§E21.11極限・余極限の計算

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「極限と余極限」は錐によって極限を定義し、「極限・余極限の特殊な場合」は添字圏を取り替えることで始対象と終対象、直積と余積、equalizer と coequalizer、pullback と pushout を導いた。どちらの記事も、各概念に代表例を一つずつ添えるにとどめている。したがって、同じ圏の中で極限と余極限がどのように食い違うか、圏を取り替えると結果がどのように変わるかは、まだ書かれていない。

本記事は、集合の圏Set\mathbf{Set}、群の圏Grp\mathbf{Grp}、体kk上の線形空間の圏Vectk\mathbf{Vect}_k、位相空間の圏Top\mathbf{Top}、および前順序集合を圏とみなしたものを横断して、極限と余極限を計算する。先行する記事が証明した計算は引用し、まだ証明されていない計算を本記事が担当する。担当する計算は、二項関係が生成する同値関係の構成、余積と coequalizer から pushout を作る一般の手順、Set\mathbf{Set}の coequalizer と pushout と一般の余極限、Grp\mathbf{Grp}の添字づけられた直積と equalizer と零対象、Vectk\mathbf{Vect}_kの直積と余積、Top\mathbf{Top}の余積と equalizer と coequalizer と pushout と終対象と始対象、および前順序集合の終対象と始対象と完備性の判定である。

計算の結果として、次の三つが具体的な形で現れる。第一に、Set\mathbf{Set}では極限も余極限も要素の水準で書き下すことができる。第二に、Grp\mathbf{Grp}では極限を台集合の上で計算することができるが、余極限はできない。第三に、Vectk\mathbf{Vect}_kでは直積と余積が有限個の添字では一致し、可算無限個の添字とVi=kV_i = kの場合には一致しない。

1 計算の進め方

以下ではすべて、図式の添字圏J\mathcal Jは小さい圏、すなわち対象の全体と射の全体がともに集合であるものとする。添字集合IIによる族の直積と余積を扱うときは、IIを離散圏とみなす(§E21.5 定義 2.2)。余積、余極限、pushout、coequalizer の入射は、§E21.4 定義 2.1の記法に従ってι\iotaで表す。

対象LLと射の族(πj)(\pi_j)がある図式DDの極限であることを示す作業は、次の三段からなる。第一段では(L,(πj))(L, (\pi_j))が錐であること、すなわちJ\mathcal Jの任意の射u:i→ju : i \to jについてD(u)∘πi=πjD(u) \circ \pi_i = \pi_jが成り立つことを確かめる。第二段では、任意の錐(X,(ψj))(X, (\psi_j))に対してπj∘t=ψj\pi_j \circ t = \psi_jをすべてのjjについて満たす射t:X→Lt : X \to Lを構成する。第三段では、そのttがただ一つであることを示す。余極限については、射の向きをすべて逆にした三段を行う。定義は§E21.4 定義 1.1と§E21.4 定義 2.1にある。直積、余積、equalizer、coequalizer、 pullback、pushout については、この三段を書き下した形が§E21.5 命題 2.3、§E21.5 命題 3.3、§E21.5 命題 4.3として与えられているので、以下ではそれらを検証すべき条件として用いる。

§E21.4 定理 3.1と§E21.4 系 3.2により、極限と余極限は錐または余錐の同型を除いて一意である。したがって、以下の各命題で一つの構成を与えれば、その圏における極限が何であるかは定まる。

本記事は具体圏における計算そのものを担当する。同じ現象を随伴によって説明することは「随伴の例」が担当する。忘却関手が極限を保ち余積を保たないことは、「右随伴と極限」が§E21.9 例 4.1として証明済みであり、本記事はそれを再証明しない。

2 集合の圏

Set\mathbf{Set}については、終対象と始対象が§E21.5 例 1.5、直積が§E21.5 例 2.10、余積が§E21.5 命題 2.12、equalizer が§E21.5 例 3.5、pullback が§E21.5 例 4.5、そして一般の図式の極限が§E21.5 例 5.3としてすでに証明されている。本記事は、そこで扱われていない coequalizer、pushout、および一般の図式の余極限を構成する。以下で用いる同値関係、商集合、および写像が商集合へ降下する条件は「数学の基礎」がすでに証明したものである。

coequalizer では、二つの写像の値が一致することを強制する最小の同値関係を作る。指定した組を含む同値関係のうち最小のものを取り出す方法として、同値関係の共通部分を用いる。

補題 2.1.BBを集合、R⊆B×BR \subseteq B \times Bを二項関係とする。RRを含むBB上の同値関係の全体の共通部分を∼R\sim_Rと書くと、∼R\sim_RはRRを含むBB上の同値関係であり、RRを含む任意の同値関係SSに対して∼R ⊆S\sim_R\, \subseteq Sが成り立つ。

証明.B×BB \times BはRRを含む同値関係であるから、共通部分を取る族は空ではない。{Sλ}λ∈Λ\{S_\lambda\}_{\lambda \in \Lambda}をRRを含むBB上の同値関係の全体とし、∼R =⋂λ∈ΛSλ\sim_R\, = \bigcap_{\lambda \in \Lambda} S_\lambdaとおく。

反射律について、任意のb∈Bb \in Bと任意のλ∈Λ\lambda \in \Lambdaについて(b,b)∈Sλ(b, b) \in S_\lambdaであるから(b,b)∈ ∼R(b, b) \in\, \sim_Rである。対称律について、(b,b′)∈ ∼R(b, b') \in\, \sim_Rならば各λ\lambdaについて(b,b′)∈Sλ(b, b') \in S_\lambdaであり、SλS_\lambdaの対称律から(b′,b)∈Sλ(b', b) \in S_\lambdaであるから(b′,b)∈ ∼R(b', b) \in\, \sim_Rである。推移律も同じ議論による。よって∼R\sim_Rは§E1.3 定義 1.3の三条件を満たす。RRを含むことは、各SλS_\lambdaがRRを含むことによる。最後の主張は、SSが{Sλ}λ∈Λ\{S_\lambda\}_{\lambda \in \Lambda}の一つであることによる。▨

この補題を、平行な二射f,gf, gの値の組の全体へ適用する。得られる商集合が coequalizer になる。

命題 2.2.f,g:A→Bf, g : A \to Bを写像とし、

R={ (f(a),g(a))∣a∈A }⊆B×BR = \{\, (f(a), g(a)) \mid a \in A \,\} \subseteq B \times B

が補題 2.1によって生成する同値関係を∼R\sim_Rとする。商集合B/∼RB/{\sim_R}と標準的な全射π:B→B/∼R\pi : B \to B/{\sim_R}(§E1.3 定義 2.1)の組は、ffとggの coequalizer である。

証明. 任意のa∈Aa \in Aについて(f(a),g(a))∈R⊆ ∼R(f(a), g(a)) \in R \subseteq\, \sim_Rであるからπ(f(a))=π(g(a))\pi(f(a)) = \pi(g(a))であり、π∘f=π∘g\pi \circ f = \pi \circ gが成り立つ。

u:B→Xu : B \to Xをu∘f=u∘gu \circ f = u \circ gを満たす写像とする。

S={ (b,b′)∈B×B∣u(b)=u(b′) }S = \{\, (b, b') \in B \times B \mid u(b) = u(b') \,\}

とおくと、SSはBB上の同値関係である。また、任意のa∈Aa \in Aについてu(f(a))=u(g(a))u(f(a)) = u(g(a))であるからR⊆SR \subseteq Sである。補題 2.1の最後の主張により∼R ⊆S\sim_R\, \subseteq Sであり、b∼Rb′b \sim_R b'ならばu(b)=u(b′)u(b) = u(b')が成り立つ。§E1.3 定理 4.1により、uˉ∘π=u\bar u \circ \pi = uを満たす写像uˉ:B/∼R→X\bar u : B/{\sim_R} \to Xがただ一つ存在する。よって§E21.5 命題 3.3の coequalizer の条件が満たされる。▨

pushout は、余積と coequalizer を続けて取ることで得られる。この手順は圏を指定せずに書くことができるので、先に一般の形で確かめてからSet\mathbf{Set}とTop\mathbf{Top}へ適用する。

