§A5.10尺規作図とその根拠

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尺規作図とその根拠では、目盛りのない定規とコンパスによる有限回の操作として作図を定め、各手順が目的の図形を与えることを証明します。垂直二等分線、正三角形、角の二等分線、指定した点を通る垂線と平行線が基本例です。

1 この記事で証明すること

この記事では、尺規作図の道具立てを決めたうえで、各手順が目的の図形を本当に作れることを証明します。

そのうえで、角の三等分・立方体倍積が同じ道具で作図できるかという問いを立てます(可能・不可能の決着は環体ガロアに委ねます)。

2 使ってよい操作と作図の終点

定義 2.1 (尺規作図). 最初に有限個の点が与えられているとする。次の操作だけを有限回行う手続きを尺規作図という。

  1. すでに得た相異なる2点を通る直線を引く。
  2. すでに得た点を中心とし、相異なる2つの既得点が定める距離を半径とする円を描く。
  3. すでに引いた2つの直線・円の、有限個の実交点を新しい点として加える。

入力条件を満たすすべての配置で各操作が実行でき、有限回後に目的の点、または目的の直線・円を定める点が得られたとき、そこで作図は終了し、目的の図形は作図可能であるという。目的を満たす点が2つある場合に「どちらを選んでもよい」と指定することも、作図の終点に含める。

定義 2.2 (有効な作図手順と縮退). 作図の途中で必要な直線・円・交点が定まる手順を有効という。次の配置は区別して扱う。

  1. 直線を定める2点が一致すれば、その直線は定まらない。
  2. 円の半径を定める2点が一致すれば半径が00となるので、ここでは円を描く操作として認めない。
  3. 2図形が交わらなければ新しい点は得られない。接するときは交点が1つ、通常は2つである。
  4. 2直線または2円が一致して交点が無数にある場合、操作3だけでは新しい点を選べない。

したがって、ある手順が一部の入力で円の不交・接触・一致を起こすなら、その入力を仮定から除くか、別の手順へ分岐させなければならない。

この定義では、定規で長さを測ったり、コンパスで角度を読み取ったりはしません。コンパスは既知の線分の長さを開きとして移すだけです。円は「中心からの距離がその開きに等しい点の集まり」、直線は「2点を通る」という性質だけを記録します。

定理 2.3 (基本作図の主定理). 相異なる2点A,B\mathrm{A},\mathrm{B}、既知の直線ℓ\ell、ℓ\ell上またはℓ\ell外の指定点P\mathrm{P}、および2本の半直線がつくる0°<θ<180°0°<\theta<180°の角が与えられているとする。この入力が各作図手順の退化条件を避けるなら、垂直二等分線、正三角形、指定角の二等分線、P\mathrm{P}を通るℓ\ellへの垂線と平行線を尺規だけで作図できる。

3 2つの円が作る正三角形と垂直二等分線

まず、1組の円から2つの代表的な作図を読み取ります。点A\mathrm{A}を固定し、点B\mathrm{B}をドラッグしてください。図は次の手順を重ねて表示しています。

  1. 線分AB\mathrm{AB}を引きます。
  2. A\mathrm{A}を中心にB\mathrm{B}を通る円と、B\mathrm{B}を中心にA\mathrm{A}を通る円を描きます。
  3. 2交点をC\mathrm{C},D\mathrm{D}とし、直線CD\mathrm{CD}を引きます。

図による観察はここまでです。円が等距離を表していることから、正三角形と垂直二等分線が本当に得られることを、作図手順とは分けて証明します。

定理 3.1 (等距離な点の軌跡). 相異なる2点A\mathrm{A},B\mathrm{B}と点X\mathrm{X}について、XA=XB\mathrm{XA}=\mathrm{XB}であることと、X\mathrm{X}が線分AB\mathrm{AB}の垂直二等分線上にあることは同値である。

証明.X\mathrm{X}が垂直二等分線上にあるとする。M\mathrm{M}をAB\mathrm{AB}の中点とする。X=M\mathrm{X}=\mathrm{M}ならXA=MA=MB=XB\mathrm{XA}=\mathrm{MA}=\mathrm{MB}=\mathrm{XB}。X≠M\mathrm{X}\ne\mathrm{M}ならMA=MB\mathrm{MA}=\mathrm{MB}かつXM⊥AB\mathrm{XM}\perp\mathrm{AB}であり、直角三角形△XMA\triangle\mathrm{XMA}と△XMB\triangle\mathrm{XMB}は、XM\mathrm{XM}が共通でMA=MB\mathrm{MA}=\mathrm{MB}だから合同であり、XA=XB\mathrm{XA}=\mathrm{XB}となる。

