§E21.2関手

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「圏と反対圏」は、集合、群、線形空間、環、位相空間をそれぞれ一つの圏として書き直した。これらの圏の間には、群にその台集合を対応させる操作や、線形空間にその双対空間を対応させる操作のように、対象を対象へ送る規則が数多く存在する。しかし対象の対応だけでは、圏の側の情報である射と合成がどう写るかが定まらない。関手は、対象の対応と射の対応を組にし、合成と恒等射を保つことを要求したものである。

本記事は、関手を定義し、恒等関手が存在すること、関手の合成が関手であること、部分圏への制限が関手であること、関手が同型射を保つことを証明する。次に、関手が反対圏の間に定める関手を構成し、反変関手をCop\mathcal C^{\mathrm{op}}からの関手として定義して、合成の順序がどのように入れ替わるかを確かめる。例として、忘却関手、べき集合をとる二つの関手、双対空間をとる反変関手、および集合に自由群を対応させる関手を扱い、対象の対応だけでは関手にならない例も挙げる。

1 関手の定義

対象の対応と射の対応を組にし、圏の側の構造である合成と恒等射を保つことを要求する。

定義 1.1.C\mathcal C、D\mathcal Dを圏とする。関手 (functor)F:C→DF : \mathcal C \to \mathcal Dとは、次の二つの対応の組である。

  1. C\mathcal Cの各対象AAに対するD\mathcal Dの対象F(A)F(A)。
  2. C\mathcal Cの各対象の組(A,B)(A, B)と各射f∈Hom⁡C(A,B)f \in \operatorname{Hom}_{\mathcal C}(A, B)に対するD\mathcal Dの射F(f)∈Hom⁡D(F(A),F(B))F(f) \in \operatorname{Hom}_{\mathcal D}(F(A), F(B))。

これらが次の二つの条件を満たす。

  1. 合成の保存 (preservation of composition):C\mathcal Cの射f:A→Bf : A \to B、g:B→Cg : B \to CについてF(g∘f)=F(g)∘F(f)F(g \circ f) = F(g) \circ F(f)が成り立つ。
  2. 恒等射の保存 (preservation of identities):C\mathcal Cの各対象AAについてF(idA)=idF(A)F(\mathrm{id}_A) = \mathrm{id}_{F(A)}が成り立つ。

区別が必要なときは、この意味の関手を共変関手 (covariant functor) という。

注意 1.2 (関手と函手). functor の訳語には「関手」と「函手」の二つが用いられる。本単元は「関手」で統一する。

関手そのものも、合成と恒等射をもつ。

命題 1.3. 次が成り立つ。

  1. 圏C\mathcal Cに対して、idC(A)=A\mathrm{id}_{\mathcal C}(A) = AとidC(f)=f\mathrm{id}_{\mathcal C}(f) = fで定まる対応は関手C→C\mathcal C \to \mathcal Cである。これをC\mathcal Cの恒等関手という。
  2. 関手F:C→DF : \mathcal C \to \mathcal DとG:D→EG : \mathcal D \to \mathcal Eに対して、(G∘F)(A)=G(F(A))(G \circ F)(A) = G(F(A))と(G∘F)(f)=G(F(f))(G \circ F)(f) = G(F(f))で定まる対応は関手C→E\mathcal C \to \mathcal Eである。
  3. 関手F:C→DF : \mathcal C \to \mathcal D、G:D→EG : \mathcal D \to \mathcal E、H:E→FH : \mathcal E \to \mathcal FについてH∘(G∘F)=(H∘G)∘FH \circ (G \circ F) = (H \circ G) \circ Fが成り立つ。またF∘idC=FF \circ \mathrm{id}_{\mathcal C} = FとidD∘F=F\mathrm{id}_{\mathcal D} \circ F = Fが成り立つ。

証明.(1)を示す。f:A→Bf : A \to Bに対してidC(f)=f\mathrm{id}_{\mathcal C}(f) = fはidC(A)=A\mathrm{id}_{\mathcal C}(A) = AからidC(B)=B\mathrm{id}_{\mathcal C}(B) = Bへの射であるから、射の対応の型は正しい。合成の保存はg∘f=g∘fg \circ f = g \circ f、恒等射の保存はidA=idA\mathrm{id}_A = \mathrm{id}_Aであり、いずれも成り立つ。

