1 この記事で証明すること
この記事では、次を証明します。
- 接弦定理:接点で接線と弦が作る角は、その弦を反対側の弧から見込む円周角に等しいこと(定理 3.1)。
- 円に内接する四角形の対角の和:四頂点が同一円周上にある四角形の向かい合う角の和は180°であること(定理 4.1)とその逆(定理 4.2)。
- 四点共円の角による判定:基準の直線の同じ側では見込む角が等しく、反対側では和が180°になることが、4点が同一円周上にある条件であること(系 4.3)。
定義 1.1 (接線・弦・円に内接する四角形). 半径が正の円について、円とただ1点Aだけを共有する直線を、その円の接線、Aを接点という。円周上の相異なる2点を結ぶ線分を弦という。また、4つの相異なる頂点が1つの円周上にある四角形を、円に内接する四角形という。
接線は円を「横切らずに触れる」直線です。ただし、見た目の「触れる」ではなく、共有点がただ1つであることが定義です。まず、この定義を角の情報へ変えます。
補題 1.2 (接線と接点を通る半径). 中心O、半径r>0の円周上の点Aを通る直線ℓについて、次は同値である。
- ℓはAにおける円の接線である。
- OA⊥ℓである。
証明. まずℓが接線であるとする。Oからℓに下ろした垂線の足をHとする。H=Aなら、直角三角形△OHAでOH<OA=rである。ℓ上でHから両側へ
r2−OH2だけ離れた2点は、三平方の定理によりどちらもOから距離rにある。するとℓは円と2点で交わり、接線の定義に反する。よってH=A、すなわちOA⊥ℓである。
逆にOA⊥ℓとする。ℓ上のAでない任意の点Xについて、三平方の定理から
OX2=OA2+AX2>r2となる。したがってXは円周上にない。ℓと円の共有点はAだけなので、ℓはAにおける接線である。▨
2 動かして接弦定理を観察する
下の図で点Pを円周上に沿ってドラッグしてください。接点Aで接線ℓと弦APが作る角と、円周角∠AQPには同じ印θがついています。点Pを直径の反対側まで動かしたときも比べてください。
図では2つの角が同じまま動きます。しかし、図の観察は証明ではありません。 ドラッグで調べられるのは選んだ有限個の配置だけです。すべての配置で等しい理由を、円周角の定理から示します。
3 接弦定理
定理 3.1 (接弦定理). 円周上の相異なる3点をA,B,Cとし、ℓをAにおける接線とする。接線上のAと異なる点で、Cと直線ABの反対側にある点Tをとる。このとき
∠TAB=∠ACB.すなわち、接点Aで接線と弦ABが作る角は、直線ABに関して接線半直線ATと反対側の弧に頂点をもつ円周角に等しい。
証明の方針。 小さい方の中心角をφとおきます。二等辺三角形△OABから弦と半径の角を求め、半径と接線の直角を使って接弦角へ変えます。一方、円周角は§A5.5 定理 1.1により弧の中心角の半分です。点Cが小さい弧と大きい弧のどちらにあるかで、両辺が同時に補角へ変わることまで確かめます。
証明. 円の中心をOとし、小さい方の中心角∠AOBをφとする。まずABが直径でない場合、0<φ<180°である。OA=OBより△OABは二等辺三角形だから
∠OAB=2180°−φ=90°−2φ.補題 1.2よりOA⊥ℓである。
Cが大きい方の弧AB上にあるとき、条件で選んだ半直線ATと弦ABの角は小さい方なので
∠TAB=90°−∠OAB=2φ.また、∠ACBが見込むのはCを含まない小さい方の弧ABだから、§A5.5 定理 1.1より∠ACB=2φである。
Cが小さい方の弧AB上にあるときは、指定された半直線ATが反対向きになり、接弦角は先ほどの角の補角
∠TAB=180°−2φとなる。円周角が見込む弧も大きい方へ替わり、その中心角は360°−φなので、§A5.5 定理 1.1より
∠ACB=2360°−φ=180°−2φ.よってこの場合も2角は等しい。
ABが直径ならφ=180°である。接線は直径ABに垂直なので∠TAB=90°、また§A5.5 系 3.1より∠ACB=90°である。以上ですべての場合を尽くした。▨
接弦定理は円周角の定理と別々の暗記項目ではありません。半径と接線の直角を1つ挟むことで、円周角の一方の頂点を接点まで移した形になっています。ただし「移した極限だから」と言うだけでは証明にならず、上の二等辺三角形の角計算がその根拠です。
