1 この記事で証明すること
この記事では、五心それぞれで「3本の直線がなぜ1点で交わるか」を証明します。証明の型は一様ではなく、中心ごとに使う道具が違います。
- 重心(中線の共点)(定理 5.1)——位置ベクトルの係数で交点を書き下す。
- 外心(垂直二等分線の共点)(定理 8.2)——3頂点から等距離という性質でしぼり込む。
- 内心(内角の二等分線の共点)(定理 9.2)——3辺から等距離という性質でしぼり込む。
- 垂心(垂線の共点)(定理 12.1)——2本の垂線を交わらせ、直角を円周角に読み替えて3本目も通ることを示す。
- 傍心(内角1本と外角2本の二等分線の共点)(定理 13.1)——符号を変えて内心の議論を移す。
最後に、外心・重心・垂心が一直線に並ぶオイラー線(系 17.1)を導きます。
定理 1.1 (三角形の五心(主定理)). 非退化三角形△ABCでは、3本の中線、3本の辺の垂直二等分線、3本の内角の二等分線、3本の垂線、および各頂点に対応する内外角の二等分線が、それぞれただ1点で共点となる。これらの点を順に重心、外心、内心、垂心、傍心と呼ぶ。
2 五心の定義
定義 2.1 (重心). 三角形の頂点と対辺の中点を結ぶ線分を中線という。3本の中線の共通点を重心といい、Gで表す。
定義 2.2 (外心). 三角形の3辺の垂直二等分線の共通点を外心といい、Oで表す。Oを中心として3頂点を通る円を外接円という。
定義 2.3 (内心). 三角形の3つの内角の二等分線の共通点を内心といい、Iで表す。Iを中心として3辺すべてに接する円を内接円という。
定義 2.4 (垂心). 頂点を通り対辺に垂直な直線を垂線という。3本の垂線の共通点を垂心といい、Hで表す。垂線の足は、必要なら対辺の延長上にとる。
定義 2.5 (傍心と傍接円). 頂点Aの内角の二等分線と、B,Cの外角の二等分線の共通点をAに対する傍心IAという。IAを中心として辺BCと辺AB,ACの延長に接する円をAに対する傍接円という。IB,ICも頂点を巡回して同様に定める。
定義では「共通点」と書きましたが、3本が本当に一点で交わることはまだ証明していません。まず、4つの中心と2つの円を動かして、何を証明すべきかを観察します。
3 動かして観察する
下の図では、A,B,Cのどの頂点もドラッグできます。灰色の破線は中線、緑の破線は垂線です。三角形を鋭角から鈍角へ変え、OとHが三角形の外へ出る様子、Iが内接円の中心にとどまる様子、Oが外接円の中心にとどまる様子を見てください。
図で見たことは証明ではありません。 ドラッグで調べられるのは有限個の配置だけであり、点がほぼ重なる配置では見た目だけの判定も危険です。以下では、3本目の直線まで同じ点を通る理由を五心ごとに示します。
4 証明の方針
主証明では、重心は面積の分割、外心は等距離の軌跡、内心と傍心は二直線からの等距離、垂心は直径の円と円周角を使う。各場合で2本から候補を定め、3本目に乗ることを確認する。
- 重心では、中点を位置ベクトルで書き、3本の中線上に同じ点を直接作る。
- 外心では、「線分の両端から等距離な点」の軌跡を使い、2本から3本目を導く。
- 内心と傍心では、「2直線から等距離な点」の軌跡を使う。内外の二等分線の違いは、点がどの領域にあるかで判定する。
- 垂心では、まず2本の垂線を交わらせる。直角からできる二つの円に円周角を使い、交点が3本目の垂線にも乗ることを示す。
どの証明も「3本だから何となく対称に交わる」とはしません。2本で候補を決め、3本目を確認するか、
3本すべてに乗る点を式で作ります。
5 重心——3本の中線
定理 5.1 (中線の共点と重心の比).△ABCの3本の中線はただ1点Gで交わる。MAを辺BCの中点とするとAG:GMA=2:1であり、他の2本の中線についても同じ比になる。
6 初等幾何による主証明
証明. 中線AMとBNの交点をGとする。ただしM,NはそれぞれBC,CAの中点である。Gを内部にとる面積を[XYZ]と書く。Mが中点なので[ABM]=[ACM]であり、GがAM上にあることから[ABG]+[BGM]=[ACG]+[CGM].[BGM]=[CGM]だから[ABG]=[ACG]を得る。同様に、Nが中点であることから[ABG]=[BCG]も得る。したがって3つの小三角形の面積をすべてuと書ける。