(2)を示す。f:A→Bf : A \to Bに対してF(f):F(A)→F(B)F(f) : F(A) \to F(B)であるからG(F(f)):G(F(A))→G(F(B))G(F(f)) : G(F(A)) \to G(F(B))であり、射の対応の型は正しい。合成については

(G∘F)(g∘f)=G(F(g∘f))=G(F(g)∘F(f))=G(F(g))∘G(F(f))(G \circ F)(g \circ f) = G\bigl(F(g \circ f)\bigr) = G\bigl(F(g) \circ F(f)\bigr) = G(F(g)) \circ G(F(f))

が成り立つ。第二の等号はFFの合成の保存、第三の等号はGGの合成の保存による。恒等射については

(G∘F)(idA)=G(F(idA))=G(idF(A))=idG(F(A))(G \circ F)(\mathrm{id}_A) = G\bigl(F(\mathrm{id}_A)\bigr) = G(\mathrm{id}_{F(A)}) = \mathrm{id}_{G(F(A))}

が成り立つ。

(3)を示す。関手は対象の対応と射の対応の組であるから、二つの関手が等しいことは、対象の対応と射の対応がともに一致することである。H∘(G∘F)H \circ (G \circ F)と(H∘G)∘F(H \circ G) \circ Fはいずれも対象AAをH(G(F(A)))H(G(F(A)))へ、射ffをH(G(F(f)))H(G(F(f)))へ送る。F∘idCF \circ \mathrm{id}_{\mathcal C}とidD∘F\mathrm{id}_{\mathcal D} \circ Fはいずれも対象AAをF(A)F(A)へ、射ffをF(f)F(f)へ送る。▨

部分圏へ関手を制限する操作も、関手を与える。

命題 1.4.D\mathcal Dを圏C\mathcal Cの部分圏(§E21.1 定義 4.1)とする。次が成り立つ。

  1. 対象と射をそれ自身へ送る対応J:D→CJ : \mathcal D \to \mathcal Cは関手である。これを包含関手という。
  2. 関手F:C→EF : \mathcal C \to \mathcal Eに対し、FFのD\mathcal Dへの制限をF∣D=F∘JF|_{\mathcal D} = F \circ Jで定める。これは関手D→E\mathcal D \to \mathcal Eであり、D\mathcal Dの対象AAをF(A)F(A)へ、D\mathcal Dの射ffをF(f)F(f)へ送る。

証明.(1)を示す。§E21.1 定義 4.1 条件 (b)により、D\mathcal Dの射f:A→Bf : A \to BはC\mathcal Cの射A→BA \to Bであるから、射の対応の型は正しい。§E21.1 命題 4.2によりD\mathcal Dの合成と恒等射はC\mathcal Cのものの制限であるから、J(g∘f)=g∘f=J(g)∘J(f)J(g \circ f) = g \circ f = J(g) \circ J(f)とJ(idA)=idA=idJ(A)J(\mathrm{id}_A) = \mathrm{id}_A = \mathrm{id}_{J(A)}が成り立つ。

(2)を示す。命題 1.3 (2)により関手の合成は関手であるから、F∘JF \circ Jは関手D→E\mathcal D \to \mathcal Eである。対象と射の対応は(F∘J)(A)=F(A)(F \circ J)(A) = F(A)と(F∘J)(f)=F(f)(F \circ J)(f) = F(f)である。▨

命題 1.5.F:C→DF : \mathcal C \to \mathcal Dを関手とする。C\mathcal Cの射f:A→Bf : A \to Bが同型射ならば、F(f)F(f)はD\mathcal Dの同型射であり

F(f)−1=F(f−1)F(f)^{-1} = F(f^{-1})

が成り立つ。とくにA≅BA \cong BならばF(A)≅F(B)F(A) \cong F(B)である。

証明.f−1f^{-1}をffの逆射とする(§E21.1 命題 6.2)。FFが合成と恒等射を保つことから

F(f−1)∘F(f)=F(f−1∘f)=F(idA)=idF(A)F(f^{-1}) \circ F(f) = F(f^{-1} \circ f) = F(\mathrm{id}_A) = \mathrm{id}_{F(A)}

