§E21.3自然変換と関手圏

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「関手」は、圏から圏への対応を、対象と射の両方について定めた。同じ二つの圏の間には複数の関手が存在するので、それらを比べる手立てが必要になる。線形空間VVにその双対空間V∗V^*を対応させる操作と、二重双対V∗∗V^{**}を対応させる操作は、この点で立場が異なる。前者はVectkop\mathbf{Vect}_k^{\mathrm{op}}を定義域とする反変関手であり、恒等関手と定義域が異なるので、恒等関手との間の射の族を関手の言葉で書き下すことができない。後者は共変関手であり、恒等関手との間に、各VVについて射を与え、すべての線形写像と両立する族が存在する。自然変換は、この後者の形を、二つの関手の間の射の族が満たす等式として述べたものである。

本記事は、自然変換と自然同型を定義し、垂直合成と水平合成を構成する。水平合成については、二通りの表示が一致することを証明する。次に、関手を対象、自然変換を射とする関手圏[C,D][\mathcal C, \mathcal D]が圏の公理を満たすことと、その同型射が自然同型に一致することを証明する。最後に、前層の圏を[Cop,Set][\mathcal C^{\mathrm{op}}, \mathbf{Set}]として定める。以下では、圏の結合律により、三つ以上の射の合成の括弧を省略する。

1 自然変換

二つの関手を比べるために、対象ごとに射を一つずつ与え、その族がC\mathcal Cのすべての射と両立することを要求する。

定義 1.1.C\mathcal C、D\mathcal Dを圏とし、F,G:C→DF, G : \mathcal C \to \mathcal Dを関手とする。自然変換 (natural transformation)η:F⇒G\eta : F \Rightarrow Gとは、C\mathcal Cの各対象AAに対するD\mathcal Dの射

ηA:F(A)⟶G(A)\eta_A : F(A) \longrightarrow G(A)

の族であって、C\mathcal Cの任意の射f:A→Bf : A \to Bについて

G(f)∘ηA=ηB∘F(f)G(f) \circ \eta_A = \eta_B \circ F(f)

が成り立つものをいう。ηA\eta_Aをη\etaのAAにおける成分 (component) といい、上の等式をffに対する自然性の等式 (naturality equation) という。C\mathcal Cのすべての対象AAについてηA\eta_AがD\mathcal Dの同型射であるとき、η\etaを自然同型 (natural isomorphism) という。

自然性の等式の両辺は、いずれもF(A)F(A)からG(B)G(B)への射である。左辺はF(A)→ ηA G(A)→ G(f) G(B)F(A) \xrightarrow{\ \eta_A\ } G(A) \xrightarrow{\ G(f)\ } G(B)という合成、右辺はF(A)→ F(f) F(B)→ ηB G(B)F(A) \xrightarrow{\ F(f)\ } F(B) \xrightarrow{\ \eta_B\ } G(B)という合成である。以後、この向きを変えずに用いる。

関手圏の恒等射になる自然変換を、先に用意する。後続の記事がこの主張を根拠として引くので、命題として述べる。

命題 1.2.C\mathcal C、D\mathcal Dを圏、F:C→DF : \mathcal C \to \mathcal Dを関手とする。C\mathcal Cの各対象AAについて(idF)A=idF(A)(\mathrm{id}_F)_A = \mathrm{id}_{F(A)}と定めると、idF\mathrm{id}_Fは自然同型F⇒FF \Rightarrow Fである。

証明.idF(A)\mathrm{id}_{F(A)}はF(A)F(A)からF(A)F(A)への射であるから、成分の型は正しい。C\mathcal Cの任意の射f:A→Bf : A \to Bについて、D\mathcal Dの単位律により

F(f)∘idF(A)=F(f)=idF(B)∘F(f)F(f) \circ \mathrm{id}_{F(A)} = F(f) = \mathrm{id}_{F(B)} \circ F(f)

が成り立つ。これはidF\mathrm{id}_Fのffに対する自然性の等式であるから、idF\mathrm{id}_Fは自然変換F⇒FF \Rightarrow Fである。各成分は同型射である(§E21.1 命題 6.3)から、idF\mathrm{id}_Fは自然同型である。▨

命題 1.3.F,G,H:C→DF, G, H : \mathcal C \to \mathcal Dを関手、η:F⇒G\eta : F \Rightarrow Gとθ:G⇒H\theta : G \Rightarrow Hを自然変換とする。C\mathcal Cの各対象AAについて

