§E21.4極限と余極限

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集合の直積、群の直積、位相空間の積位相は、それぞれの単元で別々に構成された。これらの構成には共通の形がある。どの場合にも、いくつかの対象と射の配置が先に与えられ、その配置と両立する射の全体が一つの対象へ集約される。集約先の対象は、内部の元によってではなく、そこへ向かう射が存在してただ一つに定まるという条件によって特徴づけられている。

本記事は、この形を圏の言葉で定式化する。小さい圏J\mathcal Jから圏C\mathcal Cへの関手を図式と呼び、図式の上の錐を定める。次に、錐のうち他のすべての錐がただ一つの射を通って分解するものを極限と定義する。射の向きを反転した概念として余錐と余極限を定め、両者が反対圏をとる操作によって移り合うことを証明する。最後に、極限が錐の同型を除いて一意であることを、一般の図式について一度だけ証明する。

始対象と終対象、直積と余積、pullback と pushout、equalizer と coequalizer は、添字圏J\mathcal Jを取り替えた特殊な場合であり、次の記事「極限・余極限の特殊な場合」がそれらを導く。集合、群、ベクトル空間、位相空間および順序集合の圏における具体的な計算は「極限・余極限の計算」が扱う。

本記事は、極限と余極限が存在することを仮定しない。すべての主張は「存在すれば」という条件のもとで述べる。極限をもたない図式が存在することは、前順序集合の例で示す。圏、関手、恒等射、合成、反対圏および同型射については「圏と反対圏」と「関手」の定義を用いる。

1 図式と錐

図式を、対象と射の配置という独立の概念として導入することはしない。配置の形を小さい圏J\mathcal Jが担い、その形を圏C\mathcal Cの中へ実現する対応を関手D:J→CD : \mathcal J \to \mathcal Cが担う。関手であることが、J\mathcal Jの合成と恒等射をC\mathcal Cの合成と恒等射へ移すことを保証する。

定義 1.1.J\mathcal Jを小さい圏、すなわちOb⁡(J)\operatorname{Ob}(\mathcal J)とJ\mathcal Jの射の全体がともに集合である圏とし、C\mathcal Cを圏とする。関手D:J→CD : \mathcal J \to \mathcal Cを、C\mathcal CにおけるJ\mathcal J型の図式 (diagram) という。J\mathcal JをDDの添字圏 (index category) という。

DD上の錐 (cone) とは、C\mathcal Cの対象XXと射の族(ψj:X→D(j))j∈Ob⁡(J)(\psi_j : X \to D(j))_{j \in \operatorname{Ob}(\mathcal J)}の組(X,(ψj))(X, (\psi_j))であって、J\mathcal Jの任意の射u:i→ju : i \to jについて

D(u)∘ψi=ψjD(u) \circ \psi_i = \psi_j

を満たすものをいう。対象XXをこの錐の頂点 (vertex) という。

DDの極限 (limit) とは、DD上の錐(L,(πj))(L, (\pi_j))であって、DD上の任意の錐(X,(ψj))(X, (\psi_j))に対して

πj∘t=ψj(j∈Ob⁡(J))\pi_j \circ t = \psi_j \qquad (j \in \operatorname{Ob}(\mathcal J))

をすべて満たす射t:X→Lt : X \to Lがただ一つ存在するものをいう。この(L,(πj))(L, (\pi_j))をDDの極限錐 (limit cone)、各πj\pi_jをその射影 (projection) という。極限が存在するとき、その頂点をlim⁡D\lim Dと書く。

錐の等式に現れる射uuはJ\mathcal Jの射であり、等式そのものはC\mathcal Cにおける等式である。J\mathcal Jの恒等射に対する等式は自動的に成り立つ。実際、DDが関手であることからD(idj)=idD(j)D(\mathrm{id}_j) = \mathrm{id}_{D(j)}であり(§E21.2 定義 1.1)、C\mathcal Cの単位律(§E21.1 定義 1.1)によりD(idj)∘ψj=ψjD(\mathrm{id}_j) \circ \psi_j = \psi_jとなる。したがって錐の条件は、J\mathcal Jの非恒等射についてだけ確かめればよい。