逆にXA=XB\mathrm{XA}=\mathrm{XB}とする。X=M\mathrm{X}=\mathrm{M}なら結論は明らかである。X≠M\mathrm{X}\ne\mathrm{M}なら、△XMA\triangle\mathrm{XMA}と△XMB\triangle\mathrm{XMB}はXA=XB\mathrm{XA}=\mathrm{XB}、MA=MB\mathrm{MA}=\mathrm{MB}、XM\mathrm{XM}共通により SSS で合同。したがって∠XMA=∠XMB\angle\mathrm{XMA}=\angle\mathrm{XMB}。この2角の和は180°180°なので、各角は90°90°であり、XM⊥AB\mathrm{XM}\perp\mathrm{AB}。よってX\mathrm{X}は垂直二等分線上にある。▨

定理 3.2 (垂直二等分線の作図). 相異なる2点A\mathrm{A},B\mathrm{B}が与えられたとき、A\mathrm{A}を中心にB\mathrm{B}を通る円と、B\mathrm{B}を中心にA\mathrm{A}を通る円を描く。2交点をC\mathrm{C},D\mathrm{D}とすれば、直線CD\mathrm{CD}は線分AB\mathrm{AB}の垂直二等分線である。

証明.d=AB>0d=\mathrm{AB}>0とする。2円はともに半径ddで、中心間距離もddである。0<d<2d0<d<2dだから2円は異なる2点C\mathrm{C},D\mathrm{D}で交わり、直線CD\mathrm{CD}が定まる。

C\mathrm{C}は両円上にあるのでCA=CB=d\mathrm{CA}=\mathrm{CB}=d。同様にDA=DB=d\mathrm{DA}=\mathrm{DB}=d。定理 3.1よりC\mathrm{C},D\mathrm{D}はともにAB\mathrm{AB}の垂直二等分線上にある。相異なる2点を通る直線はただ1つだから、直線CD\mathrm{CD}がその垂直二等分線である。▨

定理 3.3 (正三角形の作図). 相異なる2点A\mathrm{A},B\mathrm{B}に対し、定理 3.2と同じ2円の交点の一方をC\mathrm{C}とすれば、△ABC\triangle\mathrm{ABC}は正三角形である。もう一方D\mathrm{D}を選んでもよい。

証明.C\mathrm{C}はA\mathrm{A}中心・半径AB\mathrm{AB}の円上にあるのでAC=AB\mathrm{AC}=\mathrm{AB}。またB\mathrm{B}中心・半径BA\mathrm{BA}の円上にあるのでBC=BA\mathrm{BC}=\mathrm{BA}。よってAB=BC=CA\mathrm{AB}=\mathrm{BC}=\mathrm{CA}であり、定義から△ABC\triangle\mathrm{ABC}は正三角形である。D\mathrm{D}についても同じである。▨

A=B\mathrm{A}=\mathrm{B}では2円が半径00になり、以上の手順は始められません。この縮退を除く条件が「相異なる2点」です。

4 角の二等分線

定理 4.1 (角の二等分線の作図).O\mathrm{O},A\mathrm{A},B\mathrm{B}を同一直線上にない3点とする。次の手順で∠AOB\angle\mathrm{AOB}の内角の二等分線を作図できる。

  1. O\mathrm{O}中心でA\mathrm{A}を通る円を描き、直線OB\mathrm{OB}との交点のうち、B\mathrm{B}と同じ半直線上の点をC\mathrm{C}とする。
  2. A\mathrm{A}中心でO\mathrm{O}を通る円と、C\mathrm{C}中心でO\mathrm{O}を通る円を描く。
  3. 2円のO\mathrm{O}でない交点をD\mathrm{D}とし、直線OD\mathrm{OD}を引く。

このとき∠AOD=∠DOC\angle\mathrm{AOD}=\angle\mathrm{DOC}であり、半直線OC\mathrm{OC}は半直線OB\mathrm{OB}と同じだから、OD\mathrm{OD}は∠AOB\angle\mathrm{AOB}の内角の二等分線である。

証明. 最初の円からOA=OC=:r>0\mathrm{OA}=\mathrm{OC}=:r>0。3点は同一直線上にないので0<∠AOC<180°0<\angle\mathrm{AOC}<180°であり、A≠C\mathrm{A}\ne\mathrm{C}かつAC<AO+OC=2r\mathrm{AC}<\mathrm{AO}+\mathrm{OC}=2r。したがって、A\mathrm{A},C\mathrm{C}を中心とする半径rrの2円は2点で交わる。一方の交点はO\mathrm{O}であり、もう一方がD\mathrm{D}である。O\mathrm{O}と反対側の交点D\mathrm{D}をとると、四角形OADC\mathrm{OADC}は凸で、半直線OD\mathrm{OD}は∠AOC\angle\mathrm{AOC}の内部にある。

円の定義からAD=AO=r\mathrm{AD}=\mathrm{AO}=r、CD=CO=r\mathrm{CD}=\mathrm{CO}=r。したがって△AOD\triangle\mathrm{AOD}と△COD\triangle\mathrm{COD}は、AO=CO\mathrm{AO}=\mathrm{CO}、AD=CD\mathrm{AD}=\mathrm{CD}、OD\mathrm{OD}共通により SSS で合同である。対応する角が等しいので

∠AOD=∠DOC.\angle\mathrm{AOD}=\angle\mathrm{DOC}.