(θη)A=θA∘ηA(\theta \eta)_A = \theta_A \circ \eta_A

と定めると、θη\theta \etaは自然変換F⇒HF \Rightarrow Hである。これをη\etaとθ\thetaの垂直合成という。

証明.θA∘ηA\theta_A \circ \eta_AはF(A)F(A)からH(A)H(A)への射であるから、成分の型は正しい。f:A→Bf : A \to BをC\mathcal Cの射とする。

H(f)∘θA∘ηA=θB∘G(f)∘ηA=θB∘ηB∘F(f)H(f) \circ \theta_A \circ \eta_A = \theta_B \circ G(f) \circ \eta_A = \theta_B \circ \eta_B \circ F(f)

が成り立つ。第一の等号はθ\thetaのffに対する自然性の等式、第二の等号はη\etaのffに対する自然性の等式による。両端を成分の記号で書くとH(f)∘(θη)A=(θη)B∘F(f)H(f) \circ (\theta\eta)_A = (\theta\eta)_B \circ F(f)であり、これはθη\theta\etaのffに対する自然性の等式である。▨

命題 1.4.F,G:C→DF, G : \mathcal C \to \mathcal Dを関手、η:F⇒G\eta : F \Rightarrow Gを自然同型とする。C\mathcal Cの各対象AAについて(η−1)A=(ηA)−1(\eta^{-1})_A = (\eta_A)^{-1}と定めると、η−1\eta^{-1}は自然同型G⇒FG \Rightarrow Fであり、垂直合成について

η−1η=idF,ηη−1=idG\eta^{-1} \eta = \mathrm{id}_F, \qquad \eta \eta^{-1} = \mathrm{id}_G

が成り立つ。

証明. 各ηA\eta_Aは同型射なので、逆射(ηA)−1:G(A)→F(A)(\eta_A)^{-1} : G(A) \to F(A)が一意に定まる(§E21.1 命題 6.2)。したがって成分の型は正しい。

f:A→Bf : A \to BをC\mathcal Cの射とする。η\etaの自然性の等式G(f)∘ηA=ηB∘F(f)G(f) \circ \eta_A = \eta_B \circ F(f)の両辺に、左から(ηB)−1(\eta_B)^{-1}を、右から(ηA)−1(\eta_A)^{-1}を合成する。左辺は

(ηB)−1∘G(f)∘ηA∘(ηA)−1=(ηB)−1∘G(f)∘idG(A)=(ηB)−1∘G(f)(\eta_B)^{-1} \circ G(f) \circ \eta_A \circ (\eta_A)^{-1} = (\eta_B)^{-1} \circ G(f) \circ \mathrm{id}_{G(A)} = (\eta_B)^{-1} \circ G(f)

となり、右辺は

(ηB)−1∘ηB∘F(f)∘(ηA)−1=idF(B)∘F(f)∘(ηA)−1=F(f)∘(ηA)−1(\eta_B)^{-1} \circ \eta_B \circ F(f) \circ (\eta_A)^{-1} = \mathrm{id}_{F(B)} \circ F(f) \circ (\eta_A)^{-1} = F(f) \circ (\eta_A)^{-1}

となる。したがって

F(f)∘(η−1)A=(η−1)B∘G(f)F(f) \circ (\eta^{-1})_A = (\eta^{-1})_B \circ G(f)

が成り立ち、これはη−1:G⇒F\eta^{-1} : G \Rightarrow Fのffに対する自然性の等式である。各成分は同型射である(§E21.1 命題 6.3)から、η−1\eta^{-1}は自然同型である。

垂直合成については、各対象AAについて

(η−1η)A=(ηA)−1∘ηA=idF(A)=(idF)A,(ηη−1)A=ηA∘(ηA)−1=idG(A)=(idG)A(\eta^{-1}\eta)_A = (\eta_A)^{-1} \circ \eta_A = \mathrm{id}_{F(A)} = (\mathrm{id}_F)_A, \qquad (\eta\eta^{-1})_A = \eta_A \circ (\eta_A)^{-1} = \mathrm{id}_{G(A)} = (\mathrm{id}_G)_A

が成り立つ。自然変換は成分の族であるから、すべての成分が一致すれば等しい。▨

2 自然変換の例

線形空間とその二重双対の間の標準写像は、自然変換の最初の例である。

命題 2.1.kkを体とし、(−)∗:Vectkop→Vectk(-)^* : \mathbf{Vect}_k^{\mathrm{op}} \to \mathbf{Vect}_kを§E21.2 例 3.3の反変関手とする。§E21.2 命題 2.4により