注意 1.2 (添字圏の大きさ). 本記事および本単元は、添字圏J\mathcal Jを小さい圏に限る。この制限は、次の記事で極限を直積と equalizer から構成するときに、Ob⁡(J)\operatorname{Ob}(\mathcal J)とJ\mathcal Jの射の全体を族の添字集合として用いるために必要である。集合でない大きさの添字を扱うための枠組みは「圏論 II」が扱う。

図式の添字圏を一つ固定すると、極限の条件が具体的な等式へ書き換わる。もっとも単純な非自明の場合を確かめる。

例 1.3 (一つの非恒等射をもつ図式の極限).J\mathcal Jを、対象が11と22の二つ、射がid1\mathrm{id}_1、id2\mathrm{id}_2およびu:1→2u : 1 \to 2の三つからなる圏とする。合成は単位律で定まり、非恒等射どうしの合成は現れない。Ob⁡(J)\operatorname{Ob}(\mathcal J)と射の全体は有限集合なので、J\mathcal Jは小さい圏である。

図式D:J→CD : \mathcal J \to \mathcal Cを与えることは、C\mathcal Cの射f:A→Bf : A \to Bを与えることと同じである。ここでA=D(1)A = D(1)、B=D(2)B = D(2)、f=D(u)f = D(u)とおいた。

DD上の錐は、対象XXと射ψ1:X→A\psi_1 : X \to A、ψ2:X→B\psi_2 : X \to Bの組であってf∘ψ1=ψ2f \circ \psi_1 = \psi_2を満たすものである。したがってψ1\psi_1を与えるとψ2\psi_2が定まり、逆に任意のψ1:X→A\psi_1 : X \to Aから錐(X,(ψ1,f∘ψ1))(X, (\psi_1, f \circ \psi_1))が得られる。

組(A,(idA,f))(A, (\mathrm{id}_A, f))は錐である。実際f∘idA=ff \circ \mathrm{id}_A = fが成り立つ。この錐が極限であることを示す。(X,(ψ1,ψ2))(X, (\psi_1, \psi_2))を錐とする。条件idA∘t=ψ1\mathrm{id}_A \circ t = \psi_1はt=ψ1t = \psi_1と同値なので、条件を満たすttは高々一つである。t=ψ1t = \psi_1とおくと、残る条件f∘t=ψ2f \circ t = \psi_2は錐の等式f∘ψ1=ψ2f \circ \psi_1 = \psi_2そのものであるから成り立つ。ゆえに条件を満たすttがただ一つ存在し、(A,(idA,f))(A, (\mathrm{id}_A, f))はDDの極限でありlim⁡D=A\lim D = Aである。

2 余錐と余極限

錐の射の向きをすべて反転すると、図式から射を受け取る側の概念が得られる。

定義 2.1.D:J→CD : \mathcal J \to \mathcal Cを図式とする。DD上の余錐 (cocone) とは、C\mathcal Cの対象XXと射の族(φj:D(j)→X)j∈Ob⁡(J)(\varphi_j : D(j) \to X)_{j \in \operatorname{Ob}(\mathcal J)}の組(X,(φj))(X, (\varphi_j))であって、J\mathcal Jの任意の射u:i→ju : i \to jについて

φj∘D(u)=φi\varphi_j \circ D(u) = \varphi_i

を満たすものをいう。対象XXをこの余錐の頂点 (vertex) という。

DDの余極限 (colimit) とは、DD上の余錐(C,(ιj))(C, (\iota_j))であって、DD上の任意の余錐(X,(φj))(X, (\varphi_j))に対して

t∘ιj=φj(j∈Ob⁡(J))t \circ \iota_j = \varphi_j \qquad (j \in \operatorname{Ob}(\mathcal J))

をすべて満たす射t:C→Xt : C \to Xがただ一つ存在するものをいう。この(C,(ιj))(C, (\iota_j))をDDの余極限余錐 (colimit cocone)、各ιj\iota_jをその入射 (injection) という。余極限が存在するとき、その頂点をcolim⁡D\operatorname{colim} Dと書く。

錐と余錐で射の向きが逆であることに加えて、等式の中でD(u)D(u)を合成する側も逆である。錐ではD(u)D(u)を左から合成し、余錐では右から合成する。次の命題は、この二つの向きの違いが、反対圏をとる操作の一つの帰結であることを述べる。