命題 2.3.C\mathcal Cを圏、f:C→Af : C \to A、g:C→Bg : C \to Bを射とする。AAとBBの余積(A⊔B,ιA,ιB)(A \sqcup B, \iota_A, \iota_B)が存在し、ιA∘f\iota_A \circ fとιB∘g\iota_B \circ gの coequalizerc:A⊔B→Qc : A \sqcup B \to Qが存在するとする。このとき(Q, c∘ιA, c∘ιB)\bigl(Q,\ c \circ \iota_A,\ c \circ \iota_B\bigr)はA←fC→gBA \xleftarrow{f} C \xrightarrow{g} Bの pushout である。

証明.c∘ιA∘f=c∘ιB∘gc \circ \iota_A \circ f = c \circ \iota_B \circ gであるから、§E21.5 命題 4.3の pushout に関する§E21.5 命題 4.3 (1)が成り立つ。

w1:A→Yw_1 : A \to Yとw2:B→Yw_2 : B \to Yがw1∘f=w2∘gw_1 \circ f = w_2 \circ gを満たすとする。§E21.5 命題 2.3の余積の条件により、w∘ιA=w1w \circ \iota_A = w_1かつw∘ιB=w2w \circ \iota_B = w_2を満たす射w:A⊔B→Yw : A \sqcup B \to Yがただ一つ存在する。このとき

w∘(ιA∘f)=w1∘f=w2∘g=w∘(ιB∘g)w \circ (\iota_A \circ f) = w_1 \circ f = w_2 \circ g = w \circ (\iota_B \circ g)

であるから、§E21.5 命題 3.3の coequalizer の条件により、t∘c=wt \circ c = wを満たす射t:Q→Yt : Q \to Yがただ一つ存在する。このttはt∘(c∘ιA)=w1t \circ (c \circ \iota_A) = w_1とt∘(c∘ιB)=w2t \circ (c \circ \iota_B) = w_2を満たす。

一意性を示す。t′t'が同じ二つの等式を満たすとすると、t′∘ct' \circ cは(t′∘c)∘ιA=w1(t' \circ c) \circ \iota_A = w_1と(t′∘c)∘ιB=w2(t' \circ c) \circ \iota_B = w_2を満たすので、wwの一意性からt′∘c=wt' \circ c = wである。coequalizer が与える射の一意性からt′=tt' = tである。▨

この手順をSet\mathbf{Set}へ適用する。関係RRをそのまま用いることはできない。RRはffとggの値の組だけからなり、反射律も対称律も満たさないので、一般には同値関係ではないためである。補題 2.1によってRRを含む最小の同値関係を取る。

命題 2.4.f:C→Af : C \to A、g:C→Bg : C \to Bを写像とする。§E21.5 定義 2.11のA⊔BA \sqcup Bと入射ιA(a)=(a,0)\iota_A(a) = (a, 0)、ιB(b)=(b,1)\iota_B(b) = (b, 1)を取り、

R={ ((f(c),0), (g(c),1)) ∣ c∈C }R = \bigl\{\, \bigl((f(c), 0),\ (g(c), 1)\bigr) \ \bigm| \ c \in C \,\bigr\}

が生成する同値関係を∼R\sim_Rとする。Q=(A⊔B)/∼RQ = (A \sqcup B)/{\sim_R}と、ιˉA(a)=[(a,0)]\bar\iota_A(a) = [(a, 0)]、ιˉB(b)=[(b,1)]\bar\iota_B(b) = [(b, 1)]の組は、A←fC→gBA \xleftarrow{f} C \xrightarrow{g} Bの pushout である。

証明.§E21.5 命題 2.12により(A⊔B,ιA,ιB)(A \sqcup B, \iota_A, \iota_B)はAAとBBの余積である。ιA∘f\iota_A \circ fとιB∘g\iota_B \circ gはCCからA⊔BA \sqcup Bへの写像であり、その値の組の全体が上のRRである。したがって命題 2.2により、標準的な全射π:A⊔B→Q\pi : A \sqcup B \to QはιA∘f\iota_A \circ fとιB∘g\iota_B \circ gの coequalizer である。命題 2.3を適用すると、(Q,π∘ιA,π∘ιB)(Q, \pi \circ \iota_A, \pi \circ \iota_B)が pushout であり、π∘ιA=ιˉA\pi \circ \iota_A = \bar\iota_A、π∘ιB=ιˉB\pi \circ \iota_B = \bar\iota_Bである。▨

一般の図式についても、同じ二つの道具で余極限を書き下すことができる。ここでも、図式の射から作った関係は一般には同値関係ではない。J\mathcal Jには射の合成があるので二つの関係をつなぐ推移律が要り、J\mathcal Jの射には向きがあるので対称律が要り、反射律にあたる組も含まれていない。したがって、ここでも補題 2.1を用いる。

定理 2.5.J\mathcal Jを小さい圏、D:J→SetD : \mathcal J \to \mathbf{Set}を図式とし、ιj:D(j)→∐j∈Ob⁡(J)D(j)\iota_j : D(j) \to \coprod_{j \in \operatorname{Ob}(\mathcal J)} D(j)を§E21.5 定義 2.11の入射とする。

R={ ((x,i), (D(u)(x),j)) ∣ u:i→j は J の射, x∈D(i) }R = \bigl\{\, \bigl((x, i),\ (D(u)(x), j)\bigr) \ \bigm| \ u : i \to j\ \text{は}\ \mathcal J\ \text{の射},\ x \in D(i) \,\bigr\}

が生成する同値関係を∼R\sim_Rとし、標準的な全射をπ:∐jD(j)→(∐jD(j))/∼R\pi : \coprod_j D(j) \to \bigl(\coprod_j D(j)\bigr)/{\sim_R}として

C=(∐j∈Ob⁡(J)D(j))/∼R,ιˉj=π∘ιjC = \Bigl(\coprod_{j \in \operatorname{Ob}(\mathcal J)} D(j)\Bigr)\Big/{\sim_R}, \qquad \bar\iota_j = \pi \circ \iota_j

とおく。(C,(ιˉj))(C, (\bar\iota_j))はDDの余極限である。

証明.J\mathcal Jの任意の射u:i→ju : i \to jと任意のx∈D(i)x \in D(i)について((x,i),(D(u)(x),j))∈R⊆ ∼R\bigl((x, i), (D(u)(x), j)\bigr) \in R \subseteq\, \sim_Rであるからιˉj(D(u)(x))=ιˉi(x)\bar\iota_j(D(u)(x)) = \bar\iota_i(x)であり、(C,(ιˉj))(C, (\bar\iota_j))は§E21.4 定義 2.1の意味で余錐である。

(X,(φj))(X, (\varphi_j))をDD上の余錐とする。§E21.5 命題 2.12により、w∘ιj=φjw \circ \iota_j = \varphi_jをすべてのjjについて満たす写像w:∐jD(j)→Xw : \coprod_j D(j) \to Xがただ一つ存在する。S={(z,z′)∣w(z)=w(z′)}S = \{(z, z') \mid w(z) = w(z')\}とおくと、SSは同値関係であり、余錐の条件φj∘D(u)=φi\varphi_j \circ D(u) = \varphi_iから

w(x,i)=φi(x)=φj(D(u)(x))=w(D(u)(x),j)w(x, i) = \varphi_i(x) = \varphi_j\bigl(D(u)(x)\bigr) = w\bigl(D(u)(x), j\bigr)

が成り立つのでR⊆SR \subseteq Sである。補題 2.1により∼R ⊆S\sim_R\, \subseteq Sであり、§E1.3 定理 4.1によりt∘π=wt \circ \pi = wを満たす写像t:C→Xt : C \to Xがただ一つ存在する。このttはt∘ιˉj=t∘π∘ιj=φjt \circ \bar\iota_j = t \circ \pi \circ \iota_j = \varphi_jを満たす。

一意性を示す。t′t'がt′∘ιˉj=φjt' \circ \bar\iota_j = \varphi_jをすべてのjjについて満たすとすると、t′∘πt' \circ \piは(t′∘π)∘ιj=φj(t' \circ \pi) \circ \iota_j = \varphi_jを満たすので、wwの一意性からt′∘π=wt' \circ \pi = wである。π\piは全射であるからt′=tt' = tである。▨

注意 2.6 (小ささを仮定に置き換えない).定理 2.5は、J\mathcal Jが小さい圏であることを本質的に用いている。Ob⁡(J)\operatorname{Ob}(\mathcal J)が集合であるからこそ、添字づけられた余積(§E21.5 定義 2.11)を取ることができる。同じ条件は§E21.5 例 5.3でも用いられている。J\mathcal Jが小さい圏でない場合を本単元は扱わない。