(−)∗∗=(−)∗∘((−)∗)op:Vectk⟶Vectk(-)^{**} = (-)^* \circ \bigl((-)^*\bigr)^{\mathrm{op}} : \mathbf{Vect}_k \longrightarrow \mathbf{Vect}_k

は共変関手であり、対象VVをV∗∗V^{**}へ、射f:V→Wf : V \to Wを(f∗)∗:V∗∗→W∗∗(f^*)^* : V^{**} \to W^{**}へ送る。各対象VVについて

ηV:V→V∗∗,ηV(v)(φ)=φ(v)(φ∈V∗)\eta_V : V \to V^{**}, \qquad \eta_V(v)(\varphi) = \varphi(v) \quad (\varphi \in V^*)

と定めると、η\etaは恒等関手idVectk\mathrm{id}_{\mathbf{Vect}_k}から(−)∗∗(-)^{**}への自然変換である。

さらに、有限次元線形空間のなす充満部分圏Vectkfd\mathbf{Vect}_k^{\mathrm{fd}}を取り、J:Vectkfd→VectkJ : \mathbf{Vect}_k^{\mathrm{fd}} \to \mathbf{Vect}_kを包含関手、(−)∗∗∣Vectkfd(-)^{**}|_{\mathbf{Vect}_k^{\mathrm{fd}}}を(−)∗∗(-)^{**}の制限とする(§E21.2 命題 1.4)。Vectkfd\mathbf{Vect}_k^{\mathrm{fd}}の各対象VVに対するηV\eta_Vの族は、自然同型

J⟹(−)∗∗∣VectkfdJ \Longrightarrow (-)^{**}|_{\mathbf{Vect}_k^{\mathrm{fd}}}

を与える。

証明.§E3.5 命題 4.1は、線形空間VVに対する写像ιV:V→V∨∨\iota_V : V \to V^{\vee\vee}、ιV(v)(φ)=φ(v)\iota_V(v)(\varphi) = \varphi(v)について、ιV\iota_Vが基底の選び方によらず定まる線形単射であること、VVが有限次元ならばιV\iota_Vが同型であること、および任意の線形写像f:V→Wf : V \to Wについて

f∨∨∘ιV=ιW∘ff^{\vee\vee} \circ \iota_V = \iota_W \circ f

が成り立つことを示している。§E21.2 例 3.3の記号ではV∨=V∗V^{\vee} = V^*かつf∨=f∗f^{\vee} = f^*であるから、ιV\iota_Vは本記事のηV\eta_Vであり、上の等式は(f∗)∗∘ηV=ηW∘f(f^*)^* \circ \eta_V = \eta_W \circ fである。以後ηV\eta_Vと書く。

各ηV\eta_VはVectk\mathbf{Vect}_kの射idVectk(V)→(−)∗∗(V)\mathrm{id}_{\mathbf{Vect}_k}(V) \to (-)^{**}(V)であり、上の等式はF=idVectkF = \mathrm{id}_{\mathbf{Vect}_k}、G=(−)∗∗G = (-)^{**}としたときのffに対する自然性の等式そのものである。したがってη\etaは自然変換idVectk⇒(−)∗∗\mathrm{id}_{\mathbf{Vect}_k} \Rightarrow (-)^{**}である。

制限の主張を示す。Vectkfd\mathbf{Vect}_k^{\mathrm{fd}}はVectk\mathbf{Vect}_kの充満部分圏(§E21.1 例 4.3)であるから、§E21.2 命題 1.4によりJJと(−)∗∗∣Vectkfd(-)^{**}|_{\mathbf{Vect}_k^{\mathrm{fd}}}はともに関手Vectkfd→Vectk\mathbf{Vect}_k^{\mathrm{fd}} \to \mathbf{Vect}_kであり、対象VVをそれぞれVVとV∗∗V^{**}へ、射ffをそれぞれffと(f∗)∗(f^*)^*へ送る。したがってVectkfd\mathbf{Vect}_k^{\mathrm{fd}}の射に対する自然性の等式は、Vectk\mathbf{Vect}_kにおける同じ等式であり、すでに示されている。Vectkfd\mathbf{Vect}_k^{\mathrm{fd}}の対象はすべて有限次元であるから、各成分ηV\eta_VはVectk\mathbf{Vect}_kの同型射である。ゆえにこの族は自然同型である。▨