命題 2.2.D:J→CD : \mathcal J \to \mathcal Cを図式とする。対象についてはDop(j)=D(j)D^{\mathrm{op}}(j) = D(j)、射については、Jop\mathcal J^{\mathrm{op}}の射v∈Hom⁡Jop(j,i)=Hom⁡J(i,j)v \in \operatorname{Hom}_{\mathcal J^{\mathrm{op}}}(j, i) = \operatorname{Hom}_{\mathcal J}(i, j)に対して

Dop(v)=D(v)∈Hom⁡C(D(i),D(j))=Hom⁡Cop(D(j),D(i))D^{\mathrm{op}}(v) = D(v) \in \operatorname{Hom}_{\mathcal C}(D(i), D(j)) = \operatorname{Hom}_{\mathcal C^{\mathrm{op}}}(D(j), D(i))

と定めると、DopD^{\mathrm{op}}は関手Jop→Cop\mathcal J^{\mathrm{op}} \to \mathcal C^{\mathrm{op}}であり、Jop\mathcal J^{\mathrm{op}}は小さい圏である。

このとき、組(X,(φj))(X, (\varphi_j))がDD上の余錐であることと、DopD^{\mathrm{op}}上の錐であることは同値である。さらに、(C,(ιj))(C, (\iota_j))がDDの余極限であることと、DopD^{\mathrm{op}}の極限であることは同値である。

証明. はじめにDopD^{\mathrm{op}}が関手であることを示す。Jop\mathcal J^{\mathrm{op}}の射v:j→iv : j \to iとw:i→hw : i \to hを取る。反対圏の定義(§E21.1 定義 5.1)により、これらはJ\mathcal Jの射v:i→jv : i \to jとw:h→iw : h \to iにほかならず、w∘opvw \circ^{\mathrm{op}} vはJ\mathcal Jの射v∘w:h→jv \circ w : h \to jである。したがって

Dop(w∘opv)=D(v∘w)=D(v)∘D(w)D^{\mathrm{op}}(w \circ^{\mathrm{op}} v) = D(v \circ w) = D(v) \circ D(w)

である。一方、Cop\mathcal C^{\mathrm{op}}における合成Dop(w)∘opDop(v)D^{\mathrm{op}}(w) \circ^{\mathrm{op}} D^{\mathrm{op}}(v)は、C\mathcal Cの合成としてはDop(v)∘Dop(w)=D(v)∘D(w)D^{\mathrm{op}}(v) \circ D^{\mathrm{op}}(w) = D(v) \circ D(w)である。両者は一致する。恒等射についてはDop(idj)=D(idj)=idD(j)D^{\mathrm{op}}(\mathrm{id}_j) = D(\mathrm{id}_j) = \mathrm{id}_{D(j)}である。ゆえにDopD^{\mathrm{op}}は関手である。Jop\mathcal J^{\mathrm{op}}の対象の全体はOb⁡(J)\operatorname{Ob}(\mathcal J)に等しく、射の全体はJ\mathcal Jの射の全体に等しいので、Jop\mathcal J^{\mathrm{op}}も小さい圏である。

次に錐と余錐の対応を示す。Cop\mathcal C^{\mathrm{op}}の射ψj:X→Dop(j)\psi_j : X \to D^{\mathrm{op}}(j)は、C\mathcal Cの射φj:D(j)→X\varphi_j : D(j) \to Xにほかならない。Jop\mathcal J^{\mathrm{op}}の射v:j→iv : j \to iを取り、対応するJ\mathcal Jの射をu:i→ju : i \to jと書く。DopD^{\mathrm{op}}上の錐の条件は

Dop(v)∘opψj=ψiD^{\mathrm{op}}(v) \circ^{\mathrm{op}} \psi_j = \psi_i

である。左辺はC\mathcal Cの合成としてはψj∘Dop(v)\psi_j \circ D^{\mathrm{op}}(v)、すなわちφj∘D(u)\varphi_j \circ D(u)であり、右辺はφi\varphi_iである。したがってこの条件はφj∘D(u)=φi\varphi_j \circ D(u) = \varphi_iと同値であり、DD上の余錐の条件に一致する。Jop\mathcal J^{\mathrm{op}}の射とJ\mathcal Jの射は一対一に対応するので、条件はすべての射について同時に対応する。

