathrm{X}の座標をuu、その調和共役の座標をvvとしてA=0,B=1\mathrm{A}=0,\mathrm{B}=1と正規化すると、v=u/(2u−1)v=u/(2u-1)であり、次が成り立つ。

  1. 0<u<10<u<1ならAX‾/XB‾>0\overline{\mathrm{AX}}/\overline{\mathrm{XB}}>0、AY‾/YB‾<0\overline{\mathrm{AY}}/\overline{\mathrm{YB}}<0。つまりX\mathrm{X}は内分点、Y\mathrm{Y}は外分点。
  2. u<0u<0またはu>1u>1ならX\mathrm{X}は外分点、Y\mathrm{Y}は内分点。
  3. 0<u<120<u<\tfrac12ならv<0v<0、12<u<1\tfrac12<u<1ならv>1v>1。外分点Y\mathrm{Y}がA\mathrm{A}側かB\mathrm{B}側かは、X\mathrm{X}が中点のどちら側にあるかで決まる。

証明.ρ(t):=t/(1−t)\rho(t):=t/(1-t)と置く。0<t<10<t<1なら分子と分母がともに正なのでρ(t)>0\rho(t)>0であり、t<0t<0またはt>1t>1なら分子と分母の符号が異なるのでρ(t)<0\rho(t)<0である。調和条件はρ(v)=−ρ(u)\rho(v)=-\rho(u)だから、X\mathrm{X}とY\mathrm{Y}の比の符号は必ず反対になる。

位置そのものについては、0<u<120<u<\tfrac12ならu>0u>0かつ2u−1<02u-1<0なのでv<0v<0、12<u<1\tfrac12<u<1ならu>0u>0かつ0<2u−1<u0<2u-1<uなのでv>1v>1である。外部の場合は、u<0u<0なら0<v<10<v<1、u>1u>1なら0<v<10<v<1を、それぞれ分母と分子の大小を比較して得る。中点u=12u=\tfrac12はこの式の分母が0になるため、別扱いである。▨

普通の長さだけでAX/XB\mathrm{AX}/\mathrm{XB}とAY/YB\mathrm{AY}/\mathrm{YB}を計算すると、両方とも正になってしまう場合があります。そのとき調和性の−1-1は見えません。内分・外分を一つの式に入れるために、§A5.9 定理 2.2と同じく有向比を使う必要があります。

6 退化・境界ケース

系 6.1 (有限な調和共役が存在しない場合). 次の配置では、この記事の有限な点としての調和共役または完全四辺形の構成は適用できない。

  1. A=B\mathrm{A}=\mathrm{B}、またはX=A,B\mathrm{X}=\mathrm{A},\mathrm{B}。複比の分母または「端点からの比」が定義できない。
  2. X\mathrm{X}がAB\mathrm{AB}の中点。調和条件を射影平面まで拡張すればY\mathrm{Y}は無限遠点であるが、実アフィン平面には有限なY\mathrm{Y}がない。
  3. 補助線がAP\mathrm{AP}またはBP\mathrm{BP}と平行、あるいはAR\mathrm{AR}とBQ\mathrm{BQ}が平行になる場合。必要な交点が有限に定まらないので、補助線を一般の位置に選び直す。

証明.A=B\mathrm{A}=\mathrm{B}ならAB\mathrm{AB}は区間を定めず、X=A\mathrm{X}=\mathrm{A}またはB\mathrm{B}ならAX‾\overline{\mathrm{AX}}またはXB‾\overline{\mathrm{XB}}が0になり、定義の前提を破る。

A=0,B=1\mathrm{A}=0,\mathrm{B}=1の座標でX\mathrm{X}が中点ならu=12u=\tfrac12である。調和条件を展開するとv=u/(2u−1)v=u/(2u-1)だが、これは有限な実数にならない。作図の証明でもPS\mathrm{PS}とAB\mathrm{AB}が平行になり、有限な交点Y\mathrm{Y}が現れない。

最後に、補助線が指定の直線と平行ならQ\mathrm{Q}またはR\mathrm{R}が有限に作れず、AR∥BQ\mathrm{AR}\parallel\mathrm{BQ}ならS\mathrm{S}が有限に作れない。これらは定理の結論が偽になるというより、選んだ作図手順がそのままでは実行できない退化である。補助線を変えれば、u≠12u\ne\tfrac12の通常の配置では一般位置を選べる。▨

射影幾何では無限遠点を加えることで、平行な直線の交点も同じ枠組みに入ります。しかし、ここでの定義は有限な実数の有向比に基づくため、無限遠点を含む複比の定義や射影変換による不変性までは扱いません。それらは「長さが変わっても複比が残る」という次の段階の道具です。

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