半直線OC\mathrm{OC}とOB\mathrm{OB}は同じだから、これはOD\mathrm{OD}が∠AOB\angle\mathrm{AOB}の内角を二等分することを意味する。▨

角が0°0°ならA\mathrm{A}とC\mathrm{C}が一致して2円も一致し、交点を1つに選べません。角が180°180°なら2円はO\mathrm{O}で接し、D\mathrm{D}が得られません。定理の「同一直線上にない」という仮定は、この2種類の縮退を同時に除いています。

5 一点を通る垂線と平行線

定理 5.1 (一点を通る垂線の作図). 相異なる2点U\mathrm{U},V\mathrm{V}が定める直線をℓ\ellとし、点P\mathrm{P}が与えられているとする。P\mathrm{P}がℓ\ell上にある場合もない場合も、P\mathrm{P}を通りℓ\ellに垂直な直線を作図できる。

証明. まずP∉ℓ\mathrm{P}\notin\ellとする。U\mathrm{U}中心でP\mathrm{P}を通る円と、V\mathrm{V}中心でP\mathrm{P}を通る円を描く。P∉ℓ\mathrm{P}\notin\ellなので△UVP\triangle\mathrm{UVP}は退化せず、三角不等式は

∣UP−VP∣<UV<UP+VP|\mathrm{UP}-\mathrm{VP}|<\mathrm{UV}<\mathrm{UP}+\mathrm{VP}

を満たす。したがって2円は異なる2点で交わる。一方はP\mathrm{P}だから、もう一方をQ\mathrm{Q}とする。

定理 3.1よりU\mathrm{U},V\mathrm{V}はともに線分PQ\mathrm{PQ}の垂直二等分線上にある。よって直線UV=ℓ\mathrm{UV}=\ellがその垂直二等分線であり、直線PQ\mathrm{PQ}はP\mathrm{P}を通ってℓ\ellに垂直である。

次にP∈ℓ\mathrm{P}\in\ellとする。U\mathrm{U},V\mathrm{V}のうちP\mathrm{P}と異なる点をX\mathrm{X}とし、P\mathrm{P}中心でX\mathrm{X}を通る円を描く。この円とℓ\ellのもう一つの交点をY\mathrm{Y}とすると、PX=PY>0\mathrm{PX}=\mathrm{PY}>0でX≠Y\mathrm{X}\ne\mathrm{Y}。定理 3.2によりXY\mathrm{XY}の垂直二等分線を作図できる。定理 3.1よりP\mathrm{P}はその上にあり、XY\mathrm{XY}はℓ\ell上にあるから、この直線が求める垂線である。▨

定理 5.2 (一点を通る平行線の作図). 直線ℓ\ell上にない点P\mathrm{P}が与えられたとき、P\mathrm{P}を通りℓ\ellに平行な直線を作図できる。

証明.定理 5.1により、P\mathrm{P}を通りℓ\ellに垂直な直線mmを作図する。もう一度同じ作図を使い、P\mathrm{P}を通りmmに垂直な直線nnを作図する。ℓ\ellとnnはともにmmに垂直だから平行であり、nnはP\mathrm{P}を通る。P∉ℓ\mathrm{P}\notin\ellなのでnnとℓ\ellは一致せず、求める平行線である。▨

ここでP\mathrm{P}がℓ\ell上なら、P\mathrm{P}を通る「平行線」はℓ\ell自身です。異なる平行線を求めるために、定理ではP∉ℓ\mathrm{P}\notin\ellを仮定しました。

6 作図手順を証明する型

ここまでの証明には共通の順序があります。

  1. 入力条件を読みます。 点が相異なるか、角が0°0°や180°180°でないかを確認します。
  2. 各円・直線が定まることを確認します。 とくに必要な交点が0個・1個・無数個にならないかを調べます。
  3. 円を等距離へ翻訳します。 「点が円上にある」ことから半径の等式を取り出します。
  4. 合同または等距離の軌跡を使います。 目的の等角・垂直・平行を導きます。
  5. 終点を示します。 最後に引いた線が、目的の線そのものであることを確認します。

作図図面は手順の記録であり、証明はその手順の正しさの保証です。両方がそろって初めて、「作図できた」と言えます。

8 ここでは厳密にやらないこと――環・体・ガロアへの接続

この章で示したのは、指定した手順ができることです。では、任意に与えられた角を同じ有限手順で三等分できるでしょうか。また、与えられた立方体の2倍の体積をもつ立方体の辺を、同じ道具だけで作れるでしょうか。

ここでは、この2問を尺規作図の適用範囲を調べる問題として立てるところまでにします。図を何通り試しても、あらゆる有効な手順を調べ尽くしたことにはならないため、可能・不可能の厳密な判定には別の言葉が必要です。環・体・ガロア理論では、交点の座標が満たす方程式を追って§E8.25 定義 1を定義し、§E8.25 系 2.2を使って、この2問を含む作図可能性の限界を扱います。

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