[ABM]=21[ABC]=23uなので[BGM]=u/2。同じ直線AMを底辺とし、共通の高さをもつ三角形の面積比からGMAG=[BGM][ABG]=2.同じ議論を他の2本の中線にも巡回して適用するので、3本はGで共点し、比はすべて2:1である。▨
7 別証明:位置ベクトルによる重心
証明. 原点を任意にとり、A,B,Cの位置ベクトルをa,b,cとする。辺BCの中点はmA=(b+c)/2である。g:=3a+b+cとおくと
g−a=32(2b+c−a)=32(mA−a).したがってGは中線AMA上にあり、頂点から中点へ向かって2/3の位置にある。A,B,Cを巡回すれば、同じGが残り2本の中線にも乗る。
異なる2本の中線が同一直線なら3頂点が同一直線上になってしまうので、非退化な三角形では交点はただ1つである。比も上の係数からAG:GMA=2:1。▨
8 外心——3辺の垂直二等分線
補題 8.1 (垂直二等分線と等距離). 異なる2点P,Qから等距離にある点全体は、線分PQの垂直二等分線である。
証明.MをPQの中点とする。点Xが垂直二等分線上にあれば、直角三角形△XMP,△XMQは、XMが共通でMP=MQだから合同であり、XP=XQ。
逆にXP=XQなら、△XMP,△XMQは3辺相等で合同である。よって∠XMP=∠XMQ。この2角は一直線上に並ぶのでともに90°となり、Xは垂直二等分線上にある。X=Mの場合も自明である。▨
定理 8.2 (垂直二等分線の共点と外接円).△ABCの3辺の垂直二等分線はただ1点Oで交わる。さらにOA=OB=OCであり、Oを中心とするこの半径の円が三角形の外接円である。
証明の方針。 辺ABとACの垂直二等分線を先に交わらせます。その点はAを仲立ちにしてOB=OA=OCを満たすため、残るBCの垂直二等分線にも乗ります。
証明. 辺ABとACの垂直二等分線は平行ではない。もし平行なら、それぞれに垂直なABとACも平行になり、A,B,Cが同一直線上に並ぶからである。よって2直線はただ1点Oで交わる。
補題 8.1よりOA=OBかつOA=OC。したがってOB=OCでもあるから、同じ補題の逆向きによりOは辺BCの垂直二等分線上にもある。3点までの共通距離は正なので、Oを中心とする円は3頂点を通る。最初の2直線の交点が一意だから、外心も外接円も一意である。▨
9 内心——3本の内角の二等分線
補題 9.1 (二直線から等距離な点). 交わる2直線ℓ,mに対し、その交点でない点Pからℓ,mまでの距離が等しいことと、Pがℓ,mの作る内角または外角の二等分線上にあることは同値である。どちらの二等分線かは、Pが四つの角領域のどこにあるかで決まる。
証明.Pからℓ,mへ下ろした垂線の足をL,M、2直線の交点をVとする。Pがある角の二等分線上なら、直角三角形△PVL,△PVMは斜辺PVが共通で、Vの角も等しいため合同である。よってPL=PM。
逆にPL=PMなら、二つの直角三角形は斜辺と一辺がそれぞれ等しいので合同であり、Pを含む角領域の二つの角が等しい。したがってVPはその領域の二等分線である。▨
定理 9.2 (内角の二等分線の共点と内接円).△ABCの3本の内角の二等分線は、三角形の内部のただ1点Iで交わる。Iから3辺までの距離はすべてr=a+b+c2Sに等しい。ここでSは三角形の面積であり、Iを中心とする半径rの円が内接円である。
10 初等幾何による主証明
証明.∠Aと∠Bの内角の二等分線の交点をIとする。2直線から等距離な点の軌跡の補題より、IからABとACまでの距離は等しく、またABとBCまでの距離も等しい。したがって3辺を含む直線までの距離は共通の値r>0であり、同じ補題の逆からCIも∠Cの二等分線上にある。
2本の異なる内角の二等分線の交点は一意なので、3本はただ1点で共点となる。
3つの三角形IAB,IBC,ICAの面積を底辺と高さで足すとS=21r(c+a+b)である。よってr=2S/(a+b+c)。この距離を半径とする円は3辺に接するので内接円である。▨
11 別証明:重み付き位置ベクトルによる内心
証明の方針。 3本の二等分線を直接追う代わりに、3辺から同じ距離にある内部の点を一つ作ります。各頂点に向かい側の辺の長さを重みとして付けると、各辺までの距離が同じになります。
証明. 位置ベクトルを用いてi:=a+b+caa+bb+ccとおく。係数はすべて正で和が1だから、Iは三角形の内部にある。