3 群の圏

Grp\mathbf{Grp}は、対象を群、射を群準同型とする圏である(§E21.1 例 2.2、§E7.3 命題 1.4)。二つの群の直積が直積群であることは§E21.5 例 2.13が、二つの群の余積が自由積であることは§E21.9 例 4.1が、いずれも「群論入門」の普遍性からの翻訳として示している。本記事は、任意の添字集合による直積、equalizer、零対象、および直積が余積にならないことを扱う。

まず、添字集合が二元とはかぎらない場合の直積を構成する。演算を成分ごとに定めると、台集合の直積がそのまま群の直積になる。

命題 3.1.(Gi)i∈I(G_i)_{i \in I}を群の族とする。集合∏i∈IGi\prod_{i \in I} G_i(§E1.2 定義 5.1)に

(ab)(i)=a(i) b(i)(i∈I)(ab)(i) = a(i)\,b(i) \qquad (i \in I)

によって演算を定めると、∏i∈IGi\prod_{i \in I} G_iは群である。射影pi(a)=a(i)p_i(a) = a(i)は群準同型であり、(∏i∈IGi,(pi)i∈I)\bigl(\prod_{i \in I} G_i, (p_i)_{i \in I}\bigr)はGrp\mathbf{Grp}における(Gi)i∈I(G_i)_{i \in I}の直積である。

証明. 結合律、単位元、逆元は成分ごとに確かめることができる。実際、任意のa,b,ca, b, cと任意のi∈Ii \in Iについて

((ab)c)(i)=(a(i)b(i))c(i)=a(i)(b(i)c(i))=(a(bc))(i)\bigl((ab)c\bigr)(i) = \bigl(a(i)b(i)\bigr)c(i) = a(i)\bigl(b(i)c(i)\bigr) = \bigl(a(bc)\bigr)(i)

である。e(i)=eGie(i) = e_{G_i}で定めたeeは単位元であり、a−1(i)=a(i)−1a^{-1}(i) = a(i)^{-1}で定めたa−1a^{-1}はaaの逆元である。したがって∏i∈IGi\prod_{i \in I} G_iは§E7.1 定義 1.1の意味で群である。IIが二元集合の場合、この群は§E7.13 定義 1.1の外部直積と、写像aaに順序対(a(1),a(2))(a(1), a(2))を対応させる全単射によって同一視することができる。射影についてはpi(ab)=(ab)(i)=a(i)b(i)=pi(a)pi(b)p_i(ab) = (ab)(i) = a(i)b(i) = p_i(a)p_i(b)であるから、pip_iは群準同型である。

群準同型の族(fi:H→Gi)i∈I(f_i : H \to G_i)_{i \in I}を任意に取る。§E21.5 例 2.10により、pi∘t=fip_i \circ t = f_iをすべてのiiについて満たす写像t:H→∏i∈IGit : H \to \prod_{i \in I} G_iがただ一つ存在し、t(h)(i)=fi(h)t(h)(i) = f_i(h)である。このttは群準同型である。実際、任意のh,h′∈Hh, h' \in Hと任意のi∈Ii \in Iについて

t(hh′)(i)=fi(hh′)=fi(h)fi(h′)=t(h)(i) t(h′)(i)=(t(h)t(h′))(i)t(hh')(i) = f_i(hh') = f_i(h) f_i(h') = t(h)(i)\, t(h')(i) = \bigl(t(h)t(h')\bigr)(i)

であるからt(hh′)=t(h)t(h′)t(hh') = t(h)t(h')が成り立つ。群準同型は特に写像であるから、条件を満たす群準同型は高々一つである。よって§E21.5 命題 2.3の条件が満たされる。▨

次に equalizer を構成する。Set\mathbf{Set}の equalizer にあたる部分集合が部分群になることを確かめればよい。

命題 3.2.f,g:G→Hf, g : G \to Hを群準同型とする。

E={ a∈G∣f(a)=g(a) }E = \{\, a \in G \mid f(a) = g(a) \,\}

はGGの部分群であり、包含準同型e:E→Ge : E \to Gとの組はffとggの equalizer である。

証明.f(eG)=eH=g(eG)f(e_G) = e_H = g(e_G)であるからeG∈Ee_G \in Eである。a,b∈Ea, b \in Eとするとf(ab)=f(a)f(b)=g(a)g(b)=g(ab)f(ab) = f(a)f(b) = g(a)g(b) = g(ab)であるからab∈Eab \in Eであり、f(a−1)=f(a)−1=g(a)−1=g(a−1)f(a^{-1}) = f(a)^{-1} = g(a)^{-1} = g(a^{-1})であるからa−1∈Ea^{-1} \in Eである。よってEEはGGの部分群であり、包含写像eeは群準同型である。定義からf∘e=g∘ef \circ e = g \circ eである。

u:X→Gu : X \to Gを群準同型でf∘u=g∘uf \circ u = g \circ uを満たすものとする。§E21.5 例 3.5により、e∘t=ue \circ t = uを満たす写像t:X→Et : X \to Eがただ一つ存在し、t(x)=u(x)t(x) = u(x)である。このttは群準同型である。実際、eeは単射であり

e(t(xy))=u(xy)=u(x)u(y)=e(t(x)) e(t(y))=e(t(x)t(y))e\bigl(t(xy)\bigr) = u(xy) = u(x)u(y) = e\bigl(t(x)\bigr)\,e\bigl(t(y)\bigr) = e\bigl(t(x)t(y)\bigr)

であるからt(xy)=t(x)t(y)t(xy) = t(x)t(y)が成り立つ。群準同型は特に写像であるから一意性も従い、§E21.5 命題 3.3の条件が満たされる。▨

二種類の構成がそろったので、極限の存在を一般の図式について述べることができる。

系 3.3. 小さい圏J\mathcal Jからの任意の図式D:J→GrpD : \mathcal J \to \mathbf{Grp}は極限をもつ。

証明.命題 3.1によりGrp\mathbf{Grp}は任意の集合を添字集合とする直積をもち、命題 3.2により任意の平行な二射の equalizer をもつ。§E21.5 定理 5.1を適用すればよい。▨

始対象と終対象については、Set\mathbf{Set}と異なり両者が一致する。この状況を表す語を先に定める。

定義 3.4. 圏C\mathcal Cの対象ZZが零対象 (zero object) であるとは、ZZがC\mathcal Cの始対象であり、かつ終対象であることをいう(§E21.5 定義 1.2)。

自明群がこの条件を満たすことを、二つの hom 集合を数えて確かめる。

命題 3.5. 自明群1={e}1 = \{e\}はGrp\mathbf{Grp}の零対象である。

証明. 任意の群GGについて、11からGGへの群準同型はe↦eGe \mapsto e_Gただ一つである。群準同型は単位元を単位元へ送るためである。また、GGから11への群準同型は、すべての元をeeへ送るものただ一つである。したがってHom⁡(1,G)\operatorname{Hom}(1, G)とHom⁡(G,1)\operatorname{Hom}(G, 1)はいずれもただ一つの元からなり、§E21.5 定義 1.2により11は始対象かつ終対象である。よって定義 3.4の意味で零対象である。▨

注意 3.6 (零対象を扱う範囲).定義 3.4の語は、本記事では命題 3.5の事実を指すために用いる。零射、加法圏、アーベル圏、完全列および導来関手の一般論は「ホモロジー代数」が扱う。本単元は加法構造を仮定しない。

Set\mathbf{Set}と異なり、Grp\mathbf{Grp}では直積と余積が別の構成になる。まず、座標部分群の可換性から、直積が余積の条件を満たさない例を作る。

命題 3.7.AAとBBを群とし、κA:A→A×B\kappa_A : A \to A \times B、κB:B→A×B\kappa_B : B \to A \times BをκA(a)=(a,eB)\kappa_A(a) = (a, e_B)、κB(b)=(eA,b)\kappa_B(b) = (e_A, b)で定める。AAとBBがともに位数22の巡回群であるとき、組(A×B,κA,κB)(A \times B, \kappa_A, \kappa_B)はGrp\mathbf{Grp}におけるAAとBBの余積ではない。

証明.§E7.13 命題 1.3により、κA\kappa_Aの像A~=A×{eB}\widetilde A = A \times \{e_B\}の各元とκB\kappa_Bの像B~={eA}×B\widetilde B = \{e_A\} \times Bの各元は可換する。したがって、群準同型Φ:A×B→G\Phi : A \times B \to Gが存在すれば、Φ(κA(a))\Phi(\kappa_A(a))とΦ(κB(b))\Phi(\kappa_B(b))はGGの中で可換する。この事実はAAとBBの取り方によらない。