注意 2.2 (有限次元という条件と双対空間との違い).命題 2.1が自然同型と述べるのは、有限次元線形空間のなす充満部分圏へ制限したときである。§E3.5 命題 4.1はηV\eta_Vが単射であることを任意のVVについて示す一方、同型であることはVVが有限次元の場合にだけ主張している。したがってVectk\mathbf{Vect}_kの全体では、η\etaは自然変換であるが、自然同型であるとは主張することができない。

一方、VVとV∗V^*の間には、定義 1.1の意味の自然変換を定めることができない。(−)∗(-)^*はVectkop\mathbf{Vect}_k^{\mathrm{op}}を定義域とする関手であり、恒等関手はVectk\mathbf{Vect}_kを定義域とする関手であるから、両者は定義域が同じ二つの関手ではないからである。有限次元のVVについては、基底を一つ選べば双対基底(§E3.5 定理 1.2)によって同型V→V∗V \to V^*が得られるが、この構成は基底の選択を必要とする。命題 2.1のηV\eta_Vは基底を用いずに書かれている点が異なる。

次の例は、係数を取り替えても同じ式で書かれる操作が自然変換になることを示す。

例 2.3 (行列式は自然変換である).CRing\mathbf{CRing}を可換環と環準同型のなすRing\mathbf{Ring}の充満部分圏(§E21.1 例 4.3)とし、nnを正の整数とする。二つの関手CRing→Set\mathbf{CRing} \to \mathbf{Set}を次で定める。

  • MnM_nは、可換環RRにRRの元を成分とするnn次正方行列の全体Mn(R)M_n(R)を対応させ、環準同型φ:R→R′\varphi : R \to R'に成分ごとの適用Mn(φ)((aij))=(φ(aij))M_n(\varphi)\bigl((a_{ij})\bigr) = (\varphi(a_{ij}))を対応させる。
  • UCRingU_{\mathbf{CRing}}は、忘却関手U:Ring→SetU : \mathbf{Ring} \to \mathbf{Set}(§E21.2 命題 3.1)のCRing\mathbf{CRing}への制限U∣CRingU|_{\mathbf{CRing}}である。§E21.2 命題 1.4により、これは関手CRing→Set\mathbf{CRing} \to \mathbf{Set}である。

以下、SnS_nはnn次対称群を表すので、環を表す文字にはRR、R′R'、R′′R''を用いる。

MnM_nが関手であることを確かめる。環準同型φ:R→R′\varphi : R \to R'、ψ:R′→R′′\psi : R' \to R''について、成分ごとの適用はMn(ψ∘φ)=Mn(ψ)∘Mn(φ)M_n(\psi \circ \varphi) = M_n(\psi) \circ M_n(\varphi)を満たし、Mn(idR)M_n(\mathrm{id}_R)は恒等写像である。

nn次対称群SnS_n(§E7.4 定義 1.1)と置換の符号sgn⁡\operatorname{sgn}(§E7.5 定義 1.1)を用いて、A=(aij)∈Mn(R)A = (a_{ij}) \in M_n(R)に対して

det⁡R(A)=∑σ∈Snsgn⁡(σ)∏i=1naiσ(i)\det\nolimits_R(A) = \sum_{\sigma \in S_n} \operatorname{sgn}(\sigma) \prod_{i=1}^{n} a_{i \sigma(i)}

と定める。§E7.5 定理 2.1によりsgn⁡(σ)\operatorname{sgn}(\sigma)は11または−1-1である。環準同型φ:R→R′\varphi : R \to R'は和と積を保ち、φ(1R)=1R′\varphi(1_R) = 1_{R'}とφ(−a)=−φ(a)\varphi(-a) = -\varphi(a)を満たすので、φ(sgn⁡(σ)a)=sgn⁡(σ)φ(a)\varphi\bigl(\operatorname{sgn}(\sigma) a\bigr) = \operatorname{sgn}(\sigma)\varphi(a)が成り立つ。したがって

φ(det⁡R(A))=∑σ∈Snsgn⁡(σ)∏i=1nφ(aiσ(i))=det⁡R′(Mn(φ)(A))\varphi\bigl(\det\nolimits_R(A)\bigr) = \sum_{\sigma \in S_n} \operatorname{sgn}(\sigma) \prod_{i=1}^{n} \varphi(a_{i \sigma(i)}) = \det\nolimits_{R'}\bigl(M_n(\varphi)(A)\bigr)

が成り立つ。これはφ\varphiに対する自然性の等式

UCRing(φ)∘det⁡R=det⁡R′∘ Mn(φ)U_{\mathbf{CRing}}(\varphi) \circ \det\nolimits_R = \det\nolimits_{R'} \circ\, M_n(\varphi)