および

F(f)∘F(f−1)=F(f∘f−1)=F(idB)=idF(B)F(f) \circ F(f^{-1}) = F(f \circ f^{-1}) = F(\mathrm{id}_B) = \mathrm{id}_{F(B)}

が成り立つ。したがってF(f)F(f)は同型射であり、F(f−1)F(f^{-1})はその逆射である。逆射は一意である(§E21.1 命題 6.2)からF(f)−1=F(f−1)F(f)^{-1} = F(f^{-1})である。▨

命題 1.5の逆は成り立たない。F(f)F(f)がD\mathcal Dの同型射であってもffがC\mathcal Cの同型射であるとは限らない。反例は命題 3.1で挙げる。

2 反対圏との関係と反変関手

双対空間をとる操作のように、射の向きを逆にする対応がある。これを扱うために、まず関手が反対圏の間に定める関手を構成する。

命題 2.1.F:C→DF : \mathcal C \to \mathcal Dを関手とする。対象についてFop(A)=F(A)F^{\mathrm{op}}(A) = F(A)、射についてFop(f)=F(f)F^{\mathrm{op}}(f) = F(f)と定めると、FopF^{\mathrm{op}}は関手Cop→Dop\mathcal C^{\mathrm{op}} \to \mathcal D^{\mathrm{op}}である。

証明. 射の対応の型を確かめる。f∈Hom⁡Cop(A,B)=Hom⁡C(B,A)f \in \operatorname{Hom}_{\mathcal C^{\mathrm{op}}}(A, B) = \operatorname{Hom}_{\mathcal C}(B, A)とすると

F(f)∈Hom⁡D(F(B),F(A))=Hom⁡Dop(F(A),F(B))F(f) \in \operatorname{Hom}_{\mathcal D}(F(B), F(A)) = \operatorname{Hom}_{\mathcal D^{\mathrm{op}}}(F(A), F(B))

であるから、Fop(f)F^{\mathrm{op}}(f)はDop\mathcal D^{\mathrm{op}}の射Fop(A)→Fop(B)F^{\mathrm{op}}(A) \to F^{\mathrm{op}}(B)である。

合成の保存を示す。f∈Hom⁡Cop(A,B)f \in \operatorname{Hom}_{\mathcal C^{\mathrm{op}}}(A, B)、g∈Hom⁡Cop(B,C)g \in \operatorname{Hom}_{\mathcal C^{\mathrm{op}}}(B, C)とする。§E21.1 定義 5.1によりg∘opf=f∘gg \circ^{\mathrm{op}} f = f \circ gであるから

Fop(g∘opf)=F(f∘g)=F(f)∘F(g)=Fop(g)∘opFop(f)F^{\mathrm{op}}(g \circ^{\mathrm{op}} f) = F(f \circ g) = F(f) \circ F(g) = F^{\mathrm{op}}(g) \circ^{\mathrm{op}} F^{\mathrm{op}}(f)

が成り立つ。最後の等号はDop\mathcal D^{\mathrm{op}}における合成の定義による。恒等射については、Cop\mathcal C^{\mathrm{op}}とDop\mathcal D^{\mathrm{op}}の恒等射がそれぞれC\mathcal CとD\mathcal Dのものと同じであるから、Fop(idA)=F(idA)=idF(A)F^{\mathrm{op}}(\mathrm{id}_A) = F(\mathrm{id}_A) = \mathrm{id}_{F(A)}が成り立つ。▨

定義 2.2.C\mathcal C、D\mathcal Dを圏とする。C\mathcal CからD\mathcal Dへの反変関手 (contravariant functor) とは、関手F:Cop→DF : \mathcal C^{\mathrm{op}} \to \mathcal Dのことである。

反変関手をC\mathcal Cの対象と射の言葉で書き直すと、次の形になる。

命題 2.3.C\mathcal C、D\mathcal Dを圏とする。次の二つのデータの組を考える。

  1. C\mathcal Cの各対象AAに対するD\mathcal Dの対象F(A)F(A)。
  2. C\mathcal Cの各射f:A→Bf : A \to Bに対するD\mathcal Dの射F(f):F(B)→F(A)F(f) : F(B) \to F(A)。