A=B={e,a}A = B = \{e, a\}とし、G=S3G = S_3、f:A→S3f : A \to S_3をf(a)=(1 2)f(a) = (1\,2)、g:B→S3g : B \to S_3をg(a)=(1 3)g(a) = (1\,3)で定める。(1 2)(1\,2)と(1 3)(1\,3)は位数22の元であるから、ffとggは群準同型である。置換の積στ\sigma\tauを、写像の合成σ∘τ\sigma \circ \tauと同じくτ\tauを先に施すものとすると

(1 2)(1 3)=(1 3 2),(1 3)(1 2)=(1 2 3)(1\,2)(1\,3) = (1\,3\,2), \qquad (1\,3)(1\,2) = (1\,2\,3)

であり、二つは異なる。よってΦ∘κA=f\Phi \circ \kappa_A = fかつΦ∘κB=g\Phi \circ \kappa_B = gを満たす群準同型Φ\Phiは存在せず、§E21.5 命題 2.3の余積の条件は満たされない。▨

命題 3.7が否定しているのは、座標部分群への埋め込みという特定の入射の組についてである。入射の選び方によらずにA×BA \times Bが余積になりえないことは、次の例で自由積の大きさを見ると分かる。

例 3.8 (自由積の台集合の大きさ).§E21.9 例 4.1は、忘却関手U:Grp→SetU : \mathbf{Grp} \to \mathbf{Set}が二つの群の余積を保たないことを示している。ここでは、余積の台集合と台集合の余積の濃度を比べる。

A=⟨a⟩A = \langle a \rangleとB=⟨b⟩B = \langle b \rangleをともに位数22の巡回群とする。§E7.9 定義 2.3によりA∗BA * Bの元は交互簡約語であるから、

a,ab,aba,abab,…a,\quad ab,\quad aba,\quad abab,\quad \ldots

は互いに異なるA∗BA * Bの元である。長さの異なる交互簡約語は語として異なるためである。したがってA∗BA * Bは無限群である。一方、U(A)U(A)とU(B)U(B)はいずれも二元集合であるから、§E21.5 命題 2.12によりSet\mathbf{Set}における余積U(A)⊔U(B)U(A) \sqcup U(B)は四元集合である。すなわちU(A∗B)U(A * B)とU(A)⊔U(B)U(A) \sqcup U(B)は濃度が異なる。

この計算から、A×BA \times Bは入射をどのように選んでもAAとBBの余積にならないことが従う。実際、§E21.9 例 4.1によりA∗BA * BはAAとBBの余積であるから、A×BA \times Bも余積であったとすると§E21.5 系 2.4により両者の間に同型射が存在する。Grp\mathbf{Grp}の同型射は逆射をもつので台集合の間の全単射を与える(§E21.1 定義 6.1、§E1.1 命題 3.8)。ところがA∗BA * Bは無限群、A×BA \times Bは四元の群であるから、全単射は存在しない。

注意 3.9 (群の圏の余極限の範囲). 本記事は、Grp\mathbf{Grp}の余積を二つの群の場合に限って扱う。「自由群・自由積と群の表示」が二つの群の自由積までを構成しているためである。任意個の族に対する自由積、Grp\mathbf{Grp}の coequalizer、および一般の代数系における自由構成と余極限は「普遍代数」が扱う。

4 線形空間の圏

Vectk\mathbf{Vect}_kは、対象を体kk上の線形空間(§E3.2 定義 1.1)、射を線形写像(§E3.4 定義 1.1)とする圏である(§E21.1 例 2.2)。線形空間と線形写像の定義は「線形代数 II」による。この圏では直積と余積が有限個の添字集合で一致し、添字集合が可算無限で各成分がkk自身である場合には一致しない。この相違を、二つの構成を比べる標準的な射によって示す。

直積は、台集合の直積に成分ごとの演算を入れたものである。

命題 4.1.(Vi)i∈I(V_i)_{i \in I}をkk上の線形空間の族とする。集合∏i∈IVi\prod_{i \in I} V_iに

(v+w)(i)=v(i)+w(i),(cv)(i)=c v(i)(c∈k, i∈I)(v + w)(i) = v(i) + w(i), \qquad (cv)(i) = c\,v(i) \qquad (c \in k,\ i \in I)

によって演算を定めると、∏i∈IVi\prod_{i \in I} V_iはkk上の線形空間である。射影pi(v)=v(i)p_i(v) = v(i)は線形写像であり、(∏i∈IVi,(pi)i∈I)\bigl(\prod_{i \in I} V_i, (p_i)_{i \in I}\bigr)はVectk\mathbf{Vect}_kにおける(Vi)i∈I(V_i)_{i \in I}の直積である。

証明.§E3.2 定義 1.1の公理を成分ごとに確かめる。任意のu,v,w∈∏i∈IViu, v, w \in \prod_{i \in I} V_i、任意のc,d∈kc, d \in k、任意のi∈Ii \in Iについて

((u+v)+w)(i)=(u(i)+v(i))+w(i)=u(i)+(v(i)+w(i))=(u+(v+w))(i),\bigl((u + v) + w\bigr)(i) = \bigl(u(i) + v(i)\bigr) + w(i) = u(i) + \bigl(v(i) + w(i)\bigr) = \bigl(u + (v + w)\bigr)(i),(u+v)(i)=u(i)+v(i)=v(i)+u(i)=(v+u)(i)(u + v)(i) = u(i) + v(i) = v(i) + u(i) = (v + u)(i)

であるから、加法は結合律と交換律を満たす。0(i)=0Vi0(i) = 0_{V_i}で定めた00は零元であり、(−v)(i)=−v(i)(-v)(i) = -v(i)で定めた−v-vはvvの加法逆元である。スカラー倍については

(c(u+v))(i)=c(u(i)+v(i))=c u(i)+c v(i)=(cu+cv)(i),\bigl(c(u + v)\bigr)(i) = c\bigl(u(i) + v(i)\bigr) = c\,u(i) + c\,v(i) = (cu + cv)(i),((c+d)v)(i)=(c+d) v(i)=c v(i)+d v(i)=(cv+dv)(i),\bigl((c + d)v\bigr)(i) = (c + d)\,v(i) = c\,v(i) + d\,v(i) = (cv + dv)(i),((cd)v)(i)=(cd) v(i)=c(d v(i))=(c(dv))(i),(1v)(i)=1 v(i)=v(i)\bigl((cd)v\bigr)(i) = (cd)\,v(i) = c\bigl(d\,v(i)\bigr) = \bigl(c(dv)\bigr)(i), \qquad (1v)(i) = 1\,v(i) = v(i)

が成り立つ。以上で線形空間の公理をすべて確かめた。射影が線形であることは演算の定義そのものである。

線形写像の族(fi:X→Vi)i∈I(f_i : X \to V_i)_{i \in I}に対して、§E21.5 例 2.10によりpi∘t=fip_i \circ t = f_iをすべてのiiについて満たす写像t:X→∏i∈IVit : X \to \prod_{i \in I} V_iがただ一つ存在し、t(x)(i)=fi(x)t(x)(i) = f_i(x)である。このttは線形である。実際、任意のx,y∈Xx, y \in X、c∈kc \in k、i∈Ii \in Iについて

t(x+y)(i)=fi(x+y)=fi(x)+fi(y)=(t(x)+t(y))(i),t(cx)(i)=cfi(x)=(c t(x))(i)t(x + y)(i) = f_i(x + y) = f_i(x) + f_i(y) = \bigl(t(x) + t(y)\bigr)(i), \qquad t(cx)(i) = c f_i(x) = \bigl(c\,t(x)\bigr)(i)

が成り立つ。線形写像は特に写像であるから一意性も従い、§E21.5 命題 2.3の条件が満たされる。▨

余積は直積の中に含まれる。台が有限である元だけを取り出すと、有限和による普遍射を作ることができる。

命題 4.2.(Vi)i∈I(V_i)_{i \in I}をkk上の線形空間の族とし、v∈∏i∈IViv \in \prod_{i \in I} V_iに対してsupp⁡(v)={ i∈I∣v(i)≠0 }\operatorname{supp}(v) = \{\, i \in I \mid v(i) \ne 0 \,\}とおく。