最後に普遍性を対応させる。(C,(ιj))(C, (\iota_j))をDopD^{\mathrm{op}}上の錐とする。DopD^{\mathrm{op}}上の任意の錐(X,(ψj))(X, (\psi_j))に対してιj∘opt=ψj\iota_j \circ^{\mathrm{op}} t = \psi_jを満たすCop\mathcal C^{\mathrm{op}}の射t:X→Ct : X \to Cがただ一つ存在するという条件を、C\mathcal Cの言葉で書き直す。ttはC\mathcal Cの射t:C→Xt : C \to Xであり、ιj∘opt\iota_j \circ^{\mathrm{op}} tはC\mathcal Cの合成としてはt∘ιjt \circ \iota_jである。したがって条件は、DD上の任意の余錐(X,(φj))(X, (\varphi_j))に対してt∘ιj=φjt \circ \iota_j = \varphi_jを満たすt:C→Xt : C \to Xがただ一つ存在することと同値であり、これは(C,(ιj))(C, (\iota_j))がDDの余極限であることにほかならない。▨

注意 2.3 (双対性の原理).命題 2.2により、余錐と余極限についての主張は、圏C\mathcal CをCop\mathcal C^{\mathrm{op}}へ、添字圏J\mathcal JをJop\mathcal J^{\mathrm{op}}へ、図式DDをDopD^{\mathrm{op}}へ置き換えることで、錐と極限についての主張に移る。書き換えの手続きは次の三つである。

  1. 各射の始域と終域を入れ換える。
  2. 合成g∘fg \circ fをf∘gf \circ gに置き換える。
  3. 錐、極限、射影という語を、余錐、余極限、入射に置き換える。

§E21.1 命題 5.2により(Cop)op=C(\mathcal C^{\mathrm{op}})^{\mathrm{op}} = \mathcal Cが成り立つので、この書き換えは二度行うと元へ戻る。したがって、極限についての主張を証明すれば、対応する余極限についての主張の証明を別に書く必要はない。「圏と反対圏」の§E21.1 注意 5.4が定めるとおり、本記事と次の記事は、双対の主張が必要になる箇所でそれをCop\mathcal C^{\mathrm{op}}における主張として書き下し、同じ形の証明を二度書かない。

例 2.4 (一つの非恒等射をもつ図式の余極限).例 1.3と同じ添字圏J\mathcal Jと同じ図式DD、すなわちC\mathcal Cの射f:A→Bf : A \to Bを取る。

DD上の余錐は、対象XXと射φ1:A→X\varphi_1 : A \to X、φ2:B→X\varphi_2 : B \to Xの組であってφ2∘f=φ1\varphi_2 \circ f = \varphi_1を満たすものである。したがってφ2\varphi_2を与えるとφ1\varphi_1が定まる。

組(B,(f,idB))(B, (f, \mathrm{id}_B))は余錐である。実際idB∘f=f\mathrm{id}_B \circ f = fが成り立つ。(X,(φ1,φ2))(X, (\varphi_1, \varphi_2))を余錐とすると、条件t∘idB=φ2t \circ \mathrm{id}_B = \varphi_2はt=φ2t = \varphi_2と同値なので、条件を満たすttは高々一つである。t=φ2t = \varphi_2とおくと、残る条件t∘f=φ1t \circ f = \varphi_1は余錐の等式そのものであるから成り立つ。ゆえに(B,(f,idB))(B, (f, \mathrm{id}_B))はDDの余極限でありcolim⁡D=B\operatorname{colim} D = Bである。

3 極限の一意性

極限の定義は、対象LLの内部の構造を一切用いていない。用いているのは、他のすべての錐からLLへ射がただ一つ存在するという条件だけである。この条件だけから、極限が同型を除いて定まることが従う。