この組が反変関手Cop→D\mathcal C^{\mathrm{op}} \to \mathcal Dを定めることと、次の二つが成り立つことは同値である。

  1. C\mathcal Cの射f:A→Bf : A \to B、g:B→Cg : B \to CについてF(g∘f)=F(f)∘F(g)F(g \circ f) = F(f) \circ F(g)が成り立つ。
  2. C\mathcal Cの各対象AAについてF(idA)=idF(A)F(\mathrm{id}_A) = \mathrm{id}_{F(A)}が成り立つ。

証明.§E21.1 定義 5.1により、Cop\mathcal C^{\mathrm{op}}の対象はC\mathcal Cの対象であり、Hom⁡Cop(B,A)=Hom⁡C(A,B)\operatorname{Hom}_{\mathcal C^{\mathrm{op}}}(B, A) = \operatorname{Hom}_{\mathcal C}(A, B)である。したがって、上の二つのデータの組は、関手Cop→D\mathcal C^{\mathrm{op}} \to \mathcal Dの対象の対応と射の対応をちょうど与えている。残るのは、関手の二つの条件が上の二つの等式に一致することである。

合成について確かめる。C\mathcal Cの射f:A→Bf : A \to Bとg:B→Cg : B \to Cを取る。Cop\mathcal C^{\mathrm{op}}ではggはC→BC \to Bの射、ffはB→AB \to Aの射であり、Cop\mathcal C^{\mathrm{op}}における合成は

f∘opg=g∘ff \circ^{\mathrm{op}} g = g \circ f

である。したがってCop→D\mathcal C^{\mathrm{op}} \to \mathcal Dの関手としての合成の保存

F(f∘opg)=F(f)∘F(g)F(f \circ^{\mathrm{op}} g) = F(f) \circ F(g)

は、C\mathcal Cの言葉ではF(g∘f)=F(f)∘F(g)F(g \circ f) = F(f) \circ F(g)である。Cop\mathcal C^{\mathrm{op}}の合成可能な射の組は、この形ですべて尽くされる。

恒等射については、Cop\mathcal C^{\mathrm{op}}の恒等射がC\mathcal Cのものと同じであるから、二つの条件は同じ等式である。以上により、二つの条件と二つの等式は同値である。▨

反変関手どうしを合成すると共変関手になる。合成の順序を確かめるために、命題 2.1を用いて型をそろえる。

命題 2.4.F:Cop→DF : \mathcal C^{\mathrm{op}} \to \mathcal DとG:Dop→EG : \mathcal D^{\mathrm{op}} \to \mathcal Eをいずれも反変関手とする。このときG∘FopG \circ F^{\mathrm{op}}は共変関手C→E\mathcal C \to \mathcal Eであり、対象AAをG(F(A))G(F(A))へ、射f:A→Bf : A \to BをE\mathcal Eの射

G(F(f)):G(F(A))⟶G(F(B))G(F(f)) : G(F(A)) \longrightarrow G(F(B))

へ送る。

証明.命題 2.1をFFに適用すると、FopF^{\mathrm{op}}は関手(Cop)op→Dop(\mathcal C^{\mathrm{op}})^{\mathrm{op}} \to \mathcal D^{\mathrm{op}}である。§E21.1 命題 5.2により(Cop)op=C(\mathcal C^{\mathrm{op}})^{\mathrm{op}} = \mathcal Cであるから、FopF^{\mathrm{op}}は関手C→Dop\mathcal C \to \mathcal D^{\mathrm{op}}である。命題 1.3により、合成G∘FopG \circ F^{\mathrm{op}}は関手C→E\mathcal C \to \mathcal Eである。

対応を確かめる。対象については(G∘Fop)(A)=G(F(A))(G \circ F^{\mathrm{op}})(A) = G(F(A))である。C\mathcal Cの射f:A→Bf : A \to BについてはFop(f)=F(f)F^{\mathrm{op}}(f) = F(f)であり、これはD\mathcal Dの射F(B)→F(A)F(B) \to F(A)、すなわちDop\mathcal D^{\mathrm{op}}の射F(A)→F(B)F(A) \to F(B)である。これにGGを施すとE\mathcal Eの射G(F(A))→G(F(B))G(F(A)) \to G(F(B))を得る。▨