⨁i∈IVi={ v∈∏i∈IVi ∣ supp⁡(v) は有限集合 }\bigoplus_{i \in I} V_i = \Bigl\{\, v \in \prod_{i \in I} V_i \ \Bigm| \ \operatorname{supp}(v)\ \text{は有限集合} \,\Bigr\}

は∏i∈IVi\prod_{i \in I} V_iの部分空間であり、

ιi:Vi→⨁i∈IVi,ιi(v)(j)={v(j=i)0(j≠i)\iota_i : V_i \to \bigoplus_{i \in I} V_i, \qquad \iota_i(v)(j) = \begin{cases} v & (j = i) \\ 0 & (j \ne i) \end{cases}

との組はVectk\mathbf{Vect}_kにおける(Vi)i∈I(V_i)_{i \in I}の余積である。

証明. 零元の台は空であり、二つの元の和の台は台の和集合に含まれ、スカラー倍の台は元の台に含まれるから、⨁i∈IVi\bigoplus_{i \in I} V_iは§E3.2 定義 1.4の意味で部分空間である。ιi\iota_iが線形写像であることは定義から従う。

線形写像の族(fi:Vi→X)i∈I(f_i : V_i \to X)_{i \in I}を任意に取り、

t(v)=∑i∈supp⁡(v)fi(v(i))t(v) = \sum_{i \in \operatorname{supp}(v)} f_i\bigl(v(i)\bigr)

と定める。和は有限和であるからXXの元が定まる。ttが線形であることを見る。v,wv, wについてsupp⁡(v+w)⊆supp⁡(v)∪supp⁡(w)\operatorname{supp}(v + w) \subseteq \operatorname{supp}(v) \cup \operatorname{supp}(w)であり、この有限集合の上で和を取るとfi(0)=0f_i(0) = 0により余分な項が消えるので

t(v+w)=∑i∈supp⁡(v)∪supp⁡(w)fi(v(i)+w(i))=t(v)+t(w)t(v + w) = \sum_{i \in \operatorname{supp}(v) \cup \operatorname{supp}(w)} f_i\bigl(v(i) + w(i)\bigr) = t(v) + t(w)

が成り立つ。スカラー倍についても同様である。またt(ιi(v))=fi(v)t(\iota_i(v)) = f_i(v)であるからt∘ιi=fit \circ \iota_i = f_iが成り立つ。

一意性を示す。v∈⨁i∈IViv \in \bigoplus_{i \in I} V_iはv=∑i∈supp⁡(v)ιi(v(i))v = \sum_{i \in \operatorname{supp}(v)} \iota_i(v(i))と有限和で書くことができる。t′t'がt′∘ιi=fit' \circ \iota_i = f_iをすべてのiiについて満たすなら、線形性から

t′(v)=∑i∈supp⁡(v)t′(ιi(v(i)))=∑i∈supp⁡(v)fi(v(i))=t(v)t'(v) = \sum_{i \in \operatorname{supp}(v)} t'\bigl(\iota_i(v(i))\bigr) = \sum_{i \in \operatorname{supp}(v)} f_i\bigl(v(i)\bigr) = t(v)

である。よって§E21.5 命題 2.3の余積の条件が満たされる。▨

余積の普遍性を、直積への座標の埋め込みへ適用すると、二つの構成を比べる射が定まる。この射が同型射になるかどうかで、添字集合が有限である場合と無限である場合が分かれる。

命題 4.3.(Vi)i∈I(V_i)_{i \in I}をkk上の線形空間の族とし、κi:Vi→∏i∈IVi\kappa_i : V_i \to \prod_{i \in I} V_iをιi\iota_iと同じ式で定めた線形写像とする。命題 4.2により、θ∘ιi=κi\theta \circ \iota_i = \kappa_iをすべてのi∈Ii \in Iについて満たす線形写像

θ:⨁i∈IVi⟶∏i∈IVi\theta : \bigoplus_{i \in I} V_i \longrightarrow \prod_{i \in I} V_i

がただ一つ存在し、θ\thetaは包含写像である。IIが有限集合ならばθ\thetaは恒等写像であり、(∏i∈IVi,(κi))\bigl(\prod_{i \in I} V_i, (\kappa_i)\bigr)は余積でもある。

証明.θ\thetaの存在と一意性は命題 4.2をfi=κif_i = \kappa_iに適用して得られる。同命題の明示式により、v∈⨁i∈IViv \in \bigoplus_{i \in I} V_iについて

θ(v)=∑i∈supp⁡(v)κi(v(i))\theta(v) = \sum_{i \in \operatorname{supp}(v)} \kappa_i\bigl(v(i)\bigr)

である。第jj成分を計算する。κi\kappa_iの定義からκi(v(i))(j)\kappa_i(v(i))(j)はj=ij = iのときv(i)v(i)、j≠ij \ne iのとき00である。したがって、j∈supp⁡(v)j \in \operatorname{supp}(v)ならば右辺の和のうちi=ji = jの項だけが零でなくθ(v)(j)=v(j)\theta(v)(j) = v(j)であり、j∉supp⁡(v)j \notin \operatorname{supp}(v)ならばすべての項が零でθ(v)(j)=0=v(j)\theta(v)(j) = 0 = v(j)である。いずれの場合もθ(v)(j)=v(j)\theta(v)(j) = v(j)であるからθ(v)=v\theta(v) = vであり、θ\thetaは包含写像である。

IIが有限集合ならば、∏i∈IVi\prod_{i \in I} V_iの任意の元の台は有限集合であるから⨁i∈IVi=∏i∈IVi\bigoplus_{i \in I} V_i = \prod_{i \in I} V_iであり、ιi=κi\iota_i = \kappa_iである。したがってθ\thetaは恒等写像であり、(∏i∈IVi,(κi))\bigl(\prod_{i \in I} V_i, (\kappa_i)\bigr)は(⨁i∈IVi,(ιi))\bigl(\bigoplus_{i \in I} V_i, (\iota_i)\bigr)と同じ組であるから、余積である。▨

添字集合が無限である場合には、θ\thetaの像に入らない元を具体的に書くことができる。ここでは添字集合をN\mathbb N、各成分をkk自身として計算する。

命題 4.4.I=NI = \mathbb Nとし、すべてのi∈Ni \in \mathbb NについてVi=kV_i = kとする。このとき

θ:⨁i∈Nk⟶∏i∈Nk\theta : \bigoplus_{i \in \mathbb N} k \longrightarrow \prod_{i \in \mathbb N} k

は全射ではない。したがって(∏i∈Nk,(κi))\bigl(\prod_{i \in \mathbb N} k, (\kappa_i)\bigr)は(k)i∈N(k)_{i \in \mathbb N}の余積ではない。

証明.u∈∏i∈Nku \in \prod_{i \in \mathbb N} kを、すべてのi∈Ni \in \mathbb Nについてu(i)=1u(i) = 1となる元とする。supp⁡(u)=N\operatorname{supp}(u) = \mathbb Nは有限集合ではないからu∉⨁i∈Nku \notin \bigoplus_{i \in \mathbb N} kである。命題 4.3によりθ\thetaは包含写像であるから、uuはθ\thetaの像に属さない。よってθ\thetaは全射ではない。

(∏i∈Nk,(κi))\bigl(\prod_{i \in \mathbb N} k, (\kappa_i)\bigr)が余積であると仮定する。(⨁i∈Nk,(ιi))\bigl(\bigoplus_{i \in \mathbb N} k, (\iota_i)\bigr)も同じ族の余積であるから、§E21.5 系 2.4により、θ′∘ιi=κi\theta' \circ \iota_i = \kappa_iをすべてのiiについて満たす同型射θ′\theta'がただ一つ存在する。θ\thetaも同じ等式を満たす唯一の射であるからθ′=θ\theta' = \thetaであり、θ\thetaは同型射になる。§E21.1 定義 6.1により同型射は逆射をもつので、θ\thetaは写像として全単射であり(§E1.1 命題 3.8)、とくに全射である。これはθ\thetaが全射でないことに反する。▨

equalizer はGrp\mathbf{Grp}と同じ形で構成することができる。

命題 4.5. 線形写像f,g:V→Wf, g : V \to Wに対して

E={ v∈V∣f(v)=g(v) }E = \{\, v \in V \mid f(v) = g(v) \,\}

はf−gf - gの核(§E3.4 定義 1.3)に等しく、VVの部分空間である。包含写像e:E→Ve : E \to Vとの組はffとggの equalizer である。