証明の方針は次のとおりである。二つの極限(L,(πj))(L, (\pi_j))と(L′,(πj′))(L', (\pi'_j))を取り、一方の錐としての性質と他方の極限としての性質を組み合わせて、両向きの射t:L→L′t : L \to L'とs:L′→Ls : L' \to Lを作る。次に、合成s∘ts \circ tがLLの射影と両立することを確かめる。ここで用いる本質的な一手は、極限の定義に現れる射の一意性を、錐(L,(πj))(L, (\pi_j))自身へ適用することである。この錐からLLへの射で射影と両立するものは高々一つであり、s∘ts \circ tとidL\mathrm{id}_Lの双方がその条件を満たすので、両者は一致する。

定理 3.1.D:J→CD : \mathcal J \to \mathcal Cを図式とし、(L,(πj))(L, (\pi_j))と(L′,(πj′))(L', (\pi'_j))をともにDDの極限とする。このとき

πj′∘t=πj(j∈Ob⁡(J))\pi'_j \circ t = \pi_j \qquad (j \in \operatorname{Ob}(\mathcal J))

をすべて満たす射t:L→L′t : L \to L'がただ一つ存在し、そのttは同型射である。

証明.(L,(πj))(L, (\pi_j))はDD上の錐であり、(L′,(πj′))(L', (\pi'_j))はDDの極限である。極限の定義を錐(L,(πj))(L, (\pi_j))へ適用すると、すべてのj∈Ob⁡(J)j \in \operatorname{Ob}(\mathcal J)についてπj′∘t=πj\pi'_j \circ t = \pi_jを満たす射t:L→L′t : L \to L'がただ一つ存在する。これが主張の前半である。

同じ議論を役割を入れ換えて行う。(L′,(πj′))(L', (\pi'_j))は錐であり(L,(πj))(L, (\pi_j))は極限であるから、すべてのjjについてπj∘s=πj′\pi_j \circ s = \pi'_jを満たす射s:L′→Ls : L' \to Lがただ一つ存在する。

合成s∘t:L→Ls \circ t : L \to Lを考える。C\mathcal Cの結合律(§E21.1 定義 1.1)により、各jjについて

πj∘(s∘t)=(πj∘s)∘t=πj′∘t=πj\pi_j \circ (s \circ t) = (\pi_j \circ s) \circ t = \pi'_j \circ t = \pi_j

が成り立つ。一方、C\mathcal Cの単位律によりπj∘idL=πj\pi_j \circ \mathrm{id}_L = \pi_jである。ここで、極限の定義を錐(L,(πj))(L, (\pi_j))と極限(L,(πj))(L, (\pi_j))の組に対して適用する。すなわち、すべてのjjについてπj∘r=πj\pi_j \circ r = \pi_jを満たす射r:L→Lr : L \to Lはただ一つである。射s∘ts \circ tと射idL\mathrm{id}_Lはともにこの条件を満たすので、

s∘t=idLs \circ t = \mathrm{id}_L

である。

同様に、各jjについてπj′∘(t∘s)=(πj′∘t)∘s=πj∘s=πj′\pi'_j \circ (t \circ s) = (\pi'_j \circ t) \circ s = \pi_j \circ s = \pi'_jであり、πj′∘idL′=πj′\pi'_j \circ \mathrm{id}_{L'} = \pi'_jである。極限(L′,(πj′))(L', (\pi'_j))に対する射の一意性からt∘s=idL′t \circ s = \mathrm{id}_{L'}を得る。

二つの等式は、ssがttの逆射であることを示す。したがってttは同型射である。▨

系 3.2.D:J→CD : \mathcal J \to \mathcal Cを図式とし、(C,(ιj))(C, (\iota_j))と(C′,(ιj′))(C', (\iota'_j))をともにDDの余極限とする。このとき

t∘ιj=ιj′(j∈Ob⁡(J))t \circ \iota_j = \iota'_j \qquad (j \in \operatorname{Ob}(\mathcal J))

をすべて満たす射t:C→C′t : C \to C'がただ一つ存在し、そのttは同型射である。

証明.命題 2.2により、(C,(ιj))(C, (\iota_j))と(C′,(ιj′))(C', (\iota'_j))はともにCop\mathcal C^{\mathrm{op}}における図式DopD^{\mathrm{op}}の極限である。定理 3.1を、第一の極限を(C′,(ιj′))(C', (\iota'_j))、第二の極限を(C,(ιj))(C, (\iota_j))としてCop\mathcal C^{\mathrm{op}}で適用すると、Cop\mathcal C^{\mathrm{op}}の射t~:C′→C\tilde t : C' \to Cで、すべてのjjについて