である。したがってdet⁡:Mn⇒UCRing\det : M_n \Rightarrow U_{\mathbf{CRing}}は自然変換である。

値域を群の圏へ取り替え、可逆行列のなす群から単元群への自然変換として述べる形もある。この形で述べるためには、可換環上の行列式が積を保つことが必要である。行列式が積を保つことは、体を係数とする有限次元の場合について§E3.15 命題 2.2が証明している。任意の可換環を係数とする場合は同命題の仮定の外にあるので、本記事はその形を用いず、主張をSet\mathbf{Set}を値域とする上の形に限る。

例 2.4 (行列式の自然性の数値による確認).R=Z/9ZR = \mathbb Z/9\mathbb Z、R′=Z/3ZR' = \mathbb Z/3\mathbb Zとし、φ:R→R′\varphi : R \to R'をa+9Z↦a+3Za + 9\mathbb Z \mapsto a + 3\mathbb Zで定める。9Z⊆3Z9\mathbb Z \subseteq 3\mathbb Zであるからφ\varphiは矛盾なく定まり、環準同型である。n=2n = 2とし

A=(2315)∈M2(R)A = \begin{pmatrix} 2 & 3 \\ 1 & 5 \end{pmatrix} \in M_2(R)

とする。先に行列式を取るとdet⁡R(A)=2⋅5−3⋅1=7\det_R(A) = 2 \cdot 5 - 3 \cdot 1 = 7であり、φ(7)=1\varphi(7) = 1である。先に成分を写すと

M2(φ)(A)=(2012)∈M2(R′)M_2(\varphi)(A) = \begin{pmatrix} 2 & 0 \\ 1 & 2 \end{pmatrix} \in M_2(R')

であり、det⁡R′(M2(φ)(A))=2⋅2−0⋅1=4\det_{R'}\bigl(M_2(\varphi)(A)\bigr) = 2 \cdot 2 - 0 \cdot 1 = 4である。Z/3Z\mathbb Z/3\mathbb Zでは4=14 = 1であるから、両者は一致する。二つの経路が一致するのは、行列式が成分の整数係数多項式で書かれており、φ\varphiが和・積・符号の反転を保つからである。

3 水平合成

垂直合成は、定義域と終域が同じ関手の列に沿って自然変換を重ねる。関手の合成に沿って自然変換を組み合わせる演算が水平合成である。

命題 3.1.F,G:C→DF, G : \mathcal C \to \mathcal DとF′,G′:D→EF', G' : \mathcal D \to \mathcal Eを関手、η:F⇒G\eta : F \Rightarrow Gとθ:F′⇒G′\theta : F' \Rightarrow G'を自然変換とする。C\mathcal Cの各対象AAについて

θG(A)∘F′(ηA)=G′(ηA)∘θF(A)\theta_{G(A)} \circ F'(\eta_A) = G'(\eta_A) \circ \theta_{F(A)}

が成り立つ。この共通の射を(θ∗η)A(\theta * \eta)_Aと書くと、θ∗η\theta * \etaは自然変換F′F⇒G′GF' F \Rightarrow G' Gである。これをη\etaとθ\thetaの水平合成という。

証明. まず二つの表示が一致することを示す。ηA\eta_AはD\mathcal Dの射F(A)→G(A)F(A) \to G(A)である。θ\thetaはD\mathcal DからE\mathcal Eへの二つの関手の間の自然変換であるから、D\mathcal Dの射ηA\eta_Aに対する自然性の等式

G′(ηA)∘θF(A)=θG(A)∘F′(ηA)G'(\eta_A) \circ \theta_{F(A)} = \theta_{G(A)} \circ F'(\eta_A)

が成り立つ。これが求める等式である。両辺はいずれもF′(F(A))F'(F(A))からG′(G(A))G'(G(A))への射であるから、(θ∗η)A(\theta * \eta)_Aの型は正しい。

次にθ∗η\theta * \etaが自然変換であることを示す。f:A→Bf : A \to BをC\mathcal Cの射とし、

(G′G)(f)∘(θ∗η)A=(θ∗η)B∘(F′F)(f)(G'G)(f) \circ (\theta * \eta)_A = (\theta * \eta)_B \circ (F'F)(f)

を示す。左辺で(θ∗η)A=θG(A)∘F′(ηA)(\theta * \eta)_A = \theta_{G(A)} \circ F'(\eta_A)の表示を用いると