辺BCから頂点Aまでの高さは2S/aである。直線までの符号つき距離は位置ベクトルの一次式なので、B,Cの距離が0であることと合わせると、IからBCまでの距離はa+b+ca⋅a2S=a+b+c2S.同様に、CAとABまでの距離もそれぞれa+b+cbb2S、a+b+ccc2Sで、同じ値になる。
補題 9.1よりIは各頂点の二等分線上にある。Iは三角形の内部なので、いずれも内角の二等分線である。異なる2本の内角の二等分線は平行でないため共通点は一意である。また各辺の両端で内角の内部にあるため、Iから辺を含む直線へ下ろした垂線の足は2頂点の間にある。したがって3辺までの共通距離を半径とする円は
3辺すべてに接する。S>0だからr>0である。▨
12 垂心——3本の垂線
定理 12.1 (垂線の共点).△ABCの3本の垂線はただ1点Hで交わる。
証明の方針。AとBからの垂線を交わらせてHを作ります。二つの直角を直径の円へ読み替える操作を2回行い、円周角を移すとCH⊥ABが出ます。鈍角三角形では足が辺の延長上に出るので、直線の向きを180°を法として測る有向角を使います。
証明. まず三角形が直角三角形なら、直角をはさむ2辺そのものが他の2頂点からの垂線であり、直角の頂点で交わる。残る頂点から斜辺への垂線もその頂点を通るので、垂心は直角の頂点である。
以下、直角三角形でないとする。Aから直線BCへ下ろした垂線の足をD、Bから直線CAへ下ろした垂線の足をEとする。直線ADとBEは平行でないので、ただ1点Hで交わる。
∠ADB=∠AEB=90°だから、A,B,D,Eは直径ABの同一円周上にある。また∠CDH=∠CEH=90°だから、C,D,E,Hは直径CHの同一円周上にある。これは直径を直角に見込む点の判定であり、円周角の定理の逆
(§A5.5 定理 4.1と§A5.5 注意 4.2) の同じ側・反対側の両場合を含む。
ここからは直線どうしの有向角を180°を法として測る。後者の円で同じ弦HEを見込む円周角、前者の円で同じ弦EBを見込む円周角を順に使うと
∡(CH,CA)=∡(DH,DE)=90°−∡(DE,DB)=90°−∡(AC,AB).したがって
∡(CH,AB)=∡(CH,CA)+∡(CA,AB)=90°.よってCH⊥ABであり、HはCからの垂線上にもある。最初の2本の交点が一意なので、3本の共通点もただ1つである。有向角を使ったため、D,Eが辺の延長上に出る鈍角の場合も同じ計算に含まれる。▨
13 傍心——内角1本と外角2本の二等分線
定理 13.1 (傍心の存在と三つの傍接円).△ABCには3個の傍心IA,IB,ICがあり、いずれも三角形の外部にある。IAはAの内角の二等分線とB,Cの外角の二等分線の共通点であり、辺を含む3直線までの距離はrA=−a+b+c2Sに等しい。他の2個も文字を巡回して得られる。
14 初等幾何による主証明
証明.∠Aの内角二等分線と∠Bの外角二等分線の交点をIAとする。二直線からの距離の補題により、IAからABとACまでの距離の絶対値は等しく、ABとBCまでの距離の絶対値も等しい。したがってIAは∠Cの外角二等分線上にもあり、3本は共点となる。IAはBCの反対側の領域にあるので三角形の外部にある。
3辺を含む直線までの距離の共通絶対値をrAとする。符号付き面積を用いてS=21(−a+b+c)rAとなるので、三角不等式−a+b+c>0と合わせてrA=−a+b+c2S.この半径の円はBCとAB,ACの延長に接する。他の傍心も頂点を巡回して得られる。▨
15 別証明:符号付き位置ベクトルによる傍心
証明の方針。 内心の式で一つの重みだけ符号を反転します。すると、向かい側の辺を越えて外へ出る一方、3本の辺を含む直線までの距離の絶対値は等しいままです。距離の符号が、内角か外角かを判定します。
証明. 三角不等式よりqA:=−a+b+c>0である。位置ベクトルを用いてiA:=qA−aa+bb+ccとおく。辺BCまでの符号つき距離をA側で正、CAまでをB側で正、ABまでをC側で正にとる。内心の証明と同じ一次性により、IAの3直線までの符号つき距離は順に
−qAaa2S=−qA2S,qAbb2S=qA2S,qAcc2S=qA2S.絶対値はすべてrA=2S/qAである。
符号から、IAはBCを越えた三角形の外部にあり、直線AB,ACについては三角形の内部と同じ側にある。したがってIAはAの内角領域、B,Cの外角領域にある。補題 9.1により、それぞれ対応する二等分線上にある。
中心IA、半径rAの円は3本の辺を含む直線に接する。接点がどの部分にあるかも、符号から確認できる。実際、BCをx軸、B=(0,0)、C=(a,0)、A=(u,v)(v>0)とすると