ιj∘opt~=ιj′\iota_j \circ^{\mathrm{op}} \tilde t = \iota'_j

を満たすものがただ一つ存在し、t~\tilde tはCop\mathcal C^{\mathrm{op}}の同型射である。

これをC\mathcal Cの言葉へ戻す。t~\tilde tはC\mathcal Cの射t:C→C′t : C \to C'であり、ιj∘opt~\iota_j \circ^{\mathrm{op}} \tilde tはC\mathcal Cの合成としてはt∘ιjt \circ \iota_jである。したがって条件はt∘ιj=ιj′t \circ \iota_j = \iota'_jとなり、そのようなttはただ一つである。また、Cop\mathcal C^{\mathrm{op}}における逆射はC\mathcal Cにおける逆射にほかならないので、ttはC\mathcal Cの同型射である。▨

注意 3.3 (lim⁡D\lim Dという記号が指すもの).定理 3.1は、DDの極限が一つの対象として定まることを主張していない。主張しているのは、二つの極限錐の頂点の間に、射影と両立する同型射がただ一つ存在することである。したがってlim⁡D\lim Dという記号は、極限が存在するときに一つ選んだ極限錐の頂点を表す。別の選び方をした場合の結果は、この同型射によって移り合う。

同型射が射影と両立するという条件を落とすと、一意性は成り立たない。頂点どうしの同型射は一般に複数存在しうるからである。極限の一意性を用いるときは、どの錐に関して両立するのかを常に指定する。

4 前順序集合における極限と余極限

前順序集合を圏とみなすと、錐と余錐が下界と上界に一致し、極限と余極限が下限と上限に一致する。この例では、極限をもたない図式を作ることもできる。上界、下界、上限、下限は、§E1.8 定義 2.1が前順序集合について定めたものを用いる。上界の条件は、§E1.8 定義 2.4が半順序集合について定めたものと同じ形であり、反対称律を用いないので前順序集合についてもそのまま読むことができる。

例 4.1 (前順序集合の極限は下限である).(P,≤)(P, \le)を前順序集合(§E1.8 定義 1.1)とし、§E21.1 命題 3.1によって定まる圏をP\mathcal Pとする。P\mathcal Pの対象はPPの元であり、x≤yx \le yのときHom⁡P(x,y)\operatorname{Hom}_{\mathcal P}(x, y)はただ一つの元からなり、そうでないとき空集合である。

J\mathcal Jを小さい圏、D:J→PD : \mathcal J \to \mathcal Pを図式とする。頂点をxxとする錐の等式D(u)∘ψi=ψjD(u) \circ \psi_i = \psi_j(u:i→ju : i \to j)を見る。両辺はともにxxからD(j)D(j)への射であり、Hom⁡P(x,D(j))\operatorname{Hom}_{\mathcal P}(x, D(j))は高々一つの元しかもたないので、この等式は自動的に成り立つ。ゆえにDD上の錐は、PPの元xxであって、すべてのj∈Ob⁡(J)j \in \operatorname{Ob}(\mathcal J)についてx≤D(j)x \le D(j)を満たすもの、すなわち集合{D(j)∣j∈Ob⁡(J)}\{ D(j) \mid j \in \operatorname{Ob}(\mathcal J) \}の下界と同じものである。

極限の条件は、下界ℓ\ellであって、任意の下界xxについて射x→ℓx \to \ellが存在すること、すなわちx≤ℓx \le \ellが成り立つことである。射の一意性は、hom 集合が高々一つの元しかもたないことから自動的に成り立つ。したがってDDの極限は{D(j)∣j∈Ob⁡(J)}\{ D(j) \mid j \in \operatorname{Ob}(\mathcal J) \}の下限にほかならない。双対に、DD上の余錐は同じ集合の上界であり、余極限は上限である。

前順序では反対称律を仮定していないので、下限は一つに定まるとは限らない。ℓ\ellとℓ′\ell'がともに下限であればℓ≤ℓ′\ell \le \ell'かつℓ′≤ℓ\ell' \le \ellが成り立つだけである。この二本の射が互いに逆であることが、定理 3.1の与える同型にあたる。半順序集合では反対称律によりℓ=ℓ′\ell = \ell'となるので、下限は一つに定まる(§E1.8 命題 2.3)。次の記事「極限・余極限の特殊な場合」が同じ計算を半順序集合に限って扱うのは、束との対応を等式として述べるためである。