3 関手の例

最初の例は、構造の一部を落とす対応である。後続の記事がこの関手を根拠として引くので、命題として述べる。

命題 3.1. 群GGにその台集合U(G)U(G)を対応させ、群準同型f:G→Hf : G \to Hにそれを写像とみなしたものU(f):U(G)→U(H)U(f) : U(G) \to U(H)を対応させる規則は、関手U:Grp→SetU : \mathbf{Grp} \to \mathbf{Set}を定める。同じ規則により、位相空間にその台集合を対応させるU:Top→SetU : \mathbf{Top} \to \mathbf{Set}、線形空間にその台集合を対応させるU:Vectk→SetU : \mathbf{Vect}_k \to \mathbf{Set}、環にその台集合を対応させるU:Ring→SetU : \mathbf{Ring} \to \mathbf{Set}、および単位元をもつ結合環RRに対して左RR加群にその台集合を対応させるU:R-Mod→SetU : R\text{-}\mathbf{Mod} \to \mathbf{Set}と、右RR加群にその台集合を対応させるU:Mod-R→SetU : \mathbf{Mod}\text{-}R \to \mathbf{Set}も関手である。構造の一部を落とすこれらの関手を忘却関手と総称する。忘却関手は特定の一つの関手の名称ではない。

証明.Grp\mathbf{Grp}の場合を示す。群準同型f:G→Hf : G \to Hは写像であるから、U(f)U(f)はSet\mathbf{Set}の射U(G)→U(H)U(G) \to U(H)であり、射の対応の型は正しい。§E21.1 例 2.2によりGrp\mathbf{Grp}の合成は写像の合成であり、恒等射は恒等写像である。したがってSet\mathbf{Set}における等式として

U(g∘f)=U(g)∘U(f),U(idG)=idU(G)U(g \circ f) = U(g) \circ U(f), \qquad U(\mathrm{id}_G) = \mathrm{id}_{U(G)}

がそのまま成り立つ。Top\mathbf{Top}、Vectk\mathbf{Vect}_k、Ring\mathbf{Ring}、R-ModR\text{-}\mathbf{Mod}、Mod-R\mathbf{Mod}\text{-}Rの場合も、§E21.1 例 2.2と§E21.1 例 2.3により、射が写像であり、合成が写像の合成、恒等射が恒等写像であるから、同じ議論による。▨

忘却関手U:Top→SetU : \mathbf{Top} \to \mathbf{Set}は、命題 1.5の逆が成り立たないことを示す。連続な全単射であって同相写像でない写像ffを取る(§E2.12 例 6.9)。U(f)U(f)は全単射であるからSet\mathbf{Set}の同型射である(§E21.1 命題 6.4)。一方ffは同相写像ではないのでTop\mathbf{Top}の同型射ではない。

べき集合をとる操作は、像を取るか逆像を取るかによって、二つの異なる関手を与える。

命題 3.2. 集合AAにそのべき集合P(A)\mathcal P(A)を対応させ、射の対応を次のいずれかで定める。像と逆像は§E1.1 定義 4.1による。

  1. 写像f:A→Bf : A \to Bに対してP∗(f):P(A)→P(B)\mathcal P_*(f) : \mathcal P(A) \to \mathcal P(B)をP∗(f)(S)=f(S)\mathcal P_*(f)(S) = f(S)で定める。このときP∗\mathcal P_*は関手Set→Set\mathbf{Set} \to \mathbf{Set}である。
  2. 写像f:A→Bf : A \to Bに対してP∗(f):P(B)→P(A)\mathcal P^*(f) : \mathcal P(B) \to \mathcal P(A)をP∗(f)(T)=f−1(T)\mathcal P^*(f)(T) = f^{-1}(T)で定める。このときP∗\mathcal P^*は反変関手Setop→Set\mathbf{Set}^{\mathrm{op}} \to \mathbf{Set}である。

同じ対象の対応が、像を取るか逆像を取るかによって共変と反変に分かれる。

証明.(1)を示す。写像f:A→Bf : A \to B、g:B→Cg : B \to CとS⊆AS \subseteq Aについて

(g∘f)(S)={g(f(x))∣x∈S}=g({f(x)∣x∈S})=g(f(S))(g \circ f)(S) = \{g(f(x)) \mid x \in S\} = g\bigl(\{f(x) \mid x \in S\}\bigr) = g(f(S))