証明.f(v)=g(v)f(v) = g(v)と(f−g)(v)=0(f - g)(v) = 0は同値であるからE=ker⁡(f−g)E = \ker(f - g)である。f−gf - gは線形写像であり、その核は§E3.2 定義 1.4の意味でVVの部分空間である。実際、f(0)=g(0)=0f(0) = g(0) = 0から0∈E0 \in Eであり、v,w∈Ev, w \in Eとc∈kc \in kについてf(v+w)=f(v)+f(w)=g(v)+g(w)=g(v+w)f(v + w) = f(v) + f(w) = g(v) + g(w) = g(v + w)とf(cv)=cf(v)=cg(v)=g(cv)f(cv) = c f(v) = c g(v) = g(cv)が成り立つ。よって包含写像eeは線形写像であり、f∘e=g∘ef \circ e = g \circ eである。

u:X→Vu : X \to Vを線形写像でf∘u=g∘uf \circ u = g \circ uを満たすものとする。§E21.5 例 3.5により、e∘t=ue \circ t = uを満たす写像t:X→Et : X \to Eがただ一つ存在し、t(x)=u(x)t(x) = u(x)である。eeは単射でありe(t(x+y))=u(x+y)=u(x)+u(y)=e(t(x)+t(y))e(t(x + y)) = u(x + y) = u(x) + u(y) = e(t(x) + t(y))およびe(t(cx))=u(cx)=c u(x)=e(c t(x))e(t(cx)) = u(cx) = c\,u(x) = e(c\,t(x))が成り立つので、ttは線形写像である。線形写像は特に写像であるから一意性も従い、§E21.5 命題 3.3の条件が満たされる。▨

直積と equalizer がそろったので、Grp\mathbf{Grp}の場合と同じ議論で極限の存在を述べることができる。

系 4.6. 小さい圏J\mathcal Jからの任意の図式D:J→VectkD : \mathcal J \to \mathbf{Vect}_kは極限をもつ。

証明.命題 4.1によりVectk\mathbf{Vect}_kは任意の集合を添字集合とする直積をもち、命題 4.5により任意の平行な二射の equalizer をもつ。§E21.5 定理 5.1を適用すればよい。▨

5 位相空間の圏

Top\mathbf{Top}は、対象を位相空間(§E2.11 定義 1.1)、射を連続写像(§E2.12 定義 1.1)とする圏である(§E21.1 例 2.3、§E2.12 命題 1.10)。位相空間と連続写像の定義は「位相空間論 I」による。直積が積位相であることは§E21.5 例 2.14がすでに示しているので、本記事は余積、 equalizer、coequalizer、pushout、終対象および始対象を扱う。

余積では、台集合の直和の上に、各入射の逆像が開集合であるものを開集合とする位相を入れる。

命題 5.1.(Xi)i∈I(X_i)_{i \in I}を位相空間の族とし、∐i∈IXi\coprod_{i \in I} X_iを台集合の余積(§E21.5 定義 2.11)、ιi(x)=(x,i)\iota_i(x) = (x, i)を入射とする。

O={ W⊆∐i∈IXi ∣ すべての i∈I について ιi−1(W) は Xi の開集合 }\mathcal O = \Bigl\{\, W \subseteq \coprod_{i \in I} X_i \ \Bigm| \ \text{すべての}\ i \in I\ \text{について}\ \iota_i^{-1}(W)\ \text{は}\ X_i\ \text{の開集合} \,\Bigr\}

は∐i∈IXi\coprod_{i \in I} X_iの位相であり、この位相を入れた空間と(ιi)i∈I(\iota_i)_{i \in I}の組はTop\mathbf{Top}における(Xi)i∈I(X_i)_{i \in I}の余積である。

証明. 逆像は和集合と共通部分を保つ(ιi−1(⋃λWλ)=⋃λιi−1(Wλ)\iota_i^{-1}(\bigcup_\lambda W_\lambda) = \bigcup_\lambda \iota_i^{-1}(W_\lambda)およびιi−1(W∩W′)=ιi−1(W)∩ιi−1(W′)\iota_i^{-1}(W \cap W') = \iota_i^{-1}(W) \cap \iota_i^{-1}(W'))から、O\mathcal Oは§E2.11 定義 1.1の三条件を満たす。ιi−1(∅)=∅\iota_i^{-1}(\emptyset) = \emptysetとιi−1(∐jXj)=Xi\iota_i^{-1}(\coprod_j X_j) = X_iはいずれも開集合である。定義から各ιi\iota_iは連続である。

連続写像の族(gi:Xi→Z)i∈I(g_i : X_i \to Z)_{i \in I}を任意に取る。§E21.5 命題 2.12により、t∘ιi=git \circ \iota_i = g_iをすべてのiiについて満たす写像t:∐i∈IXi→Zt : \coprod_{i \in I} X_i \to Zがただ一つ存在する。VVをZZの開集合とすると、任意のiiについて

ιi−1(t−1(V))=(t∘ιi)−1(V)=gi−1(V)\iota_i^{-1}\bigl(t^{-1}(V)\bigr) = (t \circ \iota_i)^{-1}(V) = g_i^{-1}(V)

はXiX_iの開集合であるから、t−1(V)∈Ot^{-1}(V) \in \mathcal Oである。よってttは連続である。連続写像は特に写像であるから一意性も従い、§E21.5 命題 2.3の余積の条件が満たされる。▨

equalizer では、Set\mathbf{Set}の equalizer にあたる部分集合へ部分空間位相を入れる。

命題 5.2.f,g:X→Yf, g : X \to Yを連続写像とする。E={x∈X∣f(x)=g(x)}E = \{x \in X \mid f(x) = g(x)\}に部分空間位相(§E2.12 定義 4.1)を入れたものと、包含写像e:E→Xe : E \to X(§E2.12 定義 4.2)の組は、ffとggの equalizer である。

証明. 部分空間位相の定義から、UUがXXの開集合ならばe−1(U)=U∩Ee^{-1}(U) = U \cap EはEEの開集合であるから、eeは連続である。またf∘e=g∘ef \circ e = g \circ eである。

w:Z→Xw : Z \to Xを連続写像でf∘w=g∘wf \circ w = g \circ wを満たすものとする。§E21.5 例 3.5により、e∘t=we \circ t = wを満たす写像t:Z→Et : Z \to Eがただ一つ存在し、t(z)=w(z)t(z) = w(z)である。ttが連続であることを見る。EEの開集合はU∩EU \cap E(UUはXXの開集合)の形であり、

t−1(U∩E)={ z∈Z∣w(z)∈U }=w−1(U)t^{-1}(U \cap E) = \{\, z \in Z \mid w(z) \in U \,\} = w^{-1}(U)

であるから、wwの連続性によりt−1(U∩E)t^{-1}(U \cap E)はZZの開集合である。連続写像は特に写像であるから一意性も従い、§E21.5 命題 3.3の条件が満たされる。▨

coequalizer では、Set\mathbf{Set}の coequalizer にあたる商集合へ商位相を入れる。ここで用いる商位相の普遍性は「位相空間論 I」の「直積集合上の位相」が証明している。

命題 5.3.f,g:X→Yf, g : X \to Yを連続写像とし、命題 2.2の同値関係∼R\sim_Rと標準的な全射π:Y→Y/∼R\pi : Y \to Y/{\sim_R}を取る。Y/∼RY/{\sim_R}にπ\piによる商位相(§E2.12 定義 8.7)を入れたものとπ\piの組は、ffとggの coequalizer である。

証明.π\piが連続であることは§E2.12 命題 8.9の第一の主張による。また命題 2.2によりπ∘f=π∘g\pi \circ f = \pi \circ gである。

u:Y→Zu : Y \to Zを連続写像でu∘f=u∘gu \circ f = u \circ gを満たすものとする。命題 2.2の証明で示したとおり、π(y)=π(y′)\pi(y) = \pi(y')ならばu(y)=u(y′)u(y) = u(y')である。したがって§E2.12 定理 8.10の第一の条件が成り立ち、同定理によりt∘π=ut \circ \pi = uを満たす連続写像t:Y/∼R→Zt : Y/{\sim_R} \to Zがただ一つ存在する。よって§E21.5 命題 3.3の coequalizer の条件が満たされる。▨

