1 この記事で証明する定理
定理 1.1 (円周角の定理). 半径が正の円Γの中心をOとする。弧ABに対する中心角とは、その弧に沿って半径OAから半径OBまで回す角をいい、その大きさは0°より大きく360°より小さい。長い弧に対する中心角は180°より大きい反射角となる。この中心角は、二つの半直線OA,OBがつくる0°以上180°以下の通常角∠AOBと区別する。
円Γの周上に相異なる3点A,B,Pをとる。PがA,Bで分けられる2つの弧のうち一方の上を動くとき、∠APBはPの位置によらず一定であり、Pを含まない側の弧ABに対する中心角の半分に等しい。
この定理を、半径でできる二等辺三角形と外角の定理から証明し、系として直径に対する円周角(タレスの定理)を導きます。実戦で効く逆は後半で示します。まず、主張を図で観察します。
2 動かして観察する
下の図で、点 P を円周上でドラッグしてください。P がどこへ行っても∠APBが変わりません。中心角∠AOBとの関係も見ておいてください。
図の θ が動かないことは、目盛りではなく弧の見た目で確かめてください。P を端の方へ寄せると三角形は極端に潰れますが、Pでの開き具合だけは変わりません。
観察はここまでです。動かして変わらなかったことは、変わらないことの証明ではありません。まだ「試した場所では変わらなかった」としか言えていない。なぜ変わらないのかを示します。
3 円周角の定理の証明
冒頭の定理 1.1を証明します。
証明. 円Γの中心をOとし、直線POと円の交点のうちPでない方をQとする。Pを含まない弧ABに対する中心角をωとおく。OA=OB=OPである。
まずOが∠APBの内部にある場合を考える。△OPAはOP=OAの二等辺三角形なので∠OPA=∠OAP。これをαとおく。三角形の外角は隣り合わない2つの内角の和だから∠AOQ=α+α=2α.同じ議論を△OPBに適用し、∠OPB=βとおけば∠BOQ=2β。Oが∠APBの内部にあるのでQはPを含まない弧AB上にある。したがって、その弧に対する中心角はω=2α+2β=2(α+β)=2∠APBである。
Oが∠APBの外部にある場合は、必要ならA,Bを入れ替えてβ≥αとする。Qは弧ABの外にあり、二等辺三角形と外角の定理から得た二つの中心角は重なる。したがって和の代わりに差をとり、ω=2β−2α=2(β−α)=2∠APBを得る。
直線POがAまたはBを通る場合は、αまたはβが0になって片方の項が消えるだけで、結論は同じである。
Pを含まない弧が小弧であるときは0°<ω<180°、大弧であるときは180°<ω<360°である。ABが直径である場合はω=180°である。いずれの場合も∠APB=2ωであり、ωはPを含まない弧ABによって定まる。したがって、∠APBは同じ側の弧上を動くPの位置によらない。▨
証明を読み返してください。Pがどこにあっても、計算に入ってくるのは「OPが半径である」ことだけです。だから円周角は動かない——これが、図を動かして見えた不変性の正体です。観察が「何を見ていたのか」が、ここで言葉になりました。
系 3.1 (タレスの定理).ABが円の直径なら、円周上の任意の点P(A,Bと異なる)について∠APB=90°である。
証明.ABが直径なら、ABが定めるどちらの弧に対する中心角も180°である。したがって、定理 1.1より円周角はその半分の90°である。▨
覚え直す必要はありません。円周角の定理を、ひとつ特別な場合に当てはめただけです。
4 逆——ここからが本番
定理そのものより、実戦で効くのは逆の方です。
定理 4.1 (円周角の定理の逆). 相異なる点A,Bと、直線AB上にない相異なる点P,Qをとる。P,Qが直線ABについて同じ側にあり、∠APB=∠AQBが成り立つならば、4点A,B,P,Qは同一円周上にある。
証明. 相似変換によってA=(−1,0)、B=(1,0)とし、直線ABの同じ側を上半平面とする。P=(u,v)、Q=(x,y)とおけば、同じ側であるという仮定からv>0、y>0である。
上半平面の点X=(s,t)に対してt>0である。通常角∠AXBは0°より大きく180°より小さいので、
cot∠AXB=∣det(A−X,B−X)∣(A−X)⋅(B−X)=2ts2+t2−1が成り立つ。仮定∠APB=∠AQBにより、二つの角の cot の値をcとおくことができる。したがって、PとQはともにs2+(t−c)2=1+c2を満たす。AとBもこの方程式を満たす。ゆえに、4点A,B,P,Qは、中心(0,c)、半径1+c2の同一円周上にある。▨
なぜこれが有用なのでしょうか。角が等しいという情報から、円という図形を作り出すことができるからです。条件には円がどこにも出てこないのに、結論には円が現れます。以降の幾何で「四点共円を疑う」のが定石になるのは、この一手が角の情報を円の情報に変換してくれるからです。