(G′G)(f)∘(θ∗η)A=G′(G(f))∘θG(A)∘F′(ηA)(G'G)(f) \circ (\theta * \eta)_A = G'(G(f)) \circ \theta_{G(A)} \circ F'(\eta_A)

である。θ\thetaのD\mathcal Dの射G(f):G(A)→G(B)G(f) : G(A) \to G(B)に対する自然性の等式

G′(G(f))∘θG(A)=θG(B)∘F′(G(f))G'(G(f)) \circ \theta_{G(A)} = \theta_{G(B)} \circ F'(G(f))

を用いると、上の式は

θG(B)∘F′(G(f))∘F′(ηA)=θG(B)∘F′(G(f)∘ηA)\theta_{G(B)} \circ F'(G(f)) \circ F'(\eta_A) = \theta_{G(B)} \circ F'\bigl(G(f) \circ \eta_A\bigr)

に等しい。最後の等号はF′F'が合成を保つことによる。η\etaのffに対する自然性の等式G(f)∘ηA=ηB∘F(f)G(f) \circ \eta_A = \eta_B \circ F(f)を代入し、再びF′F'が合成を保つことを用いると

θG(B)∘F′(ηB∘F(f))=θG(B)∘F′(ηB)∘F′(F(f))=(θ∗η)B∘(F′F)(f)\theta_{G(B)} \circ F'\bigl(\eta_B \circ F(f)\bigr) = \theta_{G(B)} \circ F'(\eta_B) \circ F'(F(f)) = (\theta * \eta)_B \circ (F'F)(f)

を得る。これは示すべき等式の右辺である。▨

注意 3.2 (片方が恒等自然変換である場合).命題 3.1においてθ=idF′\theta = \mathrm{id}_{F'}とすると、θG(A)=idF′(G(A))\theta_{G(A)} = \mathrm{id}_{F'(G(A))}であるから

(idF′∗η)A=F′(ηA)(\mathrm{id}_{F'} * \eta)_A = F'(\eta_A)

である。またη=idF\eta = \mathrm{id}_Fとすると、G=FG = FかつηA=idF(A)\eta_A = \mathrm{id}_{F(A)}であり、F′(idF(A))=idF′(F(A))F'(\mathrm{id}_{F(A)}) = \mathrm{id}_{F'(F(A))}であるから

(θ∗idF)A=θF(A)(\theta * \mathrm{id}_F)_A = \theta_{F(A)}

である。この二つの場合は、「随伴」が unit と counit の三角恒等式を書き下すときに用いる。

4 関手圏

垂直合成と恒等自然変換は、関手を対象とする圏を与える。

定義 4.1.C\mathcal C、D\mathcal Dを圏とする。関手圏 (functor category)[C,D][\mathcal C, \mathcal D]を次のデータで定める。

  1. 対象は関手C→D\mathcal C \to \mathcal Dである。
  2. 関手FF、GGに対するHom⁡[C,D](F,G)\operatorname{Hom}_{[\mathcal C, \mathcal D]}(F, G)は、自然変換F⇒GF \Rightarrow Gの全体である。
  3. 合成は垂直合成(命題 1.3)である。
  4. 対象FFの恒等射は恒等自然変換idF\mathrm{id}_F(命題 1.2)である。

自然変換は、定義域となる関手と終域となる関手を指定した上での射の族とみなす。これにより、§E21.1 定義 1.1が要求する定義域と終域の一意性が満たされる。

命題 4.2.C\mathcal C、D\mathcal Dを圏とする。定義 4.1のデータによって、[C,D][\mathcal C, \mathcal D]は圏の公理を満たす。

証明.命題 1.3により、自然変換の垂直合成は自然変換である。命題 1.2により、恒等自然変換は自然変換である。したがって合成と恒等射は[C,D][\mathcal C, \mathcal D]の中で定まる。

自然変換は成分の族であるから、二つの自然変換が等しいことは、すべての成分が一致することである。以下ではこの判定を用いる。

結合律を示す。η:F⇒G\eta : F \Rightarrow G、θ:G⇒H\theta : G \Rightarrow H、ζ:H⇒K\zeta : H \Rightarrow Kを自然変換とする。C\mathcal Cの各対象AAについて

((ζθ)η)A=(ζA∘θA)∘ηA=ζA∘(θA∘ηA)=(ζ(θη))A\bigl((\zeta\theta)\eta\bigr)_A = (\zeta_A \circ \theta_A) \circ \eta_A = \zeta_A \circ (\theta_A \circ \eta_A) = \bigl(\zeta(\theta\eta)\bigr)_A