余積と coequalizer がそろったので、命題 2.3をそのまま適用することができる。得られる空間は、XXとYYをCCに沿って貼り合わせたものである。

命題 5.4.f:C→Xf : C \to X、g:C→Yg : C \to Yを連続写像とする。命題 5.1を添字集合{0,1}\{0, 1\}による族(X,Y)(X, Y)に適用して得られる余積をX⊔YX \sqcup Y、その入射をιX:X→X⊔Y\iota_X : X \to X \sqcup YとιY:Y→X⊔Y\iota_Y : Y \to X \sqcup Yと書く。ιX∘f\iota_X \circ fとιY∘g\iota_Y \circ gの coequalizer を命題 5.3によってπ:X⊔Y→Q\pi : X \sqcup Y \to Qとすると、(Q,π∘ιX,π∘ιY)\bigl(Q, \pi \circ \iota_X, \pi \circ \iota_Y\bigr)はX←fC→gYX \xleftarrow{f} C \xrightarrow{g} Yの pushout である。QQの台集合は命題 2.4の商集合であり、位相はπ\piによる商位相である。

証明.命題 2.3をC=Top\mathcal C = \mathbf{Top}について適用すればよい。余積の存在は命題 5.1、coequalizer の存在は命題 5.3による。

台集合についての主張を確かめる。命題 5.1の余積は台集合が§E21.5 定義 2.11の直和であり、入射も同じιX,ιY\iota_X, \iota_Yである。命題 5.3の coequalizer は台集合が命題 2.2の商集合であり、標準的な全射も同じπ\piである。したがってQQの台集合は、X⊔YX \sqcup YをιX∘f\iota_X \circ fとιY∘g\iota_Y \circ gの値の組が生成する同値関係で割った商であり、これは命題 2.4の商集合そのものである。▨

終対象と始対象は、位相を一つしかもたない台集合によって与えられる。

命題 5.5. 一点集合{∗}\{\ast\}に位相{∅,{∗}}\{\emptyset, \{\ast\}\}を入れた空間はTop\mathbf{Top}の終対象であり、空集合に位相{∅}\{\emptyset\}を入れた空間は始対象である。

証明. 一点集合の上の位相は{∅,{∗}}\{\emptyset, \{\ast\}\}ただ一つである。任意の位相空間XXについて、XXから{∗}\{\ast\}への写像はただ一つであり、∅\emptysetと{∗}\{\ast\}の逆像はそれぞれ∅\emptysetとXXであるから連続である。したがってHom⁡(X,{∗})\operatorname{Hom}(X, \{\ast\})はただ一つの元からなる。

空集合の上の位相は{∅}\{\emptyset\}ただ一つである。任意の位相空間XXについて、∅\emptysetからXXへの写像は空写像ただ一つであり、任意の開集合の逆像は∅\emptysetであるから連続である。よって§E21.5 定義 1.2の条件が満たされる。▨

直積と equalizer、余積と coequalizer がすべてそろったので、極限と余極限の存在を一般の図式について述べることができる。

系 5.6. 小さい圏J\mathcal Jからの任意の図式D:J→TopD : \mathcal J \to \mathbf{Top}は、極限と余極限をもつ。

証明.§E21.5 例 2.14によりTop\mathbf{Top}は任意の集合を添字集合とする直積をもち、命題 5.2により equalizer をもつので、§E21.5 定理 5.1により極限が存在する。命題 5.1により余積をもち、命題 5.3により coequalizer をもつので、§E21.5 系 5.2により余極限が存在する。▨

ここまでの構成はすべて、台集合の上の対応する構成に位相を入れたものである。この観察を、忘却関手の言葉でまとめる。

系 5.7.U:Top→SetU : \mathbf{Top} \to \mathbf{Set}を忘却関手とする。位相空間の族の直積、余積、平行な二射の coequalizer、および pushout について、UUによる像はSet\mathbf{Set}における対応する極限または余極限である。

証明. 直積については、§E21.5 例 2.14の構成が§E1.2 定義 5.1の直積へ積位相を入れたものであり、射影も同じ写像である。したがってUUによる像は§E21.5 例 2.10の直積である。余積については、命題 5.1の構成が§E21.5 定義 2.11の直和へ位相を入れたものであり、入射も同じ写像であるから、UUによる像は§E21.5 命題 2.12の余積である。coequalizer については、命題 5.3の構成が命題 2.2の商集合へ商位相を入れたものであり、標準的な全射も同じ写像であるから、UUによる像は命題 2.2の coequalizer である。pushout については命題 5.4の最後の主張による。▨

注意 5.8 (群の圏との対照).系 5.7は、Top\mathbf{Top}の忘却関手が極限だけでなく余極限も保つことを述べている。Grp\mathbf{Grp}では結論が異なり、忘却関手は余積を保たない(§E21.9 例 4.1、例 3.8)。この違いの理由は、Top\mathbf{Top}の忘却関手が左随伴と右随伴の両方をもつことにあり、その説明は「随伴の例」が持つ。

6 前順序集合を圏とみなす

前順序集合(§E1.8 定義 1.1)(P,≤)(P, \le)が定める圏(§E21.1 命題 3.1)では、極限が最大下界、余極限が最小上界(§E1.8 定義 2.1)に一致する。この事実は§E21.4 例 4.1が一般の小さい図式について証明しており、二元の直積が下限、余積が上限であること、および半順序集合が束であることとの同値は§E21.5 例 2.15が証明している。本記事は、これらに続いて、終対象と始対象、equalizer、極限の一意性の読み替え、および小さい図式の極限をすべてもつための条件を扱う。前順序集合と半順序集合(§E1.8 定義 1.2)の定義は「数学の基礎」により、束の定義は「離散数学とアルゴリズム」による。

終対象と始対象は、添字圏を空圏に取った場合として、順序の言葉へそのまま翻訳される。

命題 6.1.(P,≤)(P, \le)を前順序集合とし、P\mathcal Pを対応する圏とする。P\mathcal Pの対象mmが終対象であることと、すべてのx∈Px \in Pについてx≤mx \le mが成り立つことは同値である。P\mathcal Pの対象nnが始対象であることと、すべてのx∈Px \in Pについてn≤xn \le xが成り立つことは同値である。

証明.§E21.5 定義 1.2により、mmが終対象であることは、任意のx∈Px \in PについてHom⁡P(x,m)\operatorname{Hom}_{\mathcal P}(x, m)がただ一つの元からなることである。§E21.1 命題 3.1により、この hom 集合はx≤mx \le mのときただ一つの元からなり、そうでないとき空集合である。したがって条件は、すべてのx∈Px \in Pについてx≤mx \le mが成り立つことに等しい。始対象についても、Hom⁡P(n,x)\operatorname{Hom}_{\mathcal P}(n, x)について同じ議論を行えばよい。▨

equalizer は、平行な二射がつねに一致することから自明になる。

命題 6.2.(P,≤)(P, \le)を前順序集合とし、P\mathcal Pを対応する圏とする。P\mathcal Pの平行な二射f,g:x→yf, g : x \to yはつねにf=gf = gであり、(x,idx)(x, \mathrm{id}_x)がffとggの equalizer である。とくにP\mathcal Pは任意の平行な二射の equalizer をもつ。

証明.§E21.1 命題 3.1によりHom⁡P(x,y)\operatorname{Hom}_{\mathcal P}(x, y)の元は高々一つである。ffとggはともにこの hom 集合に属するのでf=gf = gである。

(x,idx)(x, \mathrm{id}_x)が equalizer であることを、§E21.5 命題 3.3の条件によって確かめる。f=gf = gであるからf∘idx=g∘idxf \circ \mathrm{id}_x = g \circ \mathrm{id}_xが成り立つ。w:z→xw : z \to xをf∘w=g∘wf \circ w = g \circ wを満たす射とすると、ww自身がidx∘w=w\mathrm{id}_x \circ w = wを満たす。また、idx∘w′=w\mathrm{id}_x \circ w' = wを満たす射w′:z→xw' : z \to xはHom⁡P(z,x)\operatorname{Hom}_{\mathcal P}(z, x)に属し、この hom 集合の元は高々一つであるからw′=ww' = wである。よって条件を満たす射はただ一つである。▨

極限の存在は、順序の言葉では下限(§E1.8 定義 2.1)の存在になる。添字圏を離散圏に取ることで、両者が同じ条件であることが分かる。

系 6.3.(P,≤)(P, \le)を半順序集合とし、P\mathcal Pを対応する圏とする。P\mathcal Pが小さい図式の極限をすべてもつことと、PPの任意の部分集合が下限(§E1.8 定義 2.1)をもつことは同値である。