であるからP∗(g∘f)=P∗(g)∘P∗(f)\mathcal P_*(g \circ f) = \mathcal P_*(g) \circ \mathcal P_*(f)である。またS⊆AS \subseteq AについてP∗(idA)(S)=S\mathcal P_*(\mathrm{id}_A)(S) = SであるからP∗(idA)=idP(A)\mathcal P_*(\mathrm{id}_A) = \mathrm{id}_{\mathcal P(A)}である。

(2)を示す。T⊆CT \subseteq Cとx∈Ax \in Aについて

x∈(g∘f)−1(T)  ⟺  g(f(x))∈T  ⟺  f(x)∈g−1(T)  ⟺  x∈f−1(g−1(T))x \in (g \circ f)^{-1}(T) \iff g(f(x)) \in T \iff f(x) \in g^{-1}(T) \iff x \in f^{-1}\bigl(g^{-1}(T)\bigr)

であるからP∗(g∘f)=P∗(f)∘P∗(g)\mathcal P^*(g \circ f) = \mathcal P^*(f) \circ \mathcal P^*(g)である。またT⊆AT \subseteq AについてP∗(idA)(T)=T\mathcal P^*(\mathrm{id}_A)(T) = Tである。命題 2.3により、P∗\mathcal P^*は反変関手Setop→Set\mathbf{Set}^{\mathrm{op}} \to \mathbf{Set}である。▨

例 3.3 (双対空間をとる反変関手).kkを体とする。線形空間VVにその双対空間V∗=Hom⁡k(V,k)V^* = \operatorname{Hom}_k(V, k)(§E3.5 定義 1.1)を対応させ、線形写像f:V→Wf : V \to Wに双対写像f∗:W∗→V∗f^* : W^* \to V^*、f∗(φ)=φ∘ff^*(\varphi) = \varphi \circ f(§E3.5 定義 3.1)を対応させる。§E3.5 命題 3.2は、線形写像f:V→Wf : V \to W、g:W→Xg : W \to Xについて

(g∘f)∗=f∗∘g∗,(idV)∗=idV∗(g \circ f)^* = f^* \circ g^*, \qquad (\mathrm{id}_V)^* = \mathrm{id}_{V^*}

が成り立つことを示している。これは命題 2.3の二つの等式であるから、この対応は反変関手

(−)∗:Vectkop⟶Vectk(-)^* : \mathbf{Vect}_k^{\mathrm{op}} \longrightarrow \mathbf{Vect}_k

を定める。「双対空間と双対写像」は双対空間をV∨V^{\vee}と書いているが、本単元ではV∗V^*と書く。

対象の対応が定まっていても、射の対応が定まるとは限らない。

例 3.4 (関手を定めない対応). 群GGにその中心Z(G)Z(G)(§E7.12 定義 1.1)を対応させ、群準同型f:G→Hf : G \to HにffのZ(G)Z(G)への制限を対応させる規則は、Grp\mathbf{Grp}からGrp\mathbf{Grp}への関手を定めない。

対称群S3S_3(§E7.4 定義 1.1)を用いる。積は写像の合成であり、τσ\tau \sigmaは右側のσ\sigmaを先に作用させる。巡回置換の記法は§E7.4 定義 2.1による。τ=(1 2)∈S3\tau = (1\ 2) \in S_3とし、G={id,τ}G = \{\mathrm{id}, \tau\}をτ\tauが生成する部分群、f:G→S3f : G \to S_3を包含準同型とする。GGはアーベル群であるからZ(G)=GZ(G) = Gであり、τ∈Z(G)\tau \in Z(G)である。一方、σ=(1 2 3)\sigma = (1\ 2\ 3)とすると

τσ=(2 3),στ=(1 3)\tau \sigma = (2\ 3), \qquad \sigma \tau = (1\ 3)

であり、両者は異なる。したがってτ\tauはS3S_3の中心に属さない。ffのZ(G)Z(G)への制限はτ\tauをτ\tauへ送るから、Z(G)Z(G)からZ(S3)Z(S_3)への写像を与えない。すなわち射の対応が定義されない。