0<qAc−u<1である。IAのBCへの垂足は(a(c−u)/qA,0)だから線分BC上にある。一方、ABへの垂足をBからAへ向かうパラメータで表すとa(u−c)/(qAc)<0となり、Bの外側にある。ACについても同様にCの外側にある。したがって辺BCとAB,ACの延長に接する。二等分線2本の交点は一意だからIAも一意である。A,B,Cを巡回してIB,ICが得られる。▨
16 中心はどこに来るか
系 16.1 (鋭角・直角・鈍角三角形での配置). 非退化な三角形について、中心の位置は次のようになる。
- GとIは、三角形の形によらず常に内部にある。
- 鋭角三角形ではO,Hも内部にある。
- 直角三角形ではOは斜辺の中点、Hは直角の頂点にある。
- 鈍角三角形ではO,Hはともに外部にある。
- 3個の傍心は常に外部にある。
証明.Gは3頂点の係数が1/3の凸結合、Iは正の係数a/(a+b+c),b/(a+b+c),c/(a+b+c)の凸結合なので内部にある。傍心が外部にあることは定理 13.1の距離の符号から従う。
BCの中点を原点とし、B=(−u,0)、C=(u,0)、A=(p,q)(u,q>0)とおく。BCの垂直二等分線上の外心を(0,t)とすると、OA=OBからt=2qp2+q2−u2.一方、AB⋅AC=p2+q2−u2だから、tの符号は∠Aが鋭角・直角・鈍角であるのに応じて正・0・負になる。各辺について同じ議論をすると、外心は3角が鋭角なら各辺の内側、直角なら斜辺上、鈍角なら鈍角の向かいの辺の外側にある。直角の場合、斜辺の垂直二等分線との交点はその中点である。
垂心については、鋭角なら各垂線の足が辺の内部にあり、2本の垂線の線分が三角形の内部で交わる。直角の場合は定理 12.1の証明の通り直角の頂点である。鈍角がAなら、B,Cからの垂線の足はそれぞれCA,ABのA側の延長上にあり、2本は三角形の外側で交わる。他の頂点が鈍角の場合も同様である。▨
二等辺三角形では、対称軸による折り返しで中心の定義が保たれます。一意性からG,I,O,Hはすべて対称軸上にあり、頂角に対応する傍心も対称軸上、残る2個の傍心は互いに鏡映の位置にあります。
正三角形では3本の対称軸が中線・内角の二等分線・垂直二等分線・垂線をすべて兼ねるため、G=I=O=Hとなります。ただし、3個の傍心は外部の異なる点のままです。
17 オイラー線と九点円へ
系 17.1 (オイラー線上の重心). 正三角形でない三角形では、外心O、重心G、垂心Hはこの順に一直線上にあり、OG:GH=1:2である。この直線をオイラー線という。
18 別証明:内積によるオイラー線
証明.Oを原点とし、3頂点の位置ベクトルをa,b,cとする。外心の定義から∣a∣=∣b∣=∣c∣。h′:=a+b+cとおくと
(h′−a)⋅(b−c)=(b+c)⋅(b−c)=∣b∣2−∣c∣2=0.よってAH′⊥BC。文字を巡回すればH′は3本の垂線上にあるので、定理 12.1の一意性からH′=Hである。一方定理 5.1よりg=3a+b+c=3h.したがってGはOHを1:2に内分する。正三角形ではO=G=Hとなり、2点で直線を定められず比も0:0になるため除いた。▨
オイラー線の次に現れるのが九点円です。§C2.3 定理 1 (九点円)は、3辺の中点、3本の垂線の足、Hと3頂点の中点という9点が、OHの中点を中心とする半径R/2の円に乗ることを述べます。この9点が同一円周上にあることは、この記事では証明せず、参照先の記事の証明に委ねます。直角三角形でも外接円の半径Rは正なので九点円は退化しませんが、垂心が頂点に来るため9点のうちいくつかは重なります。正三角形ではO=Hでも、九点円は半径R/2の円として残ります。
19 退化する配置に注意
3頂点が同一直線上に並ぶと、この記事の仮定から外れます。このとき3点を通る有限半径の外接円はなく、頂点から対辺の直線へ引く3本の垂線は互いに平行になって、有限の垂心を持ちません。面積Sが0なので、内接円・傍接円の半径の式も0または定義不能となり、通常の円ではなくなります。2頂点が一致すれば辺や角そのものが定義できません。
したがって「ほとんど一直線」の三角形を極限として眺めることと、一直線に並んだ配置を三角形として定理へ代入することは別です。上の動く図は、ドラッグ範囲を分けてこの退化を起こさないようにしています。