が成り立つ。中央の等号はD\mathcal Dの結合律による。したがって(ζθ)η=ζ(θη)(\zeta\theta)\eta = \zeta(\theta\eta)である。

単位律を示す。η:F⇒G\eta : F \Rightarrow Gを自然変換とする。C\mathcal Cの各対象AAについて

(η idF)A=ηA∘idF(A)=ηA,(idG η)A=idG(A)∘ηA=ηA(\eta \, \mathrm{id}_F)_A = \eta_A \circ \mathrm{id}_{F(A)} = \eta_A, \qquad (\mathrm{id}_G \, \eta)_A = \mathrm{id}_{G(A)} \circ \eta_A = \eta_A

が成り立つ。いずれもD\mathcal Dの単位律による。したがってη idF=η=idG η\eta \, \mathrm{id}_F = \eta = \mathrm{id}_G \, \etaである。▨

命題 4.3.F,G:C→DF, G : \mathcal C \to \mathcal Dを関手、η:F⇒G\eta : F \Rightarrow Gを自然変換とする。η\etaが圏[C,D][\mathcal C, \mathcal D]の同型射であることと、η\etaが自然同型であることとは同値である。

証明.η\etaが自然同型であるとする。命題 1.4により、η−1\eta^{-1}は自然変換G⇒FG \Rightarrow Fであり、垂直合成についてη−1η=idF\eta^{-1}\eta = \mathrm{id}_Fとηη−1=idG\eta\eta^{-1} = \mathrm{id}_Gが成り立つ。垂直合成は[C,D][\mathcal C, \mathcal D]の合成であり、恒等自然変換は[C,D][\mathcal C, \mathcal D]の恒等射であるから、この二つの等式は§E21.1 定義 6.1が要求する条件そのものである。したがってη\etaは[C,D][\mathcal C, \mathcal D]の同型射である。

逆に、η\etaが[C,D][\mathcal C, \mathcal D]の同型射であるとする。θ:G⇒F\theta : G \Rightarrow Fを、θη=idF\theta\eta = \mathrm{id}_Fかつηθ=idG\eta\theta = \mathrm{id}_Gを満たす自然変換とする。C\mathcal Cの各対象AAについて成分を比べると、垂直合成と恒等自然変換の定義により

θA∘ηA=idF(A),ηA∘θA=idG(A)\theta_A \circ \eta_A = \mathrm{id}_{F(A)}, \qquad \eta_A \circ \theta_A = \mathrm{id}_{G(A)}

が成り立つ。したがって各ηA\eta_AはD\mathcal Dの同型射であり、η\etaは自然同型である。▨

注意 4.4 (関手圏の大きさ).[C,D][\mathcal C, \mathcal D]の対象の全体、および二つの関手の間の自然変換の全体が集合であるかどうかは、C\mathcal CとD\mathcal Dの大きさによる。§E21.1 定義 1.1は射の全体が集合であることを要求していないので、命題 4.2の証明に大きさの条件は要らない。自然変換の全体が集合であることを必要とする主張は「米田の補題と表現可能関手」が扱い、そこで必要な条件を明示的に仮定する。

5 前層の圏

関手圏のうち、反変関手を対象とし、値を集合の圏に取るものには名前がある。

定義 5.1.C\mathcal Cを圏とする。関手Cop→Set\mathcal C^{\mathrm{op}} \to \mathbf{Set}、すなわちC\mathcal CからSet\mathbf{Set}への反変関手(§E21.2 定義 2.2)をC\mathcal C上の前層 (presheaf) という。関手圏

[Cop,Set][\mathcal C^{\mathrm{op}}, \mathbf{Set}]

をC\mathcal C上の前層の圏 (category of presheaves) という。その対象はC\mathcal C上の前層であり、射は前層の間の自然変換である。命題 4.2により、これは圏である。

例 5.2 (位相空間の上の連続関数がなす前層).XXを位相空間とし、O(X)\mathcal O(X)をXXの開集合の全体に包含関係を入れて得られる圏とする(§E21.1 例 3.2)。O(X)\mathcal O(X)の対象はXXの開集合であり、V⊆UV \subseteq UのときVVからUUへの射がちょうど一本存在する。

開集合UUに対して、UU上の実数値連続関数の全体をC(U)C(U)と書く。ここでUUには部分空間位相(§E2.12 定義 4.1)を、R\mathbb Rには通常の位相を入れる。