4 自由群の構成が定める関手

自由群の構成は、集合の圏から群の圏への対象の対応を与える。射の対応は、自由群の普遍性の一意性から定まる。普遍性そのものは「自由群・自由積と群の表示」が証明しているので、本記事では引用する。

以下、集合SS上の自由群をFree(S)\mathrm{Free}(S)と書く。「自由群・自由積と群の表示」は自由群をF(S)F(S)と書いているが、本記事では関手を表す記号と区別するためにFree\mathrm{Free}を用いる。

命題 4.1. 集合SSに対し、Free(S)\mathrm{Free}(S)をSS上の自由群(§E7.9 定義 1.4)、ιS:S→U(Free(S))\iota_S : S \to U(\mathrm{Free}(S))を標準的な写像とする。ここでU:Grp→SetU : \mathbf{Grp} \to \mathbf{Set}は忘却関手である。§E7.9 定理 1.6により、任意の群GGと任意の写像h:S→U(G)h : S \to U(G)に対して

U(h^)∘ιS=hU(\widehat h) \circ \iota_S = h

を満たす群準同型h^:Free(S)→G\widehat h : \mathrm{Free}(S) \to Gがただ一つ存在する。

写像u:S→Tu : S \to Tに対して、Free(u):Free(S)→Free(T)\mathrm{Free}(u) : \mathrm{Free}(S) \to \mathrm{Free}(T)を、写像ιT∘u:S→U(Free(T))\iota_T \circ u : S \to U(\mathrm{Free}(T))に対応する一意な群準同型として定める。この対応によりFree\mathrm{Free}は関手Set→Grp\mathbf{Set} \to \mathbf{Grp}である。

証明. 定義により、u:S→Tu : S \to Tに対するFree(u)\mathrm{Free}(u)は

U(Free(u))∘ιS=ιT∘u(1)U(\mathrm{Free}(u)) \circ \iota_S = \iota_T \circ u \tag{1}

を満たす唯一の群準同型である。

恒等射の保存を示す。u=idSu = \mathrm{id}_Sとすると、式 (1) はU(Free(idS))∘ιS=ιSU(\mathrm{Free}(\mathrm{id}_S)) \circ \iota_S = \iota_Sである。一方、UUが関手であること(命題 3.1)から

U(idFree(S))∘ιS=idU(Free(S))∘ιS=ιSU(\mathrm{id}_{\mathrm{Free}(S)}) \circ \iota_S = \mathrm{id}_{U(\mathrm{Free}(S))} \circ \iota_S = \iota_S

が成り立つ。したがってFree(idS)\mathrm{Free}(\mathrm{id}_S)とidFree(S)\mathrm{id}_{\mathrm{Free}(S)}はともに、写像ιS:S→U(Free(S))\iota_S : S \to U(\mathrm{Free}(S))に対応する群準同型である。普遍性の一意性によりFree(idS)=idFree(S)\mathrm{Free}(\mathrm{id}_S) = \mathrm{id}_{\mathrm{Free}(S)}である。

合成の保存を示す。写像u:S→Tu : S \to T、v:T→Rv : T \to Rを取る。UUが関手であることと式 (1) を二度用いると

U(Free(v)∘Free(u))∘ιS=U(Free(v))∘U(Free(u))∘ιS=U(Free(v))∘ιT∘u=ιR∘v∘uU\bigl(\mathrm{Free}(v) \circ \mathrm{Free}(u)\bigr) \circ \iota_S = U(\mathrm{Free}(v)) \circ U(\mathrm{Free}(u)) \circ \iota_S = U(\mathrm{Free}(v)) \circ \iota_T \circ u = \iota_R \circ v \circ u

が成り立つ。一方、式 (1) をv∘u:S→Rv \circ u : S \to Rに対して用いると

U(Free(v∘u))∘ιS=ιR∘(v∘u)U\bigl(\mathrm{Free}(v \circ u)\bigr) \circ \iota_S = \iota_R \circ (v \circ u)

である。したがってFree(v)∘Free(u)\mathrm{Free}(v) \circ \mathrm{Free}(u)とFree(v∘u)\mathrm{Free}(v \circ u)はともに、写像ιR∘v∘u:S→U(Free(R))\iota_R \circ v \circ u : S \to U(\mathrm{Free}(R))に対応する群準同型である。普遍性の一意性により両者は等しい。▨