4 円に内接する四角形
定理 4.1 (内接四角形の対角の和). 相異なる4点A,B,C,Dがこの順に1つの円周上にあるなら、四角形ABCDの対角の和は
∠ABC+∠CDA=180°,∠BAD+∠BCD=180°である。
証明の方針。 1つの対角が見込む弧と、もう1つの対角が見込む弧を合わせると円周全体になります。円周角は対応する弧の中心角の半分なので、和は360°の半分です。
証明.∠ABCが見込む、Bを含まない弧ADCの中心角の大きさをα、∠CDAが見込む、Dを含まない弧CBAの中心角の大きさをβとする。
2つの弧は円周全体を分けるのでα+β=360°である。§A5.5 定理 1.1より
∠ABC+∠CDA=2α+2β=2360°=180°.A,B,C,Dを1つずつ巡回させれば、もう一組の対角についても同じである。▨
逆も成り立ちます。ここで「四角形」を凸四角形に限定することが、点の並びと内角を曖昧にしないために重要です。
定理 4.2 (内接四角形の対角和の逆).A,B,C,Dをこの順に頂点とする凸四角形について、
∠ABC+∠CDA=180°ならば、4点A,B,C,Dは同一円周上にある。
証明の方針。 まずA,B,Cを通る円を描き、Dと同じ側の弧に補助点D′をとります。順方向の定理から∠AD′Cを計算すると∠ADCと等しくなります。最後に円周角の定理の逆を使って、Dもその円へ戻します。
証明. 凸四角形なのでA,B,Cは同一直線上になく、この3点を通る円Γがただ1つ存在する。実際、辺ABとBCの垂直二等分線は平行でないので1点で交わり、その交点が3点から等距離にある。中心はこの2直線の交点でなければならないから一意でもある。
凸性よりBとDは直線ACの反対側にある。円ΓのD側の弧AC上に点D′をとる。定理 4.1と仮定から
∠AD′C=180°−∠ABC=∠ADC.D=D′なら結論は明らかである。そうでなければD,D′は直線ACの同じ側にあり、線分ACを見込む角が等しい。したがって§A5.5 定理 4.1よりA,C,D,D′は同一円周上にある。その円は相異なる3点A,C,D′を通るので、一意性によりΓである。よってDもΓ上にある。▨
系 4.3 (四点共円の角による判定). 相異なる2点A,Bと、直線AB上にない相異なる2点P,Qをとる。
- P,Qが直線ABの同じ側にあるとき、4点が同一円周上にあるための必要十分条件は∠APB=∠AQBである。
- P,Qが直線ABの反対側にあるとき、4点が同一円周上にあるための必要十分条件は∠APB+∠AQB=180°である。
証明. 同じ側の場合、必要性は§A5.5 定理 1.1、十分性は§A5.5 定理 4.1そのものである。
反対側の場合、4点が同一円周上なら2角が見込む2つの弧ABは円周全体を分けるので、§A5.5 定理 1.1により和は180°である。逆に和が180°なら、A,B,Pを通る円のQ側の弧に点Q′をとる。順方向から
∠AQ′B=180°−∠APB=∠AQB.Q,Q′は直線ABの同じ側なので、両点が異なるときは§A5.5 定理 4.1によりQもこの円周上にある。両点が一致するときは初めから円周上にある。▨
5 適用条件と縮退
- 接弦定理では、接点が弦の一端Aと一致することが標準の配置です。これは縮退ではありません。ただし他端BまでAと一致すると弦の長さが0になり、接線との角も定義できません。
- 弦ABが直径になる配置は除外しません。証明で分けたとおり、接弦角と円周角はともに90°です。
- 円周角の頂点CがAまたはBと一致すると、角を作る半直線の一方が定まらないため、接弦定理は適用できません。
- 正の半径を仮定しています。半径0の「円」では、接線をただ1本に決める議論が成立しません。
- 対角和の逆は、4点が相異なり、この順で凸四角形を作る場合の主張です。点の一致、3点の一直線上、自己交差する並べ方では「対角」「内角」の意味が変わるので、そのまま適用しません。一般の配置では系 4.3の同じ側・反対側の判定を使います。
7 もう少し先へ
接線は、この先の射影幾何で現れる極線の出発点です。非退化な円錐曲線では、曲線上の点の極線がその点での接線になります。ここで使った「接点・弦・四点共円」の関係は、方べき、極と極線、さらに射影変換へ進むと、点と直線の対応としてまとめ直されます。