証明.P\mathcal Pが小さい図式の極限をすべてもつとする。PPの部分集合TTを取り、TTを対象の集合とする離散圏からの図式DDを、各t∈Tt \in Tにtt自身を対応させるものとする。TTは集合であるからこの離散圏は小さい圏であり、DDの極限が存在する。§E21.4 例 4.1によりその極限はTTの最大下界、すなわち下限である(§E1.8 定義 2.1)。

逆に、PPの任意の部分集合が下限をもつとし、D:J→PD : \mathcal J \to \mathcal Pを小さい図式とする。T={ D(j)∣j∈Ob⁡(J) }T = \{\, D(j) \mid j \in \operatorname{Ob}(\mathcal J) \,\}はPPの部分集合であり、その下限は§E21.4 例 4.1によりDDの極限である。

T=∅T = \emptysetの場合、∅\emptysetの下界はPPのすべての元であるから、∅\emptysetの下限はPPの最大元である。これは命題 6.1の終対象に対応する。▨

注意 6.4 (前順序集合では極限の一意性が順序の同値になる).§E21.4 定理 3.1は極限が同型を除いて一意であることを述べている。前順序集合が定める圏では、xxからyyへの同型射が存在することは、x≤yx \le yかつy≤xy \le xが成り立つことである(§E21.1 定義 6.1)。したがって極限の一意性は、最大下界が順序の同値を除いて一意であるという主張になる。半順序集合ではこの同値が相等になるので、下限は一意である(§E1.8 命題 2.3)。

順序集合の例として、一つの集合の上の位相の全体を取る。位相の細粗の比較がそのまま順序になり、下限と上限を具体的に書くことができる。

例 6.5 (集合の上の位相のなす束).XXを集合とし、XX上の位相の全体をT(X)\mathcal T(X)とする。§E2.11 定義 1.10の比較O1⊆O2\mathcal O_1 \subseteq \mathcal O_2によってT(X)\mathcal T(X)は半順序集合であり、これを圏とみなす。次が成り立つ。

  1. 二つの位相O1,O2\mathcal O_1, \mathcal O_2の直積はO1∩O2\mathcal O_1 \cap \mathcal O_2である。実際、∅\emptysetとXXは両方に属し、両方に属する開集合の任意個の和集合と有限個の共通部分は、それぞれの位相に属するので共通部分にも属する。よってO1∩O2\mathcal O_1 \cap \mathcal O_2は§E2.11 定義 1.1の三条件を満たす位相である。これは両者より粗く、両者より粗い位相はこの共通部分に含まれるから、§E21.5 例 2.15により直積である。
  2. 二つの位相の余積は、O1∪O2\mathcal O_1 \cup \mathcal O_2を含む位相の全体の共通部分である。1 と同じ議論により共通部分は位相であり、O1∪O2\mathcal O_1 \cup \mathcal O_2を含む位相の全体は空でない(離散位相が属する)から、この共通部分は上限である。
  3. §E2.11 例 1.8の密着位相{∅,X}\{\emptyset, X\}はどの位相にも含まれ、離散位相P(X)\mathcal P(X)はどの位相をも含む。したがって命題 6.1により、密着位相は圏T(X)\mathcal T(X)の始対象であり、離散位相は終対象である。

以上により、T(X)\mathcal T(X)は§D2.5 定義 4.1の意味で束である。

注意 6.6 (位相のなす順序集合と随伴を区別する).例 6.5は、集合XXを固定したうえで、XX上の位相のなす順序集合の中での最小元と最大元を扱っている。離散位相と密着位相を与える対応が忘却関手Top→Set\mathbf{Top} \to \mathbf{Set}の左随伴と右随伴になるという主張は、これとは別の主張であり、「随伴の例」が扱う。二つを取り違えないために、本記事はT(X)\mathcal T(X)の中の順序だけを述べる。束の一般論、たとえば分配束、完備束、および束のあいだの対応の理論は「束論」が扱う。

7 演習

問題 7.1.

  1. 命題 2.2の∼R\sim_Rについて、A={1,2}A = \{1, 2\}、B={x,y,z}B = \{x, y, z\}、f(1)=xf(1) = x、f(2)=yf(2) = y、g(1)=yg(1) = y、g(2)=zg(2) = zとした場合の同値類をすべて求め、coequalizer が一点集合になることを確かめよ。
  2. 命題 2.3の証明で、余積の一意性と coequalizer の一意性をそれぞれどこで用いたかを特定せよ。そのうえで、命題 2.4を定理 2.5の特別な場合としても導くことができることを示せ。
  3. 定理 2.5の記述を、J\mathcal Jが平行な二射の圏である場合について書き下し、命題 2.2の記述と一致することを確かめよ。
  4. 命題 3.1の直積で、IIが空集合である場合に得られる群を述べ、命題 3.5と整合することを確かめよ。
  5. 命題 4.4を、各ViV_iが零でない線形空間である一般の無限族について述べ直すとき、どの段階で各ViV_iから零でない元を選ぶ必要があるかを特定し、その選択に§E1.2 注意 5.7が関係することを説明せよ。
  6. 命題 5.3の証明で、Set\mathbf{Set}の水準の議論と位相の水準の議論が分かれる箇所を特定し、位相の水準で用いた前提が§E2.12 定理 8.10のどの条件であるかを述べよ。
  7. 系 6.3の双対の主張を述べ、例 6.5のT(X)\mathcal T(X)がその条件を満たすことを確かめよ。
  8. 命題 3.7と命題 4.3を比べ、Vectk\mathbf{Vect}_kで有限個の場合に直積が余積にもなる一方、Grp\mathbf{Grp}ではそうならない理由を、§E7.13 命題 1.3の可換性がどこで働くかによって説明せよ。

8 扱った範囲と次の記事

本記事では、二項関係が生成する同値関係を構成し、余積と coequalizer から pushout を作る手順を一般の圏について確かめた。そのうえでSet\mathbf{Set}について coequalizer、pushout および一般の図式の余極限を構成し、Grp\mathbf{Grp}について任意の添字集合による直積、equalizer、零対象を構成して、直積が余積にならないことを示した。Vectk\mathbf{Vect}_kについては直積、余積、equalizer を構成し、有限個の添字集合では両者を比べる標準的な射が恒等写像になり、添字集合がN\mathbb Nで各成分がkkの場合には全射にならないことを示した。Top\mathbf{Top}については余積、equalizer、coequalizer、pushout、終対象および始対象を構成し、小さい図式の極限と余極限がすべて存在すること、および忘却関手がこれらの構成を保つことを示した。前順序集合が定める圏については、終対象と始対象、equalizer、極限の一意性の読み替え、および小さい図式の極限をすべてもつための条件を扱い、集合の上の位相の全体がその例になることを確かめた。

本記事が扱わなかった範囲と、その委ね先は次のとおりである。任意個の族に対する群の自由積、Grp\mathbf{Grp}の coequalizer、および一般の代数系における自由構成と余極限は「普遍代数」が扱う。零射、加法圏、アーベル圏および導来関手は「ホモロジー代数」が扱う。束の一般論は「束論」が扱う。極限の存在を随伴関手定理によって判定する方法、フィルター余極限による表示、および大きさを体系的に管理する枠組みは「圏論 II」が扱う。

次の記事「随伴の例」では、本記事で構成した極限と余極限を随伴の側から読み直す。とくに、忘却関手が直積を保ち余積を保たないという§E21.9 例 4.1の現象が、忘却関手が右随伴であることと§E21.9 定理 3.1から従うことを、自由と忘却、対角と直積、離散と忘却、テンソル積と hom の各例について確かめる。

参考文献

  1. Saunders Mac Lane, Categories for the Working Mathematician, 2nd ed., Graduate Texts in Mathematics 5, Springer, New York, 1998.具体圏における極限と余極限の構成、および完備性の判定を参考にした。
  2. Francis Borceux, Handbook of Categorical Algebra 1: Basic Category Theory, Encyclopedia of Mathematics and its Applications 50, Cambridge University Press, 1994.集合の圏における一般の余極限の表示と、位相空間の圏の余極限の構成を参考にした。
  3. Emily Riehl, Category Theory in Context, Dover Publications, 2016.前順序集合を圏とみなしたときの極限と下限の対応を参考にした。

前提記事

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