この証明は、自由群の元が語であることを一度も用いていない。用いたのは、普遍性が主張する群準同型の存在と一意性、および忘却関手が関手であることだけである。

例 4.2 (自由群の関手性の具体的な確認).S={a,b}S = \{a, b\}とし、u:S→Su : S \to Sをu(a)=bu(a) = b、u(b)=au(b) = aで定める。Free(u)\mathrm{Free}(u)はιS∘u\iota_S \circ uに対応する群準同型であるから、生成元aaをbbへ、bbをaaへ送る。§E7.9 定理 1.6が与える具体的な式により、Free(u)\mathrm{Free}(u)は簡約語の各文字を入れ替える。たとえばab−1aa b^{-1} aはba−1bb a^{-1} bへ写る。

u∘u=idSu \circ u = \mathrm{id}_Sであるから、命題 4.1により

Free(u)∘Free(u)=Free(u∘u)=Free(idS)=idFree(S)\mathrm{Free}(u) \circ \mathrm{Free}(u) = \mathrm{Free}(u \circ u) = \mathrm{Free}(\mathrm{id}_S) = \mathrm{id}_{\mathrm{Free}(S)}

である。実際、ab−1aa b^{-1} aはba−1bb a^{-1} bを経てab−1aa b^{-1} aへ戻る。したがってFree(u)\mathrm{Free}(u)はGrp\mathbf{Grp}の同型射であり、命題 1.5の主張と整合する。

5 演習

問題 5.1.

  1. 命題 1.5の証明を、逆射の一意性を用いた箇所を明示して再現せよ。
  2. P∗\mathcal P^*が反変関手であることを、命題 2.3を経由せず、Setop\mathbf{Set}^{\mathrm{op}}からの関手の定義に直接戻って確かめよ。
  3. F:Cop→DF : \mathcal C^{\mathrm{op}} \to \mathcal Dを反変関手、G:D→EG : \mathcal D \to \mathcal Eを共変関手とする。G∘FG \circ FがC\mathcal CからE\mathcal Eへの反変関手であることを示せ。また、FFが共変でGGが反変である場合に、合成がどちらになるかを型を追って述べよ。
  4. 中心をとる対応が関手を定めないことを、例 3.4と異なる群と準同型の組で示せ。
  5. 命題 4.1の証明で、自由群の普遍性の一意性を用いた箇所をすべて挙げ、存在の部分をどこで用いたかを述べよ。
  6. 忘却関手U:Grp→SetU : \mathbf{Grp} \to \mathbf{Set}について、U(f)U(f)がSet\mathbf{Set}の同型射であるならばffがGrp\mathbf{Grp}の同型射であることを示せ。この結論がU:Top→SetU : \mathbf{Top} \to \mathbf{Set}では成り立たない理由を述べよ。

6 扱った範囲と次の記事

本記事では、関手、恒等関手、関手の合成、部分圏への制限、および反変関手を定義し、関手が同型射を保つことを証明した。例として、忘却関手、べき集合をとる二つの関手、双対空間をとる反変関手、自由群の構成が定める関手を扱い、対象の対応だけでは関手にならない例を挙げた。

次の記事「自然変換と関手圏」は、同じ二つの圏の間の二つの関手を比べる射として自然変換を定義し、関手を対象、自然変換を射とする圏を構成する。関手が極限を保つかどうかは「極限と余極限」以降が扱う。忘却関手と自由構成が対をなすことは「随伴」が随伴として定式化する。関手と自然変換が作る二段の構造を圏として体系的に扱う枠組みは「圏論 II」が扱う。

参考文献

  1. Saunders Mac Lane, Categories for the Working Mathematician, 2nd ed., Graduate Texts in Mathematics 5, Springer, New York, 1998.関手、恒等関手、関手の合成および忘却関手を参考にした。
  2. Emily Riehl, Category Theory in Context, Dover Publications, 2016.共変関手と反変関手、および具体的な関手の例を参考にした。
  3. Steve Awodey, Category Theory, 2nd ed., Oxford Logic Guides 49, Oxford University Press, Oxford, 2010.自由構成が関手を定めることを普遍性から導く議論を参考にした。

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