極限をもたない図式が存在する。P={a,b}P = \{a, b\}とし、順序をa≤aa \le aとb≤bb \le bだけで定める。J\mathcal Jを、対象が11と22、射が恒等射だけからなる圏とし、D(1)=aD(1) = a、D(2)=bD(2) = bとする。DD上の錐はx≤ax \le aかつx≤bx \le bを満たすx∈Px \in Pであるが、a≤ba \le bもb≤ab \le aも成り立たないので、そのようなxxは存在しない。DD上の錐が一つも存在しないので、DDの極限も存在しない。

5 演習

問題 5.1.

  1. 定義 1.1の錐の条件を、J\mathcal Jの恒等射に対して書き下し、関手の条件と圏の単位律だけからそれが自動的に成り立つことを示せ。
  2. 命題 2.2の証明のうち、余錐の等式φj∘D(u)=φi\varphi_j \circ D(u) = \varphi_iがCop\mathcal C^{\mathrm{op}}における錐の等式へ移る箇所を、合成の順序の反転を各段階で明示して再現せよ。
  3. 定理 3.1の証明でs∘t=idLs \circ t = \mathrm{id}_Lを導いた箇所について、そこで用いた射の一意性がどの錐とどの極限の組に対する一意性であるかを明示して、証明を書き直せ。
  4. J\mathcal Jが対象∗\astを一つだけもち、射がid∗\mathrm{id}_\astだけからなる圏である場合を考える。図式D:J→CD : \mathcal J \to \mathcal Cの極限と余極限がともに存在し、いずれも頂点がD(∗)D(\ast)であることを証明せよ。
  5. 例 4.1の末尾で用いた前順序集合P={a,b}P = \{a, b\}(順序はa≤aa \le aとb≤bb \le bだけ)において、余極限をもたない図式を一つ作り、その図式上の余錐が存在しないことを確かめよ。
  6. 注意 3.3の主張にしたがって、lim⁡D\lim Dという記号が特定の対象を指すものではないことを、定理 3.1のどの部分がその根拠になるかを示して説明せよ。

6 扱った範囲と次の記事

本記事では、小さい圏からの関手として図式を定め、その上の錐と余錐、および極限と余極限を定義した。余極限が反対圏における極限であることを証明し、双対性の原理として書き換えの手続きを整理した。極限が錐の同型を除いて一意であることを一般の図式について証明し、余極限の一意性をその双対として導いた。

次の記事「極限・余極限の特殊な場合」は、添字圏を空圏、離散圏、平行な二射の圏および終域を共有する二射の圏へ取り替えることで、始対象と終対象、直積と余積、equalizer と coequalizer、pullback と pushout を導く。各構成の一意性は本記事の定理 3.1と系 3.2の系として述べ、同じ形の証明を繰り返さない。同記事はさらに、直積と equalizer をもつ圏が小さい図式の極限をすべてもつことを証明する。

集合、群、ベクトル空間、位相空間および順序集合の圏で極限と余極限を横断的に計算する作業は「極限・余極限の計算」が扱う。関手が極限を保つ条件、とくに右随伴が存在する極限を保つことは「右随伴と極限」が証明する。集合でない大きさの添字圏の扱い、および極限の存在に関する定理のうち随伴関手定理を要するものは「圏論 II」が扱う。

参考文献

  1. Saunders Mac Lane, Categories for the Working Mathematician, 2nd ed., Graduate Texts in Mathematics 5, Springer, New York, 1998.図式を添字圏からの関手として定め、錐によって極限を定義する書き方を参考にした。
  2. Emily Riehl, Category Theory in Context, Dover Publications, 2016.錐と余錐の記法、および極限が同型を除いて一意であることの述べ方を参考にした。
  3. Steve Awodey, Category Theory, 2nd ed., Oxford Logic Guides 49, Oxford University Press, Oxford, 2010.反対圏をとる操作によって双対の主張を導く手続きの整理を参考にした。

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