V⊆UV \subseteq Uのとき、包含写像ιV,U:V→U\iota_{V, U} : V \to Uは連続である(§E2.12 定義 4.2)。したがってs∈C(U)s \in C(U)に対してs∘ιV,Us \circ \iota_{V, U}は連続であり(§E2.12 命題 1.10)、C(V)C(V)に属する。これをs∣Vs|_Vと書き、写像

ρU,V:C(U)→C(V),ρU,V(s)=s∣V\rho_{U, V} : C(U) \to C(V), \qquad \rho_{U, V}(s) = s|_V

を定める。

W⊆V⊆UW \subseteq V \subseteq UのときιV,U∘ιW,V=ιW,U\iota_{V, U} \circ \iota_{W, V} = \iota_{W, U}であるから、s∈C(U)s \in C(U)について

ρV,W(ρU,V(s))=s∘ιV,U∘ιW,V=s∘ιW,U=ρU,W(s)\rho_{V, W}\bigl(\rho_{U, V}(s)\bigr) = s \circ \iota_{V, U} \circ \iota_{W, V} = s \circ \iota_{W, U} = \rho_{U, W}(s)

が成り立つ。またιU,U=idU\iota_{U, U} = \mathrm{id}_UであるからρU,U=idC(U)\rho_{U, U} = \mathrm{id}_{C(U)}である。

O(X)\mathcal O(X)の射W→VW \to VとV→UV \to Uの合成は射W→UW \to Uであるから、上の二つの等式は§E21.2 命題 2.3の二つの条件である。したがって、U↦C(U)U \mapsto C(U)と、V⊆UV \subseteq Uに対するρU,V\rho_{U, V}の対応は、O(X)\mathcal O(X)上の前層を定める。

前層のうち、局所的な情報から大域的な情報を復元する条件を満たすものを層といい、その条件と Grothendieck 位相は「層と前層」が扱う。本記事は前層の圏を構成するところまでを扱う。

6 演習

問題 6.1.

  1. 命題 1.3の証明を、η\etaの自然性とθ\thetaの自然性をそれぞれどの等号で用いたかを明示して再現せよ。
  2. 命題 3.1の二つの表示が一致することを、θ\thetaの自然性をどの射に対して用いたかを明示して示せ。
  3. (idF′∗η)A=F′(ηA)(\mathrm{id}_{F'} * \eta)_A = F'(\eta_A)と(θ∗idF)A=θF(A)(\theta * \mathrm{id}_F)_A = \theta_{F(A)}を、命題 3.1の二つの表示のそれぞれから確かめよ。
  4. 命題 4.3の証明で、自然変換が成分の族であることを用いた箇所をすべて挙げよ。
  5. 命題 1.4の証明において、η\etaの成分の一部だけが同型射である場合に成り立たなくなる段階を特定せよ。
  6. 位相空間XXについて、開集合UUにUU上の有界な実数値連続関数の全体を対応させ、包含に制限写像を対応させる規則がO(X)\mathcal O(X)上の前層を定めることを確かめよ。
  7. 例 2.4と異なる環準同型を一つ選び、n=2n = 2の場合に行列式の自然性の等式を数値で確かめよ。

7 扱った範囲と次の記事

本記事では、自然変換と自然同型を定義し、恒等自然変換、垂直合成、自然同型の逆、水平合成を構成した。水平合成については、二つの表示がθ\thetaの自然性によって一致することを証明した。さらに、関手圏[C,D][\mathcal C, \mathcal D]が圏の公理を満たすこと、およびその同型射が自然同型に一致することを証明し、前層の圏を定めた。

次の記事「極限と余極限」は、小さい圏からの関手を図式と呼び、対象を射の存在と一意性によって特徴づける方法を定める。関手圏と自然変換は「米田の補題と表現可能関手」で対象を hom 関手によって復元するときに用い、「随伴」で二つの関手が対をなす関係を述べるときにも用いる。自然変換の全体が集合であるという条件は「米田の補題と表現可能関手」が導入する。関手を対象、自然変換を射とする構造をさらに一段重ねた枠組みは「圏論 II」が扱う。

参考文献

  1. Saunders Mac Lane, Categories for the Working Mathematician, 2nd ed., Graduate Texts in Mathematics 5, Springer, New York, 1998.自然変換、垂直合成と水平合成、および関手圏を参考にした。
  2. Emily Riehl, Category Theory in Context, Dover Publications, 2016.自然変換、自然同型および関手圏の構成を参考にした。
  3. Steve Awodey, Category Theory, 2nd ed., Oxford Logic Guides 49, Oxford University Press, Oxford, 2010.関手圏と前層の圏を参考にした。

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